弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士海野普吉の上告理由及び同伊沢庚子郎の上告理由第一、二点に
ついて
 上告人が昭和二三年九月中食糧確保臨時措置法(以下かりに食確法という)第五
条の規定によりa村の区域内に住所を有する生産者別の昭和二四年産麦類農業計画
を定め被上告人に係る農業計画として、作付反別六反二畝反収三俵収獲高一八俵生
産者保有量〇、八一石種子〇、三一石供出割当量一五俵と定めたこと、その直後同
月二五日か二六日にa村役場の掲示板に右農業計画を記載した書面を掲示して公表
したこと、右農業計画にたいして被上告人が異議申立をしなかつたこと及び上告人
は食確法第七条に従つて被上告人に対して右農業計画を指示すべきであつたに拘ら
ず昭和二四年八月八日の甲第一号証の一、二の書面の交付までの間に前記農業計画
に定めた作付反別、反収収獲量、生産者保有量、種子、供出割当量を被上告人に通
知しなかつたことは原判決の確定判示しているところである、上告人は甲第一号証
の一、二の交付による通知をもつて食確法第七条の指示と解すべきものであると主
張するのであるが食確法にいわゆる農業計画は主要食糧農産物の生産及び供出を確
保するため生産数量及び供出数量の割当等を定めるものであるからその性質上その
農業計画の目的とする特定年度の特定主要食糧の生産のための作業の開始前に定め
かつ生産者に指示することを要するものといわなければならない。そして食確法第
七条第二項には指示を受けた者はその指示に係る農業計画において定められた生産
数量の確保に努めなければならない旨を規定し同第三項には指示があつたときはそ
の指示に係る農業計画において定められた主要食糧農産物の供出数量(第八条第一
項の規定による変更があつた場合においてはその変更後における供出数量)をもつ
てその指示を受けた者が食糧管理法第三条第一項の規定により政府に売り渡すべき
数量とする旨を規定しているのであるから市町村長の生産者に対する農業計画の指
示は生産者に生産確保の義務を課しまた具体的な供出義務を生ずる重要な手続であ
つて、もしこの手続が履践されない以上生産者の供出義務は生じないものといわな
ければならない、本件において指示のなかつたことは前段説明の如く原判決の確定
しているところであるから被上告人は供出義務はないのである従つて昭和二四年八
月八日の甲第一号証の一、二の書面によつて被上告人に対して小麦一四俵一〇貫九
五〇匁を同月二〇日限り政府に売り渡すべき旨命じてもそれは違法であるといわな
けれはならない、また右書面による通知は昭和二四年度の麦類の収獲期を過ぎた後
になされたものであるから右通知をもつて食確法第七条の指示と解することはでき
ない、然らは原判決には何等所論のような違法なく論旨はいずれも理由がない。
 上告代理人伊沢庚子郎の上告理由第三点について
 論旨は本件行政処分の取消は公共の福祉に重大な影響を及ぼすものであるから行
政事件訴訟特例法第一一条により本件請求を棄却すべきであるというのであるが、
本件行政処分を取消すことが公共の福祉に適合しないと認めることはできないから
論旨は採用できない。
 よつて民訴四〇一条九五条八九条により主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見である。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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