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平成12年(ネ)第3411号特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地方裁判
所平成10年(ワ)第17311号)
平成13年10月18日口頭弁論終結
判決
 控訴人       ミツク電子工業株式会社
 訴訟代理人弁護士  及 川 昭 二
   被控訴人      アルプス電気株式会社
訴訟代理人弁護士  飯 田 秀 郷
同 栗 宇 一 樹
同 早稲本 和 徳
同 久保田   伸
同 秋 野 卓 生
同 七 字 賢 彦
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人が当審において追加した新請求を棄却する。
3 当審における訴訟費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は,別紙物件目録(一)ないし(三)記載の各物件を製造し,販売
し,使用し,譲渡し,貸渡し,譲渡若しくは貸渡しのために展示してはならない。
(3) 被控訴人は,控訴人に対し,金1億円,並びに,内金5000万円に対す
る平成10年8月8日から,及び,内金5000万円に対する平成13年4月10
日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被控訴人は,別紙謝罪広告目録記載の新聞に,同目録記載の謝罪広告を同
目録記載の方法で掲載せよ。
(5) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
 主文と同旨
第2 事案の概要
  本件は,センサースイツチに係る特許権を有する控訴人が,センサースイ
ツチを製造販売している被控訴人に対し,その製品が同特許権を侵害するとして,
同製品の製造販売等の中止,並びに,不法行為に基づく損害の賠償及び謝罪広告の
掲載を求めている事案である。なお,控訴人は,当審において,原審において請求
していた5000万円に加え,5000万円の損害賠償請求を新たに追加し,合計
1億円とそれに対する各遅延損害金の支払いを請求している。
 当事者の主張は,次のとおり付加・訂正するほか,原判決の「事実及び理
由」の「第二 事案の概要」の一の1,2及び4記載のとおりであるから,これを
引用する。
 当裁判所も,「本件特許権」,「本件発明」,「本件明細書」,「被告物
件」の語を,原判決の用法に従って用いる。「本件明細書」の語は,明細書と願書
に添付された図面の両者を含むものとして用いることがある。
1 前提となる事実(争いがない。)
(1) 本件発明の特許請求の範囲の記載は,平成13年1月10日の審決(訂正
2000-39127。以下「本件審決」という。)により,次のとおりに訂正さ
れた(下線部が訂正部分である。これに伴い,原判決における本件発明の特許請求
の範囲の記載部分は次のとおりに訂正される。)。
 【請求項1】
「絶縁基台に接点ばね片を略平行して埋設し,両接点ばね片の接点を一定間
隔を隔てて相対したノーマルオープン型リーフスイッチにおいて,検出突部の前方
から上方に設定幅の案内面を形成するガイド兼カバー若しくはガイド片等のガイド
部材を,一方の接点ばね片に連係手段を介して連係設置し,該ガイド部材に対して
一定の方向性を持って接触してくる対象体を,上記案内面が該接点ばね片を反曲さ
せつつ首振り運動して滑り案内するように設け,他方の接点ばね片の一部に検出突
部を設けて,該検出突部の先端を上記案内面より外方に設定寸法突出せしめて設
け,上記ガイド部材の案内面に接触した対象体の定位置の変形部の有,無により,
検出突部が対象体の接触部に押されて接点ばね片を反曲させつつ後退して,該反曲
動作によって接点相互を接触(閉)せしめ,或は,検出突部が案内面から突立した
ままの原位置を保つ,即ち,接点も離隔(開)位置を保つようにして,対象体の変
形部の有,無を自動的に検出して作動するようにしたことを特徴とする,センサー
スイッチ」
【請求項2】(削除)
(2) 本件発明を構成要件に分説すれば次のとおりである(別紙図面(1)参
照)。
A 絶縁基台に接点ばね片を略平行して埋設し,両接点ばね片の接点を一定
間隔を隔てて相対したノーマルオープン型リーフスイッチにおいて,
B 検出突部の前方から上方に設定幅の案内面を形成するガイド兼カバー若
しくはガイド片等のガイド部材を,一方の接点ばね片に連係手段を介して連係設置
し,該ガイド部材に対して一定の方向性を持って接触してくる対象体を,上記案内
面が該接点ばね片を反曲させつつ首振り運動して滑り案内するように設け,
C 他方の接点ばね片の一部に検出突部を設けて,該検出突部の先端を上記
案内面より外方に設定寸法突出せしめて設け,
D 上記ガイド部材の案内面に接触した対象体の定位置の変形部の有,無に
より,検出突部が対象体の接触部に押されて接点ばね片を反曲させつつ後退して,
該反曲動作によって接点相互を接触(閉)せしめ,或は,検出突部が案内面から突
立したままの原位置を保つ,即ち,接点も離隔(開)位置を保つようにして,対象
体の変形部の有,無を自動的に検出して作動するようにしたことを特徴とする,セ
ンサースイッチ 
(3) 被控訴人は,被告物件を製造販売している(なお,被控訴人は,当審にお
いて,本件発明の特許請求の範囲が上記のとおり訂正されたことに伴い,被控訴人
が製造販売している物件の構造についての主張を,原審において争いがなかった別
紙物件目録の記載のとおりであるというものから,本判決の別紙被控訴人物件目録
の記載のとおりであるというものに変更した。しかし,双方の物件目録を比べれ
ば,被控訴人が上記変更によりしようとしているのは,物件目録における単なる表
現上の修正にすぎず,上記両目録相互の間に物件の構造及び作動態様については何
らの相違も見られないことが明らかである。原審において争いのなかった別紙物件
目録の記載をあえて訂正することに,格別の意義を見いだすことはできない。)。
2 争点
(1) 被告物件は,本件審決による訂正後の本件発明の技術的範囲に属するか。
ア 被告物件は,本件発明の構成要件Aの「接点ばね片を略平行して埋設
し」の構成を具備するか。
イ 被告物件は,本件発明の構成要件Bの「一方の接点ばね片」及び構成要
件Cの「他方の接点ばね片」の構成を具備するか。
ウ 被告物件は,本件発明の構成要件Bの「連係手段を介して連係設置し」
との構成を具備するか。
(2) 本件審決は,平成6年法律第116号による改正前の特許法126条2項
に明白に反しているか。すなわち,本件特許権については,同法123条1項7号
に基づき明白に無効とされるべき事由が存するか。
3 争点に関する控訴人の主張
(1) 本件発明の技術的範囲の解釈について
 原判決は,被告物件が,本件発明の訂正前の構成要件Aの「絶縁基台に接
点ばね片を上下に略平行して埋設し」,訂正前の構成要件Bの「下の接点ばね
片」,訂正前の構成要件Cの「上の接点ばね片」,及び,訂正前の構成要件Bの
「連結手段」の各構成を具備せず,本件発明の技術的範囲に属さないと判断した。
しかし,本件審決は,前記のとおり本件発明の特許請求の範囲の記載の訂正を認め
たのであるから,もはや,本件発明の技術的範囲について原判決のような解釈は採
り得ない。
ア 本件審決による訂正前の本件発明の構成要件Aの「接点ばね片を上下に
略平行して埋設し」について
  本件審決による訂正前の本件発明の構成要件Aは,「絶縁基台に接点ば
ね片を上下に略平行して埋設し」となっていたが,本件審決により「上下に」との
語を削除する訂正が認められた。
  本件発明の対象であるセンサースイッチは,各種電気機器の部品として
設置されて使用されるものであるから,2本の接点ばね片の位置関係は,その設置
状態により,本件明細書添付の図面の第1図に示される上下の位置のほかに,左
右,前後,その他の位置に自由自在に変更されるものである。すなわち,構成要件
Aの「上下に」との語が,2本の接点ばね片相互間の位置関係を表したものとする
と,同じセンサースイッチであっても,その設置位置,姿勢が変わるたびごとに,
この接点ばね片相互間の位置関係も,「上下」,「左右」,「前後」などと変わる
ことになり,これでは,接点ばね相互間の位置関係自体は特定できないことになっ
てしまうのである。したがって,構成要件Aの「上下に」との要件は,本件明細書
添付の図面の第1図に図示されている実施例を基に,両接点ばね片の位置関係を説
明しているだけのものと理解すべきものであり,センサースイッチ全体の構成に対
する両接点ばね片相互の位置関係を説明するものであるならば,この記載は不要で
あり,むしろ,誤解を招くものとして有害となる。本件審決が,「上下に」との語
を削除したのは,この趣旨においてのことなのである。
  以上によれば,被告物件の2本の接点ばね片が左右に略平行して設置さ
れていることを理由として,訂正前の構成要件Aである「上下に略平行して」との
構成を具備しないとした原判決の認定は,本件審決により訂正された構成要件Aの
「接点ばね片を略平行して埋設し」については,誤りであること,並びに,接点ば
ね片100A及び100Bが左右に略平行に設置されている被告物件が構成要件A
の「接点ばね片を略平行して埋設し」との構成を具備するものであることは,いず
れも明らかである。
イ 本件審決による訂正前の本件発明の構成要件Bの「下の接点ばね片」及
び同構成要件Cの「上の接点ばね片」は,本件審決により,それぞれ「一方の接点
ばね片」及び「他方の接点ばね片」と訂正された。この訂正は,センサースイッチ
がその設定位置,向きを自由に変えて使用されるものであるため,両接点ばね片を
「上下」で区別することにより,スイッチ全体の構成・作用効果の説明が不明りょ
うとなっていたところから,これを明りょうにすべく,行われたものである。
  以上によれば,被告物件の接点ばね片100A及び100Bが左右に平
行になっていることから,本件発明の訂正前の構成要件Bの「下の接点ばね片」及
び訂正前の構成要件Cの「上の接点ばね片」の構成を具備しないとする原判決の認
定は,本件審決により訂正された構成要件B(「一方の接点ばね片」)及び構成要
件C(「他方の接点ばね片」)については,誤りであること,並びに,被告物件の
接点ばね片100A及び100Bがそれぞれ構成要件Bの「一方の接点ばね片」及
び構成要件Cの「他方の接点ばね片」に該当するものであることは,いずれも明ら
かである。
ウ 本件審決による訂正前の本件発明の構成要件Bの「ガイド部材を,下の
接点ばね片に連結手段を介して連係設置し」との構成は,本件明細書の「ガイド部
材Dを,一方の接点ばね片Aに直接または間接的に連結するか,またはその後端分
を絶縁基台に枢着するなどによって適宜連係設置して,該ガイド部材Dに対して一
定の方向・・・をもって接触してくる対象体C・・・を,上記案内面2が接点ばね
片Aを反曲させつつ首振り運動して滑り案内するように設け」(甲第2号証4欄4
3行~5欄7行)との記載から明らかなように,ガイド部材Dを一方の接点ばね片
に直接又は間接的に連結するか,その後端分を絶縁基台に枢着する,などの構成で
あり,ガイド部材と接点ばね片とが関連作動するように連係させる機能を有する手
段のことである。本件審決は,本件明細書の前記記載からすれば,本件明細書の特
許請求の範囲の記載の訂正前の請求項1の「連結手段」は,訂正前の請求項2の
「連係手段」に対応するものであり,「連結手段」と「連係手段」は本来同一の手
段であり,共通の語句を用いて記載すべきであるのに,これを誤って異なる語句を
用いて記載したものであるとみる以外にないことから,請求項1の「連結手段」は
「連係手段」とすべきところを誤記したものであるとして,その訂正を認めた。
  したがって,被告物件の圧接突部106,肉厚側板面106’は,ガイ
ド部材100Dと,つないで一続きにするとの意味において連結していないとして
も,被告物件は,その接点ばね片100Aの先端部が,ガイド部材100Dの圧接
突部106にそれぞれ当接して連係しているものであるから,本件発明の構成要件
Bの「連係手段」の構成を具備するものである。
  被控訴人は,「連係手段を介して連係設置し」では,「連係」が重な
り,「連係手段を介して」の部分が無意味になると主張するが,「連係手段」は,
「互いにつながりを持った状態にするための手段」であり,「連係設置し」とは,
「ものとものが互いにつながりを持った状態に設置する」ことをいうのであるか
ら,国語的に検討しても,「連係手段を介して」の部分が無意味になることはな
い。
(2) 本件特許権に無効理由がないことについて
 本件特許権が無効であるとされる可能性は絶無である。したがって,控訴
人の本件訴えが権利の濫用に該当することはあり得ない。
ア 被控訴人は,本件審決が,本件発明の構成要件Aの「上下に」を削除
し,「下」を「一方」,「上」を「他方」に訂正したことは,特許請求の範囲の拡
張に当たる旨主張する。
  しかし,被控訴人の主張は,「上下に」,「下」,「上」等の文言が,
被控訴人が主張する「反曲動作の方向」を表すものであることを前提にして初めて
認められるものであるのに,このような前提が認められないことは明らかである。
そして,この削除ないし訂正が「不明りょうな記載の釈明」に該当すること,前述
のとおりである。
  なお,被控訴人は,無効審判請求においては,本件審決が「連結手段」
を誤記として「連係手段」に訂正した点を無効理由として主張していない。
イ 被控訴人は,本件発明と実願昭56-167117号の考案(以下「本
件先願考案」という。)とが同一である旨主張しているが,両者は,同一ではな
い。
4 争点に関する被控訴人の主張
(1) 本件発明の技術的範囲について
 本件発明の訂正前の特許請求の範囲を基準とすれば,被告物件がいずれも
その技術的範囲に属さないことは,原判決が正当に認定したとおりである。 本件
審決も,「各訂正により,極めてコンパクトで性能優秀なセンサースイッチの提供
という課題に変更を及ぼすものでもないから,これらの訂正は実質上特許請求の範
囲を拡張し又は変更するものではない。」(審決書3頁31行~33行)と認定し
ている。
 原判決により本件発明の技術的範囲に属さないと正当に認定された被告物
件が,本件審決により上記のように認定された訂正により,本件発明の技術的範囲
に属するものとなるなどということはあり得ない。
ア 本件発明を論理的に分析すると,①「一方の接点ばね片」の反曲動作に
よって同接点ばね片の軌跡が形成する面と「他方の接点ばね片」の反曲動作によっ
て同接点ばね片の軌跡が形成する面は同一平面上にあること,②他方の接点ばね片
は,一方の接点ばね片の反曲動作方向に設けられていること,③構成要件Bの「検
出突部の前方から上方に設定幅の案内面を形成する・・・ガイド部材を」との記載
から位置関係を設定すると,反曲動作方向は下方を指称することになるから,反曲
動作方向を下方として,一方の接点ばね片は上方に,他方の接点ばね片は下方にそ
れぞれの位置関係を有するように設けられていること等が判明する。
  本件発明の特許請求の範囲の記載は,本件審決による訂正により,極め
て不明りょうで難解なものになっている。このような場合,不明りょうな部分を,
本件発明を論理的に分析して明らかとなった上記事項で補って,その技術的範囲を
解釈すべきである。これによれば,本件発明の構成要件Aは,「絶縁基台に接点ば
ね片をこれら反曲動作方向に略平行して埋設し,両接点ばね片の接点を一定間隔を
隔てて相対したノーマルオープン型リーフスイッチにおいて」の意味となるものと
解釈すべきである。
  被告物件の接点ばね片100A及び100Bが絶縁基台に埋設されてい
る方向は,別紙物件目録各記載のとおり,対象体の接触により接点ばね片が反曲動
作する方向と垂直をなす方向(左右)である。したがって,被告物件は,本件発明
の構成要件Aの構成を具備しない。
イ 本件発明の構成要件Bの「連結手段」が「連係手段」に訂正されたとし
ても,本件審決による訂正により本件発明の特許請求の範囲が拡張ないし変更され
ることはない。すなわち,本件明細書の実施例及び図面には,下の接点ばね片をガ
イド部材に直接又は連結子を介して連結したもののみが記載され,連結以外の連携
方法についての記載はない。しかも,本件発明の特許請求の範囲の記載を「連係手
段を介して連係設置し」と訂正すると,「連係」が重複し,「連係手段を介して」
の部分が無意味になる。したがって,本件発明の訂正前の構成要件Bの「連結手
段」は文字どおり「連結手段」と解すべきであり,「連結手段」を「連係手段」に
訂正したとしても,連結されていないものは,包含されないと解すべきである。
  被告物件の接点ばね片100Aは,別紙物件目録各記載のとおり,その
先端部が別紙物件目録(一)記載のイ号物件,同目録(二)記載のロ号物件について
は,ガイド部材(ガイド兼カバー)100Dの圧接突部106,肉厚側板106’
に,同目録(三)記載のハ号物件については,圧接突部106に,それぞれ当接して
いる構成である。これらの構成は,いずれも,本件明細書の発明の詳細な説明の欄
に記載されている連係方法とは明らかに異なり,そこに連結はみられない。
  したがって,被告物件は,いずれも,本件発明の構成要件Bの「連係手
段を介して連係設置し」との構成を具備しない。
(2) 権利の濫用
 仮に,被告物件が本件発明の技術的範囲に属すると認定されるのであれ
ば,そのことは,取りも直さず,本件発明の技術的範囲が本件審決により拡張され
たことを意味する。この場合,本件特許権は,本件審決による違法な訂正により,
明らかな無効理由を有することになる。
ア 本件審決により,訂正前の特許請求の範囲の「絶縁基台に接点ばね片を
上下に略平行して埋設」との要件のうち,「上下に」との要件が削除され(構成要
件A),また,訂正前の特許請求の範囲の「下の接点ばね片」(構成要件B)が
「一方の接点ばね片」に,同じく「上の接点ばね片」(構成要件C)が「他方の接
点ばね片」に訂正された。これらの「上下に」,「下の接点ばね片」,「上の接点
ばね片」との訂正前の特許請求の範囲の記載の各要件は,出願時の本件明細書には
記載されていなかったのに,出願公告の後,控訴人が,異議申立人から,本件発明
と同一の本件先願考案があると主張されたことに対応して,補正により追加したも
のであり,控訴人は,この補正に基づき,特許異議答弁書において,本件発明は,
接点ばね片が上下方向に位置しているから,本件先願考案とは異なるとの主張をす
るに至ったのである。
 以上のとおり,控訴人は,本件発明について,絶縁基台に接点ばね片を
埋設する方向が上下であるものに意識的に限定したのであるから,「上下に」との
要件の削除を認めた本件審決による訂正は,このような出願経過に照らしても,本
件発明の特許請求の範囲を拡張するものであることが明らかである。
イ 本件審決は,特許請求の範囲の記載の「連結手段」を「連係手段」(構
成要件B)と訂正することを認めた。しかし,「連係」は,「互いにつながりを持
つこと」であるのに対し,連結は,「つないで一続きにすること」であり,その国
語的意味は明らかに異なる。また,本件明細書の実施例及び図面には,下の接点ば
ね片をガイド部材に直接又は連結子を介して連結したもののみが記載され,連結以
外の連携方法についての記載はない。さらに,特許請求の範囲の記載を「連係手段
を介して連係設置し」と訂正すると,「連係」が重複し,「連係手段を介して」の
部分が無意味になる。したがって,本件発明の訂正前の構成要件Bの「連結手段」
は,文字どおり「連結手段」を意味するものと解すべきである。このような意味を
有する「連結手段」を「連係手段」に訂正すると,本件明細書に開示されていない
「連結手段」以外の「連係手段」を包含することに帰着する。すなわち,本件審決
により,本件発明の特許請求の範囲は,拡張されたのである。
ウ 以上によれば,本件審決は,平成6年法律第116号による改正前の特
許法126条2項の解釈を誤った違法なものであり,本件特許権は,同法123条
1項7号に基づき無効とされるべきものであることが明らかである。本件特許権
は,このような明らかな無効理由を包含するものであるから,その権利の行使は,
権利の濫用であって許されない。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所は,本件特許権については,次に述べるとおり,明白な無効理由が
あるため,控訴人による本件特許権に基づく本訴の請求は,いずれも,権利の濫用
に当たり,棄却されるべきである,と判断する。
1 本件審決について
 本件審決は,本件発明の特許請求の範囲の請求項1記載の「絶縁基台に接点
ばね片を上下に略平行して埋設」の「上下に」を削除するとの訂正,同じく「下の
接点ばね片」の「下」を「一方」とする訂正,同じく「上の接点ばね片」の「上」
を「他方」とする訂正を,いずれも明りょうでない記載の釈明に相当するものであ
るとして認めたものである。本件審決が上記の訂正を認めた理由は,以下のとおり
であり,審決は,この認定判断を前提に,「上下に」という記載が,不明りょうな
記載であり,構成上格別の意味を有していないものである以上,このような記載を
削除したとしても,本件発明の構成及び技術的課題に変更を及ぼすものでもないか
ら,これらの訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない,
と判断した。(甲第29号証)
 ① 前記の「上下に」,「下」及び「上」との語句は,本件発明における2
本の接点ばね片A,Bの位置関係を,本件発明のスイッチをすべて横向きに表した
実施例の図面を基準として表現することにより,図面との統一を図ったものと解さ
れる。
 ② しかし,本件発明のセンサースイッチが各種電子機器の部品として使用
される場合,その設置状態は,実施例の図面の横向きのほかに,上向き,下向き,
左向き,右向き,あるいは斜め方向など様々な向きになるのであり,接点ばね片
A,Bの位置関係は,そのたびに様々に変化することになる。
 ③ したがって,二本の接点ばね片A,Bを区別するのに,単純に「上下」
で表すことは,本件発明全体の構成とその作用効果等を説明するためには,不明り
ょう,不適切である。
 ④ 本件明細書の発明の詳細な説明の欄には,「絶縁基台に接点ばね片を略
平行して埋設」(2頁右欄9行~10行),「絶縁基台1に接点ばね片A,Bを略
平行して埋設」(2頁右欄33行~34行),「絶縁基台1に接点a,b付の接点
ばね片A,Bを対面略平行して埋設」(3頁右欄8行~9行)と記載されており,
いずれも「上下に」という語句は使用されていない。
 ⑤ 同じく,「ガイド部材を,一方の接点ばね片に」(2頁右欄13行~1
4行),「ガイド部材Dを,一方の接点ばね片Aに」(2頁右欄43行),「ガイ
ド片D1を一方の接点ばね片Aに」(4頁右欄26行~27行)との記載があり,
これらのいずれにおいても,「下の」ではなく「一方の」という語句が使用されて
いる。
 ⑥ 同様に,接点ばね片Bについても,「上の」ではなく「他方の」という
語句が使用されている。
 ⑦ したがって,上記の訂正は,本件明細書に記載した事項の範囲内のもの
である。
2 本件審決による訂正の適否について
  しかし,本件審決による上記訂正は,次に述べるとおり,訂正前の本件発明
の特許請求の範囲を拡張するものであるから,平成6年法律第116号による改正
前の特許法126条2項(平成6年法律第116号附則6条1項)に違反してお
り,したがって,本件発明に係る特許は,同特許法123条1項7号(平成5年法
律第26号附則2条5項)により無効とされるべきである。
(1) 本件発明の特許請求の範囲に「上下に」,「下の」及び「上の」との要件
が記載された経緯について
 証拠(甲第1号証,第2号証,第16号証,第20号証の2ないし7)に
よれば,次の事実が認められる。
 本件発明は,①昭和57年5月22日に控訴人により特許出願され,平成
2年6月8日に出願公告され,そのときの特許請求の範囲第1項の記載は,下記ア
のとおりであり(以下「公告時クレーム」という。),②平成2年9月12日に実
願昭56-167117(実公平1-15001)の考案(本件先願考案)と同一
であるとの理由で異議申立てがなされ,平成3年5月13日付けの補正により,特
許請求の範囲第1項の記載が下記イのとおり補正され(以下「登録時クレーム」と
いう。),③平成4年8月25日に異議決定と登録査定があり,平成5年1月29
日に特許登録されたものである。公告時クレームと登録時クレームを比較すれば,
本件発明の特許請求の範囲第1項の記載は,異議申立てがなされた後に,「絶縁基
台に接点ばね片を略平行して埋設し」との要件が「絶縁基台に接点ばね片を上下に
略平行して埋設し」と変更されて「上下に」との要件が追加され,また,「一方の
接点ばね片」が「下の接点ばね片」に,「他方の接点ばね片」が「上の接点ばね
片」にそれぞれ変更されたのみならず,「リーフスイッチ」が「ノーマルオープン
型リーフスイッチ」に,「一側面に設定幅の案内面を形成する・・・ガイド部材」
が「検出突部の前方から上方に設定幅の案内面を形成する・・・ガイド部材」に変
更されたものであることが,明らかである。
ア 公告時クレーム
【請求項1】
「絶縁基台に接点ばね片を略平行して埋設し,両接点ばね片の接点を一定
間隔を隔てて相対したリーフスイッチにおいて,
 設定幅の案内面をガイド兼カバー若しくはガイド片等の
ガイド部材を,接点ばね片に連結手段を介して連係設置し,
 該ガイド部材に対して一定の方向性を持って接触してくる対象体を,上
記案内面が該接点ばね片を反曲させつつ首振り運動して滑り案内するように設け,
 接点ばね片の一部に検出突部を設けて,該検出突部の先端を上記
案内面より外方に設定寸法突出せしめて設け,
 上記ガイド部材の案内面に接触した対象体の定位置の変形部の有,無に
より,検出突部が対象体の接触部に押されて接点ばね片を反曲させつつ後退して,
該反曲動作によって接点相互を接触(閉)せしめ,或は,検出突部が案内面から突
立したままの原位置を保つ,即ち,接点も離隔(開)位置を保つようにして,対象
体の変形部の有,無を自動的に検出して作動するようにしたことを特徴とする,セ
ンサースイッチ。」(点線部分が登録時クレームにおいて変更された部分であ
る。)
イ 登録時クレーム
【請求項1】
「絶縁基台に接点ばね片を上下に略平行して埋設し,両接点ばね片の接点
を一定間隔を隔てて相対したノーマルオープン型リーフスイッチにおいて,
 検出突部の前方から上方に設定幅の案内面を形成するガイド兼カバー若
しくはガイド片等のガイド部材を,下の接点ばね片に連結手段を介して連係設置
し,
 該ガイド部材に対して一定の方向性をもって接触してくる対象体を,上
記案内面が該接点ばね片を反曲させつつ首振り運動して滑り案内するように設け,
 上の接点ばね片の一部に検出突部を設けて,該検出突部の先端を上記案
内面より外方に設定寸法突出せしめて設け,
 上記ガイド部材の案内面に接触した対象体の定位置の変形部の有,無に
より,検出突部が対象体の接触部に押されて接点ばね片を反曲させつつ後退して,
該反曲動作によって接点相互を接触(閉)せしめ,或は,検出突部が案内面から突
立したままの原位置を保つ,即ち,接点も離隔(開)位置を保つようにして,対象
体の変形部の有,無を自動的に検出して作動するようにしたことを特徴とする,セ
ンサースイッチ。」(下線部分が登録時クレームにおいて変更ないし追加された部
分である。)
(2) 控訴人が本件発明の公告時クレームについて上記のような補正をした理由
は,本件発明と本件先願考案の内容及び補正の経緯を比較検討すれば,おのずから
明らかとなる。
ア 本件発明は,「カセツトのテープの種類(例,テープレコーダーにおけ
るクロムテープ,メタルテープ,通常テープ等)の区別や録音,録画済か否かの判
別等はカセツトの後側板面等に陥設した凹孔の位置を変えることによって行つてお
り,よって,テープレコーダー,ビデオ等のメカ部分において,カセットを装填し
たときに各凹孔が到来セットされる位置毎に,該当カセットの装填動作に連動して
接点開閉するセンサースイツチ機構」(甲第2号証3欄19行~27行)に関する
ものであり,「メーカー別によって,特に国籍の異なるメーカーによつては,カセ
ツトC'の奥行寸法lに誤差があり,また凹孔4'の深さ等にもバラつきがあるのが
実状であり,従来は,これら大小誤差のあるカセツトC'に対応し得るように,挺2
2の運動幅を十分大きく設定して誤差を吸収するようにしており,為に,スイツチ
作動がシヤープにいかない上に,このセンサースイツチ機構の占有スペースが大き
くなって,テープレコーダー,ビデオ等のメカ小形化に逆行することとなり,大き
な問題点となつていた。」(3欄41行~4欄7行)との課題を解決するために,
公告時クレームの構成を採用し,これにより,「本スイツチは,スイツチ設置位置
に対応したカセツトC'の凹孔4'の有無をスイツチの開閉で検出・・・するもので
あり」(7欄29行~33行),「また,カセットC'を装填すると,まず,カセッ
トC'端部がガイド兼カバーD2の案内面2の突端部に接触し該案内面2の上面板7
に乗りあげて該部を押出して首振り運動せしめ,よって接点ばね片A(ガイド兼カ
バーD2に連結)と接点ばね片Bを,スぺーサー9及び検出突部Eの基部3'の作用
により,等間隔(接点a,bの間隔も変らない)を保持したまま反曲するので,こ
の反曲寸法の度合(大小)によつて,カセツトC'の奥行寸法lの誤差を吸収するこ
とができ,しかも,如何なる反曲寸法の場合にも接点a,bの間隔を一定に保ち得
る。・・・そして,カセツトC'に凹孔4'が有るときにのみ検出突部Eの山形部3
が該孔に嵌合し,無い場合には検出突部Eの山形部3がカセツトC'側面に押し戻さ
れて接点ばね片Bのみが反曲して,接点a,bが接触するが,このとき前記のよう
に接点間隔が一定なので,ケースの寸法誤差に関係なく,常に正確な接点接触が得
られると共に,凹孔4'が有る場合の接点a,bの離隔も,凹孔4'の深さ寸法誤差
に関係なく確実に行われる特徴がある。」(8欄1行~24行)との作用・効果を
奏するものである。(甲第2号証)
イ これに対し,本件先願考案も,本件発明と同様なカセットセンサ孔検出
装置であり,「カセツトのガイド孔とセンサ孔が形成される後側面との寸法がばら
つくと,センサ孔とスイツチとの相対位置がばらついてスイツチが誤動作すること
がある」(甲20号証の7・1欄29行~2欄3行)ため,「少ない部品で簡単な
構成により正確にカセツトの誤消去防止用等のセンサ孔を検出できるようなカセツ
トセンサ孔検出装置を提供する」(3欄8行~11行)ことを目的とする考案であ
り,「21は弾性金属板からなる第1のリード片(判決注:本件発明における接点
ばね片A。以下括弧内の記載は,本件発明における対応する部材名を示したもので
ある。),22は同じく弾性金属板からなる第2のリード片(接点ばね片B)2
3,24はリード片21,22の先端部に重なるようにそれぞれ形成され互いに接
触または離反する接点部・・・27はリード片21の先端部に設けられた係合部と
してのカム(ガイド部材),28はリード片22の先端部に設けられた検出部とし
てのカム(検出突部),29はリード片21と22の基部をモールドしてこれらが
互いに平行に配列されるように絶縁保持するプラスチックからなるホルダ(絶縁基
台)・・・カム27(検出突部),28(ガイド部材)に何も力を加えない状態で
は接点部23と24は接触しスイツチはオンしている。なお,カム28(検出突
部)はカム27(ガイド部材)より高く形成されている。」(4欄2行~26行)
との構成により,「カセツト1の爪8が折られておらずセンサ孔2が形成されてい
ない場合・・・カセツト1が矢印の方向から挿入され・・・セットされると,カム
27(ガイド部材)がカセット1の後側面に接触してリード片21(接点ばね片
A)は押上げられ,また,カム28(検出突部)が爪8に接触してリード片22
(接点ばね片B)は押上げられる。したがって・・・カム28(検出突部)はカム
27(ガイド部材)より高いために接点部23と24は離反しスイツチはオフとな
る。また,・・・カセツト1の爪8が折られてセンサ孔2が形成されている場
合・・・カセツト1がセットされるとカム27(ガイド部材)がカセツト1の後側
面に接触してリード片21(接点ばね片A)は押上げられるが,カム28(検出突
部)はセンサ孔2内に入りリード片22(接点ばね片B)は押上げられない。した
がって,リード片22(接点ばね片B)はリード片21(接点ばね片A)によって
押上げられる状態となり接点部23と24は接触してスイツチはオンとな
る。・・・この実施例ではセンサ孔2がないときはスイツチはオフ,あるときはス
イツチはオンするように構成したが,リード片の接点部の上下重なり状態を逆にし
てセンサ孔2がないときはスイツチをオン,あるときはスイツチをオフするように
逆の動作構成にすることも可能である。」(5欄1行~26行)との作動態様が開
示されており,本件発明のガイド部材に対応する機能を果たすカム27が本件発明
の実施例とは異なる構成となっている点を除いては,ほぼ同内容の構成が開示され
ている(本件先願考案に係る実用新案登録請求の範囲も「互いに平行に配置され,
先端部に接触または離反する接点部を設け,基部は互いに絶縁保持された第1と第
2のリード片(両接点ばね片)からなり,第1のリード片(接点ばね片A)の先端
部にはカセットの後側面に係合する係合部(ガイド部)を設け,第2のリード片
(接点ばね片B)の先端部にはカセットの後側面に形成されたセンサ孔に挿入する
検出部(検出突部)を設け,センサ孔の有無によって接点部の接触または離反を動
作せしめるようにしたカセツトセンサ孔検出装置」(甲第20号証の7)となって
おり,本件発明とほぼ同内容の構成が記載されている。)。(甲第20号証の4・
7及び弁論の全趣旨。別紙図面(2)参照)
ウ 本件発明の実施例においては,接点ばね片A,Bが,その反曲動作する
方向を下,また,元に戻る方向を上とすると,上下に略平行して設置されていたの
に対し,本件先願考案における実施例は,第1と第2のリード片(接点ばね片)
が,その反曲動作する方向を下,また,元に戻る方向を上とすると,上から見て左
右に略平行して設置されている点が異なっている。そして,本件発明の出願人であ
る控訴人は,異議申立後に,特許請求の範囲の「一側面に設定幅の案内面を有す
る・・・ガイド部材」との要件を「検出突部の前方から上方に設定幅の案内面を形
成する・・・ガイド部材」と補正したことにより,検出突部が反曲動作する方向を
下,また,元に戻る方向を上と規定したものであり,そのうえで,特許請求の範囲
の「絶縁基台に接点ばね片を略平行して埋設し」を「絶縁基台に接点ばね片を上下
に略平行して埋設し」と補正して,「上下に」との要件を加え,これに整合するよ
うに,「一方の接点ばね片」を「下の接点ばね片」に,「他方の接点ばね片」を
「上の接点ばね片」と補正したものである(なお,本件先願の実施例は,ノーマル
クローズ型リーフスイツチであったが,控訴人は,このときに,構成要件Aの「リ
ーフスイッチ」を「ノーマルオープン型リーフスイッチ」と補正していることは上
記のとおりである。)。
エ 本件発明の登録時クレームの「上下に略平行して」との要件を上記のよ
うに解すべきことは,上記ウに述べたことだけでなく,控訴人が異議申立後に前記
補正書とともに提出した特許異議答弁書においてした次の主張からも明らかであ
る。
  すなわち,甲第20号証の5によれば,控訴人は,特許異議答弁書にお
いて,「申立人は・・・両者に全く相違点がないかのように記述していますが,本
願が「絶縁基台に接点ばね片を略平行して埋設し」ているのは,上の接点ばね片
(可動側)と下の接点ばね片(固定側)を上下位置に相対して平行設置しているの
であって,甲号証のようにホルダ29に第1リード片21,第2リード片22を水
平並列位置に平行設置しているのと全く相違しています。本願は上下平行であるた
め・・・そのままでは接点部23,24は接触できないので,わざわざ接点部2
3,24を第1,第2リード片21,22の先端に突出形成して,該突出部を重合
接触(常時)する構成としており,両者のリーフスイッチとしての基本構成は全く
相違しています。」(4頁1行~5頁2行)と記載しており,本件発明において
は,上記の意味で接点ばね片が上下方向に埋設されているから,その点で本件先願
考案とは異なる旨を強調していることが,明らかなのである。
(3) 以上によれば,本件発明の構成要件Aの「絶縁基台に接点ばね片を上下に
略平行して埋設し」における「上下に略平行して」とは,接点ばね片が反曲動作す
る方向を「下」とし,反曲動作した接点ばね片が元に戻る動作方向を「上」とし
て,「上下」を規定したものであり,これにより,絶縁基台に略平行に埋設される
接点ばね片の構成を,接点ばね片の反曲動作方向すなわち上下に配置するとの構成
を規定したものであることが,明らかである。したがって,「上下に」との記載は
不明りょう不適切であるとして,その記載の削除を認めた本件審決は,「上下に」
との要件が前記のような出願経緯において追加された要件であることを無視し,ま
た,本件明細書の記載からも,「上下に」との意味が接点ばね片が反曲動作し,ま
た,元に戻る方向であることが容易に理解できることを看過したものであり,絶縁
基台に埋設される設定ばね片の構成を「上下に略平行して」(反曲動作方向に略平
行して)と規定されていたものを,単に「略平行して」にするとの訂正を認めたこ
とにより,本件先願考案の実施例のように反曲動作方向から見て左右に略平行して
絶縁基台に埋設されている接点ばね片の構成をも包含する結果となったものであ
る。本件審決による訂正が本件発明の特許請求の範囲を拡張するものであったこと
は明らかである。
3 以上のとおり,本件審決による訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張するも
のであることは明らかであるから,本件明細書の訂正が平成6年法律第116号に
よる改正前の特許法126条2項(平成6年法律第116号附則6条1項)の規定
に違反してなされたものであり,本件特許権が同特許法123条1項7号(平成5
年法律第26号附則2条5項)により無効とされるべきものであることも明らかで
ある。本訴請求は,このように無効理由を有することが明らかな本件特許権を根拠
にするものであるから,仮にその余の点についての控訴人の主張がすべて認められ
るとしても,権利の濫用に該当するものというべきである。
第4 結論
  よって,控訴人の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,い
ずれも理由がないことが明らかであって,本訴請求中当審において追加した新請求
を除く部分を棄却した原判決は結論において相当であり,上記新請求も棄却を免れ
ない。そこで,本件控訴及び上記新請求のいずれも棄却することとして,訴訟費用
の負担につき,民事訴訟法67条1項,61条を適用して,主文のとおり判決す
る。
  東京高等裁判所第6民事部
           裁判長裁判官    山  下  和  明
              裁判官     設  樂  隆  一
 
              裁判官    宍  戸     充
(別紙)
物件目録(一) 図
物件目録(二) 図
物件目録(三) 図
謝罪広告目録(省略)
被控訴人物件目録(1) 図
被控訴人物件目録(2) 図
被控訴人物件目録(3) 図
別紙図面(1) 別紙図面(2)

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