弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
 原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和五三年九月二八日、同庁昭和四六年審判第
五五七三号事件についてした審決を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」と
の判決を求め、被告指定代理人は主文と同旨の判決を求めた。
第二 原告の請求の原因及び主張
一 特許庁における手続の経緯
 原告は、昭和四四年一一月七日特許庁に対し、別紙目録記載の商標(以下「本件
商標」という。)について、商品区分第二六類「印刷物、書画、彫刻、写真、これ
らの附属品」を指定商品として登録出願(昭和四四年商標登録願第九七八七六号)
し、昭和四六年三月三日、その指定商品を第二六類「印刷物(ただし教育用印刷物
及び学習用印刷物を除く)、書画、彫刻、写真、これらの附属品」とする旨の手続
の補正をしたところ、昭和四六年五月一〇日拒絶査定を受けた。そこで原告は、昭
和四六年七月一〇日審判を請求し、昭和四六年審判第五五七三号事件として審理さ
れたが、特許庁は昭和五三年九月二八日「本件審判の請求は成り立たない。」との
審決をし、その謄本は同年一〇月二五日原告に送達された。
二 審決理由の要点
 本件商標は前項記載のとおりであるが、指定商品については、更に当審におい
て、第二六類「商業雑誌、宣伝広告用印刷物、書画、彫刻、写真、これらの附属
品」と補正された。
 これに対し、登録第五五五六五七号商標(以下「引用商標」という。)は、「T
HE」「UNION」「READERS」の欧文字(「UNION」の文字は、他
の文字に比較して大きく書してなる)を、三段に書して成り、旧第六六類「英語読
本」を指定商品として、昭和三一年一〇月一二日登録出願、同三五年九月一六日登
録がなされたものである。
 よつて按ずるに、本件商標は別紙に表示したとおり、「THE」の文字を小さく
「UNION」の文字を大きく横書してなるものであるから、「ザユニオン」又は
「ユニオン」の称呼を生ずるものと認められる。
 他方、引用商標はその構成前記のとおりであるが、これを構成する文字中「RE
ADERS」の文字は、読本、リーダーの意味を有する英語として一般に良く知ら
れているばかりでなく、出版物を取扱う業界では、例えば「〇〇〇READER
S」のごとく、該文字を読本、リーダーであることを表示するものとして普通に使
用しているのが実情である。そうとすれば、引用商標における自他商品識別の標識
として顕著な部分は、「THE UNION」の文字にあると判断するのが相当で
ある。従つて、引用商標は、「ザユニオンリーダーズ」と一連に称呼される場合が
あるとしても、「THE UNION」の文字に相応して「ザユニオン」又は「ユ
ニオン」の称呼をも生ずるものといわねばならない。
 してみれば、本件商標と引用商標とは「ザユニオン」又は「ユニオン」の称呼を
共通にする類似の商標といわざるを得ない。
 次に、両者の指定商品の類否についてみるに、本件指定商品中の商業雑誌と引用
商標の指定商品英語読本はいずれも製産者(印刷・出版)及び販売店舗等を同じく
する場合のある類似の商品と認定し得るものである。
 なお請求人(原告)は登録例を挙げ両商標は非類似のものであると述べている
が、該登録例は本件とは事案を異にするものであり、また、本件商標「THE U
NION」は同社が宣伝広告用印刷物の標題として盛大に使用しており、常にフル
ネームすなわち、「ザユニオン」と称呼され、「ユニオン」と略称されないとして
甲第一号証ないし同第五四号証を提出しているが、本件商標については上記認定の
とおりの理由があるから同人の主張は採用しない。
三 審決を取消すべき事由
(一) 原告は、本件審決が原告に送達された後である昭和五三年一二月二八日、
本件商標の指定商品のうち「通信信用販売用カタログ雑誌以外の商業雑誌、宣伝広
告用印刷物、書画、彫刻、写真、これらの附属品」について放棄をするため、この
ことを内容とする指定商品一部放棄書を被告に提出して、右商品について商標登録
出願の一部放棄をした。
 右の結果、本件商標の指定商品は「第二六類、通信信用販売用カタログ雑誌」と
なつた。
 そこで右、本件指定商品であるところの「通信信用販売用カタログ雑誌」と引用
商標の指定商品であるところの「英語読本(旧第六六類)」とを比較すると、
 「英語読本」は、
① 主として学校で用いられる教科書、又はこれに準ずる教材としての英語読み物
としての性質をもち、
② 教科書出版会社又は一般の出版会社によつて発行され、
③ 取次店を介して小売店に卸され、そこで需要者の手に入るという、通常の出版
物と同じ流通経路をたどり、
④ 主として、生徒、学生を中心とする英語の学習、研究中にある者を購読層とす
る。
これに対して「通信信用販売用カタログ雑誌」は
① 株式会社ユニオンクレジツト、株式会社J・C・B、ダイヤモンドクレジツト
株式会社、株式会社日本ダイナースクラブ等いわゆるクレジツト会社が会員向けに
編纂した、通信販売用商品の紹介、百貨店情報、その他雑誌記事とから成る準機関
誌的な性質をもつ商業用の雑誌であり、
② 当該クレジツト会社又はこの雑誌の編集・発行を専業とするその子会社によつ
て発行され、
③ 取次店、小売店等を介することなく発行者から直接需要者に届けられ、
④ クレジツト会社会員の準機関誌という性格からして、購読層は、銀行預金の
額、職業等一定の会員資格のある者に限られるところ、生徒、学生は右のような制
約からして普通は購読者たり得ない。
 以上のことから明らかなように「英語読本」と「通信信用販売用カタログ雑誌」
とはおよそ出版物であるという点で共通するだけであつて、出版物としての性質、
発行者、流通経路、購読者層を全く異にするものであるから、たとえ両出版物に類
似の商標を附したとしても、需要者としてはそのこと故に一方の出版物の発行者を
して他方の出版物の発行者であると誤認するがごとき事態は絶対に生じ得ないもの
といわなければならない。言替えれば、「英語読本」と「通信信用販売用カタログ
雑誌」との間では、単にそこに附された商標が類似するというだけではその出所に
ついて誤認混同が生ずる虞れはなく、従つて、右両出版物は商品として非類似であ
る。
 従つて、前記、商標登録出願の一部放棄の結果本件商標の指定商品は引用商標の
指定商品とは商品において非類似となつたのであるから、両指定商品は類似すると
判断した審決には事実誤認の違法があるので取消されるべきである。
(二) 被告は、審判は審決をもつて終了するから、その後の発生事実をもつて審
決の違法事由とすることはできないと主張するが、右主張は誤つている。
 商標登録出願が放棄されたときは、先後願の関係においてはその商標登録出願は
初めからなかつたものとみなされる(商標法第八条第三項)。右の理は出願の全部
の放棄の場合と一部(指定商品の一部)の放棄の場合とで適用を異にするいわれは
ない。商標登録出願は本来指定商品毎に成立しているものであるし、先後願の問題
が指定商品中一部の物についてだけ生ずることもあるからである。従つて、本件の
指定商品の一部放棄によつてこれらの商品については出願は最初からなかつたもの
とみなされるものであり、右放棄にはいわゆる遡及効がある。よつて、本件商標の
指定商品は審決時において既に「第二六類、通信信用販売用カタログ雑誌」とみな
されるべきである。
 被告は商標法第八条第三項における放棄について、これは先後願関係においての
み適用される例外規定であるから、この条文があること自体、放棄には一般的には
遡及効がないことの証左である旨の主張をする。
 しかしながら各条項には放棄等と並んで取下の場合も規定されており、しかも取
下に遡及効があることは自明の理であるから、この場合は右条項を例外規定である
とみることはできないはずである。そうであれば商標法第八条第三項が例外規定で
あるか否かは決め難いことであつて、従つてまたこのことを根拠に指定商品の一部
放棄には遡及効が無いと断ずることはできない。被告の主張には理由がないものと
いうべきである。
 指定商品の一部放棄に遡及効があるか否かはむしろ商標登録制度の本質に絡めつ
つ論議されるべきである。
 特許、実用新案、意匠の出願の場合は登録を請求する権利はその独創的な発明考
案等について保護を受けるという実体的な私法上の権利(いわゆる発明権等)に基
づいている。
これに対し商標出願の場合、登録を請求する権利は出願をしたことによりはじめて
発生する公法上の権利であると考えられているから、いわゆる発明権等に対応する
ものとしては当該商標を採択してこれを出願したという地位ないし事実が考えられ
るにすぎない。出願の放棄という場合前者においては、その実体的私法上の権利を
将来に向つて放棄し、それに伴つて出願もまた将来に向つて消滅するものであるの
に対し、後者においては、出願を放棄するということはとりもなおさず出願人たる
地位を放棄することにほかならず、この場合、こうした地位を将来に向つてのみ消
滅させることがそもそも論理的に可能であるのか疑わしいけれども、仮にそれがで
きるとしてもその場合に残るところの「出願をしたという事実」を保護する必要性
は商標出願にあつては何らないのである。すなわち、特許等の出願において出願を
放棄した場合、同一発明について再度出願があれば放棄された先願でこれを拒絶す
る効果をもたせることに意味があるのに対し、単なる標章の採択にすぎない商標出
願においては同一商標について再度出願があつた場合に、放棄された先願によつて
これを拒絶することには何の意味もないのみならずむしろ制度趣旨に反することに
なる。
 このことから、商標出願にあつては、仮に出願の放棄ということがあつたとして
も、これを遡及効があるものとして取扱わざるを得ないこと明らかである。言換え
れば、商標出願においては出願の取下のほかに出願の放棄という制度を認める実益
がないものと言わなければならない。
 また、事実、実務においても出願を放棄するということは行なわれていない。
 以上の論理は指定商品の一部放棄の場合についてもそのままあてはまる。この場
合も放棄された指定商品について「出願したという事実」だけを残しておいても無
意味だからである。
 それにもかかわらず、指定商品の一部放棄という名目の実務が行なわれているの
は、出願の取下が出願毎に行なわれるものであるところから、さしあたり、指定商
品の一部について出願を取下げるという概念がないことに因ると思われる。
 このように、補正によつて指定商品の一部を削除するのも、また指定商品を一部
取下げるのも、その実質は指定商品の一部についての出願を出願当初に遡つて取下
げることにほかならない。少なくともそのように取扱わざるを得ない。
 こうしたことは商標登録出願制度の性格から導かれることであつて、商標法第八
条第三項はこの当然のことを先後願の関係において確認しているにすぎないのであ
る。ちなみに、各条文の存在意義は特許法第三九条第五項との関係で、なかんず
く、商標出願の場合は放棄についても遡及効のあること―遡及効をもたざるを得な
いことを―を確認している点で意義のある規定であると考えられる。
(三) 審決前に、指定商品の一部について出願を放棄する場合は、出願書類の指
定商品の記載の一部を削除する補正書を提出するだけで実務上足りている。しかし
ながら、商標権は指定商品毎に成立し、また従つて出願も指定商品毎に成立してい
るはずであるから、右の補正も出願の一部放棄たる実質をもつものであることに変
りはない。この場合出願の一部放棄書を提出する代りに補正書を出すのは実務の慣
行であるにすぎない。ところで、出願人がその出願を放棄するのは審決の前後を問
わずいつでも可能なはずである。ところが、審決後の放棄を審決前と同様「補正
書」でなすことは商標法第六八条の二との関係上できないので、この場合は「指定
商品一部放棄書」なる様式でなす訳である。
 以上のような実務慣行ではあるが、理論的に見た場合は審決前の出願の一部放棄
を「補正書」によつてなすという実務は是正されるべきであり、審決の前後を問わ
ずすべて「一部放棄書」によつてなすのが正しいと言わなければならない。出願の
放棄がどの段階でもなし得る行為である以上、これは諸種の制限がある「補正」と
は性質を異にする行為のはずだからである。
 このように、指定商品の一部放棄は商標法第六八条の二にいうところの補正には
あたらないものである。
(四) 審決取消訴訟の手続は一種の行政事件訴訟であるから、法律に特別の定め
のない限り民事訴訟の例によるべきである(行政事件訴訟法第七条)。そして、こ
の制度においては第一審の代りに審判制度が置かれている、という事の実質に鑑み
れば、審判とその取消訴訟との関係も制度の趣旨に反しない限り民事訴訟の例によ
るべきである。
 右に、制度の趣旨に反しない限りとはすなわち、裁判所が行政権の行使たる特許
庁の専権を侵すことがない限り、ということである。そして、特許庁の専権とは本
件商標と引用例との類否についての第一回目の判断が特許庁に専属するということ
を意味する。裁判所としては審判手続において審理判断された事項以外の事項につ
いて勝手に判断してはならないのである。
 ところが、本件商標の指定商品が一部放棄され、その結果指定商品が減縮された
という事実は、本件商標の指定商品如何という事柄であり既に審判段階で審理の対
象とされた事項であるのだから裁判所がこの事項についての特許庁の認定を改め、
商品の非類似を認定したとしても特許庁の専権を侵したことにはならないはずであ
る。
 しかしながら、このように審決後の事情を審決取消判断に考慮するとすれば審決
は不安定なものとなり、ひいては審判制度自体意味が稀薄になるのではないか、と
の疑問が提起されるかも知れない。しかし、これは決定的な理由たり得ない。何故
なら、いかなる立場に立つても、審決後に生起した事実を審決取消理由として考慮
せざるを得ない場合があるからである。
 すなわち、審決後、引用例が無効審判により無効になつたり、特許権の無効審決
後当該特許発明が訂正審判により訂正された場合にはこれらの事実は当事者から主
張されれば審決取消事由に考慮せざるを得ないのである。
 このように審決取消訴訟において、類否判断の対象は前述のごとく審決の前後を
問わず色々な理由によつて時々刻々変化し得るものであり、また類否判断そのもの
も社会的な事実評価の問題として時々刻々変化するものである。この点において
は、その本質は民事訴訟と変らないのであつて、事実の一回性を基礎におく刑事訴
訟の事後審制とは性質を異にする点である。
 以上述べたように、審決後発生した事実であるからということだけで、これを審
決取消事由から除外すべき理由はないのである。
むしろ、審決取消訴訟の法的な性格から言えば、口頭弁論終結前に発生した事実は
すべて主張し得るものと解すべきである。ただ、特許庁の権限との関係から、主張
し得る事実は、審判段階で既に審理判断された事項に限られるにすぎない。
 以上のように解することは、審決取消制度の合理的な運用という点からみても妥
当である。
 審判手続は審決がなされても特許法第一五七条第一項にいう文字どおり終了して
しまう訳ではない。審決取消訴訟が提起された以上、審決は確定せず、従つて審判
手続自体まだ特許庁に係属しているわけである。ただ、審決を下したことにより、
特許庁としてはたとえその後事情の変更が生じたとしても裁判所によつて前の審決
が取消されるまで、当面その新たな事実に基づいて審判手続を進めることができな
い状態にあるだけである。このように、特許庁とすれば、審決が裁判所によつて取
消されさえすれば、新しい時点に立つた事実関係を基礎に審決をやり直す態勢にあ
るわけだから、裁判所としてもこのような場合は審決後の新たな事実を考慮に入れ
て審決を取消し、登録の可否の判断を特許庁が再開し得るようにしてやれば充分な
はずである。徒らに、審決時の事実に固執してみても、審判・訴訟の経済に反する
だけで何ら格別の意義もない。
 以上述べた理由によつて、審決後発生した事実といえども審判段階で既に審理を
経た事項に関する事実であれば審決取消の事由たり得ることは明らかである。
 よつて、本件においても、本件商標の指定商品が一部放棄され、指定商品が減縮
した事実にもとづいて、商品の類否が判断されるべきである。
第三 被告の答弁及び主張
一 原告の請求の原因及び主張中一、二の事実及び三の事実中原告が審決送達後、
昭和五三年一二月二八日、本件商標の指定商品から、「通信信用販売用カタログ雑
誌以外の商業雑誌、宣伝広告用印刷物、書画、彫刻、写真、これらの附属品」を放
棄する指定商品一部放棄書を提出し、同日付で特許庁に受付けられていることは認
め、同三における原告の主張は争う。
 審決取消訴訟は、審決の審決時における違法の有無について裁判所の判断を求め
る制度であるところ、原告は、審決送達後の昭和五三年一二月二八日付で指定商品
の一部放棄書を特許庁に提出し、その結果、本件商標の指定商品と引用商標の指定
商品とは商品において非類似になつたものであると主張している。
 しかしながら、審判は、審決をもつて終了する(特許法第一五七条第一項)もの
であるから、その後の発生事実、すなわち出願の放棄等の申出があつても、該手続
については審理できない状態に立到つたものであり、審決には取消事由はない。
 審判係属中指定商品の一部放棄は、放棄後、残存した指定商品を内容とする出願
が継続されることとなり、実質上補正の手続と同等の効果を生ずるものといえる。
 出願等の手続は、その当初から完全な手続を期待することは実際上困難であるか
ら、商標法は出願の手続について、その後の補正を認めている。しかしながら、そ
れは無制限に認めるものではない。
 すなわち、商標法は、「事件が、審査、審判又は再審に係属している場合に限
り」という一定の制限の下に、同法第六八条の二(出願公告決定後にあつては、同
法第一七条で準用する特許法第六四条)により、その補正を認めることとされ、更
に、同法第五六条で準用する特許法第一五六条の規定とを考えあわせると審理終結
後の補正はできないものと解すべきである。そして、これは、補正のできる時間的
限界を定めて、審査、審判の手続の円滑迅速な進行をはかることを目的としている
ものと思われる。
 しかるところ、審理終結後、補正の手続に代えて、指定商品の一部放棄の手続を
なすことは、それ自体出願より生じた権利の一部放棄であるから、確定までは出願
人の自由に行ない得るものであるとしても、すでに審判は審決をもつて終了してい
るものであり、その後に、出願の瑕疵を治癒させることを目的とした一部放棄の手
続(商標法において、指定商品の一部放棄は、実質上の補正と同等の取扱いを受け
る)をなされても、その効力は、その時点から将来に向つて生ずるにすぎず、しか
も、審決(審判の終了)後にされた出願より生じた権利の一部放棄は、それによつ
て審判を再開しなければならないとすれば、無限に審理を遅延させることになる。
 従つて、指定商品の一部放棄によつて審判を再開する事由とはならないことは、
商標法第五六条によつて準用する特許法第一五六条、同第一五七条の規定から明ら
かであるから、該手続によつて審判をすることはできないものである。
 従つて、審決後の放棄をもつて、該審決を違法のものとする理由とはならない。
二 原告は、本件審決後商標登録出願の一部放棄をし、右放棄には遡及効があるか
ら、審決時において本件商標の指定商品は「第二六類、通信信用販売用カタログ雑
誌」になつたと主張し、商標法第八条第三項を引用する。
 しかしながら、右規定は、登録出願中のものが競願又は先後願関係にある場合、
先願等の商標登録出願の放棄若しくは無効、又は査定若しくは審決の確定があつた
場合の同条第一項又は第二項についての効果を規定したもので、この場合は、出願
がなかつたことになり、その後の出願が順次くり上るといういわば先後願関係にお
ける例外規定とみられるから、この条文があること自体、放棄が放棄した時点から
将来に向つて効力を生ずることを意味するものと解せられる。
 従つて、この点における原告の主張は本件審決の取消理由にはならない。
三 仮に審決後における商標登録出願の一部放棄が出願当初に遡つて効力を生じ、
本件商標登録出願が「通信信用販売用カタログ雑誌」を指定商品としてなされたこ
とになるとしても、本件商標の指定商品と引用商標との指定商品が非類似であると
することはできない。
 原告は、指定商品の一部放棄後の商品の表示を「通信信用販売用カタログ雑誌」
と表示しているが、指定商品の表示として必ずしも熟したとはいえないものである
ところ、原告の主張からみて、通信販売用商品の紹介、百貨店情報、その他雑記事
とから成る商業雑誌と解して、以下両商標の指定商品の類否について比較検討す
る。
 原告は、「英語読本」と「通信信用販売用カタログ雑誌」とは、およそ出版物で
あるという点で共通するだけであつて、出版物としての性質、発行者、流通経路、
購読者層を全く異にする非類似のものであると主張する。
 しかしながら、原告も本件商標にかかる指定商品「通信信用販売用カタログ雑
誌」(商業雑誌)は、出版物であることは認めているところであり、一方、引用商
標にかかる指定商品「英語読本」(英語読み物)もまた出版物であつて、いずれも
印刷物の範疇に属する商品といえるものである。
 そうして、原告が述べるごとく、両者は商品の性質(内容)において異る点があ
るとしても、購読者(需要者)においては、「英語読本」(英語読み物)の購読者
が、学生、生徒に限られず、広く一般の人に読まれていることは、外国語の普及が
著しい現在の社会実情に照らして否定しえないところである。
 そうしてみると、該カタログ雑誌(商業雑誌)の購読者と英語読本(英語読み
物)の購読者層が全く別異のものとはいいえず、むしろ両者の購読者が交錯する場
合も決して少なくないといわなければならない。
 そうとすれば、両者の商品が、いずれも出版物であつて一般取引市場で競合する
商品であるから、製産者、取引者、需要者を共通にする商品ということができる。
(直接特定の会員にのみ頒布されるものであつて、一般の流通経路にのらないもの
は、商標法上にいう商品とはいえない。)
 従つて、両商品間に多少の差異点があるとしても、これらの商品に同一又は類似
の商標を付して使用した場合、商品の出所について混同を生ずるおそれのある範囲
内の商品といわなければならないから、両者の商品は、商標法上にいう類似の商品
と判断するのが相当である。
 以上述べた理由よりして、本件商標と引用商標とは、商標において類似し、又商
品においても類似するものといえるから、本件商標は商標法第四条第一項第一一号
に該当するものであり、審決は正当であつて違法の点はない。
       理   由
一 原告の請求の原因及び主張の一、二については、当事者間に争いがない。
 そこで、本件審決に、これを取消すべき違法の点があるかどうかについて考え
る。
二 本件審決が原告に送達された後である昭和五三年一二月二八日、原告は、本件
商標の指定商品から「通信信用販売用カタログ雑誌以外の商業雑誌、宣伝広告用印
刷物、書画、彫刻、写真、これらの附属品」を放棄する指定商品一部放棄書を特許
庁に提出し、これが同日付で受付けられていることは、当事者間に争いがない。
 原告は、商標登録出願が放棄されたときは、その放棄が出願の全部であろうと、
一部であろうと、先後願の関係においては、その商標登録出願は初めからなかつた
ものとみなされる(商標法第八条第三項)から、本件の指定商品の一部放棄は出願
の当初に遡つてその効力を有し、従つて、本件商標の指定商品は、審決時において
既に「第二六類、通信信用販売用カタログ雑誌」とみなされるべきである旨主張す
る。
 しかしながら、原告の挙示する商標法第八条第三項の規定は、原告もこれを認め
るとおり、商標登録出願の放棄、取下等があつたときは、右出願は、同条第一、二
項すなわち先後願の関係の適用については、初めからなかつたものとみなすことを
特に規定しているものであつて、出願の放棄等をもつて全ての関係において出願が
初めからなかつたものとみなす規定ではない。そもそも、ある行為がなされたこと
による法的効果は、特別の規定のない限り、行為により始めて発生するものである
(例えば、民事訴訟法第二三七条第一項は、訴取下の遡及効を規定しているが、訴
取下に遡及効があるのは、この定めがあるからであつて、この規定なくして訴取下
には論理必然的に遡及効があるものとすることはできない。)。商標登録出願の放
棄、取下等があつた場合は、前記商標法第八条第三項の規定により、右放棄、取下
等は先後願の関係において商標登録出願が初めからなかつたものとみなされるにす
ぎないのであつて、商標登録出願の放棄、取下等は、放棄、取下という性質上当然
に遡及効をもつとすることはできない。これに反する見解は採ることを得ない。し
かして、商標登録出願の放棄、取下等が先後願の関係以外においても一般に遡及効
を有する旨の規定は商標法には存しない。
三 審決取消訴訟は、特許庁の審判官で構成する合議体がした「審決」という行政
処分に違法の点があることを理由としてその取消を裁判所に求める行政訴訟であつ
て、審決に違法の点があるかどうかは、審決がなされた時の状態で判断されるべき
ものである。ただし、審決時においては、該審決は適法であつたにもかかわらず、
その後の事情により、違法となり、これを取消さざるを得ない場合はあり得る。例
えば、特許を無効とした審決の取消訴訟の係属中、該特許の訂正審判請求を認容す
る審決が確定したときは、訂正後における明細書又は図面により特許権の設定の登
録がされたものとみなされる、すなわち、訂正審決は遡及効をもつ(特許法第一二
八条)ところ、特許を無効とした審決は、当然、訂正前の明細書又は図面により設
定登録された特許権を無効としているものであるから、訂正審判の審決に遡及効が
認められれば、無効審判の審決の基礎としたところが失われることになるから、右
無効審判の審決はこれを取消さざるを得ないことになる。しかし、右の場合は法が
訂正審判の審決に遡及効を認めた結果であつて、このような場合のあり得ることを
もつて一般に審決の適法違法の判断の基準時は判決の時であるとすることはできな
い。しかして商標登録の出願の放棄が、出願時に遡つて効力を有するものでないこ
とは前説明のとおりである。
四 右のとおりであり、原告が審決後指定商品の一部を放棄したとしても、右放棄
は出願の当初に遡るものではなく、従つてこれにより審決を違法にするものではな
い。そうとすれば、本件商標と引用商標とが類似しその指定商品も類似するとした
審決の判断に誤りはないから、審決が違法であることを理由としてその取消を求め
る原告の請求を棄却し、訴訟費用は敗訴の当事者である原告の負担とすることとし
て主文のとおり判決する。
(裁判官 小堀勇 高林克巳 小笠原昭夫)
別紙目録<12214-001>

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◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
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応募方法
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残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
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連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
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応募方法
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