弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人Aの上告理由第一点乃至第五点について。
 原判決は、所論のように「被上告人は昭和二二年二月一七日係争物件を上告人に
売渡した意思表示を為し」たという事実を認定してはいない。原判決は、証拠によ
り、上告人と被上告人との間に同日原判示のような売買の予約が成立したが、その
后右売買の本契約は結局成立するに至らなかつたとの事実を認定しているのである。
そして原審挙示の証拠によれば、原審の右の認定は十分首肯するに足り、所論甲一
号証、乙一号証その他の証拠によるも必ずしも原審の認定を不当とし、上告人の主
張事実を認めなければならないということはない。所論はすべて原審の適法になし
た証拠の取捨判断乃至事実の認定を非難するか、又は原審の認定しない事実を前提
として立論するものであつて、上告適法の理由とならない。
 同第六点について。
 論旨は、原判決が上告人の証拠を転換せしめて被上告人の為したる証拠の如く判
示したという事実を前提として原判決を非難しているけれども、原判決は所論のよ
うな判示をしてはいないのであるから、論旨は採用することができない。
 同第七点及び第八点について。
 所論私文書偽造、印章偽造行使、詐欺、偽証等の事実は原審はこれを認めなかつ
たことが原判文上明白であるのみならず、所論乙五号証、甲一六号証等によるも未
だ原審の認定を違法と認めなければならないものではない。論旨は採るに足りない。
 同第九点について。
 訴外Dが今次戦争で応召後行方不明であつたとの原審の認定は、原審挙示の資料、
特に第一審における被上告人本人訊問の結果から首肯できないことではないから、
論旨は採用の限りでない。
 同第一〇点について。
 原判決の事実摘示の中に、上告人の主張として「被控訴人は、同書記を告訴して
いるのであると附陳した」と記載されていることは所論のとおりであるが、右の「
被控訴人」とあるのは「控訴人」の誤記であることが明白である。しかもかゝる誤
記に基き原審が上告人に不利益に判定したと認むべき形跡は少しも存しないから、
論旨は理由がない。
 同第一一点について。
 論旨は結局原審の適法になした証拠の取捨判断ないし事実の認定を非難するに帰
し、上告適法の理由とならない。
 同第一二点について。
 上告人が原審において、乙一乃至四号証の成立を認めたことは、原審口頭弁論調
書(記録第一審二三丁裏、八八丁、第二審五一丁、五八丁裹参照)の記載により明
白であから、原判決に所論のような違法はなく、論旨は理由がない。
 同第一三点について。
 論旨は結局原審の適法になした証拠の取捨判断ないし事実の認定を非難するに帰
し、上告適法の理由とならない。
 同第一四点について。
 所論のように原審口頭弁論終結後、係書記と被控訴代理人とが法廷に居残り秘密
に会合したという事実は、これを認むべき形跡がない。のみならず、仮りに口頭弁
論終結後裁判官が退廷したあとで係書記と訴訟当事者の一方が法廷に居残つたとい
う事実があつたとしても、単にそれだけのことで原審の訴訟手続又は判決か当然違
法となる理由はない。
 その他にも原判決には所論のような違法の点は認められないから論旨はすべて理
由がない。
 なお上告人の「上告理由書補充」と題する書面は、上告理由書提出期間経過後の
提出にかかるものであるから、これに対しては判断を示さない。
 以上のように本件上告は理由がないから民訴四〇一条、九五条、八九条を適用し
て主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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