弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士鈴木喜三郎の上告理由について。
 まず、所論の「裁判所の失態と責任」とについて、反省してみる。記録によると、
原審は、第一回口頭弁論期日(昭和二五年二月三日)において、控訴代理人の申請
にかかる証人D、の訊問を採用しその訊問期日を同年三月三日と指定し、控訴代理
人は二月二四日に右証人訊問申請書を提出し、裁判所は同日右証人に対して呼出状
を発送している。ところが右呼出状は同年三月四日(即ち証人訊問期日の翌日)赤
坂郵便局の窓口において控訴人本人によつて受取られている。しかも、その郵便送
達報告書(記録七二丁)をみると、証人の肩書住所は、抹削せられて赤坂郵便局窓
口と書き直されている。この間の事情はよく判らないけれども、裁判所は右呼出状
を代理人提出にかかる証人訊問申請書に記載せられた証人の住所に宛てゝ発送した
にかかわらず、何等かの事情で、右証人の住所では証人に対する送達はできないで、
前示赤坂郵便局の窓口でその証人に対する呼出状が控訴人本人によつて受領せられ
ているというのが実状である。してみれば、裁判所としては、証人に対する呼出状
を、十分の期間をおいて申請書に記載された証人の住所に宛てゝ適式に郵便送達を
したもので、裁判所には所論のような「失態」も「責任」もないものと云わなけれ
ばならない。
 一方証人訊問期日に指定せられた三月三日には、もとより右証人は不出頭であり、
よつて裁判所は次回証人訊問の期日を四月三日と指定したが、さきに控訴代理人の
納付した郵便切手はなくなつていたにかかわらず、代理人から右証人呼出に要する
費用が納付されなかつたので、裁判所はやむなく証人呼出をしないまゝ四月三日の
期日をむかえたのであるが、この期日に代理人は、適式の呼出を受けながら出頭し
ていない。(同代理人がいかなる事由によつて、右期日に出頭しなかつたかは、記
録上明らかでない)そこで、裁判所は右証人訊問をしない旨を告げ弁論を終結し、
その後弁護再開の申請もなく原判決は言渡された。以上が所論証人の訊問がなされ
ないで原判決のなされるに至つた記録にあらわれた大体の経過である。
 しかして、本件第一審においては上告人は数回に亘つて適式な呼出を受けながら
口頭弁論期日に出頭せず、かつ答弁書その他の準備書面を提出せず遂に不出頭のま
ゝ敗訴の判決を受け、控訴審において、その第一回口頭弁論期日に、始めて訴訟代
理人が出頭し「上告人は被上告人の関係者であるE個人と取引したことはあるけれ
ども、被上告人と取引したことはない」と陳述し、この点の立証として証人Dの訊
問を申請したものであつて、右証拠方法の提出は著しく時機におくれたものといわ
なければならない。(昭和八年二月七日大審院判決参照)しかるに原審は、一応、
右申請を容れて証人訊問の決定をしたのであるが、その後証人訊問申請書に記載さ
れた住所においては証人に対する呼出状は送達されず、従つて証人訊問の期日に間
に合わず、且証人に対する再度の呼出については費用の予納もなく、しかも、第三
回期日には上告人の訴訟代理人も出頭しなかつたので、かくては、訴訟の完結が益
々遅延するに至るものと認め原審は職権を以て右証拠調を行わないこととし、右証
拠調の申請を却下したものと解するのが相当である。しからば、右証拠調の申請が
当事者の故意又は重大なる過失に因らないで、遅延したものであるとの主張立証の
ない本件においては原審の措置は民訴一三九条に照し正当であるといわなければな
らない。論旨は理由がない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従つて、、全裁判官一致の意見により
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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