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平成21年(わ)第1257号傷害致死被告事件
判決
主文
被告人を懲役5年6月に処する。
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
理由
【犯罪事実】
被告人は,見ず知らずのA(当時45歳)とささいなきっかけで口論となり,け
んかとなった末に激こうし,平成21年5月13日午前2時ころから同日午前2時
20分ころまでの間,名古屋市a区bc丁目d番e号f駐車場及び同所南側歩道上
において,同人に対し,その頭部,顔面,胸部等を多数回げんこつで殴り,足で蹴
り,さらに,仰向けに倒れた同人の胸部を踏み付けるなどし,同人に肝挫傷,肋骨
骨折等の傷害を負わせ,よって,同日午前4時33分ころ,同市g区h町i番地に
あるB病院において,同人を上記肝挫傷及びその他の全身の創傷に基づく出血性シ
ョックにより死亡させた。
【法令の適用】
被告人の判示所為は刑法205条に該当するので,その所定刑期の範囲内で被告
人を懲役5年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中90日をその刑に
算入し,訴訟費用は刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させ
ないこととする。
【証拠】
省略
【量刑の理由】
1事案の概要
本件は,被告人が,深夜の繁華街の路上で見ず知らずの被害者に声をかけられ
口論となったところ,被告人と被害者の双方が,互いに後に引かなかったことか
ら,場所を移動してのけんかになった末,激こうした被告人が被害者を殴る蹴る
などして死亡させたという傷害致死の事案である。
本件の量刑に当たっては,特に次の事情を考慮して判断した。
2量刑を重くすべき事情
(1)行為態様
被告人の行為についてみると,被告人は,被害者に対し,駐車場内で,その
頭部,顔面,胸部をげんこつで数回殴り,足で蹴ったばかりか,同人が同所か
ら移動し駐車場南側歩道上で座り込むなどして無抵抗になった後も,さらに複
数回にわたり頭部等を蹴り,その胸部,腹部を踏みつけるなどしており,暴行
態様は危険であり,執拗かつ卑劣である。
なお,駐車場南側歩道上での暴行回数について,被告人は,公判廷において,
頭を1回蹴り,胸や腹を三,四回踏みつけたなどと供述する。
しかし,目撃者であるC証人は,公判廷で,10回以上蹴っていたと供述す
るところ,同証人の供述は,同人が約40メートル先から犯行現場まで近づい
ていってもなお被告人による暴行が続いていたという供述内容が自然であり,
被害者の負傷状況,多数の野次馬が集まり,このままだと死んじゃうぞなどの
発言があったことなどの状況とよく符合すること,同証人が被告人及び被害者
と利害関係がないことなどに照らし,被害者の抵抗がない状態で,正確な回数
はともかくとして,多数回の暴行が行われたものと認められる。
(2)経緯,動機
犯行に至る経緯,動機についてみると,被告人は,見ず知らずの被害者から
声をかけられたことを発端に,同人とけんかになり,その途中で同人から馬乗
りの状態で首を締め上げられるなどしたことから,同じ目には遭いたくないな
どと思い,前後の見境なく上記の過度の暴行に及んだというものである。
C証人の供述は,上記のとおり基本的に信用できるが,同証人の最初の段階
の供述については,常連客を見つける目的で立っていたこと,その後重大な事
件になると予想していたわけではないことからすると,果たして,被告人と被
害者の動きについてどれだけ注視して,当初からの流れを逐一見ることができ
たかについては疑問も残る。そして,被告人の言い分と併せ考えると,何らか
のきっかけで二人の間でにらみ合いが始まり,その後被告人と被害者がけんか
をすることに合意して,けんかをする場所を探し,駐車場に入ったと認めるこ
とができる。どちらが先に殴ったかはそのきっかけに過ぎないともいえ,その
経緯においては,特段,どちらに非があるとまでは言いきれないところがある。
そうすると,被害者に本件を誘発したという側面があることは否めないもの
の,これをもって被害者に対して一方的に暴行を続けたことが正当化されるも
のではない。被告人の暴行によって無抵抗となった被害者に対し,なおも一方
的に過度の暴行を続けたことについては,強く非難されるべきものがある。
(3)結果
本件犯行により生じた被害者の死亡という結果は正に重大である。被害者の
兄は,公判廷で,動かなくなった者に対してさらに暴行を加え続けた被告人の
行為を強く非難するとともに,被告人をしっかり処罰してほしいなどと述べて
おり,このことも重く受け止めなければならない。
(4)その他
加えて,被告人は,少年院を2回経験し,自ら反省すべき機会を与えられ,
しかも成人になってからも,覚せい剤の事件により,懲役1年6月,3年間執
行猶予の判決を受け,本件はその執行猶予期間中であった。そのような被告人
が,自らの立場をもわきまえず,酔っていたとはいえ,自制心を持てなかった
ということは,被告人の問題の大きさを感じさせる。
3被告人のために酌むことのできる事情
(1)被告人は,逮捕後は率直に事実を認め,本件を悔い,反省を深めていること
が認められ,被害者遺族に対する謝罪の手紙を自分の言葉で書き,公判廷でも,
一生をかけて罪を償っていく旨述べており,そうした被告人の態度からは,自
分の起こした事件の重大性を認識し,日々反省を深めている様子がうかがわれ
る。
(2)被告人は,最近は,雇い主の家族と落ち着いた生活をしており,仕事に励ん
でいたと認められること,母親が公判廷で今後の監督を誓約していること,雇
い主も仕事ぶり等を評価し,公判廷で今後の再雇用と監督を誓っていること,
雇い主の息子が被告人のために300万円を拠出し,その他の友人知人らの支
えも得て合計367万円余りを被害者の遺族に弁償するに至っていること,弁
護人のもとに多数の寛大な処分を求める嘆願書が寄せられていること,被告人
はその周囲の支えを実感し,決してこれを裏切らない旨公判廷で誓っているこ
となどの酌むことができる事情も認められる。
4結論
以上のとおり,行為態様の危険性,悪質性や生じた結果の重大性等に照らせば,
被告人の刑事責任は重大であるが,上記のとおり,被告人のために酌むことがで
きる事情が認められることを考慮し,さらに前刑の執行猶予が取り消されること
も考慮に入れて,主文の刑に処することが相当である。
(求刑懲役8年)
裁判員6名とともに審理し,評議を尽くした結論は上記のとおりである。
平成21年10月13日
名古屋地方裁判所刑事第2部
伊藤納裁判長裁判官
谷口吉伸裁判官
渡邉裕美裁判官

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