弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人宇佐美明夫の上告理由について
 原審が適法に確定したところによると、(1) 訴外D栄養食品株式会社(以下「
D」という。)及び訴外Eは、Dの債務を担保するため、D所有の本件土地建物及
びE所有の千葉の山林を共同抵当の目的として、訴外株式会社F銀行(以下「訴外
銀行」という。)に対し第一順位の根抵当権を設定したほか、被上告人株式会社B
1銀行(以下被上告人らについていずれも「株式会社」を省略する。)、同B2商
事被訴訟承継人G産業株式会社及び上告人のため順次根抵当権を設定し、更に本件
建物と千葉の山林とを共同抵当の目的として被上告人B3實業のため根抵当権を設
定していた、(2) 昭和四一年七月、右共同抵当物件のうち千葉の山林についてま
ず競売がされ、その競落代金をもつて訴外銀行はDに対する債権全額三四二二万四
六三二円の弁済を受け、被上告人B1銀行も第二順位の抵当権者としてDに対する
債権の一部弁済を受けた、(3) その結果、Eは、Dに対し右弁済額と同額の求償
権を取得するとともに、代位により訴外銀行の本件土地建物に対する前記第一順位
の根抵当権をも取得するに至つたので、昭和四一年一二月二一日根抵当権移転の附
記登記を了したうえ、右求償権及び根抵当権を訴外H金属株式会社に譲渡し、その
附記登記を経由した。上告人は、昭和四三年二月八日同会社から右求償権の内金七
七〇万七三八八円と右根抵当権の一部の譲渡を受け、同月二一日右根抵当権一部移
転の附記登記を了した、(4) 一方、D所有の本件土地建物も競売され、原判示の
代金交付表が作成された、(5) 上告人は、昭和四五年一〇月二日の代金交付期日
において、上告人が順位一番の根抵当権者として前記七七〇万七三八八円の債権に
ついて配当を受けるべき地位にあるものとして異議を述べたが、被上告人らはこれ
を認めなかつた、というのである。
 ところで、債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産とを共同抵当の目的と
して順位を異にする数個の抵当権が設定されている場合において、物上保証人所有
の不動産について先に競売がされ、その競落代金の交付により一番抵当権者が弁済
を受けたときは、物上保証人は債務者に対して求償権を取得するとともに代位によ
り債務者所有の不動産に対する一番抵当権を取得するが、後順位抵当権者は物上保
証人に移転した右抵当権から優先して弁済を受けることができるものと解するのが、
相当である。けだし、後順位抵当権者は、共同抵当の目的物のうち債務者所有の不
動産の担保価値ばかりでなく、物上保証人所有の不動産の担保価値をも把握しうる
ものとして抵当権の設定を受けているのであり、一方、物上保証人は、自己の所有
不動産に設定した後順位抵当権による負担を右後順位抵当権の設定の当初からこれ
を甘受しているものというべきであつて、共同抵当の目的物のうち債務者所有の不
動産が先に競売された場合、又は共同抵当の目的物の全部が一括競売された場合と
の均衡上、物上保証人所有の不動産について先に競売がされたという偶然の事情に
より、物上保証人がその求償権につき債務者所有の不動産から後順位抵当権者より
も優先して弁済を受けることができ、本来予定していた後順位抵当権による負担を
免れうるというのは不合理であるから、物上保証人所有の不動産が先に競売された
場合においては、民法三九二条二項後段が後順位抵当権者の保護を図つている趣旨
にかんがみ、物上保証人に移転した一番抵当権は後順位抵当権者の被担保債権を担
保するものとなり、後順位抵当権者は、あたかも、右一番抵当権の上に民法三七二
条、三〇四条一項本文の規定により物上代位をするのと同様に、その順位に従い、
物上保証人の取得した一番抵当権から優先して弁済を受けることができるものと解
すべきであるからである(大審院昭和一一年(オ)第一五九〇号同年一二月九日判
決・民集一五巻二四号二一七二頁参照)。
 そして、この場合において、後順位抵当権者は、一番抵当権の移転を受けるもの
ではないから、物上保証人から右一番抵当権の譲渡を受け附記登記を了した第三者
に対し右優先弁済権を主張するについても、登記を必要としないものと解すべく、
また、物上保証人又は物上保証人から右一番抵当権の譲渡を受けようとする者は不
動産登記簿の記載により後順位抵当権者が優先して弁済を受けるものであることを
知ることができるのであるから、後順位抵当権者はその優先弁済権を保全する要件
として差押えを必要とするものではないと解するのが、相当である。
 したがつて、原審の確定した事実関係のもとでは、被上告人らは上告人に優先し
て支払を受けることができるものというべきであつて、これと同趣旨の原審の判断
は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用
することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    服   部   高   顯
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    環       昌   一

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