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裁判例


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平成10年(行ケ)第193号 審決取消請求事件
平成12年5月9日口頭弁論終結
判決
原      告理想科学工業株式会社
代表者代表取締役【A】
訴訟代理人弁護士井出正敏
同玉利誠一
同井出正光
同櫻井彰人
同弁理士【B】
同【C】
同【D】
同【E】
被      告株式会社リコー
代表者代表取締役【F】
訴訟代理人弁護士稲元富保
同弁理士【G】
同【H】
主文
 特許庁が平成9年審判第4516号事件について平成10年5月7日にした
審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 主文と同旨
2 被告
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いがない事実
1 特許庁における手続の経緯
 被告は、考案の名称を「輪転謄写製版印刷装置」とする登録第205003
号実用新案(昭和58年4月28日実用新案登録出願、平成5年6月15日出願公
告、平成7年2月7日設定登録。以下「本件考案」という。)の実用新案権者であ
る。
 原告は、平成9年3月19日、本件考案の登録無効の審判を請求し、特許庁
は、平成9年審判第4516号事件として審理した結果、平成10年5月7日、
「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、平成10年5月25日、原
告にその謄本を送達した。
2 本件考案の実用新案登録請求の範囲
「原稿を露光する露光手段と、
 原稿より反射した光を光電変換して電気的画像情報とするデジタル型の読み
取り手段(イメージセンサ)と、
 当該画像情報を発熱素子よりなる書き込み手段に送る伝送手段と、
 ロール状の感熱孔版原紙と、
 当該ロール状原紙を繰り出して版胴のクランパ迄搬送する搬送手段と、
 前記書き込み手段とクランパの間に配置され、書き込みが終了した原紙を切
断するカッターと、
 前記クランパにより保持された前記原紙を前記版胴が巻き取った後謄写印刷
する手段と、
 印刷終了後前記原紙を前記版胴から剥離し近接する排版ボックスに排出する
手段とよりなる製版機能と印刷機能を併せ有する小型輪転謄写製版印刷機であっ
て、
 露光手段、デジタル型の読み取り手段(イメージセンサ)を前記謄写印刷手
段の上方に配置し、書き込み手段(サーマルヘッド)に押しつけ当接されている書
き込み手段のプラテンローラを原紙の繰り出し方向に回転駆動することで原紙と書
き込み手段のプラテンローラとの摩擦を利用して書き込み手段に対して原紙をすべ
らせて繰り出す搬送手段を設けたことを特徴とする小型輪転謄写製版印刷機。」
(別紙図面1(1)参照)
3 審決の理由
 審決の理由は、別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに、請求人
(原告)が提出した特開昭47-13106号公報(審決でも本訴でも甲第1号
証)、特開昭55-63174号公報(同甲第3号証)、特開昭56-90675
号公報(同甲第4号証)、特開昭53-74826号公報(同甲第5号証)、特開
昭55-103957号公報(同甲第6号証)、特開昭56-68057号公報
(同甲第7号証)、特開昭56-94872号公報(同甲第8号証)及び特開昭5
5-55658号公報(同甲第25号証)には、本件考案の構成の一部である「書
き込み手段(サーマルヘッド)に押しつけ当接されている書き込み手段のプラテン
ローラを原紙の繰り出し方向に回転駆動することで原紙と書き込み手段のプラテン
ローラとの摩擦を利用して書き込み手段に対して原紙をすべらせて繰り出す搬送手
段を設けたこと」(以下「本件構成部分」という。)の記載もその示唆もなく、ま
た、本件考案は、本件構成部分によって「本願考案は書き込み手段のプラテンロー
ラのみの回転運動により直接感熱孔版原紙に張力を与え乍繰り出すことにより寄り
じわが生ぜず精度のよい書き込みを行うことができる」という作用効果を奏するも
のと認められると認定し、この認定を前提として、本件考案は、上記各考案からき
わめて容易に考案をすることができたものとすることはできないなどと判断し、結
局、請求人(原告)が主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件考案の登
録を無効とすることはできない、とするものである。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 審決の理由2頁2行ないし19頁12行は認め、19頁14行ないし20頁
16行は争い、20頁17行ないし21頁13行は認め、21頁14行ないし18
行は争う。
 審決は、本件考案と甲第4号証記載の技術(以下「甲第4号証発明」という
ことがある。)との技術的な親近性を看過したことなどのため、甲第4号証には本
件構成部分もそれを示唆するものも記載されていないと誤った認定をし、その結
果、本件考案の容易推考性の判断を誤ったものであって、その誤りは、審決の結論
に影響を及ぼすものであるから、取り消されるべきである。
1 本件考案と甲第4号証発明との技術的な親近性の看過
 審決は、甲第1号証、甲第3号証ないし甲第8号証及び甲第25号証に記載
された技術的表現、文言のみにとらわれて、本件考案と甲第4号証発明の複写機と
の技術的な親近性を看過している。
 本件考案の明細書には、「本考案は、感熱孔版原紙を発熱素子で製版して版胴
に巻回し、輪転謄写して印刷を行う装置に関するものである。」(甲第19号証2
欄5行~7行)と記載されていることから、本件考案は、発熱素子で製版した感熱
孔版原紙を使用する印刷機を対象とするものである。他方、甲第4号証発明は、発
熱素子により感熱発色し画素を形成する複写機を対象とするものということができ
る。
 本件考案は印刷機を、甲第4号証発明は複写機をそれぞれ対象とするもので
はあるが、ともにオリジナル(被写体)の文字、画等を複製するための機械であ
り、その複製手段も、前記したとおり、ともに「発熱素子」を利用して紙に画素を
形成するものである限度では、技術として同一であり、両者には、単にその画素形
成が製版か、感熱発色かの差異があるにすぎない。しかも、両機械の画像読み取り
部の構造及び機能は同一であり、また、画像書き込み部の構造はサーマルヘッドと
背面ローラにより被書き込み体を搬送する点で同一である。したがって、両者の対
象とする機械は、親近技術分野に属するものであり、しかも、感熱記録という同一
の技術分野に属する技術を使用するものである。本件考案に係る当業者と甲第4号
証発明に係る当業者は、本件構成部分との関係においては、実用新案法第3条2項
でいう「その考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者」として同じ
当業者であるということができる。
2 甲第4号証についての認定の誤り
 本件構成部分である「書き込み手段(サーマルヘッド)に押しつけ当接され
ている書き込み手段のプラテンローラを原紙の繰り出し方向に回転駆動することで
原紙と書き込み手段のプラテンローラとの摩擦を利用して書き込み手段に対して原
紙をすべらせて繰り出す搬送手段を設けたこと」は、次のとおり、すべて甲第4号
証に記載されているものである。
(1) 本件考案のプラテンローラ19とは、「書き込み手段(サーマルヘッド)
7に押しつけ当接されていて、原紙8の繰り出し方向に回転駆動することで原紙8
との摩擦を利用して書き込み手段7に対して原紙8をすべらせて繰り出す」ローラ
を意味するものである(甲第19号証(実公平5-23347号公報)の特許請求
の範囲及び第1図(別紙図面1(1)参照))。一方、甲第4号証発明のゴムローラ5
3とは、「サーマルヘッド52に接して引出された感熱記録紙51をサーマルヘッ
ド52とともに上下からはさんで圧接し、モータによって回転力が与えられて一定
速度で記録紙51を引出す」ローラである(甲第4号証2頁左下欄11~16行、
第5図(別紙図面2参照))。
 両者を対比すると、いずれもサーマルヘッドに当接された背面ローラであ
って、その作用においても同じであるから、甲第4号証発明においてサーマルヘッ
ド52に当接され回転駆動により記録紙51を搬送するゴムローラ53は、本件考
案においてサーマルヘッド7に当接され回転駆動により原紙8を搬送するプラテン
ローラ19に相当する。
(2) 本件考案の「感熱孔版原紙」とは、書き込み手段のサーマルヘッドとプラ
テンローラとの間に送り込まれ、プラテンローラの回転駆動により、プラテンロー
ラとの摩擦を利用して、書き込み手段に対してすべらせて繰り出される被書込み体
をいうものである。一方、甲第4号証発明の感熱記録紙51とは、「ロール51a
よりサーマルヘッド52に接して引出され、サーマルヘッド52とゴムローラ53
に上下からはさまれ圧接されて、回転力が与えられたローラ53により、一定速度
で引き出される」被書込み体をいうものである(甲第4号証2頁左下欄11~16
行及び第5図)。
 ここにおいて、両者の対比に当たり技術的にみて意味があるのは、①プラ
テンローラを原紙の繰り出し方向に回転駆動することで原紙と書き込み手段のプラ
テンローラとの摩擦を利用して書き込み手段に対して原紙をすべらせて繰り出す
点、②書き込み手段のプラテンローラのみの回転運動により直接感熱孔版原紙に張
力を与えながら繰り出す点である。この点から考察すると、甲第4号証発明の感熱
記録紙51と本件考案の感熱孔版原紙8とは、いずれも、上記技術的事項①、②を
満足するものであり、この技術的事項との関係において同一の構成及び作用を有す
る。
 したがって、甲第4号証発明においてサーマルヘッド52とゴムローラ5
3との間に供給されゴムローラ53の回転駆動により搬送される「感熱記録紙5
1」は、本件考案においてサーマルヘッドとプラテンローラとの間に供給されプラ
テンローラの回転駆動により搬送される「感熱孔版原紙」に相当する。
 被告は、甲第4号証発明の感熱記録紙と本件考案の感熱孔版原紙とが相違
することを種々主張するが、感熱孔版原紙や感熱記録紙には、色々な種類があり、
被告主張のように感熱孔版原紙は腰が弱く、感熱記録紙は腰があると明確に分類で
きるものではない。
(3) 前述のとおり、本件考案の印刷機と甲第4号証発明の複写機とは、互いに
親近関係にある技術であり、また、両者とも、被写体の情報信号を記録系(サーマ
ルヘッドとプラテンローラ等)を用いて原紙又は記録紙に製版又は記録する際の原
紙または記録紙の引き出し(繰り出し)に関しているものであるうえ、上記のとお
り、甲第4号証発明のゴムローラ53は本件考案のプラテンローラに相当し、甲第
4号証発明の感熱記録紙51は本件考案の原紙に相当するのであるから、甲第4号
証記載の「サーマルヘッド52とゴムローラ53は記録紙51を上下からはさんで
圧接しており、ローラ53はモータ54によって回転力が与えられ、一定速度で紙
を引出す」(2頁左下欄12~16行目)という搬送手段は、本件構成部分と実質
的に同じであるから、本件構成部分は、実質的に甲第4号証に記載されているとい
うことができる。
(4) 進歩性判断の前提として、引用例に本件構成部分が記載ないし示唆されて
いるかを判断する場合には、本件考案の属する技術分野における通常の知識を有す
る者が、引用例の記載を読んで理解される技術内容(技術的思想)と本件構成部分
とを比較して判断されるべきものである。そして、前述のとおり、甲第4号証発明
の複写機と本件考案の印刷機は、近接した技術分野に属するものであり、しかも、
感熱記録という同一の技術分野に属する技術を使用するものであるから、このよう
な技術の分野における通常の知識を有する当業者が、甲第4号証に接したとき、そ
こに本件構成部分を読み取ることは、きわめて容易というほかないものである。
(5) このことは、本件考案の出願経緯、具体的には、本件構成部分が本件考案
の構成要件とされるに至るいきさつに照らしても、明らかというべきである。
 すなわち、本件構成部分は、本件考案に係る願書に添付した明細書又は図
面(以下「当初明細書」という。)には明示的には記載されておらず、補正後の明
細書で初めて記載されたものであるにもかかわらず、本件考案は、本件構成部分を
含んだまま、要旨変更という判断を受けることなく登録となったのであるから、本
件構成部分は、明示的に記載されていなくとも理解できる技術的事項であるため、
当初明細書に現実の記載はなくとも記載されていたものとみることができると、特
許庁において判断されたことになるのであり、このように、特許庁の審理において
自明の技術的事項として判断されたということは、当該技術的事項は本件考案出願
時において当業者の自明の技術常識であったことを示すものというべきである。
第4 被告の反論の要点
 審決の認定判断は、いずれも正当であり、審決を取り消すべき理由はない。
1 本件考案と甲第4号証発明との技術的な親近性の看過について
(1) 「印刷」と「複写」とは、複製技術として同一ではない。印刷には「版
(マスタ)」を使用するが、複写は「版(マスタ)」を使用しないのである。印刷
はまず「製版」を行った後、「印刷(画像形成)」を行う必要があるが、複写は
「製版」を行うことなく「画像形成」を行うのである。印刷は、凸版、凹版、平
版、孔版の4つの方式に分類することができ、このうちで、孔版の製版方法は、機
械的製版方式、電気的製版方式、感熱製版方式等の方式に分類され、このうちで、
感熱製版方式は、更に、光照射による感熱製版方式と、サーマルヘッドによる感熱
デジタル製版方式の2つの製版方式に分類される。これに対して、複写は、静電複
写方式、感熱複写方式等に分類される。このことから分かるように、「印刷」のう
ち、孔版で、感熱製版方式で、サーマルヘッドによる感熱デジタル製版方式のもの
と、「複写」のうち、感熱複写方式のものとは、意味する内容が異なっており、一
方が製版で、他方が記録であるとの違いをさておいても、到底、「複製技術として
同一である」ということはできない。
 そして、後述するように、謄写製版印刷機で使用する感熱孔版原紙と複写
機で使用する感熱記録紙とでは、その機能、材質、構成、構造、腰の強さにおいて
大きな差異が存するのである。
(2) 一般的に、感熱記録とは、感熱式複写機等の記録装置において、その感熱
記録プロセスで記録(画像出力)されたものが画像部を黒色等に変色させたもので
そのまま出力物(ハードコピー)としてアウトプットされて使用される場合をいう
のである。すなわち、感熱記録とは判読可能な状態で記録される場合をいうのであ
る。これに対して、謄写製版印刷機においては、感熱式謄写製版を採用した場合で
も、製版プロセスによって感熱孔版原紙に穿孔で判読不能な逆像の画像を形成する
だけであり、その穿孔された感熱孔版原紙がそのままハードコピーとして出力され
ることはあり得ず、その逆像が形成された感熱孔版原紙が謄写印刷プロセスを経る
ことで、はじめて印刷インキの通過により印刷用紙に正像で判読可能な画像が形成
されるのであり、記録されるのは印刷用紙であって感熱孔版原紙ではない。つま
り、感熱孔版原紙は複製された複製物ではない。換言すれば、本件考案が対象とす
る謄写製版印刷機においては版となる感熱孔版原紙を製版するのに対して、甲第4
号証発明が対象とする複写機では版ではなく最終結果物であるハードコピーとなる
感熱記録紙に記録するのである。
(3) 上述のとおり、甲第4号証発明の複写機における「感熱記録」と本件考案
の謄写製版印刷機における「感熱製版」とでは、技術的な主題や技術的課題が大き
く相違するのであり、両者が同一の技術分野に属するとか、「感熱記録」という同
一の技術分野に属する技術を使用した密接に関連する技術であるとすることはでき
ないのである。
2 甲第4号証についての認定の誤りについて
(1) 甲第4号証の記載を精査すると、同号証に係る発明は、特に複写機に関す
る発明であるから、本件考案の属する謄写製版印刷機とは異なるうえ、同号証に
は、感熱記録紙として謄写製版印刷機における感熱孔版原紙を用いること、謄写製
版印刷機においてロール状感熱原紙を繰り出して版胴のクランパまで搬送する搬送
手段を備えていること、謄写製版印刷機において書き込み手段(サーマルヘッド)
に押しつけ当接されている書き込み手段のプラテンローラを回転駆動することで原
紙と書き込み手段のプラテンローラとの摩擦を利用して書き込み手段に対して原紙
をすべらせて繰り出す搬送手段を有することについて、何ら記載されておらず、示
唆する記載もない。
 したがって、審決の「甲第4号証(特開昭56-90675号公報)に
は、被写体の実像を電気変換信号としてラインセンサ上に形成する複写機の撮像部
と、該信号をサーマルヘッドに送る手段と、ロール状の感熱記録紙と、モータによ
り駆動されるゴムローラとを有し、該記録紙はその上下からサーマルヘッドとゴム
ローラにより挟んで圧接され、モータの回転により一定速度で引き出されること、
が記載されているものと認められる。」(審決書13頁3行~11行)との認定
は、正当であり、原告もこれを認めているものである。そうすると、審決が適法に
認定した上記甲第4号証には、謄写製版印刷機に関する本件構成部分が含まれてい
ないことは明らかである。
(2) 甲第4号証発明の複写機と本件考案の謄写製版印刷機とは、前述したとお
り、技術分野を異にするものであり、また、甲第4号証発明の感熱記録紙と本件考
案の感熱孔版原紙とはその機能、材質、構成、構造及び腰の強さ/弱さという搬送
性の点において異なるものであるから、甲第4号証発明の「感熱記録紙」が謄写製
版印刷機の感熱孔版原紙を含むものであるとするのが当業者にとって技術常識であ
るということはできない。
 複写機で使用する感熱記録紙と謄写製版印刷機で使用する感熱孔版原紙と
について、単に、その厚さ、熱で溶融して変化する層を有するか否かで比較して、
両者が近接したものであるとすることは、複写機(感熱記録)と謄写製版印刷機
(製版印刷)との違いを理解しないものである。すなわち、感熱記録紙と感熱孔版
原紙との違いで重要なのは、その機能、材質、構成、構造と、腰の強さ/弱さであ
る。詳述すれば、感熱記録紙は繊維の密度が高くインキ不通過性の基材の表面に熱
で変色する層を形成したものであり、腰があって、搬送し易い。これに対し、感熱
孔版原紙は、繊維の密度を極端に低くしてインキ通過性に抄紙された多孔性薄葉紙
と熱で溶融穿孔される厚さ0.002mm程度の熱可塑性樹脂フィルムとを貼り合
わせたものであって、感熱記録紙とは機能、材質、構成、構造が異なり、腰が弱く
て搬送し難いものである。よって、このような相違点を有する感熱記録紙と感熱孔
版原紙とを技術的に極めて近接しているとするのは失当である。
(3) 本件考案のプラテンローラは、感熱孔版原紙をサーマルヘッドに押しつけ
つつ、上述したように薄く腰の弱い感熱孔版原紙をしわやスキューを発生させるこ
となく搬送するために配置されている(審決が認定した作用効果)ものであり、こ
こに中間搬送ローラを用いずにプラテンローラのみによるヘッドまでの繰り出しを
採用している理由がある。
 これに対して、甲第4号証発明のゴムローラは、腰があって搬送しやすい
感熱記録紙を搬送するために配置されているものであって、中間搬送ローラを用い
ずにプラテンローラのみによるヘッドまでの繰り出しを採用しなければならない理
由がない。
 また、甲第4号証に記載された「ゴムローラ」は「複写機のハードコピー
となる感熱記録紙を引き出す」ものであるのに対し、本件考案の「プラテンロー
ラ」は「謄写製版印刷装置の版となる感熱孔版原紙を繰り出す」ものであるから、
その作用効果においても相違する。
 加えて、本件考案のように「感熱孔版原紙をロール状態からプラテンロー
ラで繰り出し搬送する」ことについては、甲第4号証を含めて本件考案の出願前に
は何ら開示されていない。したがって、甲第4号証のゴムローラが本件考案のプラ
テンローラに相当するとはいえない。
(4) したがって、甲第4号証の「記録紙はその上下からサーマルヘッドとゴム
ローラにより挟んで圧接され、モータの回転により一定速度で引き出される」とい
う構成は、本件構成部分に相当するものではない。
(5) 原告は、本件構成部分を加えた補正が要旨変更でないとされたことは、そ
れが技術常識であると認められたからであると主張しているが、進歩性判断におけ
る技術常識と明細書の要旨変更における自明性との違いを理解しない誤りである。
すなわち、出願時において、当業者にとって、当初明細書の記載からみて自明な事
項も、当初明細書に記載した事項の範囲内とみられるのであり、その際、「当初明
細書の記載からみて自明な事項」とは、当初明細書にその事項自体を直接表現する
記載はないが、当初明細書等に記載されている技術内容を、出願時において当業者
が客観的に判断すれば、その事項自体が記載してあったことに相当すると認められ
る事項をいうのであり、そのように認められた事項が進歩性判断における技術常識
ということになるわけではないのである。
第5 当裁判所の判断
1 本件考案と甲第4号証発明との技術的な親近性の看過について
(1) 甲第19号証によれば、本件明細書には、技術分野に関して、「本考案
は、感熱孔版原紙を発熱素子で製版して版胴に巻回し、輪転謄写して印刷を行う装
置に関するものである。」との記載が、従来技術と本件考案の目的に関して、「従
来、感熱孔版原紙を製版する手段としては発熱素子によるもの、放電破壊によるも
の又は原稿と原紙を重合して光の照射を行うものが知られているが、放電破壊方式
は製版時間が長く原稿、原紙を巻くためのシリンダーが多くのスペースをとり装置
全体が大型になり、原紙に使われている台紙を自動的にはがし取る機構が必要とな
り装置が複雑となり、又原紙は薄く腰が弱いので送りの安定性が得にくゝ自動給版
が困難であり、1枚1枚を分離し搬送するのが困難であるため、製版装置と印刷装
置を一体化するのは困難であった。」、「本考案は発熱素子により製版を行い、原
稿、原紙の製版装置、印刷装置ヘセツトする煩雑な操作をなくし、感熱孔版原紙を
ロール状とすることにより、給版装置の自動化を容易となし装置全体を小型化する
ことを目的としている。」との記載が、効果に関して、「本考案によると、ロール
状の感熱孔版原紙を用いているので1枚1枚の分離搬送が不要で安定した給版動作
が得られ、オペレータ操作が簡単となり、光電変換による製版なので原稿と原紙と
を重合する必要がなく、画像を拡大、縮小したり階調補正したりでき、従来の感熱
製版方式に比べて原稿の色素の違い(顔料と染料との吸熱性の違い)による影響を
受けず、又、従来の放電破壊方式のように製版時臭いのある気体が発生せず、放電
針の摩耗交換を行う必要がない。感熱孔版原紙は数十ミクロンと非常に薄いものが
多く、例えばロール原紙と書き込み手段との間に中間搬送ローラがあった場合に
は、書き込み手段のプラテンローラと中間搬送ローラとの回転ムラにより(中間搬
送ローラが相対的に早くなる)感熱孔版原紙にたるみが発生し、このたるみが書き
込み手段のプラテンローラ部で寄りじわとなるが、本願考案は書き込み手段のプラ
テンローラのみの回転駆動により直接感熱孔版原紙に張力を与え乍ら操り出すこと
により寄りじわが生ぜず精度のよい書き込みを行うことができる。又、本願考案は
デジタル型の読み取り手段(イメージセンサ)を謄写印刷手段の上方に一体的に配
置しているので、印刷機の設置床面積を増大させることなく原稿読取手段を有した
上で全体を小型化できる。」との各記載があることが認められる。
 上記記載から明らかなとおり、本件考案は、印刷技術に係るものであっ
て、孔版、感熱製版によるもののうち、感熱孔版原紙を発熱素子で製版するという
サーマルヘッドによる感熱デジタル製版方式の複写製版印刷機に関するものであ
る。
(2) 甲第4号証(特開昭56-90675号公報)には、「被写体の実像を電
気変換信号としてラインセンサ上に形成する複写機の撮像部と、該信号をサーマル
ヘッドに送る手段と、ロール状の感熱記録紙と、モータにより駆動されるゴムロー
ラとを有し、該記録紙はその上下からサーマルヘッドとゴムローラにより挟んで圧
接され、モータの回転により一定速度で引出されること」が記載されていること
は、審決が認定しているとおりであり、当事者間にも争いがない。
 上記記載によれば、甲第4号証に記載されているのは、複写技術のうち、
発熱素子によって感熱記録紙を感熱発色させて画素を形成させるというサーマルヘ
ッドによる感熱複写に関するものである。
(3) 本件考案のサーマルヘッドによる感熱デジタル製版方式の複写製版印刷機
に関する技術と、甲第4号証発明のサーマルヘッドによる感熱複写機に関する技術
とを対比すると、前者が「印刷」で製版を形成するものであるのに対し、後者が
「複写」で感熱記録紙に画素等を形成するものであるから、その技術内容に相違す
るところがあることは明らかである。
 しかしながら、前記のとおり、本件考案は、印刷機の機構に関する考案で
あり、特に、審決が格別の作用効果があるものとして取り上げた本件構成部分、す
なわち、「書き込み手段(サーマルヘッド)に押しつけ当接されている書き込み手
段のプラテンローラを原紙の繰り出し方向に回転駆動することで原紙と書き込み手
段のプラテンローラとの摩擦を利用して書き込み手段に対して原紙をすべらせて繰
り出す搬送手段を設けたこと」との部分も、印刷機の機構自体を対象としているも
のである。この側面からみると、本件考案の印刷機と甲第4号証発明の複写機と
は、光電変換と発熱素子を利用して被写体から複製物を形成する点において同一で
あり、相違するのは、対象が感熱孔版原紙であるか感熱記録紙であるか(形成され
る複製物でいえば、孔版であるか記録であるか)という点のみといい得るものであ
る。
(4) そこで、さらに、本件考案のサーマルヘッドによる感熱デジタル製版方式
の複写製版印刷機と甲第4号証発明のサーマルヘッドによる感熱複写機の、それぞ
れの技術分野の関係について検討する。
(イ) 甲第1号証(特開昭47-13106号公報)には、「謄写法におけ
る原紙又はマスタ版がタイプライタなどによる機械的手段、電子的手段、熱的手段
などの各種手段によって製版できることも広く知られている。」(5頁右上欄7行
~10行)」との記載があることが認められ、同記載によれば、昭和47年ころに
は、熱的手段による複写技術によって製版をすることができることが周知となって
いたことが認められる。
(ロ) 甲第6号証(特開昭55-103957号公報)には、「感熱性孔版
原紙に発熱素子を当て、この発熱素子に電流を流すことにより孔版を作ることを特
徴とする孔版製版方式。」(特許請求の範囲)、「本発明は、感熱性孔版原紙の製
版方式、特にファクシミリ信号のような電気信号から孔版を作成する製版方式に関
する。従来、ファクシミリ信号から孔版印刷用の製版を行なう方式には、放電破壊
記録の技術を応用して謄写原紙をつくるものがある。」(1頁左欄14行目~19
行目)、「又、従来感熱性孔版原紙を使用して製版を行なう方式には、感熱複写の
技術を用いたものがある。」(1頁右欄13行目及び14行目)、「この方式を、
感熱記録形のファクシミリ受信機に適用して孔版製版を行なえば・・・すぐれた製
版が行なえる利点がある。」(2頁右上欄9行目~13行目)、「以下、本発明の
実施例を第3図に基づき説明する。感熱性孔版原紙(31)は、ポリエチレンのよう
な熱可塑性樹脂樹脂フィルム(31a)及び多孔性薄葉紙(31b)を貼り合わせた構
造をしており、上述のように本来の製版工程は赤外線を含む光を照射して赤外線を
より多く吸収して温度の高くなる黒領域だけ熱可塑性樹脂フィルムを融かすか、凝
縮させるか、あるいは原稿に付着させて除去するかして製版を行なうのであるが、
本発明によれば発熱素子、例えば電源(34)とスイッチ(35)から供給される電流
で発熱する発熱抵抗体(33)へ電流が通じた時だけ感熱性孔版原紙に穿孔部分(3
1’)をつくることが可能となり、スイッチ(35)のかわりに半導体スイッチング素
子で電源(34)を駆動するようにすれば、電気信号で感熱性孔版原紙を製版する電
子化された製版工程が実現できる。さらに、発熱素子は1個だけでなく、必要な解
像度を満たす大きさで必要な幅分の長さに多数個一列に並べたもの、例えば感熱記
録形ファクシミリ受信機の記録ヘッドを使用すれば、機械的走査の要らない方式が
実現できる。」(2頁4欄14行~5欄13行)、「感熱記録形ファクシミリを装
置の改造なしに、そのまま使用して孔版製版が実現できる。」(3頁7欄13~1
4行)との各記載があることも認められる。
 上記記載によれば、本件考案の出願前から、既存の感熱記録形ファクシ
ミリ受信機をそのまま利用し、例えば感熱記録形ファクシミリ受信機の記録ヘッド
を使用し、その発熱素子により、ファクシミリ信号から感熱性孔版原紙を製版する
技術が存在し、これが公知となっていたことが認められる。
(ハ) そうすると、本件考案の出願当時には、本件考案のサーマルヘッドに
よる感熱デジタル製版方式の複写製版印刷機と甲第4号証発明のサーマルヘッドに
よる感熱複写機とは、装置自体の面で技術分野が相互に近接しており、感熱記録の
技術を利用して感熱性孔版原紙を製版することができるものとなっていたことが認
められる。
(ニ) 被告は、感熱記録と感熱孔版製版の相違を根拠に、本件考案に係る複
写製版印刷機と甲第4号証発明に係る感熱複写機とでは技術分野が異なる旨主張す
るが、両者の技術分野の間に、前者における本件構成部分に係る構成を考案するに
当たり後者のそれに対応する部分を参考にすることを妨げるほどの相違が何ら存在
するものではないことは、上述したところに照らし、明らかである。
2 甲第4号証についての認定の誤りについて
 審決は、本件考案の構成の一部である「書き込み手段(サーマルヘッド)に
押しつけ当接されている書き込み手段のプラテンローラを原紙の繰り出し方向に回
転駆動することで原紙と書き込み手段のプラテンローラとの摩擦を利用して書き込
み手段に対して原紙をすべらせて繰り出す搬送手段を設けた」という構成が甲第4
号証に記載されておらず、それを示唆する記載さえないと判断しているので、その
当否について検討する。
(1) 甲第4号証(特開昭56-90675号公報)に、「被写体の実像を電気
変換信号としてラインセンサ上に形成する複写機の撮像部と、該信号をサーマルヘ
ッドに送る手段と、ロール状の感熱記録紙と、モータにより駆動されるゴムローラ
とを有し、該記録紙はその上下からサーマルヘッドとゴムローラにより挟んで圧接
され、モータの回転により一定速度で引出される」という技術が記載されているこ
とは、審決が認定するとおりである。
 さらに、詳しくみれば、甲第4号証によれば、その発明の詳細な説明中に
は、「次に、このようにして得られた被写体の情報信号は、例えば第5図に示すよ
うな記録系を用いて記録紙上に記録される。第5図において、51は感熱記録紙、
52はサーマルヘッド、53はゴムローラ、54はゴムローラ53を駆動するモー
タである。感熱記録紙51はロール51aよりサーマルヘッド52に接して引出さ
れる。サーマルヘッド52とゴムローラ53は記録紙51を上下からはさんで圧接
しており、ローラ53はモータ54によって回転力が与えられ、一定速度で紙を引
出す。サーマルヘッド52のクロック入力52aは前記ラインセンサ3に与えたの
と同じ不等速のクロックが加えられる。また画入力52bにはラインセンサの画出
力3Aが加えられる。サーマルヘッド52は線状に多数の発熱素子が配列されたも
のであり、ラインセンサと同様にクロック入力信号によって順次線方向に走査さ
れ、発熱素子が信号入力によって発熱するとそれに接した記録紙が感熱発色し画素
を形成する。」(2頁左下欄6行目~右下欄4行目)との記載があることが認めら
れる。
 上記記載によれば、甲第4号証発明のゴムローラとは、サーマルヘッドに
当接して引き出された感熱記録紙をサーマルヘッドとともに上下からはさんで圧接
し、モータによって回転力が与えられて一定速度で回転駆動して感熱記録紙を引出
すというゴム製のローラであり、また、ゴム製であるから、当然に摩擦を利用し、
サーマルヘッドに対して感熱記録紙をすべらせて繰り出す機能を行うものであるこ
とが認められる。
 本件考案の「プラテンローラ」と対比すると、いずれもサーマルヘッドに
当接されたローラであって、その作用も同じである。
(2) 弁論の全趣旨によれば、感熱孔版原紙は、謄写印刷に使われるからインキ
を通すべく感熱層部分が穿孔されるものであるとともに、ベースとなる紙は多孔性
であることを要件とするのに対し、感熱記録紙は穿孔されることはなくベースとな
る紙が多孔性であると認めることもできず、両者は構造と機能が相違するととも
に、用途も、感熱孔版原紙が謄写製版印刷機に版として使われるのに対し、感熱記
録紙は感熱式複写機等の記録装置にそのまま出力物となるように使われるものであ
る。したがって、感熱記録紙と感熱孔版原紙が同一であるといえないことは、明ら
かである。
(3) 以上を総合すると、「書き込み手段(サーマルヘッド)に押しつけ当接さ
れている書き込み手段のプラテンローラを原紙の繰り出し方向に回転駆動すること
で原紙と書き込み手段のプラテンローラとの摩擦を利用して書き込み手段に対して
原紙をすべらせて繰り出す搬送手段を設けたこと」という本件構成部分は、その限
度では、甲第4号証発明のそれに対応する部分と一致し、両者の相違は、上記「原
紙」が、本件構成部分においては「感熱孔版原紙」であるのに対し、甲第4号証発
明においては「感熱記録紙」である点のみである。
 本件構成部分が甲第4号証にすべて記載されているとする原告の主張は、
上記一致点に着目すれば正しく、上記相違点に着目すれば誤りである。
(4) 前記のとおり、本件構成部分は、甲第4号証発明が、本件構成部分中の
「感熱孔版原紙」の要件を具備していない点で相違し、その余の点では一致してい
るものである。
 この点につき、被告は、謄写製版印刷機で使用する感熱孔版原紙と複写機
で使用する感熱記録紙とでは、その機能、材質、構成、構造、特に腰の強さ/弱さ
において大きな差異が存するとして、これを根拠に、甲第4号証発明の複写機にお
ける「感熱記録」と本件考案の謄写製版印刷機における「感熱製版」とでは、技術
的な主題や技術的課題が大きく相違すると主張する。
 しかし、仮に、感熱孔版原紙と感熱記録紙とで、その機能、材質、構成、
構造、腰の強さ/弱さにおいて差異が存在するとしても、その差異が、前者につい
て検討している当事者が、参考となるかもしれない先行技術として後者に関するも
のがあるとき、それを採用してみようと考えるのを妨げるか否かは、問題となる事
項により異なる。そして、本件構成部分に関する構成に限ってみた場合、感熱記録
紙の搬送に関する甲第4号証発明の構成を、感熱孔版原紙の搬送に適用してみよう
と考えることを妨げるものは、本件全証拠によっても、何ら見出すことができな
い。被告の強調する感熱孔版原紙の腰の弱さは、むしろ、適用してみようと考える
のを容易にする要素というべきである。いわんや、前記認定のとおり、既存の感熱
記録形ファクシミリ受信機をそのまま利用し、例えば感熱記録形ファクシミリ受信
機の記録ヘッドを使用し、その発熱素子により、ファクシミリ信号から感熱性孔版
原紙を製版する技術も存在していたのであるから、被告の主張は、採用の限りでな
い。
(5) 本件構成部分の進歩性に関連して、原告は、本件構成部分を加えた補正が
要旨変更でないとされたことは、それが技術常識であると認められたからであると
主張する。これに対し、被告は、出願時において、当業者にとって、当初明細書の
記載からみて自明な事項も、当初明細書に記載した事項の範囲内とみられるのであ
り、その際、「当初明細書の記載からみて自明な事項」とは、当初明細書にその事
項自体を直接表現する記載はないが、当初明細書等に記載されている技術内容を、
出願時において当業者が客観的に判断すれば、その事項自体が記載してあったこと
に相当すると認められる事項をいうのであり、そのように認められた事項が進歩性
判断における技術常識ということになるわけではない旨主張している。
 一般論としていえば、本件構成部分を加えた補正が要旨変更でないとされ
たからといって、直ちに、本件構成部分が進歩性判断における技術常識ということ
になるものではないことは、被告主張のとおりである。しかしながら、甲第9号証
によれば、本件構成部分が、当初明細書には明示的には記載されていないことが明
らかである。にもかかわらず、被告は、当業者がそこに本件構成部分が記載してあ
ると読み取るべき何らの具体的根拠も挙げていない。そして、当初明細書(甲第9
号証)をよくみても、本件構成部分への想到がきわめて容易ではないことを前提に
しつつ、これをそこに読み取ることを可能にするものを見出すことはできない(例
えば、当初明細書中には「プラテンローラ」の文言はなく、甲第9号証の第1図
(本件考案の願書に最初に添付した図面。別紙図面1(2)参照)には、「プラテンロ
ーラ」の図はあるものの、符号も動作を示す矢印もない。)。
 したがって、本件構成部分に進歩性を認める余地がないことは明らかであ
り、これに進歩性を認めようとする被告の主張は失当である。
3 よって、本訴請求は、理由があるから、さらに審理を尽くさせるため審決を
取り消すこととし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61
条を適用して、主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第6民事部
    裁判長裁判官  山    下    和    明
          裁判官宍    戸      充
          裁判官阿    部   正    幸

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