弁護士法人ITJ法律事務所

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           主         文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
 (1) 原判決を取消す。
  (2) 被控訴人は,控訴人に対し,1000万円及びこれに対する平成11年4月
19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
   (なお,控訴人は当審において請求を減縮した。) 
  (3) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
(4) 仮執行の宣言
 2 被控訴人
   主文同旨
第2 事実関係
 1 事実関係は,次のとおり補正し,下記2のとおり当審における当事者の主張
を付加するほか,原判決の「事実」欄の第2記載のとおりであるから,これを
引用する。
(1) 原判決3頁10行目及び16行目の「5000万円」を「1000万円」とそれ
ぞれ改める。
(2) 同4頁1行目及び6行目の「5000万円」を「1000万円」とそれぞれ改め
る。 
 2 当審における当事者の主張
  (1) 控訴人
   ア 原判決は,商標法38条2項に基づく請求について,控訴人が,本件各登
録商標の使用をしていないので,同条項の適用がなく,積極的損害であ
ると消極的損害であるとを問わず,控訴人の被控訴人に対する同条項
に基づく損害賠償請求は認められないとするが,少なくとも,被控訴人
の本件各商標権侵害により,控訴人は実施料を得られる機会を失った
ものであるから,消極的損害の発生が認められるべきである。
   イ 原判決は,本件各登録商標には,控訴人の信用と結合した顧客吸引力
は全く存在せず,被控訴人が被控訴人各標章を使用した指定役務の提
供により利益を挙げたとしても,それは被控訴人自身の高い周知性及
び自らの宣伝等によるものであって,被控訴人各標章の使用は被控訴
人の利益に寄与していないとする。
     しかし,本件各登録商標について,その使用実績による顧客吸引力は認
められないとしても,標章それ自体から,出所識別機能のみならず,顧
客吸引力も有することは明らかである。また,被控訴人は,本件ホーム
ページにおいて広告,求人情報の提供をなすに当って,本件ホームペ
ージを示す唯一の標章として本件各登録商標を使用し,宣伝もしている
ものであって,被控訴人各標章の使用が,被控訴人の利益に寄与して
いることは明らかである。よって,商標法38条3項に基づき,本件各登
録商標の使用料に相当する損害賠償請求は認められるべきである。
   ウ 本件各登録商標に類似する被控訴人の被控訴人各標章を使用する行
為は,商標法37条により,本件各商標権を侵害するものとみなされ,控
訴人は,本件各商標権に基づき,被控訴人に対し,類似の被控訴人各
標章の使用差止めをすることができ,被控訴人がこれを回避しようとす
れば,控訴人に使用料を支払う必要がある。被控訴人は,本来控訴人
に支払うべき使用料を免れて不当に利得しているものであり,不当利得
に該当するから,控訴人は,被控訴人に対し,不当利得返還請求権を
有する。原判決は,被控訴人に実施料支払義務が生じるのは,控訴人
との間に商標の使用許諾契約を締結した場合か,商標法38条3項に該
当する場合に限られるというが,本来使用料を支払わなければ使用で
きないのに,これを支払わずに被控訴人各標章を使用していた被控訴
人は,その分利得を得ているものであるから,権利者である控訴人が,
その損失に対応する上記利得を請求できる。
  (2) 被控訴人
   ア 控訴人の有する本件A商標権は商標法における指定役務第35類の「広
告」であり,本件B商標権は同法における指定役務第42類の「求人情
報の提供」であるところ,被控訴人は,「新聞の記事に関する情報の提
供」を指定役務として同法における指定役務42類の登録をし,これを業
として行っている。
     商標とは,業として役務を提供する者がその役務について使用するもの
(商標法2条1項)であるから,被控訴人の本件ホームページによる広
告,求人情報の提供は,被控訴人の業としての新聞の記事に関する情
報の提供という指定役務に付随するものにすぎない。また,新聞は,広
告,求人情報の媒体にすぎず,広告代理店等が,被控訴人から買取っ
た紙面の一部を利用して,広告や求人情報の役務提供をなしており,本
件ホームページによる広告,求人情報の提供も同じである。したがっ
て,被控訴人は,業として広告,求人情報の提供を行うものではなく,ま
た,本件ホームページは単なる媒体であり,広告や求人情報の役務提
供を直接なしているものでもないから,本件ホームページに被控訴人各
標章を使用していることは,被控訴人各標章が本件各登録商標に類似
するとしても,本件各商標権の内容となっている広告,求人情報の提供
の役務と異なるから,控訴人の本件各商標権を侵害するものではない。
   イ 被控訴人各標章の使用について,控訴人の被控訴人に対する不当利得
返還請求権は認められない。
     不当利得について,民法703条は「法律上の原因なくして他人の財産又
は労務に因り利益を受け之が為に他人に損失を及ぼしたる者は其利益
の存する限度に於て之を返還する義務を負う」旨規定しているが,本件
において「他人の財産」とは,本件各商標権であるところ,被控訴人は,
本件各商標権を使用していないから,本件各商標権により利益を受け
る者ではないし,控訴人は,自己の財産である本件各商標権を被控訴
人が使用したことによる損失を被ったとはいえない。
     控訴人は,本件各商標権の侵害の場合,侵害者は本来支払うべき使用
料を免れているから,それだけの利得がある旨主張するが,上記のとお
り被控訴人各標章の使用について控訴人の損害は発生しておらず,被
控訴人には不法行為による損害賠償義務がないから,控訴人が支払う
べき使用料を免れているという前提を欠くものであり,控訴人の主張は
失当である。
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も,控訴人の被控訴人に対する,本件各商標権に基づく,主位的
な不法行為による損害賠償請求権及び予備的な不当利得返還請求権はい
ずれも理由がないものと判断するが,その理由は,次のとおり補正し,下記2
のとおり当審における当事者の主張に対する判断を付加するほか,原判決
の「理由」欄の第1及び第2記載のとおりであるから,これを引用する。
  (1) 原判決14頁20行目の「指定役務」を「指定役務である広告及び求人情報
の提供役務」と改める。
(2) 同15頁3行目の「上記各指定役務」を「本件ホームページに広告及び求
人情報の提供がなされていたとしても,それは新聞の記事に関する情報
の提供役務に付随して行われていたにすぎず,広告及び求人情報の提
供役務」と改める。
(3) 同16頁24行目の「可能性は皆無」を「可能性がない」と改める。
(4) 同17頁7行目の「立証責任を軽減する規定である」を次のとおり改め
る。
  「立証責任を軽減するにとどまる規定であり,侵害行為により権利者が損
害を被ったことまで推定するものではなく,権利者の登録商標の使用もな
く侵害による損害の発生がなければ,権利者が本条項の適用を受けるも
のではない」
(5) 同17頁9行目の「争いがないから」を「争いがなく,上記及び下記の認定
事実によれば被控訴人の被控訴人各標章の使用により控訴人の損害は
特別発生していないものと考えられるから,控訴人は」と改める。
(6) 同18頁1行目の「30万件」を「約30万件」と改める。
(7) 同20頁20行目の「被告が」の次に「被控訴人各標章を使用した」を付加
する。
(8) 同21頁2行目と3行の間に次のとおり付加する。
 「したがって,商標法38条3項に基づく控訴人の請求は理由がない。」
(9) 同21頁3行目の「オ したがって」を「6 以上によれば」と改める。
(10) 同21頁10行目の「不法行為を構成する結果」を「不法行為による損害
賠償責任を負う結果」と改める。
(11) 同21頁12行目から13行目にかけての「不法行為責任を負う」を「不法
行為による損害賠償責任を負う」と改める。
 2 当審における当事者の主張に対する判断
 (1) 控訴人は,原判決は,商標法38条2項に基づく請求について,控訴人が,
本件各登録商標の使用をしていないので,同条項の適用がなく,積極的
損害であると消極的損害であるとを問わず,控訴人の被控訴人に対する
損害賠償請求は認められないとするが,少なくとも,被控訴人の本件各
商標権侵害により,控訴人は実施料を得られる機会を失ったものである
から,消極的損害の発生が認められるべきである旨主張する。
    しかしながら,上記認定のごとく,本件各登録商標は控訴人の信用と結合
した顧客吸引力が全く存在せず,被控訴人が利益を挙げたとしても,被
控訴人自身の高い周知性及び宣伝等によるものであって,被控訴人各
標章の使用は特段被控訴人の利益に寄与していないこと,控訴人が本
件各登録商標を現在まで一度も使用していないこと,本件において第3
者が「JAMJAM」という表示に有償での利用価値を見出して本件各登録
商標の使用許諾を求めた事実は窺えず,また,その可能性も考え難いこ
と等に照らすと,被控訴人の被控訴人各標章の使用により控訴人が本
件各商標権の実施料を得られる機会を失ったものとはいえないから,控
訴人の上記主張は採用できない。
  (2) 控訴人は,原判決は,本件各登録商標には,控訴人の信用と結合した顧
客吸引力は全く存在せず,被控訴人が被控訴人各標章を使用した指定
役務の提供により利益を挙げたとしても,それは被控訴人自身の高い周
知性及び自らの宣伝等によるものであって,被控訴人各標章の使用が
被控訴人の利益に寄与していないとするが,本件各登録商標について,
その使用実績による顧客吸引力は認められないとしても,標章それ自体
から,出所識別機能のみならず,顧客吸引力も有することは明らかであ
る,また,被控訴人は,本件ホームページにおいて広告,求人情報の提
供をなすに当って,本件ホームページを示す唯一の標章として被控訴人
各標章を使用し,宣伝もしているものであって,被控訴人各標章の使用
が被控訴人の利益に寄与していることは明らかであるので,商標法38
条3項に基づく請求は,認められるべきである旨主張する。
    しかしながら,上記認定のごとく,本件各登録商標に含まれる「JAMJAM」
の表示は,意味のある観念を生じないものであるから,本件各登録商標
自体に顧客吸引力があるとは考え難い。また,本件各登録商標は控訴
人の信用と結合した顧客吸引力が全く存在せず,被控訴人が利益を挙
げたとしても,被控訴人自身の高い周知性及び宣伝等によるものであっ
て,被控訴人各標章の使用は特段被控訴人の利益に寄与していないこ
とは上記説示のとおりである。
    したがって,控訴人の上記主張は採用できない。
  (3) 控訴人は,被控訴人の本件各登録商標に類似する被控訴人各標章を使
用する行為は,商標法37条により,本件各商標権を侵害するものとみな
され,控訴人は,本件各商標権に基づき,被控訴人に対し,類似の被控
訴人各標章の使用差止めをすることができ,被控訴人がこれを回避しよ
うとすれば,控訴人に使用料を支払う必要があるが,被控訴人は,本来
控訴人に支払うべき使用料を免れて不当に利得しているものであり,不
当利得に該当するから,控訴人は,被控訴人に対し,不当利得返還請求
権を有するものであるところ,原判決は,被控訴人に実施料支払義務が
生じるのは,控訴人との間に商標の使用許諾契約を締結した場合か,商
標法38条3項に該当する場合に限られるというが,本来使用料を支払わ
なければ使用できないのに,これを支払わずに被控訴人各標章を使用し
ていた被控訴人は,その分利得を得ているものであるから,権利者であ
る控訴人が,その損失に対応する上記利得を請求できる旨主張する。
しかしながら,被控訴人は本件各登録商標自体を使用しておらず,その
点について被控訴人の利益や控訴人の損失はないと考えられること,上
記説示のとおり,被控訴人は本件各登録商標に類似する被控訴人各標
章を使用したが,その使用によって利益を得たというものではないこと,
被控訴人各標章の使用について控訴人の損害が発生しておらず,被控
訴人には不法行為による損害賠償義務がないから,被控訴人が支払う
べき使用料を免れているという前提を欠くものといわなければならない。
したがって,控訴人の上記不当利得の主張は失当であり,採用できな
い。
 3 以上によれば,控訴人の被控訴人に対する,主位的に不法行為に基づく損
害賠償請求権として,予備的に不当利得返還請求権として,損害賠償金な
いし不当利得金の一部の1000万円及びこれに対する平成11年4月19日
から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め
る本件請求は,いずれも理由がなく,失当である。 
第4 結論
   よって,これと同旨の原判決は相当であり,本件控訴はいずれも理由がない
からこれを棄却し,控訴費用の負担について民事訴訟法67条,61条を適用
して,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第2部
 裁判長裁判官    大 内 捷 司
裁判官島  田  周  平
 
裁判官玉  越  義  雄

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