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平成29年2月2日宣告
平成28年(わ)第39号,同第79号,同第115号
判決
無職(元会社役員)

上記の者に対する業務上横領,詐欺,窃盗被告事件について,当裁判所は,検
察官甲及び同乙並びに弁護人丙(国選)各出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役6年に処する。
未決勾留日数中240日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1(訴因変更後の平成28年3月11日付け追起訴状記載の公訴事実第1)
実姉B名義の普通預金口座の通帳をだまし取ろうと考え,平成23年4月6
日,宮城県宮城郡a町b番地所在の株式会社C1銀行D1支店において,同支
店窓口担当者Eに対し,真実は,Bが東日本大震災の津波により同年3月11
日頃死亡しており,同人から,同銀行D2支店に開設された同人名義の普通預
金口座の通帳等の再発行を受ける権限を与えられた事実はないのに,これがあ
るかのように装い,同人が現在F病院に入院中であり,その代理人として,生
活費や治療費等の支払のために通帳の再発行を求める旨のうそを言って通帳等
の交付を申し込み,決裁権者である同支店次長Gにその旨誤信させ,よって,
Eから,同年4月6日,同所において,B名義の預金口座通帳1通の交付を受
け,もって人を欺いて財物を交付させ,
第2(平成28年3月11日付け追起訴状記載の公訴事実第2)
不正に入手したB名義のキャッシュカードを使用して現金を窃取しようと考
え,平成23年4月20日午前10時3分頃,前記株式会社C1銀行D1支店
において,同支店に設置された現金自動預払機に前記キャッシュカードを2度
挿入するなどして同機を作動させ,同機から同支店支店長H管理に係る現金合
計100万円を窃取し,
第3(平成28年3月11日付け追起訴状記載の公訴事実第3)
前記詐取に係るB名義の預金口座通帳を使用して現金をだまし取ろうと考
え,平成23年4月20日午前10時57分頃,同県宮城郡c町d丁目e番地
f所在の株式会社C1銀行D3支店において,同支店窓口担当者Iに対し,同
預金を払い戻す権限などないのに、これを払い戻す正当な権限があるかのよう
に装い,B名義の預金口座から預金の払戻しを請求し,Iに同払戻請求が正当
な権限に基づく払戻請求であると誤信させ,よって,同人から,同日同時刻
頃,同所において,現金22万7000円の払戻しを受け,もって人を欺いて
財物を交付させ,
第4平成23年5月16日,仙台家庭裁判所石巻支部の審判により,甥であるJ
の未成年後見人に選任され,同人の財産管理等の業務に従事していたものであ
るが,
1(平成28年2月2日付け起訴状記載の公訴事実)
株式会社C1銀行D4支店に開設されたJ名義の普通預金口座の預金を同人
のため業務上預かり保管中,別表1≪省略≫「犯行年月日」欄記載のとおり,
平成23年8月23日から同月26日までの間,同別表「犯行場所」欄記載の
同県石巻市g丁目h番i号所在の株式会社C1銀行D5支店ほか2か所におい
て,ほしいままに,自己の用途に充てる目的で,同口座から8回にわたり,同
別表「払戻額」欄記載の現金合計400万円を払い戻し,もって横領し,
2(訴因変更後の平成28年3月11日付け追起訴状記載の公訴事実第4の1)
現金300万円をJのため業務上預かり保管中,平成23年9月13日,前
記株式会社C1銀行D5支店において,4回にわたり,ほしいままに,自己の
用途に充てる目的で,同支店に開設された被告人名義の普通預金口座に入金
し,もって横領し,
3(平成28年3月11日付け追起訴状記載の公訴事実第4の2)
別表2≪省略≫「保管金額」欄記載の現金をJのため業務上預かり保管中,
同別表「犯行年月日」欄記載のとおり,平成24年3月27日から同年5月8
日までの間,4回にわたり,同別表「犯行場所」欄記載の前記株式会社C1銀
行D1支店ほか2か所において,ほしいままに,自己の用途に充てる目的で,
同別表「振込金額」欄記載の現金合計3795万5843円を同別表「振込先
口座」欄記載の株式会社C2銀行D6支店に開設されたK株式会社名義の普通
預金口座等7口座に振込送金し,もって横領し,
4(平成28年2月22日付け追起訴状記載の公訴事実)
株式会社C3銀行D7支店に開設されたJ名義の普通預金口座の預金を同人
のため業務上預かり保管中,別表3≪省略≫「犯行年月日」欄記載のとおり,
平成26年4月25日から同年11月5日までの間,同県石巻市j丁目k番l
号所在の株式会社C3銀行D7支店において,ほしいままに,自己の用途に充
てる目的で,同口座から,13回にわたり,同別表「振込額」欄記載の現金合
計1789万8000円を株式会社C1銀行D4支店に開設された被告人名義
の普通預金口座に振込送金するとともに,4回にわたり,J名義の普通預金口
座から払い戻した現金合計400万円を,同別表「入金額」欄記載のとおり,
いずれもその都度株式会社C3銀行D7支店に開設された被告人名義の普通預
金口座に入金し,もって横領した。
(弁護人の主張に対する判断)
第1業務上横領罪の成否について
1Jの両親であるB及びLが死亡したことに伴い,Jの叔父としてその未成年
後見人に選任されていた被告人が,判示第4の1ないし第4の4のとおり,株
式会社C1銀行D4支店及び株式会社C3銀行D7支店に開設されたJ名義の
各口座(以下,それぞれ「JのC1銀行口座」,「JのC3銀行口座」とい
う。)の預金や現金を未成年後見人として同人のために業務上預かり保管中,
その預金や現金を被告人名義の預金口座に振込送金したり,入金し,また,被
告人の個人的な用途に充てる目的で自動車会社等の預金口座に振込送金するな
どしたことについては,争いがなく,関係証拠により認定することができる。
争点は,被告人に業務上横領罪の故意が認められるか否かであり,弁護人
は,J所有の預金及び現金について,被告人は,①自己の所有する財産である
と誤信していたか,②他人の財産であっても自己の用途に充てる目的で費消
することができるものと誤信していたから,業務上横領の故意を欠く旨主張
し,被告人もこれに概ね沿う供述をする。
2①自己の所有する財産である旨誤信したとの主張について
⑴JのC1銀行口座もC3銀行口座も,当然ながら名義はJのもの
で,そこにJのための災害弔慰金,災害義援金等が振り込まれていたのであ
るから,各口座の預金や払い戻された現金(判示第4の1,第4の2及び第
4の4に係る預金及び現金)がJの所有に属することは明白であり,被告人
も,前記災害弔慰金,災害義援金等の請求手続等を通じて,それがJに属す
ることを認識していた。被告人がこれらの性質を誤解するような事情はうか
がわれない。
⑵弁護人は,主として,判示第4の3に関し,被告人は,本件当時,被告人
名義の株式会社C1銀行D8支店の口座(以下「被告人のC1銀行D8支店
口座」という。)に振り込まれたM労働組合との団体生命共済契約に基づく
B及びLの死亡共済金(以下「本件共済金」という。)合計6000万円
や,同口座から払い戻した現金合計3795万5843円(判示第4の3に
係る現金)については,被告人の所有に属する旨誤信していたと主張する。
しかし,下記のとおり,この点も,採用することができない。
⑶本件共済金は,前記共済契約に基づき,第一順位の受取人であるJに対し
支払われたものであり,被告人に受け取る権利はない。被告人は,共済金支
払請求書の共済金受取人欄に被告人の氏名を,受取口座欄に被告人のC1銀
行D8支店口座を記載しているが,窓口の担当者Nから本件共済金を請求す
るためには受取人であるJの未成年後見人になる必要があることなどの説明
を受け,これに応じて,被告人がJの未成年後見人として選任された旨の審
判書謄本や,JとB及びLの関係を示す戸籍謄本を提出している。したがっ
て,被告人は,あくまでJの未成年後見人の立場で本件共済金を請求してい
る旨認識していたと認められる。後記会話の内容も併せ鑑みると,本件共済
金がJに属することを認識していたというべきである。
⑷この点,被告人は,担当者Nから,いやらしい声で本件共済金は被告人の
ところに入る,被告人名義の口座でなければ振り込めないなどと言われたた
め,被告人自身の金だと思った旨供述する。しかし,担当者として契約上の
受取人を把握し,かつ,未成年後見人に選任される必要があることを示唆し
たNがそのような説明をするのは不自然であるし,上位にある宮城県支部の
確認を受ける必要があったことに照らしても考え難く,N自身も被告人の口
座に指定してほしい旨説明したことはないと述べている。また,被告人は,
Nと共済金支払に関するやり取りをしていた頃,株式会社O関係者との会話
の中で,本件共済金(「厚生年金」と述べるが,本件共済金をいう趣旨と解
される。)の受取人はJであるが,未成年であるために後見人である被告人
の口座に入金される予定である旨話していたのであり(甲65),これは,
被告人が,本件共済金がJに帰属する旨認識していたことを端的に裏付けて
いる。
よって,被告人の前記供述は信用できない。
3②他人の財産であっても自己の用途に充てる目的で費消することができる旨
誤信したとの主張について
⑴弁護人は,被告人は,家庭裁判所の職員から,未成年後見人の職務につい
て十分な説明を受けておらず,職務内容を理解していなかったために,判示
第4の1ないし第4の4記載のいずれの時点においても,Jの財産を自己の
用途のために費消できる旨認識していたと主張する。この点,職務内容を理
解していなかっただけで,誤解に基づく金銭の着服が正当化される理由はな
いが,一応検討を加える。
⑵未成年後見人の職務についての説明状況
平成23年4月21日以降,仙台家庭裁判所石巻支部(以下「家裁石巻支
部」という。)において,後見人候補者であった被告人と面接をしているP
調査官は,具体的な説明内容は覚えていないと述べながらも,当時の未成年
後見制度の説明振りを振り返りつつ,後見人の職務として身上監護と財産管
理があることや裁判所の後見監督を受けることになる旨最低限説明したと思
うとし,さらに,同月28日の面談で,被告人に対し,未成年者名義の預貯
金や収入から支出できるのは未成年者に掛かる費用だけであることも含め
て,未成年後見人の職務について一般的な説明をしたはずである旨供述して
いる。同人作成の調査報告書には,一般的な説明に加えて未成年後見人Q&
Aの写しの一部を交付した旨の記載があり,この写しに基づく説明をしてい
たことが一定程度推認される。このほか,前記調査報告書には,P調査官が
Jの預金等を確認したことや被告人からの自宅や墓の購入費用等に関する質
問に対し慎重な回答をしたことなどが記載されていて,適切な財産管理のた
めに配慮していたことが窺えることなどに照らしても,P調査官の供述の信
用性に疑いはない。
また,平成23年5月17日,家裁石巻支部において,未成年後見人とし
て選任された被告人と応対したQ書記官は,後見人選任の審判書謄本ととも
に,後見人の職務内容を説明した未成年後見人Q&A,収支予定表用紙,財
産目録用紙の交付をし,その際,被告人に対し,未成年後見人Q&Aを示し
ながら,未成年者の財産と未成年後見人の財産とを混和させないように教示
した旨供述している。Q書記官も,被告人との具体的なやりとりを記憶して
いないが,5分程度の説明と認めつつも,当時の後見人に対する説明振りな
どに照らして,後見人の財産を混和させないことなどを前記Q&Aの重要部
分を示しながら説明したとしているところ,この説明内容はその職務の根幹
部分であるから合理的であり,後に被告人から収支予定表等が提出されたこ
とに照らしても,Q書記官の供述の信用性に疑いはない。
以上のとおり,被告人に対しては,未成年者名義の預貯金等から支出でき
るのは未成年者に掛かる費用だけであることや,未成年者の財産と未成年後
見人の財産とを混和させてはならないことを含めて,未成年後見人の職務に
ついて口頭で説明し,同趣旨の内容が記載された未成年後見人Q&Aを交付
するなどしていたことが認められる。
⑶被告人の認識状況
前記のとおりの説明状況に加えて,P調査官が,被告人からJの不動産,
預金,負債等の財産状況を詳細に聴取し,Q書記官が,Jの収支予定表及び
財産目録用紙を交付してその提出を求めており,特に,P調査官との間では
両親の墓代を未成年者の預金から支出することはできないというやり取りも
しているから,被告人はJの財産について厳格な管理を要することを認識す
るに足りる説明を受けていた。また,被告人は,平成23年6月15日,Q
書記官の説明のとおり,Jの収支予定表及び財産目録を記載して家裁石巻支
部に提出し,その頃から,Jのための支出や,B及びLらの葬儀費用に関す
る領収書等数枚を保管し,後日,記帳済みのJのC1銀行口座の預金通帳と
ともに家裁石巻支部に持参していたことからしても,Jの財産を把握し,そ
の状況を報告するという職務をある程度理解していたことが窺える。
さらに,被告人は,同年8月22日,家裁石巻支部で被告人の後見監督事
務を担当したR調査官との面接において,B及びLの葬儀費用及び墓代につ
いて,Jの預金から支払いたい旨相談しているが,このことも,被告人が,
自己の一方的な判断でJの祖母らの葬儀費用等を未成年者の財産から支出す
ることはできず,未成年者の財産の用途が限定されていることを明確に認識
していたことを示している。
さらに,被告人は,家裁石巻支部に明らかにしていたJのC1銀行口座に
ついてはその後も収支状況を報告し,他方,同支部に明らかにしていないJ
のC3銀行口座から,自己の用途に多額の出金をしている。このことは,被
告人がそのような用途での出金が許されるものではないと認識していたこと
を強く推認させる。
以上によれば,被告人は,未成年後見人の職務について説明を受けたこと
等によって,未成年者の財産の用途が限定され,自己の一方的な判断で自己
の用途に費消できないことを認識していたと認められ,そのような認識は,
R調査官との面接時点までにかなり確実なものとなっていたと認められる。
したがって,被告人は,判示第4の1ないし第4の4記載の時点におい
て,Jの財産はJのために用途が限定されており,自己の一方的な判断で自
己の用途に費消できないことを認識していたと認定できる。
一方,被告人は,未成年後見人とは育ての親であるからその財産を自己の
用途に使用できると誤信していた旨供述するが,前記の説明状況及び認識状
況等に照らし,信用することができない。また,被告人は,平成25年5月
22日,Jに対し,財産管理に関する専門職後見人を新たに選任することに
ついて同意をしているが,家裁石巻支部にも,専門職後見人に選任されたS
司法書士に対しても,JのC3銀行口座や本件共済金の存在は明らかにされ
ていないから,前記同意をしたことが横領の故意がなかったことを示すもの
とみることもできない。
4したがって,被告人に業務上横領罪の故意に欠けるところはなく,判示第4
の1ないし第4の4記載のとおり業務上横領罪が成立する。
第2詐欺罪及び窃盗罪の成否について
1判示第1の詐欺罪について
株式会社C1銀行D1支店窓口担当E及び同次長Gは,本件当時,同支店に
おいては,震災直後であっても,口座名義人の死亡が判明した時点で口座凍結
の手続をする扱いであったところ,被告人が,口座名義人であるBが現在F病
院に入院中であり,同人の代理人として生活費や治療費等の支払のために通帳
の再発行を求める旨申告し,Eらは,その旨誤信したために,被告人にB名義
の通帳を交付したと供述する。
この点,E及びGが供述する被告人の申告内容は,業務上その都度作成さ
れ,被告人から聴取しなければ判明しない事項も記載された発見届の内容に基
づくものであるし,死亡者名義の預金口座の取扱いも合理的なもので,あえて
虚偽の事実を述べることは考え難く,その供述に疑いを差し挟む余地はない。
弁護人は,Eらの聴き取りが丁寧にされていないとか,他の顧客と取り違えた
などと主張するが,採用することができない。
そうすると,これに反する被告人の供述は信用することができず,以上から
すれば,被告人に通帳の詐欺罪が成立するのは明らかである。
2判示第2の窃盗罪及び判示第3の詐欺罪について
被告人は,判示第1の詐欺罪によって不正に入手したキャッシュカードや通
帳を使用して預金の払戻しを行ったものであるから,正当な権限がないのは明
らかであって,判示第2につき窃盗罪が,判示第3につき詐欺罪がそれぞれ優
に成立する。
(法令の適用)
1罰条
⑴判示第1及び第3いずれも刑法246条1項
⑵判示第2刑法235条
判示第4の1,2いずれも包括して刑法253条
判示第4の3,4各別表の番号ごとに(別表2の1,2,別表3の9,
10,11及び13は,それぞれ,包括して)いずれ
も刑法253条
2刑種の選択
判示第2懲役刑を選択
3併合罪の加重刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重
い判示第4の3の別表2の1の罪の刑に法定の加重)
4未決勾留日数の算入刑法21条
5訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
本件は,①両親を亡くした甥の未成年後見人に選任されていた被告人が,3年以
上にわたり,甥に属する合計約6685万円もの預金や現金を横領したほか,②甥
の母親である姉が既に死亡しているのに,入院していると偽り,姉名義の預金通帳
の再発行手続を行って通帳を詐取した上,同口座から100万円を窃取するととも
に約22万円を詐取したという業務上横領,詐欺,窃盗からなる事案である。
横領に係る預金や現金の中では,東日本大震災で両親を亡くした甥の生活のため
に充てられるべき両親の死亡共済金や震災義援金に加えて,篤志家からの寄付金等
が大半を占めていた。未成年後見人は,被後見人のためにその財産を誠実に管理す
べきことが公的に義務付けられているのに,被告人は,その職責をわきまえず,選
任された当初から被後見人の一部預金口座や死亡共済金の存在を明らかにせずに,
家庭裁判所が被後見人の財産を正確に把握していない状況の下,自己の意のままに
長期間にわたり横領行為を繰り返して,店の開業資金や高級車の購入に充てるなど
し,その傍らで家庭裁判所に虚偽の報告をしていたのである。被害金額はこの種事
案の中でもかなり高額なもので,犯情は悪質である。加えて,詐欺や窃盗により,
甥の母親の財産を奪っている点でも悪質である。本件により,後見人選任時には9
歳であった甥の将来のための資金が失われており,将来にわたって甥の人生に多大
な悪影響を与えるとともに,大きな精神的ショックをも与えかねないものであり,
結果は重大である。各犯行は,震災により死亡した姉夫婦の死を機に,その預金や
死亡共済金の存在を知り,震災後の混乱にも乗じて火事場泥棒的に行われた点も看
過できない。なお,弁護人は,家庭裁判所が被害拡大に寄与したとして,この点を
考慮すべきである旨主張する。しかし,家庭裁判所は,当初から未成年後見人の職
務内容を口頭及び書面で説明し,逐次報告を求めるなどしており,その一方で,被
告人は死亡共済金やC3銀行の口座の存在を秘して虚偽の説明を続けていたのであ
り,家庭裁判所が届出のない金融機関などに対し広く調査を行うのは困難な状況で
あったといえ,早期に詳しい照会等がされていれば被害の拡大を防げた可能性があ
ることを格別被告人に有利に考慮することはできない。
そうすると,本件は,後見人の立場を悪用した業務上横領罪の事案の中でもかな
り重い部類に位置付けられる。検察官は,国内外から多額の義援金等が寄せられた
という状況に乗じていることや被災者支援に対する社会の信頼を失わせ,その復興
復旧にも悪影響があることなどを量刑上考慮すべきであるとして,特に厳しい態度
で臨む必要があるという。本件は震災後の混乱に乗じた面があり,被害額には被災
者に充てられた支援金も含まれているが,未成年者が親族を失う事態には様々なも
のがあるから,震災による場合であることを殊更重視することはできないし,同じ
く判断能力が不十分な者のための成年後見制度の後見人による事案も含む同種事案
の量刑傾向(特に専門職後見人による高額の横領事案とはやや質を異にする。)も踏
まえると,検察官の求刑はいささか重きに失する。その他,被告人が事件後に甥名
義の口座に約31万円を振り込み,公判中に200万円を支払って一部弁償するな
どしたこと,その公的地位にかんがみ親族の地位にあったこと自体を考慮すること
はできないが(最高裁平成24年10月9日第二小法廷決定参照),被災後塾へ通わ
せるなど甥に対する一定の身上監護をしていたことはわずかではあるが考慮できる
こと,前科がないこと,被告人が精神的な問題を抱え,本件を機に離婚したことな
どの事情も併せて考慮し,主文の刑が相当であると思料した。
(求刑懲役10年)
平成29年2月2日
仙台地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官小池健治
裁判官内田曉
裁判官織本もなみ

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