弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成11年(行ケ)第158号審決取消請求事件(平成12年5月17日口頭弁論
終結)
         判     決
    原      告   エクソン リサーチ アンド エンジニアリング
コムパニー
    代表者   【A】
    訴訟代理人弁護士   中村 稔
    同          熊倉禎男
    同          田 中 伸一郎
    同          岩瀬吉和
    同    弁理士   【B】
    被      告   特許庁長官 【C】
    指定代理人   【D】
    同          【E】
同【F】
    同          【G】
         主     文
     特許庁が、平成10年審判第1264号事件について、平成10年12
月16日にした審決を取り消す。
     訴訟費用は被告の負担とする。
         事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
 1 原告
   主文と同旨
 2 被告
   原告の請求を棄却する。
   訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、昭和60年12月17日(優先権主張・1984年12月17日、
英国)にした、発明の名称を「ゼオライトLの製造および触媒作用に於けるその使
用」とする特許出願(特願昭60-284185号)の一部を分割して、平成8年
4月11日、名称を「炭化水素転化用触媒」とする発明につき特許出願をした(特
願平8-89194号)が、平成9年10月17日に拒絶査定を受けたので、平成
10年1月26日、これに対する不服の審判の請求をした。
   特許庁は、同請求を平成10年審判第1264号事件として審理したうえ、
同年12月16日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄
本は平成11年2月3日、原告に送達された。
 2 明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」と
いう。)の要旨
   水と珪素源とアルミニウム源とからなり、かつ下記モル比(酸化物として示
す)
   2.63-2.67M2/nO:Al2O3:8.8-9.7SiO2:145-160H2O
 (上記モル比中、Mは原子価nの陽イオンまたは陽イオンの混合物であり、M2
/nO/SiO2のモル比は少なくとも0.275である)
  の組成を有するアルカリ性反応混合物を少なくとも75℃の温度に加熱して製
造された、少なくとも 0.4のアスペクト比を有する円柱形微結晶からなるゼオ
ライトLと1種以上の触媒活性金属を含有することを特徴とする炭化水素転化用触
媒。
 3 審決の理由の要点
   審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、特開昭58-2236
14号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」と
いう。)と同一であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることが
できないとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 1 審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例記載事項の認定(審決書3頁
6行~6頁4行)、本願発明と引用例発明との一致点及び相違点の認定は認める。
相違点についての判断は争う。
   審決は、相違点についての判断を誤って(取消事由)、本願発明が、引用例
発明と同一であるとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消され
なければならない。
 2 取消事由(相違点についての判断の誤り)
  (1) 審決は、本願発明と引用例発明との一応の相違点として認定した「アルカ
リ性反応組成物のモル比が、本願発明は、『2.63-2.67M2/nO:Al2O
3:8.8-9.7SiO2:145-160H2O(上記モル比中、Mは原子価nの陽イオンで
あり、M2/nO/SiO2のモル比は少なくとも0.275である)』であるのに
対し、引用例発明では、『2.62-2.75M2/nO:Al2O3:9-10SiO2:160
H2O(上記モル比中、Mは原子価nの陽イオンであり、M2/nO/SiO2のモ
ル比は0.275-0.291である)』である点」(審決書7頁8~15行)に
つき、「本願発明と引用例発明におけるアルカリ性反応混合物のゲル組成比
は、『2.63-2.67M2/nO:Al2O3:9-9.7SiO2:160H2O(M2/nO
/SiO2のモル比は0.275-0.291である)』の範囲で重複しており、この点におい
て差異はない。」(同7頁19行~8頁3行)としたうえ、「本願発明のようにア
ルカリ性反応混合物のゲル組成比の範囲に限定したことによって、物の発明として
格別の効果が生じたとは認められない。してみると、前記アルカリ性反応混合物の
ゲル組成の範囲は本願発明と引用例発明とで重複し、また、本願発明のようにアル
カリ性反応混合物のゲル組成の範囲に限定したことにより、格別の作用効果を生じ
るわけでもないから、上記相違点は実質的な差異とは認められない。」(同9頁3
~11行)と判断した。
    しかして、審決が、本願発明のアルカリ性反応混合物のゲル組成比の限定
に格別の効果が生じないとしたのは、本願明細書の第1表(甲第3号証7頁、以下
「本願第1表」という。)に示された、9例のゲル組成比が異なるゲル混合物(ア
ルカリ性反応混合物)と、各ゲル混合物より製造されるゼオライトLの結晶化度及
びゼオライトW含量(W/L比)との関係例(以下、個々の例を示すときは、その
例が本願第1表の上から何番目に記載されているかに従い、「第1表1例」、「第
1表2例」などのようにいう。)のうち、いずれもゲル組成比が本願発明の限定範
囲外である第1表4例及び第1表6例(以下、順次「参考例1」、「参考例2」と
もいう。)のゼオライトLが、いずれもゲル組成比が本願発明の限定範囲内である
第1表2例及び第1表3例(以下、順次「本願例1」、「本願例2」ともいう。)
のゼオライトLと比較して、下記のとおり、結晶化度が多少良好で、ゼオライトW
含量(W/L比)が同一値であることを根拠とするものである。
   参考例1 モル比:2.66M2/nO:Al2O3:10.1SiO2:160H2O、
結晶化度:100%、ゼオライトW含量:<0.03
   参考例2 モル比:2.64M2/nO:Al2O3:10.3SiO2:161H2O、
結晶化度:95%、ゼオライトW含量:<0.03
   本願例1 モル比:2.65M2/nO:Al2O3:8.8SiO2:149H2O、
結晶化度:85%、ゼオライトW含量:<0.03
   本願例2 モル比:2.67M2/nO:Al2O3:9.3SiO2:156H2O、
結晶化度:93%、ゼオライトW含量:<0.03
  (2) 本願発明と引用例発明におけるアルカリ性反応混合物のゲル組成比が、審
決認定の範囲で重複していることは認める。
    しかしながら、審決が、本願例1、2のゼオライトLの結晶化度及びゼオ
ライトW含量と、参考例1、2のゼオライトLの結晶化度及びゼオライトW含量と
を比較して、本願発明のアルカリ性反応混合物のゲル組成比の限定に格別の効果が
生じないとしたことは誤りである。
    すなわち、参考例1、2のモル比(ゲル組成比)は、本願発明における限
定の範囲に入らないだけでなく、引用例発明における限定の範囲にも入らないもの
である。しかるところ、審決が、本願発明と対比して実質的な差異がないとするの
は引用例発明であるから、引用例発明と無関係のアルカリ性反応混合物である参考
例1、2の結晶化度及びゼオライトW含量がどのような値であろうと、それは、本
願発明のアルカリ性反応混合物のゲル組成比の限定に格別の効果が生じないことの
根拠となるものではない。
    のみならず、本願第1表に示された内容は、本願出願前に公知であったわ
けではないから、本願発明に含まれないもののうちに、これ含まれるものよりも、
若干良好な効果を有するものが存在したとしても、そのことによって、本願発明の
新規性が失われるものではない。
    したがって、審決の上記判断はいずれにせよ誤りである。
  (3) 被告は、審決における相違点の判断において、本願発明のM2/nO及び
SiO2の組成の限定の技術的意義を検討した結果、引用例発明の実施例1、7、9
の結晶化度が、本願発明の範囲内のものとほぼ同程度であるから、本願発明が引用
例発明に比べ格別な効果を有するものとはいえず、選択発明としての特許性がない
と判断したものである旨主張する。
    しかしながら、引用例は、本願発明における「ゼオライトLのための合成
ゲル中のK2O対SiO2のモル比に対する生成物の結晶化度の感受性」という視点
(甲第2号証5頁8欄37~39行)も、「K2O対SiO2比が0.25に向かっ
て減少するにつれて生成物の結晶化度は急激に減少する」という知見(同欄41~
43行)も、ともに欠いているため、その実施例中には、本願発明よりもゼオライ
トLの結晶化度の点で劣るものが含まれている。たとえ、引用例発明の実施例中
に、本願発明より良好な効果を奏するものが存在するとしても、本願発明は、アル
カリ性反応混合物のゲル組成比を限定することにより、ゼオライトLの結晶化度な
いしゼオライトW含量が劣悪な生成物を予め避けることを可能にしているのであ
る。
第4 被告の反論の要点
 1 審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
 2 取消事由(相違点についての判断の誤り)について
  (1) 原告は、参考例1、2のモル比(ゲル組成比)が、本願発明及び引用例発
明のいずれの限定の範囲にも入らないから、その結晶化度及びゼオライトW含量が
どのような値であろうと、本願発明と引用例発明との対比において、本願発明のア
ルカリ性反応混合物のゲル組成比の限定に格別の効果が生じないとする根拠となる
ものではないと主張する。
    しかしながら、審決は、本願発明が選択発明として特許性が認められる余
地があるか否かを検討するため、本願発明の範囲内のものと引用例発明の実施例と
を比較すると、結晶化度及びゼオライトW含量(W/L比)の値のいずれにおいて
も、本願発明のものと引用例発明のものとがほぼ同程度であることが判明したこと
により、「本願発明のようにアルカリ性反応混合物のゲル組成比の範囲に限定した
ことによって、物の発明として格別の効果が生じたとは認められない。」と判断し
たものであって、原告の上記主張は失当である。
  (2) すなわち、本願発明においては、引用例発明に比べ、特にM2/nO及び
SiO2の組成において、より小さい範囲に設定されているため、この限定の技術的
意義を検討する必要がある。
    そこで、各成分の使用量及び使用割合の意義を分析するに、本願明細書に
は、本願第1表に、Al2O31モルに対する、各成分(M2/nO、SiO2、H
2O)のモル比が異なる9例のゲル混合物と、各ゲル混合物より製造されるゼオラ
イトLの結晶化度及びゼオライトW含量(W/L比)との関係例が示されており
(第1表1~9例)、添付の図1(甲第2号証、以下「本願図1」という。)に、
合成ゲル(ゲル混合物)のM2/nO/SiO2モル比の関数としてのゼオライトL
の結晶化度のグラフが示されている。そして、本願第1表及び本願図1によれば、
M2/nO/SiO2モル比が0.25に向かって減少するにつれて、ゼオライトL
の結晶化度が急激に減少することが理解される(このことは、本願明細書にも記載
されている(甲第2号証8欄41~43行)。)。すなわち、ゲル混合物より製造
されるゼオライトLの結晶化度は、ゲル混合物のM2/nO、SiO2、H2Oの個
々の量にではなく、M2/nOとSiO2のモル比によってのみ左右されるものであ
るから、引用例に記載された各実施例に係る結晶化度の値も、そのM2/nO/S
iO2比を参照すれば、本願第1表及び本願図1から読み取ることができるものであ
る。
    すなわち、引用例の実施例1、7、9のM2/nO/SiO2モル比はそれ
ぞれ0.262、0.291、0.275であるから、これを本願図1のグラフ上
にプロットすると、本判決添付別紙1のとおりとなり、引用例の実施例1、7、9
の各結晶化度と、本願発明の範囲にある第1表2例(本願例1)及び第1表3例
(本願例2)の各結晶化度との間に、有意な差が見られないことが判明するのであ
る。
    また、本願第1表に基づいて第1表1~9例のM2/nO/SiO2比とゼ
オライトW含量(W/L比)との関係をグラフ化し、前同様、そのグラフ上に引用
例の実施例1、7、9の各M2/nO/SiO2モル比をプロットすると、本判決添
付別紙2のとおりとなり、引用例の実施例1、7、9の各W/L比と、本願発明の
範囲にある第1表2例(本願例1)及び第1表3例(本願例2)の各W/L比との
間に、やはり有意差が見られないことが判明する。
    このように、本願発明の範囲内のものと引用例発明の実施例とでは、結晶
化度、ゼオライトW含量のいずれの値も、ほぼ同程度であるといえるから、本願発
明が、M2/nO、SiO2のモル比を、引用例から導かれるモル比範囲より狭い範
囲に限定することによって、本願発明が引用例発明に比べ格別な効果を奏するもの
とはいえず、本願発明は、選択発明として特許性がないというべきである。
    なお、審決には、参考例1、2の結晶化度やゼオライトW含量に言及した
部分があるが、これは、本願発明の限定の範囲が、本願明細書に開示されたゲル混
合物のうち、格別効果のあるものに特に限定しているわけでもないことが明細書の
上からも確認でき、審判における、本願発明の範囲内のゲル組成が特に効果を奏す
る旨の原告の主張が、明細書の内容とも矛盾することを示す趣旨で例示したのであ
って、参考例1、2の存在のみをもって、本願発明の効果に対する評価の根拠とし
たものではない。
  (3) 原告は、本願第1表に示された内容が、本願出願前に公知であったわけで
はないから、これによって、本願発明の新規性が失われるものではないと主張する
が、上記のとおり、審決は、本願発明の数値限定が格別な技術的意義を有するか否
かを判断するに当たって、本願第1表を参照したものであり、本願発明の効果に対
する評価を、その明細書の記載に基づいて行うのは、当然のことである。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由(相違点についての判断の誤り)について
  (1) 別添審決書写し記載のとおり、審決は、「相違点判断」として、
   「上記相違点について検討する。
     本願発明と引用例発明におけるアルカリ性反応混合物のゲル組成比
は、『2.63-2.67M2/nO:Al2O3:9-9.7SiO2:160H2O(M2/nO
/SiO2のモル比は0.275-0.291である)』の範囲で重複しており、こ
の点において差異はない。
     そして、アルカリ性反応混合物のゲル組成比を本願発明のように限定し
たことによる効果について検討する。
     本願明細書段落番号25~26には、アルカリ性反応組成物のモル比が
2.65M2/nO:Al2O3:8.8SiO2:149H2Oのもの及び2.67M2/nO:
Al2O3:9.3SiO2:156H2Oのもの(注、本願例1、2を指す。)から製造
したゼオライト(本願発明である)と、アルカリ性反応組成物のモル比が2.66M2
/nO:Al2O3:10.1SiO2:160H2Oのもの及び2.64M2/nO:Al2O
3:10.3SiO2:161H2Oのもの(注、参考例1、2を指す。)から製造された
ゼオライト(本願発明ではない)の結晶化度が、それぞれ、85%、93%、10
0%、95%であること及びゼオライトW含量はすべてのゼオライトとも0.03
未満であることが記載されている。
     この記載からみて、本願発明のようなアルカリ性反応混合物のゲル組成
比の範囲のものから製造したゼオライトであっても、それ以外のゲル組成比の範囲
のものから製造したゼオライトであっても、最終的に製造されたゼオライトの構成
は実質的に変わらないから、本願発明のようにアルカリ性反応混合物のゲル組成比
の範囲に限定したことによって、物の発明として格別の効果が生じたとは認められ
ない。
     してみると、前記アルカリ性反応混合物のゲル組成の範囲は本願発明と
引用例発明とで重複し、また、本願発明のようにアルカリ性反応混合物のゲル組成
の範囲に限定したことにより、格別の作用効果を生じるわけでもないから、上記相
違点は実質的な差異とは認められない。」(審決書7頁18行~9頁11行)
   と説示したものである。
    この説示に照らして、審決が、アルカリ性反応混合物のゲル組成比が本願
発明の限定の範囲に属する本願例1、2と、それが本願発明の限定の範囲に属さな
い参考例1、2とを対比し、それぞれのゼオライトLの結晶化度及びゼオライトW
含量(W/L比)に有意差がないことを根拠として、「本願発明のようにアルカリ
性反応混合物のゲル組成比の範囲に限定したことによって、物の発明として格別の
効果が生じたとは認められない」と認定・判断したものであることは明白である。
    しかしながら、前示のとおり、審決は、本願発明と引用例発明とが同一で
あるから、特許法29条1項3号に該当するものとして、本願発明が特許を受ける
ことができないとするものであり、該判断は、本願発明と引用例発明におけるアル
カリ性反応混合物のゲル組成比が、前示審決認定の範囲で重複していること(この
こと自体は、当事者間に争いがない。)に基づくものである。そして、そうであれ
ば、本願発明の効果、すなわち、その結晶化度及びゼオライトW含量(W/L比)
を、引用例発明のそれと対比した結果において、「本願発明のようにアルカリ性反
応混合物のゲル組成比の範囲に限定したことによって、物の発明として格別の効果
が生じたとは認められない」と認定し得なければならないことは明らかである。
    しかるところ、本願発明と引用例発明とが、「アルカリ性反応組成物のモ
ル比が、本願発明は、『2.63-2.67M2/nO:Al2O3:8.8-9.7SiO2:145
-160H2O(上記モル比中、Mは原子価nの陽イオンであり、M2/nO/SiO
2のモル比は少なくとも0.275である)』であるのに対し、引用例発明で
は、『2.62-2.75M2/nO:Al2O3:9-10SiO2:160H2O(上記モル比
中、Mは原子価nの陽イオンであり、M2/nO/SiO2のモル比は0.275-
0.291である)』である点」(審決書7頁8~15行)で相違することは、当
事者間に争いがなく、該相違点の認定で示されている引用例発明の構成に照らし
て、前示参考例1、2が引用例発明に属さないことは明らかであるから、審決が、
本願発明の効果を引用例発明の効果と対比した結果において、本願発明におけるア
ルカリ性反応混合物のゲル組成比の範囲の限定により、物の発明として格別の効果
が生じないことを認定したということはできず、したがって、審決には、理由齟齬
の誤りがあるといわなければならない。
  (2) 被告は、審決が、本願発明が選択発明として特許性を認められる余地があ
るか否かを検討するため、本願発明の範囲内のものと引用例発明の実施例とを比較
すると、結晶化度及びゼオライトW含量(W/L比)のいずれの値においても、本
願発明のものと引用例発明の実施例とがほぼ同程度であることが判明したことによ
り、「本願発明のようにアルカリ性反応混合物のゲル組成比の範囲に限定したこと
によって、物の発明として格別の効果が生じたとは認められない。」と判断したも
のであると主張し、具体的には、本願第1表及び本願図1に示された第1表1~9
例に係る各ゲル混合物のM2/nO/SiO2モル比と、各ゼオライトLの結晶化度
及びW/L比の値との関係に、引用例の実施例1、7、9を、その各M2/nO/
SiO2モル比に応じて当てはめると、本判決添付別紙1、2のとおり、引用例の実
施例1、7、9に係る結晶化度及びW/L比と、本願例1及び本願例2に係る結晶
化度及びW/L比との間に、有意差がみられないと主張する。
    しかしながら、審決の「相違点判断」は、前示したところに尽きるもので
あって、被告主張のような判断が審決においてなされているものとは到底認めるこ
とができない。
    それのみならず、被告の該主張自体、直ちに首肯できるものではない。
    すなわち、被告主張は、本願発明が、引用例発明に比べ、特にM2/nO
及びSiO2の組成において、より小さい範囲に設定されている(この主張が、本願
発明のゲル混合物における2.63-2.67M2/nO:Al2O3:8.8-9.7SiO2と
のモル比、すなわち、Al2O3のモル数を1としたときのM2/nO及びSiO2
の各モル数が、引用例発明と比べ、より小さい範囲に設定されているという趣旨で
あることは明白である。)ため、この限定の技術的意義を検討する必要があるとし
ながら、ゲル混合物より生成されるゼオライトLの結晶化度は、ゲル混合物のM2
/nO、SiO2、H2Oの個々の量にではなく、M2/nOとSiO2のモル比に
よってのみ左右されるとし、実際には、ゲル混合物のM2/nO/SiO2モル比
と、ゲル混合物より生成されるゼオライトLの結晶化度及びW/L比との関係か
ら、本願例1、2と引用例発明の実施例1、7、9に係る各結晶化度及びW/L比
に有意差がみられないとの結論を導き出すものである。
    しかしながら、Al2O3のモル数を1としたときのM2/nO及びSiO
2の各モル数、すなわち、Al2O3とM2/nOのモル数の関係及びAl2O3と
SiO2のモル数の関係と、M2/nO/SiO2モル比、すなわち、M2/nOと
SiO2のモル数の関係とが、本願発明及び引用例発明の構成上、同一の技術的意義
を有しており、後者とゼオライトLの結晶化度及びW/L比との関係が、直ちに前
者とゼオライトLの結晶化度及びW/L比との関係を示すものであるとする根拠
は、本件各証拠上、見当たらない。したがって、前示被告主張は、畢竟、引用例発
明に比べ、本願発明においてより小さい範囲に設定されているM2/nO及びSiO
2の組成(Al2O3のモル数を1としたときのM2/nO及びSiO2の各モル
数)の限定の技術的意義を明らかにしたものとはいい得ないといわなければならな
い(因みに、前示争いのない本願発明と引用例発明との相違点によれば、ゲル混合
物のM2/nO/SiO2のモル比の限定の範囲は、本願発明のものが引用例発明の
ものを包含する関係にあるから、引用例発明の効果に対する関係において、本願発
明のM2/nO/SiO2のモル比の限定の効果を検討する意義ないし必要性は、そ
もそも存在しない。)。また、被告主張によれば、引用例の実施例1のM2/nO
/SiO2モル比は0.262であるところ、これは、前示相違点の認定で示されて
いる引用例発明の構成に係るM2/nO/SiO2モル比の限定の範囲外であるか
ら、該実施例1は、審決の認定した引用例発明に含まれないものであり、この点に
おいても、前示被告主張は齟齬があるといわざるを得ない。
  (3) したがって、審決の相違点についての判断は、いずれにせよ誤りであると
いうべきである。
 2 以上によれば、原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、訴
訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のと
おり判決する。
東京高等裁判所第13民事部
裁判長裁判官 田中康久
裁判官 石原直樹
        裁判官   宮坂昌利

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勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛