弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役壱年式月に処する。
     但し本裁判確定の日より参年間右刑の執行を猶予する。
     原審における訴訟費用(国選弁護人堀部進支給分)は被告人の負担とす
る。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人堀部進の提出した控訴趣意書と題する書面に記載してあ
る通りであるから之を引用する。
 <要旨>原判決の挙示せる各証拠を綜合すれば被告人が原判示の業務に従事中その
業務上保管にかかる集金を擅に原判示の日時回数に亘り費消横領した金額は
原判示の摘示せる最初の費消金五千円を除き合計金五十五万四千九百九十四円二十
銭であること算数上明白であるに拘らず原判示が合計金九十二万三千四百三十八円
であると認定し約四十万円弱の誤差に心づかなかつたのは重大なる事実誤認の過失
を犯したものであつて右事実の誤認は延いて判決に影響を及ぼすことが明らかであ
るからこの点に関する論旨は理由あり、原判決は到底破棄を免れない。
 よつて他の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条に則り原判決
を破棄し且つ原審において取調べた証拠により直ちに判決をすることができるもの
と認め同法第四百条但書により更に本被告事件につき次り通り判決する。
 当裁判所の認定した罪となるべき事実及之を認定した証拠は原判決末尾添付の犯
罪事実明細表中横領金額欄末尾合計金額九十二方三千四百三十八円とあるを五十五
万四千九百九十四円二十銭と又備考欄末尾入金合計金四万三千四百三十八円二十銭
とあるを四十一万千八百八十二円と各訂正したほか原判決の摘示せるところと同一
であるから茲に之を引用する。
 法律に照すと被告人の本件各所為はそれぞれ刑法第二百五十三条に該当するとこ
ろ、自首にかかるを以て同法第四十二条第六十八条第三号に則りそれぞれ法定の減
軽をなし、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条第十条に
従い犯情の重い原判決添付犯罪事実明細表中訴因番号3の罪につき定めた刑に併合
罪の加重をした刑期範囲内において被告人を懲役一年二月に処すべく、なほ本件記
録を精査し、原審において取調べた総ての証拠を綜合して認め得る本件犯行の動
機、態様、費消の内容、家庭の状況、被告人に前科なき事実、悔悟の余り自首をす
るに至つた事実及び被害者との間には既に弁償契約が成立し家計の苦しさのなかか
ら飽くまで弁償の履行を誓約しているのみならず被害者においても被告人の処罰を
強いて求めず寧ろ進んで被告人の将来を憂慮し只管その更正を念願し期待している
等諸般の情状を彼此考慮するにおいては、この一際被告人に対し実刑を以て臨むよ
りは寧ろ相当期間刑の執行を猶予して法の恩情を示すと共に被告人の蘇え来たつた
良心に期待し被害者に対する誓約を事なく果さしめると同時にその改過遷善り実を
挙げるを以て最も妥当と認め同法第二十五条に則り本裁判確定の日より三年間右刑
の執行を猶予すべく、原審における訴訟費用(国選弁護人堀部進支給分)は刑事訴
訟法第百八十一条第一項により被告人をして之を負担させることとする。
 仍て主文の通り判決する。
 (裁判長判事 羽田秀雄 判事 鷲見勇平 判事 小林登一)

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