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判決 平成14年3月20日 神戸地方裁判所 平成10年(ワ)第1888号 工
事代金支払請求事件
主        文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,原告に対し,金1億1065万3968円及びこれに対する平成1
0年3月31日から支払済まで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,小林興業株式会社(以下「小林興業」という。)から,小
林興業の本社社屋兼作業場(以下「本件建物」という。)の建築を請け負った(以
下「本件工事」という。)ところ,本件工事代金の支払いについて,原告が,被告
は原告に対し,被告が小林興業への融資を実行し,これにより原告に小林興業から
本件工事代金の支払を受けさせることを確約したが,これを怠ったという債務不履
行により原告が被った,本件工事代金相当額の損害賠償,ないし,被告が,原告に
対し,上記確約をして,原告から本件建物の表示登記関係書類の引渡を受け,原告
の小林工業からの本件工事代金の受領を不可能とし,その保全手段も喪失させたと
いう不法行為により,原告が被った本件工事代金相当額の損害賠償並びに遅延損害
金の支払いを求める事案である。
1 争いのない事実等
 (1) 小林興業は,運送を営む株式会社であったが,平成7年1月17日の兵庫
県南部地震(以下「大震災」という。)で社屋が倒壊し,その建築を目論んでい
た。小林興業は,被告兵庫支店を主要な取引金融機関としていたが,大震災の影響
もあり,その債務額は嵩んでおり,新社屋建築請負代金の捻出が,その課題であっ
た。
  (2) 小林興業は,平成9年6月23日,神戸国際港都建設事業浜山地区土地区
画整理事業のため,神戸市に対し,別紙物件目録(6)及び同(7)記載の各土地を合計
金1億1546万6400円で売却するとともに,同土地上の別紙物件目録(8)記載
の建物(別紙物件目録(6)ないし(8)記載の不動産を合わせて,以下「a町物件」と
いう。)を建物補償金1億2800万円で移転する旨の契約(以下「a町物件売買
契約」という。)を締結し,同日,a町物件売買契約に伴う代替地として,神戸市
から,別紙物件目録(9)記載の土地(以下「b土地」という)を代金1億4991万
9200円で購入し(その他に,登録免許税金246万3200円及び印紙代金8
万円は小林興業の負担であり,実質的な購入価格は合計金1億5246万2400
円であった。),平成10年3月20日,訴外株式会社サカイ引越センターに対
し,b土地を代金1億8275万5980円で売却し,同日,被告は,小林興業か
ら貸付弁済金1億5000万円の弁済を受けた。
  (3) 原告と小林興業は,平成9年9月下旬,代金を1億1065万3968円
として,本件請負契約を締結し,同年10月下旬に本件工事に着工し,平成10年
3月下旬に本件建物を完成させた。
  (4) 本件建物は,別紙物件目録(2)及び(3)の各土地上に建築され,同(3)及
び(4)の各土地が小林興業の所有であり,同(2)及び(5)の各土地は小林興業の代表取
締役Aの所有であるところ,被告はかねてから,同(2)ないし(5)の各土地に極度額
2億4000万円の共同担保の根抵当権を設定していた。
  (5) 平成10年3月26日,本件建物につき,小林興業を所有者とする表示登
記がされた。
  (6) 平成10年3月31日,本件建物につき,小林興業を所有者とする所有権
保存登記,小林興業を債務者,被告を債権者とする極度額2億4000万円の(4)記
載の各土地を共同担保物件とする根抵当権が設定された。
(7) 小林興業は,平成10年6月15日に1回目の不渡り,同月19日に2回
目の不渡りを出し,平成11年12月10日破産決定(甲24の1)を受けた。
 2 争点
 被告が,原告に対し,小林興業への融資を実行し,これにより原告に小林興
業から本件建物工事代金の支払を受けさせることを確約した事実の有無
3 当事者双方の主張
 (原告)
  (1) 債務不履行責任
  ア 本件建物は,小林興業の資金繰り等の事情から,主として被告の融資に
よって建設されることとなっており,かねてから,被告は,小林興業に上記融資を
することを約束し,その旨を原告も了解した上で,本件建物の工事に着工したもの
であり,工費は全額原告が支弁して竣工に至った。
   イ その後,小林興業は,近時の不況により資金難となり,工事代金につい
ては,被告の融資金による以外には,捻出することが実質上困難な状況となった。
   ウ 原告は,本件建物に不動産工事の先取特権登記を経由して工事費用を保
全しようと考えていた。
  エ被告兵庫支店支店長Bは,平成10年3月30日午後2時半ころ,小林
興業本社構内の工事現場において,当時の小林興業代表取締役A同席のもと,原告
担当者Cに対し,本件建物の表示登記関係書類を被告に引き渡せば,すぐに訴外小
林興業への融資を実行し,これにより原告に小林興業から本件建物工事代金の支払
を受けさせると確約した。
   オ 原告は,これを信頼し,被告に,表示登記関係書類を渡した。
   カ ところが,被告は,本件建物につき,平成10年3月31日に小林興業
名義に保存登記するとともに,同日,本件建物に対し,被告の限度額2億4000
万円の根抵当権を設定するのみで,小林興業に対し,融資金の支払いを全くしな
い。
  キ 小林興業は,被告による融資がなければ,原告に工事代金を支払えない
から,原告は,被告の債務不履行により,工事代金相当額の損害を被った。
  (2) 不法行為責任
    被告は,履行する意思もないのに,(1)エ記載の確約をして,表示登記関係
書類の引渡しを受け,引き続き本件建物の保存登記及び1番抵当権の設定登記を経
由し,不法に,原告の本件工事代金の受領を不能にし,かつ,当該支払いの保全手
段も喪失させる不法行為により,原告に,工事代金相当額の損害を被らせた。
(3) まとめ
    よって,原告は,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,工事
代金相当額の損害金1億1065万3968円及びこれに対する平成10年3月3
1日から支払済まで年6分の割合による金員の支払いを求める。
 (被告)
  (1) 被告と小林興業との間で,本件建物が被告の融資によって建てられる旨の
約束は存在しない。
   ア被告は,本件建物の建築費用につき,小林興業から,以下のように小林
興業には多額の金員が入ることから,小林興業側で十分にまかなえるので,被告の
世話にはならない旨の説明を受けた(乙3の3,乙6,10の1)。
    (ア)a町物件売買契約で得た合計2億4346万6400円とb土地の
購入代金(諸費用を含めた金額1億5246万2400円)との差額約9100万
円(2億4346万6400円-1億5246万2400円。a町物件売却差
額)。
 (イ) b土地の売却代金(売却予定価格2億2400万円)から被告に対
する担保抹消に伴う貸付弁済金1億5000万円の差額約7400万円(2億24
00万円-1億5000万円。b土地利益)。
   イ その後,被告は,平成9年9月12日,小林興業に対し,3700万円
の手形貸付を行ったが,うち1500万円が本件建物建築着手金として使用された
(乙3の1乃至4)。
  ウ 被告が平成9年9月当時小林興業から受けた本件建物の建築費用につい
ての説明は,以下のとおりであった(乙3の3)。
(ア) 建築費用は1億0489万円であり,その支払い方法として,平成
9年6月に手付金として1500万円,同年9月に着手金として1500万円,完
成時に残りの7489万円を支払う。
(イ) 小林興業は上記手形貸付金3700万円のうち,1500万円を平
成9年の支払に充て,完成時の約7500万円の支払いについては,b土地利益を
充てる。
   エ 以上のように,小林興業は,被告に対し,本件物件の建築請負契約締結
(平成9年9月下旬)前には,本件物件完成時の支払金の調達方法として,約91
00万円のa町物件売却差額と約7400万円のb土地利益とで,途中からはb土
地利益を充てることで十分まかなえる旨説明しており,被告が小林興業から本件物
件完成時の支払金の融資を依頼された事実はなく,被告が小林興業に対し,本件物
件の建築資金を融資する旨約することはありえない。
 (2) 被告は,原告に対し,被告が小林興業に本件物件の工事代金相当額を融資
し,同融資金が確実に原告の工事代金として受領させることを確約していない。
   ア 上記のとおり,小林興業は,被告に対し,本件建物の建築請負契約締結
(平成9年下旬)前においては,本件建物完成時の支払金(約7500万円)の調
達方法として,b土地利益(約7400万円)を充てることで十分まかなえると説
明していたが,その後,折からの不動産市況悪化でb土地を適当な値段で買い受け
てくれる先を探すのが困難だとして,被告に対し,本件建物の建築資金の借入れを
再三打診した。
 しかしながら,被告は,当時の監督官庁通達で一債務者に対する融資限
度額は8億円と決まっており,小林興業には既に融資限度額近くまで融資していた
ので,小林興業に対し,①本件建物の建築資金については小林興業の当初の計画通
りb土地利益でまかなってほしい,②既に融資限度額まで融資しているので,これ
以上新たな融資はできない旨回答した。
これに対し,Aは,被告に対し,「本件物件が完成したら,第三者に担保
提供してもいいのか」という旨の脅しめいた言葉を言ってきたので,被告は,新た
に融資はできないが,小林興業が本件建物を被告に追加担保として提供することを
条件に,被告が小林興業の5000万円の定期預金に設定していた担保を解放する
(定期預金を解約し,当座預金に入金する扱いをすること)ことで本件物件の建築
資金に充てることを検討した。
   イ 被告は,平成9年12月16日,Aに対し,小林興業に対しては既に融
資限度額8億円に近い融資を行っており,本件建物の建築資金のため新たな融資を
行うことはできないが,小林興業が本件物件を被告に追加担保として提供すること
を条件に小林興業の5000万円の定期預金に設定していた担保を解放することを
提案した。これに対し,Aは,5000万円では不満である旨述べたが,被告は,
これが精一杯の対応である旨回答した。
   ウ その後,小林興業は,何度も本件建物の建築資金を融資するよう被告に
依頼したが,被告は,これを拒否し続けた。
   エ Aは,平成10年3月10日,被告兵庫支店に来店し,b土地の売却先
が決まったが当初予定していたような価格で売却することができないので,被告に
対する当初の担保抹消に伴う貸付弁済金1億5000万円を減額するよう依頼した
(乙6)。これに対し,被告は,担保抹消に伴う貸付弁済金1億5000万円の減
額は検討する旨回答し(なお,上記依頼をふまえ,担保抹消に伴う貸付弁済金は1
億4033万2769円に減額となった),小林興業が,本件建物を被告に追加担
保に提供するための事前交渉を行った(乙6)。
   オ そして,被告・小林興業間で以下のとおりの合意が成立した。
(ア) 小林興業側で本件建物の表示登記を行うこと。
(イ) 被告は,小林興業に対し,本件建物の保存登記及び追加担保設定登
記(根抵当権設定登記)に必要な書類と引き換えに5000万円の定期預金担保を
解放すること。
(ウ) 上記②のために,小林興業は,被告が依頼しているD司法書士に本
件建物建築工事が完了し次第,保存登記及び根抵当権設定登記に必要な書類の写し
を送付すること。
   カ 小林興業は,平成10年3月20日,株式会社サカイ引越センターに対
し,b土地を代金1億8275万5980円で売却した。被告は,取引の現場にお
いて,小林興業から1億5000万円(担保抹消に伴う貸付弁済金1億4033万
2769円及び証書貸付代返済遅延分966万7231円)の弁済を受けた。
   キ Aは,平成10年3月30日午後2時20分頃,被告兵庫支店に来店
し,B及び被告兵庫支店次長Eに対し,「本件建物の表示登記を完了したが,本件
建物の建築費用は,附帯設備も含め約1億5000万円となった。被告に追加担保
として提供する本件建物の建築費用1億5000万円に対し,担保預金解放500
0万円では不満である。5000万円の担保預金の解放のみでは,被告に追加担保
として提供せず,本件建物の建築業者に担保にいれ,資金の捻出をする」旨申し入
れた。
Bは,上記のとおり,既に被告と小林興業との間では本件建物の保存登
記及び追加担保設定登記(根抵当権設定登記)に必要な書類と引き替えに5000
万円の定期預金担保を解放することで合意ができていた(上記オ)ので,Aの上記
合意に反する申し出には応ずることはできないと考えたが,被告が本件建物を建築
業者又は第三者に第1順位で担保に提供すれば,将来的に法定地上権の発生が懸念
されたので,5000万円の担保預金の解放の外に新たな選択肢を検討した。
 Bは,Aに対し,「小林興業に対して新たに融資を行うことはできない
が,5000万円の定期預金担保を解放することの外に,残余の定期預金担保24
36万3839円を追加解放することを被告本部と協議するので,当初の合意のと
おり本件建物の保存登記及び根抵当権設定登記を行うため被告が依頼しているD司
法書士宛表示登記完了資料をFAXで送信してほしい。」と告げ,Aの了解を得た。
B及びEは,平成10年3月30日午後4時頃被告兵庫支店を出発し,
午後4時30分頃から被告本店で既に被告本店から内諾を得ていた5000万円の
担保預金の解放の確認と,新たな2400万円の担保預金の解放の相談を行った。
なお,B及びEは,被告本店融資部と担当役員のF常務と打ち合わせをしたが,G
専務不在のため,新たな2400万円の担保預金の解放については翌日再協議とな
った。B及びEは午後5時30分頃,被告本店を出て午後6時頃,被告兵庫支店に
帰店した。
ク B及びEは,平成10年3月31日午前9時前に被告本店融資部に行
き,午前11時30分から午前12時20分頃まで5000万円の担保預金の解放
の外に,残余の定期預金担保の約2430万円を追加解放することの協議を行い,
その内容で決まった(乙50)。
 Aは,平成10年3月31日の午後2時頃,本件建物の保存登記及び根
抵当権設定登記に必要な書類を持って被告兵庫支店に来店した。被告は,小林興業
に対し,担保預金合計7436万3839円を解放し,同日,5000万円を小林
興業の当座預金口座に入金し,残りを同年4月2日に同口座に入金した(乙14乃
至48)。
 そして,D司法書士は,平成10年3月31日,本件建物の保存登記及
び根抵当権設定登記を行った(甲1)。
   ケ 以上のように,平成9年9月下旬から平成10年3月31日までの間,
BはCに会ったこともなく,被告は,原告に対し,被告が小林興業に本件建物の工
事代金相当額を融資し,同融資金が確実に原告の工事代金として収受させることを
約束したことはない。
 (3) 上記のとおり,Bは,平成10年3月30日午後2時半頃,本件建物を訪れ
ておらず,被告が原告に対し,被告が小林興業に本件建物の工事代金相当額を融資
し,同融資金が確実に原告の工事代金として収受させることを確約したような事実
も,甘言を弄して原告から本件建物の表示登記関係書類の引き渡しを受け,原告の
小林興業からの本件工事代金の受領を不能にし,その保全手段を喪失させたという
事実も存しない。
第3 争点に対する判断
 1 認定事実
 前記争いのない事実及び証拠(証人A,同C,同B,同E及び後掲各証拠)
並びに弁論の全趣旨によると,次の事実を認めることができる。
 (1) 小林興業は,昭和36年に設立した運送を業とする株式会社であって,被
告兵庫支店を主要な取引金融機関としていた。小林興業は,平成7年1月17日
に,大震災によって,社屋が損壊し,数か月間事業を営めなかったことなどのた
め,経営が困難になった。被告の原告に対する貸付残高は,平成9年6月20日頃
には7億8600万円余であって,それは当時の監督官庁通達による一債務者に対
する融資限度額である8億円に近い状況であったから,被告は,一貫して,融資額
を漸減するという方針であった。しかし,他方,小林興業は,倒壊した社屋の新築
も目論んでおり,その代金のうち,少なくとも,着手金については,被告から融資
を受けたいという考えを持っており,被告にそれを打診しながら,平成8年頃か
ら,原告との間で,その建築請負契約について相談していた。
 なお,原告の実質的な経営者であるCは,その弟にさせている株式会社大
正を使って,小林興業に融資をしていたが,大震災の後には,その貸金総額は1億
円近くとなっており,その利息は日歩15銭ないし20銭であった。
(甲9,26,乙1の1,乙5)
  (2) 小林興業は,平成9年6月23日,神戸市との間で,神戸国際港都建設事
業浜山地区土地区画整理事業のため,神戸市に対し,別紙物件目録(6)及び同(7)記
載の各土地を合計金1億1546万6400円で売却するとともに,同土地上の別
紙物件目録(8)記載の建物(別紙物件目録(6)ないし(8)記載の不動産を合わせて,以
下「a町物件」という。)を建物補償金1億2800万円で移転する旨の契約(以
下「a町物件売買契約」という。)を締結し,同日,a町物件売買契約に伴う代替
地として,神戸市から,別紙物件目録(9)記載の土地(以下「b土地」という)を代
金1億4991万9200円で購入し(その他に,登録免許税金246万3200
円及び印紙代金8万円は小林興業の負担であり,実質的な購入価格は合計金1億5
246万2400円であった。),同年7月22日までに神戸市にb土地代金を支
払い,a物件代金の支払を受けた。
 上記各契約に伴い,被告は,a町物件上の根抵当権を抹消し,b土地に根
抵当権を設定し,小林興業の上記各契約に協力した。
 小林興業は,これによって得た金員1億円足らずに一定の入金を加えたも
のについて,平成9年7月22日から同月31日までの間に,被告への弁済に約3
500万円を費やし,約6200万円を現金で引き出した(割引手形での入金後即
引き出した現金1450万円を除く。)。
(甲17ないし19,乙1の1ないし5,乙60の1ないし3,61)
  (3) 被告は,平成9年9月12日,小林興業に対し,3700万円の手形貸付
を行った。その際,被告は,小林興業から,今回の貸付代金のうち一部は,小林工
業が新社屋建設のため平成9年6月23日神戸市から購入した別紙物件目録記載(4)
の土地1274万0640円の購入代金に,1500万円は本件請負代金の中間金
の支払に充てること,本件請負代金の残金はb土地の売却代金を充てることなどの
説明を受けたので,その説明を前提とし,稟議した上,その貸付を行った。なお,
これによって,小林興業の被告に対する債務残高は7億9800万円余となった。
(甲20,乙3の1ないし4,乙4。)
(なお,証人Aは,この被告にその旨の説明をしたことを否定する供述をす
る(証人A平成12年10月4日19頁ないし23頁)。
 しかし,被告内の稟議書(乙3の3)にその旨の説明に副った記載がある
ところ,被告としては,当時,小林興業に対する融資を漸減しようと目論んでいた
のに,小林興業から説明や申し入れもないのに敢えて虚偽の説明文書を作成してま
で融資をするメリットはないから,その稟議書の記載の信用性は高いこと,証人A
の証言全体は,時期等記憶が極めて曖昧と窺えることからすると,上記証人Aの供
述は採用することができない。)
  (4) 原告と小林興業は,平成9年9月下旬,代金1億1065万3968円で
本件請負契約を締結し,同年10月下旬に本件工事に着工し,平成10年3月下旬
に本件建物を完成させた。
  (5) 本件建物は,別紙物件目録(2)及び(3)の各土地上に建築され,同(3)及(4)
の各土地が小林興業の所有であり,同(2)及び(5)の各土地は小林興業の代表取締役
Aの所有であるところ,被告はかねてから,同目録(2)ないし(5)の各土地に極度額
2億4000万円の共同担保の根抵当権を設定していた。
(甲2ないし5)
(6) 小林興業は,遅くとも平成9年12月頃からは,被告に対し,本件工事代
金相当額を融資するように,そうしないと,本件建物を追加担保として提供せず,
他の金融機関に入担し,資金を得る旨申し入れていた。
(7) 小林興業は,平成10年3月20日,b土地を,株式会社サカイ引越セン
ターに代金1億8275万5980円で売却し,同日,被告に,1億5000万円
を弁済した。平成10年3月10日,被告兵庫支店は,b土地を担保抹消すること
と引換に弁済を受ける金額を減額すること,その理由としてはb土地の売却代金が
当初予定額より低額となったこと,本件工事代金を小林興業において支払う必要が
あること,本件工事代金の残金1億2000万円については被告担保預金解放50
00万円,b土地売却残代金3600万円余,手形支払3300万円余(うち担保
預金解放分2000万円)を充てること,更に,上記弁済の際,被告が本件建物に
ついて追加担保設定時に5000万円の担保を解放し,加えて,道路公団債務保証
に充てられていた2000万円について保証を要しなくなった2000万円につい
て担保を解放することとなっていることなどを,被告本社に報告した。被告兵庫支
店は,同月18日,小林興業の上記約2000万円の担保預金を解放する旨の担保
変更申込書を受け付け,同日本店に稟議に回したところ,翌日,それは本店によっ
て承認され,実行された。
(乙6,乙11の1,2,乙12)
(なお,原告は,被告が,かねてから,原告及び小林興業に対し,小林興業
に本件工事代金相当額を新規融資の形で実行する旨約しており,b土地の売却は,
そのために上記8億円の与信枠から融資総額を減額するためにされたものである旨
主張する。
 しかし,それを裏付ける確たる書証はなく,証人Cの供述も,小林興業と
被告との間で,本件請負契約締結当時頃までに融資を前提とした話しが出ていたこ
とは窺えるものではあるが,それが具体的に総額,本件請負代金の全額か一部か,
その融資時期ないしその他の条件,方法を特定した上での約束がされたとするもの
ではなく,到底,本件請負代金全額を新規融資の形で実行するとの約束がされたと
は認めがたい内容であって,かえって,原告側としては,その融資の実行を危ぶん
でいたと窺えるものであること(平成12年11月20日8頁ないし26頁,42
頁ないし47頁,55頁ないし57頁),証人Aの供述も,本件請負契約締結頃以
降,小林興業が被告にその申し入れをし,被告が検討していたことまでは窺えるも
のではあるが,その交渉には紆余曲折があったことを認めており,全体的にみる
と,最終的に,被告担当者が,原告に,本件請負代金の全額を新規融資の形で実行
する旨の確約をしたと解しがたいものであること(平成12年10月4日付証人調
書13頁,14頁,同年11月20日7ないし11頁,61頁から66頁),証人
B,証人Eはその約束を否定する供述をしており,それらの供述に副う乙1の1,
2,乙3の3,乙6があることからすると,証人Cと証人Aによって,上記原告の
主張を認めることは困難である。
 なお,子細に見ると,前記認定によっても,被告と小林興業との間では,
被告が小林興業から本件建物を追加担保として提供を受けることで,小林興業の担
保預金を道路公団債務保証が不要となった部分も加えると総額7000万円解放す
ること,それらを小林興業が,本件請負代金に充てることが想定されていたことか
らすると,被告側が,原告や小林興業の期待や要請に副うべく一定の配慮をしてい
ると認められ,上記証人Aや証人Cの供述と大きく矛盾するとは言い難い。)
  (8) 平成10年3月26日,原告が依頼したH司法書士によって,本件建物に
つき,小林興業を所有者とする表示登記がされた。
(甲1)
(9) 被告は,本件建物に表示登記がされたので,追加担保の設定を目論んだ
が,平成10年3月30日にも,小林興業(A)は,本件請負代金の新規融資をし
て欲しい,それが実行されなければ,他の金融機関に担保設定するなどと申し入れ
た。
(その申し入れた場所,時間,Cも同席したか,詳細な方法やその際の被告
側の返答については争いがあり,それは,本件争点なので,別途詳述する。)
(10) 原告は,被告が依頼したD司法書士事務所に,平成10年3月30日午
後3時31分ないし32分頃に,本件建物の表示登記関係書類をファックス送信
し,D司法書士事務所は,同日午後4時8分頃に,被告に,その関係書類と共に,
小林興業宛の所有権保存,根抵当権追加,付随業務一切の報酬等の請求書を送付し
た。
(乙9の1,2)
(11) 被告兵庫支店は,平成10年3月30日小林興業の担保預金5000万
円分を解放する趣旨の担保変更申込書を受け付け,翌31日に本店に稟議に回し,
同日承認を得た。更に,被告兵庫支店は,同日小林興業の担保預金約2400万円
分を解放する趣旨の担保変更申込書を受け付け,同日本店に稟議に回し,翌4月1
日承認を得た。5000万円は同年3月31日に解放され,約2400万円は同年
4月2日に解放された。5000万円については,3月31日中に,一部(20万
円弱)は被告への利息債務の弁済に充てられた他,そのほとんどが交換手形の決
済,振替の他,総額4500万円を超える現金引き出しによって費消され,約24
00万円については,一部(300万円強)は被告への利息債務の弁済に充てられ
たが,他は,証書貸付の決済,交換,現金引き出し等に費消されていったものであ
って,小林興業においては,その資金繰りに利用した。
(乙7,乙10ないし12,14,15,乙16,乙17の1ないし4,乙
18,乙19の1ないし3,乙20,乙21,乙22の1ないし3,乙23,2
4,乙25ないし31の各1,2,乙32,33,乙34の1,2,乙35ないし
37,乙38ないし41の各1,2,乙42ないし46,乙47の1,2,乙4
8,乙49の1ないし4,乙50)
(なお,証人Aは,解放された預金については,従前の借入金と相殺された
かのような供述をするが(証人A平成12年10月4日32,33頁),前記各証
拠によると,前記認定の使途は明らかであって採用できない。)
(12) D司法書士は,同月31日,本件建物につき,小林興業を所有者とする
所有権保存登記,小林興業を債務者,被告を債権者とする極度額2億4000万円
の(4)記載の各土地を共同担保物件とする根抵当権設定の手続をした。
(甲1)
(13) 小林興業は,平成10年6月15日に1回目の不渡り,同月19日に2
回目の不渡りを出し,平成11年12月10日破産決定を受けた。なお,株式会社
大正は,平成10年6月18日に本件建物及び別紙物件目録(2)ないし(5)の各土地
に債務者を小林興業,A,極度額1億2000万円とする根抵当権を設定登記手続
をし,同日Cは,賃借権設定仮登記手続をした。
(甲1ないし5,甲24の1)
2 平成10年3月30日の被告兵庫支店支店長Bの原告(C)に対する原告主
張の確約の有無
(1) 原告は,Bが,同日午後2時30分頃,小林興業の事務所付近で,原告に
対し,小林興業に対し,本件請負代金相当額の新規融資をする旨確約した,そこ
で,原告は,それを信じて,持参していた本件建物の表示登記関係書類をBに手渡
した旨主張する。
 そして,甲10(Cの陳述書),証人C,証人Aの記載,供述は概ねそれ
に副うものであり,更に,これを裏付ける証拠として,原告の日記(甲25の1及
び2),証人Iの陳述書(甲14)及び証言並びにJ(甲12),K(甲15)及
びL(甲16)の陳述書が存する。
 しかし,これらは,次に述べるとおり採用することはできない。
(2)ア 前記のとおり,表示登記関係書類は平成10年3月30日午後3時31
分から32分の間に原告からD司法書士にFAXされ,同じ書類が同日午後4時8分か
ら9分の間にD司法書士から被告兵庫支店にFAXされた事実が認められる。これにつ
いて,仮に原告主張のように,Bが同日午後2時半頃,Cから直接表示登記関係書
類を受領していたならば,改めて,原告からD司法書士に表示登記関係書類をFAXす
る必要はなく,上記の原告主張は,客観的事実と整合しない。
イ 証人Aの平成10年3月30日のBとのやり取りの具体的内容について
の供述は曖昧で,信用性が乏しいばかりか,前記のとおり,小林興業は平成10年
3月31日及び同年4月2日に担保解放を受けた預金7400万円の大部分を自ら
の資金繰りに活用しているのに,証人Aはその預金につき被告の債権と相殺したか
のような曖昧な供述をしていることからすると,その頃のやり取りについての証人
Aの供述は全体的に信用性に乏しい。
ウ 原告にとって,本件建物の表示登記関係書類は,自らの債権の確保を図
るために最も重要な書類であり,かつ,その額も1億円を上回る高額なものであっ
たのに,証人Cの供述では,平成10年3月30日,この書類をBに渡した際,受
領証や被告が上記確約を証する書面を要求しておらず,その理由は,支店長だから
うそをつくはずがないと思った,Bを自分と同じ島の出身だから個人として信用し
たことによるとするもので,内容自体,不自然と言わざるを得ない。
エ 原告の主張を裏付ける陳述書(甲12,14ないし16)及び証人Iの
うち,証人Iの供述は,時期,Bの同一性の確認が確実かに疑義がある内容である
他,具体的には,Cが,融資と書類の交付は引換だという申し出に対し,Bと目さ
れる者が,「とにかく登記書をもうて帰らないことには融資はできない」と言った
のみとするものであるから,売買代金全額を新規融資する旨確約したことを立証す
るものとは解しがたく,その際の,CとBのやり取りについての証人Cの供述とも
食い違うものであって,原告らの主張を裏付けるに足りるものではなく,他は,陳
述書であって,反対尋問を経たものでないから,それのみで原告の主張を裏付ける
に足りるものではない。
オ 原告の主張を裏付ける原告の日記(甲25の1,2)も,これに反する
被告の主張を裏付けるBの部下であるE作成のメモ(抜粋)(乙8)があり,それ
を対比した場合,いずれの信用性が高いかを判断することは困難であって,甲25
の1,2のみで原告の主張を裏付けるに足りるものとは言い難い。
カ 証人B,証人Eは,原告の上記主張に反し,概ね,平成10年3月30
日,被告が,Aの要請を受けたため,同日,従前予定していた約5000万円の担
保預金解放に更に2400万円の担保預金解放を検討し,Aから表示登記関係書類
の交付を受けることとなり,担保預金解放を実行した旨供述するが,その供述は,
前記認定の担保預金解放の経過と一致するものであるし,前記認定の通り,解放さ
れた預金の大部分が小林興業に活用されていることからすると,実質的に見ても,
小林興業の代表者Aがその条件で表示登記関係書類を被告側に渡すと判断する合理
的な根拠となるに足りる事実であることからすると,この点の証人B,証人Eの供
述は,上記の概略については,信用することができる。更に,前記認定のとおり,
平成10年3月30日までの経過は,原告の主張する経過より被告の主張する経過
と近いものであるところ,証人B,証人Eの供述は,被告の主張する経過に副うも
のであるから,信用性が高い。
キ 株式会社エーユー神戸支店に対する調査嘱託の結果によると,小林興業
株式会社名義の携帯電話から,平成10年3月30日正午から午後6時までの間で
は,午後1時12分30秒,33分9秒,39分27秒にそれぞれ被告兵庫支店
に,同日午後1時19分17秒にC名義の携帯電話に電話がかけられているが,他
にはそれらの電話に電話がかけられたことはないと認められるところ,これらの電
話の時間は,甲10,証人C,証人Aの供述とほぼ一致するもの(①)で,かつ,
証人Bが供述するAからの午後3時20分から午後4時頃までの間Aから2度電話
を受けたとの供述を裏付けるものとはなっていない(②)。
 しかし,①については確かに,一定証人C,証人Aの供述の信用性を全
体的に一定程度高めるものではあるが,カまでに指摘する各点も総合すると,決定
的とまではいえない。更に,②については,AからB他の回線を用いた電話がされ
る可能性も否定できないから,証人Bの供述の信用性を完全に否定するものではな
い。
(3) そうすると,原告の主張する約束を認めるに足りる証拠はなく,かえっ
て,平成10年3月30日以降Aが被告への担保権設定登記手続に協力したのは,
被告らが主張する担保預金解放額の増額の申入によると窺えるから,その余の点に
ついて判断するまでもなく,被告に債務不履行や不法行為は認められない。
第4 結語
 したがって,原告の請求はいずれも理由がない。
   神戸地方裁判所第6民事部
 裁 判 官水野有子

(別紙)(略)

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