弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
         理    由
 (抗告の趣旨)
 原裁判所がなした不動産強制競売取消決定を取消す。
 (抗告の理由)
 抗告状の記載によれば、本件抗告の理由は次のとおりである。
 一、 原裁判所は本件競売目的不動産の最低競売価額金七一二、〇〇〇円をもつ
て差押債権者の債権に先立つ不動産のすべての負担及び手続の費用を弁済して剰余
の見込がないので、差押債権者にその旨通知したが、法定期間内になんらの申出が
ないとして、競売手続を取消した。
 二、 しかし原裁判所が差押債権者に先立つ不動産上の権利であると判断した左
記の債権及び手続の費用は、合計しても最低競売価額を上廻ることはない。
 (イ) 一番抵当権者株式会社北海道相互銀行の債権極度額金五〇万円の根抵当
権は、無尽契約による昭和三〇年一二月二〇日の設定契約に基き、同月二四日(抗
告状に同月一二日とあるのは誤記と認める)登記されたもので、その後債務者は相
当額の無尽掛金の払込をなし、掛金払込終期日到来ずみのものにして受領しうべき
無尽掛金払込債権と相殺するときは、その差額は金一〇万円位であり、また本件に
つき計算書提出後、別件の有体動産強制競売の売得金から若干の配当金を受領して
いる。 (ロ) 二番抵当権者大和金融株式会社の債権極度額金一〇万円の根抵当
権設定は昭和三四年六月一〇日で、抗告人が不動産強制競売の申立をしたのは同月
八日であるから、この根抵当権をもつて担保された債権が差押債権に先立つか否か
については疑がある。
 (ハ) 交付要求の公租公課については、国税徴収法の一部改正により必ずしも
全額が差押債権に先立つ債権とはいえない。
 三、 従つて、原裁判所の不動産強制競売取消決定は違法であるから、その取消
を求める。
 (当裁判所の判断)
 一、 一件記録によれば、本件不動産強制競売事件は、債権者(抗告人)Aから
債務者Bに対し、債権元本額金四六九、五一〇円及び昭和三三年一二月二一日以降
年三割六分の割合による損害金債権につき、(イ)桧山郡a町字b町c番宅地一〇
四坪(ロ)同地上家屋番号同字第C番木造亜鉛メツキ鋼板ふき平屋建工場一棟建坪
五二坪二合の不動産を目的として昭和三四年六月八日強制競売の申立があり、同年
七月三日強制競売開始決定があつて同月六日その記入の登記がなされたこと、右不
動産については当初その評価額は合計金七一二、〇〇〇円であつたが、その後同年
一〇月一九日、同年一一月一九日、昭和三五年一月一一日の三回にわたる競売期日
において最高価競買人がなかつたため、その価額が逓減されて昭和三五年二月二二
日に指定された競売期日における最低競売価額は合計金五一九、〇〇〇円であつた
こと、原裁判所は同月六日右競売期日を取消し、民事訴訟法第六五六条第一項に基
き、同月一八日付通知書をもつて抗告人に対し、「最低競売価額金七一二、〇〇〇
円をもつては、差押債権者に先立つ不動産上の負担及び手続の費用を弁済して剰余
ある見込がない」旨を通知したが、法定期間内に抗告人から同条第二項の申出がな
かつたので、同年三月五日付不動産強制競売取消決定をもつて強制競売手続を取消
したこと、以上の経過が明らかである。
 二、 そこで原裁判所が不動産強制競売手続を取消した昭和三五年三月五日当時
における抗告人の差押債権に先立つ本件不動産上の負担につき検討する。
 (イ) 一番抵当権者株式会社北海道相互銀行は、昭和三〇年一二月二〇日付根
抵当権設定契約により、元本債権極度額金五〇万円の根抵当権の設定を受け同月二
四日受付により登記しているのであるが、右根抵当権により担保される右銀行の債
権は、昭和三四年七月二八日付右銀行の債権計算書によれば金四二七、七五〇円で
ある。抗告人は右銀行は計算書提出後別件の有体動産強制競売事件の売得金から若
干の配当金を受領していると主張するけれども、これを認めるに足る適確な証拠は
ないから、この点に関する抗告人の主張は理由がない。
 (ロ) 二番抵当権者大和金融株式会社は、昭和三四年六月五日付金融取引契約
についての根抵当権設定契約により、元本極度額金一〇万円、債務不履行または期
限の利益を失つたときはその翌日から年四割の延滞損害金の根抵当権の設定を受
け、同年六月一〇日受付により登記しているのであるが、右根抵当権により担保さ
れる右会社の債権は、昭和三四年七月二三日付右会社の計算書によれば、貸付元金
九六、〇〇〇円と、昭和三四年六月一一日から同年七月二三日まで年四割の延滞損
害金四、五二〇円(右計算書によれば損害金の起算日を昭和三三年七月一日として
いるが、右は登記前で抗告人に対抗できず、その起算日は登記の翌日である昭和三
四年六月一一日とすべきものである)合計金一〇〇、五二〇円である。
 抗告人は、大和金融株式会社の右債権は、根抵当権の設定登記が昭和三四年六月
一〇日であつて、抗告人が強制競売を申立てた同月八日の後であるから、右債権が
抗告人の差押債権に先立つか否かは疑問であると主張するけれども、前認定のよう
に本件不動産につき強制競売開始決定のあつたのは同年七月三日であり、その記入
の登記のあつたのは同月六日であるから、右記入の登記に先立ち登記された右会社
の根抵当権が、抗告人の差押債権に優先することはいうまでもなく、この点に関す
る抗告人の主張は理由がない。
 (ハ) 江差町長の交付要求にかかる町道民税、固定資産税の滞納総額は、昭和
三四年七月一〇日付同町長の債権申出書によれば合計金七五、八二〇円であり、ま
た江差税務署長の交付要求にかかる所得税の滞納総額は、昭和三五年二月三日付同
署長の差押通知書及び交付要求書によれば合計金一四六、六四七円である。
 抗告人は、右交付要求の公租公課は国税徴収法の一部改正により必ずしも全額が
差押債権者に先立つ債権とはいえないと主張するけれども、右交付要求の滞納税額
は国税徴収法によるも抗告人の差押債権に優先することはいうまでもなく、この点
に関する抗告人の主張は理由がない。
 <要旨>三、 以上のように、抗告人の差押債権に優先する右(イ)ないし(ハ)
の債権額は合計すると金七五〇、七三七円となり本件不動産の最低競売価額
を超えることは計数上明らかである。従つて原裁判所が前記の如く民事訴訟法第六
五六条第一項により抗告人に対し最低競売価額をもつてしては差押債権者に先立つ
不動産上の負担及び手続の費用を弁済して剰余ある見込がない旨を通知したことは
適法であると云わなければならない。ただ原裁判所は右通知に当り最低競売価額と
して当初の評価額金七一二、〇〇〇円を表示しているが、右通知当時においてはす
でに本件不動産は数次の新競売により価額が逓減されて合計金五一九、〇〇〇円と
なつていたことは前記のとおりであるから、原裁判所が右通知をするに際しては逓
減された最低競売価額を表示することが妥当であると考えられるけれども、民事訴
訟法第六五六条第一項によれば、執行裁判所は最低競売価額をもつて差押債権者の
債権に先立つ不動産上の総ての負担及び手続の費用を弁済して剰余のある見込がな
いと判断すれば、差押債権者にその旨を通知すれば足り、その最低競売価額並びに
差押債権者の債権に先立つ不動産上の負担及び手続費用を具体的な金額として通知
することは、民事訴訟法第六五六条第一項による通知の要件ではない。けだしこの
ことは右規定の明文上明らかであるのみならず、これらの価額については執行事件
記録上すでに明らかになつているところで、差押債権者か記録につきこれらの価額
を知ることはきわめて容易なことであるからである。従つて右表示の瑕疵は右通知
の効力に何等の消長を及ぼすものではない。
 よつて右通知に対し抗告人から同条第二項による申出がないことを前提として原
裁判所がなした不動産強制競売取消決定には、なんら違法の点はない。
 四、 もつとも、前記二の(イ)(ロ)(ハ)に記載した抗告人に対する優先債
権は、本件抗告後多少の増減をしているのでこの点につき検討する。
 (イ) 株式会社北海道相互銀行の債権は、昭和三六年六月五日付同銀行の報告
書によれば合計金四九〇、〇〇〇円である。
 (ロ) 大和金融株式会社の債権は、同年同月一四日付同会社の回答書によれば
合計金一四四、〇〇〇円である。
 (ハ) a町に対する町道民税、固定資産税等の滞納総額は、同年同月二日付同
町長の回答書によれば合計金五二、五七〇円(ただし先に交付要求のあつた滞納分
ではなく、その後に生じたものである)であり、また江差税務署に対する所得税の
滞納総額は同年同月九日付同税務署長の回答書によれば合計金六、六三八円(ただ
し先に交付要求のあつた滞納分が完納になつた後に生じたものである)である。
 以上の(イ)(ロ)(ハ)の優先債権額の総合計は金六九三、二〇八円となると
ころ、右金額は本件不動産の最低競売価額金五一九、〇〇〇円を超えることは計数
上明らかである。従つて現在の計算によるも抗告人の差押債権に先立つ不動産の負
担はその最低競売価額を超えているから、原決定以後における優先債権の増減を考
慮に容れても、原裁判所がなした前記通知及びこれに基く不動産強制競売取消決定
の効果に消長はない。
 五、 以上の次第で、本件抗告は結局理由がないので棄却すべきものとし、民訴
法第四一四条本文、第三八四条第一項に則り、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 羽生田利朝 裁判官 船田三雄 裁判官 浅野芳朗)

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