弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件抗告をいずれも棄却する。
抗告費用は抗告人らの負担とする。
       理   由
一 本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。
二 当裁判所の判断
1 本件資料によれば次の事実が疎明される。
(一) 北誉製菓株式会社(以下北誉という)は、昭和四七年四月から、別図
(一)及び(二)表示のステンレス製牛乳缶型容器(以下本件容器という)にバタ
ー飴を入れて、ラベル、包装箱を使用し、「北海道名産バター飴」の名称を付した
ものを北誉の商品(上記容器、包装等を使用してバター飴を入れた北誉の商品を以
下単に北誉の商品という。)として販売し、以来昭和五一年三月頃までの間にその
販売数量は計三七万余缶、卸総額計二億三三八〇万余円に達し、それは北誉の中心
的商品となつていた。そして北誉の商品は、昭和五〇年三月優良道産品推奨協議会
から優良道産品として推奨を受けたほか、雑誌等に北海道の代表的土産品として写
真付で掲載されたり、北海道内のほとんどの土産品店で販売されるようになつてい
た。
(二) そのため、債権者北誉、債務者北海道観光名産株式会社(以下北海道観光
という)外一名間の札幌地方裁判所昭和五〇年(ヨ)第二七九号不正競争行為差止
仮処分事件において、同裁判所は、北誉の商品につき債権者北誉の右仮処分債務者
らに対する差止請求を認め、更に同裁判所同年(モ)第九二〇号同仮処分異議事件
(異議申立人は北海道観光)において、同裁判所は、前記(一)の事実を認定した
うえで、同事実に基づき、北誉の商品は容器としてステンレス製牛乳缶型を使用し
ている特徴を有していたため少くとも問屋段階では、北誉の商品として広く認識さ
れていたことが認められるし、一般観光客、小売店層においても北誉の商品が特定
の出所より出たものであるとの認識はかなりの程度まで広まつていたものと推認で
きるから、北誉の商品は少くとも北海道地方では周知性を有する商品表示を有して
いた旨の判断をし、前記仮処分決定を認可した。
 そして、その後、右仮処分事件の本案訴訟(同裁判所昭和五〇年(ワ)第五七九
号事件ほか)において、前記当事者(原告北誉、被告北海道観光)間に、右北海道
観光は現有している容器以外にステンレス製牛乳缶型容器によるバター飴の販売を
しないこと、同北海道観光に対し北誉が和解金一〇〇万円を支払うことを骨子とす
る裁判上の和解が札幌地方裁判所で成立した。
(三) その後、北誉は、本件容器を使用した北誉の商品の販売をしてきたが、昭
和五四年七月一七日、札幌地方裁判所において、北誉を破産者とする旨の決定(同
裁判所昭和五四年(フ)第七号破産申立事件)がなされた。そこで、従前から北誉
に対しバター飴を納入してきた本件抗告人ロマンス製菓株式会社(以下抗告人ロマ
ンス製菓という)及び同年五月過ぎ頃から北誉に対しバター飴を納入し始めた本件
抗告人浜塚製菓株式会社(以下抗告人浜塚製菓という)は、右破産会社北誉の破産
管財人【A】に対し、「北誉の保有していた『ステンレス製集乳缶型バター飴缶』
の意匠」を譲受けたい旨申出をし、昭和五四年七月二七日、札幌地方裁判所の許可
を得て、抗告人両名は各二五〇万円計五〇〇万円の代金でこれを譲受けた。なお、
抗告人ロマンス製菓は、同日、右破産管財人から、前記「意匠」のほか七四七万円
相当の製品、資材なども買受けている。
 そして、抗告人両名は、同年同月、連名で、前記「意匠権」を北誉から承継した
旨の広告を業界紙及び新聞紙上に掲載するとともに、北誉の取引先にその旨を連絡
し、かつ同年八月右広告とほぼ同趣旨の記事が業界紙に掲載された。
(四) 抗告人両名は、右譲渡を受けた昭和五四年七月から、本件容器にバター飴
を入れ、ラベル、包装箱を使用し「北海道名産バター飴」の名称を付した商品の販
売を開始し、同年一〇月までの間に左記数量、金額の商品を卸販売した。

(1) 抗告人ロマンス製菓
販売年月 販売数量 販売金額
昭和五四年七月 五、八三二缶 二、七五一、八四〇円
同年八月 一一、一八四缶 五、〇三八、二〇〇円
同年九月 六、一六八缶 二、六四一、〇八〇円
同年一〇月 三、五七六缶 一、四八九、八〇〇円
(2) 抗告人浜塚製菓
販売年月 販売数量 販売金額
昭和五四年七月 二、〇四〇缶 九四九、
三八〇円
同年八月 一八、九七二缶 一二、二五五、〇〇〇円
同年九月 二六、六三八缶 一六、五〇三、二〇〇円
同年一〇月 五、七七七缶 二、九〇六、〇四一円
同年一一月 五、四九四缶 一、九二八、四四〇円
同年一二月 六〇六缶 三九四、六〇〇円
(五) ところが、昭和五四年一二月初め頃から、相手方が別図(三)及び(四)
表示のステンレス製容器(以下相手方容器という)にバター飴を入れ、ラベル、包
装箱を使用し「北海道銘菓バター飴」の名称を付した商品を主に道東及び道央方面
に販売するに至つた。
 そのため、抗告人両名の取引先から同抗告人らに対し、北誉から権利を譲受けた
というのは嘘なのかなどの問合わせや苦情が寄せられている。
(六) 牛乳缶型菓子容器の形状は、昭和三〇年及び昭和三一年に、旭川市の
【B】なる者が意匠権者となり意匠登録されていたが、すでに意匠権の存続期間で
ある一五年を経過しているし、北誉も本件抗告人両名及び相手方も、いずれも牛乳
缶型菓子容器の形状に関する意匠の登録をしてはいない。
2 ところで、抗告人両名は、不正競争防止法一条一項一号に基づき、相手方が、
相手方容器をバター飴の容器として使用すること及び同容器を使用したバター飴製
品の製造、販売、頒布をすることの差止等を求めているところ、同条同項同号によ
る差止めは、本邦内に広く認識されている、すなわち周知の他人の商品表示と同一
もしくは類似のものを使用したり、これを使用した商品を取扱うことによつて他人
の商品と混同を生じさせるいわゆる商品の主体を混同させる行為によつて営業上の
利益を害されるおそれのある者が、右混同行為を阻止するために求めうるのである
から、右の差止めが認められるためには、まず右差止申立人の商品表示であること
が本邦内に広く認識され、いわゆる周知性を有していることを必要とする。そし
て、右の周知性は、全国に広く認識されることまでも要するものではなく、一地方
においてその取引者又は需要者の間に広く認識されることで足りるものと解すべき
である。
 そこで、本件において、本件容器が抗告人両名の商品表示としての周知性を有し
ているか否かにつき検討するに(商品主体の混同行為差止めを求める本件仮処分に
おいては、本件容器が北誉の商品表示として周知性を有していたか否か、更に抗告
人両名が北誉の破産管財人から「北誉の保有していた『ステンレス製集乳缶型バタ
ー飴缶』の意匠」又は本件容器を使用して北誉の商品を製造販売するという事実状
態若しくはグツドウイルなるものを譲受けたか否かということはいずれも意味をも
たないというべく、本件容器が抗告人両名の商品として周知性を取得しているか否
かが問題なのである)、前説示の通り、抗告人両名は、本件容器が抗告人両名の商
品であることにつき、新聞広告をしたり、北誉の元の取引先に連絡をとるなどして
本件容器を使用した商品売込みのための営業上の努力をし、取引先である問屋段階
ではある程度の認識を得つつあることはうかがわれるものの、抗告人両名が本件容
器を使用した商品販売を開始してからその期間はそれほど長期に亘つているとはい
い難いのであり、本件全資料によつても、未だ、少くとも北海道地方においてもそ
の取引先である問屋、小売店又は一般観光客のいずれにも、本件容器が抗告人両名
の商品であると広く認識されるに至つているとの疎明があつたということはできな
い。
 そして、他に抗告人両名の被保全権利を認めるに足りる疎明はなく、この点につ
いて保証をもつて疎明に代えることは相当でないから、抗告人両名の本件仮処分申
請は、その余の点につき検討を加えるまでもなくいずれも失当としてこれを却下す
べきものである。
三 よつて、抗告人両名の仮処分申請を却下した原決定は結局相当であり、本件抗
告はいずれも理由がないから、民事訴訟法四一四条、三八四条一項によりこれを棄
却することとし、抗告費用の負担につき同法九五条、八九条、九三条を適用して、
主文のとおり決定する。
(裁判官 安達昌彦 澁川滿 大藤敏)
抗告の趣旨
原決定を取消す。
別紙記載内容の仮処分決定
を求める。
抗告の理由
第一 裁判所は抗告人らの仮処分申請を理由なしとして却下したが抗告人らの申請
は法律上の理由からも疎明の点からも理由があるにもかかわらず、これを理由なし
として却下した原決定には明らかに判断の誤りがある。
第二 被保全権利について
一 申請外北誉製菓株式会社(以下単に北誉という)はかねてから、別紙(一)
(二)表示のステンレス製牛乳缶型容器(以下債権者容器という)を使用して同容
器にバター飴を入れて「北海道名産バター飴」(以下債権者商品という)として、
北誉の主力製品として大々的に売り出した。
二 債権者商品はその特徴ある債権者容器を使用しているため、酪農業の盛んな北
海道のイメージと合致し北海道の観光土産品として爆発的な売れ行きを示し、優良
道産品としても認定され、北海道の代表的な観光土産品となつた。
三 そして、北誉の債権者商品は昭和五〇年当時には債権者容器を使用していたた
め問屋・小売店、及び一般消費者間において北誉の商品として広く認識されてお
り、債権者容器は北誉の商品を表示するものとして、いわゆる周知性を有してい
た。
四 従つて、昭和五〇年当時には北誉が債権者容器を使用して同容器にバター飴を
入れて債権者商品として販売していたという営業上の事実状態は、北誉と問屋・小
売店、及び一般消費者間の取引上において第三者が北誉の右営業上の事実状態を侵
害しえないという、いわゆる信用状態を形成していたというべく、右信用状態は当
然法による保護の対象となりうるものである。
五 そして、不正競争防止法(以下法という)は正に取引上において保護すべき信
用状態を形成した営業上の事実状態を権利として認め、右営業上の事実状態を侵害
された者は右営業上の事実状態を侵害する行為をした者に対して、その差止等を求
めることができるとしているのである。
六 札幌地方裁判所も以上の趣旨から、かつて北誉と申請外北海道観光名産株式会
社間の不正競争行為差止仮処分事件について、差止を認める仮処分決定をしたので
ある。
七 ちなみに北誉の債権者商品が北誉の製造販売する全商品の販売総額に占める割
合は約三〇パーセントであり、
債権者商品が売れることにより北誉の名が業界において周知になり、北誉の業界・
金融界等における信用状態が増進され、ひいては北誉の売上げが増加する等のいわ
ゆる営業面を考えた場合、債権者商品が北誉の営業面に占める割合は約九〇パーセ
ントにも達していた。
八 従つて北誉が債権者容器を使用して債権者商品を製造販売しているという事実
状態は、北誉の営業そのもの、少なくとも北誉の営業の主要な一部であるというこ
とができる。
九 北誉が債権者商品を製造販売していた方法は北誉が債権者ロマンスにバター飴
の製造を発注し、申請外洞口製缶所(以下洞口という)、申請外有限会社富士野金
属(以下富士野という)に債権者容器の製造を発注し、申請外野崎印刷(以下野崎
という)に包装箱・ラベルの製造を発注し、北誉は債権者容器にバター飴を入れ、
ラベルを貼り包装箱に入れて各問屋・小売店に卸すという方法をとつていた。
一〇 北誉が破産宣告を受けた後、北誉とかねてから取引のあつた債権者らは、そ
れぞれ破産管財人から北誉が債権者容器を使用し、同容器にバター飴を入れて債権
者商品を製造販売していた営業上の事実状態を意匠として買受け、それとともに北
誉が在庫している債権者容器・バター飴・包装箱・ラベル等の仕掛品の全てを債権
者らが買受けさらに既に北誉が販売した債権者商品のうちクレームとして返品され
る商品は全て債権者らの責任において処理することを約し販売先である全ての問
屋・小売店名の提示を受けた。
一一 そして債権者らは直ちに北海道新聞及び業界紙上に北誉がかねて製造販売し
ていた債権者容器を使用した債権者商品の意匠は債権者らが譲受けた旨の広告を掲
載するとともに債権者商品を使用して同容器にバター飴を入れて「北海道名産バタ
ー飴」(以下同様に債権者商品という)として、その製造販売を開始した。
一二 さらに、債権者らは北誉が債権者容器を使用し同容器にバター飴を入れて債
権者商品を製造販売していた営業上の事実状態を債権者らが引継いだことを明確に
するため、債権者商品の包装箱・ラベルには製造者として北誉とともに債権者の名
を並記して、債権者商品を製造販売した。
そしてその販売先は債務者を除いては北誉がかねて取引をしていた問屋小売店と全
く同一である。
一三 現在では問屋小売店等の業界において、北誉が債権者容器を使用して同容器
にバター飴を入れて債権者商品として製造販売していた営業上の事実状態は債権者
らに引継がれ、債権者らが同容器を使用して債権者商品を製造販売しているという
ことが認識されており、従つて債権者容器は問屋小売店等の業界においては債権者
らの商品を表示するものとして広く認識されており、いわゆる周知性を有してい
る。
一四 もし仮に債権者容器が債権者らの商品を表示するものとして未だ広く認識さ
れるに至つてないとしても、債権者らは破産管財人から北誉が債権者容器にバター
飴を入れて債権者商品を製造販売していた営業上の事実状態を意匠として譲受ける
とともに、北誉が在庫している仕掛品を譲受け、北誉が既に販売した債権者商品の
うちクレームとして返品される商品を処理することを約し、販売先である全ての問
屋小売店名の掲示を受けたから債権者容器という商品表示によつて表象される北誉
のグツトウイルを正当に承継している。
一五 従つて債権者らは債務者に対して法第一条第一項第一号により債務者の行為
の差止を求める権利がある。
一六 債務者は債権者容器の形状は公知のものであり、その意匠権についても存続
期間満了により公有財産に帰しているから北誉の商品表示としての周知性を取得し
ないと主張する。
(一) 債務者の主張を善解すれば債権者容器は慣用表示であるから法第一条第一
項第一号の適用はないという趣旨と思われる。しかし、法にいう慣用表示か否かは
商品表示の形状自体が一般的に知られているか否かということをいうのではなく、
特定の商品との関連においてその商品について一般的にその商品表示が使用されて
いるか否かを問題とするものである。
(二) 従つて本件の場合には債権者容器が慣用表示であるというためには債権者
容器がバター飴という商品について一般的に使用されているといえなければならな
い。
 債権者容器はその形状において牛乳缶型ではあるが、その材質はステンレスであ
り、北誉以外にステンレス製牛乳缶型容器をバター飴に使用している業社は一社も
ない。
(三) もつともバター飴について牛乳缶型容器を使用している業社は数社ある
が、そのいずれもが材質はステンレスではなくブリキでありしかもブリキの上に色
彩をほどこしてあり、他の業社はほとんど布袋かブリキ缶にバター飴を入れてい
る。
 北誉の債権者商品が他社の商品とは異なり観光土産品として爆発的な売れ行きを
ましたのは本来の牛乳缶と同じ風合をもつ何ら色彩をほどこしていないステンレス
を材質として用いたことにある。
 以上の通り、債権者容器はバター飴について慣用表示ではない。
(四) 法にいう周知商品表示か否かはその商品表示によつて表象される特定の商
品主体の信用状態が取引上保護すべき状態になつているか否かという事実状態によ
り決するものであり、その商品表示の意匠権者は誰かあるいは意匠権が存続期間中
か否かという意匠法上の問題とは全く次元の異なる問題である。
 又、そもそも債権者が公有財産に帰したと主張する意匠と債権者容器の意匠とは
同一のものではなく、債権者容器の意匠は北誉がその創意工夫により創作をした意
匠である。
 さらに債務者が公有財産に帰したと主張する意匠につき、その意匠権者が意匠登
録後その意匠をバター飴の容器として使用したこともない。
(五) 債権者容器が北誉の商品を示す周知商品表示であることは前述の通りであ
る。
一七 債務者は債権者らが北誉の破産管財人から譲受けた「営業上の事実状態」と
はその対象が明らかでないから債権者らには被保全権利はないと主張する。
(一) しかし債権者らは第一次的に債権者容器が債権者らの商品を示す周知商品
表示であることを理由に債務者の行為の差止を求めているのである。そして第二次
的に債権者らが北誉の破産管財人から北誉が債権者容器を使用し同容器にバター飴
を入れて債権者商品として製造販売していた事実状態を意匠として譲受けたことに
より、債権者容器という商品表示によつて表象される北誉のグツドウイルを正当に
承継して債権者容器を使用していることを理由に債務者の行為の差止を求めている
のである。
(二) 債権者容器が債権者らの商品を表示するものとして周知性を有することは
前述した通りであるが、もし仮に債権者容器が債権者らの商品を表示するものとし
て周知性を有しないとして、北誉のグツドウイルを承継しているか否か問題とな
る。
(三) 北誉が債権者容器を使用し、同容器にバター飴を入れて債権者商品を製造
販売していたという営業内容の主要な部分は、前述した通り正に『債権者容器にバ
ター飴を入れる』というアイデアに基づいた事実状態である。
 債権者らは右営業の事実状態を意匠として買受けたのである。
(四) そして債権者らは、右営業の事実状態とともに北誉が在庫している仕掛品
を譲受け、北誉が既に販売した債権者商品のうちクレームとして返品される商品を
処理することを約し、北誉の販売先である問屋・小売店等の提示を受けた。
 従つて債権者らは破産管財人から右営業の事実状態等を譲受けたことにより、北
誉が従前行なつていた営業活動を間断なく継続することができることとなつたか
ら、債権者容器という商品表示によつて表象される北誉のグツドウイルを正当に承
継しているということができる。
(五) さらに翻つて考えた場合、債権者らに差止請求権がないという理由はある
だろうか。
 法が保護しようとしている対象は、民法上の規定にもとづく権利や意匠法にもと
づく権利ではなく、あくまで取引上形成された信用状態という事実状態であり、こ
の信用状態とは特定商品の製造販売業者が取引界において形成した名声・信用であ
るとともに、消費者の側からする特定商品の品質に対する信頼、製造販売業者に対
する安心感・信頼感なのである。
 そしてこの信用状態を取引上の信義則にもとる方法で破壊された者はその破壊し
た者に対してその行為の差止を求めることができるというのが法の趣旨なのであ
る。この保護されるべき信用状態が正にグツドウイルである。
(六) 債権者容器という商品表示によつて表象される北誉のグツドウイルを、債
権者らが正当に承継しているというのは業界において既に公知の事実である。
(七) 従前北誉が債権者容器を使用して債権者商品を製造販売して形成した業界
における信用状態が北誉が破産することにより突然消滅し、それ以降は他の業者は
北誉が業界において形成した信用状態にタダ乗りしても勝手であり、自由であると
いうのは何んとしても納得のいかないことである。
第三 債権者商品と債務者商品との混同について
一 原決定は債権者商品と債務者商品との間には誤認混同を生ずる虞れがあるとは
いえないという。
二 しかしこれは明らかに法の解釈を誤つている。法のいう誤認混同とは、A商品
とB商品との間に誤認・混同を生ずるか否かではなく、A商品の商品主体であるX
とB商品の商品主体であるYとの間に誤認・混同の虞れがあるか否かをいうのであ
る。
三 具体的にいえばXからYに対する差止請求の場合、B商品がXの商品であると
思われる、あるいは少なくともXと何らかの関係がある商品であると思われる場合
には、法のいう誤認混同の虞れがあるということになる。
四 そして誤認・混同の虞れがあるか否かについても、商品表示が細部まで完全に
一致する必要があるわけではなく商品表示のイメージを構成する主要な部分が共通
のものであればよく、又商品に表示された表示の外観・呼称によつて取引者に与え
る印象・記憶・連想を総合して具体的な取引事情を勘案して決すべきである。
五 そこで本件についてこれを見ると
 債権者らの商品も債務者の商品もともにその商品のイメージを構成する主要な部
分は、バター飴の容器としてステンレス製牛乳缶容器を使用していることであり、
しかも債権者容器と債務者容器とが異なつている点は、債務者容器の方が債権者容
器よりも高さが低いこと、債務者容器は蓋の上部が平で花びらの様に波状になり、
更につまみのついた小さな蓋がついてその蓋の下は穴があいており取手の部分が段
々になつて胴部分に牛の打出しがあるのに対し、債権者容器は蓋の部分が逆円すい
状に広がつており取手の部分が平になつて胴部分には牛の打出しがないが、それ以
外の点は債権者容器と債務者容器とは全く同一である。
 そして右の違いは債権者容器と債務者容器とを比較した場合、ごく細部の違いで
あるに過ぎず全体的にみれば債権者容器と債務者容器は全く同一と考えることがで
きる。
六 なお、債権者商品と債務者商品のラベル・包装箱には若干の相違点があるが、
そもそもステンレス製牛乳缶型容器入りバター飴を購入しようとする問屋・小売
店・消費者等はその包装箱・ラベルによつてではなく包装箱から取り出されて陳列
されている債権者容器そのもので商品を選択すると見るのが相当であるから、債権
者商品と債務者商品の包装箱・ラベルに若干の相違点があるとしても直ちに債権者
商品と債務者商品との間に混同が生じなくなるわけではない。
七 債権者商品と債務者商品がともにバター飴であること、観光土産品であるこ
と、商品を求める消費者が観光客であること、両商品がともに観光土産店で販売さ
れ同一系統の取引者によつて取り扱われる等々を前提にしてステンレス製牛乳缶型
容器・包装箱・ラベルを全体的に見て債権者商品と債務者商品とを比較した場合、
両者の間には商品表示の類似が存しその出所については同一又は何らかの関係があ
るのではないかと思わしめる混同のおそれがあるといわなければならない。
八 なお原決定は債権者容器と債務者容器の前記差異をとらえて債権者商品と債務
者商品との間には誤認混同の虞れは生じないとしているが、これは前述した通り法
の解釈を誤つたことからくる誤つた判断である。さらに原決定のように法の趣旨が
商品主体混同行為を規制するのではなく、商品混同行為を規制するのだとしても前
述した通り債権者商品と債務者商品は類似性があると判断するのが常識的である。
九 さらに原決定が債権者商品と債務者商品との間に誤認混同の虞れがないと判断
した理由の一つに、債務者容器の蓋の部分に工夫が加えられタバコの吸殻入れとな
つていることをあげている。しかしこれも明らかに法の解釈の誤りである。
 すなわち法のいう誤認混同の虞れを判断するには、商品表示の第一義的な意味に
おいて判断すべきであり商品表示のもつ第二義的な意味は問題とならない。
 債権者容器も債務者容器も第一義的にはあくまでバター飴の容器として機能する
ものであり、バター飴を除いた後にその容器を何に使用するかは第二義的にしかす
ぎず、問屋・小売店、及び一般消費者は債権者容器・債務者容器をバター飴の容器
として考えて商品を購入するのであり、容器を花びんに使用するかタバコの吸殻入
れとして使用するかを考えて商品を購入するのではない。
一〇 又原決定は債務者容器の蓋の部分は債務者が創意工夫してタバコの吸殻入れ
にしたと判断しているが、債務者と同じく蓋の部分がタバコの吸殻入れになつた容
器は既に北誉が同容器にバター飴を入れて「クリーンセブン」として製造販売して
いるもので、債務者の創意工夫によるものではない。
一一 いずれにしても債権者商品と債務者商品との間には誤認混同の虞れがあるこ
とは明らかである。
第四 以上の理由により抗告の趣旨記載の通り決定を求める。
仮処分決定
一 相手方は本命令送達の日から別紙(三)(四)表示のステンレス製牛乳缶型容
器をバター飴の容器として使用し、同容器を使用したバター飴製品の製造・販売・
頒布してはならない。
二 相手方にある別紙(三)(四)表示のステンレス製牛乳缶型容器、及び同容器
を使用したバター飴製品に対する相手方の占有を解いて抗告人の申立てた執行官に
その保管を命ずる。
 この場合において執行官はその保管にかかることを公示するため適当な方法をと
らなければならない。
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