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平成23年3月29日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成21年(ワ)第13089号特許権侵害行為差止等請求事件
口頭弁論終結日平成23年1月28日
判決
原告株式会社キャットアイ
同訴訟代理人弁護士小松陽一郎
同宇田浩康
同井崎康孝
同中村理紗
同辻淳子
同訴訟代理人弁理士吉田昌司
同荒川伸夫
同高橋智洋
被告有限会社ダイアテックプロダクツ
同訴訟代理人弁護士伊原友己
同訴訟代理人弁理士小林良平
被告補助参加人ノグ・ピー・ティー・ワイ・リミテッド
同訴訟代理人弁護士高橋淳
同訴訟代理人弁理士布施行夫
主文
1被告は,別紙物件目録記載の各製品を輸入し,販売し,又は販売の申出(販
売のための展示を含む。)をしてはならない。
2被告は,原告に対し,108万9898円及びこれに対する平成22年10
月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用のうち補助参加により生じた費用は,被告補助参加人の負担とし,
その余の訴訟費用は,これを2分し,それぞれを原告と被告の負担とする。
5この判決は,第1項,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1主文1項と同旨
2被告は,別紙物件目録記載の各製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,3904万4000円及びこれに対する平成22年1
0月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「表示装置」とする後記本件特許権を有する原告が,
別紙物件目録記載の各製品(以下,同目録記載1の製品を「被告製品1」,同目
録記載2の製品を「被告製品2」といい,併せて「被告各製品」という。)を輸
入,販売等する被告の行為は本件特許権を侵害する行為であると主張して,被
告に対し,特許法100条1項に基づき,被告各製品の輸入,販売等の差止め
を,同条2項に基づき,被告各製品の廃棄をそれぞれ求めるとともに,本件特
許権侵害の不法行為に基づく損害賠償として3904万4000円及びこれに
対する不法行為の日の後である平成22年10月1日から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1判断の基礎となる事実(当事者間に争いがない。)
(1)当事者等
ア原告は,自転車部品・附属品の製造販売等を目的とする会社である。
イ被告は,自転車並びにその部品,附属品及び工具の輸出入等を目的とす
る会社である。
ウ被告補助参加人は,被告各製品を製造して被告に販売していたオースト
ラリア法人である。
(2)原告の特許権
ア原告は,次の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本
件特許権」といい,本件特許出願の願書に添付した明細書及び図面を併せ
て「本件明細書」という。また,特許請求の範囲の請求項1及び請求項1
を引用する請求項4に記載された発明を順に「本件特許発明1」及び「本
件特許発明2」といい,本件特許発明1と本件特許発明2を併せて「本件
各特許発明」という。)を有している。
登録番号特許第4246741号
発明の名称表示装置
出願日平成18年1月20日
登録日平成21年1月16日
特許請求の範囲
【請求項1】
「バーに取付けられる表示装置であって,第1の情報を表示する第1表示
状態,および,第2の情報を表示する第2表示状態を実現可能な表示部
を有する本体と,前記本体を前記バーに固定するための固定具とを備え,
前記本体は前記固定具上で回動可能に支持され,前記本体における前記
固定具に対向する面から突出するように前記第1表示状態と前記第2
表示状態の切換えを行なう切換スイッチが設けられ,前記本体を上方か
ら下方に向けて押すことにより,前記固定具上に支持された前記本体が
回動し,前記切換スイッチが前記固定具により前記本体の内方に押し込
まれ,前記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えが行なわれる,表
示装置。」
【請求項4】
「前記バーは,二輪車のハンドルバー,フレームまたはステムである,請
求項1から請求項3のいずれかに記載の表示装置。」
イ本件各特許発明の構成要件は,次のとおりに分説することができる(以
下「構成要件A」などという。)。
(ア)本件特許発明1
Aバーに取付けられる表示装置であって,
B第1の情報を表示する第1表示状態,および,第2の情報を表示す
る第2表示状態を実現可能な表示部を有する本体と,
C前記本体を前記バーに固定するための固定具とを備え,
D前記本体は前記固定具上で回動可能に支持され,
E前記本体における前記固定具に対向する面から突出するように前
記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えを行なう切換スイッチが
設けられ,
F前記本体を上方から下方に向けて押すことにより,前記固定具上に
支持された前記本体が回動し,前記切換スイッチが前記固定具により
前記本体の内方に押し込まれ,前記第1表示状態と前記第2表示状態
の切換えが行なわれる表示装置。
(イ)本件特許発明2
G前記バーは,二輪車のハンドルバー,フレームまたはステムである,
H請求項1に記載の表示装置。
(3)被告の行為
被告は,少なくとも平成21年4月9日から同年7月6日までの間,被告
各製品を輸入して販売していた。
2争点
(1)本件特許のうち請求項1及び請求項4に係る特許は特許無効審判により
無効にされるべきものか
ア新規性の欠如1(争点1−1)
本件各特許発明は米国特許第4638448号公報(乙2−1−1,以
下「乙2−1−1公報」という。)に記載された発明と同一か
イ進歩性の欠如1(争点1−2)
本件各特許発明は乙2−1−1公報に記載された発明(主引例)と特公
平5−36888号公報(乙2−5,以下「乙2−5公報」という。)に記
載された発明(副引例)に基づいて当業者が容易に発明することができた
ものか
ウ進歩性の欠如2(争点1−3)
本件各特許発明は乙2−1−1公報に記載された発明と周知技術(特許
第2926349号公報[乙2−2,以下「乙2−2公報」という。],特
開昭55−96482号公報[乙2−3,以下「乙2−3公報」という。],
特許第3598365号公報[乙2−4,以下「乙2−4公報」という。]
及び乙2−5公報に記載されている周知技術)に基づいて当業者が容易に
発明することができたものか
エ進歩性の欠如3(争点1−4)
本件各特許発明は乙2−1−1公報に記載された発明と周知技術(「図
説IPC−電気的スイッチ」[丙4],特開2005−350064号公報
[丙7]及び「制御機器の基礎知識」[丙20]に記載された周知技術)
に基づいて当業者が容易に発明することができたものか
オ新規性の欠如2(争点1−5)
本件各特許発明は本件特許出願前に公然知られたPlanetBike社製の
「Protege8.0(又はProtege9.0)」(以下「プラネットバイク社製品」とい
う。)に係る発明と同一か
カ進歩性の欠如4(争点1−6)
本件各特許発明は,乙2−1−1公報に記載された発明(主引例)とプ
ラネットバイク社製品に係る発明(副引例)に基づいて当業者が容易に発
明することができたものか
キ進歩性の欠如5(争点1−7)
本件各特許発明は,プラネットバイク社製品に係る発明(主引例)と乙
2−1−1−公報に記載された発明(副引例)に基づいて当業者が容易に
発明することができたものか
クサポート要件に違反するか(争点1−8)
ケ明確性要件に違反するか(争点1−9)
(2)被告各製品は本件各特許発明の技術的範囲に属するか(争点2)
(3)原告の損害の額(争点3)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1−1(新規性の欠如1)について
【被告及び補助参加人(以下「被告ら」という。)の主張】
(1)乙2−1−1公報に記載された発明
本件特許出願前に頒布された乙2−1−1公報には下記の発明が記載され
ている。

A1バーに固定された支持体に取付けられる表示装置であって,
B1走行距離,ユーザーの出発時からの経過時間や瞬間速度等,第1表示
状態と第2表示状態を含む複数の表示状態を実現可能な表示ウィンドウ
12(本件各特許発明の「表示部」に相当する。)を有するカバー3(本
件各特許発明の「本体」に相当する。)と,
C1前記カバー3を,前記バーに固定された支持体に取付けるための基部
2(本件各特許発明の「固定具」に相当するもの)とを備え,
D1前記カバー3は前記基部2上で回動可能に支持されており,
E1前記カバー3における前記基部2に対向する面から突出するように前
記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えを行なうスイッチ6(本件
各特許発明の「切換スイッチ」に相当するもの)が設けられ,
F1前記カバー3を上方から下方に向けて押すことにより,前記基部2上
に支持された前記カバー3が回動し,前記スイッチ6が前記基部2によ
り前記カバー3側に押され,前記第1表示状態と前記第2表示状態の切
換えが行なわれる表示装置。
G1前記バーは,ハンドルバーである。
(2)本件各特許発明と乙2−1−1公報に記載された発明との対比
ア乙2−1−1公報に記載された発明の上記A1∼E1の構成は本件各特
許発明の構成要件A∼Eと同一であり,乙2−1−1公報に記載された発
明の上記G1の構成は本件特許発明2の構成要件Gと同一である。
イ本件各特許発明の構成要件Fと乙2−1−1公報に記載された発明の構
成F1との対比
(ア)乙2−1−1公報には,スイッチ6はカバー3側に押されると記載
されているだけであり,「本体の内方に押し込まれる」とまでは記載さ
れていないが,本件各特許発明の「切換スイッチ」は,表示部を有する
本体を上方から下方に向けて押すことにより本体が回動したことを機
械的に検出する切換スイッチとして機能すればその目的を達するもの
であるから,乙2−1−1公報に記載された発明のスイッチ6と本件各
特許発明の「切換スイッチ」は実質的に同一である。
(イ)そうすると,乙2−1−1公報に記載された発明の上記F1の構成
は本件各特許発明の構成要件Fと同一であるといえる。
(3)したがって,本件各特許発明は,乙2−1−1公報に記載された発明と同
一であるから新規性がない。
【原告の主張】
(1)乙2−1−1公報に記載された発明
被告らは,乙2−1−1公報に記載の「カバー3」と「基部2」とが順に
本件各特許発明の「本体」及び「固定具」に対応すると主張する。
しかし,乙2−1−1公報には,ケース1の基部2が図示しない支持体に
よってハンドルバーに固定されると記載されているから,「基部2を含むケー
ス1の全体」と「支持体」が順に本件各特許発明の「本体」及び「固定具」
に相当するというべきである。
(2)本件各特許発明と乙2−1−1公報に記載された発明との対比
ア構成要件Aについて
乙2−1−1公報に記載された発明が本件各特許発明の構成要件Aに
対応する構成を備えている点は争わない。
イ構成要件BないしFについて
上記のとおり,乙2−1−1公報に記載のケース1が本件各特許発明の
「本体」に対応するものであるところ,ケース1は,その内部に可動部を
有する基部2とカバー3とが相対的に動くにすぎず,全体として支持体に
対して回動するものでもない。
また,乙2−1−1公報に記載された発明は,支持体に対向する面から
突出するように切換スイッチが設けられた構成ではない。
そうすると,乙2−1−1公報に記載された発明は,本件各特許発明の
構成要件BないしFに相当する構成を備えているとはいえない。
(3)したがって,本件各特許発明は乙2−1−1公報に記載された発明と同一
ではない。
2争点1−2(進歩性の欠如1)について
【被告らの主張】
(1)乙2−1−1公報に記載された発明(主引例)
乙2−1−1公報に記載された発明は,上記1【被告らの主張】(1)のとお
りである。
(2)本件各特許発明と乙2−1−1公報に記載された発明との対比
乙2−1−1公報に記載された発明が本件各特許発明と同一でないとして
も,少なくとも乙2−1−1公報に記載された発明の構成A1∼E1は本件
各特許発明の構成要件A∼Eと同一であり,乙2−1−1公報に記載された
発明の構成G1は本件特許発明2の構成要件Gと同一である。
(3)乙2−5公報に記載された発明(副引例)
乙2−5公報には,弾性カバーに加えられた押圧力を,支持部441上の
可動片64a,64bにより反転させて,スイッチアクチュエータ562を
矢印C方向に押し込むことを介して,タクトスイッチ56を操作カバー60
の内方に(つまり下方から上方に)押し込むという,操作カバー60上の支
持部441に対向する面から突出するように設けられたタクトスイッチ56
のメカニズムが記載されている。
乙2−5公報の操作カバー60及び可動片64a,64bを備える支持部
441は,順に本件各特許発明の「本体」及び「固定具」にそれぞれ相当す
る。
そうすると,乙2−5公報には,「固定具に対向する面から突出するように
設けられ,本体を上方から下方に押すことにより,固定具により本体の内方
に押し込まれるメカニズムのスイッチ」が記載されているといえる。
(4)容易想到性
乙2−5公報に記載された発明は,操作パネルに取り付ける等して利用さ
れるものであって,スイッチ機能と表示機能とを兼ね備える表示器用スイッ
チに関するものであるから,乙2−1−1公報に記載された発明と同一の技
術分野に属するものである。
そうすると,仮に,乙2−1−1公報に本件各特許発明の「切換スイッチ」
のメカニズムが記載されていないとしても,当業者が乙2−1−1公報に記
載された発明と乙2−5公報に記載された発明とを組み合わせることには十
分な動機付けがあるから,本件各特許発明に想到することは容易というべき
である。
(5)したがって,本件各特許発明は,乙2−1−1公報に記載された発明と乙
2−5公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができ
たものであるから,進歩性がないというべきである。
【原告の主張】
(1)本件各特許発明と乙2−1−1公報に記載された発明との相違点
被告らは,乙2−1−1公報には本件各特許発明の構成要件F以外の構成
が記載されていると主張するが,上記1【原告の主張】のとおり,乙2−1
−1公報には本件各特許発明の構成要件BないしFが記載されていない。
(2)乙2−5公報に記載された発明について
乙2−5公報に記載された発明は,表示器付スイッチに関するものであり,
表示装置とは技術分野が全く異なる技術である。
また,乙2−5公報に記載された発明の目的は,「奥行を小さくすることが
でき,しかも固定プリント基板を用いる場合でも1枚で表示器の複数列の端
子配列を利用可能にした表示器付スイッチを提供する」ことであるから,「表
示される数値に関する曖昧さを回避しながら,迅速かつ簡単に情報を利用す
ることを可能とする電子走行距離計を提供する」ことを目的とする乙2−1
−1公報に記載された発明とは,具体的な課題の共通性もなく,前提となる
構成も全く異なるものである。
そうすると,乙2−1−1公報に記載の「スイッチ6」を乙2−5公報に
記載の「アクチュエータ562及びスイッチ56」に置き換えることは到底
不可能であって,乙2−5公報に記載の「アクチュエータ562及びスイッ
チ56」から,本件各特許発明の「切換スイッチ」に容易に想到することは
できないというべきである。
(3)したがって,被告らの主張は,本件各特許発明と乙2−1−1公報に記載
された発明との一致点・相違点を誤ったものであるから,その前提において
失当であるということになるが,その点を置いても,本件各特許発明と乙2
−1−1公報に記載された発明との相違点に係る構成は,乙2−5公報に記
載されていないから,乙2−1−1公報に記載された発明に乙2−5公報に
記載された発明を組み合わせても相違点に係る構成を得ることはできない。
(4)以上によれば,乙2−1−1公報に記載された発明及び乙2−5公報に記
載された発明に基づいて当業者が本件各特許発明を容易に発明できたとする
被告らの主張には理由がないということになる。
3争点1−3(進歩性の欠如2)について
【被告の主張】
(1)乙2−1−1公報に記載された発明(主引例)
乙2−1−1公報には上記1【被告らの主張】(1)のとおりの発明が記載さ
れている。
(2)本件各特許発明と乙2−1−1公報に記載された発明との対比
乙2−1−1公報に記載された発明が本件各特許発明と同一でないとして
も,少なくとも乙2−1−1公報に記載された発明の構成A1∼E1は本件
各特許発明の構成要件A∼Eと同一であり,乙2−1−1公報に記載された
発明の構成G1は本件特許発明2の構成要件Gと同一である。
(3)周知技術
乙2−2公報ないし乙2−5公報には,以下に詳述するとおり,「固定具に
対向する面から突出するように設けられ,本体を上方から下方に押すことに
より,固定具により本体の内方に押し込まれるメカニズムのスイッチ」が記
載されているから,本件各特許発明の「切換スイッチ」のメカニズムは当業
者であれば当然に利用可能な技術常識であったといえる。
ア乙2−2公報
乙2−2公報には,開閉可能に係合された第1の筐体2及び第2の筐体
3を含み,第2の筐体3の第1の筐体2に対向する面からスイッチ6が設
けられ,スイッチ6が第1の筐体2と第2の筐体3との開閉状態を検出し
て2つの表示モードを切り換える電子機器が記載されている。
乙2−2公報に記載された第2の筐体3,第1の筐体2及びスイッチ6
は,順に本件各特許発明の「本体」,「固定具」及び「切換スイッチ」に相
当する。
したがって,乙2−2公報には「固定具に対向する面から突出するよう
に設けられ,本体を上方から下方に押すことにより,固定具により本体の
内方に押し込まれるメカニズムのスイッチ」が記載されているといえる。
イ乙2−3公報
乙2−3公報には,表示体2と支持体1とが支軸3により互いに回動可
能に支持され,支持体1側にアラームセットスイッチの端子9,10が設
けられ,表示体の端部11が一方の端子9を端子10より離す方向に移動
させてアラームセットスイッチのオン,オフ状態を切り換えるポケット時
計が記載されている。
そして,乙2−3公報に記載の表示体2,支持体1及び端部11が本件
各特許発明の「本体」,「固定具」及び「切換スイッチ」に相当する。
したがって,乙2−3公報には,「固定具に対向する面から突出するよ
うに設けられ,本体を上方から下方に押すことにより,固定具により本体
の内方に押し込まれるメカニズムのスイッチ」が記載されているといえる。
ウ乙2−4公報
乙2−4公報には,押圧片15が筐体11(本件各特許発明の「本体」
に相当する。)の作動片16(本件各特許発明の「固定具」に相当する。)
に対向する面から突出するように設けられ,作動片16により本体の内方
に押し込まれるメカニズムのスイッチが記載されている。
押圧片15はスイッチ自体ではないが,スイッチの構成部分をスイッチ
自体に応用することは当業者の慣用技術である。
したがって,乙2−4公報には「固定具に対向する面から突出するよう
に設けられ,本体を上方から下方に押すことにより,固定具により本体の
内方に押し込まれるメカニズムのスイッチ」が記載されている。
エ乙2−5公報
乙2−5公報には,上記2【被告らの主張】(3)で主張したとおり,「固
定具に対向する面から突出するように設けられ,本体を上方から下方に押
すことにより,固定具により本体の内方に押し込まれるメカニズムのスイ
ッチ」が記載されている。
(4)容易想到性
乙2−1−1公報に記載された発明のスイッチ6が本件各特許発明の「本
体の内方に押し込まれるスイッチ」と同一でないとしても,「本体の内方に押
し込まれるスイッチ」は周知技術であるから,乙2−1−1公報に記載され
た発明のスイッチ6の代わりに「本体の内方に押し込まれるスイッチ」を用
いることは当業者にとって容易である。
(5)したがって,本件各特許発明は,乙2−1−1公報に記載された発明及び
上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであると
いえるから,進歩性がないというべきである。
【原告の主張】
(1)本件各特許発明と乙2−1−1公報に記載された発明との相違点
被告らは,乙2−1−1公報には本件各特許発明の構成要件F以外の構成
が記載されていると主張するが,上記1【原告の主張】のとおり,乙2−1
−1公報には本件各特許発明の構成要件BないしFが記載されていない。
(2)被告ら主張の周知技術について
被告らは,「本体の内方に押し込まれるスイッチ」が乙2−2公報ないし乙
2−5公報に記載されているように周知技術であり,乙2−1−1公報に記
載された発明にこの周知技術を組み合わせることにより本件各特許発明に容
易に想到することができたと主張するが,以下のとおり,乙2−2公報ない
し乙2−5公報を個別に検討しても,本件各特許発明に想到することはでき
ない。
ア乙2−2公報について
(ア)乙2−2公報に記載のスイッチ6は,レストランのウエイトレスオ
ーダーリングシステム等に関するものであって,本件各特許発明とは技
術分野が全く異なるものである。
また,乙2−2公報に記載のスイッチ6は,機器の開閉状態に関係な
く,表示パネルの文字情報を得るものであるのに対し,本件各特許発明
の切換スイッチは,表示部の領域の縮小を抑制しながら表示切換えの操
作性を向上させるものであり,具体的な課題及び作用効果の面でも両者
は全く異なる。
具体的な構成としても,乙2−2公報に記載のスイッチ6は,表示内
容の切換えではなく,表示パネルの表,裏を切換えるための構成であっ
て,同一表示部上における表示の切換えを行なうものではない。
したがって,乙2−2公報に記載のスイッチ6は,本件各特許発明の
切換スイッチに相当するものではない。
(イ)そして,乙2−2公報に記載された発明は,第1の筐体2及び第2
の筐体3を互いに回動可能に固定しているものであり,単一の筐体であ
るケース1を構成する基部2及びカバー3を互いに回動可能に固定し
ている乙2−1−1公報に記載された発明とはその具体的構造が全く
異なるから,乙2−1−1公報に記載の「スイッチ6」を乙2−2公報
に記載の「スイッチ6」に置き換えることはおよそ不可能である。
(ウ)したがって,乙2−2公報に記載のスイッチ6から,本件各特許発
明の切換スイッチに容易に想到することはできない。
イ乙2−3公報について
(ア)乙2−3公報に記載された発明は,ポケット時計に関するものであ
って,本件各特許発明とは技術分野が全く異なるものである。
また,乙2−3公報に記載の表示体2から突出する端部は,端子9,
10を開閉することによりアラームのON/OFFを切り換えるもの
であり,表示状態を切り換える本件各特許発明の「切換スイッチ」とは,
その機能及び基本的構成が全く異なる。
そして,乙2−3公報に記載された発明は,①アラームセットのため
の操作部材を節約する,②アラームセット忘れがない,③ポケットに入
れて運搬するときにはアラームをOFFにセットすることにより,鳴っ
てしまって他に迷惑を掛けることがないようにするものであり,本件各
特許発明とは具体的な課題及び作用効果も全く異なる。
そもそも,乙2−3公報に記載の表示体2から突出する部分は,表示
体2の内方に押し込まれるものではないため,本件各特許発明における
「本体における固定具に対向する面から突出し,固定具により本体の内
方に押し込まれる切換スイッチ」(構成要件E,F)に相当するものでは
ない。
したがって,乙2−3公報に記載の「アラームセットスイッチ」は,
本件各特許発明の「切換スイッチ」とは全く異なるものである。
(イ)そして,乙2−3公報に記載の時計は,各々が筐体を構成する支持
体1及び表示体を互いに回動可能に固定するものであって,単一の筐体
であるケース1を構成する基部2及びカバー3を互いに回動可能に固
定する乙2−1−1公報に記載された発明とはその具体的構造が全く
異なるから,乙2−1−1公報に記載の「スイッチ6」を乙2−3公報
に記載の「アラームセットスイッチ」に置き換えることはおよそ不可能
である。
(ウ)したがって,乙2−3公報に記載の「アラームセットスイッチ」か
ら,本件各特許発明の「切換スイッチ」に容易に想到することはできな
い。
ウ乙2−4公報について
乙2−4公報に記載された発明は,「自動給餌装置」に関するものであ
って,本件各特許発明とは技術分野が全く異なるものである。
そして,乙2−4公報に記載の「自動給餌装置」では,筐体11が回動
して押圧片15が筐体11の内方に押し込まれるのではなく,作動片16
が揺動することで押圧片15が筐体11の内方に押し込まれるものであ
り,「本体が回動して切換スイッチが本体の内方に押し込まれる」という
本件各特許発明の構成要件Fとはその動作が全く逆であり,乙2−4公報
に記載された発明は,本件各特許発明への適用阻害要因を有するものであ
る。
よって,乙2−4公報に記載の「自動給餌装置」の「押圧片15」から,
本件各特許発明の「切換スイッチ」に容易に想到することはできない。
エ乙2−5公報について
乙2−5公報に記載された発明は,表示器付スイッチに関するものであ
って,本件各特許発明とは技術分野が全く異なるものであることに加え,
乙2−1−1公報に記載された発明とは,具体的な課題の共通性もなく,
前提となる構成も全く異なるものであることは上記2【原告の主張】(2)
に記載したとおりである。
したがって,乙2−1−1公報に記載の「スイッチ6」を乙2−5公報
に記載の「アクチュエータ562及びスイッチ56」に置き換えることは
到底不可能であり,乙2−5公報の「アクチュエータ562及びスイッチ
56」から,本件各特許発明の「切換スイッチ」に容易に想到することは
できない。
(3)以上によれば,被告らの主張は,本件各特許発明と乙2−1−1公報に記
載された発明との一致点・相違点を誤ったものであるから,その前提におい
て失当であるというべきであるが,その点を置いても,本件各特許発明と乙
2−1−1公報に記載された発明との相違点に係る構成は,乙2−2公報な
いし乙2−5公報のいずれにも記載されていないから,乙2−1−1公報に
記載された発明に乙2−2公報ないし乙2−5公報に記載された発明をどの
ように組み合わせても相違点に係る構成を得ることはできないというべきで
ある。
(4)したがって,乙2−1−1公報に記載された発明及び乙2−2公報ないし
乙2−5公報に記載された発明に基づいて当業者が本件各特許発明を容易に
発明できたとする被告らの主張には理由がない。
4争点1−4(進歩性の欠如3)について
【被告らの主張】
(1)乙2−1−1公報に記載された発明
仮に,乙2−1−1公報に上記1【被告らの主張】(1)の発明が記載されて
いないとしても,少なくとも同公報には下記の発明が記載されている

①表示部を有するカバーと基部と支持部から構成される自転車用表示装置。
②表示部を押圧し,カバーを回動させることにより,スイッチが作動し,表
示部の表示状態が切り替わる。
(2)本件各特許発明と乙2−1−1公報に記載された発明との対比
乙2−1−1公報に記載された発明は,①「本体」の一部を回動させるも
のであり,「本体」を「回動させる」ものではない点(以下「相違点1」とい
う。),②切換スイッチの一部であるアクチュエータが本体の内方に押し込ま
れるという構造が明らかでない点(以下「相違点2」という。)において,本
件各特許発明と相違するが,その余の構成は本件各特許発明と一致する。
(3)周知技術
ア本件明細書及び特開2005−350064号公報(丙7,以下「丙7
公報」という。)に記載されているように,本件特許出願当時,一つの部材
からなる本体と固定具を構成要素とする自転車用表示装置は周知であった
(以下「周知技術1」という。)。
イ「図説IPC−電気的スイッチ」(丙4,以下「丙4文献」という。)及
び「制御機器の基礎知識」(丙20,以下「丙20文献」という。)に記載
されているように,本件特許出願当時,マイクロスイッチ(電気回路開閉
装置)が部材の内部に収納され,作動体の動きと逆方向の動きをアクチュ
エータがマイクロスイッチに伝えてマイクロスイッチが作動する逆作動方
式のリミットスイッチは周知であった(以下「周知技術2」という。)。
(4)容易想到性
ア相違点1について
(ア)乙2−1−1公報に記載された発明と周知技術1とは技術分野が同
一である上,「操作性の向上と表示領域の確保」という課題が共通する。
そして,自転車用表示装置が屋外で使用されることを考えれば,耐久
性が高い方が望ましいが,本体の一部を回動させる場合,連結部材が必
要となり,連結部材が外れるリスクが生じるから,耐久性を高めるとい
う観点からは,本体の一部ではなく,本体全体を回動させる方が望まし
いことは明らかである。
したがって,乙2−1−1公報に記載された発明の「カバーと基部」
を一つの部材である「本体」に置換することには,耐久性を高めるとい
う動機付けがあるというべきである。
(イ)また,「操作性の向上と表示領域の確保」という課題を解決するため
には,表示領域を有する部分をスイッチ作動部とし,この部分を回動さ
せてアクチュエータを作動させ,スイッチを起動させることが本質的事
項であり,回動の対象が「本体」であるか,「本体の一部」であるかは
無関係である。
したがって,乙2−1−1公報に記載された「カバーと基部」を一つ
の部材である「本体」に置換することに阻害要因はない。
イ相違点2について
(ア)自転車用表示装置において耐久性が要求されること,及び,誤作動
防止が課題であることは本件特許の出願時の技術常識であるところ,逆
作動方式のリミットスイッチが耐久性及び誤作動防止に優れているこ
とも本件特許の出願時の技術常識であるから,自転車表示装置のスイッ
チとして,周知技術2のスイッチを選択することには動機付けがある。
(イ)乙2−1−1公報に記載された発明に周知技術1を適用して到達す
る自転車用表示装置(以下「回動式自転車用表示装置」という。)は,
本体の表示領域部分を作動体とするものであるから,これに周知技術2
の逆作動方式のリミットスイッチを適用する場合,マイクロスイッチと
しての押圧スイッチは本体内部に設けられることになる。
そして,アクチュエータは,マイクロスイッチの作動体に負荷された
押圧力を伝達するものであるから,一部が本体中に存在する必要がある
一方,当該押圧力を受け止めるためには一部が本体の外に存在する必要
がある。
以上に加え,当該押圧力は本体の回動を利用してアクチュエータに伝
達されるものであること,回動式自転車用表示装置においては,本体が
固定具の上部に位置すること,自転車用表示装置における製品の小型
化・単純化(部品数の減少)の要請を考慮すれば,回動式自転車用表示
装置においては,必然的に,本体の底部に対向する面である固定具の表
面からの反作用を利用して押圧スイッチを押圧するという構成に到達
することになる。
(5)したがって,本件各特許発明は,乙2−1−1公報に記載された発明と周
知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に想到することができたも
のであるといえるから,進歩性がないというべきである。
【原告の主張】
丙7公報に記載された発明は,「限られた面積に多くの情報を表示しても情報
を直感的に認識しやすい自転車用表示装置を提供すること」を課題とするもの
であって,そのために,表示部に各種の情報を光学的に表示可能とし,表示部
に表示される情報を視認するためにバックライト光源を設けたものであるから,
表示の切換えを前提として操作性の向上という課題を有するものではなく,表
示領域の確保という課題を有するものでもない。
また,乙2−1−1公報には,ケース1の一部が回動する場合と,ケース1
が可動部を有しない場合が記載されているだけであるから,仮に,乙2−1−
1公報に記載のケース1に代えて丙7公報に記載の自転車用表示装置の本体に
相当する部分を適用したとしても,本体が可動部を有しなくなるだけであり,
固定具上に支持された本体が全体として回動するという本件各特許発明に想到
することはできない。
したがって,乙2−1−1公報に記載された発明に丙7公報に記載された発
明等を適用したとしても,本件各特許発明に容易に想到することはできないか
ら,被告らの主張には理由がない。
5争点1−5(新規性の欠如2)について
【被告らの主張】
(1)プラネットバイク社製品
本件特許出願前,下記の構成を有するプラネットバイク社製品に係る発明
が公然知られ,かつ公然実施されていた。

A2バーに取付けられる表示装置であって,
B2第1の情報を表示する第1表示状態,及び,第2の情報を表示する第
2表示状態を含む複数の表示状態を実現可能な表示部を有するコンピュ
ーターケース3(本件各特許発明の「本体」に相当する。)と,
C2前記コンピューターケース3を前記バーに固定するためのマウンティ
ングブラケット1(本件各特許発明の「固定具」に相当する。)とを備え,
D2前記コンピューターケース3は前記マウンティングブラケット1上で
前後動可能に支持され,
E2前記コンピューターケース3におけるマウンティングブラケット1に
対向する面から突出するように前記第1表示状態と前記第2表示状態の
切換えを行なうモードスイッチ(本件各特許発明の「切換スイッチ」に
相当する。)が設けられ,
F2前記コンピューターケース3を後方から前方に向けて押すことにより,
前記固定具上に支持された前記本体が前方に移動し,前記モードスイッ
チが前記マウンティングブラケット1により前記コンピューターケース
3の内方に押し込まれ,前記第1表示状態と前記第2表示状態の切換え
が行なわれる,
G2表示装置が取り付けられているバーは,自転車のハンドルバーである。
(2)プラネットバイク社製品は,上下方向に押圧し,回動させることにより表
示状態の切換えが可能であり,現実に,ユーザーはこのような方法で表示状
態を切り換えている。
したがって,本件各特許発明は,プラネットバイク社製品に係る発明と機
械的構造が同一であるから,新規性がないというべきである。
【原告の主張】
プラネットバイク社製品の取扱説明書等においては,コンピューターを前方
に向かって押圧して操作することが通常の,また当然の使用方法とされている
から,上下方向に押圧して回動させることにより表示状態の切換えが可能であ
るとの被告らの主張は明らかに事実に反する。
したがって,本件各特許発明はプラネットバイク社製品と同一ではない。
6争点1−6(進歩性の欠如4)について
【被告らの主張】
(1)乙2−1−1公報に記載された発明(主引例)
乙2−1−1公報には,上記4【被告らの主張】(1)の発明が記載されてい
る。
(2)本件各特許発明と乙2−1−1公報に記載された発明との対比
乙2−1−1公報に記載された発明は,①「本体」の一部を回動させるも
のであり,「本体」を「回動させる」ものではない点(以下「相違点1」と
いう。),②切換スイッチの一部であるアクチュエータが本体の内方に押し込
まれるという構造が明らかでない点(以下「相違点2」という。)において,
本件各特許発明と相違するが,その余の構成は本件各特許発明と一致する。
(3)プラネットバイク社製品に係る発明(副引例)
本件特許出願前,下記の構成を有するプラネットバイク社製品に係る発明
が公然知られ,かつ公然実施されていた。

①ハンドルバーに取付けられる表示装置である。
②第1の情報を表示する第1表示状態及び第2の情報を表示する第2表示
状態を実現可能な表示部を有する本体を有する。
③本体を前記バーに固定するための固定具を有する。
④本体は前記固定具上で回動可能に支持され,
⑤本体における前記固定具に対向する面から突出するように前記第1表示
状態と前記第2表示状態の切換えを行なうスイッチを作動させるロッドが
設けられている。
⑥本体の側面を押圧する結果,ロッドが固定具により本体の内方に押し込
まれ,第1表示状態と第2表示状態の切換えが行なわれる。
(4)容易想到性
ア相違点1について
(ア)乙2−1−1公報に記載された発明とプラネットバイク社製品に係
る発明とは技術分野が同一である上,操作性の向上と表示領域の確保と
いう課題が共通する。
そして,自転車用表示装置が屋外で使用されることを考えれば,耐久
性が高い方が望ましいが,本体の一部を回動させる場合,連結部材が必
要となり,連結部材が外れるリスクが生じるから,耐久性を高めるとい
う観点からは,本体の一部ではなく本体全体を回動させる方が望ましい
ことは明らかである。
したがって,乙2−1−1公報に記載された「カバーと基部」を一つ
の部材である「本体」に置換することには,耐久性を高めるという動機
付けがあるというべきである。
(イ)「操作性の向上と表示領域の確保」という課題を解決するためには,
表示領域を有する部分をスイッチ作動部とし,この部分を回動させてア
クチュエータを作動させ,スイッチを起動させることが本質的事項であ
り,回動の対象が「本体」であるか,「本体の一部」であるかは無関係
である。
したがって,乙2−1−1公報に記載された「カバーと基部」を一つ
の部材である「本体」に置換することに阻害要因はない。
イ相違点2について
乙2−1−1公報に記載された発明とプラネットバイク社製品に係る
発明とは,技術分野が同一である上,「操作性の向上と表示領域の確保」
という課題が共通する。
そして,丙20文献に記載されているように,耐久性の観点からは,押
圧ボタンが本体内部に収容されているプラネットバイク社製品のスイッ
チ機構が優れていることは技術常識である。
さらに,自転車用表示装置において誤作動防止が課題であることは技術
常識であるところ(走行する自転車の振動による表示状態の誤った切換え
が起こり得ることは明らかである。),プラネットバイク社製品のスイッチ
機構は,逆作動方式のリミットスイッチであり,誤作動防止にも優れてい
る。
そうすると,表示装置のスイッチとして,プラネットバイク社製のスイ
ッチを選択することには動機付けがあるということができる。
(5)したがって,本件各特許発明は,乙2−1−1公報に記載された発明と
プラネットバイク社製品に係る発明に基づいて当業者が容易に想到すること
ができたものであるといえるから,進歩性がないというべきである。
【原告の主張】
プラネットバイク社製品に係る発明は,コンピューターの側面を後方から前
方に向かって押すことにより操作するものであるところ,かかる操作方法をと
りながらなお,コンピューターがブラケット上で上下方向に回動することは構
造上ありえない。
乙2−1−1公報に記載された発明とプラネットバイク社製品に係る発明と
の組合せとは,乙2−1−1公報に記載されたケース1(本件各特許発明の「本
体」に相当する部材の一部が回動するもの)とプラネットバイク社製品のコン
ピューターケース3(全体が固定具に対してスライドするもの)とを組み合わ
せることにほかならず,このような組合せはそもそも不可能である上,仮に組
み合わせることができるとしても,本件各特許発明の表示装置に想到すること
は不可能である。
7争点1−7(進歩性の欠如5)について
【被告らの主張】
(1)進歩性の欠如5−1
アプラネットバイク社製品に係る発明(主引例)
本件特許出願前,上記5【被告らの主張】(1)記載の構成を有するプラ
ネットバイク社製品に係る発明が公然知られ,かつ公然実施されていた。
イ本件各特許発明とプラネットバイク社製品に係る発明との対比
本件各特許発明とプラネットバイク社製品に係る発明とを対比すると,
本件各特許発明は本体が上下方向に回動するのに対し,プラネットバイク
社製品に係る発明はコンピューターケース3(本体)が前後方向に動く点
で相違するが,その余は一致する。
ウ乙2−1−1公報に記載された発明(副引例)
乙2−1−1公報には,上記1【被告らの主張】(1)に記載のとおりの
発明が記載されている。
エ容易想到性
(ア)プラネットバイク社製品に係る発明と同じ技術分野に属する乙2−
1−1公報に記載された発明のカバー3は,「上下方向に回動する」も
のであるから,当業者であれば,プラネットバイク社製品に係る発明に
おいて本体を前後方向に移動させる代わりに上下方向に回動させると
いう構成を採用することは容易である。
(イ)「切換えスイッチを表示装置の上面に設けた場合,表示部の表示領
域が縮小される」という本件各特許発明が解決しようとする課題は,乙
2−1−1公報に記載された発明及びプラネットバイク社製品に係る
発明のいずれによっても解決されるものである。
そうすると,本件各特許発明は,プラネットバイク社製品に係る発明
及び乙2−1−1公報に記載された発明などに見られる従来技術以上
の格別の作用・効果を奏するものでもないというべきである。
オしたがって,本件各特許発明は,プラネットバイク社製品に係る発明と
乙2−1−1公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明する
ことができたものであるといえるから,進歩性がないというべきである。
(2)進歩性の欠如5−2
アプラネットバイク社製品に係る発明(主引例)
本件特許出願前,上記6【被告らの主張】(3)の構成を有するプラネット
バイク社製品に係る発明が公然知られ,かつ公然実施されていた。
イ本件各特許発明とプラネットバイク社製品に係る発明との対比
本件各特許発明とプラネットバイク社製品に係る発明とを対比すると,
本件各特許発明では,ロッド本体の内方への押し込みによる第1表示状態
と第2表示状態の切換えの仕組みとして,本体を上方から下方に向けて押
すことにより,固定具上に支持された本体が回動する構成を採用している
のに対し,プラネットバイク社製品では本体を横方向に押す構成を採用し
ている点で相違し,その余の点では一致する。
ウ乙2−1−1公報に記載された発明(副引例)
乙2−1−1公報には,上記4【被告らの主張】(1)記載の発明が記載さ
れている。
エ容易想到性
(ア)プラネットバイク社製品に係る発明と乙2−1−1公報に記載され
た発明とは技術分野が同一である上,操作性の向上と表示領域の確保と
いう課題が共通するから,プラネットバイク社製品に,表示部を有する
部材につき回動を可能にするという乙2−1−1公報に記載された発
明の構成要素を付加することの動機付けがある。
(イ)本体の側面にスイッチ作動子を設けているプラネットバイク社製品
では,制御キーを探したり,表示される情報を認識したりするためにユ
ーザーはかなりの時間にわたって道路から注意を逸らすことになるか
ら,事故が発生する危険が高くなる。
そして,表示領域を確保するためには,スイッチ作動子を本体の側面
に設置するか,又は表示領域自体をスイッチ作動子とせざるを得ないこ
とは論理的に明らかであるから,プラネットバイク社製品に係る発明に
接した当業者が上記課題を解決するために取り得る選択肢は,表示領域
全体をスイッチ作動子とすることのみである。
(ウ)操作性の向上と表示領域の確保という課題を解決するためには,表
示領域を有する部分をスイッチ作動部とし,この部分を回動させてアク
チュエータを作動させ,スイッチを起動させることが本質的事項であり,
回動の対象が本体であるか,本体の一部であるかは無関係であるから,
プラネットバイク社製品に係る発明に乙2−1−1公報に記載された
発明の構成を付加することには阻害要因もない。
オしたがって,本件各特許発明は,プラネットバイク社製品に係る発明と
乙2−1−1公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明するこ
とができたものであるといえるから,進歩性がないというべきである。
【原告の主張】
乙2−1−1公報に記載された発明においては,「カバー3」と「基部2」と
が一体となって「本体」を形成しているものであって,「カバー3」が「基部2」
に対して上下方向に動くにすぎないのであるから,乙2−1−1公報には本体
が固定具上で回動する構造(本件各特許発明の構成要件B∼D)は記載されて
いない。
また,プラネットバイク社製品に係る発明と乙2−1−1公報に記載された
発明における表示切換えのための具体的構成や具体的動作が互いに全く異なる
ものであることはいうまでもないから,プラネットバイク社製品に係る発明に
乙2−1−1公報に記載された発明を組み合わせることはできない。
そして,プラネットバイク社製品に係る発明に乙2−1−1公報に記載され
た発明を適用するための共通の解決課題ないし動機づけは存在しない。
したがって,本件各特許発明は,プラネットバイク社製品に係る発明と乙2
−1−1公報に記載された発明に基づいて容易に発明することはできない。
8争点1−8(サポート要件に違反するか)について
【被告らの主張】
(1)回動における支点位置の関係
ア回動とは,支点を中心に回転の動きをすることであるから,回動により
切換スイッチが本体内に押し込まれるためには,支点に関して,押す位置
(力点)が,切換スイッチ(作用点)と同じ側になければならない。
したがって,本件各特許発明において,表示状態の切換えを行うために
本体を押すことのできる箇所は,支点位置との関係では切換スイッチ側に
限られる。
イところで,本件明細書の図12に係る実施例では,支点Fは本体の前後
方向のほぼ中央に存在するから,この実施例では,表示状態の切換えを行
うために本体を押すことのできる位置は,本体の後半分(図12の右側,
DR2方向)に限られることとなり,しかも支点近くを押しても動作しな
いため,押すことのできる領域は更に狭くなり,図12の右端近くの極限
られた部分のみとなる。
本件明細書には本件各特許発明の効果について「上記表示装置によれば,
本体の広い面を押して表示の切換えを行なうことができるので,操作性の
点で特に高い効果を得ることができる。」(段落【0014】)と記載され
ているが,上記実施例のように支点が本体の中央にある場合には,かかる
効果を得ることはできない。
ウそうすると,本体押圧可能領域と支点位置との関係について何らの記載
もない特許請求の範囲の請求項1及び請求項1を引用する請求項4は,発
明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるものであるから,特許法
第36条6項1号(サポート要件)に違反する。
(2)重心と支点の位置関係
ア本件明細書の段落【0026】において,図12の実施の形態に係る表
示装置が紹介されて自転車の前方から重心G−支点F−作動位置Aの順で
並ぶという構成が明記され,この構成により,「表示切換えスイッチの誤作
動が生じることを抑制することができる」という効果が得られると記載さ
れている。
一方,本件明細書の段落【0030】では,図13の比較例に係る表示
装置が紹介され,自転車の前方から作動位置A−重心G−支点Fの順で並
ぶという構成が明記され,この構成により,「自転車の走行時の上下方向
の振動により表示装置本体1000が矢印DR4方向に回動してゴムボ
タン1300が押され,タクトスイッチ1400が作動しやすくなる。こ
の結果,表示切換えスイッチの誤作動が生じる。」と記載されている。
そして,作動位置A,重心G,支点Fの位置関係が表示切換えスイッチ
の誤作動に及ぼす影響については,本件明細書の表1及び表2に示される
ように詳細な実験結果によっても実証され,本件明細書の段落【0025】
∼【0033】及び【0035】においても,その位置関係の重要性が力
説されている。
イしかしながら,特許請求の範囲の請求項1及び請求項1を引用する請求
項4は,支点の位置関係を記載しておらず,したがって,支点と重心の位
置関係について何らの限定もしていないから,発明の詳細な説明に記載さ
れた発明の範囲を超えるものであり,特許法第36条6項1号(サポート
要件)に違反する。
(3)作用効果の不明瞭性
ア原告は,本件特許発明1について,広い面を押すことができるという効
果を主張するが,押すことのできる位置(本体押圧可能領域)は支点の位
置に依存するものであり,請求項1に記載の構成のみにしたがって常に広
い面を押すことができるという効果が導き出されるものではない。
イまた,原告は,本件特許発明2について,二輪車の運転者がグローブを
装着している場合,切換スイッチが小さいと特に換作がしにくいため,本件
特許発明2によれば操作性の点で特に高い効果を得ることができると主張
する。しかし,本件特許発明2は,「前記バーは,二輪車のハンドルバー,
フレームまたはステムである」というものであり,この構成によりなぜ上
記効果を奏することになるのか不明である。また,二輪車のハンドルバー,
フレーム,ステム以外に表示装置を取り付ける個所は考えられないため,
本件特許発明2が本件特許発明1を限定したとはいえず,独自の効果を奏
するとも考えがたい。
ウしたがって,請求項1及び請求項1を引用する請求項4に記載の構成に
より原告が主張する作用効果を奏するとはいえないから,特許法第36条
6項1号(サポート要件)に違反する。
【原告の主張】
(1)被告らの上記(1)及び(3)の主張に対して
被告らの主張は,本件各特許発明の効果が「操作時の押圧可能領域を広く
すること」であることを前提とするものである。
しかし,本件明細書の段落【0015】には,「本発明によれば,表示領域
を確保しながら操作性を向上させた表示装置を得ることができる。」とあり,
発明が解決しようとする課題については,段落【0004】において,操作
性の向上のためには,「切換えスイッチを表示装置の上面に設け,該スイッチ
を上方から下方に向けて押すことで表示の切換えが行なわれるようにするこ
とが好ましい。」と記載されているのであるから,ここでいう「操作性の向上」
とは,本体の固定具に対向する面に切換スイッチを設けて表示装置の上面を
押圧する構成とすることに尽きる。
このような文脈の中で,被告らが指摘する本件明細書の段落【0014】
においては,「二輪車の運転者がグローブを装着している場合,切換えスイッ
チが小さいと特に操作がしにくくなる。これに対し,上記表示装置によれば,
本体の広い面を押して表示の切換えを行なうことができるので,操作性の点
で特に高い効果を得ることができる。」と記載されているのであるから,同段
落の記載は,本件各特許発明の作用効果が「押圧可能領域が広い」ことであ
ることを意味するものではなく,走行中に苦労して小さい切換えスイッチを
視認して選択して押す必要がなく,厳密に場所を特定せず表示装置の上面を
押すのみで足りるという便宜が説明されているのみである。
したがって,本件各特許発明の効果が「操作時の押圧可能領域を広くする
こと」であることを前提とする被告らの主張は失当である。
(2)被告らの上記(2)の主張に対して
被告らが指摘する本件明細書の段落【0026】ないし【0033】,及び
【0035】は,走行中の表示装置の誤作動防止を目的とした構成について
説明したものであり,明らかに請求項2及び請求項3に特有の構成に言及し
たものである。請求項2及び請求項3は請求項1の従属項であるので,これ
らの請求項にかかる構成が請求項1に比して限定的であるのは自然である。
したがって,段落番号【0026】等に支点と重心の位置関係を特定する記
載がなされており,一方で請求項1にはかかる記載がないのは当然であって,
【0026】等の記載を理由に本件特許発明1が発明の詳細な説明に記載さ
れた発明の範囲を超えるとの主張は失当である。
(3)請求項1及び請求項4の特許請求の範囲の記載にサポート要件違反がな
いこと
段落番号【0025】並びに【図4】,【図5】及び【図12】には,請求
項1に関する記載があり,ここで本体が固定具に対して回動することが説明
されているから,本件特許発明1は発明の詳細な説明によりサポートされて
いる。
また,請求項4は,表示装置がソーラーカー等に装着される場合もあると
ころ,特に二輪車の場合に,運転者がグローブを装着している場合があり,
厳密に場所を特定せず表示装置の上面を押すのみで表示切換えができること
の利点が大きいため,設けられた従属項であり,被告らの主張するように,
「前記バーは,二輪車のハンドルバー,フレームまたはステムである」との
構成から本件明細書の段落【0014】の効果がもたらされるものではなく,
サポート要件に違反するものではない。
9争点1−9(明確性要件に違反するか)について
【被告らの主張】
(1)特許請求の範囲の請求項1には,「切換スイッチ」について,「前記本体に
おける前記固定具に対向する面から突出するように」,「前記切換スイッチが
前記固定具により前記本体の内方に押し込まれ」と記載されている。
そして,本件明細書では,「表示装置本体の底面から突出するように設けら
れたゴムボタン130と,ゴムボタン130上に設けられたタクトスイッチ
140と」(段落【0018】,「ゴムボタン130が本体内部に向けて押し込
まれると,タクトスイッチ140が押され,表示状態の切換えが行なわれる。」
(段落【0019】),「ゴムボタン130が固定具200により表示装置本体
100の内方に押し込まれ,タクトスイッチ140が作動する。」(段落【0
025】)と記載されているから,請求項1の「切換スイッチ」に対応するも
のは「タクトスイッチ140」ではなく「ゴムボタン130」となる。
(2)しかしながら,「スイッチ」なる用語は,一般的には「電気回路を開閉す
る装置」を指すものである。
また,原告は,「スイッチ」なる用語は,本件明細書では「組立体としての
スイッチ」と「その組立体の一構成要素のスイッチ」との二つの意味で用い
られていると主張するが,本件明細書の記載を参酌して「切換スイッチ」の
意義を参酌した場合,「ゴムボタン130」と解するほかないから,原告が主
張する上記二つ意味のいずれとも異なることになる。
(3)請求項1に記載の「切換スイッチ」は最も重要な構成要素であるところ,
その意義が上記のとおり不明確であるから,請求項1及び請求項1を引用す
る請求項4の記載では特許を受けようとする発明が不明確というほかなく,
特許法36条6項2号(明確性要件)に違反する。
【原告の主張】
「切換スイッチ」は,それが「表示装置において第1表示状態と第2表示状
態の切換えを行う組立体してのスイッチ,及び,その組立体の一構成要素のス
イッチ」を意味することが明確であり,そのように多義的な意味を持つことに
何らの矛盾もない。
10争点2(被告各製品は本件各特許発明の技術的範囲に属するか)について
【原告の主張】
(1)被告各製品の構成
被告製品1の構成は別紙被告製品1説明書に記載のとおりであり,被告製
品2の構成は別紙被告製品2説明書に記載のとおりである。
被告各製品の構成を本件各特許発明の構成要件に対応させて分説すると次
のとおりとなる。
a自転車のハンドルバー又はハンドルバーステムに取付けられるメインユ
ニットであって,
b第1の情報を表示する第1表示状態,第2の情報を表示する第2表示状
態などの複数(n個)の情報を表示する第n表示状態を実現可能な表示部
を有するメインコンピューターユニットと(ただし,被告製品1において
はnは9,被告製品2においてはnは12),
c前記メインコンピューターユニットを前記ハンドルバー又はハンドルバ
ーステムに固定するためのメインカバーとを備え,
d前記メインカバーは,矩形状の硬質プラスチック板と,該プラスチック
板の周縁に立設された弾力性のあるシリコーンラバー製周壁部とを有し,
前記プラスチック板の上面の前側の左右両側に深さ約0.6ミリメートル
のくぼみが設けられ,前記メインコンピューターユニットは矩形状の上面
と底面と四方の側面とを有し,前記側面全体と上面の縁が前記メインカバ
ーの周壁部で覆われており,該底面の前側の左右両側に隆起高さ約1.3
ミリメートルの一対の突起が突設され,該底面の後ろ側の中央部に隆起高
さ約1.6ミリメートルのロッドが軸方向移動可能に突設され,前記一対
の突起の先端と前記ロッドの先端が前記プラスチック板の上面に当接する
ことにより,前記メインコンピューターユニットが前記メインカバー上で
前記一対の突起の先端を支点として下方に動くことが可能となるように載
置されており,
e前記メインコンピューターユニットにおける前記プラスチック板の上面
に対向する面である底面から突出するように前記ロッドが設けられ,該ロ
ッドの上端部に当接して操作される押圧スイッチが前記メインコンピュー
ターユニットの内部に設けられ,これらロッドと押圧スイッチからなる,
前記第1表示状態と前記第2表示状態などの第n表示状態の切換えを行う
組立体のスイッチが設けられ,
f前記ロッドが設けられている部分のメインコンピューターユニットの前
記上面を上方から下方に向けて押すことにより,前記プラスチック板のく
ぼみに嵌合する前記一対の突起の先端を支点として,前記メインカバー上
に載置された前記メインコンピューターユニットが下方に動き,その反作
用で,前記ロッドが相対的に上方移動して前記メインコンピューターユニ
ットの内方に押し込まれ,その先端部が前記押圧スイッチを突き上げ作動
させることにより前記第1表示状態と前記第2表示状態などの第n表示状
態の切換えが行われるメインユニット。
(2)技術的範囲の属否
ア構成要件A
被告各製品のメインユニットは,自転車のハンドルバー又はハンドルバ
ーステムに取り付けられるものであるところ,本件特許発明1の「バー」
には二輪車のハンドルバー,フレーム又はステムが含まれる(本件明細書
段落【0013】)。
したがって,上記構成aを有する被告各製品は,構成要件Aを充足する。
イ構成要件B
被告各製品の複数(n個)の情報を表示する第n表示状態を実現可能な
表示部は,構成要件Bの「表示部」に該当する。
したがって,上記構成bを有する被告各製品は,構成要件Bを充足する。
ウ構成要件C
被告各製品のメインコンピューターユニットは,メインカバーによって
自転車のハンドルバー又はハンドルバーステムに固定されるものである。
したがって,上記構成cを有する被告各製品は,構成要件Cを充足する。
エ構成要件D
(ア)「回動」の意義
回動とは,一般的には,「正逆方向に円運動すること」を意味するも
のである。
そして,本件明細書(段落【0025】,【0026】,図12)には,
表示装置本体100に上方から下方に向けて押す力が加えられたとき
には,支点Fを支点として,ゴムボタン130が表示装置本体100の
内方に押し込まれて表示装置本体が矢印DR3方向に傾き,押圧をやめ
ると,ゴムボタン130が元の位置に戻り,表示装置本体が矢印DR4
方向に傾いて,元の位置に戻ることが記載されている。
したがって,本件各特許発明にいう「回動」とは,本体を固定具上に
支持する点を支点とした正逆方向への円運動を意味するものである。
(イ)「支持」の意義
「支持」とは,一般的には単に支えることを意味するものである。
そして,本件明細書においては,「支持」と「固定」の語が明確に使
い分けられているところ,「支持」という語は,本体を固定具上に単に
載置すること,又は支点が果たしている機能の意味で使用されており,
「固定」という語は,本体をバーから脱落しないようにすることの意味
で使用されている。
したがって,本件各特許発明の「支持」とは,本体を固定具上に単に
載置することを意味するものである。
(ウ)被告各製品が構成要件Dを充足すること
被告各製品では,軸方向移動不可能な構造を持つ一対の突起の先端と,
メインコンピューターユニットの前側(ロッドが設けられている側)と
の距離は,メインコンピューターユニットの上面を下方に向けて押すか
否かに関わらず,当然に常に一定である。そして,被告各製品において
は,メインコンピューターユニットの上面を上方から下方に向けて押す
と,一対の突起はほぼ動かない一方で,ロッドが設けられた側(後ろ側)
はメインカバーに向かって沈み込む,すなわち下方に移動する。
一定点(中心)から等距離(半径)にある点の軌跡を円というのであ
るから,被告各製品の,一対の突起の先端との距離を一定に保ってのメ
インコンピューターユニットの後ろ側の下方移動,及び,押圧をやめた
ときの復帰の動きは,正逆方向への円運動にほかならない。
そして,メインコンピューターユニットはメインカバーの上に載置さ
れているところ,メインコンピューターユニットの底面から突出した一
対の突起とロッドのみがメインカバーの底面のプラスチック板に接して
いるから,一対の突起は,メインコンピューターユニットをメインカバ
ー上に支持しているものである。
したがって,被告各製品は構成要件Dを充足する。
(エ)被告らの主張に対する反論
被告らは,被告各製品のメインコンピューターユニットはメインカバ
ー内で横方向に自由に動くのであり,「不動の中心点」を中心とする「円
運動」を行うものではないとも主張する。
しかし,機械製品における「円運動」の軌跡は,数学的な意味におけ
る「円」とは異なり,全く不動の点を中心とするものではないことは,
当業者にとって明らかな事項である。
そして,被告各製品のメインコンピューターユニットの上面を下方に
向かって押したときに,一対の突起はほとんど動くことはなく,また,
かかる一対の突起の先端を円運動の中心点であると表現することに何
ら問題はない。
オ構成要件E
(ア)「切換スイッチ」の意義
a「スイッチ」とは一般的には「電気回路を開閉する装置」を意味す
るところ,「…装置」であるから,単一の要素で構成されるのではなく,
複数の要素からなる組立体が含まれる。
b特許請求の範囲には,「切換スイッチ」について,「第1表示状態と
第2表示状態の切換えを行う」機能を有するものであり,「固定具によ
り本体の内方に押し込まれ」るものと記載されている。「表示状態の切
換えを行う機能を有するもの」という場合,切換えのための電気回路
全体を含むと解することは十分に可能である。また,切換スイッチを
構成する部材の一部がメインコンピューターユニットの外部に露出し
ていたところ,本体の上面を下方に向かって押すと,上記露出部分が
内方に押し込まれるという場合に,「切換スイッチが固定具により本体
の内方に押し込まれる」と表現しても,何らの矛盾もない。
したがって,特許請求の範囲の記載のみからしても,本件各特許発
明における「切換スイッチ」は,1つの部品,すなわち組立体の一構
成要素としてのスイッチのみを指すものではなく,組立体としてのス
イッチをも指すものである。
cそして,本件明細書においては,「切換スイッチ」との用語が,一
般的な意義である「組立体としてのスイッチ」と,「その組み立て体の
一構成要素のスイッチ」との2つの意味で用いられていることが明白
であり,かつ,2つの意味で用いられていることに矛盾を生じていな
い。
dしたがって,本件各特許発明の「切換スイッチ」とは,「表示装置
において第1表示状態と第2表示状態の切換えを行う組立体としての
スイッチ,及び,その組立体の一構成要素のスイッチ」を意味する。
(イ)被告各製品が構成要件Eを充足すること
被告各製品においては,ロッドがメインコンピューターユニットの内
方に押し込まれて押圧スイッチを突き上げ移動させることにより,表示
状態が切り換わるのであるから,ロッドと押圧スイッチとはともに切換
スイッチの部品であり,両部品を組み合わせた組立体が,組立体として
の「切換スイッチ」に該当する。
したがって,上記構成eを有する被告各製品は,構成要件Eを充足す
る。
カ構成要件F
(ア)上記のとおり,被告各製品は,構成要件D及びEを充足するもので
あり,メインコンピューターユニットの下方への動きの反作用で,ロッ
ドが相対的に上方移動してメインコンピューターユニットの内方に押
し込まれ,その先端部が押圧スイッチを突き上げ作動させることにより,
表示状態の切換えが行われるのであるから,構成要件Fも充足する。
(イ)被告らは,「本体が回動し,前記切換スイッチが前記固定具により
前記本体の内方に押し込まれ」といえるためには,本体の円運動と切換
スイッチの押し込みとの間に原因・結果の関係がなければならないが,
被告各製品では垂直方向の動きによりスイッチの押し込みが生じるも
のであり,技術的意義を持つ動きは垂直方向成分のもののみであるから,
構成要件Fを充足しないと主張する。
しかし,被告各製品の動きを垂直方向成分のベクトルと水平方向成分
のベクトルとに分解して,前者にのみ技術的意義があり,後者には技術
的意義がないとして,後者の動きを無視する論法は非常に奇妙であり,
到底理解できるものではない。
キ構成要件G
被告各製品のメインユニットは,自転車のハンドルバー又はハンドルバ
ーステムに取り付けられるものであるから,構成要件Gを充足する。
ク構成要件H
被告各製品は,構成要件AないしGを充足するものであるから,構成要
件Hも充足する。
(3)以上のとおり,被告各製品は,構成要件AないしHをいずれも充足するか
ら,本件各特許発明の技術的範囲に属する。
【被告らの主張】
(1)被告各製品の構成
ア原告の主張に対する認否
(ア)原告主張の構成a
認める。
ただし,被告各製品では,メインコンピューターユニットが収納され
ているメインカバーがハンドルバーに取り付けられている。
(イ)原告主張の構成b
認める。
(ウ)原告主張の構成c
否認する。
被告各製品では,ハンドルバーに固定されるのはメインカバーである。
そして,メインコンピューターユニットはメインカバーに収納されてい
るのであって,メインカバーに固定されていない。
(エ)原告主張の構成d
被告各製品のメインコンピューターユニットが一対の突起の先端を
支点として下方に動くという点は否認するが,その余は認める。
(オ)原告主張の構成e
ロッドがプラスチック板の上面に対向する面である底面から突出す
るように設けられていること,メインコンピューターユニットの内部に
押圧スイッチが設けられていること,押圧スイッチがロッドの先端に当
接することにより前記第1表示状態と前記第2表示状態などの第n表
示状態の切換えが行われることは認めるが,その余は否認する。
被告各製品のスイッチは押圧スイッチのみであり,組立体のスイッチ
は存在しない。
(カ)原告主張の構成f
ロッドが設けられている部分のメインコンピューターユニットの前
記上面を上方から下方に押すことにより,前記メインカバーに収納され
たメインコンピューターユニットが下方に動き,ロッドがメインカバー
からの反作用によってメインコンピューターユニットの内方に押し込
まれ,押圧スイッチを下方から上方に押すことにより,前記第1表示状
態と前記第2表示状態などの第n表示状態の切換えが行われることは
認め,その余は否認する。
メインコンピューターユニットは,メインカバーに「支持」されるも
のではなく,また,「一対の突起の先端を支点として」下方に動くもの
でもない。
イ被告らの主張
被告各製品の構成は次のとおりであり,その形状等は別紙被告各製品説
明図【被告】のとおりである。
a’自転車のハンドルバー又はハンドルバーステムに取り付けられるメイ
ンユニットであって,
b’第1の情報を表示する第1表示状態,第2の情報を表示する第2表示
状態などの複数(n個)の情報を表示する第n表示状態を実現可能な表
示部を有するメインコンピューターユニット1と(ただし,被告製品1
においてnは9,被告製品2においてはnは12)
c’メインユニットをハンドルバー又はハンドルバーステムに固定するた
めのメインカバー2とを備え,
d’メインコンピューターユニット1は,メインカバー2に収納されてお
り,
e’金属製ロッド4が,メインコンピューターユニット1の底面からメイ
ンカバー2に対して突出するように設けられており,
f’メインコンピューターユニット1において,第n表示状態を切換える
ものとして押圧スイッチ3が設けられており,
g’メインコンピューターユニット1の表面を押圧することにより,メイ
ンカバー2に収納されたメインコンピューターユニット1が下方に動
き,金属製ロッド4がメインカバー2からの反作用によってメインコン
ピューターユニット1の内方に押し込まれ,その結果,押圧スイッチ3
が作動する
(2)技術的範囲の属否
ア構成要件A
被告各製品が構成要件Aを充足することは認める。
イ構成要件B
被告各製品が構成要件Bを充足することは認める。
ウ構成要件C
被告各製品が構成要件Cを充足することは認める。
エ構成要件D
(ア)「支持」とは支点により本体を支え持つことをいい,円運動といえ
るためには,不動の中心点又は中心軸が必要であるから,「回動可能に
支持」といえるためには,支点である不動の中心点又は中心軸が生じる
ように固定具上で固定する必要がある。
この点について,原告は,被告各製品の一対の突起が支点に該当する
と主張するが,被告各製品における一対の突起は,横方向に自由に動く
ものであり,被告各製品を支えるものではないから,支点に該当するも
のではない。
(イ)また,被告各製品のメインコンピューターユニットはメインカバー
を構成するラバーの弾力性により支えられているものであるから,「固
定具上で回動可能に支持され」ているものではない。
(ウ)したがって,被告各製品は,構成要件Dを充足しない。
オ構成要件E
(ア)原告は,本件各特許発明にいう「切換えスイッチ」は,「組立体とし
てのスイッチ」と「その組立体の一構成要素としてのスイッチ」の二つ
の意味で用いられているとして,被告各製品のロッドと押圧スイッチか
らなる組立体としてのスイッチが「切換えスイッチ」に該当すると主張
する。
(イ)しかし,特許請求の範囲の請求項1においては,「切換えスイッチ」
の語は2回使用されているが,構成要件Fの「切換えスイッチ」は「内
方に押し込められるもの」であるから,「組立体としてのスイッチ」で
はなく,他方,構成要件Fの「切換えスイッチ」には,「前記」という
修飾語が付されているから,構成要件Eの「切換えスイッチ」も,「組
立体としてのスイッチ」ではない。
また,本件明細書中の「切換スイッチ」に関する記載は,全て,「一
つの部品としてのスイッチ」としか理解できないものであり,「組立体
としてのスイッチ」を意味する記載は全くない。
したがって,本件各特許発明にいう「切換スイッチ」に該当するため
には,①電気回路を開閉する装置であること,②本体の上下方向に対す
る押圧により生じた本体の回動を原因として固定具により本体の内方
に押し込まれるものであること,③一つの部品であること,の各条件を
全て満たすことが必要である。
(ウ)被告各製品のロッドと押圧スイッチは,一つの部品ではないから,
これらを組み合わせたものを本件各特許発明にいう「切換スイッチ」に
該当するものということはできない。
また,被告各製品のロッドは,電気回路を開閉する装置ではなく,押
圧スイッチを作動させるためのアクチュエータであり,押圧スイッチは,
本体の内部に存在するものであって,本体の回動を原因として本体の内
方に押し込まれるものでもないから,ロッド及び押圧スイッチを個別に
見ても「切換スイッチ」に該当するということはできない。
(エ)したがって,被告各製品には本件各特許発明にいう「切換スイッチ」
に相当するものがないから,構成要件Eを充足しない。
カ構成要件F
(ア)本件明細書(段落【0008】,【0025】,図12)に照らせば,
「本体が回動し,前記切換スイッチが前記固定具により前記本体の内方
に押し込まれ」といえるためには,本体の円運動の直接的結果として,
「切換スイッチ」の「押し込み」が生じるものであること(直接的因果
関係があること)が必要である。
ところが,被告各製品においては,上記のとおり,メインコンピュー
ターユニット1の下方(垂直方向)への移動が,メインカバー2からの
金属製ロッド4に対する反作用の力を生じさせ,その結果,金属製ロッ
ド4のメインコンピューターユニット1の内方への押し込みが発生し,
押圧スイッチ3が作動して表示状態の切換えが実現するものである。す
なわち,被告各製品のメインコンピューターユニットにおいて,技術的
意義を持つ動きは垂直方向成分のものであり,水平成分の動きは極めて
微少な動きであって技術的意義を持つものではない。
このように,被告各製品における金属製ロッド4の押し込みは,本体
の円運動の直接的結果によるものではないから,被告各製品は「本体が
回動し,・・・前記切換スイッチが前記固定具により前記本体の内方に
押し込まれ」との要件を充足しない。
(イ)また,被告各製品においては,ロッド自体は常にメインカバーの底
面に接触しており,メインコンピューターユニットが下方に動くことに
よりロッドが押圧スイッチと接触するのであって,ロッド自体が動くと
いう意味におけるロッドの突き上げは存在しない。そうすると,仮に被
告各製品のロッドが本件各特許発明の「切換スイッチ」に該当するとし
ても,「切換スイッチ」が「本体の内方に押し込まれ」るということは
できない。
(ウ)したがって,被告各製品は,構成要件Fを充足しない。
(3)以上のとおりであるから,被告各製品は本件各特許発明の技術的範囲に属
さない。
11争点3(原告の損害の額)について
【原告の主張】
(1)被告は,被告製品1を,平成21年2月1日以降平成22年9月末日まで
の20か月間で,1台当たり7980円にて合計9000台販売しており,
利益率は20%であるから,1436万4000円の利益を得ている。
また,被告は,被告製品2を,平成21年2月1日以降平成22年9月末
日までの20か月間で,1台当たり1万2600円にて合計9000台販売
しており,利益率は20%であるから,2268万円の利益を得ている。
したがって,原告は,特許法102条2項により,被告による本件特許権
侵害行為により3704万4000円の損害を受けたものと推定される。
(2)また,被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害は20
0万円を下らない。
(3)したがって,原告は,被告に対し,合計3904万4000円の損害賠償
請求権を有する。
【被告の主張】
(1)被告は,平成21年4月9日から同年7月6日までの間,被告製品1を1
186個,被告製品2を590個販売し,その売上額は合計で983万16
44円であった。
被告各製品の利益率が20%であるとの原告の主張は認める。
(2)被告各製品の製造元である補助参加人のブランド力や,本件各特許発明の
進歩性の程度等,諸般の事情を考慮すると,被告各製品の販売利益に対する
本件各特許発明の寄与度はせいぜい1%である。
第4当裁判所の判断
1争点1−1(新規性の欠如1)について
被告らは,本件各特許発明は,乙2−1−1公報に記載された発明と同一で
あるから新規性がない旨主張する。
(1)乙2−1−1公報に記載された発明
ア乙2−1−1公報には以下の記載がある。なお,末尾の頁数等は訳文の
ものである。
(ア)「本発明は,特に自転車用の走行距離計(距離記録器)に関し,よ
り詳細には,制御キーの簡単な操作によって走行距離,速度及びその他
の情報をユーザーに提供する電子走行距離計に関する。」(1頁2行∼3
行)
(イ)「図1(判決注:下記図1)及び図2に示す走行距離計(距離記録
器)は,基部2と,基部2を覆うと共にピン4によって基部2に連結さ
れたカバー3とによって形成されたケース1を含む。このように形成さ
れたケースは,図3に詳細に示し,全体として参照番号5によって示す
計数及び情報処理を行う電子回路を含む。また,ケース1には,走行距
離計の主機能を制御する第1のスイッチ6と,後述する二次機能を制御
する第2のスイッチとが設けられている。基部2とカバー3との間には
カバーを上部位置に戻すための戻しばね8が挿入されており,スイッチ
6はカバー3に圧力を加えることによって直接制御される。一方,走行
距離計の二次機能を制御するスイッチ7は,独立して設けられ,カバー
に形成された開口部10内に延在するプッシュボタン9によって制御
される。有利には,スイッチ7はケースの基部に配置された基体11上
に配置される。また,カバー3には,図3に示す回路の一部である表示
手段に表示される情報を読み取ることを可能とする透明なウィンドウ
12が設けられている。」(2頁10行∼23行)
図1
(イ)「この走行距離計を自転車に採用する場合には,ステムの近傍にお
いてハンドルバーに固定された適当な支持体(図示せず)に走行距離計
を取り付けることができる。」(3頁1行∼3行)
(エ)「図3に示す回路には,走行距離計のカバー3及びカバー内に延在
するプッシュボタン9によってそれぞれ制御される第1のスイッチ6
及び第2のスイッチ7が示されている。これらのスイッチは,接地線と
マイクロプロセッサ18の制御端子16,17との間にそれぞれ設けら
れている。マイクロプロセッサ18は,例えば自転車の車輪に連動する
磁気センサによって構成される移動センサ19に接続されている。マイ
クロプロセッサは,音声信号発生器21に接続された第1の出力20と,
本実施形態ではデジタル表示手段24とアナログ表示手段25を含む
表示装置23に接続された第2の出力22と,を含む。」(3頁4行∼1
1行)
(オ)「デジタル表示手段は,7つの部分からなる数字によって形成され
ている。デジタル表示手段はネマチック液晶を使用した表示装置であり,
アナログ表示手段は光の反射によって読み取られると共に整列して配
置され,測定された数値に応じて長さが変化する暗色の細長い線を構成
する部分からなる。・・・走行距離計の上面はカバー3の上面であり,全
体として長方形(長方形の長辺が垂直方向)である。カバー3の上面は,
隣接する3つの領域に分割されている。第1の領域30は,二次機能の
制御ボタン9を含む。第2の領域31には,走行距離計の表示ウィンド
ウが配置されている。表示装置23(図3)は,所与の数値を表示する
ためにマイクロプロセッサ18を作動させると,所与の数値の種類に特
有の表示及び所与の数値の単位の目盛のみを表示するように構成され
ている。そのため,図4では,距離を表示する場合には,距離32と,
メートルによる目盛33と,キロメートルの単位34が走行距離計の3
つの表示行に表示される。図示する例では,「距離」32が表示ウィン
ドウの第1行の左側に表示され,可変長の発光ラインによって距離(m)
のアナログ測定値を示す正方形の発光部35によって形成された可変
長のラインと整列した状態で「m」が第2行の右側に表示される。四角
い発光部35の上方には,メートルによる目盛36が表示される。表示
ウィンドウの第3行には,走行距離のデジタル情報及び距離の測定値の
単位34が表示される。メートルによるアナログ測定値はデジタル測定
値を補うものである。カバーの上面は,製造者の商標を示す第3の領域
37を有する。図5は,表示ウィンドウ内のカバー3の上面を示し,ク
ロノメータの計時による例えば自転車の走行開始からの経過時間に関
する情報が表示されている。図5では,距離に関する情報は消え,時間
に関する情報のみが表示されている。第1行には,ボタン9を使用して
クロノメータの計時を開始又は停止させるための表示38が表示され
る。第2行には,発光ラインを構成する複数の正方形が存在するが,こ
のモードでは情報は表示されない。第3行には,装置をゼロにリセット
してからの経過時間がデジタル表示される。図6は図4及び図5に対応
する図であり,走行距離計が取り付けられた車両の瞬間速度に関する情
報のみが表示ウィンドウ12に表示され,その他の情報は表示されない。
第1行には,「速度」39が右側に表示される。第2行には,10km
/h単位の目盛40が表示され,目盛の上方には,速度のアナログ表示
を行う発光ラインを構成する正方形の発光部35が表示される。第2行
の右側には,速度の測定単位41が表示される。第3行には,速度の測
定単位43と共にデジタル表示42が表示される。」(3頁14行∼4頁
27行)
(カ)「ユーザーが走行時に走行距離計を開始させた時点からの走行距離
を知りたい場合には,ユーザーはカバー3を一回押してスイッチ6を閉
じ,走行距離計の主機能(距離の測定)を作動させる。マイクロプロセ
ッサ18がスイッチ6から第1の信号を受信すると,マイクロプロセッ
サ18は直ちに距離の表示に特有の信号である「bip」信号を音声信
号発生器21に発信させ,ユーザーが表示される数値の種類を予め知る
ことができるようにプログラムされている。ユーザーが走行距離計の表
示ウィンドウを見ると,図4に示す距離の表示のみが行われており,表
示の読み取りに曖昧さは生じない。ユーザーが出発時からの経過時間を
知りたい場合には,ユーザーは走行距離計のカバー3を再び押すことに
よって走行距離計を作動させる。これにより,音声信号発信器は時間に
関連付けられた「bip−bip」信号を発信する。その結果,ユーザ
ーはこの音声信号に続いて表示ウィンドウに現れる表示が時間の表示
であることを知ることができる。次に,瞬間速度を表示させる場合には,
ユーザーは走行距離計のカバー3を再び押す。これにより,音声信号生
成器は速度に関連付けられた「bip−bip−bip」信号を発信す
る。図6に示すように表示ウィンドウに現れる速度の表示は,ユーザー
が速度の表示が行われることを予想しているために曖昧さを生じるこ
となく読み取ることができる。従って,上述した走行距離計の3つの主
機能が,それらを特徴付けると共にユーザーが非常に容易に記憶するこ
とができる所定の信号に関連付けられているため,ユーザーが所望の情
報を得たい場合には,ユーザーは走行距離計のカバーを押し,所望の情
報に対応する信号が得られるまで発信される信号を順番に聞けばよ
い。」(4頁28行∼5頁21行)
(キ)「主機能のためのスイッチ6は,ケースの基部2に回動可能に取り
付けられた走行距離計のケースのカバー3を押すことによって作動さ
せている。ただし,スイッチ6を作動させるために他の手段を採用する
こともできる。例えば,ケースの上面内に配置され,手を近付けるか,
手で触れることによって作動させることができる容量センサキーを使
用することもできる。この場合,走行距離計のケースは可動部を有さな
いことになる。また,ユーザーの手が近付いた場合に作動する赤外線キ
ーの使用も考えられる。」(6頁7行∼14行)
(ク)「また,ユーザーは走行距離計に視線を向けることなく走行距離計
を作動させることができ,表示される情報はそれらを特徴付ける音声信
号によって告知される。上述した走行距離計は自転車に適用されるもの
として説明したが,あらゆる種類の車両の走行距離,時間,速度及びそ
の他の情報を表示するために使用することができる。」(6頁23行∼2
8行)
(ケ)「上記のように本発明を説明したが,我々が新規性を主張し特許に
よる保護を求めるものは以下のとおりである。
1.特に自転車用の電子走行距離計であって,
基部と,前記基部に回動可能に取り付けられたカバーとを有するケー
スと,
前記ケース内に設けられたマイクロプロセッサと,
自転車の車輪に連動し,前記マイクロプロセッサに接続された移動セ
ンサと,
前記マイクロプロセッサに接続され,距離情報,速度情報,時間情報
等の情報を表示するための表示手段と,
前記マイクロプロセッサに接続され,前記マイクロプロセッサの制御
下で前記表示手段に表示される情報の種類を特定するための信号発生
器と,
前記マイクロプロセッサによって処理された情報の表示に関連する
少なくとも第1の制御キーと,
を含み,
前記第1の制御キーは,前記ケースの前記カバーによって構成され,
前記信号発生器は,前記表示手段に表示される情報の種類に対応する
信号を発信し,
前記マイクロプロセッサを介して前記走行距離計の主機能を制御す
るスイッチが設けられ,
前記スイッチは前記第1の制御キーと連動すると共に前記マイクロ
プロセッサに接続され,
前記スイッチを作動させることにより,前記マイクロプロセッサによ
って処理された情報が表示されると共に,前記信号発生器が,前記表示
された情報を特徴づける信号を発信する走行距離計。」(6頁29行∼7
頁22行)
イ乙2−1−1公報の上記アの記載によれば,同公報には下記の発明が記
載されているものと認められる(以下「認定乙2−1−1発明」という。)。

「自転車のハンドルバーに取付けられる,走行距離計と支持体との組合
せ物であって,
距離情報を表示する表示状態,時間情報を表示する表示状態,及び速
度情報を表示する表示状態を実現可能な表示装置23を有する走行距
離計と,
前記走行距離計を前記ハンドルバーに取り付けるための支持体とを
備え,
前記走行距離計は前記支持体に取り付けられ,
前記走行距離計は,基部2と,前記基部2にピン4によって回動可能
に連結されたカバー3とによって形成されたケース1を含み,前記ケー
ス1内には,その構成部材の片方が前記カバー3側に固定され,他方が
前記基部2側に固定された,前記距離情報の表示状態,前記時間情報の
表示状態,及び前記速度情報の表示状態の切換えを行うスイッチ6が設
けられ,
前記カバー3を上方から下方に向けて押すことにより,基部2に対し
てカバー3が回動して前記スイッチ6が閉じられ,前記距離情報の表示
状態と,時間情報の表示状態と,速度情報の表示状態の切換えが行われ
る,
走行距離計と支持体との組合せ物。」
(2)本件特許発明1と認定乙2−1−1発明との対比
ア被告らは,認定乙2−1−1発明の「ケース1」を構成する「カバー3」
と「基部2」が順に本件特許発明1の「本体」及び「固定具」に相当する
と主張するのに対し,原告は,認定乙2−1−1発明の「基部2を含むケ
ース1の全体」と「支持体」が順に本件特許発明1の「本体」及び「固定
具」に相当すると主張する。
そこで,本件特許発明1と認定乙2−1−1発明を対比するに当たり,
まず本件特許発明1の「本体」の意義について明らかにする。
イ本件特許の特許請求の範囲には,「本体」は,「第1の情報を表示する第
1表示状態,および,第2の情報を表示する第2表示状態を実現可能な表
示部を有する」とされ,その本体は「固定具上で回動可能に支持され」る
と記載されているだけである。したがって,この記載だけでは,認定乙2
−1−1発明の走行距離計のように複数の部品で構成される部材がある場
合に,部材の全体を「本体」と捉えるのか,それとも部品の一部を「本体」
と捉えることができるのかについて,一義的に明確に理解することができ
ない。
ウそこで,本件明細書についてみると,「本体」に関して以下の記載がある。
(ア)「図1∼図5(判決注:下記図1∼図5)を参照して,本実施の形
態に係る表示装置本体100は,各種情報を表示する表示部110と,
固定具と係合する係合部120と,表示装置本体の底面から突出するよ
うに設けられたゴムボタン130と,ゴムボタン130上に設けられた
タクトスイッチ140と,バッテリ150とを含んで構成される。」(段
落【0018】)
図1図2図3
図4図5
「図9(判決注:下記図9)は,固定具200に表示装置本体100
を取付ける状態を示す図である。また,図10(判決注:下記図10)
は,固定具200に表示装置本体100を取付けた後の状態を示す図で
ある。」(段落【0022】)
図9図10
(ウ)「図9,図10を参照して,表示装置本体100を図9中の矢印の
方向にスライドさせ,表示装置本体100における係合部120と固定
具200における嵌入部材230とを係合させる。これにより,表示装
置本体100が固定具200に取付けられる。なお,図9,図10に示
されるように,固定具200は回転操作部240を有するウォームギヤ
式の固定具である。すなわち,回転操作部240を回転させることで,
バンド220を締めたり緩めたりすることができる。」(段落【002
3】)
(エ)「上述した内容について要約すると,以下のようになる。すなわち,
本実施の形態に係る表示装置は,バー500に取付けられる表示装置で
あって,第1の情報(たとえば走行速度)を表示する第1表示状態,お
よび,第2の情報(たとえば走行距離)を表示する第2表示状態を実現
可能な表示部110を有する表示装置本体100を備える。そして,表
示装置本体100を上方から下方に向けて押すことにより,第1と第2
表示状態の切換えが行なわれる。上記表示装置は,表示装置本体100
をバー500に固定するための固定具200をさらに備える。表示装置
本体100は固定具200上で矢印DR3方向,矢印DR4方向に回動
可能に支持される。そして,表示装置本体100における固定具200
に対向する面(すなわち,表示装置本体100の底面)から突出するよ
うに第1と第2表示状態の切換えを行なう「切換スイッチ」としてのゴ
ムボタン130が設けられる。ゴムボタン130が表示装置本体100
の内方に押し込まれることでタクトスイッチ140が作動し,表示状態
の切換えが行なわれる。」(段落【0034】)
エ上記ウによれば,本件明細書においては,「表示部110」,「係合部12
0」,「ゴムボタン130」,「タクトスイッチ140」及び「バッテリ15
0」を有するひとまとまりの部材が「表示装置本体100」と称されてい
ること(段落【0018】,【0034】),またひとまとまりの部材として
の「本体」について,「固定具」に取り付ける前後の状態をもって説明され
ていること(段落【0022】,【0023】)が認められる。
オそうすると,本件特許発明1の「本体」とは,「固定具とは別に形成され
たひとまとまりの部材であり,第1の情報を表示する第1表示状態,及び,
第2の情報を表示する第2表示状態を実現可能な表示部を有する,それ独
自で所定の情報を表示可能なもの」と解するのが相当である。
カそこで,上記の「本体」の解釈を前提に,本件特許発明1と認定乙2−
1−1発明とを対比すると,次のとおりである。
認定乙2−1−1発明の「自転車のハンドルバー」及び「走行距離計と
支持体との組合せ物」は,順に本件特許発明1の「バー」及び「表示装置」
に相当する。
また,「距離情報を表示する表示状態,時間情報を表示する表示状態,及
び速度情報を表示する表示状態を実現可能」とすることは,本件特許発明
1における「第1の情報を表示する第1表示状態,および,第2の情報を
表示する第2表示状態を実現可能」とすることといえるから,認定乙2−
1−1発明の「距離情報を表示する表示状態,時間情報を表示する表示状
態,及び速度情報を表示する表示状態を実現可能な表示装置23」は本件
特許発明1の「第1の情報を表示する第1表示状態,および,第2の情報
を表示する第2表示状態を実現可能な表示部」に相当する。
そして,認定乙2−1−1発明の「走行距離計」は,支持体とは別に形
成されたひとまとまりの部材であり,「距離情報を表示する表示状態,時間
情報を表示する表示状態,及び速度情報を表示する表示状態を実現可能な
表示装置23」を有する,それ独自で所定の情報を表示可能なものである
から,本件特許発明1の「本体」に相当する(この点について,被告らは,
認定乙2−1−1発明の「カバー3」及び「基部2」が順に本件特許発明
1の「本体」及び「固定具」に対応すると主張するが,認定乙2−1−1
発明においては,「カバー3」と「基部2」にスイッチ6が跨って設けられ
ており,「カバー3」を「基部2」から分離すると,「カバー3」独自で所
定の情報を表示可能なものとはいえなくなるから,「カバー3」と「基部2」
とは一体となってまとまりのある部材である「走行距離計」を構成してい
るというべきであり,「カバー3」だけを捉えて本件特許発明1の「本体」
に相当するものということはできない。)。
さらに,認定乙2−1−1発明の「支持体」は走行距離計をハンドルバ
ーに取り付けるために機能し,「スイッチ6」は表示装置23における表示
状態の切換えをするために機能するものであるから,順に本件特許発明1
の「固定具」及び「切換スイッチ」に相当するものである。
キ以上によれば,本件特許発明1と認定乙2−1−1発明の一致点と相違
点は次のとおりであると認められる。
【一致点】
バーに取付けられる表示装置であって,
第1の情報を表示する第1表示状態,および,第2の情報を表示する第
2表示状態を実現可能な表示部を有する本体と,
前記本体を前記バーに固定するための固定具とを備え,
前記本体は前記固定具上で支持され,
前記本体に前記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えを行なう切
換スイッチが設けられ,
前記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えが行なわれる,
表示装置。
【相違点】
本件特許発明1は,本体が,固定具上で「回動可能に支持」され,「前
記本体における前記固定具に対向する面から突出するように」切換スイッ
チが設けられ,「前記本体を上方から下方に向けて押すことにより,前記
固定具上に支持された前記本体が回動し,前記切換スイッチが前記固定具
により前記本体の内方に押し込まれ」,表示状態の切換えが行われるのに
対し,認定乙2−1−1発明は,本体(走行距離計)が,固定具(支持体)
に「支持」されているが,「回動可能に支持」されているものではなく,「前
記本体(走行距離計)は,基部2と,前記基部2にピン4によって回動可
能に連結されたカバー3とによって形成されたケース1を含み,前記ケー
ス1内には,その構成部材の片方が前記カバー3側に固定され,他方が前
記基部2側に固定された」切換スイッチ(スイッチ6)が設けられ,「前
記カバー3を上方から下方に向けて押すことにより,基部2に対してカバ
ー3が回動して前記スイッチ6が閉じられ」,表示状態の切換えが行われ
る点(以下「相違点A」という。)。
ク被告らは,本件特許発明1の「切換スイッチ」は表示部を有する本体を
上方から下方に向けて押すことにより本体が回動したことを機械的に検出
する切換スイッチとして機能すればその目的を達するものであるから,認
定乙2−1−1発明のスイッチ6は,本件特許発明1の「切換スイッチ」
と実質的に同一であると主張する。
しかし,認定乙2−1−1発明のスイッチ6は,走行距離計(本件特許
発明1の本体に相当するもの)を構成するケース1内において,その構成
部材の片方がカバー3側に固定され,他方が基部2側に固定されたもので
あるのに対し,本件特許発明1の切換スイッチは,本体における固定具に
対向する面から突出するように設けられたものであり,その構造は明らか
に異なるから両者を実質的に同一ということはできない。
(3)以上に検討したとおり,本件特許発明1と認定乙2−1−1発明とは相違
点Aで相違するものであるから,両者を同一ということはできない。
そして,本件特許発明2は,本件特許発明1の発明特定事項を含んで構成
されるものであるから,本件特許発明1と同様,認定乙2−1−1発明と同
一ということはできない。
(4)したがって,争点1−1(新規性の欠如1)に関する被告らの主張は採用
することができない。
2争点1−2(進歩性の欠如1)について
(1)被告らは,本件各特許発明は,乙2−1−1公報に記載された発明と乙2
−5公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができた
旨主張する。
(2)本件特許発明1と認定乙2−1−1発明との一致点及び相違点は,上記1
(2)キのとおりである。
(3)被告らの主張は,本件各特許発明と認定乙2−1−1発明の相違点が,本
件各特許発明の構成要件Fだけであることを前提とするものであるが,上記
のとおり,相違点はそれだけにとどまらず,少なくとも本体が固定具に対し
ていかなる態様で支持されているかという点でも相違するものである。
そうすると,主張に係る相違点だけを前提として,乙2−5公報に記載さ
れた発明に,「固定具に対向する面から突出するように設けられ,本体を上方
から下方に押すことにより,固定具により本体の内方に押し込まれるメカニ
ズムのスイッチ」が記載されていることを理由として進歩性欠如をいう主張
は,その点で理由がないことは既に明らかともいうことができるが,以下に
おいては,乙2−5公報に記載された発明をあらためて認定した上,認定乙
2−1−1発明を主引例とし,乙2−5公報に記載された発明を副引例とし
て,本件各特許発明が容易に想到できたものか念のため検討する。
(4)乙2−5公報について
ア乙2−5公報には以下の記載がある。
(ア)「〔産業上の利用分野〕この発明は,・・・スイッチ機能と表示機能
とを兼ね備える表示器付スイッチに関する。」(第2欄17行∼21行)
(イ)「第1図(判決注:下記第1図)は,この発明の一実施例に係る表
示器付スイッチを示す縦断面図である。第2図(判決注:下記第2図)
は,第1図の線I−Iに概ね沿う断面図である。・・・この実施例の表
示器付スイッチ40は,・・・ケース48を構成しており,その中に固
定プリント基板50をケース48に前面にほぼ平行に配置して,・・・
いる。そして,ケース48内のプリント基板50の前面側(第1図の左
側)に例えばLED表示器等の表示器52を取り付けており,同プリン
ト基板50の後面側に・・・例えばタクトスイッチのようなスイッチ5
6を取り付けてそのアクチュエータ562を後方側に出している。・・・」
(第5欄16行∼35行)
(ウ)「そしてケース48の前面部内には,この実施例では矢印Aのよう
に前後方向に直動(スライド)可能に,透光性の操作カバー60が嵌め
込まれている。」(第6欄2行∼5行)
(エ)「更にこの例では,ホルダー44内の底面の二つの支持部441を
並べて突設し,その上に2枚の・・・可動片64a,64bをそれぞれ
乗せて支持部441をそれぞれの支点にし,各可動片64a,64bの
長辺側の端部641を力点にして前記操作カバー60から延びた2本
の足601でそれぞれ矢印Bのように押したり離したりするようにし,
それに応じて各可動片64a,64bの短辺側の端部642を作用点に
して前記スイッチ56のアクチュエータ562をそれぞれ矢印Cのよ
うに押したり離したりするようにして,スイッチ56の操作機構を構成
している。即ちこの操作機構では,可動片64a,64bによって,操
作カバー60の押圧操作に応じてその押圧力を押圧方向と逆方向に反
転させてスイッチ56のアクチュエータ562を操作するようにして
いる。」(第6欄7行∼24行)
(オ)「第7図(判決注:下記第7図)は,この発明の他の実施例に係る
表示器付スイッチを示す断面図である。・・・そして,ケース48内の
プリント基板50の前面側に表示器52を取り付けており,同プリント
基板50の後面側にスイッチ56をこの例では2個(第8図参照)取り
付けてそのアクチュエータ562を後方側に出している。・・・そして
ケース48の前面部内には,・・・突軸461を支軸にして矢印A(第
7図参照)のように前後方向に回動可能な透光性の操作カバー60が嵌
め込まれている。・・・即ち,可動片64によつて,操作カバー60の
押圧操作に応じてその押圧力を押圧方向と逆方向に反転させてスイッ
チ56のアクチュエータ562を操作するようにしている。」(第9欄3
5行∼第10欄42行)
イ乙2−5公報の上記記載によれば,乙2−5公報には,スイッチ機能と
表示機能とを兼ね備える表示器付スイッチに関し(上記ア(ア)),操作カバ
ー60の押圧操作による押圧力を,支持部441上の可動片64a,64
bにより反転させて,スイッチ56のアクチュエータ562を押し込み操
作するように構成すること(上記ア(エ),ア(オ))が記載されているものと
認められる。
ウ被告らは,乙2−5公報に記載の操作カバー60及び可動片64a,6
4bを備える支持部441は,順に本件各特許発明の「本体」及び「固定
具」にそれぞれ相当するから,乙2−5公報には,「固定具に対向する面か
ら突出するように設けられ,本体を上方から下方に押すことにより,固定
具により本体の内方に押し込まれるメカニズムのスイッチ」が記載されて
いると主張する。
しかし,乙2−5公報に記載の操作カバー60は,ケース48の前面部
内に前後方向に直動可能(上記ア(ウ),図1,2)又は回動可能(上記ア(オ),
図7)に嵌め込まれて構成されているところ,表示器52及びスイッチ5
6(アクチュエータ562を含む)は,上記ケース48内に配置されたプ
リント基板50に取り付けられており(上記ア(イ),(エ),(オ)),上記操
作カバー60は,表示器及びスイッチを有するものとは認められないから,
本件特許発明1の「本体」に相当するものとはいえない。
さらに,可動片64a,64bを備える支持部441は,操作カバー6
0を回動可能に支持するものではないから,本件特許発明1の「固定具」
に相当するものではない。
したがって,乙2−5公報に記載された操作カバー60及び可動片64
a,64bを備える支持部441は,順に本件特許発明1の「本体」及び
「固定具」に相当するものと認めることはできず,本体を固定具上で回動
可能に支持する構成とは本質的部分において異なるものであるから,被告
らの上記主張は採用できない。
(5)以上によれば,乙2−5公報には相違点Aに係る本件特許発明1の構成が
記載されているとはいえないから,当業者がこれを認定乙2−1−1発明に
適用したとしても,相違点Aに係る本件特許発明1の構成に容易に想到する
ことができたとはいえない。
また,本件特許発明2は,本件特許発明1の発明特定事項を含んで構成さ
れるものであるから,同様の理由により上記組み合わせでは,本件特許発明
2を当業者が容易に発明することができたということはできない。
(6)したがって,争点1−2(進歩性の欠如1)に関する被告らの主張は採用
することができない。
3争点1−3(進歩性の欠如2)について
(1)被告らは,本件各特許発明は,乙2−1−1公報に記載された発明と乙2
−2公報ないし乙2−5公報に記載された周知技術(本体の内方に押し込ま
れるスイッチ)に基づいて当業者が容易に発明することができた旨主張する。
(2)本件特許発明1と認定乙2−1−1発明との一致点及び相違点は,上記1
(2)キのとおりである。
(3)被告らが主張する本件各特許発明と認定乙2−1−1発明の相違点が誤
っていることは,上記2で指摘したとおりである。したがって,仮に乙2
−2公報ないし乙2−5公報に基づき主張に係る「固定具に対向する面から
突出するように設けられ,本体を上方から下方に押すことにより,固定具に
より本体の内方に押し込まれるメカニズムのスイッチ」が周知技術であると
認定できたとしても,本体が固定具に対していかなる態様で支持されている
かという点での相違点に係る本件各特許発明の構成を想到させるものではな
く,また何ら示唆を与えるものはないから,乙2−1−1公報に周知技術を
適用することによって本件各特許発明が容易想到であるとの主張は,その点
で理由がないことは既に明らかともいえる。
以下においては,乙2−2公報ないし乙2−5公報に記載された発明をあ
らためて認定した上,認定乙2−1−1発明に,乙2−2公報ないし乙2−
5公報に記載された発明を適用して本件各特許発明が容易に想到できたもの
かを念のため検討する。
(4)相違点に関する判断
ア乙2−2公報について
(ア)乙2−2公報には以下の記載がある。
a「〔産業上の利用分野〕本発明は開閉可能な電子機器の表示パネル
に関する。」(2欄5行∼6行)
b「〔発明の概要〕本発明は表示パネルを含む開閉可能な電子機器に
おいて,表示パネルに透過型,または半透過型を用い,表示パネルの
表裏を機器表面に露出させ,機器を開けた状態においても,閉めた状
態においても,その表示パネルの文字が正常に読めるようにしたもの
である。」(2欄7行∼12行)
c「〔実施例〕以下,本発明の実施例を図面に基づいて説明する。第
1図(判決注:下記第1図),第2図はそれぞれ本発明の電子機器の開
状態の一実施例を示す斜視図である。電子機器1は第1の筐体2と第
2の筐体3とからなり,第1の筐体と第2の筐体3とは,一端で開閉
可能に係合されている。・・・第1の筐体2と第2の筐体3の一方の内
面に,筐体2,3の開閉状態を検知するセンサーとしてのスイッチ6が
配置されている。更に,第1の筐体2の一部,第1の筐体2の表裏か
ら表示内容を目視できる様に表示パネル4が配置されている。」(3欄
44行∼4欄9行)
第1図
d「透過型液晶表示パネルを用いた表示パネル4は表示パネル4前面
から表示文字が正しく識別できる表示モードと,表示パネル4背面か
ら表示文字が正しく識別できる表示モードとの2つの表示モードを有
し,該スイッチ6の電子機器1の開閉情報と連動して2つの表示モー
ドが切り換わる。」(4欄13行∼18行)
e「次に,本発明の電子機器の動作について,第4図に示すフローチ
ャートに基づいて説明する。まづ,マイコン7はスイッチ6の状態を
読み込み(8),スイッチ6の開閉状態を判定する(9)。もし,スイ
ッチ6が閉状態であると,表示パネル4の表示モードをAモードとす
る(10)。つまり,電子機器1を閉じた状態で使用者が表示パネル4の
表示内容を識別できる。・・・もし,スイッチ6が開状態であると,表
示パネル4の表示モードをBモードとする(11)。つまり,電子機器1
を開いた状態で使用者が表示パネル4の表示内容を識別できる。」(4
欄33行∼46行)
(イ)乙2−2公報の上記記載によれば,乙2−2公報には,開閉可能な
電子機器の表示パネルに関し(上記(ア)a),電子機器1を第1の筐体
2と第2の筐体3とから構成し,第1の筐体2と第2の筐体3とを一端
で開閉可能に係合するとともに,第1の筐体2と第2の筐体3の一方の
内面に筐体2,3の開閉状態を検知するスイッチ6を配置し(上記(ア)
c),上記スイッチ6により電子機器1の開閉状態を判定し,表示パネ
ル4の表示モードを切り換えることで電子機器を開けた状態において
も,また閉めた状態においても,表示パネル4の表示内容を識別できる
ように構成すること(上記(ア)d,e)が記載されているものと認めら
れる。
また,第1図より,上記スイッチ6が第2の筐体3の内面から突出す
るように設けられていることが看取できる。
(ウ)この点について被告らは,乙2−2公報に記載された第2の筐体3,
第1の筐体2及びスイッチ6は,順に本件各特許発明の「本体」,「固定
具」及び「切換スイッチ」に相当するから,乙2−2公報には,「固定
具に対向する面から突出するように設けられ,本体を上方から下方に押
すことにより,固定具により本体の内方に押し込まれるメカニズムのス
イッチ」が記載されていると主張する。
しかし,乙2−2公報に記載の電子機器1は,第1の筐体2と第2の
筐体3とを一端で開閉可能に係合するものであるが,上記電子機器1は,
電子機器1を開けた状態においても,閉めた状態においても,その表示
パネルの文字が正常に読めるように構成したものであるから,第1の筐
体2は,第2の筐体3を所定の場所に固定するための固定具として機能
するものでない。同様に,第2の筐体3は,第1の筐体2を所定の場所
に固定するための固定具として機能するものではない。
したがって,乙2−2公報に記載の第1の筐体2及び第2の筐体3は,
本件特許発明1の「本体」及び「固定具」の関係をなすものとは認めら
れず,本体を固定具上で回動可能に支持する構成とは本質的に異なるも
のであるから,被告らの上記主張を採用することはできない。
(エ)以上のとおり,上記乙2−2公報には相違点Aに係る本件特許発明
1の構成が記載されていないから,乙2−2公報に記載された事項を認
定乙2−1−1発明に適用しても,本体(走行距離計)が,固定具に対
向する面から突出するように切換スイッチを設けたものとして構成し
得るものでなく,そのように構成された本体を,本体をバーに固定する
ための固定具上で回動可能に支持すること,及び,さらにそのように支
持された本体を上方から下方に向けて押すことにより,本体が回動し,
切換スイッチが固定具により本体の内方に押し込まれ,第1表示状態と
第2表示状態の切換えが行なわれることが,当業者にとって容易になし
得たものということはできない。
したがって,乙2−2公報に記載された事項が周知技術あるいは技術
常識であったとしても,当業者がこれを認定乙2−1−1発明に適用す
ることにより相違点Aに係る本件特許発明1の構成に想到することが
容易であったとはいえない。
イ乙2−3公報について
(ア)乙2−3公報には以下の記載がある。
a「1)表示体と支持体とは互いに回動すべく支持されていて,外部
操作により表示体と支持体のなす2安定角度を設定し得る操作型時計
に於いて,表示体を支持体に向つてプッシュする都度交互に上記2安
定角度が設定されるごとく構成したことを特徴とする操作型時計。」
(1頁左下欄5∼10行)
b「本発明はポケツト時計で表示体と支持体が互に回動すべく支持さ
れていて開きと閉じの二つの安定角度を操作設定し得る操作型時計に
係わり,操作の改善と,操作に連動するアラームセツトの配備,更に
はアラームモードの切換え等を計つたものである。」(1頁右下欄11
∼16行)
c「第1図(判決注:下記第1図)は本発明による操作型時計の側面
図で操作順序を表わしている。1−Aは閉の状態,1−Bは押の状態,
1−Cは開の状態を示す。1は支持体,2は表示体,3は支持体1と
表示体2の支軸である。」(1頁右下欄17行∼2頁左上欄1行)
d「次に操作方法を説明すると,1−Aの閉状態で表示体2を支持体
1に向つてプッシュすると矢印5にそつて1−Bの押状態になるが手
を放すと矢印6にそつて1−Cの開状態になる。1−Cの開状態から
同じく表示体2を支持体1に向つてプッシュすると矢印7にそつて1
−Bの押状態となるが手を放すと矢印8にそつて1−Aの閉状態にな
る。この様にして同一方向に単に押す都度,閉開が交互に反転する仕
組みになつているので,使用者にとつては非常に使い易いものであ
る。」(2頁左上欄5∼15行)
e「第1図の9と10はアラームセツトスイツチの端子であり,閉又
は押の状態では表示体2の端部11が一方の端子9を端子10より離
す方向に移動させてアラームセツトスイツチがOFF,1−Cの開の
状態では端子9と10はコンタクトしていてアラームセツトスイツチ
がONを選択する。この様にして表示体2と支持体1との回動操作と
連動してアラームセツトのON,OFFが設定できる仕組みになつて
いる。」(2頁右上欄5∼13行)
(イ)乙2−3公報の上記記載によれば,乙2−3公報には,表示体2と
支持体1とが互いに回動すべく支持され,外部操作により表示体2と支
持体1のなす二つの安定角度を設定し得る操作型時計に関し(上記(ア)a,
b),表示体2を支持体1に向かって押圧操作する都度,表示体2の開
閉が交互に反転するものであって(上記(ア)d),表示体2が閉又は押
の状態では表示体2の端部11が,支持体1に配設されたアラームセッ
トスイッチの端子9を端子10より離す方向に移動させてアラームセ
ットスイッチをOFFさせるとともに,表示体2が開状態では,上記端
子9,10は接触しアラームセットスイッチをONさせるように構成す
ること(上記(ア)e)が記載されているものと認められる。
また,第1図の操作型時計の側面図より,表示体2の端部に,下方に
突出して設けられた「突出部分」が看取できる(「端部11」と解され
る)。
(ウ)この点について被告らは,乙2−3公報に記載の表示体2,支持体
1及び端部11が本件各特許発明の「本体」,「固定具」及び「切換スイ
ッチ」に相当するから,乙2−3公報には,「固定具に対向する面から
突出するように設けられ,本体を上方から下方に押すことにより,固定
具により本体の内方に押し込まれるメカニズムのスイッチ」が記載され
ていると主張する。
確かに,乙2−3公報に記載された操作型時計は,表示体2と支持体
1とが互いに回動すべく支持され,表示体2を支持体1に向かって押圧
操作することで,アラームセットスイッチをONさせるものであり,「表
示体2」には,下方に突出する「突出部分」(「端部11」と解される)
が設けられている。
しかしながら,上記「突出部分」は,表示体2を上方から下方に押す
ことにより,支持体1に配設された端子9を端子10より離す方向に移
動させてスイッチ操作するものであり,支持体1により表示体2の内方
に押し込まれてスイッチ操作するものではないから,本件特許発明1の
切換スイッチの構造とは明らかに異なっており,上記「突出部分」を本
件特許発明1の「切換スイッチ」に相当するものと認めることはできな
い。
したがって,乙2−3公報に記載された「表示体2」,「支持体1」及
び「突出部分」は,本件特許発明1の「本体」,「固定具」及び「切換ス
イッチ」に相当するものとはいえず,本件特許発明1の構成とは異なる
ものであるから,被告らの上記主張を採用することはできない。
(エ)以上のとおり,乙2−3公報には相違点Aに係る本件特許発明1の
構成が記載されていないから,乙2−3公報に記載された事項が周知技
術あるいは技術常識であるとしても,当業者がこれを認定乙2−1−1
発明に適用することにより相違点Aに係る本件特許発明1の構成に容
易に想到することができたとはいえない。
ウ乙2−4公報について
(ア)乙2−4公報には以下の記載がある。
a「筐体に支持された固定接点と,該固定接点と対向する接点を有す
る可動接片と,前記筐体に移動可能に支持され前記可動接片を前記固
定接点方向に移動させる押圧片と,前記筐体に支点を介して揺動可能
に支持され前記押圧片を移動させる作動片とを備えるスイッチであっ
て,前記可動接片は,一端が粘弾性型樹脂から構成される衝撃吸収体
と,前記筐体に固定された固定金具との間に挟まれた状態で支持され,
前記作動片及び押圧片の移動に伴う前記可動接片の移動により前記衝
撃吸収体が弾性変形して前記対向する両接点が接触することを特徴と
するスイッチ。」(特許請求の範囲の欄の【請求項1】)
b「【発明の属する技術分野】本発明は,対向する接点を有する電気
的スイッチに係り,特に,稚魚等の極めて微細な行動に対応して作動
可能な高感度なスイッチ,・・・に関する。」(段落【0001】)
c「・・・図1(判決注:下記図1)は,本発明に係るスイッチの一
実施形態の断面図である。図1において,スイッチ10は,筐体11
に支持された固定接点12と,固定接点12と対向する接点13aを
有する可動接片13と,可動接片13を支持する粘弾性型樹脂から構
成される衝撃吸収体14と,筐体11に移動可能に支持され可動接片
13を固定接点12方向に移動させる押圧片15と,筐体11に支点
であるヒンジ部16aを介して揺動可能に支持され押圧片15を移動
させる作動片16とを備え,衝撃吸収体14は可動接片13の固定接
点12方向への変位により圧縮されて弾性変形する。」(段落【000
8】)
図1
d「筐体11に上下方向に移動可能に支持された押圧片15は,筐体
11内の一端が可動接片13に対接し,他端は筐体11から外部に突
出している。作動片16は金属板材から構成され,一端が筐体11に
ヒンジ部16aにより揺動可能に支持され,他端側の作動部が押圧片
15の突出部に対接している。・・・」(段落【0011】)
e「・・・図5に示すように,ニジマス,コイ等の稚魚40は空腹時
に垂直ロッド20先端の疑似餌21に食いつき,垂直ロッド20を引
張る。・・・小さな引張力でも確実に作動片16に伝達され,作動片1
6が押圧片15を上方に移動させて可動接片13を移動させ,接点1
3aが固定接点12に接触してスイッチ10は閉じる。・・・」(段落
【0016】)
図5
(イ)乙2−4公報の上記記載によれば,乙2−4公報には,対向する接
点を有する電気的スイッチに関し(上記(ア)b),筐体11に移動可能に
支持され可動接片13を固定接点12方向に移動させる押圧片15と,
筐体11に支点であるヒンジ部16aを介して揺動可能に支持され押圧
片15を移動させる作動片16とを備えるスイッチであって(上記(ア)
a,c),作動片16の揺動により,押圧片15を上方に移動させて可動
接片13を移動させることにより,接点13aと固定接点12とを接触
させスイッチ10を閉じるように構成すること(上記(ア)e)が記載され
ているものと認められる。
(ウ)被告らは,乙2−4公報に記載の「筐体11」及び「作動片16」
が順に本件特許発明1の「本体」及び「固定具」に相当するとして,乙
2−4公報には「固定具に対向する面から突出するように設けられ,本
体を上方から下方に押すことにより,固定具により本体の内方に押し込
まれるメカニズムのスイッチ」が記載されていると主張する。
しかし,乙2−4公報に記載された「作動片16」は,押圧片15を
作動させるための作動片として設けられたものであり,そもそも筐体1
1を回動可能に支持するため設けたものではないから,筐体11を上方
から下方に向けて押すことにより,筐体11が作動片16上で回動させ
る構造のものとはいえない。
したがって,乙2−4公報に記載された「筐体11」及び「作動片1
6」は,本件特許発明1の「本体」及び「固定具」の関係をなすものと
はいえず,本体を固定具上で回動可能に支持する構成とは本質的部分に
おいて異なるものであるから,被告らの上記主張は採用できない。
(エ)以上のとおり,乙2−4公報には相違点Aに係る本件特許発明1の
構成が記載されていないから,乙2−4公報に記載された発明が周知技
術あるいは技術常識であるとしても,当業者がこれを認定乙2−1−1
発明に適用することにより相違点Aに係る本件特許発明1の構成に容易
に想到することができたとはいえない。
エ乙2−5公報について
乙2−5公報には,スイッチ機能と表示機能とを兼ね備える表示器付ス
イッチに関し,操作カバー60の押圧操作による押圧力を,支持部441
上の可動片64a,64bにより反転させて,スイッチ56のアクチュエ
ータ562を押し込み操作するように構成することが記載されているもの
と認められるが,乙2−5公報に記載された操作カバー60及び可動片6
4a,64bを備える支持部441は,順に本件特許発明1の「本体」及
び「固定具」に相当するものと認めることはできず,本体を固定具上で回
動可能に支持する構成とは本質的部分において異なるものであることは上
記2(4)のとおりである。
(4)以上のとおり,認定乙2−1−1発明に,乙2−2公報ないし乙2−5公
報に記載された発明を適用しても本件特許発明1に容易に想到することはで
きないというべきである。
また,本件特許発明2は,本件特許発明1の発明特定事項を含んで構成さ
れるものであるから,同様の理由により上記組み合わせでは,当業者が本件
特許発明2を容易に発明することができたということもできない。
(5)したがって,争点1−3(進歩性の欠如2)に関する被告らの主張は採用
することができない。
4争点1−4(進歩性の欠如3)について
(1)被告らは,本件各特許発明は,乙2−1−1公報に記載された発明と丙
7公報に記載された周知技術(一つの部材からなる本体と固定具を構成要素
とする自転車用表示装置)並びに丙4文献及び丙20文献に記載された周知
技術(逆作動方式のリミットスイッチ)に基づいて当業者が容易に発明する
ことができた旨主張する。
(2)本件特許発明1と認定乙2−1−1発明との一致点及び相違点は,上記1
(2)キのとおりである。
(3)被告らの主張は,本件各特許発明と認定乙2−1−1発明の相違点を,「本
体」を「回動させる」ものであるか否かの点(相違点1)と,切換スイッチ
の一部であるアクチュエータが本体の内方に押し込まれるという構造が明ら
かでない点(相違点2)であるとするものであり,上記認定した相違点Aと
は,相違点2の点において異なっており,前提において誤ったものといわな
ければならないが,以下において,上記認定した相違点Aを前提に,被告ら
主張の丙7等の文献に記載された技術を適用して,本件各特許発明が容易想
到といえるのかについて念のため検討する。
(4)相違点に関する判断
ア丙7公報
(ア)丙7公報には以下の記載がある。
a「本発明は,表示装置,特に,自転車のフレームに装着され各種の
情報を表示するための自転車用表示装置に関する。」(段落【0001】)
b「・・・また,自転車の場合,電源の容量や表示装置の質量の制限
等の要因により表示部の面積が限定されることが多いので,限られた
面積で多くの情報を表示しようとすると表示される情報が小さくなり,
さらに直感的に情報を認識しにくくなる。・・・本発明の課題は,限ら
れた面積に多くの情報を表示しても情報を直感的に認識しやすい自転
車用表示装置を提供することにある。」(段落【0005】∼段落【0
006】)
c「図2(判決注:下記図2)に示すように,ハンドル4の両端部に
はそれぞれグリップ12a,12bとブレーキレバー13a,13b
とが設けられている。また,ハンドル4において,グリップ12a,
12b及びブレーキレバー13a,13bの内側には変速操作部14
a,14bが設けられている。さらに,ハンドル4の中央部には走行
状態を表示可能な変速制御装置15が装着されており・・・」(段落【0
023】)
図2
d「・・・変速操作部14aには・・・と右手元モードボタン20a
とが設けられ,他方の変速操作部14bには・・・と左手元モードボ
タン20bとが設けられている。」(段落【0025】)
e「変速制御装置15は,・・・両手元モードボタン20a,20b
の操作に応じて表示制御を行うためのものである。この変速制御装置
15は,・・・現在の変速段や車速などの各種の情報を表示するセグメ
ント方式の液晶表示面25と液晶表示面25を背面側から正面するバ
ックライト26とを有する表示部24,及び時計48を備えてい
る。・・・」(段落【0026】)
f「また,変速制御装置15は,箱状の制御ケース27に納められて
おり,表示部24がその上面に配置されている。・・・なお,ケース2
7は,自転車1のハンドル4に装着されたブラケット29に着脱自在
に装着されている。」(段落【0027】)
g「ケース27の裏面には,左右の手元モードボタン20a,20b
と同様な機能を有する1対の手元モードボタン(図示せず)が配置さ
れている。このため,ケース27をブラケット29から取り外しても
表示部24の表示機能を種々に設定できる。」(段落【0028】)
h「表示部24の液晶表示部25は,自転車の速度,走行距離,ラッ
プタイム,クランク軸の回転数(ケイデンス),外装変速装置のシフト
位置等の各種情報を測定もしくは演算して表示するものであり,・・・」
(段落【0029】)
i「・・・キー入力処理では,左手元モードボタン20bを何回か押
すことにより,主数値表示部52の表示を,走行距離,シフト位置数
値表示,最大速度,平均速度…のように順次切り換えることができる。」
(段落【0049】)
(イ)丙7公報の上記記載によれば,丙7公報には,自転車用表示装置に
関し(上記(ア)a),限られた面積に多くの情報を表示しても,情報を直
感的に認識しやすい自転車用表示装置を提供するとの課題とともに(上
記(ア)b),ハンドル4に自転車の走行状態を表示可能な変速制御装置1
5を装着するものであって(上記(ア)c),上記変速制御装置15は箱状
の制御ケース27に納められるとともに表示部24がその上面に配置
され,上記制御ケース27は,自転車1のハンドル4に装着されたブラ
ケット29に着脱自在に装着されていること(上記(ア)f),上記変速制
御装置15は,手元モードボタン20a,20bの操作に応じて表示制
御を行うとともに,表示部24に変速段や車速などの各種の情報を表示
すること(上記(ア)e,h,i),上記ケース27の裏面には,左右の手
元モードボタン20a,20bと同様な機能を有する1対の手元モード
ボタンが配置されており,ケース27をブラケット29から取り外して
も表示部24の表示機能を種々に設定できること(上記(ア)g),が記載
されているものと認められる。
(ウ)丙7公報に記載の自転車用表示装置の制御ケース27は,自転車1
のハンドル4に装着されたブラケット29に着脱自在に装着されてい
ることから(上記(ア)f),上記「変速制御装置15(制御ケース27及
び表示部24を含む)」及び「ブラケット29」は,その装着構造にお
いて,本件特許発明1の「本体」及び「固定具」の関係をなすものとい
える。
しかしながら,上記「変速制御装置15(制御ケース27及び表示部
24を含む)」は,「ブラケット29」上で回動可能に支持されるもので
はなく,「変速制御装置15(制御ケース27及び表示部24を含む)」
を上方から下方に向けて押すことにより表示制御するものではないか
ら,本件特許発明1の本体を固定具上で回動可能に支持する構成とは,
本質的部分において異なることは明らかである。
そうすると,丙7公報に記載された発明を認定乙2−1−1発明に適
用しても,本体(走行距離計)が,固定具に対向する面から突出するよ
うに切換スイッチを設けたものとして構成し得るものでなく,そのよう
に構成された本体を,本体をバーに固定するための固定具上で回動可能
に支持すること,及び,さらにそのように支持された本体を上方から下
方に向けて押すことにより,本体が回動し,切換スイッチが固定具によ
り本体の内方に押し込まれ,第1表示状態と第2表示状態の切換えが行
なわれることが,当業者にとって容易になし得たものとすることはでき
ない。
したがって,丙7公報に記載された発明が本件特許出願前に周知であ
るとしても,これを認定乙2−1−1発明に適用して相違点Aに係る本
件特許発明1の構成に至ることは,当業者にとって容易であるとはいえ
ない。
(エ)被告らは,認定乙2−1−1発明と丙7公報に記載された発明とは,
「操作性の向上と表示領域の確保」という課題が共通し,耐久性を高め
るという観点からは本体の一部ではなく本体全体を回動させることが
望ましいから,認定乙2−1−1発明のカバーと基部を一つの部材であ
る本体に置換することには,耐久性を高めるという動機付けがあると主
張する。
確かに,丙7公報には,本体と固定具を構成要素とする自転車用表示
装置が記載されているが,この自転車用表示装置は,手元モードボタン
20a,20bを操作することにより,又は,ケース27の裏面に配置
された1対の手元モードボタンを操作することにより,表示部24の表
示制御を行わせるものであり,本体を上方から下方に向けて押すことに
よって支持体上で本体を回動させて表示制御するものではない。
そうすると,丙7公報に記載された発明を認定乙2−1−1発明に適
用しても,支持体上で本体を回動させる構成に想到することができると
はいえない。
イ丙4文献及び丙20文献
被告らは,丙4文献及び丙20文献に「マイクロスイッチ(電気回路開
閉装置)が部材の内部に収納され,作動体の動きと逆方向の動きをアクチ
ュエータがマイクロスイッチに伝えてマイクロスイッチが作動する逆作動
方式のリミットスイッチ」が記載されており,認定乙2−1−1発明に同
リミットスイッチを適用することにより,本件特許発明1に到達すると主
張する。
確かに,丙4文献及び丙20文献には,各種リミットスイッチの原理・
構造等が記載されているが,そのいずれにも,表示装置の本体が固定具上
で回動可能に支持され,本体における固定具に対向する面から突出するよ
うに切換スイッチが設けられ,本体を上方から下方に向けて押すことによ
り,固定具上に支持された本体が回動し,切換スイッチが固定具により本
体の内方に押し込まれる構造は,記載も示唆もなされていない。
そうすると,丙4文献及び丙20文献に記載された各種スイッチの構造
が本件特許出願前に周知であるとしても,これを認定乙2−1−1発明に
適用して上記相違点Aに係る本件特許発明1の構成に至ることは,当業者
にとって容易であるとはいえない。
(5)以上のとおり,本件特許発明1は,認定乙2−1−1発明と丙7公報,丙
4文献及び丙20文献に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明する
ことができたものということはできないし,また,本件特許発明2は,本件
特許発明1の発明特定事項を含んで構成されるものであるから,同様の理由
により,これらの組み合わせよって本件特許発明2を当業者が容易に発明す
ることができたということもできない。
(6)したがって,争点1−4(進歩性の欠如3)に関する被告らの主張は採用
することができない。
5争点1−5(新規性の欠如2)について
(1)被告らは,本件各特許発明がプラネットバイク社製品に係る発明と同一で
あり新規性がないと主張するので,以下,検討する。
(2)プラネットバイク社製品の販売時期
証拠(乙3−2−1,乙3−5−1,乙3−6−1,丙25)によれば,
プラネットバイク社製品は,遅くとも本件特許出願日である平成18年1月
20日より前に販売されていたことが認められる。
(3)プラネットバイク社製品の構造
ア証拠(甲12,乙3−1−1,乙3−3)及び弁論の全趣旨によれば,
プラネットバイク社製品は,下記の構成(以下「プラネット実施発明」とい
う。)を有するものと認められる。
「自転車のハンドルバーに取付けられる表示装置であって,
走行距離の情報を表示する表示状態,および,平均速度・最高速度の情
報を表示する表示状態を実現可能な液晶画面を有するコンピューターケ
ースと,
前記コンピューターケースを前記ハンドルバーに固定するためのマウ
ンティングブラケットとを備え,
前記コンピューターケースは前記マウンティングブラケット上で前後
動可能に支持され,
前記コンピューターケースにおける前記マウンティングブラケットに
対向する面から突出するように前記走行距離の情報を表示する表示状態
と平均速度・最高速度の情報を表示する表示状態の切換えを行なうモード
スイッチが設けられ,
前記コンピューターケースを後方から前方に向けて押すことにより,前
記マウンティングブラケット上に支持されたコンピューターケースが前
方に移動し,前記モードスイッチが前記マウンティングブラケット上に形
成された傾斜面により前記コンピューターケースの内方に押し込まれ,前
記走行距離の情報を表示する表示状態と平均速度・最高速度の情報を表示
する表示状態の切換えが行なわれる,表示装置。」
イ被告らは,プラネットバイク社製品は,上下方向に押圧し,回動させる
ことにより表示状態の切換えが可能であり,現実に,ユーザーはこのよう
な方法で表示状態を切り替えていると主張する。
しかし,被告らの主張を認めるに足りる証拠はない上,プラネットバイ
ク社製品の商品取扱説明書(乙3−1−1)には,コンピューターケース
を後方から前方に向けて押すことによって表示状態の切換えを行うとし
か記載されておらず,プラネットバイク社製品の構造からしても,上下方
向に押圧することによってモードスイッチをコンピューターケースの内
方に押し込むことができるとは考えがたい。被告らの上記主張は採用でき
ない。
(4)本件特許発明1とプラネット実施発明との対比
プラネット実施発明の「自転車のハンドルバー」,「走行距離の情報を表示
する表示状態」,「平均速度・最高速度の情報を表示する表示状態」,「液晶画
面」,「コンピューターケース」,「マウンティングブラケット」,「モードスイ
ッチ」は,その機能・構造からして,順に本件特許発明1の「バー」,「第1
の情報を表示する第1表示状態」,「第2の情報を表示する第2表示状態」,「表
示部」,「本体」,「固定具」及び「切換スイッチ」に相当する。
そうすると,本件特許発明1とプラネット実施発明の一致点と相違点は次
のとおりとなる。
【一致点】
バーに取付けられる表示装置であって,第1の情報を表示する第1表示状
態,および,第2の情報を表示する第2表示状態を実現可能な表示部を有す
る本体と,前記本体を前記バーに固定するための固定具とを備え,前記本体
は前記固定具上で支持され,前記本体における前記固定具に対向する面から
突出するように前記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えを行なう切換
スイッチが設けられ,前記本体を押すことにより,前記切換スイッチが前記
固定具により前記本体の内方に押し込まれ,前記第1表示状態と前記第2表
示状態の切換えが行なわれる,表示装置。
【相違点】
本件特許発明1は,本体は固定具上で「回動可能」に支持され,前記本体
を「上方から下方に向けて」押すことにより,「前記固定具上に支持された前
記本体が回動し,切換スイッチが前記固定具により前記本体の内方に押し込
まれ」,表示状態の切換えが行われるのに対し,プラネットバイク社製品は,
本体は固定具上で「前後動可能」に支持され,前記本体を「後方から前方に
向けて」押すことにより,「前記固定具上に支持された前記本体が前方に移動
し,切換スイッチが前記固定具(マウンティングブラケット)上に形成され
た傾斜面により前記本体の内方に押し込まれ」,表示状態の切換えが行われる
点(以下,「相違点B」という。)。
(5)以上によれば,本件特許発明1とプラネット実施発明とは,相違点Bにお
いて相違するから,両者は同一ということはできない。
また,本件特許発明2は,本件特許発明1の発明特定事項を含んで構成さ
れるものであるから,本件特許発明2は,本件特許発明1と同様の理由によ
り,プラネット実施発明と同一ということはできない。
(6)したがって,争点1−5(新規性の欠如2)に関する被告らの主張は採用
することができない。
6争点1−6(進歩性の欠如4)について
(1)被告らは,乙2−1−1公報に記載された発明にプラネット実施発明を
適用することにより,本件特許発明1に容易に想到することができたと主張
する。
(2)本件特許発明1と認定乙2−1−1発明とは,上記1(2)キのとおり,相
違点Aにおいて相違し,その余の点で一致する。
(3)プラネットバイク社製品の構成は,上記5(3)のとおりであるところ,モ
ードスイッチは,コンピューターケースがマウンティングブラケット上に前
後動可能に支持されており,コンピューターケースを後方から前方に向けて
押すことにより,マウンティングブラケット上に支持されたコンピューター
ケースが前方に移動し,モードスイッチがマウンティングブラケット上に形
成された傾斜面によりコンピューターケースの内方に押し込まれるように構
成されたものである。
すなわち,本体を固定具上で回動可能に支持するものではなく,本体を上
方から下方に向けて押すことにより,本体が回動し,切換スイッチが固定具
により本体の内方に押し込まれるものではない。
そうすると,認定乙2−1−1発明に,プラネット実施発明のコンピュー
ターケース及びモードスイッチに係る技術的事項を適用することで,本体(走
行距離計)を,固定具に対向する面から突出するように切換スイッチを設け
たものとして構成し得たとしても,そのように構成された本体を,固定具上
で回動可能に支持し,上方から下方に向けて押すことにより,本体が回動し,
切換スイッチが固定具により本体の内方に押し込まれるように構成すること
までが,当業者にとって容易になし得たものとすることはできない。
(4)以上のとおり,本件特許発明1は,認定乙2−1−1発明及びプラネット
実施発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは
いえない。また,本件特許発明2は,本件特許発明1の発明特定事項を含ん
で構成されるものであるから,同様の理由により,これらの組み合わせによ
って当業者が容易に発明することができたということはできない。
(5)したがって,争点1−6(進歩性の欠如4)に関する被告らの主張は採用
することができない。
7争点1−7(進歩性の欠如5)について
(1)被告らは,プラネットバイク社製品に係る発明に乙2−1−1公報に記載
された発明を適用することにより本件特許発明1に容易に想到することがで
きたと主張する。
(2)本件特許発明1とプラネット実施発明とは,上記5(4)のとおり,相違点
Bにおいて相違し,その余の点で一致する。
(3)相違点に関する判断
認定乙2−1−1発明の構成は,上記1(1)イのとおりであるところ,スイ
ッチ6は,ケース1内に設けられており,その構成部材の片方がカバー3側
に固定され,他方が基部2側に固定されて構成されたものであるから,プラ
ネット実施発明の切換スイッチとはその構造において異なることが明らかで
あり,さらに,認定乙2−1−1発明のスイッチ6の切換え構造は,切換ス
イッチが固定具により本体の内方に押し込まれるように構成したものではな
いから,プラネット実施発明の切換スイッチを本体の内方に押し込むための
構造として適用できるものではない。
そうすると,プラネット実施発明に,認定乙2−1−1発明のスイッチに
係る技術的事項を適用しても,相違点Bに係る本件特許発明1の構成に至る
ことは,当業者にとって容易であるとはいえない。
(4)以上によれば,本件特許発明1は,プラネット実施発明及び認定乙2−1
−1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは
いえない。
また,本件特許発明2は,本件特許発明1の発明特定事項を含んで構成さ
れるものであるから,同様の理由により,これらの組み合わせによって当業
者が容易に発明することができたということはできない。
(5)したがって,争点1−7(新規性の欠如5)に関する被告らの主張は採用
することができない。
8争点1−8(サポート要件に違反するか)について
(1)被告らは,特許請求の範囲の請求項1及び請求項1を引用する請求項4は,
本体押圧可能領域と支点位置との関係について何ら記載されておらず,支点
と重心の位置関係について限定していないから,発明の詳細な説明に記載さ
れた発明の範囲を超えるものであり,また,請求項1及び請求項4の各構成
では原告が主張する広い面を押すことができるという作用効果を奏すると
はいえないから,特許法36条6項1号に違反すると主張する。
(2)本件明細書の【発明の詳細な説明】には,以下の記載がある。
ア【発明が解決しようとする課題】
(ア)「表示装置の表示部上に異なる複数の情報を表示する際,限られた
表示部の面積を有効に活用するために,表示部上に一部の情報のみを表
示し,表示の切換えを行なうことで他の情報を表示する場合がある。こ
のような表示装置は,たとえば,非特許文献1に記載されている。」(段
落【0003】)
(イ)「このような表示装置において,表示の切換えの操作性の向上を考
慮すると,表示の切換えを行なうための切換えスイッチを表示装置の上
面に設け,該スイッチを上方から下方に向けて押すことで表示の切換え
が行なわれるようにすることが好ましい。一方で,切換えスイッチを表
示装置の上面に設けた場合,表示部の表示領域が縮小されるという問題
が生じる。」(段落【0004】)
(ウ)「本発明は,上記のような問題に鑑みてなされたものであり,本発
明の目的は,表示領域を確保しながら操作性を向上させた表示装置を提
供することにある。」(段落【0005】)
イ【課題を解決するための手段】
(ア)「上記表示装置は,本体をバーに固定するための固定具をさらに備
え,本体は固定具上で回動可能に支持され,本体における固定具に対向
する面から突出するように第1と第2表示状態の切換えを行なう切換
スイッチが設けられる。本体を上方から下方に向けて押すことにより,
固定具上に支持された本体が回動し,切換スイッチが固定具により本体
の内方に押し込まれ,第1表示状態と第2表示状態の切換えが行なわれ
る。」(段落【0008】)
(イ)「上記構成によれば,固定具に向けて本体を押すことで切換えスイ
ッチが押し込まれ,表示状態の切換えが行なわれる。これにより,表示
部の領域の縮小を抑制しながら表示切換えの操作性を向上させること
ができる。」(段落【0009】)
ウ【発明の効果】
「本発明によれば,表示領域を確保しながら操作性を向上させた表示装
置を得ることができる。」(段落【0015】)
エ【発明を実施するための最良の形態】
「図12(判決注:下記図12)は,上述した表示装置の重心位置につい
て説明する図である。図12を参照して,表示装置本体100は,固定具
200上で回動可能に支持されている。すなわち,表示装置本体100は,
矢印DR3方向,矢印DR4方向に回動可能である。表示装置における表
示の切換えを行なう際は,表示装置本体100の矢印DR2側端部(後方
側端部)が下方に押圧される。これにより,表示装置本体100が矢印D
R3方向に回動し,ゴムボタン130が固定具200により表示装置本体
100の内方に押し込まれ,タクトスイッチ140が作動する。」(段落
【0025】)
図12
(3)検討
本件明細書の上記記載によれば,本件各特許発明は,「切換えスイッチを
表示装置の上面に設けた場合,表示部の表示領域が縮小される」との課題を
解決するために(段落【0003】∼【0005】),「本体をバーに固定
するための固定具を備え,本体は固定具上で回動可能に支持され,本体にお
ける固定具に対向する面から突出するように第1と第2表示状態の切換え
を行なう切換スイッチが設けられ,本体を上方から下方に向けて押すことに
より,固定具上に支持された本体が回動し,切換スイッチが固定具により本
体の内方に押し込まれ,第1表示状態と第2表示状態の切換えが行なわれ
る」との構成を課題解決手段とし(段落【0008】),「表示部の領域の縮
小を抑制しながら表示切換えの操作性を向上させることができる」という作
用効果を奏するものとされている(上記【0009】,【0015】)。
そうすると,本件各特許発明にいう「回動」という動きは,「本体を上方
から下方に向けて押すことにより,固定具上に支持された本体が回動し,切
換スイッチが固定具により本体の内方に押し込まれ,第1表示状態と第2表
示状態の切換えが行なわれる」ように機能する動きとして,その技術的意義
を有するものといえ,そのような「回動」という動きに,支点位置と切換ス
イッチの位置関係や,表示切換のための本体押圧可能領域の制約,さらには,
支点と重心の位置関係についてまで問われるものとは認められない。
また,発明を実施するための最良の形態として,表示装置本体100の矢
印DR3方向及びDR4方向の動きを「回動」の動きとするものであるとこ
ろ(段落【0025】),図12には,上記矢印DR3方向及びDR4方向
の動きは,支点Fを支点とした正逆方向の円運動として示されている。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,「回動」に係る具体的
構造が,当業者において認識できる程度に,本件各特許発明と整合して記載
されていることが明らかであり,特許を受けようとする発明が,発明の詳細
な説明に記載されたものであるということができる。
なお,図12には,「支点F」,「重心G」及び「切換スイッチの作動位置
A」の各位置関係について示されているが,図12はあくまでも本件各特許
発明の1つの実施の形態を示すものであり,さらに,前示のとおり「回動」
という動きの技術的意義は,「本体を上方から下方に向けて押すことにより,
固定具上に支持された本体が回動し,切換スイッチが固定具により本体の内
方に押し込まれ,第1表示状態と第2表示状態の切換えが行なわれる」こと
といえるから,図12に示された「支点F」,「重心G」及び「切換スイッ
チの作動位置A」の各位置関係のもののみが「回動可能」とした構成である
と解すべき理由はない。
(4)そうすると,特許請求の範囲の請求項1及び請求項4の記載は,発明の詳
細な説明に記載された発明の範囲を超えるものということはできず,特許法
36条6項1号違反により無効とされるべきであるとする被告らの主張は採
用できない。
(5)したがって,争点1−8(サポート要件違反)に関する被告らの主張は採
用することができない。
9争点1−9(明確性要件に違反するか)について
(1)被告らは,特許請求の範囲の請求項1に記載の「切換スイッチ」の意義が
不明確であるから,請求項1及び請求項1を引用する請求項4の記載では特
許を受けようとする発明が不明確であり,特許法36条6項2号に違反する
無効理由があると主張する。
(2)特許請求の範囲の請求項1には,「切換スイッチ」について,「本体におけ
る前記固定具に対向する面から突出するように・・・設けられ」たものであ
り,「前記本体を上方から下方に向けて押すことにより,・・・固定具により
前記本体の内方に押し込まれ」るものであって,表示部の「第1表示状態と
第2表示状態の切換え」を行うものであると記載されている。
そして,「スイッチ」が字義的には「①電気回路を開閉する装置。開閉器,
点滅器。」(広辞苑第6版)を意味することを併せて考慮すれば,請求項1の
「切換スイッチ」とは,表示装置における電気回路を開閉する装置を構成す
るものであって,本体における固定具に対向する面から突出するように設け
られ,本体を上方から下方に向けて押すことにより,固定具により本体の内
方に押し込まれるように構成され,表示部の第1表示状態と第2表示状態の
切換えを行なうものとして機能するものと理解することができ,その機能・
構造において明確といえる。
(3)そして,本件明細書の【発明の詳細な説明】の個所には,「切換スイッチ」
について,以下のように記載されている。
ア「上記表示装置は,・・・本体における固定具に対向する面から突出す
るように第1と第2表示状態の切換えを行なう切換スイッチが設けられる。
本体を上方から下方に向けて押すことにより,固定具上に支持された本体
が回動し,切換スイッチが固定具により本体の内方に押し込まれ,第1表
示状態と第2表示状態の切換えが行なわれる。・・・上記構成によれば,
固定具に向けて本体を押すことで切換えスイッチが押し込まれ,表示状態
の切換えが行なわれる。これにより,表示部の領域の縮小を抑制しながら
表示切換えの操作性を向上させることができる。」(段落【0008】∼
段落【0009】)
イ「図1∼図5を参照して,本実施の形態に係る表示装置本体100
は,・・・表示装置本体の底面から突出するように設けられたゴムボタン
130と,ゴムボタン130上に設けられたタクトスイッチ140と,バ
ッテリ150とを含んで構成される。」(段落【0018】)
ウ「・・・すなわち,表示部110は,上記の複数の情報のうち一部の情
報を表示する「第1表示状態」と,他の情報を表示する「第2表示状態」
とを実現する。・・・ゴムボタン130が本体内部に向けて押し込まれる
と,タクトスイッチ140が押され,表示状態の切換えが行なわれる。表
示状態が順次切換えられることで,自転車の運転者は,各種情報を順次確
認することができる。」(段落【0019】)
エ「・・・そして,表示装置本体100における固定具200に対向する
面(すなわち,表示装置本体100の底面)から突出するように第1と第
2表示状態の切換えを行なう「切換スイッチ」としてのゴムボタン130
が設けられる。ゴムボタン130が表示装置本体100の内方に押し込ま
れることでタクトスイッチ140が作動し,表示状態の切換えが行なわれ
る。」(段落【0034】)
(4)本件明細書の【発明の詳細な説明】の記載によれば,「切換えスイッチ」
は,表示部の領域の縮小を抑制しながら表示切換えの操作性を向上させるこ
とができるものとされている(段落【0008】∼段落【0009】)。
そして,本件各特許発明の実施の形態に係る表示装置本体100は,「ゴム
ボタン130」と「タクトスイッチ140」とを含んで構成されているとこ
ろ(段落【0018】),上記「ゴムボタン130」が本体内部に向けて押し
込まれることにより「タクトスイッチ140」が押され,表示状態の切換え
が行なわれるとされているから(段落【0019】,【0034】),上記
「ゴムボタン130」と「タクトスイッチ140」とは,その機能・構造に
おいて,一体不可分として表示装置の「電気回路を開閉する装置」を構成す
るものであり,両者を一体として「切換スイッチ」に相当するものと理解す
ることができる。
そうすると,本件明細書における「切換スイッチ」の記載は,上記(2)で検
討した「切換スイッチ」の構造及び機能と整合し,矛盾するものではない。
(5)以上によれば,特許請求の範囲の請求項1に記載された「切換スイッチ」
について,その構成要素の意義が明確でないとする理由はなく,被告らの主
張を採用することはできない。
(6)したがって,争点1−9(明確性要件違反)に関する被告らの主張は採用
することができない。
10争点2(被告各製品は本件各特許発明の技術的範囲に属するか)について
(1)被告各製品の構成
ア原告主張に係る構成a,bについて
被告各製品が,「a自転車のハンドルバー又はハンドルバーステムに取
付けられるメインユニットであって,」,「b第1の情報を表示する第
1表示状態,第2の情報を表示する第2表示状態などの複数(n個)の情
報を表示する第n表示状態を実現可能な表示部を有するメインコンピュー
ターユニットと(ただし,被告製品1においてはnは9,被告製品2にお
いてはnは12),」との各構成を有することは当事者間に争いがない。
イ原告主張に係る構成cについて
証拠(甲3,甲9)及び弁論の全趣旨によれば,被告各製品が,メイン
コンピューターユニットを収納してハンドルバー又はハンドルバーステム
の所定位置に動かないように取り付けるメインカバーを有することが認め
られる。
ウ原告主張に係る構成dについて
(ア)被告各製品が「前記メインカバーは,矩形状の硬質プラスチック板
と,該プラスチック板の周縁に立設された弾力性のあるシリコーンラバ
ー製周壁部とを有し,前記プラスチック板の上面の前側の左右両側に深
さ約0.6ミリメートルのくぼみが設けられ,前記メインコンピュータ
ーユニットは矩形状の上面と底面と四方の側面とを有し,前記側面全体
と上面の縁が前記メインカバーの周壁部で覆われており,該底面の前側
の左右両側に隆起高さ約1.3ミリメートルの一対の突起が突設され,
該底面の後ろ側の中央部に隆起高さ約1.6ミリメートルのロッドが軸
方向移動可能に突設され,前記一対の突起の先端と前記ロッドの先端が
前記プラスチック板の上面に当接する」こと,メインコンピューターユ
ニットがメインカバー上に載置されていることは当事者間に争いがな
い。
(イ)ところで,被告各製品のメインコンピューターの正面の上面を上方
から下方に押すことにより,軸方向に移動可能に突設されたロッドがメ
インコンピューターユニットの内方に押し込まれることも当事者間に
争いがない(原告主張に係る構成f)。
そして,上記のとおり,被告各製品では底面前側にある一対の突起の
先端と底面後ろ側にあるロッドの先端がプラスチック板の上面に当接
するものであること,ロッドは軸方向移動可能に突設されているもので
あるが,一対の突起は軸方向に移動することができないことからすれば,
被告各製品のメインコンピューターの正面の上面を上方から下方に押
した場合には,メインコンピューターユニットは,底面前側の軸方向に
移動することのない一対の突起の先端を支点として,底面後ろ側のロッ
ドが軸方向に移動することになるから,メインコンピューターユニット
が一対の突起の先端を支点として下方に動くことは明らかである。被告
各製品のメインコンピューターの動きを確認できるようにメインカバ
ーの一部を切断して被告各製品を作動させた状況を撮影した映像を見
ても,メインコンピューターの正面の上面を上方から下方に押すと,メ
インコンピューターユニットが一対の突起の先端を支点として下方に
動いていることを確認することができる(甲9)。
(ウ)したがって,被告各製品は,「d前記メインカバーは,矩形状の硬
質プラスチック板と,該プラスチック板の周縁に立設された弾力性のあ
るシリコーンラバー製周壁部とを有し,前記プラスチック板の上面の前
側の左右両側に深さ約0.6ミリメートルのくぼみが設けられ,前記メ
インコンピューターユニットは矩形状の上面と底面と四方の側面とを
有し,前記側面全体と上面の縁が前記メインカバーの周壁部で覆われて
おり,該底面の前側の左右両側に隆起高さ約1.3ミリメートルの一対
の突起が突設され,該底面の後ろ側の中央部に隆起高さ約1.6ミリメ
ートルのロッドが軸方向移動可能に突設され,前記一対の突起の先端と
前記ロッドの先端が前記プラスチック板の上面に当接することにより,
前記メインコンピューターユニットが前記メインカバー上で前記一対
の突起の先端を支点として下方に動くことが可能となるように載置さ
れており,」との構成を有するものと認められる。
エ原告主張に係る構成eについて
被告各製品において,ロッドがプラスチック板の上面に対向する面であ
る底面から突出するように設けられていること,メインコンピューターユ
ニットの内部に押圧スイッチが設けられていること,押圧スイッチがロッ
ドの先端に当接することにより前記第1表示状態と前記第2表示状態な
どの第n表示状態の切換えが行われることは当事者間に争いはない。
オ原告主張に係る構成fについて
被告各製品において,ロッドが設けられている部分のメインコンピュー
ターユニットの前記上面を上方から下方に押すことにより,前記メインカ
バーに収納されたメインコンピューターユニットが下方に動き,ロッドが
メインカバーからの反作用によってメインコンピューターユニットの内
方に押し込まれ,押圧スイッチを下方から上方に押すことにより,前記第
1表示状態と前記第2表示状態などの第n表示状態の切換えが行われる
ことは当事者間に争いがない。
そして,上記ウで検討したとおり,メインコンピューターの正面の上面
を上方から下方に押すと,メインコンピューターユニットが一対の突起の
先端を支点として下方に動くことが認められる。
また,証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば,被告各製品のメインコ
ンピューターユニットの一対の突起の先端はプラスチック板のくぼみに
嵌合していることも認められる。
したがって,被告各製品は,「f前記ロッドが設けられている部分のメ
インコンピューターユニットの前記上面を上方から下方に向けて押すこと
により,前記プラスチック板のくぼみに嵌合する前記一対の突起の先端を
支点として,前記メインカバー上に載置された前記メインコンピューター
ユニットが下方に動き,その反作用で,前記ロッドが相対的に上方移動し
て前記メインコンピューターユニットの内方に押し込まれ,その先端部が
前記押圧スイッチを突き上げ作動させることにより前記第1表示状態と前
記第2表示状態などの第n表示状態の切換えが行われるメインユニット。」
との構成を有するものと認められる。
カ以上によれば,被告各製品は,次の構成を有するものと認めることがで
きる。
a自転車のハンドルバー又はハンドルバーステムに取付けられるメイ
ンユニットであって,
b第1の情報を表示する第1表示状態,第2の情報を表示する第2表示
状態などの複数(n個)の情報を表示する第n表示状態を実現可能な表
示部を有するメインコンピューターユニットと(ただし,被告製品1に
おいてはnは9,被告製品2においてはnは12),
cメインコンピューターユニットを収納し,ハンドルバー又はハンドル
バーステムの所定位置に動かないよう取り付けるメインカバーを備え,
d前記メインカバーは,矩形状の硬質プラスチック板と,該プラスチッ
ク板の周縁に立設された弾力性のあるシリコーンラバー製周壁部とを
有し,前記プラスチック板の上面の前側の左右両側に深さ約0.6ミリ
メートルのくぼみが設けられ,前記メインコンピューターユニットは矩
形状の上面と底面と四方の側面とを有し,前記側面全体と上面の縁が前
記メインカバーの周壁部で覆われており,該底面の前側の左右両側に隆
起高さ約1.3ミリメートルの一対の突起が突設され,該底面の後ろ側
の中央部に隆起高さ約1.6ミリメートルのロッドが軸方向移動可能に
突設され,前記一対の突起の先端と前記ロッドの先端が前記プラスチッ
ク板の上面に当接することにより,前記メインコンピューターユニット
が前記メインカバー上で前記一対の突起の先端を支点として下方に動
くことが可能となるように載置されており,
e前記メインコンピューターユニットにおける前記プラスチック板の
上面に対向する面である底面から突出するように前記ロッドが設けら
れ,該ロッドの上端部に当接して操作される押圧スイッチが前記メイン
コンピューターユニットの内部に設けられており,押圧スイッチがロッ
ドの先端に当接することにより前記第1表示状態と前記第2表示状態
などの第n表示状態の切換えが行われ,
f前記ロッドが設けられている部分のメインコンピューターユニット
の前記上面を上方から下方に向けて押すことにより,前記プラスチック
板のくぼみに嵌合する前記一対の突起の先端を支点として,前記メイン
カバー上に載置された前記メインコンピューターユニットが下方に動
き,その反作用で,前記ロッドが相対的に上方移動して前記メインコン
ピューターユニットの内方に押し込まれ,その先端部が前記押圧スイッ
チを突き上げ作動させることにより前記第1表示状態と前記第2表示
状態などの第n表示状態の切換えが行われるメインユニット。
(2)構成要件AないしCの充足性
上記(1)のとおり,被告各製品は「a自転車のハンドルバー又はハンドル
バーステムに取付けられるメインユニットであって,」,「b第1の情報
を表示する第1表示状態,第2の情報を表示する第2表示状態などの複数(n
個)の情報を表示する第n表示状態を実現可能な表示部を有するメインコン
ピューターユニットと(ただし,被告製品1においてはnは9,被告製品2
においてはnは12),」,「cメインコンピューターユニットを収納し,
ハンドルバー又はハンドルバーステムの所定位置に動かないよう取り付ける
メインカバーを備え,」との構成を有するものである。そして,被告各製品
の「自転車のハンドルバー又はハンドルバーステム」,「メインユニット」,
「メインコンピューターユニット」及び「メインカバー」は,その機能・構
造に照らせば,順に本件各特許発明の「バー」,「表示装置」,「本体」及
び「固定具」に相当する。したがって,被告各製品は,構成要件A「バーに
取付けられる表示装置であって,」,構成要件B「第1の情報を表示する第1
表示状態,および,第2の情報を表示する第2表示状態を実現可能な表示部
を有する本体と,」,構成要件C「前記本体を前記バーに固定するための固定
具とを備え,」の各要件をいずれも充足するものと認められる(被告各製品が
構成要件AないしCを充足することは当事者間にも争いがない。)。
(3)構成要件Dの充足性
ア「前記本体は前記固定具上で回動可能に支持され,」の意義
(ア)特許技術用語集第2版(甲4)によれば,「回動」とは「正逆方向に
円運動すること」を意味し,広辞苑第6版によれば「支持」とは「①さ
さえること。ささえて持ちこたえること。」を意味するとされているか
ら,特許請求の範囲の記載からは,「前記本体は前記固定具上で回動可
能に支持され,」(構成要件D)とは,本体が固定具上で正逆方向に円運
動可能となるようにささえられていることを意味するものと理解する
ことができる。
(イ)本件明細書には以下の記載がある。
a【発明が解決しようとする課題】
(a)「表示装置の表示部上に異なる複数の情報を表示する際,限られ
た表示部の面積を有効に活用するために,表示部上に一部の情報の
みを表示し,表示の切換えを行なうことで他の情報を表示する場合
がある。このような表示装置は,たとえば,非特許文献1に記載さ
れている。」(段落【0003】)
(b)「このような表示装置において,表示の切換えの操作性の向上を
考慮すると,表示の切換えを行なうための切換えスイッチを表示装
置の上面に設け,該スイッチを上方から下方に向けて押すことで表
示の切換えが行なわれるようにすることが好ましい。一方で,切換
えスイッチを表示装置の上面に設けた場合,表示部の表示領域が縮
小されるという問題が生じる。」(段落【0004】)
(c)「本発明は,上記のような問題に鑑みてなされたものであり,本
発明の目的は,表示領域を確保しながら操作性を向上させた表示装
置を提供することにある。」(段落【0005】)
b【課題を解決するための手段】
(a)「上記表示装置は,本体をバーに固定するための固定具をさらに
備え,本体は固定具上で回動可能に支持され,本体における固定具
に対向する面から突出するように第1と第2表示状態の切換えを行
なう切換スイッチが設けられる。本体を上方から下方に向けて押す
ことにより,固定具上に支持された本体が回動し,切換スイッチが
固定具により本体の内方に押し込まれ,第1表示状態と第2表示状
態の切換えが行なわれる。」(段落【0008】)
(b)「上記構成によれば,固定具に向けて本体を押すことで切換えス
イッチが押し込まれ,表示状態の切換えが行なわれる。これにより,
表示部の領域の縮小を抑制しながら表示切換えの操作性を向上させ
ることができる。」(段落【0009】)
c【発明の効果】
「本発明によれば,表示領域を確保しながら操作性を向上させた表
示装置を得ることができる。」(段落【0015】)
d【発明を実施するための最良の形態】
(a)「図9は,固定具200に表示装置本体100を取付ける状態を
示す図である。また,図10は,固定具200に表示装置本体10
0を取付けた後の状態を示す図である。・・・図9,図10を参照
して,表示装置本体100を図9中の矢印の方向にスライドさせ,
表示装置本体100における係合部120と固定具200における
嵌入部材230とを係合させる。これにより,表示装置本体100
が固定具200に取付けられる。・・・」(段落【0022】∼段
落【0023】)
(b)「図12は,上述した表示装置の重心位置について説明する図で
ある。図12を参照して,表示装置本体100は,固定具200上
で回動可能に支持されている。すなわち,表示装置本体100は,
矢印DR3方向,矢印DR4方向に回動可能である。表示装置にお
ける表示の切換えを行なう際は,表示装置本体100の矢印DR2
側端部(後方側端部)が下方に押圧される。これにより,表示装置
本体100が矢印DR3方向に回動し,ゴムボタン130が固定具
200により表示装置本体100の内方に押し込まれ,タクトスイ
ッチ140が作動する。」(段落【0025】)
(c)「図12に示すように,本実施の形態に係る表示装置において,表
示装置の重心G,表示装置本体100を支持する支点Fおよびスイッチ
作動位置Aは,自転車の前後方向(矢印DR1方向,矢印DR2方向)
に沿って,自転車の前方から重心G−支点F−作動位置Aの順で並ぶ。
このようにすることで,表示装置本体100には,重力により矢印DR
4方向のモーメントが作用し,矢印DR3方向のモーメントが打ち消さ
れる。したがって,自転車の走行時の上下方向の振動により表示装置本
体100が矢印DR3方向に回動して表示切換えスイッチの誤作動が
生じることを抑制することができる。なお,表示装置の重心は,たとえ
ばバッテリ150の配置により調整することができる。本実施の形態で
は,バッテリ150を表示装置本体100を支持する支点Fよりも前方
側に配設することで,表示装置の重心Gを前方側にシフトさせている。」
(段落【0026】)
(ウ)以上のとおり,本件明細書においては,本件各特許発明は,「切換
えスイッチを表示装置の上面に設けた場合,表示部の表示領域が縮小さ
れる」との課題を解決するために(段落【0003】∼【0005】),
「本体をバーに固定するための固定具を備え,本体は固定具上で回動可
能に支持され,本体における固定具に対向する面から突出するように第
1と第2表示状態の切換えを行なう切換スイッチが設けられ,本体を上
方から下方に向けて押すことにより,固定具上に支持された本体が回動
し,切換スイッチが固定具により本体の内方に押し込まれ,第1表示状
態と第2表示状態の切換えが行なわれる」との構成を課題解決手段とし
て採用し(段落【0008】),「表示部の領域の縮小を抑制しながら表
示切換えの操作性を向上させることができる」という作用効果を奏する
ものとされている(段落【0009】,【0015】)。
本件明細書には「回動」について特に定義する記載はないが,本件明
細書の上記記載によれば,本件各特許発明の「回動」という動きは,「本
体を上方から下方に向けて押すことにより,固定具上に支持された本体
が回動し,切換スイッチが固定具により本体の内方に押し込まれ,第1
表示状態と第2表示状態の切換えが行なわれる」ように機能する動きと
して,その技術的意義を有するものといえる。
そして,本体が固定具上で正逆方向に円運動可能となるようにささえ
られていれば,本体に設けられた切換スイッチが固定具により本体の内
方に押し込まれるように構成することは可能であるから,上記機能を実
現することができるし,また,【発明を実施するための最良の形態】で
は,表示装置本体100の矢印DR3方向及びDR4方向の動きを「回
動」するものとして記載され(段落【0025】),さらに,図12に
は,固定具上にささえられた本体が描かれ,矢印DR3方向及びDR4
方向の動きは,支点Fを支点とした正逆方向の円運動として図示されて
いるから,本件明細書の記載は,特許請求の範囲から理解される「前記
本体は前記固定具上で回動可能に支持され,」の上記(ア)の意味内容と整
合するものである。
(エ)したがって,構成要件Dの「前記本体は前記固定具上で回動可能に
支持され,」とは,本体が固定具上で正逆方向に円運動可能となるよう
にささえられていることを意味するものと解するのが相当である。
(オ)被告らの主張について
被告らは,「回動」といえるためには,支点として不動の中心点又は
中心軸が必要であると主張する。
確かに,本体を固定具上で回動させるためには,その動きの支えとな
る支点が必要になる。
しかし,特許請求の範囲に不動の中心点又は中心軸が必要であるとま
では記載されていない上,上記のとおり,本件各特許発明の「回動」と
いう動きとは,「切換スイッチが固定具により本体の内方に押し込まれ,
第1表示状態と第2表示状態の切換えが行われる」ように機能する動き
として技術的意義を有するものであるから,そのような技術的意義に照
らせば,「回動」という動きに,支点として不動の中心点又は中心軸ま
でもが要求されるものとは解されない。
さらに,上記のとおり,本件明細書の段落【0025】,【0026】
及び図12には,発明を実施するための最良の形態として,表示装置本
体100をスライドさせ,表示装置本体100の係合部120と固定具
200の嵌入部材230とを係合させて,表示装置本体100を固定具
200に取り付けて支持する構造が記載されているところ,当該構造か
ら,支点として不動の中心点又は中心軸が構成されるとまで解すること
はできないし,図12に示される支点Fも,矢印DR3方向及びDR4
方向の動きを支持する支点とは認められるが,不動の支点又は中心点と
まで断ずることはできない。
したがって,構成要件Dの「回動」といえるために,不動の中心点又
は中心軸が必要であるとまで解することはできず,被告らの主張は採用
できない。
イ被告各製品が構成要件Dを充足すること
上記のとおり,被告各製品は,「d前記メインカバーは,矩形状の硬質
プラスチック板と,該プラスチック板の周縁に立設された弾力性のあるシ
リコーンラバー製周壁部とを有し,前記プラスチック板の上面の前側の左
右両側に深さ約0.6ミリメートルのくぼみが設けられ,前記メインコン
ピューターユニットは矩形状の上面と底面と四方の側面とを有し,前記側
面全体と上面の縁が前記メインカバーの周壁部で覆われており,該底面の
前側の左右両側に隆起高さ約1.3ミリメートルの一対の突起が突設され,
該底面の後ろ側の中央部に隆起高さ約1.6ミリメートルのロッドが軸方
向移動可能に突設され,前記一対の突起の先端と前記ロッドの先端が前記
プラスチック板の上面に当接することにより,前記メインコンピューター
ユニットが前記メインカバー上で前記一対の突起の先端を支点として下方
に動くことが可能となるように載置されており,」との構成を有している
ところ,メインコンピューターユニットが一対の突起の先端を支点として
下方に動くということは,一対の突起の先端を支点として正逆方向の円運
動をすることにほかならないから,被告各製品は「前記本体は前記固定具
上で回動可能に支持され,」(構成要件D)との要件を充足するといえる。
なお,被告らは,被告各製品のメインコンピューターユニットはメイン
カバーを構成するラバーの弾力性により支えられているものであるから,
「固定具上で回動可能に支持され」ていないとも主張するが,上記のとお
り,被告各製品のメインカバーは本件各特許発明の「固定具」に相当する
ものである上,本件各特許発明の「本体」に相当するメインコンピュータ
ーユニットが「回動」という動きをするものである以上,被告各製品のメ
インコンピューターユニットがメインカバーを構成するラバーの弾力性に
より支えられているとしても,「固定具上で回動可能に支持され」との要件
を充足することは明らかである。
(4)構成要件Eの充足性
ア上記9で検討したところからすれば,構成要件Eの「切換スイッチ」と
は,表示装置における電気回路を開閉する装置を構成するものであって,
本体における固定具に対向する面から突出するように設けられ,本体を上
方から下方に向けて押すことにより,固定具により本体の内方に押し込ま
れるように構成され,表示部の第1表示状態と第2表示状態の切換えを行
なうものとして機能するものと解するのが相当である。
イ上記のとおり,被告各製品は「e前記メインコンピューターユニット
における前記プラスチック板の上面に対向する面である底面から突出する
ように前記ロッドが設けられ,該ロッドの上端部に当接して操作される押
圧スイッチが前記メインコンピューターユニットの内部に設けられており,
押圧スイッチがロッドの先端に当接することにより前記第1表示状態と前
記第2表示状態などの第n表示状態の切換えが行われ,」との構成を有す
るところ,押圧スイッチはロッドの先端に当接することによって作動する
ものであるから,押圧スイッチとロッドは,一体不可分として電気回路を
開閉する装置を構成するものというべきである。
そして,被告各製品の押圧スイッチとロッドにより構成される装置は,
表示装置(被告各製品のメインユニット)における電気回路を開閉する装
置を構成するものであって,本体(被告各製品のメインコンピューターユ
ニット)における固定具(被告各製品のメインカバー)に対向する面から
突出するように設けられ,本体(被告各製品のメインコンピューターユニ
ット)を上方から下方に向けて押すことにより,固定具(被告各製品のメ
インカバー)により本体(被告各製品のメインコンピューターユニット)
の内方に押し込まれるように構成され,表示部の第1表示状態と第2表示
状態の切換えを行なうものとして機能するものであるから,構成要件Eの
「切換スイッチ」に相当するというべきである。
ウ被告らは,構成要件Eの「切換スイッチ」は一つの部品により構成され
ることが必要であるから,被告各製品のロッドと押圧スイッチを組み合わ
せたものを「切換スイッチ」に該当するということはできないと主張する。
しかし,特許請求の範囲の請求項1では,「切換スイッチ」について,「本
体における前記固定具に対向する面から突出するように・・・設けられ」
たものであり,「前記本体を上方から下方に向けて押すことにより,・・・
固定具により前記本体の内方に押し込まれ」るものであって,表示部の「第
1表示状態と第2表示状態の切換え」を行うものであると記載しているだ
けであり,一つの部品からなるとは限定していない。
そして,本件明細書の【発明の詳細な説明】の個所には,実施の形態と
して,表示装置本体100に「ゴムボタン130」と「タクトスイッチ1
40」とを設け,上記「ゴムボタン130」が本体内部に向けて押し込ま
れることにより「タクトスイッチ140」が押され,表示状態の切換えが
行なわれる態様のものが記載されているところ(段落【0018】,【0
019】,【0034】),上記「ゴムボタン130」と「タクトスイッ
チ140」とは,その機能・構造において,一体不可分として表示装置の
「電気回路を開閉する装置」を構成するものであるから,両者が一体とな
って「切換スイッチ」をなすことは明らかであり,「ゴムボタン130」と
「タクトスイッチ140」のいずれか一方のみを「切換スイッチ」として
いるものではない。なお,本件明細書の段落【0034】には,「表示装置
本体100における固定具200に対向する面(すなわち,表示装置本体
100の底面)から突出するように第1と第2表示状態の切換えを行う「切
換スイッチ」としてのゴムボタン130が設けられる。」と記載されている
が,上記のとおり,「ゴムボタン130」と「タクトスイッチ140」とは,
その機能・構造において,一体不可分として表示装置の「電気回路を開閉
する装置」を構成することが明らかであるから,「「切換スイッチ」として
のゴムボタン130」との記載は「「切換スイッチ」を構成するゴムボタン
130」の意味に理解することができる。本件明細書の段落【0034】
の上記記載を根拠として「切換スイッチ」を一つの部品により構成される
ものに限定するのは相当でない。
したがって,構成要件Eの「切換スイッチ」を一つの部品により構成さ
れるものに限定すべきではないから,被告らの上記主張を採用することは
できない。
エしたがって,被告各製品は構成要件Eを充足する。
(5)構成要件Fの充足性
ア上記のとおり,被告各製品は,「f前記ロッドが設けられている部分の
メインコンピューターユニットの前記上面を上方から下方に向けて押すこ
とにより,前記プラスチック板のくぼみに嵌合する前記一対の突起の先端
を支点として,前記メインカバー上に載置された前記メインコンピュータ
ーユニットが下方に動き,その反作用で,前記ロッドが相対的に上方移動
して前記メインコンピューターユニットの内方に押し込まれ,その先端部
が前記押圧スイッチを突き上げ作動させることにより前記第1表示状態と
前記第2表示状態などの第n表示状態の切換えが行われるメインユニッ
ト。」との構成を有するものである。
そして,上記(3),(4)で検討したとおり,一対の突起の先端を支点とし
て下方に動くメインコンピューターユニットの動きは「回動」という動き
に該当するものであり,押圧スイッチとロッドとは一体不可分として「切
換スイッチ」を構成するものであるから,上記fの構成を有する被告各製
品は,構成要件F「前記本体を上方から下方に向けて押すことにより,前
記固定具上に支持された前記本体が回動し,前記切換スイッチが前記固定
具により前記本体の内方に押し込まれ,前記第1表示状態と前記第2表示
状態の切換えが行なわれる表示装置。」との要件を充足するというべきであ
る。
イなお,被告らは,構成要件Fの「本体が回動し,前記切換スイッチが前
記固定具により前記本体の内方に押し込まれ」といえるためには,少なく
とも本体の円運動の直接的結果として,「切換スイッチ」の「押し込み」が
生じるものであること(直接的因果関係があること)が必要であるが,被
告各製品の押圧スイッチ3が作動する際に技術的意義を持つ動きは垂直方
向成分のものであり,水平成分の動きは極めて微少な動きであって技術的
意義を持つものではないから,被告各製品は構成要件Fを充足しないと主
張する。
被告らの主張は,被告各製品のメインコンピューターユニットの動きを
垂直方向と水平方向の成分とに分解した上で,垂直方向成分の動きが押圧
スイッチ3を作動させる際に技術的意義を有するというものであるが,特
許請求の範囲の請求項1には「前記固定具上に支持された前記本体が回動
し,前記切換スイッチが前記固定具により前記本体の内方に押し込まれ,」
と記載されているだけであり,「回動」(円運動)を構成する垂直方向と水
平方向の成分の双方の動きにより切換スイッチが本体の内方に押し込まれ
る必要があるとは記載されておらず,また,本件明細書にも被告らの主張
を裏付けるような記載は一切ない。
被告らの上記主張は,特許請求の範囲及び本件明細書の記載に基づかな
い独自の主張であって採用の限りでない。
(6)構成要件G,Hの充足性
被告各製品は,「a自転車のハンドルバー又はハンドルバーステムに取付
けられるメインユニットであって,」との構成を有するものであるから,構
成要件G「前記バーは,二輪車のハンドルバー,フレームまたはステムであ
る,」との要件を充足する。
また,上記のとおり,被告各製品は,構成要件AないしGをいずれも充足
するから,構成要件Hも充足する。
(7)以上によれば,被告各製品は,構成要件AないしHをいずれも充足するか
ら,本件各特許発明の技術的範囲に属する。
11小括
(1)以上で検討したところによれば,被告各製品は本件各特許発明の技術的範
囲に属するものと認められるから,これを輸入・販売する被告の行為は原告
の本件特許権を侵害する行為ということができる。
そして,証拠(乙5,乙6の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,補助参
加人は,現在,被告各製品を一部設計変更しており,被告はこれを輸入販売
し,従来製品である被告各製品の輸入販売そのものは停止していることが認
められる。
しかし,その設計変更がされた経緯及びその内容程度に照らし,従前の被
告各製品の製造が再開され,被告がこれを輸入販売するおそれは否定できな
いから,原告の被告に対する被告各製品の輸入,販売又は販売の申出(販売
のための展示を含む。)の差止請求には理由があるというべきである。なお,
上記証拠によれば,被告は,被告各製品を被告補助参加人に既に返品してい
ることが認められ,現在,所持している事実を認めるに足りる証拠はないか
ら,被告が本件特許権の侵害品である被告各製品を所持していることを前提
とする廃棄請求については理由がないというべきである。
(2)特許法103条により,被告には上記侵害行為についての過失が推定され
るから,被告は,原告に対し,不法行為に基づき,本件特許権侵害により原
告が受けた損害を賠償する責任を負う。そこで,その損害額については,以
下において検討する。
12争点3(原告の損害の額)について
(1)被告各製品の販売個数及び売上額については,被告が,平成21年4月9
日から同年7月6日までの間,被告製品1を1186個,被告製品2を59
0個販売し,その売上額が合計で983万1644円であったとの限度で当
事者間に争いがなく,これを超えた販売数量あるいは売上額を認めるに足り
る証拠はない。
また,被告が被告各製品の販売行為により受ける利益の率が20%である
ことは当事者間に争いがない。
そうすると,被告が被告各製品の販売行為により受けた利益は,上記売上
額983万1644円に利益率20%を乗じて得られる196万6328円
(1円未満切捨て)ということになる。
そして,表示領域を確保しながら操作性を向上させるという本件各特許発
明の作用効果(本件明細書段落【0015】)は,被告各製品を購入する顧客
が重視するものとは考えられるが,他方,被告各製品には,本件各特許発明
に係る機能だけでなく,走行距離,平均スピード,最速スピードなどを計測
する機能やディスプレイのバックライト機能なども備わっており(甲3),ま
た,上記で認定したプラネットバイク社製品などの本件各特許発明の代替技
術を用いた競合商品も存在するから,これら諸般の事情にかんがみれば,被
告各製品の販売に本件各特許発明が寄与した割合は30%と認めるのが相当
である。
したがって,特許法102条2項本文により推定される原告の損害額は,
被告が被告各製品の販売行為により受けた利益196万6328円に本件各
特許発明の寄与度30%を乗じた額である58万9898円(1円未満切捨
て)の限度で認定するのが相当である。
(2)弁護士費用
本件訴訟の内容,認容額その他諸般の事情を考慮すれば,被告の不法行為
と相当因果関係のある原告の弁護士費用としては50万円が相当である。
(3)したがって,原告は,被告による本件特許権侵害の不法行為により,上記
(1),(2)の合計額である108万9898円の損害を受けたものと認められ
る。
第5結語
以上によれば,原告の請求は,特許法100条1項に基づく被告各製品の輸
入,販売等の差止め請求には理由があり,本件特許権侵害の不法行為に基づく
損害賠償については,108万9898円及びこれに対する不法行為の日の後
であることが明らかな平成22年10月1日から支払済みまで民法所定の年5
分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の請求は
理由がないから,上記理由のある限度で認容し,その余は理由がないから棄却
することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官森崎英二
裁判官達野ゆき
裁判官山下隼人

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