弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人海老名利一及び被告人各提出の控訴趣意書記載のとお
り(いずれも事実娯認)であるから、これを引用する。
 各控訴趣意中原判示第一の(一)の事実に関する部分について。
 古物営業法施行規則第二一条第一項は「古物商が法第一六条の規定による確認を
するには、直接にその相手方の住所、氏名を確かめ、又は身分証明書、主要食糧購
入通帳、家庭用品購入通帳、定期乗車券等その相手方の住所、氏名、職業、年令を
確かめるに足りるものの呈示を受けなければならない。」と定めているのである
が、この規定は古物営業法第一六条により古物商の義務とされる任所、氏名等の確
認の方法を定めたものであ<要旨>るから、ここに「直接に相手方の住所、氏名を確
かめる」というのは、それが後段の身分証明書等の呈示を受ける方法の補充
的手段ではなく、独立の確認方法として規定されていることにも徴し、古物商がみ
ずから相手方の住所又は勤務先におもむいて本人の言う住所、氏名が間違いないか
どうかを確かめるなど、身分証明書等の呈示を受けるのと少なくとも同等以上の確
実性のある手段で確かめることをいい、従つて身分証明書等の呈示を受けない場合
には単に相手方に住所、氏名を問いただすだけでは足りないと解すべきである。原
判決挙示の右事実関係の証拠によると、被告人は本件腕時計二個の買受けに際し、
相手方のAに対し住所、氏名を尋ねてこれを記載させ(同人は中村一省という偽名
を用い、任所も違つていた)、同人の住所が夕張市a区だというので、たまたま夕
張市出身であつた被告人の妻ミチ子が同市の事情を尋ねて見たところ同人はよく知
つていたので、同市の者に相違ないと思つたというにとどまり、他に確実な確認の
手段を講じたことは認められず、また年令は全然確認していないことが認められ
る。もつとも、同日夕刻被告人がAの止宿しているという旅館に赴き、その女主人
に尋ねてAがそこに滞在していることを確かめたことはうかがわれるが、これは本
件買受けの後の原判示第二の(一)の買受けの際であつたことが認められるし、そ
の点をしばらくおいても、人が一時的に滞在するにすぎない旅館の主人に尋ねただ
けでは、前記規定による確認の義務を尽くしたものとはいえない。まして本件にお
いてはAが家出中の少年であることが推測されたものと認められるから、なおさら
十分な確認の手段を講ずる必要があつたといわなければならない。従つて、原判決
に所論のような事実誤認又は法令適用の誤りはない。論旨は理由がない。
 各控訴趣意中その余の部分について。
 原判決挙示の関係証拠を総合して認められる被告人は古物商として約五年の経験
があり、賍物故買罪又は古物営業法違反で処罰されたことが三回あること、原判示
第二の(一)の買受けに際し相手方のAは旅館に泊つており、家を出て来るとき親
の物を持つて来たと述べていたこと、Aが原判示第一の(一)の際高級腕時計二個
を安く売つていながら、引き続き原判示のように電池時計、レコードプレヤー、腕
時計、新品万年筆一七本など少年の所有物とは思われないような物を次々に売りに
来たこと、被告人がこれらをく値切つて買つていることなど諸般の情況に照らす
と、被告人は原判示第二の各買受けに際し、少なくとも当該の品が盗品であるかも
知れないとの認識を有していたものと推認するに足り、右事実にかんがみると被告
人の司法警察員に対する盗品だと感じた旨の供述も任意性のあるものと認められ
る。また、右の事実によれば原判示第一の(二)の所定の台帳に記載しなかつた所
為も、単なるつけ落しではなく、故意に記載しなかつたものと推認される(証第一
号の古物台帳によると、その後の万年筆のときは記載しているので一見つけ落しの
ようであるが、万年筆についても本数は記載されておらず、またAの年令は一度も
記載されていない。)。その他記録をよく調べてみても、原判決に所論のような事
実誤認のあることは認められない。論旨は理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三九六条により本件控訴を棄却すべきものとし、主文のとお
り判決する。
 (裁判長裁判官 矢部孝 裁判官 中村義正 裁判官 小野慶二)

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