弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     木件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は被告人及び弁護人林百郎提出の各控訴趣意書に記載されたとお
りでめり、これ対する答弁は検察官岸川敬喜提出の答弁書のとおりであるからここ
にこれを引用し、これに対し次のように判断する。
 弁護人の論旨第一点及び被告人の論旨一について。
 原判決か肯認した本件起訴状の公訴事実は、「被告人は日本人であるが、昭和二
十八年一月頃より昭和三十四年十二月初旬頃までの間に有効な旅券に出国の証印を
受けないで、本邦内より本邦外の地域である中華人民共和国に行く意図を以て出国
したものである」というのであつて、出国の時期として約七年の期間を以つて<要旨
第一>示し、出国の場所については本件内よりとし、出国の方法が示されていないこ
とは所論のとおりである。しかし刑事訴訟法第二百五十六条第三項にお
いて、公訴事実は訴因を明示してこれを記載しなければならない、訴因を明示する
にはできる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしな
ければならないと規定した所以のものは、裁判所に対し審判の対象を限定すると共
に被告人に対し防禦の範囲を示し且つ既判力の及ぶ範囲を明かにして二重処罰の危
険から被告人を保護しようとするものであるから、裁判所の審判の対象が限定さ
れ、被告人の防禦に支障を与えず、既判力の範囲が明かとなり二重処罰の危険がな
い限り、起訴状に公訴事実を記載するに当り犯罪の日時、場所及び方法を一一具体
的に明示しなくても罪となるべき事実の特定があるものと解すべきである。尤も訴
因を明示するため犯罪の日時、場所、方法を以て罪となるべき事実を特定すること
を通例とし、本件の如き訴因の明示方法によつて罪となるべき事実を特定すること
は稀な事例ではあるが、捜査の結果遂にこれを具体的に明示することができない場
合は前記法律の目的に反しない限り例外としてこれを認めるべきであつて、だから
こそ同条項は前記の如くできる限り云々と規定しているのである。所論は原判決に
おいて、被告人が出国したと認定した約七年の間には同種の行為が二回以上行われ
たかも知れない合理的な疑が十分あり、そしてその二回以上行われたかも知れない
個々の独立した行為が公訴事実に包含されているから、本件公訴の提起は公訴事実
の特定を欠き無効であると主張するが、本件起訴状の記載は検察官において被告人
が昭和三十四年十二月十五日中華人民共和国から帰国した事実に対応する出国即ち
右帰国に最も接着する日時における出国の事実を起訴した趣旨と解すべきことは明
らかであつて、所論のように二回以上行われたかも知れないすべての行為を起訴し
たものではない。蓋し右帰国に対応する出国はただ一回であることは物理上当然だ
からである。そして若し仮りに後に至り右期間内に二回以上出国していた疑が生し
たとしても、その二回以上の出国が既に確定判決のあつた出国の事実とは別の出国
であることの立証ができない限り被告人の利益に従い後の起訴は二重起訴として公
訴を棄却すべきであるから二重処罰の危険はない。次に所論は犯行の時を本件のよ
うに幅の広い期間を設けて起訴されると、被告人はその期間中のあらゆる瞬間のア
リバイを立証しなければ結局は何時か出国したと認定され検察官が挙証責任を負う
刑事訴訟の原則に反すると主張するが、外国から帰国した者はその前にこの帰国に
対応する出国をした事実の存することは論旨もいう如く、経験則上当然であつて、
右事実を否定するアリバイの立証ということは存し得ないのであるから、本件のよ
うな犯罪については出国の期間に相当の幅があつても被告人の防禦に何等支障を及
ぼすものではなくまた検察官の挙証責任の原則に反するものではない。それ故各論
旨は理由がない。
 弁護人の論旨第二点について。
 所論は刑事訴訟法第二百五十五条にいう犯人が国外にいる場合とは「検察官が犯
罪の発生及び犯人を確知し、捜査に万全の努力をしたのにかかわらず、犯人が国外
にいるため十分な捜査ができなかつた場合」の意に解すべきところ、本件において
検察官が被告人の出国を知つたのは帰国上陸直前であることは明らかであるから、
本件は既に公訴時効が完成しているのに免訴の言渡をしなかつた原判決は法令の解
釈適用を誤つたもので<要旨第二>あると主張する。しかし刑事訴訟法第二百五十五
条第一項は「犯人が国外にいる場合又は犯人が逃げ隠れているため有効
に起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかつた場合には、時効は、
その国外にいる期間又は逃げ隠れている期間その進行を停止する」と規定し、明ら
かにその前段と後段とでは時効の進行停止の条件を区別しているのである。即ち後
段は検察官が公訴提起の手続に着手したことを前提としているのに対し、前段はた
だ犯人が国外にいるというだけで検察官が公訴提起の手続に着手したと否とを問わ
ないことはその文理解釈上疑問の余地はない。時効制度は、日時の経過による犯罪
の社会的影響の微弱化、可罰性の減少、証拠の散逸による真実発見の困難性等に由
来するのであるが、元来時効の利益をどの程度に与え、又時効完成を阻止する事由
をどのように定めるかは立法政策上の問題であつて、従つて犯人か国外にいる場合
に当然時効の進行を停止すると規定しても何等差支なく、憲法第七十五条、皇室典
範第二十一条の規定もこれを示すものである。刑事訴訟法第二百五十五条第一項に
おいて、犯人が国外にいる場合に時効の進行を停止する旨規定した理由は、犯人が
国内にいる場合に比較し刑事訴訟法の効力の直接及ばない国外に犯人がいるとき
は、訴追機関において捜査の端緒をつかみ犯罪を覚知し得る機会に乏しく且つ捜査
の端緒をつかんでも捜査の遂行は殆んど不可能であり、公訴権の行使が不可能か或
は多大の困難を伴い到底円滑な公訴権を実現し得ないので、犯人が国外にいるとい
う一事によりその期間当然時効の進行を停止することとしたのである。所論は犯人
が国外にいたとしても勤務先の都合により一時国外に移住したような場合に、国外
にいたということだけで時効の利益を失い、また国内にいた共犯者は犯罪が捜査機
関に発覚されることなくして時効期間を経過すれば時効の利益を受けるのに、国外
にいた共犯者は時効の利益を受けないのは不合理であると主張するが、かかる現象
は所論のように捜査機関か犯罪の覚知を前提条件とする場合でも起り得ることは明
白であつて、刑事訴訟法第二百五十五条第一項の前段と後段とを統一的に解釈しな
ければならない理由とはならない。所論は独自の見解にすぎず採用し難く、論旨は
理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 岩田誠 判事 渡辺辰吉 判事 秋葉雄治)

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