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平成26年5月28日判決言渡
平成26年(行ケ)第10028号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成26年5月19日
判決
原告X
訴訟代理人弁護士谷口由記
山下侑二
今村潤
松井亮行
訴訟代理人弁理士小倉啓七
被告株式会社パワーサポート
訴訟代理人弁理士伊藤寛之
奥野彰彦
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
特許庁が無効2012-800195号事件について平成25年12月20日に
した審決のうち,「特許第5071950号の請求項1,3,4に係る発明について
の特許を無効とする。審判費用は,被請求人の負担とする。」との部分を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許無効審判請求を成立とした審決の取消訴訟である。争点は,進歩性
判断の当否である。
1本件特許
本件特許は,実用新案登録第3168104号(原出願日平成23年3月11日)
に基づいて平成24年2月25日に出願され,同年8月31日に設定登録がなされ
たものであり(特許第5071950号),原告が,特許権者である。
平成25年10月28日付け訂正請求書及び同年11月11日付け手続補正書に
よる訂正(本件訂正)後の特許請求の範囲に記載された発明(本件発明)は,次の
とおりである(下線部は本件訂正部分である。また,請求項2は削除され,請求項
3における請求項2の引用も削除された。)。
【請求項1】
携帯電子機器の裏面乃至側面の外面形状に沿った形状のケースにおいて,該ケー
スが透光性素材からなり,携帯電子機器の裏面を覆う前記ケースの外表面側あるい
は内面側に図形あるいは文字が付され,前記ケースを前記携帯電子機器に取り付け
た場合に,前記携帯電子機器のロゴマーク及びロゴ文字が透視でき,該図形あるい
は文字が,(本件訂正による付加部分。)ロゴマーク及びロゴ文字の少なくとも一方
と一体となって一つのモチーフを醸し出すためにデザインされた(「せる」から本件
訂正により訂正。)ものであることを特徴とする携帯電子機器用ケース。
【請求項3】
前記ケースは,透明な合成樹脂シートから成ることを特徴とする請求項1記載の
携帯電子機器用ケース。
【請求項4】
前記ケースの図形は,前記携帯電子機器のロゴマークを運搬する車両,前記携帯
電子機器のロゴマークを屋上看板のコンテンツとした建物,前記携帯電子機器のロ
ゴマークを用いたキーボードのボタン,前記携帯電子機器のロゴマークの容器や包
装,前記携帯電子機器のロゴマークと接する動物や植物,のいずれかである請求項
1に記載の携帯電子機器用ケース。
2特許庁における手続の経緯
被告は,平成24年11月22日,本件特許について無効審判を請求した(無効
2012-800195号事件。甲9)。原告は,平成25年4月22日,訂正請求
書を提出し(甲14),同年6月11日,訂正請求書を補正する手続補正書を提出し
た(甲15)が,同年10月28日,訂正請求書を更に提出し(甲19),同年11
月11日,訂正請求書を補正する手続補正書を提出し(甲20),特許法134条の
2第6項により,同年4月22日付け訂正請求は取り下げたものとみなされた。
特許庁は,平成25年12月20日,本件訂正を認めた上で,「特許第50719
50号の請求項1,3,4に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,
同審決(謄本)は,同年12月27日に原告に送達された。
3審決の理由の要点
審決は,本件発明が,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物
に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づい
て,その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法
29条2項の規定に違反してなされたものであり,本件特許が,同法123条1項
2号に規定に該当し,無効とすべきものであると判断した。
(1)本件発明(請求項の番号に応じて「本件発明1」などと呼ぶ。)
上記1記載の請求項1,3,4のとおりである。
(2)電子的技術情報1(甲12。「iPad/iPhone/iPodアイテム通販:iPhone4ケース
アースウェア絶滅危惧種+パワーサポートAir(エアー)ジャケットEWFP01/EWFP02(earthwear
/POWERSUPPORT)」平成22年12月9日(インターネット・アーカイブに収録);
URL:http://web.archive.org/web/20101209152032/http://ri-bot.jp/item/EWFP.html)記載
の発明(引用発明)
「iPhone4の裏面ないし側面の外面形状に沿った形状のケースにおいて,
該ケースが透光性素材からなり,iPhone4の裏面を覆う前記ケースにアフリ
カゾウのイラストデザインが付され,前記ケースを前記iPhone4に取り付け
た場合に,前記iPhone4のロゴマークおよびロゴ文字が透視でき,該アフリ
カゾウのイラストデザインが,ロゴマークと一体となって一つのモチーフを醸し出
すためにデザインされたものであるiPhone4のケース。」
(3)本件発明と引用発明との対比
(本件発明1と引用発明との一致点)
携帯電子機器の裏面ないし側面の外面形状に沿ったケースにおいて,該ケースが
透光性素材からなり,携帯電子機器の裏面を覆う前記ケースに図形が付され,前記
ケースを前記携帯電子機器に取り付けた場合に,前記携帯電子機器のロゴマーク及
びロゴ文字が透視でき,該図形が,ロゴマーク及びロゴ文字の少なくとも一方と一
体となって一つのモチーフを醸し出すためにデザインされたものである携帯電子機
器用ケース。
(本件発明1と引用発明との相違点1)
本件発明1は,ケースの外表面側あるいは内面側に図形あるいは文字が付される
のに対して,引用発明は,ケースに図形が付されるものである点。
(本件発明3と引用発明との相違点2)
上記相違点1のほか,本件発明3のケースは,透明な合成樹脂シートからなるの
に対して,引用発明のケースは,そのように特定されていない点
(本件発明4と引用発明との相違点3)
上記相違点1のほか,本件発明4のケースの図形は,「前記携帯電子機器のロゴマ
ークを運搬する車両,前記携帯電子機器のロゴマークを屋上看板のコンテンツとし
た建物,前記携帯電子機器のロゴマークを用いたキーボードのボタン,前記携帯電
子機器のロゴマークの容器や包装,前記携帯電子機器のロゴマークと接する動物や
植物,のいずれかである」のに対して,引用発明のケースの図形は,アフリカゾウ
である点。
(4)相違点についての検討
ア相違点1
ケースに図形を付けるときに,ケースの外表面側あるいは内面側に図形を付ける
ことは普通に行われていることであり,格別のことではない。
イ相違点2
引用発明のケースについて,電子的技術情報1には「透明のクリアケース」と記
載されており,「透明のクリアケース」が透明な合成樹脂シートからなるものである
ことは自明のことであり,格別のことではない。
ウ相違点3
電子的技術情報1の前掲した写真には,iPhone4のメーカであるアップル
社のロゴマークと接する動物(アフリカゾウ)が示されており,また,ケースに付
ける図形として種々の図形が選択できることは当然のことであり,格別のことでは
ない。
エまとめ
本件発明は,引用発明及び電子的技術情報2(甲13。「earthwear×POWERSUPPORT
特別企画,earthwear絶滅危惧種iPhone4ケース」平成22年12月24日;
URL:http://apptoi.com/archives/1355)に記載された事項に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を
受けることができないものである。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(引用発明の認定の誤りに伴う本件発明1と引用発明の一致点の
認定の誤り)
(1)電子的技術情報1には,iPhone4ケースの「アースウェア絶滅危惧
種EWFP01」について9つのデザインが紹介され,そのうち6つがクリアタイ
プである。クリアタイプのうち,「アレキサンドラトリバネアゲハ」,「グレビーシマ
ウマ」の2つのイラストは,アップルのロゴマークと重なっており,特に前者では,
ケースを装着した状態でロゴマークのリンゴが視認できない状態になっている。「ブ
ッシュマンウサギ」,「アムールヒョウ」,「ホッキョクグマ」のイラストでは,ロゴ
マークのリンゴと無関係の構図で描かれている。「アフリカゾウ」のイラストでも,
ゾウの鼻の位置がリンゴのロゴマークと近接しているにすぎない。これらのイラス
トは,あくまでも絶滅危惧種の動物をデザインしたものであり,いずれもアップル
のロゴマークとは関連のないデザインであるし,本体に取り付けない状態でそれ自
体が一つのモチーフとして完成されたものである。たまたまアフリカゾウの鼻の位
置がロゴマークのリンゴと近接しているとしても,デザイナーにはアップルのロゴ
マークとの関連性を持たせる目的や意図はなかった。このことは,広告文の中にア
ップルのロゴマークと動物のデザインとの関連性を示唆した記載がないことからも
うかがえる。
(2)リンゴは,寒冷地で栽培され,「アフリカゾウ」の生息するアフリカでは栽
培されていないから,「アフリカゾウ」がリンゴを食べたりくわえたりすることは実
際にはあり得ない。また,「アフリカゾウ」の鼻の何倍もある巨大なリンゴは現実に
は存在しない。絶滅危惧に瀕している動物がいるという生々しい現実を描写しよう
とする絶滅危惧種シリーズのデザイナーが,現実とかけ離れた空想の世界を描くと
は考えられない。「アフリカゾウ」のイラストの付いたケースも,アップルのロゴマ
ークやロゴ文字との調和や関連性まで考えなかったと推察される。
(3)したがって,「アフリカゾウ」のイラストについて「アップル図柄と一体と
なって一つのモチーフを醸し出すためにデザインされたものである」とした審決は,
デザイナーの意図を間違って読み取ったものであり,電子的技術情報1にケースの
イラストデザインと本体のロゴマークが一体となって一つのモチーフを醸し出す発
明が記載されているという認定は誤りであって,その結果,本件発明1と引用発明
の一致点の認定も誤ったものである。
(4)なお,電子的技術情報1に記載された絶滅危惧種シリーズが同じく掲載さ
れた,甲1の電子的技術情報には,「iPhone4用の「earthwear」
には全部で9種類がラインアップされています。そのうち6種類が,iPhone
の背面が見えるクリアのタイプです。左の写真の「アフリカゾウ」のように,Ap
pleマークをうまく活かした,面白い絵柄もあります。」という記載があるが,こ
れは平成23年5月15日のウェブサイトで採用された表現であって,本件発明の
原出願日よりも後に掲載されたものであるから,ロゴマーク及びロゴ文字の少なく
とも一方と一体となって一つのモチーフを醸し出すという技術的思想は,本件発明
出願時にはなかった。
2取消事由2(誤った一致点の認定に基づく容易想到性についての判断誤り)
審決は,本件発明1と引用発明の一致点の判断を誤った結果,引用発明から本件
発明1を当業者が容易に発明できたという誤った判断に至った。本件発明3,4に
ついても同様である。
第4被告の反論
1取消事由1に対し
(1)電子的技術情報1におけるiPhone4ケースのうち「アフリカゾウ」
を除くクリアタイプ5種のうち,3種では動物のイラストとアップルのロゴマーク
には関連性が認められる。「アムールヒョウ」のケースでは,「アムールヒョウ」の
イラストのすぐ上にバランスよくアップルのロゴマークが配置されている。「グレビ
ーシマウマ」のケースでは,くり抜かれた動物の顔の中にアップルのロゴマークが
配置されている。「ホッキョクグマ」のケースでは,地球上を歩く「ホッキョクグマ」
の上にある月のようにアップルのロゴマークが配置されている。このように,クリ
アタイプは,いずれも,アップルのロゴマークと動物のイラストが調和した優れた
デザインとなっており,動物のイラストがアップルのロゴマークとは無関係な構図
で描かれているとはいえない。原告の主張は,「アフリカゾウ」以外の種類のケース
は,アップルのロゴマークと動物のデザインには関連性がないことを前提とするも
のであるが,前提を誤っている。
(2)電子的技術情報1のシリーズより前に発売された過去の絶滅危惧種動物シ
リーズにおいて,既に動物のデザインとアップルのロゴマークには関連性があった。
すなわち,サルの親子がリンゴを抱きかかえたり,チョウがリンゴの周りを飛び回
ったり,ラッコがリンゴを抱きかかえたりしているようなデザインが採用されてい
た。野生のラッコはリンゴを食べることはないし,本体に取り付けた際にラッコが
手に持っているように描かれたリンゴほど大きなものは実在しないが,そうだから
といって,これらの動物のデザインとリンゴのロゴマークとの位置関係が偶然とは
いえないことは明らかである。このことからも,電子的技術情報1のシリーズにお
いても,動物のデザインとアップルのロゴマークには関連性があったことがうかが
える。
(3)電子的技術情報1に描かれた発明を認定する際に,デザイナーがどのよう
な意図を持っていたかは基準とはならない。図柄のデザインを見た者がこの図柄を
どのように解釈するかが基準となる。「アフリカゾウ」のイラストデザインを見て,
アップルのロゴマークと無関係に描かれていると認識する者などいない。
(4)アフリカでリンゴが栽培されていないとしても,動物園でゾウのエサとし
て与えられることもあり,アフリカでリンゴが栽培されていない事実は,電子的技
術情報1に記載された発明の認定には影響しない。また,リンゴのロゴマークとゾ
ウのイラストがバランス良くケースに収まるように適宜縮尺を変えて図柄を描くこ
とは自然なことである。縮尺が一致しないことはデザイン上必然的に生じることで
あるから,実在するリンゴの大きさになっていないことは,電子的技術情報1に記
載された発明の認定には影響しない。
(5)なお,甲1の電子的技術情報は「Waybackmachine」で検
索された平成23年5月15日の電子的技術情報であるが,同日は公開日ではなく,
インターネット・アーカイブに収録された日付であって,公開日はより以前の日で
ある。「アフリカゾウ」のデザインを含めた絶滅危惧種コレクションの公開日は平成
22年12月18日であって,原告の主張は前提を誤っている。
2取消事由2に対し
争う。原告の主張は本件発明1と引用発明との一致点の認定誤りを前提としたも
のであるが,その前提が誤っていることは上記1で述べたとおりである。
第5当裁判所の判断
1前提事実
(1)本件発明について
本件発明の特許請求の範囲は,上記第2の1のとおりであり,本件明細書の記載
(段落【0005】,【0006】,【0013】ないし【0015】,図2,3)を併
せ読めば,本件発明は,携帯電子機器にケースを取り付けた場合に,携帯電子機器
の文字や図形のロゴを活用して,自分の嗜好にあった装飾を模様替え容易な状態で
簡便に楽しむことができる携帯電子機器用ケースを提供することを目的として,携
帯電子機器のロゴマークに関連付けるためのイラストを,ロゴマークに重ねたり接
したりするような所定の位置に,また,所定の形状や大きさで,ケースに施すこと
により,ユーザに対して,ロゴマークに服を着せるなどのモチーフを醸し出すもの
であると認められる。
(2)引用発明
ア電子的技術情報1(甲12)は,iPhone4ケースの「アースウェ
ア絶滅危惧種」についての電子的技術情報であるが,そこには以下の記載がある。
「クリアタイプは透明のクリアケースに白で動物をデザインしてあります。」
「クリアタイプ6種(透明のクリアケースに白で動物のイラストデザイン)」
イまた,下記のとおり,「アフリカゾウEWFP01LA」,「アレキサンド
ラトリバネアゲハEWFP01OA」,「グレビーシマウマEWFP01EG」,「ブ
ッシュマンウサギEWFP02BM」,「アムールヒョウEWFP01PA」,「ホッ
キョクグマEWFP01UM」の各写真が掲載されている。
2取消事由1について
(1)引用発明の認定誤りについて
上記電子的技術情報1には,iPhone4の裏面ないし側面の外面形状に沿っ
た形状のケースにおいて,該ケースが透光性素材からなり,iPhone4の裏面
を覆う前記ケースにアフリカゾウのイラストが付され,前記ケースを前記iPho
ne4に取り付けた場合に,前記iPhone4のロゴマークないしロゴ文字が透
視できることが記載されていると認められる。この点については,当事者間に争い
はない。
審決は,さらに,上記電子的技術情報1には,該アフリカゾウのイラストが,ロ
ゴマークと一体となって一つのモチーフを醸し出すためにデザインされたものであ
る点も記載されていると認定したところ,原告は,上記「アースウェア絶滅危惧種」
シリーズの他の動物のケースでは,動物のイラストがリンゴのロゴマークと重なっ
たり,無関係の構図で描かれたりしていることからすると,アフリカゾウとリンゴ
の位置関係は偶然にすぎず,アフリカゾウがリンゴを鼻でつかんでいるように見え
るのは,意図されたものでないと主張して,審決の引用発明の認定を争っている。
上記「アースウェア絶滅危惧種」シリーズは,透明のクリアケースを用い,白色
で絶滅危惧種の動物等のイラストを施した一連のシリーズであるから,一貫したコ
ンセプトをもってデザインされたと考えるのが自然である。かかる観点から各イラ
ストを検討するに,上記「グレービーシマウマ」の首のあたりには模様がない部分
が認められるが,これは,本体にケースを取り付けた際に,iPhone4の裏面
のリンゴのロゴマークが,シマウマの首の縞模様の一部を形成するように,当該マ
ークと一致させて模様を脱落させたものであるとみるのが自然である。そして,シ
マウマの顔の位置も,iPhone4の裏面の文字と重ならないように形成されて
いるのも,同じようなロゴ文字との調和の意図を持ってなされたものと推認するの
が相当である。他方,上記のとおり,「アレキサンドラトリバネアゲハ」のイラスト
は,「グレービーシマウマ」のそれと同じようにリンゴのロゴマークと重なり合って
いるが,その部分がチョウの身体の模様,すなわち,羽の模様の一部にはなってい
ない。もっとも,リンゴのロゴマークはチョウの羽とほぼ重なるように配置されて
おり,リンゴのロゴマークが大きくはみ出すようなデザインになっていないという
限度において,少なくとも,リンゴのロゴマークの大半を隠すことによって,チョ
ウのイラストとリンゴのロゴマークとの調和をある程度図ったとみるのが自然であ
る。また,「ブッシュマンウサギ」,「アムールヒョウ」,「ホッキョクグマ」の各イラ
ストは,ロゴマークのリンゴとは離れた構図が採用され,一見リンゴと無関係の位
置に配置されているようにも見えるが,少なくとも,動物の身体と重ならないよう
に配慮されているのは明らかであって,この限度で,動物のイラストとリンゴのロ
ゴマークとの調和をある程度図ったものであることは,他のデザインと同様である。
しかも,被告も指摘するように,「ホッキョクグマ」のイラストは,その下に記載さ
れた地球のイラストと対比すると,リンゴのロゴマークをして月を想起させるよう
な位置に配置されているという評価もできるものである。そうすると,アフリカゾ
ウのイラストとリンゴのロゴマークの位置関係も偶然ではなく,両者をもって一つ
のモチーフを醸し出すためにデザインされたものであると認めることができる。
(2)その余の原告主張について
原告は,アフリカではリンゴが栽培されることはなく,ゾウがリンゴを食べたり
くわえたりすることはあり得ないことを根拠にデザイン性を否定する。しかしなが
ら,アフリカゾウがリンゴを実際に食べるか否かはデザイン性とは関係ない事柄で
あって,アフリカゾウの位置がリンゴのロゴマークやロゴ文字と関係するように意
図的になされたものか否かという点に関して影響を与える事実とはいえない。
また,原告は,電子的技術情報1におけるアフリカゾウのイラストはそれだけで
一つのモチーフとして完成しているとも主張する。しかしながら,光性のケース
において,本体に取り付けていない時のデザイン性は,陳列・販売時の購買力の点
で,一定の重要性を有するものではあるが,本体に取り付けることが当然想定され
ている商品である以上,取付時のデザインも優れている必要があり,その点を併せ
て考慮してデザインすることは極めて自然なことであり,上記事情は本体に取り付
けた時のデザイン性を否定する根拠とはなり得ない。
さらに,原告は,甲12に記載された上記「アースウェア絶滅危惧種」シリー
ズに関して「iPhone背面のAppleマークを活かしたデザインのクリア
タイプ」と記載した,甲1の電子的技術情報の公知日,平成23年5月15日は,
本件発明の原出願である実用新案出願日の同年3月11日よりも後の日である
から,同電子的技術情報は,リンゴのロゴマークを活用するという本件発明の出
願に際しての技術的思想の採用の示唆とはなり得ないとも主張する。しかしなが
ら,甲1の記載内容に関わりなく,電子的技術情報1の記載自体から,審決の認
定した引用発明が認定できることは上記説示のとおりであるから,原告の主張は
理由がない。
3取消事由2について
原告の本件発明3及び4に係る容易想到性の判断誤りの主張は,本件発明1と引
用発明との一致点の認定誤りを前提としたものであるところ,この点に理由がない
のは,上記2で説示したとおりである。したがって,原告の取消事由2の主張は理
由がない。
第6結論
以上のとおり,原告の請求は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
新谷貴昭
裁判官
鈴木わかな

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