弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成15年(ワ)第4287号 損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日 平成16年4月16日
判     決
原      告   ユミックス株式会社
訴訟代理人弁護士   深 井   潔
補佐人弁理士     辻 本 一 義
同          窪 田 雅 也
被      告   株式会社富士テクニカ
訴訟代理人弁護士   石 川 幸 吉
主     文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 被告は原告に対し、金6000万円及びこれに対する平成15年5月13日
(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、プレス用金型に関する特許発明の特許権者である原告が、被告の製
造販売するプレス成形装置は当該特許発明の技術的範囲に属するとして、被告に対
し、不当利得及び損害賠償を請求している事案である。
1 争いのない事実等
(1) 本件特許権
 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、特許請求の範囲記載の
発明を「本件発明」という。その特許出願に係る願書に添付した明細書を「本件明
細書」という。)を、ダイハツ工業株式会社と共有している。
ア 特許番号    第1466541号
イ 出願日     昭和58年 4月21日
ウ 出願公告日   昭和63年 3月11日
エ 登録日     昭和63年11月10日
オ 発明の名称   プレス用金型
カ 特許請求の範囲 別紙特許公報(以下「本件公報」という。甲第1号
証)該当欄記載のとおり
(2) 本件発明は次の構成要件に分説することができる。
A 上部に素材を保持するための保持部を有し、且つ内方に当該保持部と連
なる円弧面からなるカム溝を有する下型と、
B 下型に設けたカム溝に回動自在に挿入された、一端に寄曲げ部を有する
回転カムと、
C 下型に設けた保持部の上方に昇降自在に配置されたパッドと、
D 回転カムの上方に昇降自在に且つ横方向にスライド自在に配置された、
先端に寄曲げ刃を有する吊りカムとからなり、
E 吊りカムの下降に共なつて回転カムが素材を挟持する方向に回動し、且
つ吊りカムの回転カムへの接触後、吊りカムが回転カムの寄曲げ部に向つてスライ
ドするようにしたことを特徴とする
F プレス用金型
(3) 被告は、プレス用金型(ベンド成形装置)を製造販売している。
2 争点
(1) 被告は別紙イ号物件目録記載の装置(以下「イ号物件」という。)を製造
販売しているか。
(2) イ号物件は、本件発明の構成要件を充足するか。
(3) イ号物件は、本件発明と均等なものとして、その技術的範囲に属するか。
(4) 被告はロ号物件を製造販売しているか。
(5) 本件特許は無効理由があることが明らかか。
(6) 本件訴訟の提起及び本件特許権の行使は権利濫用か。
(7) 不当利得及び損害の額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告はイ号物件を製造販売しているか)について
【原告の主張】
 被告は、別紙イ号物件目録記載のプレス用金型(イ号物件)を製造販売して
いる。被告はイ号物件の製造販売を否認しているが、イ号物件について特許権を有
していること(甲第5号証)、訴訟前の交渉の過程でも、当該特許権を利用した金
型を数多く製作していることを自認していること、被告が製造していると主張する
別紙イ号製品目録記載の「シーソーカムベンド成形装置」(以下「イ号製品」とい
う。)の構造は技術的に成立しておらず、かつ、そのような構造を有する金型は被
告が特許権を有する特許の明細書中に一切開示されていないこと、被告は原告が設
計図面等の提出を求めたのに対して何ら応答しなかったこと、イ号製品の目録には
整合性がなく、その記載どおりだとすれば種々の構造上の欠陥があることからする
と、被告はイ号製品について金型設計図面を作図しておらず、実際に製造したこと
もないというべきである。以上からすれば、被告がイ号物件を製造販売している蓋
然性は高い。
 なお、被告は、イ号物件には蓋部材Cが存在しないと主張するが、円孔を穿
孔した軸受け23の上部分が蓋部材である。
【被告の主張】
 被告が原告主張の別紙イ号物件目録記載のプレス用金型(イ号物件)を製造
販売している事実は否認する。被告が製造販売しているプレス用金型「シーソーカ
ムベンド成形装置」(イ号製品)は、別紙イ号製品目録記載のとおりである。
2 争点(2)(イ号物件は、本件発明の構成要件を充足するか)について
(1) 構成要件A充足性
【原告の主張】
ア イ号物件は次のような構成を有する。
 下型2には、下側支持型枠21と軸受け23とが設けられている。下側
支持型枠21は下型2の上部に固定されており、上側支持型枠11とともにワーク
Aを挟持するものである。軸受け23は下型2に固定されており、リンクカム3の
両側端に設けられた円柱状の支軸31を挿入するための円弧面を有する挿入孔22
が穿孔されている。この軸受け23に穿孔された挿入孔22に、円柱状の支軸31
が回動自在に挿入されている。
イ イ号物件の下型支持型枠21は、本件発明の保持部に相当する。
 また、イ号物件の軸受け23に穿孔された挿入孔22は、次のとおり、
本件発明の「当該保持部と連なる円弧面からなるカム溝」に相当する。
 すなわち、イ号物件の下側支持型枠21は、下型2の上部に設けられて
おり、挿入孔22は下型2の内方に設けられた軸受け23に穿孔されていることか
ら、挿入孔22と下型支持型枠21とが連なっていることは明らかである。そし
て、軸受け23に穿孔された挿入孔22は、孔であるから円弧面からなる。
 よって、イ号物件は構成要件Aを充足する。
ウ 被告は、軸受け23(イ号製品の支軸受け23)と下側支持型枠21
(イ号製品の下側支持型枠21)とは別体であり、「保持部と連なる円弧面からな
るカム溝」なる構造はないと主張する。しかし、下側支持型枠21が下型上部に、
軸受け23が下型内方に設けられており、両者は一体的に形成されている。そし
て、挿入孔22は下型2の内方に設けられた軸受け23に設けられていることか
ら、挿入孔22と下側支持型枠21が連なっていることは明らかである。
 また、被告は、イ号製品の挿入孔22は円孔であり円弧面からなってい
ないというが、円孔は円弧面から構成されている。
【被告の主張】
 イ号製品の下型2には、本件発明の保持部に相当する、下側支持型枠21
は存在するが、下側支持型枠と連なる円弧面からなるカム溝に相当する構造は存在
しない。
 イ号製品の支軸受け23は本件発明の保持部に対応する下型支持型枠21
とは別体に構成されているものであり、本件発明の回転カムに相当するリンクカム
3を挿入するものでもない。
 イ号製品における挿入孔22は、単なる円孔であり円弧面からなっている
わけではなく、これにリンクカム3を挿入することはできない。
 よって、イ号製品は構成要件Aを充足しない。
(2) 構成要件B充足性
【原告の主張】
ア イ号物件は次のような構成を有する。
 リンクカム3の先端33は、上側支持型枠11及び下側支持型枠21と
共同してワークAを固定し、かつ成形雄型51と共同してワークAの成形を行うも
のである。下型2に固定された軸受け23には、リンクカム3の両側端に設けられ
た円柱状の支軸31を挿入するための円弧面を有する挿入孔22が穿孔されてい
る。この下型2に固定された軸受け23の挿入孔22に円柱状の支軸31が回動自
在に挿入されている。
イ イ号物件の下型2の両側にはカム部材であるリンクカム3を軸支する軸
受け23が設けられており、軸受け23に穿孔された挿入孔22にはリンクカム3
の両側端に設けた支軸31が回動自在に挿入されている。これは本件発明の「下型
に設けたカム溝」に「回転カム」が「回動自在に挿入され」ていることに相当す
る。
 そして、イ号物件のリンクカム3は、成形雄型51と共同して成形を行
うリンクカムの先端33を有している。これは、本件発明の「回転カム」が「一端
に寄曲げ部を有する」ものであることに相当する。
 したがって、イ号物件は、構成要件Bを充足する。
ウ(ア) 被告は、本件発明の回転カムの全体形状が円筒形状であって、保持
部は円筒形状の回転カムを回動自在に挿入するカム溝の切欠部の端縁に形成される
ものであると主張する。しかしながら、かかる被告の主張は、本件発明の技術的範
囲を実施例に示された形状に限定的に解釈するものであって失当であるし、そのよ
うに限定的に解釈されるべき根拠もない。
(イ) 被告は、本件発明の構成が、回転カムの外周面全体がカム溝の内周
面全体に摺接して回動するとか、回転カムそのものが回動軸になるといった特定を
して、イ号製品の優位性を説明する。しかしながら、被告が主張するような限定は
本件発明の特許請求の範囲に記載されていないし、本件発明において、回転カムの
外周面全体がカム溝の内周面全体に摺接して回動することなどは構成要件ではな
い。したがって、被告の主張は失当である。
(ウ) 被告は、イ号製品のリンクカムの支軸受け23(イ号物件の軸受け
23に相当)はリンクカム3を挿入するものではないと主張するが、支軸受け23
(軸受け23)に穿孔された孔にリンクカムの支軸31が挿入され、リンクカムの
支軸31がリンクカム3の一部を構成する以上、支軸受け23(軸受け23)はリ
ンクカム3を挿入するものである。
(エ) 被告は、リンクカムの支軸31の技術的意義について、「リンクカ
ム3とこれを軸受けに係止するためのリンクカムの支軸31」というが、係止する
だけならリンクカムの支軸31を円柱状にする必要はない。円柱状のリンクカムの
支軸31はリンクカム3を係止するためのものではなく、リンクカムを回動するた
めのものである。
【被告の主張】
 イ号製品は、本件発明のカム溝や回転カムに相当する構造を有しない。
 イ号製品は、リンクカム3の両側端に設けた支軸31を支軸受け23に軸
支しているが、リンクカムの支軸31が別体に構成された支軸受け23に側方から
打ち込まれているものである。円筒形状の回転カム自体を回動自在に挿入するのと
支軸31をもって支軸受け23に軸支するのとでは構成的に全く異なるのはもちろ
ん、作用効果としても全く異なる。すなわち、本件発明における回転カムは下型に
設けたカム溝に回動自在に挿入され回転カムの外周面全体がカム溝の内周面全体に
摺接して回動するので、回動摩擦によるエネルギー消耗が極めて大きく、また、回
動カムそのものが回動軸となるため軸径が極端に大きくなり、軸芯が固定されず、
回動エネルギーが分散されて回動作動の精度が低下し、摩擦、カジリ現象を起こす
問題を含んでいる。イ号製品は、リンクカムの支軸31を支点としてシーソー作動
するリンクカム3によって構成されており、本件発明の問題点を解消している。
 また、本件発明における回転カムは、溝状の切欠部を有する円筒形状で、
その溝状の切欠部の一端に寄曲げ部が形成されているものであるが、イ号物件は、
円筒形状でもなく、切欠部の端縁に形成された寄曲げ部に相当するものもない。
 よって、イ号製品は構成要件Bを充足しない。
(3) 構成要件D充足性
【原告の主張】
ア イ号物件は、次のような構成を有する。
 上型1は下型2の上方に昇降自在に配置され、スライダー衝合体5は、
下降時にリンクカム3のスライド板36上をリンクカムの先端33に向かってスラ
イドすべく、リンクカム3の上方に位置してかつスライド台52を介して上型1に
取り付けられている。スライダー衝合体5の先端には成形雄型51が固定されてお
り、成形雄型51はスライダー衝合体5がリンクカムの先端33に向かってスライ
ドした際にワークAを押圧するものである。
イ 上記(2)【原告の主張】イで述べたとおり、イ号物件のリンクカム3は本
件発明の「回転カム」に相当する。そして、リンクカム3の上方には、本件発明の
吊りカムに相当するスライダー衝合体5が昇降自在にかつ横方向にスライド自在に
配置されており、スライダー衝合体5の先端には、本件発明における寄曲げ刃に相
当する成形雄型51が設けられている。
 よって、イ号物件は構成要件Dを充足する。
【被告の主張】
 イ号製品に本件発明の「回転カム」に相当するものが存在しないことは、
上記(2)【被告の主張】で述べたとおりである。
 原告は、リンクカムの支軸31が本件発明の回転カムに相当することを前
提として主張するが、リンクカムの支軸31にはスライダー衝合体5の寄曲げ部と
接合して素材の成形を行う寄曲げ刃に相当する構成は存在しない。
 よって、イ号製品は、構成要件Dを充足しない。
(4) 構成要件E充足性
【原告の主張】
ア イ号物件は、次のような構成を有する。
 ワークAを下型支持型枠21上に載置した後上型1が下降して、上側支
持型枠11がワークAの上面を圧接する。上側支持型枠11がワークAを押圧した
後も上型1とスライダー衝合体5は下降し、スライダー衝合体5の下面がリンクカ
ム3のスライド板36に当接し下方に押圧するため、リンクカム3は支軸31を中
心に回動する。リンクカム3の回動により、リンクカムの先端33と下側支持型枠
21とが連続したピラー保持部を形成し、上側支持型枠11、下側支持型枠21及
びリンクカムの先端33の3者によりワークAは挟持される。さらに、上型1が下
降すると、スライダー衝合体5はリンクカム3のスライド板36上をリンクカムの
先端33の方向へスライドする。
イ 上記(2)【原告の主張】イで述べたとおり、イ号物件のリンクカム3が本
件発明の「回転カム」に相当する。そして、スライダー衝合体5の下降に伴ってリ
ンクカム3がワークAを挟持する方向に回動している。また、リンクカム3への接
触後、スライダー衝合体5がリンクカム3の先端33に向かってスライドしてい
る。
 よって、イ号物件は構成要件Eを充足する。
ウ 被告は、本件発明において、スライド板の衝合面とのカム作動によって
回転カムが回動するなどと特定し、これを前提としてイ号製品の優位性を説明して
いる。
 しかし、被告の主張するような、スライド板との衝合面とのカム作動に
より回動するとか、回転カムそのものが回動軸になる、といった限定的な要件は、
特許請求の範囲に記載されていない。
【被告の主張】
 イ号製品は、本件発明の回転カムに相当する構造を有しないので、構成要
件Eを充足しない。
 また、本件発明は、上型の下降により吊りカムが下降し、回転カムに取り
付けられたスライド板の衝合面とのカム作動によって回転カムが回動して寄曲げ部
を上昇させ保持部と衝合する構成となっており、上型の下降エネルギーが軸径が極
端に大きい回転カムの回動エネルギーに消費され寄曲げ刃の加工エネルギーが減少
する結果となっている。これに対して、イ号製品は、支点によるシーソー作動機、
すなわち、上型1の下降によりカムドライバー13が下降し衝合面のカム作動によ
ってリンク駆動カム4が前進し、先端に固定されたドエリングプレート42とリン
クカム3の下端部に固定された下端ドエリングプレート32が衝合し、リンクカム
3の下端を持上げリンクカムの先端33を上昇させて下側支持型枠21の先端と衝
合する構成となっており、その結果、加工エネルギーを強化して精度の高いベンド
加工が行えるようになっている。
3 争点(3)(イ号物件は、本件発明と均等なものとして、その技術的範囲に属す
るか)について
(1) 構成要件A
【原告の主張】
ア イ号物件が蓋部材Cを被せた構成を採用したことに伴い、円孔からなる
カム溝であって円弧面からなるカム溝ではなく、円孔は下側支持型枠21と連なっ
ていないなどと解釈すれば、イ号物件は、構成要件Aの「当該保持部と連なる円弧
面からなるカム溝」の部分を、文言上充足しないが、次のとおり、最高裁平成10
年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁の要求する均等成立のため
の5つの要件をすべて満たしているから、イ号物件は本件発明の構成と均等なもの
として本件発明の技術的範囲に属する。
イ 均等の要件①ー非本質的部分
 本件公報の記載(1欄16、17行、3欄19ないし40行、42行な
いし4欄2行、6欄19行ないし34行)によれば、本件発明は、プレス用金型に
おいて、従来のものに比べて素材を保持する面積を増大させて素材を安定した状態
で保持するとともに、成形後の素材を移動することなく容易に取り出すことができ
るという作用効果を達成するための手段として、下型上部に設けた保持部と、保持
部の上方に昇降自在に配置したパッドと、下型内方のカム溝に回動自在に挿入した
一端に寄曲げ部を有する回転カムと、回転カムの上方に昇降自在で横方向にスライ
ド自在に配置した吊りカムとを有機的に結合した構成を採用し、具体的には、下型
内に回動自在に挿入した回転カムは素材を保持するとともに素材の成形を行う寄曲
げ部を備えており、この回転カムが素材を挟持する方向へ回動すると、回転カムの
寄曲げ部が保持部と接合することにより素材保持面を形成して素材を保持し、この
素材を保持する回転カムの寄曲げ部と保持部がパッドとの間で安定的に素材を挟持
した状態となる一方、この状態で回転カムの上方にスライド自在に配置した吊りカ
ムが回転カムの寄曲げ部に向かってスライド移動すると、回転カムの寄曲げ部が吊
りカムの寄曲げ刃と接合することにより素材を成形し、回転カムの寄曲げ部に素材
が食い込んだ状態となり、素材の成形後、この状態で回転カムが素材から離れる方
向へ回動すると、素材が食い込んだ回転カムの寄曲げ部が素材から離脱することに
より、素材を移動することなく上方に持ち上げるだけで下型から取り出すことがで
きる状態となる構成を採用したことに特徴があるものであるから、これが本件発明
の本質的部分である。
 イ号物件は、下型2上部に設けた下側支持型枠21と、下側支持型枠2
1の上方に昇降自在に配置した上側支持型枠11と、下型2内方の挿入孔22に回
動自在に挿入した一端に先端33を有するリンクカム3と、リンクカム3の上方に
昇降自在で横方向にスライド自在に配置したスライダー衝合体5とを有機的に結合
した構成を採用しており、具体的には、下型2内に回動自在に挿入したリンクカム
3はワークAを保持するとともにワークAの成形を行う先端33を備えており、こ
のリンクカム3がワークAを挟持する方向へ回動すると、リンクカムの先端33が
下側支持型枠21と接合することにより素材保持面を形成してワークAを保持し、
このワークAを保持するリンクカムの先端33と下側支持型枠21が上側支持型枠
11との間で安定的にワークAを挟持した状態となる一方、この状態でリンクカム
3の上方にスライド自在に配置したスライダー衝合体5がリンクカムの先端33に
向かってスライド移動すると、リンクカムの先端33がスライダー衝合体5の成形
雄型51と接合することによりワークAを成形し、リンクカムの先端33にワーク
Aが食い込んだ状態となり、成形後、この状態でリンクカム3がワークAから離れ
る方向へ回動すると、ワークAが食い込んだリンクカムの先端33がワークAから
離脱することにより、ワークAを移動することなく上方に持ち上げるだけで下型2
から取り出すことができる状態となる構成を有しているのであるから、上記本件発
明の本質的部分を備えており、他方、本件発明とイ号物件との間で異なる構成部
分、すなわち構成要件Aが「当該保持部と連なる円弧面からなるカム溝」とするの
に対し、イ号物件が蓋部材Cを被せたことに伴う、「当該保持部と連なる円弧面か
らなるカム溝に蓋部材Cを被せてなる円孔のカム溝」とした差異部分は、これを他
の構成に置き換えても全体として本件発明の技術的思想と別個のものと評価される
ものではなく、本件発明の本質的部分には当たらない。
ウ 均等の要件②ー置換可能性
 本件発明は、プレス用金型において、従来のものに比して素材を安定し
た状態に保持でき、パッドの押え面積も大きく、プレス加工時の加工精度を向上さ
せ、プレス加工後の素材を移動することなく上方に持ち上げるだけで下型から取り
出せるという作用効果を奏するプレス用金型を提供することを目的とするものであ
る。
 イ号物件においても、ワークAを安定した状態に保持でき、上側支持型
枠11の押え面積も大きく、プレス加工時の加工精度を向上させ、プレス加工後の
ワークAを移動することなく上方に持ち上げるだけで下型2から取り出せるという
作用効果を奏するものであり、差異部分をイ号物件におけるものと置き換えても、
すなわち蓋部材Cを被せて円孔のカム溝としても、本件発明の目的を達成すること
ができ、これと同一の作用効果を奏するのであるから、イ号物件は均等の要件②を
充足する。
エ 均等の要件③ー置換容易性
 イ号物件の円孔のカム溝とした構成は、円弧面からなるカム溝に蓋部材
Cを被せたにすぎず、何ら工夫を要するものではなく、微細な設計変更にすぎな
い。よって、イ号物件は均等の要件③を充足する。
オ 均等の要件④ーイ号物件の非容易推考性
 本件課題を解決するための本件発明の構成は、本件発明にかかる出願日
前に存在しなかったものであるから、これと同じ構成のイ号物件は、公知技術と同
一又は当業者が容易に推考できたものではない。よって、イ号物件は均等の要件④
を充足する。
カ 均等の要件⑤ー意識的除外
 本件発明の出願経過において、イ号物件の構成を意識的に除外したよう
な事情はない。よって、イ号物件は均等の要件⑤を充足する。
【被告の主張】
 イ号製品には、蓋部材Cを被せてなる円孔など存在しないし、イ号製品の
挿入孔は下側支持型枠21と連なっておらず、別体に構成された軸受けに穿設され
ているものである。しかも「上部に素材を保持するための保持部を有し、且つ内方
に当該保持部と連なる円弧面からなる」の要件を欠如するもので、「カム溝」では
なく「軸支孔」であることは明らかである。
 本件発明におけるカム溝は、「上部に素材を保持するための保持部を有
し、且つ内方に当該保持部と連なる円弧面からな」り、円筒形状の回転カムを回動
自在に挿入するものであるが、イ号製品における「軸支孔」とは、作用効果が異な
るのはもちろん、構成としても異なり、技術的意義を全く異にする。したがって、
本件において均等を論ずる余地はない。
(2) 構成要件E
【原告の主張】
ア 構成要件Eの「吊りカムの下降に共なつて回転カムが素材を挟持する方
向に回動し」を、被告が主張するように「下降する吊りカムが回転カムを押し下げ
ることで回転カムが素材を挟持する方向へ回動し」と限定的に解釈した場合には、
イ号物件は構成要件Eを文言上充足しないが、均等の要件を充足する。
(ア) 均等の要件①
 本件発明の本質的部分は、上記(1)【原告の主張】イに述べたとおりで
あり、イ号物件は本件発明の本質的部分を有しているといえる。他方、本件発明と
イ号物件との間で異なる構成部分、すなわち、構成要件Eが、解釈上「下降する吊
りカムが回転カムを押し下げることで回転カムが素材を挟持する方向へ回動し」で
あるのに対し、イ号物件が、被告主張の別紙イ号製品目録の添付図6、7のよう
に、リンクカム3とスライダー衝合体5との配置からして、スライダー衝合体5が
下降すればリンクカム3を押し下げて回動させるところを、下降したスライダー衝
合体5が接触するであろうリンクカム3の所定部位に空所を設け、その空所にスラ
イダー衝合体5と接触し、スライダー衝合体5をリンクカムの先端33に向けてス
ライドさせる衝合体案内基台54を配置したことは、本件発明の技術的思想と別個
のものと評価されるものではなく、本件発明の本質的部分には当たらない。よっ
て、イ号物件は均等の要件①を充足する。
(イ) 均等の要件②
 本件発明の作用効果は上記(1)【原告の主張】ウに述べたとおりであ
り、差異部分をイ号物件におけるものと置き換えても、すなわち、リンク駆動カム
4との接触でリンクカム3が回動しても、又はリンクカムの尾端支持昇降軸6の昇
降によってリンクカム3が回動しても、本件発明の目的を達成することはでき、こ
れと同一の作用効果を奏するのであるから、イ号物件は均等の要件②を充足する。
(ウ) 均等の要件③
 スライダー衝合体5が下降すれば接触するであろう部位に空所を設け
たリンクカム3として、その空所にスライダー衝合体5がスライドする衝合体案内
基台54を配置した構成は、本件発明の代替手段として何ら工夫を要するものでは
なく、微細な設計変更にすぎない。
 また、リンク駆動カム4との接触によるリンクカム3の回動は通常の
カム機構によるものであるし、カム作動手段として尾端支持昇降軸(エアシリンダ
ー)はスプリングと並んで周知の手段であるから、何ら工夫を要するものではな
く、微細な設計変更であって、当業者にとって格別困難なものということはできな
い。
 よって、イ号物件は均等の要件③を充足する。
(エ) 均等の要件④
 上記(1)【原告の主張】オと同じ。
(オ) 均等の要件⑤
 上記(1)【原告の主張】カと同じ。
イ 仮に、被告主張のイ号製品の構成を前提として、構成要件Eの「吊りカ
ムの回転カムへの接触後、吊りカムが回転カムの寄曲げ部に向つてスライドするよ
うにした」を「吊りカムの回転カムへの接触前は吊りカムがスライドせず、吊りカ
ムの回転カムへの接触後に、吊りカムが回転カムの寄曲げ部に向かってスライドす
るようにした」と限定的な解釈を行うとすれば、イ号物件は構成要件Eを充足しな
いこととなるが、均等の要件は充足する。
(ア) 均等の要件①
 イ号物件は、本件発明の本質的部分を備えており、他方、本件発明と
イ号物件との間で異なる構成部分、すなわち、構成要件Eが解釈上「吊りカムの回
転カムへの接触前は吊りカムがスライドせず、吊りカムの回転カムへの接触後に、
吊りカムが回転カムの寄曲げ部に向かってスライドするようにした」と規定してい
るのに対し、イ号物件が、下降したスライダー衝合体5が接触するであろうリンク
カム3の所定部位に空所を設け、その空所にスライダー衝合体5が接触し、スライ
ダー衝合体5をリンクカムの先端33に向けてスライドさせる衝合体案内基台54
を配置したことに伴い、「吊りカムの回転カムへの接触前も吊りカムがスライド
し、吊りカムの回転カムへの接触後も、吊りカムが回転カムの寄曲げ部に向かって
スライドするようにした」となる差異部分は、これを他の構成に置き換えても全体
として本件発明の技術的思想と別個のものと評価されるものではないから、本件発
明の本質的部分には当たらない。よって、イ号物件は均等の要件①を充足する。
(イ) 均等の要件②
 イ号物件においても、本件発明の作用効果を奏するものであり、差異
部分をイ号物件におけるものと置き換えても、すなわち「吊りカムの回転カムへの
接触前も吊りカムがスライドし、吊りカムの回転カムへの接触後も、吊りカムが回
転カムの寄曲げ部に向かってスライドするようにした」としても、本件発明の目的
を達成することができ、これと同一の作用効果を奏するのであるから、イ号物件
は、均等の要件②を充足する。
(ウ) 均等の要件③
 本件発明の吊りカムが回転カムに接触した後にスライドするとした構
成に対して、下降したスライダー衝合体5が接触するであろうリンクカム3の所定
部位に空所を設け、その空所にスライダー衝合体5をリンクカムの先端33に向け
てスライドさせる衝合体案内基台54を配置することで「吊りカムの回転カムへの
接触前も吊りカムがスライドし、吊りカムの回転カムへの接触後も、吊りカムが回
転カムの寄曲げ部に向かってスライドするようにした」構成は、代替手段として何
ら工夫を要するものではなく、微細な設計変更にすぎない。よって、イ号物件は均
等の要件③を充足する。
(エ) 均等の要件④及び⑤
 上記ア(エ)及び(オ)に同じ。
【被告の主張】
 原告は、プレス用金型において従来のものに比べて素材を保持する面積を
増大させて素材を安定した状態で保持するとともに、成形後の素材を移動させるこ
となく容易に取り出すことができるという作用効果を達成するための手段として、
下型上部に設けた保持部と、保持部の上方に昇降自在に配置したパッドと、下型内
方のカム溝に回動自在に挿入した一端に寄曲げ部を有する回転カムと、回転カムの
上方に昇降自在で横方向にスライド自在に配置した吊りカムとを有機的に結合した
構成を採用したと主張している。
 このように、ある目的達成のための手段としてある構成を用いたものであ
れば、手段が異なれば発明の本質が異なってくるのは明らかである。
 一つの目的に対して、それを達成する手段が複数存在するのは当然であ
り、その達成手段が発明を構成するものである。抽象的目的は発明ではないので、
達成手段が異なれば別の発明となり、置換可能性を論ずる余地はない。
 また、下降する吊りカムで回転カムを押し下げるのと、リンク駆動カム4
を前進させ、リンク駆動カムのアーム43とドエリングプレート42によってリン
クカム3を回動させるのでは、素材支持に対する強度も安定度も異なり、作用効果
的にも異なってくるのは明らかである。
 また、原告は、構成要件Eについて「吊りカムの回転カムへの接触前は吊
りカムがスライドせず、吊りカムの回転カムへの接触後に、吊りカムが回転カムの
寄曲げ部に向かってスライドすること」と「スライダー衝合体5がリンクカム3に
接触する前にスライドすること」は置換可能性があるとするが、イ号製品において
は、スライダー衝合体5の作動とリンクカム3の作動とが切り離され、安定した素
材支持が行われた後にスライダー衝合体5の作動が行われるもので、素材支持に対
する強度も安定度も異なり、作用効果的にも異なっている。
 原告の主張は、「カム溝」と「軸支孔」を同一であるとする技術的常識に
反する主張を前提とするもので、全くの暴論であり、理由のないものである。
4 争点(4)(被告はロ号物件を製造販売しているか)について
【原告の主張】
 平成12年末ころより、自動車メーカーの社員や金型メーカーの技術者等か
ら、被告が本件発明の実施品やその類似品(いずれもロータリーカム)を製造販売
しているとの情報が原告に寄せられた。また、平成12年3月に、トヨタ自動車株
式会社の技術者が被告の伊豆長岡工場を見学した際に、別紙ロ号物件目録記載の金
型(以下「ロ号物件」という。)を現認している。
 原告が被告に対してその製造する金型を確認したところ、被告から回動カム
の特許権を有しており、これを利用して製品を製造しているとの回答があった。
 しかし、被告の有する特許権の実施品は極めて実用性が低いものであり、被
告がかかる実施品のみを製造していることをにわかに信用することはできず、他方
で上記情報の信頼性は高いから、被告はロ号物件を製造販売しているということが
できる。
 ロ号物件の構成と本件発明とを対比すると、ロ号物件は本件発明の構成要件
AないしFをすべて充足する。
【被告の主張】
 被告は、ロ号物件を製造販売していない。
5 争点(5)(本件特許は無効理由があることが明らかか)について
【被告の主張】
 本件発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物の記
載に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条
2項に反し、同法123条1項2号により無効である。したがって、原告の請求は
権利の濫用である。
 頒布された刊行物の記載内容と本件発明の内容の関係は次のとおりである。
(1) 実開昭55-171418号公開実用新案公報(乙第4号証)には、構成
要件Aの「上部に素材を保持するための保持部」に相当する曲げダイ11aが、ま
た、構成要件Aの「内方に当該保持部と連なる円弧面からなるカム溝22」に相当
する回転ダイホルダ18が記載されている。
(2) 米国特許第4002049号明細書(乙第2号証)には、構成要件Bの下
型に設けられたカム溝に相当する「ホルダー42の底部に設けられ」た(「inthe
bottomoftheholder42」)「カム溝44」(thegroove44)の記載があり、
また、乙第2号証の第8図に図示されているところである。また、実公昭57-9
83号実用新案公報(乙第5号証)には、構成要件Bの「寄曲げ部」に相当する
「可動ダイ4の可動型部7と協働して前記被加工物Wを挟持する挟持面23および
前記カムパッド17の上面に当接する当接面24が形成され」る旨の記載があり、
第1図及び第2図に明確に図示されている。
(3) 構成要件Cの「パッド」については、これに相当する実公昭57-983
号実用新案公報(乙第5号証)の「パッド22」、実開昭55-171418号公
開実用新案公報(乙第4号証)の「材料押え金4」がある。
(4) 米国特許第4002049号明細書(乙第2号証)には、構成要件D及び
Eの「回転カム」に相当する「cylinder10」が記載され、実公昭57-983号実
用新案公報(乙第5号証)の「カムドライバ26」は構成要件D及びEの「吊りカ
ム」と同一構成である。
(5) 実公昭57-983号実用新案公報(乙第5号証)には、構成要件Eの
「寄曲げ部」に相当する構成が記載されている。
【原告の主張】
 被告が本件発明が無効であることの根拠とする各刊行物(乙第2号証、第
4、第5号証)は、いずれもその根拠とはなり得ない。
(1) 構成要件Aについて
 乙第4号証には、曲げダイ11aと連なる円弧面からなるカム溝を有する
回転ダイホルダ18が記載されていることは認める。しかし、本件発明の「保持
部」とは、特許請求の範囲に記載されているとおり、「当該保持部と連なる円弧面
からなるカム溝」に「一端に寄曲げ部を有する回転カム」が「回動自在に挿入」さ
れて、「回転カムが素材を挟持する方向に回動」する構成によって、回転カムと共
同して素材を保持するものである。
 乙第4号証の曲げダイ11aは、本件発明の「保持部」のように回転カム
と共同して素材を保持するものではないから、本件発明の「保持部」に相当しな
い。
(2) 構成要件Bについて
 本件発明の「回転カム」は、「下型に設けたカム溝に回動自在に挿入され
た、一端に寄曲げ部を有する回転カム」であるところ、乙第2号証のcylinder10に
本件発明の「寄曲げ部」は存在しない。また、乙第5号証の可動ダイ4の一端に設
けられた可動型部7は、被加工物を単に載置する部分であって、寄曲げ成形を行う
部分ではない。
(3) 構成要件Cについて
 本件発明の「パッド」は、特許請求の範囲に記載されているとおり、「下
型に設けた保持部の上方に昇降自在に設置されたパッド」であり、「回転カムが素
材を挟持する方向へ回動」することで、回転カムと共に素材を挟持するものである
ところ、乙第5号証には、上記(2)記載のとおり、本件発明の「回転カム」に相当す
る構成が存在せず、乙第5号証のパッド22は、本件発明のように回転カムと共に
素材を挟持するものではない。
 また、被告は、乙第4号証の材料押え金4が本件発明の「パッド」に相当
すると主張するが、上記と同様に回転カムと共に素材を挟持するものではない。
(4) 構成要件Dについて
 被告は、乙第2号証のcylinder10が「回転カム」に相当し、乙第5号証
のカムドライバ26が「吊りカム」に相当すると主張している。しかし、これらは
別個の刊行物に基づくものであるから、技術的関連性を特定した、「回転カムの上
方に昇降自在に且つ横方向にスライド自在に配置された先端に寄曲げ刃を有する吊
りカム」との構成がいずれの刊行物にも記載されていないことは明らかである。
 また、本件発明の「回転カム」のみを個別的に見たとしても、上記のとお
り、乙第2号証のcylinder10は本件発明の「回転カム」に相当しない。
 そして、本件発明の「吊りカム」についていえば、乙第5号証のカムドラ
イバ26は、横方向にスライドせず、かつ先端に寄せ曲げ刃も有さない。よって、
乙第5号証のカムドライバ26は、本件発明の「吊りカム」に相当しない。
(5) 構成要件Eについて
 回転カムと吊りカムの技術的関連性を特定した構成がいずれの刊行物にも
記載されていないこと、回転カムと吊りカムを個別的に見ても、刊行物に記載され
ているといえないことは、前記(4)記載のとおりである。
6 争点(6)(本件訴訟の提起及び本件特許権の行使は権利濫用か)について
【被告の主張】
 原告は、前訴(大阪地方裁判所平成13年(ワ)第8906号特許権侵害差止
等請求事件)において、本件特許権とは別の特許番号第1491321号の特許権
(以下「原告出願特許」という。)に基づいてイ号物件が原告出願特許を侵害する
との主張を行ったが、乙第1号証の判決によりイ号物件が原告出願特許の技術的範
囲に属さないとの判断及び原告出願特許は本件特許の後願であり、特許法29条1
項違反により無効であるとの判断を受け、同判決は確定している。また、同一の理
由により原告出願特許を無効とする無効審決も確定している。
 原告の本件訴訟提起及び本件特許権の権利行使は、上記の確定判決及び確定
審決の争点効に抵触するもので、明らかに権利濫用である。
【原告の主張】
 被告の主張は争う。
7 争点(7)(不当利得及び損害の額)について
【原告の主張】
(1) 不当利得返還請求
ア 被告は主として工作機械、プレス金型機械の設計、製造及び販売を業と
するものであるが、平成7年9月頃から平成12年5月2日までの間に、イ号物件
を少なくとも5台以上、ロ号物件を少なくとも11台以上、単価各2500万円以
上で製造販売し、合計売上金額4億円を得ている。
イ 上記アの被告の行為は、原告の特許権を不当に実施するものであり、被
告は実施料相当額の利益を受け、原告は同額の損害を被った。
本件特許発明の実施品は「ロータリーカム」という商品名で、国内外の
多数の自動車メーカーに採用され、高い評価を得ていることからして、実施料率は
売上額の5%を下るものではない。
ウ 実施料相当額は総売上額4億円の5%である2000万円であるが、原
告は特許権の共有者としてこの2分の1である1000万円を不当利得として、民
法703条に基づきその返還を被告に請求する。
(2) 損害賠償請求
ア 被告は平成12年5月3日から平成15年4月20日までの間にイ号物件
を少なくとも3台以上、ロ号物件を少なくとも7台以上、単価各2500万円以上
で製造販売し、合計売上金額2億5000万円を得ている。
イ 被告の売上額に対する利益率は40%を下るものではなく、被告は上記ア
の特許権侵害行為により1億円の利益を得、原告は同額の損害を被った。
よって、原告は被告に対し、特許権の共有者として、被告が得た利益の2
分の1である5000万円を特許法102条2項、民法709条に基づき損害賠償
として請求する。
【被告の主張】
 否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告はイ号物件を製造販売しているか)について
 原告は、被告がイ号物件を製造販売等している旨主張し、これに対し、被告
は、原告の主張事実を否認し、被告が製造販売しているプレス用金型は、イ号製品
であると主張する。別紙イ号物件目録と別紙イ号製品目録とを対比すると、イ号物
件では、スライダー衝合体5が下降すると、リンクカム3のスライド板36に当接
し下方に押圧するため、リンクカム3は支軸31を中心に回動するのに対し、イ号
製品では、下型2に、スライダー衝合体を案内するウェアプレート52を付設した
衝合体案内基台54が固定されており、スライダー衝合体5が下降すると、衝合体
案内基台54のウェアプレート52と着合し、ウェアプレート52の案内によって
成形雌型Bに対して斜側方から下降するようになっていて、スライダー衝合体5が
リンクカム3を押圧して回動させるという作用が行われない点で両者は顕著に異な
っている。
 そして、被告が原告主張のイ号物件を製造販売している事実を認めるに足り
る的確な証拠はない。原告は、被告がイ号物件を製造販売した可能性がある裏付け
として、上記第3、1【原告の主張】記載のような事実を挙げる。しかし、これら
の事情は被告がイ号物件を製造販売したことの裏付けとするには不十分である。す
なわち、原告は、被告がイ号物件について特許権を有する旨主張するところ、なる
ほど、甲第5号証によれば、被告は、発明の名称を「ベンド成形方法と成形装置」
とする特許番号第2723791号の特許権(出願日:平成5年12月22日、登
録日:平成9年11月28日)を有することが認められ、その特許公報の実施例に
記載された成形装置は原告主張のイ号物件の態様に近いものであることがうかがわ
れるが、特許権者が特許出願の明細書に記載した態様の製品を実際に製造している
とは限らないから、被告が特許権を有することをもって、被告によるイ号物件の製
造販売の事実を直ちに推認できるわけではない。原告が提示するその余の事実も、
それ自体裏付けを欠くか、又は、原告の主張の裏付けとしては不十分なものといわ
ざるを得ない。
 したがって、被告がイ号物件の製造販売をしている事実を認めることはでき
ない。
2 争点(2)(イ号物件は、本件発明の構成要件を充足するか)について
 被告がイ号物件を製造販売しているということはできないが、仮に被告がイ
号物件を製造販売していたとしても、次に述べるとおり、イ号物件は本件発明の構
成要件を充足せず、技術的範囲に属さない。
(1) 構成要件A充足性について
ア 本件発明の構成要件Aは、「上部に素材を保持するための保持部を有
し、且つ内方に当該保持部と連なる円弧面からなるカム溝を有する下型と」という
ものである。
イ そこで、構成要件Aの意義につき、本件明細書の記載を検討する。本件
公報(甲第1号証)によれば、本件明細書には次の趣旨の記載があるものと認めら
れる。
(ア) 本件発明は、下型と上型とで素材となる板金をプレス成形するプレ
ス用金型に関するものである。成形の対象となる板材は、例えば、自動車のフロン
トボディーのアウター側に使用するピラーなどであるが、これらは複雑な断面形状
をしている。従来技術では、このように複雑な断面形状を有するピラーA(素材)
を成形加工するには、プレス成形を複数回に分けて行っており、プレス用金型とし
ては、下型ホルダー、その所定位置に取付固定した下型、下型ホルダー上に水平方
向にスライド自在に配置したスライド部材、スライド部材に固定された寄曲げ刃、
下型ホルダーの上方に昇降自在に配置した上型ホルダー、垂直方向に対しスライド
自在になるようにして上型ホルダーに支持されたパッド、上型ホルダーに固定され
たカムドライバー(固定カム)からなる構成のものがあった。従来例のプレス用金
型を用いてピラーAの成形を行った場合、成形後にピラーAを取り出そうとする
と、「ピラーAは下型2の側方に設けた凹部2aに食込んでいるため、ピラーAを
上方に持ち上げただけでは、ピラーAを下型2から取出せない」(本件公報3欄1
9行ないし21行)ので、下型の一部を切り欠いたものとし、「ピラーAのプレス
成形が終了すると、ピラーAを下型2上で図中右方向に移動させ、下型2の凹部2
aに食込んでいるピラーAの折り曲げ部を凹部2aから離脱させた後、ピラーAを
上方に持上げ、プレス機械から取出し」ていた(本件公報3欄23行ないし28
行)。しかし、このように「下型2の一部を切欠いてしまうと、下型2上にピラー
Aを載置する時、下型2とピラーAとの接触面積が減少するため、下型2とパッド
6によってピラーAを挟持する時、ピラーAを確実に固定できないといつた欠点が
あつた。このため、下型2及び寄曲げ刃4によるピラーAのプレス成形時、パッド
6の押え面が少ない為ピラーAが位置ズレを起こし、正確なプレス成形が行なえな
いといつた欠点があった。又このように下型2の一部を切欠くと、下型2に十分な
強度を持たすことができないといつた欠点もあつた。」(本件公報3欄29行ない
し40行)
(イ) 本件発明は、上記従来技術の欠点の解決手段として、「下型内に、
下型と共同してピラーを保持するための回転カムを挿入し、下型の逃しを不要とす
ることにより、下型とピラーとの接触面積を増大させ、ピラーを下型上に安定した
状態に載置すると共に、下型に十分な剛性を持たせた」ものである(本件公報3欄
42行ないし4欄2行)。
 その構成は、「プレス用金型を、上部に素材となるピラーAを保持す
るための保持部21を有し、且つ内方に当該保持部21と連なる円弧面からなるカ
ム溝22を有する下型20と、下型20に設けたカム溝22に回動自在に挿入され
た、一端に寄曲げ部25を有する回転カム23と、下型20に設けた保持部21の
上方に昇降自在に配置されたパッド31と、回転カム23の上方に昇降自在且つ横
方向にスライド自在に配置された、先端に寄曲げ刃35を有する吊りカム33とに
よつて構成し、吊りカム33の下降に共なつて回転カム23がピラーAを挟持する
方向に回動し、且つ吊りカム33の回転カム23への接触後、吊りカム33が回転
カム23の寄曲げ部25に向つてスライドするようにしたものである。」(本件公
報4欄4行ないし18行)
(ウ) 実施例として、次のような記載がある。
 下型中央部に、「当該保持部21と連なる円弧面を有するカム溝22
を設けてある。23は上記カム溝22に回動自在に挿入した回転カムであり、この
回転カム23は図示の如くその一部分を略L字状に切欠いてある。そしてその一端
には、後述する吊りカム33の下面と接触するスライド板24を取付けてあり、又
他端には後述する吊りカム33に固定した寄曲げ刃35と共同してピラーAを所定
形状にプレス成形するための寄曲げ部25を形成してある。」(本件公報4欄24
行ないし33行)
 保持部21にピラーAを載置する時点では、「回転カム23の寄曲げ
部25は下型20に設けたカム溝22の内方に後退している」(本件公報5欄13
行ないし15行)が、「上型ホルダー30を下降させると、先ず上型ホルダー30
に…吊下支持されているパッド31が下型20の保持部21上に載置されたピラー
Aの上面に圧接し、ピラーAを保持部21上に固定」し(本件公報5欄15行ない
し20行)、更に「上型ホルダー30が下降すると、パッド31と同時に吊りカム
33も下降するため、吊りカム33の下面が回転カム23のスライド板24と接触
し、スライド板24を下方に押圧するため、回転カム23はスプリング29の弾性
力に抗して図中矢印Ⅱ方向に回動する。そしてこの回動に共なつて回転カム23の
端部に設けた寄曲げ部25がカム溝22の開口端に向かつて移動し、回転カム23
の寄曲げ部25とパッド31とによってピラーAの折曲部近傍を挟持する。」(本
件公報5欄20行ないし29行)
 そして、「回転カム23が所定量回動した後、…上型ホルダー30が
更に下降すると、…吊りカム33は、スライド板24に接触した状態で下方に押圧
されるため、スライド板24に沿って図中矢印Ⅲ方向にスライドする。そして、吊
りカム33の先端に固定した寄曲げ刃35がピラーAを押圧し、ピラーAを所定形
状に折曲形成する(第7図参照)。」(本件公報5欄30行ないし41行)
 このようにして、ピラーAの折曲形成が終了して、「上型ホルダー3
0が上昇を開始すると、先ず吊りカム33がスライド台34上の元の位置まで戻っ
た後、吊りカム33が回転カム23のスライド板24から離れるため、回転カム2
3はスプリング29の弾性力によつて…回動し、回転カム23の寄曲げ部25は下
型20に設けた開口部22の内方に後退する」(本件公報5欄41行ないし6欄3
行)。この内方への後退によって、ピラーAを上方に持ち上げるだけでピラーAを
下型から容易に取り出せる。
 実施例を示す本件公報第5図ないし第8図には、断面の外縁がほぼ4
分の3の円周の円弧状を呈し、残る約4分の1の部分が溝としてほぼ直角(略L字
状)に切り取られたカム部材(回転カム23)が示されている。下型20には、カ
ム部材(回転カム23)の断面円の直径とほとんど同型の円空洞を設け、そこへカ
ム部材(回転カム23)を嵌入した図が示されている。
(エ) 発明の効果については、次のように記載されている。
「ピラーを保持するための保持部を有する下型の略中央部に、当該保持
部と連なる円弧面を有するカム溝を形成し、当該カム溝に寄曲げ部を有する回転カ
ムを回動自在に配置し、ピラーのプレス加工時には、パッド、下型の保持部及び回
転カムの寄曲げ部の3者によってピラーを挟持するようにしたから、プレス成形
時、ピラーを安定した状態に保持でき、パッド押え面積も大きくプレス加工時の加
工精度を向上できる」(本件公報6欄20行ないし28行)とともに、「ピラーの
下型への搬入及び搬出時、回転カムが下型のカム溝内方に後退するようにしたか
ら、ピラーの下型への搬入及び搬出が非常に容易となり、特にプレス成形後のピラ
ーの下型からの取出し時、ピラーを下型から上方に持ち上げるだけで、ピラーを取
り出せる。」(本件公報6欄28行ないし34行)
ウ 以上のような本件明細書の記載に照らして、本件発明の構成要件Aの意
義を検討する。
 構成要件Aは、下型が「保持部」と「カム溝」を有するものとされてお
り、しかも、この「カム溝」は「内方に保持部と連なる円弧面からなる」構成とな
っている。そして、「カム溝」は、一端に寄曲げ部を有する回転カムが回動自在に
挿入される(構成要件B)ものである。
 本件明細書の記載に照らすと、本件発明は、従来技術のプレス用金型が
上記イ(ア)のような構成(寄曲げ刃を有する下型のスライド部材は、水平方向にス
ライド自在に配置されていた。)であったのに対して、下型内方にカム溝を設けて
これに回転カムを回動自在に挿入し、回転カムが回転溝を前後に回動することがで
きる構成とし、素材のプレス加工時においては、回転カムが回転溝内を保持部の方
向に移動し、これに伴い、回転カムの先端に設けられた寄曲げ部がカム溝の開口端
に向かって移動し、上方から素材を圧接する上型のパッドと共に、下型上部の保持
部に載置された素材を挟持して、下型の保持部、回転カムの寄曲げ部及び上型のパ
ッドの3者によって素材を安定した状態で保持した上で成形加工し、成形後におい
ては、回転カムをカム溝内を逆方向に回動させて後退させることにより、寄曲げ部
をカム溝の内方に後退させるようにしたものである。そして、この寄曲げ部の移
動・後退の動きは、プレス成形のための寄曲げ刃の動き、すなわち寄曲げ刃を先端
に有する吊りカムの下降に伴わせるように構成されているものである(構成要件
E)。このような構成を採ったことにより、本件発明は、保持部に切欠部を設ける
ことを不要とし、プレス成形時にピラーを安定した状態で保持できるとともに、成
形後の素材の下型からの取出しが容易にできるという効果を奏するものである。
 したがって、本件発明においては、下型内方に開口部が保持部と連なる
円弧面を有する溝構造を設けることによって、その溝内を回動する回転カムの先端
にある寄曲げ部を、上型の寄曲げ刃の動きに連動させながら、保持部のある溝開口
端に露出させることにより、素材を保持するとともに、成形後は、これを後退させ
ることにより素材の搬出を容易にさせるところに最大の特徴があるということがで
きる。このような技術的意義にかんがみると、構成要件Aにいう「カム溝」とは、
開口部が保持部と連なっており、かつ、その内部に挿入されて内部内を回動するカ
ム部材(回転カム)の動きに応じて、カム部材先端の寄曲げ部が開口端部に露出し
たり後退したりできるような溝構造でなければならないと解すべきである。
エ これに対し、イ号物件には、上記ウに記載したような意味での溝構造が
存在しないことは明白である。原告は、イ号物件の挿入孔22が本件発明の「カム
溝」に相当すると主張する。しかし、イ号物件の挿入孔22は、単にリンクカム3
を回動させるリンクカムの支軸31が挿入されていて、リンクカム3を回動自在に
支持するにすぎず、溝構造とはいえないものであるし、本件発明の保持部に相当す
る下型支持型枠21と連なって円弧面を有するものではなく、また、その開口部に
挿入されたカム部材が回動して先端の寄曲げ部が開口部の端部に露出したり後退し
たりできるような構造を備えてもいない。
 したがって、イ号物件は、カム溝に相当する構成を有していないといわ
ざるを得ないから、構成要件Aを充足しない。
オ なお、以上の判断は、被告が主張するイ号製品の構造においても、異な
るところはない。
(2) 構成要件B充足性について
ア 構成要件Bは、「下型に設けたカム溝に回動自在に挿入された、一端に
寄曲げ部を有する回転カムと」というものである。
イ 上記(1)のとおり、イ号物件には、本件発明の「カム溝」が存在しないか
ら、構成要件Bの「カム溝に回動自在に挿入された回転カム」の構成も欠くことに
なる。
 原告は、イ号物件のリンクカム3が「回転カム」に相当すると主張する
が、上記(1)で認定したところからすれば、本件発明の回転カムは、本件明細書の実
施例のように円筒形状のものであることを要するかどうかは措くとしても、少なく
とも、円弧面からなるカム溝に回動自在に挿入され、回転溝を前後に回動すること
ができる構成のものである必要があるところ、イ号物件のリンクカム3は、その支
軸31が軸受け23に穿孔された挿入孔22に挿入されて、リンクカム3が軸着さ
れているというものであって、この挿入孔22が本件発明の「カム溝」に該当しな
いことは上記(1)で判断したとおりであるから、イ号物件のリンクカム3が本件発明
の「回転カム」に当たるとすることはできない。
 よって、イ号物件は構成要件Bを充足しない(この点は、イ号製品につ
いても、同じである。)。
(3) 構成要件D充足性について
 上記(2)のとおり、イ号物件は、本件発明の回転カムを有しないものである
から、「回転カムの上方に昇降自在に且つ横方向にスライド自在に配置された、先
端に寄曲げ刃を有する吊りカムとからなり」との構成要件Dも充足しないことにな
る(この点は、イ号製品であっても同じである。)。
(4) 構成要件E充足性について
ア 構成要件Eは、「吊りカムの下降に共なって回転カムが素材を挟持する
方向に回動し、且つ吊りカムの回転カムへの接触後、吊りカムが回転カムの寄曲げ
部に向つてスライドするようにしたことを特徴とする」というものである。
イ イ号物件は、上記(2)で判示したとおり、本件発明の「回転カム」を有し
ないから、この存在を構成として含む構成要件Eも充足しないことになる(この点
は、イ号製品であっても同じである。)。
3 争点(3)(イ号物件は、本件発明と均等なものとして、その技術的範囲に属す
るか)について
(1) 原告は、イ号物件が本件発明の構成要件を文言上充足しないとしても、本
件発明と均等なものとして、その技術的範囲に属すると主張する。
 特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等する対象製品と異な
る部分が存する場合であっても、① 同部分が特許発明の本質的部分ではなく、②
 同部分を対象製品におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することが
でき、同一の作用効果を奏するものであって、③ そのように置き換えることに、
当該発明の属する分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品の製
造等の時点において容易に想到することができたものであり、④ 対象製品が、特
許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に
推考できたものではなく、かつ、⑤ 対象製品が特許発明の特許出願手続において
特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき
は、同対象製品は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発
明の技術的範囲に属するものと解される(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・
民集52巻1号113頁参照)。そして、上記①にいう特許発明の本質的部分とは、特許
請求の範囲に記載された特許発明の構成のうち、当該特許発明特有の解決手段を基
礎付け、当該特許発明特有の作用効果を生じさせる部分、換言すれば、その部分が
他の構成に置き換えられるならば、全体として当該特許発明の技術的思想とは別個
のものと評価されるような、技術的思想の中核をなす特徴的部分をいうものと解す
るのが相当である。
(2) 構成要件Aについて
 イ号物件が、構成要件Aを文言上充足しないことは、上記2(1)記載のとお
りである。
 原告は、本件発明とイ号物件との間で異なる構成部分、すなわち構成要件
Aが「当該保持部と連なる円弧面からなるカム溝」とするのに対し、イ号物件が蓋
部材Cを被せたことに伴う、「当該保持部と連なる円弧面からなるカム溝に蓋部材
Cを被せてなる円孔のカム溝」とした差異部分は、これを他の構成に置き換えても
全体として本件発明の技術的思想と別個のものと評価されるものではなく、本件発
明の本質的部分には当たらない旨主張する。
 しかしながら、上記2(1)で判示したとおり、イ号物件は、本件発明の「カ
ム溝」を欠いているのであり、単に、カム溝が「円弧面」からなるのか、「円孔」
のものかという違いに止まるものではない。そして、上記2(1)ウで本件発明の構成
要件Aの意義を検討したところから明らかなように、本件発明は、下型内方にカム
溝を設けてこれに回転カムを回動自在に挿入し、回転カムが回転溝を前後に回動す
ることができる構成とし、素材のプレス加工時においては、回転カムが回転溝内を
保持部の方向に移動し、これに伴い、回転カムの先端に設けられた寄曲げ部がカム
溝の開口端に向かって移動し、上方から素材を圧接するパッドと共に、下型上部の
保持部に載置された素材を挟持して、下型の保持部、回転カムの寄曲げ部及びパッ
ドの3者によって素材を安定した状態で保持した上で成形加工し、成形後において
は、回転カムをカム溝内を逆方向に回動させて後退させることにより、寄曲げ部を
カム溝の内方に後退させるようにし、この寄曲げ部の移動・後退の動きを、プレス
成形のための寄曲げ刃の動き、すなわち寄曲げ刃を先端に有する吊りカムの下降に
伴わせるように構成したところに特徴があるというべきであり、このように、保持
部、カム溝を含む下型、寄曲げ部を含む回転カム、パッド、寄曲げ刃を含む吊りカ
ムの各構成を有機的に結合したことにより、保持部に切欠部を設けることを不要と
し、プレス成形時にピラーを安定した状態で保持できるとともに、成形後の素材の
下型からの取出しが容易にできるという本件発明特有の作用効果を奏するものであ
る。
 以上によれば、カム溝の構成は、本件発明の本質的部分であるというべき
であり、そのような構造を有しないイ号物件は、本件発明とその本質的部分におい
て異なっているというべきである(この点は、被告主張のイ号製品の構造を前提と
しても、同じ判断になる。)。
(3) したがって、その余の点を論ずるまでもなく、イ号物件が本件発明と均等
であるということはできない。
4 争点(4)(被告はロ号物件を製造販売しているか)について
 原告は、被告がロ号物件を製造販売等している旨主張し、その証拠として、
甲第11号証を提出する。甲第11号証は、トヨタ自動車株式会社に過去に在籍
し、プレス金型の設計を行う生産技術部門に所属していたという者の作成した、平
成15年9月10日付け陳述書であり、同書面には同人が同部門に在籍していた平
成12年3月9日に金型業界団体の会員活動の一環として被告の工場を見学した際
に、自動車用プレス金型に原告のロータリーカム特許と同様の技術が使用されてい
るのを目撃した旨記載されており、また、その金型の構造だとする同書面添付図面
には本件公報第5図類似のものが記載されている。
 しかし、同陳述書の内容は、成形装置を見たとする時期から約3年半経過し
た後に、本件公報の実施例の図とほぼ同様の装置図面を添付して、被告が本件発明
の実施品そのものの自動車プレス用金型の製造等をしているのを現認したと述べる
にすぎないものであって、直ちに信用できる性質のものではない。他に裏付けとな
る証拠が何ら提出されていない以上、被告がロ号物件を製造販売している事実を認
めることはできない。
5 よって、その余の争点を判断するまでもなく、原告の請求は理由がないの
で、これを棄却する。
   大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官   小  松  一  雄
   裁判官   中  平     健
裁判官   大  濱  寿  美
(別紙)
イ号物件目録図1図2図3図4図5
図6ロ号物件目録図1図2図3図4
イ号製品目録図1図2図3図4図5図6・7図8

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛