弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原判決を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第一 控訴の申立て
 主文同旨
第二 事案の概要
 原判決の当該欄に記載のとおりである。
 ただし、三頁九行目の「右のとおり」から一〇行目末尾までを、「Aの法定相続
人は、長男である被控訴人のほか、子であるB、C、D、E、養子であるF(被控
訴人の妻)であった。」と改める。
第三 争点に対する判断
一 遺言公正証書による本件遺言の内容は、遺言者はその所有に属する遺産全部を
包括して遺言者の長男である被控訴人に遺贈する旨(第一条)及び遺言者は本遺言
の遺言執行者として被控訴人代理人弁護士を指定する旨(第二条)の二か条からな
るものである。
二 ところで、遺言の解釈に当たっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけで
はなく、遺言書において表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨
(遺言者の真意)を探求すべきものではあるが、遺言という意思表示の解釈問題で
ある以上、まず重視すべきは遺言書の文言であることはいうまでもない。これを本
件についてみると、その文言上は包括遺贈であることが一義的に明らかであり、疑
問を容れる余地はない。
 この点につき、被控訴人は、包括遺贈として本来民法が予定しているのは相続人
以外の者に対する場合で(民法九九〇条)、相続人に対する包括遺贈は、すべて相
続分の指定と解すべきである旨主張するが、民法は相続人に対するものであっても
包括遺贈を認めていると解されるので(民法九〇三条一項)、右主張は、その前提
を欠くといわなければならない。もっとも、包括遺贈には、対象となる遺産につい
てその全部を遺贈するもの(全部包括遺贈)と一定の指定割合を遺贈するもの(割
合的包括遺贈)とがあり、それぞれの法的性質を異にするものと考えられるのであ
るが、本件遺言は、遺言書の記載上全部包括遺贈であることが明らかである。そし
て、全部包括遺贈は、受遺者に対し、遺産分割手続を経ることなく直ちに物権的に
権利取得の効果を生じさせるものであって、その実質は、対象となる遺産を個々的
に掲記する代わりに、これを包括的に表示するものと解され、いわば特定遺贈の集
合体であるということができるから(最高裁判所第二小法廷平成八年一月二六日判
決、民集五〇巻一号一三二頁参照)、相続人に対する全部包括遺贈をもって相続分
の全部指定と見るのは相当でない。被控訴人の右主張は、採用できないというべき
である。
三 もっとも、本件公正証書が作成されたのは昭和六二年一二月一四日であり、当
時既に、公証実務においては「相続させる」という文言で遺言公正証書を作成する
ことが一般的であったのであるから(甲四・弁論の全趣旨)、もしAがこの公証実
務の方法により「その遺産全部を被控訴人に相続させる。」旨の遺言をしておれ
ば、単独で相続登記の申請も可能であり(昭和四七年四月一七日民事甲第一四四二
号民事局長通達設例(4)、乙二)、登録免許税も低額で済んだ(相続を原因とす
る所有権移転登記であれば不動産の価額の千分の六であるのに対し、遺贈を原因と
する所有権移転登記であれば千分の二五となる。)はずであって、このことをAが
知っていたならば、本件において、Aは当然右の「相続させる」文言による遺言の
方法を選択したであろうことは推認するに難くないし、登記官がこのような周知の
公証実務を遺言書の合理的解釈にあたって考慮するのは、いわゆる形式的審査権の
及ぶ範囲内であるといってよい。
 しかしながら、Aが右のような公証実務を知っていたかどうかを調査すること
は、登記官の形式的審査権の及ぶ範囲外というべきであり、登記官としては、申請
書類と登記簿を審査の資料として、遺言書の全記載に照らし右公証実務をも考慮の
上、合理的に遺言の趣旨を解釈すべきものと考える。そこで、この見地から検討す
るに、本件遺言書の作成には、法律の専門家である弁護士(証人として立ち会い、
遺言執行者に指定されている。甲一)や公証人(遺言の方式は公正証書である。)
が関与していること、それなのに、「相続させる」という文言による遺言がなされ
ず、全部包括遺贈であることを明言する遺言がなされていること、登記実務におい
ては、被相続人が相続人中の一部の者に対し相続財産の全部を包括贈与する旨の遺
言がある場合には、その者のために遺贈を登記原因として権利移転の登記をするこ
ととされているところ(昭和三八年一一月二〇日民事甲第三一一九号民事局長電報
回答二項前段、乙一)、本件遺言書では、他の相続人の関与なしに右移転登記の申
請ができるように遺言執行者も指定されていることなどを考慮するならば、本件遺
言はその文言に従い、二で説示した全部包括遺贈の趣旨であると解すべきである。
四 なお、前掲民事局長電報回答においては、その二項前段に続けて、なお書き
で、その処分(贈与)を受ける者が相続人の全員である場合には、相続を登記原因
として権利移転の登記をすべきものとしているから(乙一)、相続人の一部に対す
る全部包括遺贈の場合と相続人全員に対する遺贈の場合とで取扱いが異なり、後者
の場合には、遺贈の文言のある遺言によっても相続を原因とする登記をすることが
認められていることになる。しかし、右のような行政通達があるからといって、直
ちに私法上の行為である遺言の解釈が左右されるべきものではない。しかも、右局
長回答のなお書き部分は、本件遺言とは明らかに事例を異にする上、どのような遺
贈の事例を想定しているのかが必ずしも定かでないし(照会にかかる遺言は、一切
の財産を相続人のうちの一人に遺贈した事例である。)、相続財産の処分を受ける
者が相続人中の一部であるか相続人全員であるかを指標として、権利移転の登記原
因につき、前者は遺贈、後者は相続と遺言の趣旨を異なって解釈することの当否に
ついても、疑問の余地がないではない。したがって、右民事局長回答のなお書きを
考慮しても、先に説示した本件遺言の解釈に消長はない。
 もっとも、共同相続人に対する割合的包括遺贈は、遺産全体に対する指定割合に
よって遺産分割手続を行うことを意図するものであって、遺産を構成する個々の特
定財産につきその指定割合に応じた共有持分を物権的に取得させるものではないの
で、その実質は相続分の指定があったのと同様であると解される。したがって、こ
の場合には、相続を登記原因として権利移転の登記をすることができると考えら
れ、包括遺贈でありながら、相続による登記ができるものとできないものとがある
ことになるが、前者は割合的包括遺贈、後者は全部包括遺贈の場合であって、両者
は既に説示したとおりその法的性質を異にするのであるから、前者の場合があるゆ
えに、先に説示した本件遺言の解釈に影響を及ぼすものではないというべきであ
る。
五 また、弁論の全趣旨によれば、被控訴人が遺贈でなく相続を原因とする本件申
請を行い、これを却下した本件決定に対して不服の訴訟を提起しているのは、遺贈
を原因とする登記申請に要する登録免許税額が相続を原因とする場合に比して多額
に上ることにあると認められるところ、本件のように相続人のうちの特定の者に対
して遺産全部を承継させる方法として、全部包括遺贈の方法を採った場合と相続さ
せる遺言の方法を採った場合とでその税額が著しく異なることとなるのは、課税の
公平の見地から問題がないとはいえないけれども、このような事情があるからとい
って、以上説示にかかる本件遺言の解釈を左右することは困難であるというほかは
ない。
六 以上のとおりであって、本件遺言書は相続を証する書面に該当しないものとい
うべく、本件申請には相続を証する書面の添付がなかったことに帰するから、これ
を却下した本件決定は適法である。よって、被控訴人の本訴請求は理由がないので
棄却すべく、これと異なる原判決を取り消すこととし、主文のとおり判決する。
仙台高等裁判所第二民事部
裁判長裁判官 佐藤邦夫
裁判官 佐々木寅男
裁判官 佐村浩之

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