弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人宮原正行の控訴趣意書記載の通りであるから、これを
引用する。
 論旨は、原判決には事実の誤認があり、被告人はAに対し傷害を与えたことはな
いというのである。然し、原判決掲記の証拠によれば、原判示の事実を優に認定す
ることができる。即ち右証拠によつて考察すれば、本件現場の畑は、元被告人の亡
父の所有であつたところ、農地解放によつて、B及びCの所有になつたことから被
告人と右B、C両名との間に、従来紛議を続けその耕作及び耕作物についての争を
繰り返していたものであるが、本件当日も、右Bの父である原審相被告人Aと被告
人との間に、俺の土地だから出て行けとか、出て行かないとか口論をなし、両名が
取組合の喧嘩を始め、被告人が振り上げた備中の柄が右Aの左胸部に当つて、原判
示の傷害を与えたものであることが認められる。尤も原審証人Dに対する尋問調書
には、弟Eは、その際無抵抗であつた旨の供述記載があるが、原審は、これを採用
しなかつたものである。原審は、原判決挙示の証拠を採用して、判示事実を認定し
たもので、これについて、経験法則及び証拠法則に違反する点はない。弁護人の所
論は、原審が自由な心証によつてなした証拠の取捨判断を独自の見解によつて、非
難し、延いて事実の認定を攻撃するもので、採用することができない。又弁護人
は、被告人の所為は正当防衛を以て論ずべきものであると主張するが、前記説示の
通りの状況の下において、被告人が<要旨>右Aに対して傷害を与えたもので、正当
防衛であると認めることはできない。なお弁護人は、原審公判期日におい
て、原審弁護人がなした証人尋問の請求及び却下決定が原審公判調書に記載されて
いないと主張し、記録を検するにその主張のような記載のないことも所論の通りで
あるが、若し弁護人の主張の通りであるとすれば、所定の期間内に調書の記載の正
確性について異議の申立をすることができるのであるが、記録を精査するも、その
ような異議の申立があつた事跡を見出し得ないので、その主張のような訴訟手続が
あつたものとは認め難く、仮りに所論のような証人尋問の請求があつたとしても、
原審は既に取り調べた証拠によつて、事案の認定をなすに足りるものとして、その
証拠調の請求を却下したものと認められ、審理の不尽もなく、訴訟手続に違法もな
い。論旨はすべて採用できない。
 よつて、刑事訴訟法第三百九十六条に則り、本件控訴を棄却し、当審に於て国選
弁護人に支給した訴訟費用は同法第百八十一条第一項に従い、被告人に負担させる
こととし、主文の通り判決する。
 (裁判長判事 河野重貞 判事 高橋嘉平 判事 山口正章)

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