弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人野口政治郎、同伊藤敬寿の各上告趣意について。
 終戦後吾国においては、戦争中から引続いての著しい酒類欠乏のため、戦後の混
乱に乗じ、メタノールを含有する有毒アルコール類を飲料として販売する者多く、
そのため失明その他健康を害するは勿論、生命を失う者すら相当数を数うるに至つ
た。それで所論有毒飲食物等取締令(以下本令と記す)が制定された当時において
は、その危険甚しく急速にこれを防止しなければならない状態に立ち至つたので、
右有毒飲料の販売を厳重に取締るため、厳罰を以てこれに臨む必要を生じたのであ
る。進駐軍司令部においても、この必要が痛感せられ、吾政府に向つて、メチール・
アルコールその他の毒物を含む食料飲料品の販売、取引、所有等に対しては、二千
円以上一万円以下の罰金或は三年以上十五年以下の懲役又はかかる罰金と懲役を併
科せられるべき趣旨の法令を制定し、これを厳格に施行すべき旨の指令が発せられ
たのである。右の如く司令部の命令に特にその科すべき刑の種類、量までも詳細に
定めてあつたことによつて見ても、その重要性がわかるであろう。論旨は、この犯
罪は直接に人の生命、身体を侵すものでなく、たゞ、将来の危険を生ぜしむるだけ
だから、その刑は軽くて然るべきだというけれども、これによつて実害を生ずる可
能性は非常に多いのみならず、多数の者に害を及ぼすことにおいては、通常の個別
的殺人若しくは傷害とは比較にならないのである。戦後人心の混迷に乗じ、かかる
危険多き犯罪が広汎に行われるに至つた特別の時代において、急速にこれを防止す
べき必要に迫られて制定された法令が、平時普通の世情を標準として制定された一
般刑法に比し、多少共異る処あるは、寧ろ、理の当然といわなければならない。酌
量減軽の規定の適用が認められないこと、その結果制定当時においては刑の執行猶
予の余地がなかつたこと等についても、右のような理由があるのである。その是非
は別問題として、これ等は立法政策乃至立法技術の当否、巧拙の問題であつて、憲
法適否の問題ではない。即ち立法機関の裁量に委ねられた範囲のものである。体刑
と金刑との間に隔りがあり過ぎるというようなことも、同じく右当否、巧拙の問題
に帰する。刑罰については、憲法は何人も法律の定める手続によらなければ、刑罰
を科せられない(第三一条)とし、又残虐な刑罰は絶対にこれを禁ずる(第三六条)
として居るだけである。そして本令の定める刑が残虐の刑といゝ得ないのは勿論、
尚本令の刑を以て予防せんとする犯罪行為は憲法第一三条にいう公共の福祉に甚し
く反するものであり、これに対し本令所定の如き刑を科しても同条違反にならぬこ
とも上来の説示で明らかであろう。少しでも政府に反対する者があれば、直ちに捕
えて厳罰を科するとか、つまらない物を一つ盗んでも死刑に処するとか言うのなら
ば、それは所論のように不当に人権を無視するものとか、軽視するものとかいうこ
とになるであろう。然し本令の刑の如きは、冒頭説示したような相当の理由があつ
て定められたもので、これが一般刑法の刑に比して重いとか、刑法第六六条の適用
がないとか、或は又体刑と金刑との間に若干の間隔があるとか言う理由で、憲法違
反などというべきものではない。刑法第六六条の適用はなくても、本令の刑は十五
年の体刑から二千円の金刑に至るまで、非常に広い幅があるのであるから、その間
充分情状を酌量する余地があるのである。刑法第六六条を適用しないということは、
結局情状の酌量は右二千円迄の範囲で充分という意に帰着するだけである。(所論
の強盗殺人の如きは、刑が死刑又は無期懲役と非常に重く且つ狭く限定されて居る
から、酌量減軽ということが考慮される要がある。酌量減軽しても尚七年の体刑で
本令の二千円の罰金とは比較にならない重いものである。)裁判官も右の範囲で充
分情状の酌量ができるのであつて、三年の懲役では重過ぎると思えば、罰金刑を言
渡せばいいのである。懲役三年で重過ぎると思う場合に、一万円の罰金を言渡して、
それでは軽過ぎると思う場合はそれはあるかも知れない。しかし、その軽過ぎるが
ために、良心に反して堪えられないというようなことは、理窟としては考え得るか
も知れないけれども、実際上は殆んどないであろう。本令は裁判官に対して、良心
に反する裁判をすることを強うるもので憲法違反であるなどいうものではない。各
法令について一々右のような特殊の場合を考え、或る具体的の場合に、法の定める
処が自己の意に添わないことがあるかも知れないという理由で、法令を憲法違反な
りとして無効とするが如きことは、憲法が裁判官に向つて要求する処でないのは勿
論許しても居ない処である。凡て裁判官は法(有効な)の範囲内において、自ら是
なりと信ずる処に従つて裁判をすれば、それで憲法のいう良心に従つた裁判といえ
るのである。
 尚論旨では、本令のような刑を命令を以て定めたのが不当で無効であるというけ
れども、本令が形式上有効のものであることは、日本国憲法施行の際現に効力を有
する命令の規定の効力等に関する法律第一条の二によつても明らかであるし、又内
容上違憲無効のものでないことは、上来説示の通りである。
 以上の理由により、本件各上告は総て理由なきものとし、刑事訴訟法第四四六条
に従い主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官全員一致の意見である。
 検察官 岡本梅次郎関与。
  昭和二三年一二月一五日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    島           保
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛