弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人宮川典夫、同新井宏明の上告理由について
 手形の所持人が、手形要件の一部を欠いたいわゆる白地手形に基づいて手形金請
求の訴え(以下「前訴」という。)を提起したところ、右手形要件の欠缺を理由と
して請求棄却の判決を受け、右判決が確定するに至つたのち、その者が右白地部分
を補充した手形に基づいて再度前訴の被告に対し手形金請求の訴え(以下「後訴」
という。)を提起した場合においては、前訴と後訴とはその目的である権利または
法律関係の存否を異にするものではないといわなければならない。そして、手形の
所持人において、前訴の事実審の最終の口頭弁論期日以前既に白地補充権を有して
おり、これを行使したうえ手形金の請求をすることができたにもかかわらず右期日
までにこれを行使しなかつた場合には、右期日ののちに該手形の白地部分を補充し
これに基づき後訴を提起して手形上の権利の存在を主張することは、特段の事情の
存在が認められない限り前訴判決の既判力によつて遮断され、許されないものと解
するのが相当である。
 これを本件についてみると、原審が適法に確定したところによれば、(1) 上告
人は、本件被上告人を被告として本訴請求にかかる約束手形の振出日欄白地のまま
手形上の権利の存在を主張して手形金請求の訴え(手形訴訟)を提起し、該訴訟(
前訴)は横浜地方裁判所昭和四九年(手ワ)第二二五号事件として係属した、(2)
 同裁判所は、昭和五〇年一月二一日、該約束手形の振出日欄は白地であるから、
上告人が右手形によつて手形上の権利を行使することはできないとして、上告人の
請求を棄却する旨の判決を言渡した、(3) 上告人は右手形判決に対し異議を申し
立てたが、右異議審においても白地部分を補充しないまま昭和五〇年三月一三日同
人の訴訟代理人弁護士が右異議を取り下げ、同年四月一四日被上告人がこれに同意
して右手形判決は確定した、(4) 上告人は、右判決確定後に前記白地部分を補充
した本件手形に基づき昭和五一年七月一七日本訴(後訴)を提起した、(5) 上告
人において右前訴の最終の口頭弁論期日までに白地部分を補充したうえで判決を求
めることができなかつたような特段の事情の存在は認められない、というのである。
右事実関係のもとでは、上告人が、本訴において該手形につき手形上の権利の存在
を主張することは、前訴確定判決の既判力により遮断され、もはや許されないもの
といわざるをえない。したがつて、これと同旨の原審の判断は正当として是認する
ことができる。また、記録にあらわれた本件訴訟の経過に照らせば、原判決に所論
釈明権不行使、審理不尽の違法があるとは認められない。論旨は、採用することが
できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    環       昌   一
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    寺   田   治   郎

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