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平成28年12月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成27年(ワ)第13602号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成28年11月7日
判決
主文
1被告Aは,原告に対し,247万4761円及びこれに対する平成27年5
月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用中,原告に生じた費用はこれを106分し,その87を原告の,そ
の余を被告Aの負担とし,被告Aに生じた費用はこれを53分し,その34を
原告の,その余を被告Aの負担とし,被告Bに生じた費用は原告の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告らは,原告に対し,連帯して,689万0854円及びこれに対する平
成27年5月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,サッカーの社会人リーグにおける試合中,原告が,相手チーム
に所属する被告Aから左脛部を蹴られたことにより,左下腿脛骨骨折,左
下腿腓骨骨折の傷害を負ったと主張し,被告A及び同人を指導監督すべき
相手チームの代表者である被告Bに対し,共同不法行為(民法719条1
項前段)に基づき,合計689万0854円の損害賠償金及びこれに対す
る不法行為後の日の平成27年5月29日(被告らに対する訴状送達日の
翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事
案である。
1前提事実(争いがないか後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
原告は,当時サッカーのC社会人4部リーグに所属するチーム「D」
のメンバーであった。
被告らは,当時同リーグに所属するチーム「E」のメンバーであり,被告
Bが同チームの代表を務めていた。(争いがない)
DとEは,平成24年6月9日,F市内のサッカー場において対戦した。
被告A(背番号10)は前半から,原告は後半から出場した。
試合の後半,Dの選手が,自陣右サイド奥(自陣側)から,自陣右サイド
前方(相手陣側)に向かってボールを蹴り出した。
原告は,その蹴り出されたボールを右の太腿でトラップして手前に落とし,
もう一度ボールを左足で蹴ろうとしたところ,そこに走り込んで来た被告A
が伸ばした左足の裏側と,原告の左脛部とが接触した。
このプレーにより原告が倒れたため,試合は一時中断され,原告はG病院
に救急搬送された。(以下,被告Aの上記プレーを「本件行為」と,上記接
触事故を「本件事故」という。)(争いがない,甲2,甲22,乙1,乙3)
⑶本件事故により,原告は,左下腿脛骨及び左下腿腓骨骨折の傷害を負った。
(甲16,弁論の全趣旨)
2争点及び当事者の主張
⑴被告Aの不法行為責任
ア原告の受傷について故意又は過失があるか(争点1)
(原告の主張)
被告Aの本件行為は,原告に向かって走っていき,その勢いのまま
に,スパイクシューズを履いた足の裏を向けて突き出すというもので
あり,故意に原告の左脛部を蹴ったと推認される。
仮に故意によるものでないとしても,スパイクシューズを履いた足の
裏という危険な個所を原告の方に向けて突き出すことにより,原告が負
傷する結果となることは容易に予見できたというべきであり,少なくと
も過失があったことは明らかである。
(被告らの主張)
被告Aは,原告の足を蹴ろうとしたものではなく,原告が不完全に
トラップして足下から離れたボールを蹴り出そうと左足を伸ばしたも
のであり,被告Aの左足の動きに遅れて原告がボールに向かって左足
を蹴り出したため,被告Aの左足の裏側に原告が左脛部を蹴り込むよ
うになってしまったものである。
被告Aにとって,抽象的な身体の接触については予見できても,上記
のようにして原告に傷害結果が発生することまで予見することは不可
能であるし,結果を回避することも不可能であったから,被告Aには故
意も過失もない。
イ本件行為について違法性が阻却されるか(争点2)
(被告らの主張)
サッカーは,試合中に選手同士がボールの獲得をめぐり足と足を接
触し合う局面が当然に予想されるスポーツであり,接触の結果,相手
選手が怪我をする危険性が内在するのであるから,競技の過程で被害
者が受傷したとしても,加害者が故意又は重大な過失によりルールに
反したと認められるような特段の事情がない限り,被害者も当該危険
を受忍したものとして,違法性を欠くというべきである。
本件行為に対しては,審判による警告処分はもとより,ファウルの判
定すらされていないことからしても,サッカー競技規則上反則であると
判断されるものではなく,スポーツ競技の枠内の行為であると評価すべ
き行為であり,社会的相当性の範囲内の行為として違法性を欠くという
べきである。
(原告の主張)
サッカーは身体的接触を伴うスポーツであり,一定の負傷は想定され
ているものではあるが,それはあくまでルールの範囲内のプレーにより
負傷した場合であり,少なくとも重大なルール違反を伴うプレーにより
負傷した場合をも許容するものではない。
サッカー競技規則においては,相手競技者を蹴ったり,蹴ろうとする
行為を,不用意に,無謀に,又は過剰な力で犯した場合には直接フリー
キックが与えられるとされ,また相手競技者に対して過剰な力や粗暴な
行為を加えた場合は著しく不正なファウルプレーに当たるとされてい
るところ,本件行為は上記ルールに明らかに反する行為であり,軽微な
ルール違反ということはできない。
また,原告が左脛部に装着していたレガースを破損して骨折をもたら
すほどの結果が生じていることからして,サッカーで想定される範囲を
大きく逸脱する力を加えたものであったといえる。
したがって,被告Aの行為は,スポーツ行為に附随する危険として許
容される範囲を逸脱する違法な行為である。
ウ損害の発生及びその額(争点3)
(原告の主張)
①治療費,交通費36万円,②慰謝料500万円,③休業損害,逸
失利益100万円,④訴訟準備費用3万0854円,⑤弁護士費用5
0万円
(被告らの主張)
争う。
エ過失相殺の当否(争点4)
(被告らの主張)
本件事故及び受傷結果は,被告Aに遅れて原告がボールを蹴り出そ
うとしたことにより,原告の左足が被告Aの左足の裏側にたたきこま
れてしまったことが原因で生じたものであり,原告のプレーに起因す
る割合が大きいと言わざるを得ないから,相応の過失相殺がなされる
べきである。
(原告の主張)
本件事故は,被告Aの無謀行為にもっぱら起因するのであって,過
失相殺は認められるべきではない。
⑵被告Bの不法行為責任(争点5)
(原告の主張)
被告BはEの代表者であるから,メンバーが適切な注意を払って競技
に当たるよう指導監督する義務があり,本件においてこれを怠ったこと
は不法行為に当たるというべきである。
(被告Bの主張)
争う。
第3争点についての判断
1争点1(被告Aの故意又は過失の有無)
⑴前提事実,証拠(甲2,甲14,甲15,甲22,甲37,乙1から乙3
まで,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故の詳細な状況は以下
のとおりである。
ア原告は,Eが2点先行している状況下で,後半の途中から出場した。
イ本件事故の直前,Eの選手がD陣内でフリーキックを行い,キーパーが
弾いたこぼれ球を,Dの選手が,自陣右サイド奥から自陣右サイド前方へ
と蹴り出した。
その時点で,D陣内でフリーキックが行われたために両チームのほとん
どの選手がD陣内にいたことから,Dがボールを保持した場合には,カウ
ンター攻撃を狙ってE陣内に攻め込もうという戦況にあった。
ウ自陣前方中央付近にいた原告は,右サイドに移動してボールに追いつい
て右太腿でボールをトラップし,自身の体よりも1メートルほど前方にボ
ールを落とすと,バウンドして膝の辺りの高さまで浮いたボールを左足で
蹴ろうとして,軸足である右足を横向きにして踏み込み,左足を振り上げ
た。
他方,被告Aは,カウンター攻撃を阻むべく,原告の方に走り込んでく
ると,その勢いを維持したまま,左膝を真っ直ぐに伸ばし,膝の辺りの高
さまでつま先を振り上げるように突き出して,足の裏側を原告の下腿部の
方に向ける体勢になった。
ボールは原告の左足が触れるよりもわずかに早く被告Aの左足の左側面
付近に当たってはじき出されたものの,上記のとおり,被告Aが左足の裏
側を原告の下腿部の方に向けて突き出していたため,振り上げた原告の左
脛部がちょうど被告Aが伸ばした左足の裏側に入り込む位置関係になり,
原告はその左脛部で被告Aの左足のスパイクシューズの裏側を勢いよく蹴
り上げ,反対に,被告Aはその左足のスパイクシューズの裏側で原告の左
脛部を下方に向けて勢いよく蹴りつけることになった。
その結果,原告が左脛部に装着していたレガースが割れて脛骨及び腓骨
が折れ,原告の左脛部がつま先側に湾曲するほどの力が加わった。
エ本件事故により原告はその場に倒れ込み,試合は一時中断されたが,本
件行為に対して審判によるファウル判定,警告及び退場処分はなく,原告
がフィールド外に運び出されると,ドロップボール(競技規則のどこにも
規定されていない理由によって一時的にプレーを停止したときにプレーを
再開する方法)により試合が再開された。
⑵原告は,本件行為の時点では原告がボールをコントロールしている状況に
あったことに加えて,被告Aが,体を投げ出し,足の裏側を向けるなど,原
告の安全性を顧みていないことや,ボールをミートしにいっていないことな
どから,本件行為は,故意に原告の左足を狙った行為であると主張し,原告
もそのように供述している。
しかしながら,上記⑴によれば,ボールは原告の前方1メートルほど離れ
た位置に落下しており,必ずしも原告がボールをコントロールしていたとい
える状況にはないし,ミートはしていないながらも被告Aがボールに触れて
弾き出していることに加えて,審判がファウルの判定すらしていないことな
どから客観的に考察すれば,被告Aがボールに対して挑んだのではなく,故
意に原告の左足を狙って本件行為に及んだとまで断定することはできない。
もっとも,被告Aが原告のところまで走り込んでいった時点では,原告が
先にボールに追いついてトラップし,次の動作に入ろうとしている状況にあ
った上に,甲22及び乙3によれば,原告が左足を振り上げる動作と,被告
Aが左足を伸ばす動作とがほぼ同時に開始されていることからすると,被告
Aは,トラップして手前に落ちたボールを原告が蹴り出そうと足を振り上げ
ることは当然認識,予見していたはずである。
それにもかかわらず,被告Aは,走り込んで来た勢いを維持しながら,膝
の辺りの高さまでつま先を振り上げるようにして,足の裏側を原告の下腿部
の位置する方に向けて突き出しているのであって,そのような行為に及べば,
具体的な接触部位や傷害の程度についてはともかく,スパイクシューズを履
いている自身の足の裏が,ボールを蹴ろうとする原告の左足に接触し,原告
に何らかの傷害を負わせることは十分に予見できたというべきである。
そうであれば,無理をして足を出すべきかどうかを見計らい,原告との接
触を回避することも十分可能であったというべきであって,少なくとも被告
Aに過失があったことは明らかである。
本件行為の態様からすれば,被告Aは,カウンター攻撃を阻む意図のもと,
足が届かない可能性を承知の上で,半ば強引にボールに挑んだとの評価を免
れない。
⑶これに対し,被告らは,被告Aが先にボールを蹴り出した後に,勢いよ
くボールを蹴り出そうとした原告の足が自身の足の裏に入り込んでくる
ことまで予見することは不可能であるなどと主張する。
しかしながら,上記のとおり,原告がまずボールに追いついてトラップ
した後,被告Aが左足を伸ばす動作と原告が左足を振り上げる動作はほぼ同
時に開始されているのであって,あたかも被告Aがボールを蹴り出した後に
原告が左足を振り上げたかのような状況にはなく,被告らの主張はその前提
を異にするものであって,採用することはできない。
2争点2(本件行為の違法性が阻却されるか)
⑴被告らは,サッカーは競技者同士の身体的接触による危険を包含してお
り,競技中に被害者が受傷した場合であっても,加害者に故意又は重大
な過失によりルールに反したと認められるような特段の事情がない限り,
被害者も当該危険を受忍したものといえ,違法性を欠くと主張する。
確かに,サッカーは,ボールを蹴るなどして相手陣内まで運び,相手ゴー
ルを奪った得点数を競うという競技であるから,試合中に,相手チームの選
手との間で足を使ってボールを取り合うプレーも想定されているのであり,
スパイクシューズを履いた足同士が接触し,これにより負傷する危険性が内
在するものである。
そうであれば,サッカーの試合に出場する者は,このような危険を一定程
度は引き受けた上で試合に出場しているということができるから,たとえ故
意又は過失により相手チームの選手に負傷させる行為をしたとしても,その
ような行為は,社会的相当性の範囲内の行為として違法性が否定される余地
があるというべきである。
そして,社会的相当性の範囲内の行為か否かについては,当該加害行為の
態様,方法が競技規則に照らして相当なものであったかどうかという点のみ
ならず,競技において通常生じうる負傷の範囲にとどまるものであるかどう
か,加害者の過失の程度などの諸要素を総合考慮して判断すべきである。
⑵ところで,サッカー競技規則(国際サッカー評議会が毎年制定し,国際サ
ッカー連盟(FIFA),又は同連盟に加盟する大陸連盟及び同連盟に加盟
する協会下で行われるサッカー競技すべてに通用する規則)12条において
は,ファウルと不正行為について,以下のとおり定められている。(甲21,
甲40,乙8)
すなわち,①競技者が,不用意に,無謀に,又は過剰な力で,相手競技者
を蹴り,若しくは蹴ろうとする,相手競技者に飛びかかる,相手競技者をチ
ャージするなどしたと主審が判断した場合,直接フリーキックが相手チーム
に与えられる,②競技者が,著しく不正なファウルプレーや乱暴な行為をし
た場合は,懲戒の罰則として,退場を命じられる。
被告Aによる本件行為には,本件事故時点において主審によりファウルや
反則行為との判定はされていないことから,これを当時に遡って競技規則に
違反する行為であったということはできない。原告も本人尋問において述べ
ているように,本件事故時のようなプレーの局面で,被告Aの立場に置かれ
た選手が足を出してボールに触れようとすること自体は,相手選手にかわさ
れる危険を伴うために戦術として不利になりうることはあっても,これが競
技規則上想定されていない行為とまでいうことはできない。
しかしながら,被告Aは,原告がボールを蹴るために足を振り上げるであ
ろうことを認識,予見していたにも関わらず,走ってきた勢いを維持しなが
ら,膝の辺りの高さまで左足を振り上げるようにして,左足の裏側を原告の
下腿部の位置する方に向ける行為に及んでおり,このような行為が原告に傷
害を負わせる危険性の高い行為であることに疑いはない。
左下腿脛骨及び腓骨の骨折という重篤な結果が生じていることからしても,
被告Aの本件行為は,原告が足を振り上げる力の方向とは反対方向に相当強
い力を加えるものであったと推察される。
そうすると,そもそも本件行為のような態様で強引にボールに挑む必要が
あったのか否か甚だ疑問であり,競技規則12条に規定されている反則行為
のうち,不用意,すなわち注意,配慮又は慎重さを欠いた状態で相手競技者
を蹴る行為であるとか,相手競技者に飛びかかる行為であると判定され,あ
るいは著しく不正なファウルプレー,すなわちボールに挑むときに相手方競
技者に対して過剰な力を加えたものであると判定され,退場処分が科される
ということも考えられる行為であったと評価できる。
そして,原告は,左下腿脛骨及び腓骨という下腿部の枢要部分を骨折した
上に,入院手術及びその後長期間にわたるリハビリ通院を要するほどの傷害
を負っているのであり,相手競技者と足が接触することによって,打撲や擦
過傷などを負うことは通常ありえても,骨折により入院手術を余儀なくされ
るような傷害を負うことは,常識的に考えて,競技中に通常生じうる傷害結
果とは到底認められないものである。
被告Aは,不用意にも足の裏側を原告に対して突き出すような態勢で挑ん
だために原告に傷害を負わせているのであって,故意までは認められないと
しても,被告Aの過失は軽過失にとどまるものとはいえない。
⑶以上の諸事情を総合すると,被告Aの本件行為は,社会的相当性の範囲を
超える行為であって,違法性は阻却されないというべきである。
3争点3(損害の発生及びその額)
⑴治療費,交通費について
ア証拠によれば,原告の入通院状況について,以下の事実が認められる。
本件事故日である平成24年6月9日から同月23日までの間,G病
院の整形外科において入院治療に当たり,脛骨にチタンを入れて固定す
る髄内釘の手術を行った。これにより,医療費として10万3249円
を支払った。(甲2,甲37)
退院後の平成24年6月25日,同月26日,同月28日,同年7月
2日に,H病院のリハビリ科及び整形外科を受診してリハビリ及び診療
を行い,外来診療費2万0440円を支払った。(甲3の1から5まで)
平成24年6月29日から同年11月6日までの間,I病院にリハビ
リのため通院し,平成24年11月7日から同月14日までの間,同病
院に入院して髄内釘を固定するビスを調整する手術を行い,平成24年
11月16日から平成25年8月12日まで再びリハビリのため通院し
(ただし,平成25年2月,3月,5月,7月は通院がなく,4月,6
月,8月の通院は1回ずつにとどまるなど,2月以降は月あたりの通院
日数が大きく減少している。),平成25年9月4日から同月9日まで同
病院に入院して髄内釘を摘出する手術を行い,平成25年9月12日及
び同月18日の2日間通院をした。これらの診療費として,合計22万
3860円を支払った。(甲4,甲5,甲8,甲37,原告本人)
原告は,その後しばらく通院していなかったものの,平成27年3月
5日にJ整形外科を受診し,医療費として1680円を支払った。(甲6)
イアないしによれば,原告は,左下腿脛骨及び腓骨の骨折により入院
手術をして治療に当たり,その後は術後のリハビリ治療を継続していたこ
とが認められ,G病院,H病院及びI病院における治療費等は,いずれも
本件事故と相当因果関係を有する損害ということができる。(なお,交通
費に関する的確な立証はなく,採用しない。)
もっとも,平成25年2月以降はリハビリ目的でのI病院への通院も大
きく減少しており,同年9月4日のI病院における髄内釘の摘出のための
入院時の質問事項に対して,日常生活で体が不自由だと感じることはない
との回答をしていて(乙7),同年9月19日以降は,平成27年3月5
日にJ整形外科に赴くまで,約1年6か月近い期間が開いている。
また,同整形外科の受診目的について,原告は,I病院においてもはや
画期的な治療が提示されていなかったと述べたり,同整形外科においては,
再手術により骨の変形を修復する方法について説明を受けたと述べている。
以上を総合すると,同整形外科への通院は,本件事故による治療行為と
して通常必要なものということはできず,本件事故との相当因果関係を認
めることはできない。
ウないし
の合計34万7549円である。
⑵慰謝料について
本件事故により,原告は左下腿脛骨及び腓骨の骨折という重傷を負ってお
り,とりわけ受傷時及び当初の手術入院時の肉体的,精神的苦痛は,察する
に余りあるものである。
そして,原告は,髄内釘の摘出等も含めて合計29日間の入院に加え,リ
ハビリを中心とする合計64日間(通院期間としては451日)の通院(J
整形外科を除く。)を余儀なくされ,その間7か月以上の休職,休暇を余儀
なくされた。(甲9,甲10)
上記⑴イで指摘したところによれば,リハビリ治療により,遅くとも髄内
釘の摘出手術を受けた平成25年9月ころには概ね症状は固定していたもの
とみられるが,①左足関節の可動域制限(背屈について,右他動20度に対
し,左他動10度,右自動20度に対し,左自動5度),②左両下腿骨々折
部の膨隆及び著しい圧痛,③左足関節荷重背屈時の左下腿外側の疼痛,④軽
度内反位での変形治癒といった後遺障害を認めるとの後遺障害診断書が作成
されている。(甲16)
①については,屈曲と伸展の両方の可動域制限を計測していないものであ
ること,②③は,左下腿骨髄浮腫の診断書等(甲32から甲35の2)によ
っても,骨髄浮腫と上記後遺障害診断書にいう圧痛,疼痛との関連性は必ず
しも明らかでなく,自覚症状を中心とするものにとどまること,④は,外見
上の変形等をいうもので,必ずしもそれ自体で①とは別個の機能障害を導く
ものであるかどうかは明らかでないことなどが指摘でき,被告らが指摘する
とおり,労働者災害補償保険法施行規則別表第1障害等級表における等級に
該当するものであるかどうか疑問の余地はあるが,少なくとも上記後遺障害
診断がなされていることについては,慰謝料の算定の上で考慮する必要があ
る。
他方で,本件事故はスポーツ競技中の事故であり,負傷等の危険は一定程
度原告も引き受けた上で試合に出場しているといえることや,ボールに対し
て無理に挑んだという非難は否めないものの,被告Aが故意に原告を負傷さ
せたとまでは認められないことなども考慮に入れるべきである。
以上の諸事情を総合考慮すると,慰謝料の額としては,170万円が相当
である。
⑶休業損害等について
原告は,入通院期間中の平成24年6月9日から同年9月6日までは病気
休暇,同月7日から平成25年1月28日までは病気休職により,勤務先で
あるKを休業したことから,平成24年9月から平成25年6月分までの給
与及び賞与合計64万4220円が減額支給された。(甲9,甲10)
少なくとも上記期間中は,本件事故による入通院により休業することもや
むを得ないものであったといえることから,上記給与等64万4200円の
減額分については本件と相当因果関係を有する損害といえる。
原告は,これらに加えて,賞与や残業手当の額も含めれば休業中の得べか
りし給与等は少なくとも100万円を下らないなどと主張するが,上記減額
分に賞与の減額分も含まれていることは証拠上明らかであるし,時間外労働
は具体的な勤務状況に応じてその要否が定まるものであるから,これを当然
に得られたはずの利益であるということはできない。
なお,原告の主張には,後遺障害に伴う逸失利益についても上記100万
円に含めて主張するものと理解される部分もあるが,上記⑵の後遺障害の診
断のみから当然に労働能力の喪失を導くことはできず,この点は,上記慰謝
料額において考慮する限度にとどめた。
⑷訴訟準備費用について
原告は,本件訴訟提起に先立ち,文書料として,各病院に対して5792
円を支払ったことが認められ(甲11の1から甲13まで),これは損害賠
償請求訴訟を提起するために通常要すべき費用として,相当因果関係を有す
る損害といえる。
弁護士会照会制度の利用に要した費用は,⑹の弁護士費用に含ませて考え
るのが相当であり,ここでは別途損害に含めない。
⑸損益相殺について
原告は,本件事故により,L組合を通じて加入していた家族傷害保険の保
険金として44万2800円を受け取っており(甲20),これは本件事故
による損害をてん補するものであるから,損害額から控除すべきである。
⑹弁護士費用について
本件について相当因果関係を有する弁護士費用としては,上記⑴ないし⑸
を差し引き計算した225万4761円の約1割の22万円が相当である。
4過失相殺の当否(争点4)
被告らは,被告Aが先にボールを蹴り出した後に,原告の左足が被告Aの左
足の裏に入り込んでいることから,本件事故は原告に起因するところが大きい
などとして,過失相殺が相当であると主張する。
しかしながら,被告の過失について言及した上記1のとおり,原告は,先に
ボールをトラップし,ボールを蹴り出すための動作を開始していた状況にあり,
本件事故直前に原告が左足を振り上げる動作と,被告Aが左足を伸ばす動作と
がほぼ同時に開始されていることからすると,原告の方が被告Aの動きを見て
ボールへの接触を控えるべきであったなどという状況にはない。そうすると,
原告が不注意にも自身の左足を出したがために本件事故が起きたなどという
ことはできず,過失相殺を講じることが相当とはいえない。
5被告Bの責任(争点5)
原告は,被告Bが指導監督義務を怠ったと主張し,これにより被告Bに不法
行為が成立すると主張する。
しかしながら,Eは社会人サッカーチームであり,代表であるがゆえに,当
然にチーム内の個々の選手の試合中のプレーに関して一般的に指導,監督義務
があるといえるものではない。
また,被告Aの本件行為について被告Bが指示ないし命令をしたとか,日ご
ろ被告Aが本件行為のようなプレーを繰り返しており,本件も予測できたにも
関わらず漫然と指導,監督を怠ったなど,本件行為に即した具体的な注意義務
違反の主張立証がされているともいえない。
したがって,原告の主張を採用することはできない。
6その他の争点
原告は,被告らが,正当な理由なく被告Aの住所を原告に対して回答し
なかった行為も不法行為に当たると主張する。
証拠(甲7,甲17から甲19まで)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,
原告代理人を通じて弁護士法23条の2に基づきMサッカー連盟に対して照
会をしたところ,平成26年9月11日,同連盟は被告Aの住所は不明との回
答をしたこと,そのため,原告代理人が今度は被告Bに対して被告Aの住所を
同条に基づき照会したところ,被告Bは,平成26年11月18日,プライバ
シー保護を理由に回答できない旨応答し,原告代理人からの電話での問い合わ
せに対してもこれを回答しなかったこと,そして,被告Bは,原告代理人が被
告Bの勤務するNに対して同条に基づく照会をしたことを契機に,平成27年
2月16日に至ってこれを開示したことが認められる。
以上によれば,被告Aが自身の住所につき回答を拒否していたことを認める
に足りる証拠はない。
また,被告Bについても,最終的には被告Aの住所を回答するに至っている。
当初はプライバシー情報でもあり,回答の是非について判断がつきかねる状
況にあったものの,その後勤務先の助言もあり,回答して差し支えないものと
理解できたものとも考えられるところであって,このような経過に照らせば,
被告Bが当初回答しなかった行為をもって,違法な回答拒否行為ということは
できない。
したがって,被告らが被告Aの住所を開示しなかったことをもって不法行為
とする原告の主張を採用することはできない。
7結論
よって,原告の請求は,被告Aに対する請求のうち,247万4761円及
びこれに対する平成27年5月29日から支払済みまで年5分の割合による
遅延損害金を請求する限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理
由がないから棄却することとし,被告Bに対する請求は理由がないから棄却す
ることとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第48部
裁判官池田幸司

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我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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