弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人澤田儀一、同内山弘道の上告理由第一点について
 原判決は、上告人の売買の主張につき、次のように判示してこれを排斥した。す
なわち、第一審における証人Dの証言及び上告人本人尋問の結果中には、昭和二五
年一〇月ごろ訴外Eから聞かされたこととして、そのころEが上告人を代理して被
上告人と交渉した結果、同人から上告人主張の土地一三坪を代金坪当り五〇〇〇円
で買い受ける話がまとまり、とりあえず一〇坪分の代金として五万円を支払つた旨
の供述部分があるが、右供述はいずれも伝聞であるのみならず、被上告人が五万円
の支払を受けるのと引換えにEに交付したものであることが認められる甲第八、第
九号証には、被上告人が右金員を預かる旨が記載されているだけで売買の趣旨は記
載されていないこととも矛盾することに照らして採用することができず、他に売買
の合意が成立したことを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、右甲第八、第九号
証と被上告人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被上告人はEに対し土地
を貸すことを承諾しただけであり、右五万円は被上告人において敷金及び当座の賃
料として受け取つたものであると認めることができる、というのである。
 所論は、要するに、原判決の右認定に経験則違背、理由不備、審理不尽の違法が
あるというのである。そこで検討するに、本件においては、上告人主張の売買契約
を直接証明するものとしての売買契約書は存在せず、上告人が主として依拠する書
証は、前記甲第八、第九号証と第一審が上告人主張の売買の成立を認定するにつき
証拠として掲げている甲第一〇号証だけである。ところで、右甲第八号証は、被上
告人からEにあてた昭和二五年一二月三〇日付の金一万円の預り証であり、同第九
号証は同じく同月一九日付の金四万円の預り証であるが、右各預り金がいかなる趣
旨の金員であるかを窺わせる記載は全くなく、しかもこの点に直接触れる証拠とし
ては、前記のように、右が売買代金の一部として支払われたものであるとする第一
審における証人Dの証言及び上告人本人尋問の結果と、これは土地の賃貸につき支
払われた敷金と当分の間の賃料であるとする第一審における被上告人本人尋問の結
果との、相互に矛盾対立する供述が存するのみである。このような状況の下におい
て、右の対立する各供述のうちいずれを採用すべきかについては、各供述内容自体
を吟味し、かつ証拠によつて認められる他の事実との関係を考慮してこれを決する
ほかないところ、原審は、前記のようにD証人と上告人の各供述については、それ
が伝聞でありかつ甲第八、第九号証に上記各金員を預かる旨記載されていることと
矛盾するとしてこれを排斥し、逆に被上告人の供述を措信すべきものとして前記五
万円は土地賃貸借の敷金及び当分の間の賃料として支払われたものと認定している
のである。
 しかしながら、甲第八、第九号証に金員を預かる旨記載されていることは、かな
らずしもD証人と上告人の上記各供述と矛盾するとはいえないのみならず、第一審
判決が上告人主張の売買の成立を認める証拠として掲げている前記甲第一〇号証の
封筒には、その表に「昭和二十五年十二月F様ノ土地領収書」という記載があり、
第一審における上告人本人尋問の結果及び記録から窺われる弁論の全趣旨によると、
右はEの記載にかかるものであつて、右封筒はEが甲第八、第九号証をこれに収納
していたことが推認されるところ、右記載文言は直ちにもつて土地売買代金領収書
の意味をあらわしたものとすることはできないとはいえ、どちらかといえばそのよ
うな趣旨に理解するのが素直であると考えられないでもないこと、また、第一審に
おける証人Dの証言及び上告人本人尋問の結果によれば、上告人はそれまで上告人
が所有していた土地を売却して地上建物を本件土地上に移築したというのであり、
そうであるとすれば、本件土地を購入するためでなく単に賃借するために自己の所
有地を売却するというようなことは、特段の事情のない限り考えられないことであ
るから、このこともまた本件土地に関する取引が売買であることを示唆するものと
考えられるなど、前記各供述の信憑力をむげに排斥しえない点が存するのみならず、
逆に被上告人の供述をみると、被上告人は、上告人代理人Eから本件土地の賃貸の
申込みを受け、賃貸すべき土地の範囲、坪数を限定することなく、また賃料額及び
賃貸期間につき具体的な取決めをすることもなく、漫然と一、二年ぐらいの期間の
賃貸と考えてこれを承諾し、Eが持参した最初の四万円は敷金と思い、また次の一
万円は右期間の賃料の前払いと思つて受け取つたというのであつて、右供述内容自
体通常の不動産賃貸借において賃貸人のとる措置、態度としては極めて異常といわ
ざるをえないことに加えて、被上告人自身その後上告人に対して一回も賃料額の決
定及びその支払を請求したことがない旨自陳し、また、前掲証人Dの証言及び上告
人本人尋問の結果によれば被上告人は上告人に対し土地の明渡を請求したこともな
いことが窺われることなどに照らせば、被上告人の前記供述の信憑性には多分に疑
問の余地があるといわざるをえないのである。のみならず、さらに重要な点は、前
記授受された五万円の金額と本件土地の昭和二五年当時の時価との関係であつて、
右時価に照らして五万円の金額が上告人のいうように一〇坪分の土地の売買代金額
とみられるようなものか、それともこれよりはるかに低額で、被上告人のいうよう
に当時の土地賃貸借の実情の下において一般に授受される賃貸借の敷金と一、二年
分の賃料の合計額とみるのが相当と思われる金額か、そのいずれであるかが右五万
円の授受の趣旨を判断するについて決定的ともいうべき重要性をもつ要素であると
考えられるのに、原判決はなんらこの点に触れるところがなく、また、これに考慮
を払つた形跡も窺われないのである。
 以上の諸点に照らして考えると、原判決には、経験則ないし採証法則の適用を誤
つたか又は審理不尽の違法があるものといわざるをえず、その違法が結論に影響を
及ぼすことが明らかであるから、論旨はこの点で理由があり、原判決は、その余の
点につき判断するまでもなく、破棄を免れない。そして、本件はなお審理を尽くさ
せるため原審に差し戻す必要がある。
 よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決す
る。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    戸   田       弘
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    本   山       亨
            裁判官    中   村   治   朗

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