弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成14年3月19日 平成13年(わ)第1056号 強盗致傷,銃砲刀剣類所持
等取締法違反被告事件
主文
被告人を懲役3年8月に処する。
未決勾留日数中100日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 金員を強取しようと企て,平成13年9月22日午後2時45分ころ,神戸
市A区Ba丁目b番c号C1階所在のコンビニエンスストア「DB店」店内におい
て,同店従業員V(当時41歳)に対し,その右脇腹に所携のサバイバルナイフ
(刃体の長さ約8センチメートル。平成14年押第14号の1)を突き付けて「金
を出せ。」と申し向け,さらに,同人が所携のモップで被告人を突く等して抵抗す
るや,「なめとんか,殺すぞ。」などと申し向けながら前記サバイバルナイフをそ
の顔面に突き出し,その眼前で刃先を二,三回左右に振る等の暴行脅迫を加え,同
人の反抗を抑圧して金員を強取しようとしたが,同人にその場で取り押さえられた
ため,その目的を遂げなかったが,その際,前記暴行により,同人に対し加療7日
間を要する鼻尖部切創
の傷害を負わせた
第2 業務その他正当な理由による場合でないのに,前記日時場所において,前記
サバイバルナイフ1本を携帯した
ものである。
(証拠の標目)―括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―
  省略
(補足説明)
1 弁護人は,判示第1につき,被告人に金員強取の犯意はなかったし,被告人
が,Vに対し,判示サバイバルナイフをその右脇腹に突き付けて「金を出せ。」と
脅迫し,かつ,突き出されたモップを避けるためにサバイバルナイフを持った手を
左右に振ったことは事実であるが,このような被告人の暴行脅迫は,主観的にも客
観的にも相手方の反抗を抑圧する程度には達しておらず,本件については,恐喝未
遂罪及び傷害罪が成立するに止まる旨主張するところ,前掲関係各証拠によれば,
被告人に判示の強盗致傷罪が成立することは優に認められるのであるが,所論にか
んがみ,補足して説明を加える。
2 前掲関係各証拠によれば,次の事実が認められる。
 (1) 被告人は,平成13年9月22日午後2時45分ころ,サングラスを着用し
て,判示サバイバルナイフを携帯して判示コンビニエンスストア(以下「本件店
舗」という。)に入店するや,出入口近くのレジカウンター内にいた同店従業員V
を手招きして呼び寄せ,やにわにサバイバルナイフを同人の右脇腹に突き付けた
上,「金を出せ。」と申し向けた。
 (2) 被告人の声を聞きとれなかったVは,被告人の方に振り向き,サバイバルナ
イフを突き付けられていることに気付くや,所携のモップで被告人の胸付近を突き
飛ばすと,さらに,そのモップで被告人の胸付近を二,三回突いた。
 (3) 被告人は,Vの抵抗を受けて興奮し,「なめとんのか,殺すぞ。」等と申し
向けながら,サバイバルナイフをVの顔に向け突き出して,その眼前で二,三回小
刻みに左右に振り,その際,同人の鼻尖部に1か所判示の切創を負わせた。
 (4) Vは,「なにしよんや。」などと叫びながら,さらにモップを被告人の顔面
等に向けて二,三回突き出し,その後被告人ともみ合いになったが,同人の隙を衝
いてモップ等で同人を取り押さえてサバイバルナイフを奪い取り,同人を制圧し
た。
3 被告人は,当公判廷において,Vが突き出すモップを掴もうとしてサバイバル
ナイフを持った手を振ったことはあるが,同人に「殺すぞ。」と申し向けたり,サ
バイバルナイフを同人の顔に向けて突き出したり,その刃先を振り回したことはな
い旨供述するが,証人Vは,被告人が「なめとんのか,殺すぞ。」という言葉を発
しながら,サバイバルナイフを自分の眼前で二,三回小刻みに振った直後,鼻をす
ぱっと切られた旨,具体的かつ明確な供述をしているところ,同証言はその状況を
目撃していた同店従業員Eの捜査段階の供述とも概ね合致し,被害者の負った傷害
の形状,部位等の客観的証拠によっても裏付けられているなど信用性は十分であ
り,加えて,被告人自身も,当公判廷において,所携のサバイバルナイフをVに突
き付ける等した後,同人がモップを突く動きに合わせてこれを掴もうと手を前後に
動かすと,Vの鼻付近に突然血豆のようなものができたのが目に入った旨供述して
いるのであって,被告人の前記公判供述は信用できない。
4 弁護人は,被告人に金員強取の意思はなかった旨主張し,被告人も当公判廷で
これに沿う供述をするが,被告人は,本件店舗に入店するや,ためらうことなく事
前の犯行計画に従って判示の暴行脅迫に及んでおり,被告人は凶器を用いて脅迫
し,あるいは暴行を加えて店員の反抗を抑圧して金品を奪取するという典型的な持
凶器強盗を計画していたといわざるを得ないこと,被告人自身,捜査段階における
検察官(検察官証拠請求番号67。以下,同じ。)及び司法巡査(60)に対する
各供述調書において,事前の犯行計画として,コンビニエンスストアの店員にサバ
イバルナイフを突き付けて「金を出せ。」と脅迫し,同人にレジ内の現金を差し出
させるつもりであり,仮に店員が抵抗する等した場合には,自らレジを開けて現金
を奪ったり,サバイバルナイフを目の前でちらつかせたり,殴る蹴るの暴行を加え
る等して,店員の反抗を抑圧して現金を奪うつもりであった旨供述しているとこ
ろ,その信用性は十分であること等に照らすと,被告人が「金員の強取」を企てて
判示第1の犯行に及んだことは明白というべきである。
  従って,弁護人の前記主張は理由がない。
5 さらに,弁護人は,被告人がVに判示サバイバルナイフを突き付けて「金を出
せ。」と脅迫するや,Vが反射的に被告人を突き放し,所携のモップを使って抵抗
し,まもなく被告人を制圧したこと,サバイバルナイフはその形状において相手方
に強い畏怖心を与えうるものでなく,V自身もサバイバルナイフの刃が約8センチ
メートル程度の短いものであることを認識していたことなどを総合考慮すれば,被
告人の暴行脅迫が相手方の反抗を抑圧する程度のものであったとは到底いい難い旨
主張する。
  しかしながら,前認定のとおり,被告人は,Vに対し,その右脇腹にサバイバ
ルナイフを突き付けて「金を出せ。」と申し向け,さらに「なめとんのか,殺す
ぞ。」等と申し向けながら,そのサバイバルナイフをVの顔面に向けて突き出して
その眼前で二,三回小刻みに左右に振る等の暴行脅迫を加えたものであるとこ
ろ,(1)判示サバイバルナイフは,刃体の長さが約8センチメートルであるとはい
え,切っ先は鋭利であり,その用法次第で十分な殺傷能力があると認められるこ
と,(2)被告人のサバイバルナイフの用法は,Vの右脇腹に切っ先を触れるように突
き付けたり,その眼前で小刻みに左右に振って現に鼻を切り付けたものであり,い
ずれも身体の枢要部に対する攻撃であって,人の生命,身体に対する危険を生ぜし
める態様のものであったこと,
(3)前記暴行脅迫が金員強取の意思に基づいて行われたこと,(4)本件犯行は,白昼
堂々JR灘駅前付近に所在する本件店舗内で敢行されたものではあるが,犯行当
時,店舗内に客はおらず,現在する同店従業員もVと髙瀬だけであったこと等に照
らすと,サバイバルナイフが全体として小振りであり,刃体の長さもやや短い形状
のものであること,Vが,男性であり,被告人と比較して年齢,体格的に顕著な差
はないこと,被告人が前記暴行脅迫後,反撃に出たVにまもなく制圧されたことな
どを考慮しても,なお被告人の前記暴行脅迫は,社会通念上,相手方の反抗を抑圧
するに足りる程度のものであったと認めるに十分である。
  そして,刑法236条所定の「暴行又は脅迫」は,相手方の反抗を抑圧するに
足りる程度のものであれば,現に相手方の反抗を抑圧したことを要しないものと解
すべきであるから,本件においては,Vが被告人の前記暴行脅迫によりその反抗を
抑圧されたものとは認められないが,このことは前記判断に何らの影響を与えるも
のではない。
  従って,弁護人の前記主張も理由がない。
(法令の適用)
 被告人の判示第1の所為は刑法240条前段(243条,236条1項)に,判
示第2の所為は銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条にそれぞれ該当する
が,各所定刑中,判示第1の罪については有期懲役刑を,判示第2の罪については
懲役刑をそれぞれ選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条
本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の
加重をし,なお犯情を考慮し,同法66条,71条,68条3号を適用して酌量減
軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年8月に処し,同法21条を適用して未決
勾留日数中100日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただ
し書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 本件は,いわゆるコンビニ強盗を企てた被告人が,コンビニ店従業員である被害
者に対し,判示の暴行脅迫を加えたものの,逆に制圧されて金員強取は未遂に終わ
り,その際,同人に判示の傷害を負わせたという強盗致傷の事案と,その際,判示
サバイバルナイフを不法に携帯したという銃砲刀剣類所持等取締法違反の事案であ
る。
 被告人は,生活費に窮し,いわゆるコンビニ強盗を決意して本件犯行に及んだも
のであるが,その動機は短絡的かつ自己中心的であって酌むべき事情は乏しい。そ
の犯行態様をみるに,被告人は,事前に刃体の長さが約8センチメートルのサバイ
バルナイフ等を準備して白昼堂々と本件店舗に押し入るや,被害者に対し,サバイ
バルナイフをその右脇腹に突き付けて脅迫し,被害者が抵抗するとみるや,さらに
サバイバルナイフを同人の眼前に突き出し左右に振る等の暴行脅迫を加えたもので
あり,現に被害者に対し鼻尖部切創の傷害を負わせたことに照らすと,被害者がた
またまその反抗を継続し,まもなく被告人を制圧したことを考慮しても,計画的か
つ大胆,危険な犯行であるといわざるを得ない。加えて,現在の社会状況下におい
ていわゆるコンビニ強盗等の多発が社会一般に与える不安感には軽視し難いものが
あり,一般予防の見地からも厳しい非難を免れない。
 以上の諸点に鑑みると,犯情は悪質であり,被告人の刑事責任は重大であるとい
わざるを得ない。
 他方,判示第1の犯行につき,金員強取が未遂に終わり,被害者の被った傷害は
比較的軽微に止まったこと,自業自得とはいえ,金員に窮し日々の食事にも困って
思い詰めて犯行に及んだ経緯が認められること,被害者において格別厳しい処分を
望んでいるわけではないこと,被告人には前科前歴がないこと,未決勾留が相当期
間に及んでいること,実弟が当公判廷で被告人の更生に協力する旨誓約したこと,
反省悔悟の情等,被告人のために酌むべき事情を認められる。
 そこで,以上の諸情状を総合考慮し,被告人に対し,酌量減軽の上,主文掲記の
刑に処することとした。
 よって,主文のとおり判決する。
  平成14年3月19日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官  杉森研二
   裁判官  溝國禎久
   裁判官  林 史高

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛