弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
    本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人川口直也、同牧野二郎、同岡村久道、同北岡弘章連名
作成の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官東巖作成の答弁書にそれぞれ記
載されたとおりであるから、これらを引用する。
 論旨は、被告人の本件所為は、わいせつ物を公然と陳列したものとはいえないの
に、わいせつ物公然陳列罪の成立を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことの
明らかな法令解釈適用の誤りがある、というのである(以下、「わいせつ物公然陳
列罪」という場合には、文書、図画を含む広義のわいせつ物の公然陳列罪の意味で
用いることとする。)。
 そこで記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討すると、原
判決挙示の関係証拠によれば、被告人の原判示所為が、わいせつ物公然陳列罪に該
当することは明らかであり、原判決が(争点に対する判断)の項で認定説示すると
ころも、正当としてこれを是認することができるから、原判決に所論指摘の法令解
釈適用の誤りはない。以下、所論にかんがみ、当裁判所の見解を若干付加説明する
こととする。
1 本件におけるわいせつ物について
 所論は、要するに、わいせつ画像データを記憶・蔵置させた被告人のコンピュー
ターのハードディスクは、そのままでわいせつ画像が見える訳ではなく、これを見
るためには、ユーザーがパソコンを起動し、通信ソフトを立ち上げ、被告人のパソ
コン通信サーバにアクセスして、画像データをダウンロードし、自分のパソコンの
画像閲覧ソフトを立ち上げて当該画像データファイルを読み込むなど、ユーザー側
の一連の動作が不可欠であり、ダウンロードした画像データの内容は、右閲覧ソフ
トを立ち上げるまで明らかにならないから、本件ハードディスクは、わいせつ物に
は該当しないのに、これに該当するとした原判決の解釈は、刑法一七五条の許され
ざる類推解釈であり、罪刑法定主義を定めた憲法三一条、三九条に違反する、とい
うのである。
 しかし、【要旨第一】被告人のホストコンピューターのハードディスクに記憶・
蔵置されたわいせつ画像データは、被告人が運営する「A」の会員が、電話回線を
通じて、パソコンによりアクセスすれば、ダウンロードすることができ、画像表示
ソフトを使用して右画像データを容易にわいせつ画像として顕現させ、閲覧するこ
とができるものであり、このようなわいせつ画像データが記憶・蔵置された被告人
のコンピューターのハードディスクは、刑法一七五条所定のわいせつ物に包含され
るというべきである。そして、本件ハードディスクは、絵画や写真等の伝統的な図
画の概念からは外れるとしても、象形的な方法でパソコン画面に容易に表示できる
わいせつ画像のデータが記憶・蔵置されていることから、規範的な意味において、
同条にいう「図画」の概念に当てはまるというべきであり、ハードディスクのまま
では視覚的にわいせつ画像を見ることができないことが、本件ハードディスクのわ
いせつ物該当性を否定すべき事由になるとはいえない。すなわち、本件ハードディ
スク内のわいせつ画像データを閲覧するに当たり、所論が指摘するユーザー側の一
連の行為の介在が必要なことは、わいせつな画像や音声が磁気情報として記録され
たビデオテープをビデオデッキ及びテレビモニターを使用して、可視的な形ないし
音声に変換して再生閲覧する場合に比して、データの抽出方法や使用機器等に差異
はあるものの、これと本質的に異なるところはなく、右画像データの抽出は、基礎
的な知識を有するパソコンユーザーであれば、誰でも極めて容易になしうるところ
であり、しかも、ユーザーが、直接閲覧するわいせつ画像は、本件の場合、ユーザ
ー側のパソコンのハードディスクに一旦ダウンロードされ記憶された画像データに
基づき、そのパソコン画面に表示されることになるとはいうものの、右ユーザー側
パソコンの画像データと本件ハードディスクに記憶・蔵置された画像データとの間
には、これらによって表示されるわいせつ画像につき同一性が認められるから、こ
のようなわいせつ画像データが記憶・蔵置された本件ハードディスクが、前記ビデ
オテープと同様わいせつ物に該当するとした原判決の認定、判断に何ら誤りはな
く、原判決のわいせつ物に関する解釈が刑法一七五条の許されざる類推解釈であっ
て、憲法の諸規定に違反するなどとはいえない。
 また、所論は、ハードディスク内のわいせつ画像データのファイルがわいせつ物
であり、それで特定することが可能であるのに、ハードディスク全体をわいせつ物
と認定した原判決には、そこに蔵置されている無関係な情報をもわいせつ物とした
誤りがある、という。
 しかし、ハードディスクは、それ自体で一個の完結した記憶装置であるところ、
本件ハードディスクの中に、わいせつ画像データと並んでこれと無関係なデータが
記憶・蔵置されているとしても、わいせつ画像データは分散して記憶・蔵置されて
おり、その磁気ディスク部分をこれと無関係なデータと物理的に峻別して特定する
ことは極めて困難であると認められるから、原判決が本件ハードディスク全体を一
個のわいせつ物とした判断に誤りがあるとは認められない。
 2 被告人の本件所為が刑法一七五条にいう陳列に該当することについて
 所論は、要するに、被告人が、わいせつ画像データをコンピューターのハードデ
ィスク内に記憶・蔵置させて、ホストコンピューターの管理機能に組み込み、電話
回線を使用して、パソコン通信の設備を有する者が閲覧可能な状況を設定し、これ
にアクセスしてきた者に、右データを再生閲覧させた方法は、刑法一七五条にいう
「陳列」に該当しない、というのである。
 しかし、【要旨第二】わいせつ物を公然陳列したというためには、これを不特定
又は多数の者が閲覧することができる状態に置くことをもって足りるところ、本件
において、被告人は、わいせつ画像データをコンピューターのハードディスク内に
記憶・蔵置させて、ホストコンピューターの管理機能に組み込み、会員が、電話回
線を通じてパソコンにより被告人のホストコンピューターのハードディスクにアク
セスしさえすれば、いつでも、容易に右ハードディスク内に記憶・蔵置されたわい
せつ画像のデータをダウンロードすることなどにより、右データをわいせつ画像と
してパソコンのディスプレイ上に顕現させ、閲覧することが可能な状態を作出し、
もってわいせつ画像が社会内に広範に伝播することを可能にし、健全な性風俗が公
然と侵害され得る状態を作出したものであるから、被告人が、本件ハードディスク
を右のような状態に置き、ホストコンピューターにアクセスしてきた不特定多数の
会員に、右データをダウンロードさせて再生閲覧させた所為が、わいせつ物の陳列
に該当するとした原判決の認定・判断に誤りはない。なお、弁護人は、弁論で、本
件においては、典型的なわいせつ物公然陳列罪の特徴として認められる陳列と観覧
の「同地性」や情報伝達の「同時性」がみられないから、同罪は成立しないと主張
するが、本件においては、被告人によって前記のとおり健全な性風俗が公然と侵害
され得る状態が作出されている以上、陳列という要件は満たされているというべき
であって、所論の「同地性」や「同時性」が、同罪成立のための必要不可欠な要件
になるものと解することはできない。また、本件所為が陳列に該当するとして、わ
いせつ物公然陳列罪の成立を認めることが、弁護人が弁論で指摘するように事後法
の禁止や法律主義の原則に反するなどといえないことは明らかである。
 さらに、所論は、原判決は、本件ハードディスクにつき電話回線を使用して閲覧
可能な状況を設定したことに加え、わいせつ画像の情報にアクセスしてきた不特定
多数の会員らに右データを送信して再生閲覧させ、了知させたことを公然陳列の実
行行為の一部としてとらえているが、これは、従来、抽象的危険犯として理解され
てきたわいせつ物公然陳列罪を、他者の行為が介在する一種の結果犯と構成するも
ので、同罪に異質な類型を持ち込む矛盾を犯すものである、という。
 しかし、すでに説示したように、本件におけるわいせつ物公然陳列罪が既遂に達
した時期は、被告人が、わいせつ画像データを記憶・蔵置させたハードディスクを
ホストコンピューターの管理機能に取り込み、会員による右データへのアクセスが
可能な状態にした時点であると解すべきであり、原判決が、右のアクセス可能な状
態に置いたことのみならず、アクセスしてきた不特定多数の者に右データを送信し
て再生閲覧させたことをも認定、判示しているのは、それが既遂に達するための不
可欠な要素であるとして判示したとみるべきではなく、本件において被告人がわい
せつ物を公然陳列したという犯行態様を、その犯情にかかわる結果部分を含め、具
体的に認定、摘示したに過ぎないとみるのが相当である。したがって、原判決の右
認定が、同罪を所論のような結果犯と構成したものとは認められないから、所論は
その前提を欠いており失当である。
3 被告人が責任を負うわいせつ画像データの範囲について
 所論は、要するに、パソコンネットの会員が、被告人のホストコンピューターの
ハードディスクにアップロードして記憶・蔵置させたわいせつ画像データについて
は、被告人は、刑法一七五条の責任を負わない、というのである。
 なるほど、被告人が、本件において、ホストコンピューターのハードディスクに
自ら記憶・蔵置させたわいせつ画像データは、約七〇〇ないし八〇〇画像分に過ぎ
ず、残りの約三四〇〇ないし三五〇〇画像のデータについては、会員が、自らのパ
ソコンを使用して、電話回線で被告人のホストコンピューターのハードディスクに
アップロードしてきたものと認められる。しかし、関係証拠によると、被告人は、
平成五年一一月中旬ころ、自己が所有、管理するホストコンピューターの中に、わ
いせつ画像データ四〇ないし五〇画像分が会員からアップロードされ記憶されてい
るのを知り、コンピューターネットを通じてわいせつ画像を見せることにすれば、
これに興味を示す会員が増え、多額の会費収入を上げることができると考え、ホス
トコンピューターの掲示板に「画像をアップして下さい。」と書き込んで、わいせ
つ画像データのアップロードを求め、会員のパソコンから、電話回線を通じ多数の
わいせつ画像データをホストコンピューターに集めたこと、特に、平成六年春ころ
から翌七年春ころまでの間は、わいせつ画像データを三〇画像分アップロードした
会員には、会費を二か月分無料にする旨の広告をネットを通じて出し、同時にわい
せつ画像データを記録してあるフロッピーを「A」の事務局に送付する方法でもよ
い旨の案内を出して、多数のわいせつ画像データを集めたこと、その上で、被告人
は、右案内に基づき会員から事務局に送付されて来たフロッピーから、わいせつ画
像データをホストコンピューターのハードディスクに登録し、会員からアップロー
ドされたデータと一緒に、集めたわいせつ画像データをその種類等に応じてハード
ディスク内部で分類、整理し、自ら案出した説明文等もファイルデータに付記した
上、これらのわいせつ画像データをアクセスしてきた多数の会員によるダウンロー
ドが容易な状態に置いたこと、これらの作業と併行して、被告人は、平成五年一二
月にネットの会費を有料とした後、Bの掲示板に「超Hな画像があります。」と
三、四日に一度の割合で書き込んで広告を出し、以後逮捕されるまで、ネットを通
じてわいせつ画像の閲覧を希望する会員を募集し、入会した会員にこれらのわいせ
つ画像データを提供し、わいせつ画像の閲覧をさせ続けていたこと、しかも、被告
人は、本件ハードディスク内に記憶・蔵置されたデータの概数を把握し、その内容
がわいせつ画像のデータである蓋然性を認識していたこと等が認められる。以上に
みられる本件犯行の動機、わいせつ画像データの収集方法、被告人のホストコンピ
ューターのハードディスク内でのわいせつ画像データの管理状況及び宣伝広告を初
めとするネットの運営状況等に照らすと、被告人が、自らホストコンピューターの
ハードディスク内にアップロードして記憶させたわいせつ画像データのみに止まら
ず、会員をしてハードディスク内にアップロードさせたわいせつ画像データについ
ても、これらを会員に閲覧させ収益を上げるという自らの用途に資する目的で、ハ
ードディスクに蔵置させ続け、会員がいつでもアクセス、ダウンロードして閲覧す
ることが可能な状態にしつつ、これを積極的に管理していたものと認められるか
ら、被告人は、右わいせつ画像データ全部について、わいせつ物公然陳列罪の責任
を免れないというべきである。
 さらに、所論は、原判決は、被告人がユーザーからアップロードされたわいせつ
画像データの存在を知りながら、それらを削除しなかった不作為を被告人の責任の
根拠としているが、ハードディスク上のファイル管理という技術レベルでの管理を
根拠に、ユーザーがアップロードした情報内容全般について、被告人を「情報の番
人」として位置付けて、削除という作為義務を認めるべきではない、という。
 しかしながら、本件においては、すでに認定、説示したとおり、被告人は、単に
会員が勝手にアップロードしてきたわいせつ画像データをそのまま放置していたも
のではなく、それらを自己の用途に資する目的で収集した上、分類、整理し、その
宣伝を行って、会員を募集するなどしつつ積極的に管理していたのであるから、会
員らがアップロードしてきたわいせつ画像データをハードディスクから削除しなか
った被告人の不作為のみを問題とする所論は、本件において被告人が果たした役割
を適切に評価しておらず、前提事実を異にしているから、原判決に対する適切な論
難には当たらない。
 その他、所論は、原判決の認定、判断をるる論難するが、いずれも原判決のそれ
を左右するに足るものではない。
 論旨は理由がない。
 よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判
決する。
(裁判長裁判官 福島 裕 裁判官樋口裕晃 裁判官 井上 豊)

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