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事件番号:平成20年(ワ)第2348号
事件名:損害賠償請求事件
H21.10.8裁判年月日:
裁判所名:京都地方裁判所
部:第4民事部
結果:一部認容
判示事項の要旨:
被告会社が被告木津川市から請け負った川の除草作業において,被告会社代表者
からの指示で一旦待避した後,川底に戻った被告会社従業員が,水位の急激な上昇
によって流され死亡したことについて,被告会社には,河川における作業の危険性
,,を十分には理解していなかった上記従業員に対し岸上への待避を指示しただけで
待避の理由を説明することなく,しかも,待避解除の指示があるまで待避するべき
ことを具体的に指示することがなかった過失がある(ただし,上記従業員にも,待
,。),避解除の指示を受けていないにもかかわらず川底に戻った過失があるとして
上記従業員の相続人である原告らの被告会社に対する民法709条に基づく損害賠
償請求を,3割の過失相殺減額を行って,一部認容する一方,被告木津川市には,
注文主として被告会社に対する注文又は指図について過失はないとして,原告らの
被告木津川市に対する民法716条に基づく損害賠償請求は棄却した事案
主文
1被告有限会社谷口工業は,原告aに対し,1322万2145円及びこれに
対する平成19年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
2被告有限会社谷口工業は,原告bに対し,1901万3205円及びこれに
対する平成19年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
3原告らの被告有限会社谷口工業に対するその余の請求及び被告木津川市に対
する請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,原告aに生じた費用の4分の3,被告有限会社谷口工業に生じ
,,た費用の4分の1被告木津川市に生じた費用の2分の1を原告aの負担とし
原告bに生じた費用の8分の5,被告有限会社谷口工業に生じた費用の8分の
1,被告木津川市に生じた費用の2分の1を原告bの負担とし,原告aに生じ
た費用の4分の1,同bに生じた費用の8分の7,被告有限会社谷口工業に生
じた費用の8分の5を被告有限会社谷口工業の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告らは,連帯して,原告a及び原告bに対し,それぞれ2502万015
3円及びこれに対する平成19年7月26日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,被告有限会社谷口工業(以下「被告会社」という)が,被告木津。
川市の公共工事(河川の除草作業)を請け負い,原告らの子であるcが被告会
社の従業員として上記除草作業に従事していて死亡した事故について,原告ら
が,①被告会社に対しては,労働契約上の安全配慮義務を怠ったとして民法4
15条に基づき,または,不法行為上の注意義務を怠ったとして民法709条
に基づき,また,②被告木津川市に対しては,上記除草作業の注文又は指図に
つき過失があったとして,民法716条に基づき,連帯して損害の賠償及びこ
れに対する上記事故の発生日である平成19年7月26日から支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2当事者間に争いのない事実など
()当事者等1
ア原告a及び原告bは,c(昭和59年5月26日)の父母であり,cが
平成19年7月26日に死亡したことにより,cの権利義務を各2分の1
の割合で承継した(甲3,15。)
イ被告会社は,木津川市内に本店を置く,管工事の請負,土木工事の請負
等を目的とする株式会社(特例有限会社)であり,主として上下水道工事
の請負を行っている。dは,昭和56年にeの屋号で事業を始め,平成1
2年に法人成りして被告会社を設立し,被告会社の代表取締役を務めてい
る。f(昭和29年7月26日生)は,昭和56年から現在までeついで
被告会社に勤務する従業員である。cは,中学校卒業後工務店等で稼働し
,,た後平成13年から平成16年まで被告会社にアルバイトとして稼働し
原告aが営む左官業の手伝いをした後,平成19年2月から被告会社に正
社員として勤務していた(甲24,乙B4。)
エ被告木津川市は,河川法100条に基づく準用河川である甲川を管理す
る地方公共団体である。gは,被告木津川市の建設部管理課河川公園維持
係の係長であり,hは,同係の主任である(乙A19。)
()請負契約の締結2
ア被告会社は,被告木津川市が平成19年6月21日に執行した「甲川及
び乙川除草作業(以下「本件工事」という)の入札(以下「本件入札」」。
という)に参加し,入札額が最低制限価額を上回り,かつ,参加者の入。
札額中最低額であったことから,落札人となった(甲1,乙A15。被)
告会社は,同月27日,被告木津川市との間で「甲川及び乙川除草作業」
の請負契約(以下「本件請負契約」という)を締結した(乙A3。本。)
件入札及び本件請負契約の内容は,概ね,以下のとおりである。
イ本件入札の概要
(ア)名称甲川及び乙川除草作業
(イ)執行平成19年6月21日午前11時00分
(ウ)落札金額157万5000円(消費税相当額を含む)。
(エ)予定価格192万8850円(消費税相当額を含む)。
(オ)最低制限金額127万7850円(消費税相当額を含む)。
(カ)落札率81.65パーセント
ウ本件請負契約の概要
(ア)工事名甲川及び乙川除草作業
(イ)工事場所木津川市相楽他地内
(ウ)工期平成19年6月28日から同年11月16日まで
(エ)請負代金157万5000円(うち消費税7万5000円)
()次の事故が発生した(以下「本件事故」という。3。)
ア発生日平成19年7月26日
イ事故現場淀川水系甲川の丙線丁駅南西約100メートル付近
(以下「本件事故現場」という)。
ウ関係者d,f及びc
エ事故態様甲川における除草作業の実施中,甲川の川底にいたf
及びcが水位の上昇により下流に流され,cが死亡した
(詳細については争いがある。。)
3争点
()本件事故態様1
()被告会社の注意義務違反(安全配慮義務違反)の有無2
()被告木津川市の注文・指図について過失の有無3
()被告木津川市の過失とcの死亡との間の因果関係の有無4
()過失相殺の可否5
()原告らの損害6
4争点に関する当事者の主張
()争点()(本件事故態様)について11
(原告らの主張)
ア平成19年7月26日午前から,f及びcは,dの指示の下,甲川周辺
の除草作業を行っていた。
,,。イ同日午後1時30分ころf及びcは甲川の川底の除草作業を始めた
その時点における甲川の水位は,平常どおり,約20ないし25センチメ
ートルであった。
ウ同日午後2時過ぎころ強い雨が降り始めたことから,f及びcは,dの
指示で,一旦除草作業を中断し,甲川の川底から岸上に上がった。f及び
cは,その数分後雨が小降りになったことから,川底の中州に置いてあっ
た道具を引き上げるために再度川底に降りた。その時点における甲川の水
位も,平常の水位と変わりなかった。
エ同日午後2時10分ころ,f及びcが川底から岸上に上がろうとした矢
先,突然,甲川の上流から高さ1メートルを超える鉄砲水が押し寄せ,f
及びcは,下流に流された。甲川の水位は,急速に上昇して短時間に約2
メートルに達した。
オfは,約300メートル下流に流された後,救出されたが,cは,流さ
れてから約1時間後に約1.2キロメートル下流で発見され,溺死により
死亡した。
(被告会社の主張)
ア原告らの主張アないし同ウは認め,同エオは否認する。
イ平成19年7月26日午後2時5分ころ,f及びcが,別紙図面1(被
〔〕),告会社第1準備書面平成21年1月9日付け3枚目のA地点付近で
甲川の川底で除草作業に従事していたところ,雨が降り始めた。
ウ同日午後2時8分ころ,dは,f及びcに対し,同図面のB地点付近か
,。,,ら手振りで川から上がるよう指示をしたf及びcはdの指示に従い
岸上に上がり,約10分間,同図面のC地点付近で待機したが,道具を川
底に置いたままであった。dは,同図面のD地点付近で待機していた。
エ同日午後2時18分ころ,雨が小降りになったため,fは,dの許可を
得ないまま,cに対し「自分が取ってくるからお前は待っていろ」と指,
示して,川底に降りた。このとき,cも,fの指示に従わず,fに続いて
川底に降りた。
オ同日午後2時20分ころ,f及びcが道具を持ち上げたとき,甲川の上
流の水位が上がるのが見え,一気に鉄砲水が押し寄せ,f及びcが下流に
流された。
カ同日午後2時20分ないし21分ころ,dは,同図面のD地点で竹竿を
f及びcに差し出し,f及びcは,これに掴まったが,fは,dを引き込
みそうであったことから,自ら手を離し,間もなくcも手が離れ,再び流
された。
キ同日午後2時21分ないし22分ころ,fは,同図面のE地点で二練梯
子に掴まったが,後から流されてきたcを助けるため,手を離した。
クdは,流されていくf及びcを追い掛け,同日午後2時23分,同図面
のF地点付近で被告会社の事務所に携帯電話をかけ,消防署に連絡をする
よう指示した。
ケその後,fは,自力で岸上にはい上がったが,cは,同日午後3時15
,.,,分ころ12キロメートル下流で発見されi病院に救急搬送されたが
同日午後3時45分ころ,同病院において死亡が確認された。
(被告木津川市の主張)
不知
()争点()(被告会社の注意義務違反〔安全配慮義務違反〕の有無)の主張22
(原告らの主張)
ア被告会社は,本件事故当時,cを雇用していたのであるから,cに対し
て,労働契約上の安全配慮義務(具体的には,労働者が労務提供のため設
置する場所,設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務
を提供する過程において,労働者の生命及び身体等を危険から保護するよ
う配慮すべき義務)を負っていた。
イ本件では,本件事故当時,f及びcが除草作業を行っていた場所は,護
岸の高さが約3ないし4メートルあり,梯子がなければ川底から岸上に上
がることができない状態であった。それゆえ,被告会社は,f及びcが川
底で除草作業を行っている場合において,強い雨が降ったときには,すぐ
さま同人らに対し,川底における作業の中止と岸上での待機を命じ,水位
の危険な上昇がないことを確認するまでは,同人らが川底に降りることを
制止するべき注意義務があった。
ウしかるに,d(被告会社代表者)は,上記注意義務を怠った過失が認め
られる。
エしたがって,被告会社が,民法415条又は709条の責任を負うこと
は明らかである。
(被告会社の主張)
ア原告らの主張アないしウを否認し,同エは争う。
イ被告会社が,一般的に労働者に対して安全配慮義務を負っていることは
認める。しかしながら,本件事故当日,f及びcは,dが川底から待避の
指示を出したことを受けて川底から岸上に上がり,その後,dが待避解除
の指示を出していないにもかかわらず,再び川底に降りて本件事故に遭っ
た。しかも,f及びcが川底に再び降りているのを認めた直後に,本件事
故が発生したため,f及びcに再度待避の指示を出す時間的余裕がなかっ
た。
ウしたがって,被告会社が,民法415条又は709条の責任を負うこと
はない。
()争点()(被告木津川市の注文・指図について過失の有無)の主張33
(原告らの主張)
ア請負契約の注文者は,注文又は指図についてその注文者に過失があった
ときは,請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を
負う。注文者が請負人に対する損害防止措置の指示を怠った場合は,注文
又は指図について過失があるものというべきである。
イ本件事故現場である甲川は,平時の水位は,20ないし25センチメー
トルである。しかし,本件事故当時,強い雨が降り,一旦小雨となった数
分後に,鉄砲水のごとく短時間に水位は2メートルまで上昇した。
このように,甲川の水位が急激に上昇した原因は,甲川上流の丁ニュー
タウン開発にある。すなわち,甲川上流の宅地開発により,雨水が地中に
浸透することなく,暗渠等の排水設備を通じて甲川に直接流れ込むように
なったため,甲川流域に強い雨が降った場合,一定の時間差の後,甲川に
鉄砲水が発生する危険性が高まった。
ウ被告木津川市は,甲川の危険性(降雨の後,急激に水位が上昇する可能
性が高いこと)を知っていたか,又は,容易に予測し得た。その理由は,
以下のとおりである。
(ア)甲川は,木津川市が管理している河川である。
(イ)木津川市管理課の担当者が,新聞記者の取材に対して「甲川は上流,
部が宅地化され,雨が降ると地中に浸透せずに流れ込むため,急激に水
が上昇する」旨回答している。
(ウ)平成9年7月13日,本件事故現場と同一の場所で,大雨による増水
から右岸側ブロック積護岸が約58メートルにわたって崩壊し以下本(「
件護岸崩壊事象」という,木津川市(平成9年当時,木津川町)に。)
よって復旧工事が行われた。
エしたがって,被告木津川市は,被告会社に対し,本件工事を実施する前
に,甲川の危険性(降雨の後,急激に水位が上昇する可能性が高いこと)
について告知するなど,本件工事の従事者に被害が及ばないような措置を
講ずるべき注意義務があった。
オしかるに,hとdとの間で,本件工事の作業範囲等に関する打合せがな
された際,hは,甲川の危険性について何ら説明をしなかった。
カしたがって,被告木津川市は,民法716条又は709条に基づき,本
件事故に関し,cに生じた損害を賠償するべき義務を負う。
キ被告木津川市の主張イウエを争う。
(ア)被告木津川市には,本件事故の予見可能性があった。
本件事故の原因から推測すると,過去に本件事故現場付近で鉄砲水が
発生していないものとは考えにくいが,仮に,過去,本件事故現場付近
で鉄砲水が発生していなかったとしても,被告木津川市には本件事故の
予見可能性があった。その理由は,以下のとおりである。
甲川の流域に丁ニュータウンの開発が開始されたのは平成元年前後か
らであり,大規模な宅地開発が一気に完成したものではなく,約20年
前から徐々に緑の丘陵地が宅地に変更され,最終的に鉄砲水が発生する
ほどに甲川流域全体の保水力が失われていった。すなわち,甲川におけ
る鉄砲水発生の危険性は,徐々に高くなっていき,本件事故当時におい
ては,上記危険性が極めて高くなっていた。したがって,仮に過去に本
件事故現場付近で鉄砲水が発生していなかったとしても,被告木津川市
には本件事故発生の予見可能性があった。
(イ)被告木津川市には,本件事故発生の結果回避可能性があった。
dが,f及びcに対して岸上へ上がるよう指示したのは,鉄砲水の発
生を想定したからではない。また,f及びcは,生命に対する差し迫っ
た危険を回避するために,上記指示に従ったものではない。
,(),(,被告木津川市が被告会社dに対して甲川の危険性降雨の後
急激に水位が上昇する可能性が高いこと)を説明していれば,dは,鉄
砲水の発生を想定して,f及びcに対し,再度川底に入ることのないよ
う厳命した可能性が高いし,f及びcもdの指示・命令の有無に関わら
ず,生命の危険を冒してまで高価ではない道具を取るため再度川底に降
りることはなかった。したがって,被告木津川市には,本件事故発生の
結果回避可能性があった。
(ウ)被告木津川市は,本件工事に関する事故防止のための注意義務を尽く
していない。
個々具体的な現場特有の危険性がある場合,又は現場特有の危険性が
予見できる場合には,注文者は,現場特有の危険性に則した具体的な災
。,,害防止措置の指示を行うべきである被告木津川市は被告会社に対し
土木工事における請負人の一般的な注意義務について記載しているに過
ぎない共通仕様書を交付しただけであるから,本件工事に関する事故防
止のための注意義務を尽くしているとはいえない。
(被告木津川市の主張)
ア原告の主張アないし同オは否認し,同カは争う。
イ被告木津川市には,本件事故発生の予見可能性がない。その理由は,以
下のとおりである。
(ア)過去に同種事故の発生がない。原告が指摘する本件護岸崩壊事象の発
生原因は,河川の洗掘によるものであり,大雨による増水ではない。
(イ)甲川は,特に危険性を有する河川ではない。
一般に,いかなる河川も降雨量が多ければ急激に水位が上昇するので
あり,反対に,降雨量が少なければ急激に水位が上昇することはない。
本件では,本件事故当時,本件事故現場付近において,比較的強い雨
が降っていたというのであるから,急激に水位が上昇したとしても,そ
れは甲川が特に危険性を有する河川ということにはならない。現に,2
0年来行ってきた甲川の除草作業において,従前請け負った業者から甲
川が特別な危険を有する河川であるとの報告を受けたこともなく,周辺
住民から,甲川で急激な水位上昇があるとの指摘を受けたこともなかっ
た。
ウ被告木津川市には,本件事故発生の結果回避可能性がない。
(ア)dは,本件事故当時,降雨のため,川底で除草作業を継続することの
危険性を認識し,f及びcに対して,一旦除草作業を中断させ,岸上へ
上がるよう指示し,同指示によって実際にf及びcは,岸上へ待避して
いる。
(イ)現場代理人(d)の指示がないにもかかわらず,作業員(f及びc)
が無断で再び川底に降りたという,注文者が想定できない行為によって
本件事故が発生したものであるから,被告木津川市には,本件事故発生
の結果回避可能性がない。
エ被告木津川市は,本件工事に関する事故防止のための注意義務を尽くし
ている。
(ア)本件工事は,入札参加指名業者を建設工事等競争入札業者選定会で決
定し,指名業者に対して,特記仕様書(乙A1)を含む入札通知書及び
設計図書一式を有償で交付して,指名競争入札の方法により落札者を決
定した。被告会社は,設計図書一式(位置図を含む)を参考に,現場。
状況を確認した上で落札した。
(イ)特記仕様書(乙A1)には「土木工事共通仕様書(案(平成16,)」
年2月,京都府(以下「共通仕様書」という(乙A2)に準じて施)。)
工するほか,特記仕様書により施工する旨規定されている。
(ウ)共通仕様書には「請負者は,土木工事安全施工技術指針(国土交通,
省大臣官房技術審議官通達,平成13年3月29日)及び建設機械施行
安全技術指針(建設省建設経済局建設機械課長平成6年11月1日)を
参考にして,常に工事の安全に留意し現場管理を行い災害の防止を図ら
なければならない」旨及び「請負者は,豪雨,出水,土石流,その他天
災に対しては,天気予報などに注意を払い,常に災害を最小限に食い止
」。めるため防災体制を確立しておかなくてはならない旨規定されている
(エ)以上のとおり,被告木津川市は,本件工事を被告会社に注文するにあ
たって,特記仕様書及び共通仕様書を交付することをもって,適切な指
図及び注文をしているのであって,本件工事に関する事故防止のために
注意義務を尽くしている。
()争点()(被告木津川市の過失とcの死亡との間の因果関係の有無)44
(原告らの主張)
アhとdとの間で,本件工事の作業範囲等に関する打合せがなされた際,
,(,)hが甲川の危険性降雨の後急激に水位が上昇する可能性が高いこと
について具体的な説明をしていれば,f及びcが道具を引き上げるために
川底に降りるという危険な行為に及ぶことはなく,cが本件事故により死
亡することはなかった。
イしたがって,被告木津川市の過失とcの死亡との間に相当因果関係があ
ることは明らかである。
(被告木津川市の主張)
ア原告らの主張アは否認し,同イは争う。
イdは,本件事故当時,強い雨が降ったために,川底で除草作業を継続す
ることの危険性を認識し,f及びcに対して,一旦除草作業を中断させ,
岸上へ上がるよう指示し,同指示によって実際にf及びcは,岸上へ待避
している。このことからみて,被告会社は,本件工事に伴う危険性をふま
え,被告木津川市から遵守を求められていた注意義務を尽くしているもの
というべきである。
エしたがって,仮に,被告木津川市に何らかの過失があったとしても,d
が,f及びcに対して,一旦除草作業を中断させ,岸上へ上がるよう指示
した時点において,被告木津川市の過失とcの死亡との間の因果関係は切
断されたものというべきである。
()争点()(過失相殺の可否)55
(被告木津川市の主張)
アcは,降雨が続いている中,現場代理人(d)の指示があるまで,岸上
で待機するべき注意義務があった。
イしかるに,cは,上記注意義務を怠り,dの指示がないのに無断で再び
甲川の川底に入るという非常識な行為をしたものである。
ウしたがって,仮に,被告木津川市に民法716条の責任が認められたと
しても,cに相当割合の過失相殺がなされるべきであり,被告木津川市の
過失割合は,1割を上回るものではない。
(被告会社の主張)
ア被告木津川市の主張アイを援用する。
イ仮に,被告会社に民法415条の責任又は709条の責任が認められた
としても,cに相当割合の過失相殺がなされるべきである。
(原告らの主張)
ア被告木津川市の主張アイは否認し,同ウ及び被告会社の主張イは争う。
イ被告木津川市が被告会社に対して,甲川の危険性(降雨の後,急激に水
位が上昇する可能性が高いこと)を告知していなかったので,cも上記危
険性を認識していなかった。したがって,cにおいては,最初にdの指示
に従い,fとともに川底に道具を置いたまま岸上に上がった際にも,その
行為が鉄砲水による生命に対する差し迫った危険を回避する行動であると
いう認識を有していなかったため,雨が小降りになった後に川底に置いた
ままの道具を引き上げるため,再度川底に降りたのであり,cの上記行為
は「非常識な行為」ではない。,
ウしたがって,仮に,cがdの了解を得ずに再度川底に降りたという事実
があったとしても,甲川の危険性(降雨の後,急激に水位が上昇する可能
性が高いこと)を告知しなかった被告木津川市との関係において,cがd
の了解を得ずに再度川底に降りたことをもって,過失相殺の対象とするの
は,cにとって著しく酷であり,正義に反する。
()争点()(原告らの損害)の主張66
(原告らの主張)
ア葬儀関係費用225万6937円
(ア)葬儀費用150万円
(イ)墓石代23万円
(ウ)墓地使用料19万0937円
(エ)仏壇購入費33万6000円
(オ)小計225万6937円
イ診断書料3万円
ウ逸失利益2601万4429円
cは,本件事故当時23歳であり,被告会社の従業員として勤務してい
たものであるから,逸失利益算定にあたっての基礎収入を,平成18年度
賃金センサス男子・中卒・20歳ないし24歳の平均年収296万530
0円とするべきである。就労可能年数を43年(ライプニッツ係数17.
5459)とし,生活費控除率を50パーセントとすると,上記金額とな
る。計算式は,296万5300円×(1.0−0.5)×17.545
9=2601万4429円(1円未満切り上げ)である。
エ慰謝料2200万円
オ小計5030万1366円
カ弁護士費用500万円
キ小計5530万1366円
ク既払金控除後の小計5004万0306円
遺族補償一時金480万2000円及び葬祭料45万9060円(合計
526万1060円)を控除すると,上記金額となる。
ケ相続各2502万0153円
原告a及び同bは,cの損害賠償請求権を,各2分の1の割合で相続し
た。計算式は,5004万0306円×1/2=2502万0153円で
ある。
(被告らの主張)
不知ないし争う。
第3当裁判所の判断
1争点()(本件事故態様,()(被告会社の注意義務違反〔安全配慮義務違12)
反〕の有無)について
()前記当事者間に争いのない事実等,証拠(乙A19,乙B1ないし4,証1
人g,証人f,被告会社代表者dのほか後掲のもの)及び弁論の全趣旨によ
れば,以下の事実を認めることができる。
ア本件請負契約の内容
被告会社は,前判示のとおり,主として,上下水道工事の請負を行って
いる。被告会社は,従前から,被告木津川市発注の上記工事を請け負い,
工事を施工していたことから,京都府発行の共通仕様書(乙A2)を被告
木津川市から有償で入手していた(乙A16の1ないし3,乙B4。)
被告会社は,平成19年6月27日,被告木津川市との間で本件請負契
約を締結した。被告会社は,被告木津川市との間で,本件請負契約におい
て,仕様書を含む設計図書に従って上記契約を履行すること(乙A3−1
頁,現場代理人(本件請負契約の履行に関し,工事現場に常駐し,その)
運営,取締り等を行う)を定め被告木津川市に通知すること(同3頁)。
を合意した。仕様書のうち,特記仕様書(乙A1)には「共通仕様書に,
,。」,,準じて施工するほか特記仕様書により施工するものとするとまた
共通仕様書(乙A2)には「請負者(被告会社)は『土木工事安全施,,
工技術指針』を参考にして,常に工事の安全に留意し現場管理を行い災害
の防止を図らなければならない(乙A2−16頁「請負者(被告会。」),
社)は,施工計画の立案に当たっては,既往の気象記録及び洪水記録並び
に地形等現地の状況を勘案し,防災対策を考慮の上施工方法及び施工時期
を決定しなければならない(同−17頁)とそれぞれ規定されている。。」
そして,上記技術指針(乙A17)には「気象の状況に応じて作業を中,
止すること(乙A17−32頁「河川及び海岸工事を安全に実施する」),
ため,次の事項について調査を行い,施工方法の決定に役立たせること。
①上流域の降雨量と水位,流量の状況及びダムの状況,②水深,地形,地
質状況(同140頁「出水,暴風雨,波浪等の際には,避難又は公衆」),
災害防止の処置を講じること「避難場所,方法,設備等はあらかじめ」,
検討し,準備しておくこと(同141頁「鉄砲水が起こるおそれのあ」),
る河川では,特に出水に対しての避難対策を講じておくこと(同142」
頁)と規定されている。
イ本件事故現場付近の状況等
(ア)甲川の状況は,別紙図面2(甲4)記載のとおりである。甲川の起点
上流には丁住宅地別紙図面2の赤色で囲まれた部分以下本(),()(「
件住宅地」という)が広がっており,本件住宅地の暗渠から甲川へと。
雨水等が流れ込むようになっている(暗渠の配置は,別紙図面2の水色
で示した部分である。甲川の終点(下流)には戊川があり,甲川は。)
戊川に合流して河口へと向かう。甲川の全長は,約780メートルであ
る(甲14の1。)
(イ)本件事故現場付近の状況は,別紙図面1のとおりである。本件事故現
場付近における甲川の川幅は約4.8メートルである(甲14の1,弁
論の全趣旨。晴天時における甲川の水位は,約20ないし25センチ)
メートルである。
ウ本件事故当日の雨量等
平成19年7月26日(本件事故当日)の己観測所及び庚観測所におけ
る雨量の観測結果は,以下のとおりである(甲17の1,2,乙A10の
1,2。なお,本件事故現場と上記各観測所及び戊川の位置関係は,別)
紙図面3(甲17の6)記載のとおりである。
(ア)己観測所午後2時10分・0㎜/h
同2時20分・1㎜/h
同2時30分・2㎜/h
同2時40分・3㎜/h
同2時50分・0㎜/h
(イ)庚観測所午後2時10分・1㎜/h
同2時20分・0㎜/h
同2時30分・0㎜/h
同2時40分・0㎜/h
同2時50分・0㎜/h
また,同日の辛における戊川の水位の観測結果は,以下のとおりである
(甲17の3,4,乙A9の1,2。)
(ア)午後2時・0.01メートル
(イ)午後2時10分・0.00メートル
(ウ)午後2時20分・0.00メートル
(エ)午後2時30分・0.14メートル
(オ)午後2時40分・0.34メートル
(カ)午後2時50分・0.41メートル
(キ)午後3時・0.41メートル
(ク)午後3時10分・0.40メートル
(ケ)午後3時20分・0.36メートル
(コ)午後3時30分・0.69メートル
(サ)午後3時40分・0.80メートル(最高値)
(シ)午後3時50分・0.60メートル
(ス)午後4時・0.54メートル
(セ)午後5時・0.45メートル
(ソ)午後6時・0.33メートル
エ本件事故の態様等
(ア)被告木津川市は,従前から,甲川の管理の一部として,川底の草刈り
を含む除草作業を業者に発注して実施してきた(乙A19。被告会社)
は,今回,初めて上記の除草作業を請け負った(したがって,f及びc
が川底の草刈りを行うのは,今回が初めてである)が,前判示のとお。
り,従前から共通仕様書を入手しており,また,特記仕様書にしたがっ
て工事を施工しなければならないことを承知していた。dは,被告木津
川市から,甲川の上流は本件住宅地であり,本件住宅地の雨水が甲川に
来るとの説明を受けた(被告会社代表者d−16,17頁。)
(イ)被告会社は,平成19年7月26日,現場代理人であるdが監視業務
を,従業員であるf及びcが現実の作業をそれぞれ担当して,上記の除
草作業を行っていた。
(ウ)同日午後1時30分ころ,f及びcは,丙丁駅南側で甲川の川底の草
刈りを始めた。この時点における甲川の水位は,20ないし25センチ
メートル程度であった。
(エ)同日午後2時5分ころ,f及びcが,別紙図面1のA地点付近で,甲
川の川底の草刈りをしていたところ,強い雨が降り始めた。
(オ)同日午後2時8分ころ,同図面のB地点付近で監視業務に従事してい
たdは,c及びfに対し,右手を上に上げて川底から上がるように指示
し,f及びcは,同図面のA地点付近にフォーク,レーキ等の道具(以
下「本件道具」という)を置いたまま,岸上に上がった(dは「上。,
がれ」と声を掛けたが,距離が離れていたため,f及びcまで届かなか
った。f及びcは,dの声は聞こえなかったものの,dの合図を見て,
上記のとおり待避した。。)
(カ)同日午後2時8分ころから同日午後2時18分ころまでの間,dは,
同図面のD地点付近(丙線高架下)で待機し,f及びcは,同図面のC
地点付近(壬線高架下)で待機した。同図面のD地点とC地点とは距離
,,,が離れその間で湾曲しまた雑草が生い茂っていたため見通しが悪く
D地点付近で待機していたdから,C地点付近で待機していたf及びc
の様子を見ることは困難であったが,dは,雨が降れば増水することは
常識であり,夕立のような雨であったことから,f及びcが川底に降り
ることはないものと考えていた(被告会社代表者d−15頁。これに)
対し,fは,雨宿りないし降雨中の休憩が目的であると考えており,危
険だから上がろうという認識ではなかった(証人f−12頁。)
(キ)同日午後2時18分ころ,雨が小降りになったことから,fは,増水
して本件道具が流されないように,増水する前に本件道具を取って来よ
うと考え(証人f−16,17頁,cに対し待機しているようにと指)
示し,川底に降りて本件道具を取りに戻ったが,cも,fに続いて川底
に降りて本件道具を取りに戻った。
(ク)同日午後2時20分ころ,f及びcは,本件道具を持ち上げたとき,
甲川の水位が急激に上昇し,下流に流された。dは,そのころ,f及び
cが川底に降りていることに気付いたが,待避の指示を出す間もなく,
f及びcが下流に流された。
(ケ)同日午後2時20分ないし21分ころ,同図面のD地点で待機してい
たdは,上記D地点で竹竿を差し出したが,f及びcを救出することは
できなかった。同日午後2時21分ないし22分ころ,fは,同図面の
E地点で被告会社が設置していた二連梯子(乙B4−3頁)に掴まった
が,cは掴まることができなかった。同日午後2時23分ころ,dは,
流されていくf及びcを同図面のF地点まで追い掛け,携帯電話で被告
会社の事務所に指示して,被告会社の事務所から消防・警察・f及びc
の家族に連絡を行った。dは,f及びcを見失い,その後,fは,自力
で岸上にはい上がったが,cは,同日午後3時15分ころ,1.2キロ
メートル下流で発見され,i病院に救急搬送されたが,同日午後2時3
0分ころ(推定)死亡したとの診断を受けた(甲3。)
オ事後措置
京都南労働基準監督署長は,被告木津川市に対し,本件事故後,①同種
工事の発注に際して,あらかじめ作業場所から上流の河川及びその周辺の
状況を調査し,記録しておくこと,②労働者に危険を及ぼすと認められる
,,調査結果があればその情報を請負業者に書面等により必ず伝達すること
③本件工事は,過去約20年間にわたり毎年実施されていることから,本
件事故の発生原因を究明するとともに,その予防策を講じた上で,工事の
発注を行うことを文書指導した(甲23,調査嘱託の結果。)
被告木津川市は,京都南労働基準監督署の上記指導を受けて,本件事故
現場付近に,水位センサー及び赤・黄回転灯を設置した(乙A4ないし
6。)
カその他
本件事故発生の前である平成9年7月13日,同月7日からの梅雨前線
,,,による豪雨のため本件事故現場の下流で延長約58メートルにわたり
甲川右岸側護岸ブロックが崩壊した(具体的には,護岸ブロックにクラッ
クが入り,護岸ブロックの背面が陥没し,護岸ブロックの背面に空隙が生
じ,護岸ブロックが沈下した(本件護岸崩壊事象(甲14の1。本。)))
件護岸崩壊事象は,河川の洗掘により生じたものである(甲14の1−5
4,63ないし65枚目。その際,水位は,甲川の横の歩道まで達して)
いた(甲14の1−47枚目。)
本件事故と同様の事故(甲川の水位が上がり,川底で草刈りをしていた
作業員が下流に流される事故)が本件事故前に発生したことはない。
()前判示のとおり,d(被告会社代表者)は,被告木津川市から,甲川の上2
,,流は本件住宅地であり本件住宅地の雨水が来るとの説明を受けていたこと
dは,現場代理人として,本件請負契約の履行に関し,工事現場に常駐し,
その運営,取締り等を行うべき立場にあったこと,dは,本件事故当日(平
成19年7月26日,現場代理人として,別紙図面1のB地点付近で,従)
業員であるf及びcの作業を監視していたこと,dは,強い雨が降り始めた
ことから,同図面のA地点付近で,甲川の川底の草刈りをしていたf及びc
に対し,右手を上に上げて川底から上がるように指示し,f及びcは,同図
面のA地点付近に本件道具を置いたまま,岸上に上がり,同図面のC地点付
近(壬線高架下)で待機したこと(dは「上がれ」と声を掛けたが,距離,
が離れていたため,f及びcまで届かなかったこと,dは,同図面のC地)
点から距離が離れ,その間で湾曲し,また雑草が生い茂っていたため見通し
が悪い,同図面のD地点付近で待機したこと,fは,雨が小降りになったこ
とから,増水して本件道具が流されないように,増水する前に本件道具を取
って来ようと考え,川底に降りて本件道具を取りに戻り,同図面のC地点で
待機するように指示されたcも,fに続いて川底に降りたこと,dは,同図
面のD地点から同図面のC地点で待機していたf及びcの様子を見ることは
困難であったが,雨が降れば増水することは常識であり,夕立のような雨で
,,あったことからf及びcが川底に降りることはないものと考えていたこと
,(,f及びcが川底の草刈りを行うのは今回が初めてであることしたがって
f及びcは,川底の草刈りに伴う危険性を十分には理解していなかったこと
が推認できること)がそれぞれ認められる。上記認定の事実関係によれば,
①d(被告会社代表者)は,本件事故当日,本件事故現場で雨が降り始めた
時点において,甲川の水位が上昇し,川底で作業していたf及びcに危険が
及ぶ可能性を具体的に予見することができたこと,②dは,上記可能性を具
体的に予見したことから,f及びcに対し,岸上への待避を指示したこと,
③dは,f及びcの待機場所(同図面のC地点付近)と距離が離れているこ
と等で見通しの悪いD地点付近で待機しf及びcに対し待避の理由水,,,(
位が上昇しf及びcに危険が及ぶ可能性があること)を説明し,待避解除の
指示があるまで待避するべきことを具体的に指示することがなかったこと,
④fは,水位が上がる可能性を認識していたものの,dが岸に上がるように
指示した理由を雨宿りであると理解し,雨が小降りになったことから,増水
する前に本件道具を取って来ようと考え,川底に降りて本件道具を取りに戻
り,cがこれに追随したことがそれぞれ認められる。
()以上によれば,d(被告会社代表者)は,本件事故当日,本件事故現場で3
雨が降り始めた時点において,甲川の水位が上昇し,川底で作業していたf
及びcに危険が及ぶ可能性を具体的に予見することができ,かつ,具体的に
予見したにもかかわらず,河川における作業の危険性を十分には理解してい
なかったf及びcに対し,岸上への待避を指示しただけで,待避の理由(水
位が上昇しf及びcに危険が及ぶ可能性があること)を説明することなく,
しかも,待避解除の指示があるまで待避するべきことを具体的に指示するこ
とがなかったため,本件事故が発生したから,被告会社は,民法709条に
基づき,cに生じた損害を賠償するべき義務を負う。
1争点()(被告木津川市の注文・指図について過失の有無)について3
()前判示のとおり,被告会社は,被告木津川市との間で締結した本件請負契1
約において,仕様書を含む設計図書に従って上記契約を履行すること等を合
意し,共通仕様書には「請負者(被告会社)は『土木工事安全施工技術,,
指針』を参考にして,常に工事の安全に留意し現場管理を行い災害の防止を
図らなければならない「請負者(被告会社)は,施工計画の立案に当た。」,
っては,既往の気象記録及び洪水記録並びに地形等現地の状況を勘案し,防
災対策を考慮の上施工方法及び施工時期を決定しなければならない」とそ。
れぞれ規定されていたこと,甲川の上流には,本件住宅地が広がり,本件住
宅地の暗渠から甲川へと雨水等が流れ込むようになっていること,dは,被
告木津川市から,甲川の上流は本件住宅地であり,本件住宅地の雨水が甲川
に来るとの説明を受けたこと,被告木津川市は,従前から,甲川の管理の一
部として,川底の草刈りを含む除草作業を業者に発注して実施してきたが,
本件事故と同様の事故(甲川の水位が上がり,川底で草刈りをしていた作業
員が下流に流される事故)が本件事故前に発生したことはないこと,dは,
本件事故当日,現場代理人として,従業員であるf及びcの作業を監視して
いたところ,強い雨が降り始めたことから,甲川の川底で草刈りをしていた
f及びcに対し,右手を上に上げて川底から上がるように指示し,f及びc
は,岸上に上がったことがそれぞれ認められる。
()上記認定の事実関係,殊に,共通仕様書には,被告会社が地形等現地の状2
況を勘案して防災対策等を考慮の上施行方法を決定しなければならないもの
とされていること,d(被告会社代表者)は,被告木津川市から,本件事故
現場のある甲川の上流は本件住宅地であり,本件住宅地に降った雨水が甲川
に来るとの説明を受けた上で,本件事故当日,甲川の川底で草刈りをしてい
たf及びcに対し,待避の指示をしていることからすれば,被告会社は,本
件事故現場付近の地形等に関する被告木津川市の説明を受け,本件事故現場
付近の地形及び気象状況等を勘案して,実際に防災対策(従業員に対する待
避の措置)を講じていたことが認められる。
以上によれば,被告木津川市に,注文主として被告会社に対する注文又は
指図について過失があるとの原告らの主張は,理由がない。
()なお,前判示のとおり,被告木津川市は,本件事故後,京都南労働基準監3
督署長から受けた文書指導を受け,本件事故現場付近に,水位センサー及び
赤・黄回転灯を設置したこと,河川の洗掘により本件護岸崩壊事象が生じた
際,甲川の水位が歩道まで達していたことがそれぞれ認められ,本件事故前
に上記措置を講じることが望ましく,また,本件請負契約締結時に被告会社
に対し,本件護岸崩壊事象が生じた際の水位の高さについて具体的に説明し
ていた場合に,本件事故の発生を回避することができた可能性があることを
否定することはできないものの,上記事実から,被告木津川市に上記過失が
あったものと推認することはできない。
()したがって,争点()(被告木津川市の過失とcの死亡との間の因果関係44
の有無)について判断するまでもなく,原告らの被告木津川市に対する請求
は,理由がない。
1争点()(過失相殺の可否)について5
()前判示のとおり,fは,雨が小降りになったことから,増水して本件道具1
が流されないように,増水する前に本件道具を取って来ようと考え,川底に
降りて本件道具を取りに戻り,別紙図面1のC地点付近で待機するように指
示されたcも,fに続いて川底に降りたこと,dは,雨が降れば増水するこ
とは常識であり,夕立のような雨であったことから,f及びcが川底に降り
ることはないものと考えていたことがそれぞれ認められる。上記認定の事実
関係によれば,cには,dから待避解除の指示を受けていないにもかかわら
ず,川底に本件道具を取りに戻った過失があるものというべきである。
()もっとも,前判示のとおり,cは,fから別紙図面1のC地点付近で待機2
するように指示されたとはいえ,被告会社における立場(fは昭和56年か
ら被告会社の前身であるeに勤務しているのに対し,cは平成19年2月か
ら被告会社に正社員として勤務していた)を考慮すると,川底に本件道具。
を取りに戻るfに追随したことにはやむを得ないところがあったものと考え
られる。
()そして,本件事故における過失割合は,c30パーセント,被告会社703
パーセントと認めるのが相当である。
1争点()(原告らの損害)について6
()証拠(後掲のもの)によれば,cは,以下のとおり損害を被ったものと認1
められる。
ア葬儀関係費用150万円
説明・証拠(甲24のほか後掲のもの)によれば,cの葬儀費用として
合計242万8327円を要したこと(内訳は,葬儀代・会食費等128
万1390円〔甲7の1ないし3,斎場使用料6万円〔甲7の4,墓〕〕
石工事代(巻石工事代)23万円〔甲8,墓地使用料として東山墓地永〕
代使用に係る共益費11万5000円及び平成19年度使用料7万593
7円〔甲9,10,仏壇仏具費用33万6000円〔甲11,僧侶に〕〕
対する礼金33万円である)を要したことが認められる。弁論の全趣旨。
によれば,このうち150万円を本件事故と相当因果関係ある損害と認め
るのが相当である。
イ死体検案書作成料3万円
説明・cの死体検案書作成料として,上記金額を認めるのが相当である
(甲3,12。)
ウ逸失利益2285万0588円
,(,,,説明・当事者間に争いがない事実等証拠甲2425原告a本人
被告会社代表者d)及び弁論の全趣旨によれば,cは,中学卒業後,平成
19年2月から被告会社に正社員として勤務し,平成19年2月から同年
7月までの約半年間に73万4800円(1年間では約146万9600
円〔平成19年度賃金センサス産業計・企業規模計・男性労働者・小学・
新中卒・20歳から24歳までの平均年収287万5900円の約51.
1パーセント)の収入を得ていたこと,そして,控えめに見て,cは,〕
本件事故に遭わなければ,平成19年度賃金センサス産業計・企業規模計
・男性労働者・小学・新中卒・全年齢平均による年収431万2400円
の60パーセントの収入を67歳まで得ることができた蓋然性を認めるこ
とができる。そこで,基礎収入を上記年収431万2400円の60パー
セント相当額258万7440円,生活費控除率を50パーセントとし,
ライプニッツ係数を乗じて中間利息を控除すると,上記金額となる。計算
式は,258万7440円×(1.0−0.5)×17.6627=22
85万0588円(1円未満切り捨て)である。
エ慰謝料2500万円
,,,説明・本件事故の態様cの年齢家族関係等諸般の事情を考慮すると
上記金額を認めるのが相当である。
オ小計4938万0588円
カ過失相殺減額後の損害3456万6411円
説明・前判示のとおり,本件事故における過失割合は,c30パーセン
ト,被告会社70パーセントと認めるのが相当であるから,30パーセン
トの過失相殺減額を行うと上記金額となる。計算式は,4938万058
8円×(1.0−0.3)=3456万6411円(1円未満切り捨て)
である。
()原告aの損害2
ア相続1728万3205円
説明・原告aは,cの上記損害賠償請求権3456万6411円2分の
1の割合で承継した。計算式は,3456万6411円÷2=1728万
3205円(1円未満切り捨て)である。
イ既払金控除後の損害1202万2145円
説明・証拠(甲13)によれば,原告aは,労働者災害補償保険から合
計526万1060円(内訳は,遺族補償一時金480万2000円,葬
祭料45万9060円である)の給付を受けているから,これを原告a。
の損害から控除する(逸失利益から遺族補償一時金を控除し,葬儀費用か
ら葬祭料を控除する)と,上記金額となる。計算式は,1728万320
5円−526万1060円=1202万2145円である。
ウ弁護士費用120万円
説明・本件事案の難易,請求額,認容された額その他諸般の事情によれ
ば,本件事故と相当因果関係のある損害としては,上記金額を認めるのが
相当である。
オ合計1322万2145円
()原告bの損害3
ア相続1728万3205円
説明・原告bは,cの上記損害賠償請求権3456万6411円2分の
1の割合で承継した。計算式は,3456万6411円÷2=1728万
3205円(1円未満切り捨て)である。
イ弁護士費用173万円
説明・本件事案の難易,請求額,認容された額その他諸般の事情によれ
ば,本件事故と相当因果関係のある損害としては,上記金額を認めるのが
相当である。
ウ合計1901万3205円
1以上の次第で,原告aの本訴請求は,被告会社に対し,1322万2145
円及びこれに対する本件事故の日である平成19年7月26日から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があ
り,被告会社に対するその余の請求及び被告木津川市に対する請求は理由がな
い。原告bの本訴請求は,被告会社に対し,1901万3205円及びこれに
対する本件事故の日である平成19年7月26日から支払済みまで民法所定の
年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,被告会社に
対するその余の請求及び被告木津川市に対する請求は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
京都地方裁判所第4民事部
裁判長裁判官池田光宏
裁判官井田宏
裁判官園部伸之

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