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平成20年3月27日判決言渡
平成19年(ネ)第10067号損害賠償請求控訴事件
平成19年(ネ)第10093号同附帯控訴事件
(原審新潟地方裁判所三条支部平成17年(ワ)第65号)
平成20年1月24日口頭弁論終結
判決
控訴人・附帯被控訴人欧和国際貿易有限会社
同A
上記両名訴訟代理人弁護士大山薫
被控訴人・附帯控訴人株式会社中屋
訴訟代理人弁護士藤巻元雄
同星野文武
主文
1控訴人・附帯被控訴人らの控訴及び被控訴人・附帯控訴人の附帯控
訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1)控訴人・附帯被控訴人欧和国際貿易有限会社は原判決別紙登録,
商標目録の登録商標欄記載の標章を原判決別紙商品目録記載1,2
の商品に付し,同標章を付した同商品目録記載1,2の商品を譲渡
し,引渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出してはなら
ない。
(2)控訴人・附帯被控訴人欧和国際貿易有限会社は原判決別紙標章,
目録記載1の標章を原判決別紙商品目録記載1,2の商品に付し,
同標章を付した同商品目録記載1,2の商品を譲渡し,引渡し,譲
渡若しくは引渡しのために展示し,輸出してはならない。
(3)控訴人・附帯被控訴人欧和国際貿易有限会社はその占有に係る,
原判決別紙登録商標目録の登録商標欄記載の標章の版下及び原判決
別紙標章目録記載1の標章の版下を廃棄せよ。
(4)控訴人・附帯被控訴人らは被控訴人・附帯控訴人に対し連帯,,
して金342万6371円及びこれに対する平成17年11月12
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)被控訴人・附帯控訴人のその余の請求を棄却する。
,,(。)2訴訟費用は第1審第2審附帯控訴により生じたものを含む
を通じこれを5分し,その2を被控訴人・附帯控訴人の負担とし,そ
の余を控訴人・附帯被控訴人らの連帯負担とする。
3この判決の第1項(1)ないし(4)は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴及び附帯控訴の趣旨
1控訴の趣旨
(1)原判決中,控訴人・附帯被控訴人ら(以下「被告ら」という)の敗訴部。
分を取り消す。
(2)被控訴人・附帯控訴人(以下「原告」という)の請求をいずれも棄却す。
る。
(3)訴訟費用は,第1,2審とも原告の負担とする。
2附帯控訴の趣旨
(1)原判決主文第1項ないし第4項を次のとおり変更し原判決主文第5項を,
これに反する限度で取り消す。
(「」。)ア控訴人・附帯被控訴人欧和国際貿易有限会社以下被告会社という
は,原判決別紙登録商標目録の登録商標欄記載の標章を原判決別紙商品目
録記載1,2の商品に付し,同標章を付した同商品目録記載1,2の商品
,,,。を譲渡し引渡し譲渡又は引渡しのために展示し輸出してはならない
イ被告会社は,原判決別紙標章目録記載1の標章を原判決別紙商品目録記
載1,2の商品に付し,同標章を付した同商品目録記載1,2の商品を譲
渡し,引渡し,譲渡又は引渡しのために展示し,輸出してはならない。
ウ被告会社は,原判決別紙登録商標目録の登録商標欄記載の標章及び原判
決別紙標章目録記載1の標章の版下を廃棄せよ。
エ被告らは,原告に対し,連帯して金699万0831円及びこれに対す
る平成17年11月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
(2)訴訟費用は,第1,2審とも被告らの負担とする。
(3)仮執行宣言
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,
(1)原告が被告会社に対し被告会社による原判決別紙登録商標目録の登録,,
商標欄記載の標章以下イークスマークというの使用並びにイー(「」。),,
(。。),,クスマークを付した鋸鋸替刃を含む以下同じ及び剪定鋏の製造譲渡
引渡し,譲渡若しくは引渡しのための展示,及び,輸出が,原告の有する上
記登録商標目録記載の登録商標以下本件商標というに係る商標権以(「」。)(
「」。),,下本件商標権というを侵害すると主張して商標法36条に基づき
上記行為の差止め及びイークスマークの版下の廃棄を請求し,
(2)原告が,被告会社に対し,原判決別紙標章目録記載1の標章(以下「N「
AKAYAの標章というは原告の商品等表示不正競争防止法2条1」」。)(
項1号の商品等表示をいう以下同じとして需要者の間に広く認識さ「」。。)
れているものであって,被告会社による同標章の使用,並びに,同標章を付
,,,,した鋸及び剪定鋏の製造譲渡引渡し譲渡若しくは引渡しのための展示
及び,輸出は,原告の商品と混同を生じさせる行為であると主張して,不正
競争防止法3条に基づき,上記行為の差止め及び「NAKAYA」の標章の
版下の廃棄を請求し,
(3)原告が,被告会社に対し,原判決別紙標章目録記載2の標章(以下「中「
屋の標章というは原告の商品等表示として需要者の間に広く認識され」」。)
ているものであって,被告会社による同標章の使用,並びに,同標章を付し
た鋸及び剪定鋏の製造,譲渡,引渡し,譲渡若しくは引渡しのための展示,
及び,輸出は,原告の商品と混同を生じさせる行為であると主張して,不正
競争防止法3条に基づき,上記行為の差止め及び「中屋」の標章の版下の廃
,,棄を請求するとともに平成18年法律第87号による改正前の商法20条
21条に基づき,被告会社による「中屋」の標章の使用の差止めを請求し,
(4)原告が被告会社及び同社の行為の実行行為者である控訴人・附帯被控訴,
人A以下被告Aというに対し商標法38条不正競争防止法4条(「」。),,
及び民法709条に基づき,被告会社の行為により原告が被った損害が15
(,「」,57万6112円①被告会社がイークスマークNAKAYAの標章
中屋の標章を付した鋸を輸出したことによる損害784万7556円損「」〔
,,「」害額の算定に関しイークスマークにつき商標法38条1項NAKAYA
の標章及び「中屋」の標章につき不正競争防止法5条1項を主張,②被告。〕
会社がイークスマーク「NAKAYA」の標章「中屋」の標章を付した剪,,
定鋏を輸出したことによる損害16万8556円〔損害額の算定に関し,イ
ークスマークにつき商標法38条2項及び民法709条NAKAYAの,「」
標章及び「中屋」の標章につき不正競争防止法5条2項及び民法709条を
主張,③被告会社がイークスマーク「NAKAYA」の標章「中屋」の。〕,,
標章を付して輸出したことにより,原告の信用が毀損されたことによる損害
500万円〔損害額の算定に関し,民法709条を主張,④本件訴訟に関。〕
する弁護士費用100万円〔損害額の算定に関し,民法709条を主張,。〕
⑤被告会社が,原判決別紙被告登録商標目録の登録商標欄記載の標章(以下
三倍速マークというにつき商標登録出願をし商標登録を受けるとい「」。),
う不法行為を行ったことによる損害として,三倍速マークに係る被告会社の
商標登録を無効とするための審判請求及び審決取消訴訟に関する弁護士費用
・弁理士費用156万円損害額の算定に関し民法709条を主張を合〔,。〕
計した金額であると主張してその一部である金887万5000円及び。),
これに対する訴状送達の日の翌日である平成17年11月12日から支払済
みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。
,,「」原判決は上記(1)ないし(3)の差止等請求については(ア)NAKAYA
,「」の標章は原告の商品等表示として需要者間に広く認識されている(イ)中屋
の標章は,江戸時代から多数の鋸鍛冶が使用していた屋号であり,同標章単独
では原告の商品等表示として需要者間に広く認識されているとはいえない,
(ウ)原告は,被告会社が自己の営業上の名称(商号)として「中屋」を使用し
,,た事実を主張しないので平成18年法律第87号による改正前の商法20条
21条に基づく請求は主張自体失当であるなどと認定判断して上記(3)の請求,
を棄却したものの,上記(1)及び(2)の請求を原判決主文第1項ないし第3項の
限度で認容したまた原判決は上記(4)の損害賠償請求については(ア)被。,,,
告会社は,原判決別紙違法行為一覧表1記載のとおり,合計1万6730枚の
鋸替刃にイークスマーク及び「NAKAYA」の標章を付して輸出した,(イ)
被告会社は,別紙違法行為一覧表2記載のとおり,合計1383丁の剪定鋏を
「NAKAYA」の刻印付きで輸出した,(ウ)被告会社が,三倍速マークにつ
き商標登録出願をし,商標登録を受けたことは,原告の権利を侵害し,不法行
為が成立する,などと認定判断して,金599万0831円(上記①の損害と
して387万4041円,上記②の損害として11万6790円,上記③の損
害として50万円,上記④の損害として50万円,上記⑤の損害として100
万円)及びこれに対する遅延損害金の限度で認容した。
被告らは,原判決中の被告ら敗訴部分を不服として,本件控訴を提起した。
また原告は附帯控訴を提起し上記(4)の請求について上記③の損害に,,,,
ついて認容額の増額を求めるとともに,上記②の損害に係るイークスマークを
付した鋸の輸出に関し不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求を追加し当,(
審において,原告は,イークスマークを付した商品の輸出に関する商標法38
,。,,条に基づく損害賠償請求を取り下げ被告らはこれに同意したまた原告は
上記①の損害額の算定につき不正競争防止法5条3項及び民法709条も主張
すること,上記②の損害額の算定につき不正競争防止法5条3項も主張するこ
とを釈明した。さらに,原告は,上記②の損害に関し,被告会社がイークスマ
ーク及び「NAKAYA」の標章を付して鋸を輸出した事実が認められない場
合に備え被告会社がイークスマークNAKAYAの標章等を付した包装,,「」
袋を輸出したことにより,これらを付した鋸を輸出したのと同様の損害賠償責
,,。),任を負うと主張して被告らに対し上記②の損害額と同額の支払を求めた
また,上記増額した部分,上記請求を追加した部分,及び,原判決中の原告の
勝訴部分について,仮執行宣言を求めた。上記③の損害についての増額部分を
除き,原判決において請求が棄却された部分は,当審における審理の対象では
ない。
2争点,請求原因(当審における新請求及び予備的請求を含む,及び,前提。)
となる事実関係
次のとおり訂正付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案
の概要等」の第2段落以下(原判決3頁4行目ないし5頁9行目)及び「第3
前提となる事実関係原判決5頁10行目ないし15頁11行目に記載の」()
とおりであるから,これを引用する。なお,原判決の略語表示は,改めて定義
したものを除き,当審においてもそのまま用いる。
(1)原判決3頁4行目のNAKAYA中屋の標章をイークスマー「「」「」」「
ク「NAKAYA」の標章「中屋」の標章」と改める。,,
「「」(2)原判決3頁5行目ないし同頁6行目にかけての後記イークスマーク
等」を「イークスマーク「NAKAYA」の標章等」と改める。,
(3)原判決3頁7行目の被告会社が後記三倍速マークを商標登録した行「「」
為」を「被告会社が,三倍速マークにつき商標登録出願をし,商標登録を受
けた行為」と改める。
(4)原判決3頁10行目ないし同頁19行目を次のとおり改める。
「1原告の登録商標及び商品等表示
(1)原告はイークスマークについて原判決別紙登録商標目録記載の,,
とおり,本件商標権を有している。また,イークスマークは,原告の
商品等表示として,平成7年ころから需要者の間に広く認識されてい
た。
(2)NAKAYAの標章及び中屋の標章は原告の商品等表示「」「」,
として,遅くとも昭和60年ころまでには,需要者の間に広く認識さ
れていた。なお,原告は,昭和42年に有限会社中屋鋸機械製作所と
して設立されたが,平成13年6月に株式会社に組織変更した際,社
「」,「」,。」名を株式会社中屋と改めており中屋は原告の商号である
(5)原判決3頁20行目の「及び商標権侵害行為」を削除する。
(6)原判決4頁5行目の「及び商標法37条1項」を削除する。
(7)原判決4頁8行目ないし同頁9行目にかけての不正競争防止法5条1項「
及び商標法38条1項の規定に基づき算定」を「不正競争防止法5条1項の
規定に基づき算定。なお,同条3項又は民法709条の規定に基づき算定し
ても同様である」と改める。。
(8)原判決4頁9行目の後に改行して次のとおり挿入する。
「予備的請求原因)(
仮に被告会社がイークスマークNAKAYAの標章中屋の標,,「」,「」
章を付して鋸を輸出した事実が認められないとしても被告らは被告会社,,
がイークスマークNAKAYAの標章中屋の標章を付した包装,,「」,「」
袋を輸出したことによりこれらを付した鋸を輸出したのと同様の損害賠償,
責任を負う」。
(9)原判決4頁11行目ないし同頁12行目にかけての不正競争防止法5条「
2項及び商標法38条1項の規定に基づき算定」を「不正競争防止法5条2
項の規定に基づき算定。なお,同条3項又は民法709条の規定に基づき算
定しても同様である」と改める。。
(10)原判決4頁22行目の損害は500万円を下らないの後に民法7「」「(
09条の規定に基づき算定」を挿入する。)
(11)原判決4頁23行目の後に改行して「民法709条の規定に基づき算,(
定」を挿入する。)
(12)原判決4頁25行ないし同頁26行目にかけての「被告会社は,別紙被
告登録商標目録記載の標章(以下「三倍速マーク」という)を登録した」。。
「,,。」を被告会社は三倍速マークにつき商標登録出願をし商標登録を受けた
と改める。
(13)原判決5頁9行目の後に改行して次のとおり挿入する。
「5損害賠償請求
被告会社は,前記3及び4のとおり,不正競争及び不法行為により,
原告に1557万6112円の損害を生じさせたところ,被告会社の代
表者代表取締役である被告Aは,被告会社の不正競争及び不法行為を企
画・実行した者として,被告会社と連帯して損害賠償責任を負う。そこ
で,原告は,被告らに対し,不正競争防止法4条及び民法709条に基
づき,上記損害の一部である金887万5000円及びこれに対する訴
状送達の日の翌日である平成17年11月12日から支払済みまで年5
分の割合による遅延損害金の支払を請求する。
6差止め及び廃棄請求
(1)被告会社が前記3のとおりイークスマークを付した鋸及び剪定,,
鋏を輸出したことに鑑み,原告は,被告会社に対し,商標法36条に
基づき,被告会社が,イークスマークを使用し,イークスマークを付
した鋸及び剪定鋏の製造,譲渡,引渡し,譲渡若しくは引渡しのため
の展示,又は,輸出をすることの差止め,並びに,被告会社が作成し
たイークスマークの版下の廃棄を請求する。
(2)被告会社が前記3のとおりNAKAYAの標章中屋の,,「」,「」
標章を付した鋸及び剪定鋏を輸出したことに鑑み,原告は,被告会社
に対し,不正競争防止法3条に基づき,被告会社が,これらの標章を
使用し,これらの標章を付した鋸及び剪定鋏の製造,譲渡,引渡し,
譲渡若しくは引渡しのための展示,又は,輸出をすることの差止め,
,「」,「」並びに被告会社が作成したNAKAYAの標章の版下中屋
の標章の版下の廃棄を請求する」。
(14)原判決5頁18行目の「有限会社」を「会社法の施行に伴う関係法律の
整備等に関する法律(平成17年法律第87号)3条2項に基づく特例有限
会社」と改める。
(15)原判決10頁1行目ないし同頁8行目を次のとおり改める。
「(3)イークスマークについて
原告は,イークスマークについて,原判決別紙登録商標目録記載のと
おり,本件商標権を有している。イークスマークは,ギザギザの鋸の目
と中屋の「n」を図案化したものであり,イークスとは「easyw
orks」の略で,楽に仕事ができるという意味である。原告が,平成
4年ころからイークスマークの使用を始め,自社のオリジナルブランド
であることを広告した結果,イークスマークは,平成7年ころには,原
告の商品等表示として我が国の需要者間に広く知られるに至った甲,。(
3の1ないし5,甲4の2,甲49ないし甲51」)
(16)原判決11頁8行目の「甲50の4」を「乙50の4」と改める。
(17)原判決11頁11行目の被告会社はを被告Aは株式会社欧和の「,」「,
名義で」と改める。,
(18)原判決11頁23行目の被告会社はを被告Aは株式会社欧和の「,」「,
名義で」と改める。,
(19)原判決14頁13行目ないし同頁14行目にかけての「被告会社は,平
成16年5月8日に出願して,別紙被告登録商標目録記載の標章(三倍速マ
ークを商標登録したを被告会社は平成16年5月18日三倍速マ)。」「,,
,,。」ークにつき商標登録出願をし平成17年5月13日商標登録を受けた
と改める。
(20)原判決15頁8行目の「甲116」を「甲116,117」と改める。
3当審における被告らの補足的主張
(1)イークスマーク「NAKAYA」の標章等を付した鋸の輸出の有無(争,
点2)について
被告会社が,原判決別紙違法行為一覧表1記載の鋸にイークスマーク及び
「NAKAYA」の標章を付して輸出したことはない。上記鋸には,防錆コ
ート(クリアコート)処理が施されており,イークスマーク及び「NAKA
YA」の標章は,中国において,その表面上(クリアコートの上)に印刷さ
れたものである乙51ないし54このことは甲13213313()。,,,
5の撮影の対象物である各鋸は,甲134の撮影の対象物である鋸(防錆コ
ートクリアコートの下に文字等が印刷されているとは異なりいず〔〕,。),
れも防錆コートクリアコートの上にイークスマークNAKAYAの(),「」
標章等が印刷されていることからも明らかである。
「」()(2)NAKAYAの標章等を付した剪定鋏の輸出行為の違法性争点3
について
被告会社は,需要者に被告会社の商品を原告の商品と混同させることを目
的として「NAKAYA」の標章を付したのではなく,鋸の製造販売等を業
とする者の間で広く用いられている「中屋」の標章の欧文表記として用いた
にすぎないのであるから,このような行為は不正競争行為とはいえない。
また,被告会社は,中国において販売するため,中国において「NAKA
YA」の標章に関する商標権を有しているBの許諾を得て,同標章を付した
ものである。
したがって,被告会社の行為には違法性がない。
(3)被告会社が三倍速マークにつき商標登録出願をし商標登録を受けた行,,
為の違法性(争点4)について
被告会社は,不法の目的をもって,上記登録出願をし,商標登録を受けた
ものではないから,被告会社の行為は違法性を有しない。
(4)予備的請求原因について
,,,,「」原告は被告会社が鋸に付すためにイークスマークNAKAYA
の標章等を付した包装袋を輸出した旨主張する。しかし,印刷の書体等から
明らかなとおり,上記包装袋は我が国で印刷されたものではないので(乙5
5の1ないし3,原告の主張は失当である。)
4当審における原告の補足的主張
(1)イークスマーク「NAKAYA」の標章等を付した鋸の輸出の有無(争,
点2)について
甲132,133,135の撮影の対象物である各鋸は,防錆コート(ク
リアコート処理がなされた後にイークスマークNAKAYAの標章等),「」
が印刷されているのに対し,甲134の撮影の対象物である鋸は,防錆コー
ト(クリアコート)処理前に文字等が印刷されたことがうかがわれる。上記
のうち,平成16年2月19日仕入れの内装鋸替刃に該当する可能性がある
甲132では,イークスマーク「NAKAYA」の標章のほか「中屋」の,,
標章三倍速MADEINJAPAN及びZB265の各文,「」,「」「」
字はいずれも防錆コート(クリアコート)処理がなされた後に印刷されてい
るから,イークスマーク「NAKAYA」の標章は「ZB265」の文字,,
と同じ機会に印刷されたものと考えられる。
,,,,また被告会社が本訴提起前の原告との交渉においてイークスマーク
「NAKAYA」の標章及び「中屋」の標章の版下を,和解契約締結から2
週間以内に原告に交付する旨連絡してきたこと(乙33の2,33の4)か
らすれば,上記版下は被告会社の支配下にあったといえる。
そうするとイークスマークNAKAYAの標章等の印刷は我が国,,「」,
において行われたことが推測される。
「」()(2)NAKAYAの標章等を付した剪定鋏の輸出行為の違法性争点3
について
被告会社はNAKAYAの標章が世界的な名声を獲得したことを認識,「」
しながら甲6の2甲6の3乙30の2乙31の1あえてこれを使(,,,),
用したものであり,需要者に被告会社の商品を原告の商品と混同させようと
。,,,「」したことは明らかであるまたBは被告らと共謀してNAKAYA
の標章を盗用した者であり,中国の商標法上も保護されない。したがって,
被告会社の行為に違法性がないとする被告ら主張は,失当である。
(3)被告会社が三倍速マークにつき商標登録出願をし商標登録を受けた行,,
為の違法性(争点4)について
被告会社が,三倍速マークにつき商標登録出願をしたのは,原告が長年か
かって獲得した「NAKAYA」の標章に化体した信用を不法に利用するた
めであるから,被告会社の行為に違法性がないとする被告ら主張は,失当で
ある。
第3当裁判所の判断
当裁判所は,原告の本訴請求は主文第1項(1)ないし(4)の限度で認容すべき
であり,その余の請求は棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり
訂正付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第4争点に対する判
」(),断原判決15頁13行目ないし23頁17行目記載のとおりであるから
これを引用する。
1原判決の訂正(当審における当事者の補足的主張に対する判断を含む)。
(1)原判決15頁13行目ないし同頁20行目を次のとおり改める。
「1イークスマーク「NAKAYA」の標章「中屋」の標章の商品等表,,
示性(争点1)について
前記認定事実前記第3の23によればイークスマーク及びN(,),「
AKAYA」の標章は,原告の商品等表示,すなわち,原告の業務に係
る商品「鋸」を表示するものとして,我が国のみならず,アメリカ,カ
ナダ,イギリス,オーストラリア,南アフリカなど世界各国の需要者間
に広く認識されており,遅くとも平成15年末ころまでには,中国の需
要者間にも相当程度広く認識されるに至っていたことが認められる。こ
れに対し中屋の標章は前記認定のとおり江戸時代から多数の鋸,「」,,
鍛冶が使用していた屋号であり,この標章単独では,原告の業務に係る
商品又は営業を表示するものとして需要者間に広く認識されているもの
とはいえない」。
(2)原判決17頁3行目ないし同頁12行目を次のとおり改める。
「これらの事実に加えて,証拠(甲137の1,2)によれば,前記商品
には,表面に防錆コート(クリアコート)処理がされていること(平成1
6年1月20日〔カバサワはナカヤに19日納入〕仕入分と同年2月19
日〔同17日納入〕仕入分は,同一の納入単価であるが,前者に防錆コー
ト(クリアコート)処理がされていることが認められることからすると,
後者にも同様の処理がされたとみるのが相当である)が認められるとこ。
ろ,番号15の商品と同一の品番(ZB265)が付されている甲132
の撮影対象物である鋸には,防錆コート(クリアコート)処理が施され,
その表面上クリアコートの上にイークスマークNAKAYA中(),,「」,「
屋「三倍速「MADEINJAPAN」及び「ZB265」の各」,」,
文字が印刷されていることが認められ(当事者間に争いがない,カバサ。)
ワが品番を印刷したのであれば品番以外の部分イークスマーク及びN,(「
AKAYA」等)も同時に印刷したとみるのが自然であることなどを総合
考慮すると,被告会社が,番号14ないし16の商品に,イークスマーク
及び「NAKAYA」の標章を我が国で付して輸出したと推認することが
できる」。
(3)原判決17頁22行目ないし同頁25行目にかけてのまた証拠甲1「,(
16)によれば・・・同様に信用できない」を次のとおり改める。,。
「また,証拠(甲116)によれば,Cは,前記証拠保全の際,平成16
年2月17日の版下及びフィルム代は,OWマークに関するものである旨
述べたこと,有限会社ケイ・アート代表取締役Dの作成に係る版下納入証
明書(乙53)には,同社が平成16年1月28日にカバサワに納入した
版下及びフィルムは,OWマークに関するものであることを証明する旨の
記載があることが認められるが,証拠(乙49)によれば,カバサワがO
Wマークを付した鋸を納入したのは平成17年3月24日からであること
に照らし,Cの前記供述の信用性は乏しく,イークスマークを使用してい
ないことを証明するとのCの供述も同様に信用できないし,乙53も同様
に措信できない。
被告らは,イークスマーク及び「NAKAYA」の標章は,中国におい
,()。てその表面上クリアコートの上に印刷されたものであると主張する
しかし,被告らにとって,中国のどこで,いつ,誰が,イークスマーク及
び「NAKAYA」の標章を印刷したのかを明らかにすることは,格別困
難とは認められないにもかかわらず,被告らは,この点について具体的な
説明をしていないこと,乙51ないし53は,現時点において,中国でク
リアコートの上に印刷することが不可能ではないことを示すものにすぎ
ず,番号14ないし16の商品にイークスマーク及び「NAKAYA」の
標章が付されたのが,中国国内であることを示すとものとはいえないこと
に照らせば,被告らの上記主張は採用することができない」。
(4)原判決18頁11行目の後に次のとおり挿入する。
「また,番号19の商品と同一の品番(YL240)が付されている甲1
35の撮影対象物である鋸には,防錆コート(クリアコート)処理が施さ
,(),,「」,れその表面上クリアコートの上にイークスマークNAKAYA
「中屋「三倍速「MADEINJAPAN」及び「YL240」」,」,
(。)。」の各文字が印刷されていることが認められる当事者間に争いがない
(5)原判決20頁9行目の後に改行して次のとおり挿入する。
「なお,被告らは,被告会社が,需要者に被告会社の商品を原告の商品と
「」,混同させることを目的としてNAKAYAの標章を付したのではなく
鋸の製造販売等を業とする者の間で広く用いられている「中屋」の標章の
欧文表記として用いたにすぎず,また,中国において「NAKAYA」の
標章に関する商標権を有しているBの許諾を得て,同標章を付したもので
あるから,被告会社の行為には違法性がない旨主張する。しかし,上記剪
定鋏の「NAKAYA/JAPAN」の刻印に接した需要者は,同刻印中
の「NAKAYA」の標章をもって,商品の出所を表示するものと認識,
理解することは明らかであるから,被告会社の行為は,原告が「NAKA
YA」の標章により獲得した出所表示機能等を毀損する正に不正競争行為
に当たるものというべきである。また,中国において商標権を有するBか
,。ら許諾を受けたことをもって原告から許諾を受けたと解する余地もない
以上のとおり,被告らの上記主張は失当である」。
(6)原判決20頁14行目ないし同頁19行目を次のとおり改める。
「4被告会社が,三倍速マークにつき商標登録出願をし,商標登録を受け
た行為の違法性(争点4)について
商標を使用しようとする者が,商標権を得るために,商標登録出願を
する行為は,適正な商標の使用を通じて,業務上の信用の維持を図り,
産業の発達に寄与し,需要者の利益を保護するという商標制度を利用す
る行為であって,保護されるべきである。したがって,商標の登録出願
が不法行為に当たるか否かを判断するに当たっては,商標制度の利用が
不当に制限されることのないよう慎重に配慮されるべきである。そのよ
うな観点に立つと,商標の登録出願をする行為は,特段の事情のない限
り,不法行為を構成することはないというべきである。しかし,出願人
が,商標登録の要件を欠くことを知り,又は通常の注意を払えば容易に
知り得たのにもかかわらず,不当な権利行使をする目的や,第三者に損
害を与える意図の下に,登録出願をするような場合には,商標制度が設
けられた趣旨,目的に著しく反する行為として,不法行為を構成する場
合があるというべきである。
,,,上記の観点から被告会社が三倍速マークにつき商標登録出願をし
商標登録を受けたことが,原告に対する不法行為を構成する否かについ
て,検討する。
前記認定事実(前記第3,6)のとおり,被告会社は,平成16年5
月18日,三倍速マークにつき商標登録出願をし,平成17年5月13
日,商標登録を受けたが,原告が,三倍速マークは,原告の業務に係る
商品である鋸を表示するものとして需要者間に広く認識されている商標
「NAKAYA」と類似する商標であり,商標法4条1項10号により
商標登録を受けることができないとして,無効審判を請求したところ,
特許庁は,平成18年3月30日,これを無効とするとの審決をし,知
的財産高等裁判所は,同年7月26日,同審決の取消しを求める請求を
棄却する旨の判決をし,同判決の確定により,三倍速マークに係る被告
会社の商標登録は無効となったことが認められる。そして,本件におい
て,被告会社が,原告に対し,三倍速マークに係る登録商標に基づく権
利行使をしたり,高額で権利の買い取りを求めたりしたなどの事情は存
在せず,被告会社が,三倍速マークにつき商標登録出願をし,商標登録
を受けたことにより,直ちに原告の法益が侵害されたとはいうことはで
いない。
したがって,被告会社が,三倍速マークにつき商標登録出願をし,商
標登録を受けたことが,原告に対する不法行為を構成するものではない
というべきである」。
(7)原判決20頁20行目ないし22頁19行目を次のとおり改める。
「5損害
(1)イークスマーク「NAKAYA」の標章を付した鋸替刃の輸出に,
よる営業上の利益の侵害
被告会社がイークスマークNAKAYAの標章を付した鋸替刃,「」
を輸出したことにより原告が侵害された営業上の利益について,検討
する。
ア不正競争防止法5条1項に基づく請求について
被告会社は,前記2のとおり,原判決別紙違法行為一覧表1記載
のとおり,合計1万6730枚の鋸替刃にイークスマーク及び「N
AKAYA」の標章を付して,中国に輸出したことが認められる。
他方,前記認定事実(前記第3,4)によれば,原告は,平成1
5年5月,被告会社との商談を開始したものの,同年7月ころ,被
告会社との商談は立ち消えとなり,その後,原告は,被告会社によ
る上記輸出が行われた平成16年当時から現在に至るまで,原告の
商品を中国に輸出したことはなく,現時点では中国市場に進出する
具体的な計画も存在しないことが認められる(原告代表者本人,弁
)。,,論の全趣旨そうすると被告会社が中国に輸出した上記商品と
原告の商品は,市場において互いに補完する関係にないことが明ら
かである。
不正競争防止法5条1項の規定は,侵害者が譲渡した物と被侵害
者が販売する物とが市場において互いに補完する事情のある場合に
に適用されるというべきところ,上記のとおり,本件においては,
その前提を欠くというべきであるから,同項の適用はない。
イ不正競争防止法5条3項1号に基づく請求について
,「」,前記1のとおりイークスマーク及びNAKAYAの標章は
原告の商品等表示として,我が国のみならず,アメリカ,カナダ,
イギリス,オーストラリア,南アフリカなど世界各国の需要者間に
広く認識されており,中国の需要者間にも相当程度広く認識される
に至っており,イークスマーク及び「NAKAYA」の標章の付さ
れた鋸が市場において非常に高い評価を受けていること,イークス
マーク及び「NAKAYA」の各標章が共に使用されてること等を
総合考慮すると,イークスマーク及び「NAKAYA」の標章を付
することにより受けるべき金銭の額は,販売金額の20%と認める
のが相当である。なお,前記認定事実に照らし,被告会社に少なく
とも過失があることは,明らかである。
したがって被告会社がイークスマークNAKAYAの標章,,「」
を付した鋸替刃を輸出したことによる原告の損害の額は,販売金額
合計410万6300円の20%である82万1260円と算定す
ることができる。
(2)NAKAYAの標章を付した剪定鋏の輸出による営業上の利益「」
の侵害
被告会社が「NAKAYA」の標章を付した剪定鋏を輸出したこと
により原告が侵害された営業上の利益について,検討する。
ア不正競争防止法5条2項に基づく請求について
前記(1)アのとおり原告は被告会社による上記輸出が行われた,,
平成16年当時から現在に至るまで,原告の商品を中国に輸出した
ことはなく,現時点では中国市場に進出する具体的な計画も存在し
ないことが認められるから,被告会社の侵害行為と原告の営業行為
が対応する関係にないことは明らかであり,そうすると本件におい
ては,不正競争防止法5条2項の推定を覆す事情が存在するものと
解すべきである。
イ不正競争防止法5条3項1号に基づく請求について
前記(1)イの事情を総合考慮すると「NAKAYA」の標章の使,
用に対し受けるべき金銭の額は,販売金額の15%と認めるのが相
当である。なお,前記認定事実に照らし,被告会社に少なくとも過
失があることは,明らかである。
したがって,被告会社が「NAKAYA」の標章を付した剪定鋏
を輸出したことによる原告の損害の額は,販売金額合計70万07
40円の15%である10万5111円と算定することができる。
(3)信用毀損
前記(1)アのとおり原告は平成15年5月被告会社との商談を,,,
,,,開始したものの同年7月ころ被告会社との商談は立ち消えとなり
現時点では中国市場に進出する具体的な計画も存在しないが,被告会
社との商談が不成立になった原因は,被告らが,原告に対し,被告会
社に中古機械を提供するように求めたり,品質管理上納入が困難な価
格を希望したりしたことにあったことがうかがわれる。
原告は,鋸替刃について,品質管理を徹底させているところ,カバ
サワが製造した鋸替刃は,原告の商品の製造原価より,低価格である
,(),が経費削減のために工程の一部を省略した商品番号17もあり
品質において劣っていることが認められる。また,証拠(甲6の1な
いし3,甲120)によれば,原告は,柄についても品質管理を徹底
させているところ,被告会社が輸出した鋸替刃は,現地で,粗悪な品
質の柄を取り付けた上,販売していることが認められる。
このように,原告製品(鋸替刃等)に対する信頼性は,被告会社の
不正競争行為(イークスマーク及び「NAKAYA」の標章を付して
カバサワ製の鋸替刃を輸出したり,現地で粗悪な柄を取り付けさせた
行為)により,大きく毀損されたというべきである。なお,前記認定
の各事実に照らし,被告会社に少なくとも過失があることは,明らか
である。さらに,原告は,中国市場に進出する希望を持っているもの
の,上記信用の毀損の結果,実際にこれを行うことが困難な状況にあ
る(原告代表者本人。)
以上の事実を総合考慮すると,原告の受けた信用毀損の額は,20
0万円を下回らないと認定するのが相当である」。
(8)原判決22頁24行目ないし23頁1行目を削除する。
(9)原判決23頁2行目ないし同頁17行目を次のとおり改める。
「6被告Aの責任
被告会社は,前記のとおり,不正競争及び不法行為により,原告に金
342万6371円の損害を生じさせたところ,被告会社の代表者代表
取締役他に従業員はいないである被告Aは実質上被告会社と一(。),,
体であり,同社の不正競争及び不法行為の実行行為者であるから,被告
会社と連帯して損害賠償責任を負うというべきである。なお,前記認定
事実に照らし,被告Aに少なくとも過失があることは,明らかである。
7差止請求等
被告会社は,前記のとおり,イークスマーク及び「NAKAYA」の
標章を付した鋸替刃及び刻印「NAKAYA」付きの剪定鋏を輸出した
のであるから,イークスマーク又は「NAKAYA」の標章を鋸(鋸替
刃を含む又は剪定鋏に付しイークスマーク又はNAKAYAの。),「」
標章を付した鋸鋸替刃を含む又は剪定鋏を譲渡し引渡し譲渡若(。),,
しくは引渡しのために展示し,輸出するおそれが認められるから,原告
の差止請求は,主文第1項(1),(2)記載の限度で理由がある。
また,被告会社は,前記鋸替刃を輸出するに当たり,イークスマーク
の版下及び「NAKAYA」の標章の版下を作成したと認められ(甲1
36の2137の2乙33の233の4これが滅失したことに,,,),
,,,「」ついては主張立証がなくまた被告会社が作成したNAKAYA
の標章の版下中屋の標章の版下の廃棄は上記侵害の予防に必要で,「」,
あるから版下の廃棄を求める原告の請求は主文第1項(3)の限度で理,,
由がある。
前記のとおり,被告会社は,不正競争及び不法行為により,原告に金
342万6371円の損害を生じさせたものであり,また,被告Aは,
被告会社と連帯して損害賠償責任を負うから,原告の損害賠償請求は,
主文第1項(4)の限度で理由があり,原告のその余の請求は,理由がな
い」。
2結論
以上によれば,原告の本訴請求は主文第1項(1)ないし(4)の限度で認容すべ
きであるから,これと異なる原判決を変更することとし,主文のとおり判決す
る。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官大鷹一郎
裁判官嶋末和秀

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