弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告ら
1 平成八年一〇月二〇日執行の衆議院小選挙区選出議員選挙のうち東京都第二〇
区における選挙を無効とする。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 原告(選定当事者)Aは、平成八年一〇月二〇日執行の衆議院小選挙区選出議
員選挙(以下「本件選挙」という。)の東京都第二〇区における候補者(政党に所
属しない無所属の候補者)であり、原告(選定当事者)B及びその余の原告らは、
いずれも同選挙区における選挙人である。
2 本件選挙の無効原因(その1公職選挙法一七八条の三第二項の違憲性)
現行憲法は、衆参両議院の議員の選挙について、選挙権及び被選挙権は国民固有の
権利であって、財産、収入等いかなる理由によっても差別されないことを明確にし
ている(同法一四条一項、一五条一項)。
しかるに、平成七年法律第一三五号等一連の法律によって改正された公職選挙法
(昭和二五年法律第一〇〇号。以下「法」という。)は、その一三章に一七八条の
三第二項として、「衆議院議員の選挙においては、小選挙区選出議員の選挙に係る
選挙運動の制限に関するこの章の規定は、候補者届出政党である衆議院名簿届出政
党等が行う比例代表選出議員の選挙に係る選挙運動が、この法律において許される
態様において比例代表選出議員の選挙に係る選挙運動にわたることを妨げるもので
はない。」との規定を設けた。この規定は、候補者届出政党である衆議院名簿届出
政党等(以下「名簿届出政党等」という。)に対し、比例代表選出議員選挙の選挙
運動のみならず小選挙区選出議員選挙の選挙運動を、候補者個人(当該候補者が、
いわゆる重複立候補者であるか否かを問わない。)の選挙運動に上乗せして行うこ
とを許容するものにほかならない。現に、本件選挙の東京都第二〇区の選挙におい
ては、名簿届出政党等(重複立候補者を擁しない名簿届出政党を含めて)、専ら、
小選挙区選出議員の選挙にかかる各種の選挙運動を実施しているのである。
右の規定により、小選挙区選出議員選挙の候補者のうち、名簿届出政党等に所属す
るものは、右政党等がその所属候補者のために行う選挙運動の利益の恩恵を享受す
るのに対して、無所属の候補者は、右政党等に所属する候補者に比して選挙運動量
の面における不平等はもちろんのこととして、右政党等に所属する個人候補と争う
だけではなく、右政党等とも争わなければならないという意味において、質的な面
での不平等をも強いられることとなった。
右のような質量両面にわたる不平等は憲法一四条に違反するほか、同法によって保
証された国民固有の権利である被選挙権を行使しようとする無所属候補者の選挙運
動を制限し、同法がその存在を認容していない名簿届出政党に対して特恵的優遇を
認める点においても、同法に違反する。このことは、参議院議員の選挙において
は、選挙区選出議員選挙に係る選挙運動が比例代表選出議員選挙の選挙運動にわた
ることは許されているが、その逆は許されていないこと(法一七八条の三第三項)
と対比しても、明らかである。
3 本件選挙の無効原因(その2選挙運動の制限・差別)
法一三章は、小選挙区選出議員選挙の選挙運動に関する規定を置いているが、これ
らの規定は、次のとおり、候補者届出政党に所属しない候補者の選挙運動に制限を
加え、右政党に所属する候補者のそれとを著しく差別している。このことは、憲法
一四条一項、一五条一項及び四四条に違反するものであって、同法九八条一項によ
り無効である。
(一) 自動車(船舶)・拡声機の使用(法一四一条一項及び二項関係)
(1) 無所属候補者
自動車(船舶) 一台・拡声機一そろえを使用することができるのみ。
なお、原告(選定当事者)Aは、本件選挙の選挙運動においては自動車を使用せ
ず、自転車を使用したが、自動車には候補者氏名を表示した看板を積載することが
許されるのに対し、自転車にはこれが認められなかった。
(2) 候補者届出政党所属の候補者
右(1)に加えて、候補者届出政党分として、自動車(船舶) 一台・拡声機一そ
ろえ(都道府県ごとに届出候補者数が二人を超える場合は、その超える数が一〇人
を増すごとに自動車(船舶) 一台・拡声機一そろえを追加)を使用することがで
きる。
(二) 通常葉書(法一四一条一項及び二項関係)
(1) 無所属候補者
通常葉書三万五〇〇〇枚を、無料で使用することができるのみ。
(2) 候補者届出政党所属の候補者
右(1)に加えて、候補者届出政党分として、都道府県ごとに、三万五〇〇〇枚に
候補者数を乗じた枚数の通常葉書を、有料で使用することができる。
右によって、候補者届出政党の候補者は、無所属候補者の二倍の枚数の通常葉書を
使用することができることとされており、無所属候補者は、理由なく著しく差別さ
れている。
(三) 法定ビラ(法一四二条一項及び二項関係)
(1) 無所属候補者
二 種類以内七万枚の法定ビラを使用することができるのみ。
(2) 候補者届出政党所属の候補者
右(1)に加えて、候補者届出政党分として、都道府県ごとに、四万枚に候補者数
を乗じた枚数の法定ビラ(種類は制限なし)を使用することができる。
右によって、候補者届出政党所属の候補者は、無所属候補者の二倍の枚数の法定ビ
ラを頒布することかできることとされており、無所属候補者は、理由なく著しく差
別されている。
(四) 選挙運動用ポスター(法一四三条三項、一四四条一項及び三項、一四四条
四項等関係)
(1) 無所属候補者
選挙区内の公営掲示板の数に応じる枚数の選挙運動用ポスター(サイズは、長さ四
二センチメートル、幅四〇センチメートル)を使用することができるのみ。
(2) 候補者届出政党所属の候補者
右(1)に加えて、候補者届出政党分として、一〇〇〇枚の選挙運動用ポスター
(長さ八五センチメートル、幅六〇センチメートル)を使用することができる。
右によって、候補者届出政党所属の候補者は、無所属候補者に比して、枚数で三・
七倍、サイズで三倍のポスターを掲示することができるから、これだけで宣伝効果
に約八倍の差異があることになり、無所属の候補者は、理由なく著しく差別されて
いる。
(五) 新聞広告(法一四九条一項関係)
(1) 無所属候補者
新聞広告を五回(サイズは、横九・六センチメートル、縦二段組以内)を無料です
ることができるのみ。
(2) 候補者届出政党所属の候補者
右(1)に加えて、候補者届出政党分として、都道府県ごとに、候補者数に応じ
て、回数は八回から三二回まで、サイズも横三八・五センチメートルで四段組から
一六段組までの新聞広告を無料ですることができる。
右によって、候補者届出政党の候補者は、著しい特恵的優遇を受け、他方、無所属
候補者は、理由なく著しく差別されている。
(六) 政見放送
(1) 無所属候補者
録音録画によって政見放送をすることができない。
(2) 候補者届出政党所属の候補者
候補者届出政党が、録音録画によって、都道府県ごとに行う政見放送の中で、一回
当たり九分間の持時間により、最低でテレビ・ラジオ各二回、最大でテレビ・ラジ
オ各一二回の政見放送をすることができる。
右によって、候補者届出政党所属の候補者は、無所属候補者に対して著しい特恵的
優遇を受け、他方、無所属候補者は、同じ小選挙区選出議員選挙の候補者でありな
がら、その政見をテレビ・ラジオを通じて発表する機会を奪われており、著しく差
別されている。
(七) 個人演説会及び政党演説会(法一六一条一項、一六四条関係)
(1) 無所属候補者
個人演説会のみを行うことができる。この場合は、公営施設を一回、無料で使用す
ることができる。
(2) 候補者届出政党所属の候補者
右(1)に加えて、候補者届出政党が、その所属候補者のために政党演説会を開催
することができる。
右によって、候補者届出政党所属の候補者は、右政党が開催する政党演説会という
方法によっても選挙運動をすることができるから、著しい特恵的優遇を受けるのに
対し、このような方法によることができない無所属候補者は、理由なく著しく差別
されている。
(八) 立候補届出の告示、投票記載台用候補者の告示等における政党所属表示
(1) 無所属候補者
右告示において、その所属政党欄には、「無所属」と記載されるのではなく、空白
のままとする取扱いがされた。
(2) 候補者届出政党所属の候補者
右告示において、政党所属欄には、候補者届出政党の名称が記載された。
右の取扱いは、小選挙区選出議員の選挙候補者は政党等に所属するのが原則であ
り、政党等に所属しない候補者は例外であるとして、これを差別するものである。
4 よって、原告らは、法二〇四条に基づき、本件選挙のうち東京都第二〇区にお
ける選挙を無効とすることを求める。
二 請求の原因に対する認否及び被告の主張
1 請求の原因1の事実は認める。
ただし、「政党に属しない無所属の候補者」とあるのは、「法人六条二項による届
出による候補者」とするのが正しい。
2 請求の原因2について
(一) 衆議院議員選挙の基本的な仕組みを定める法は、平成六年以来、数次の改
正を経て(平成六年法律第二号、同年法律第四号、同年法律第一〇五号、平成八年
法律第一〇二号など)、小選挙区比例代表制の導入とそれに伴う制度の整備が図ら
れた。本件選挙は、右の新しい制度(以下「新制度」という。)の下に行われた最
初の衆議院議員選挙である。
衆議院議員の選挙については、従前は、中選挙区単記投票制を採用して行われてき
たが、この選挙制度については、同一政党の候補者間の争いとなり、選挙が政策の
争いというより、個人のサービス合戦につながりやすいなどの問題点が指摘されて
いた。そこで、前記の平成六年改正法は、あるべき選挙制度として、(1)政策本
位・政党本位の選挙とすること、(2)政権交代の可能性を高め、かつ、それが円
滑に行われるために、政権が安定するようにすること、(3)責任ある政治が行わ
れるために、政権が安定するようにすること、(4)政権が、選挙の結果に端的に
示される国民の意思によって、直接に選択されるようにすること、(5)多様な民
意を選挙において国政に反映させることなどが要請されているとの理解の下に、政
策中心・政党中心の選挙制度を目指し、民意の集約、政治における意思決定と責任
の帰属の明確化及び政権交代の可能性などを重視すべきであるとの観点から、前記
の小選挙区比例代表制を採用するに至ったものである。
かくして誕生した新制度の骨子は、(1)衆議院議員の定数を五〇〇人とし、その
うち三〇〇人を小選挙区選出議員、二〇〇人を比例代表選出議員とする(法四
条)、(2)小選挙区選出議員は、法別表第一で定められる各選挙区において選挙
するものとし、各選挙区において選挙すべき議員の数は一人とする(法一二条、一
三条、別表第一)、(3)比例代表選出議員は、全都道府県を一一に分けた各選挙
区において選挙するものとし、その選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の
数は別表第二に定めるところによる(法一二条、一三条、別表第二)、というもの
である。
(二) 原告らは、比例代表選出議員選挙において名簿届出政党が行う選挙運動が
小選挙区選出議員選挙の選挙運動にわたることを認めた法一七八条の三第二項の規
定は、候補者届出政党に所属する候補者を優遇する選挙運動を許し、それ以外の候
補者の選挙運動に制限を加えるものである旨主張する。
しかしながら、およそ選挙に際し、いかなる主体に、いかなる程度の選挙運動を許
容するかは合理的な立法政策に委ねられているというべきところ、右の法の規定
は、前記平成六年改正法が小選挙区選出議員選挙と比例代表選出議員選挙に重複し
て立候補する、いわゆる重複立候補制度を採用したことに伴い設けられたものであ
る。けだし、名簿届出政党が行う比例代表選出議員選挙に係る選挙運動において、
重複立候補した候補者がある場合には、当該名簿に登録した候補者の氏名等を表示
して選挙運動を行うことは、結果として、小選挙区選出議員選挙における当該重複
立候補をした候補者の選挙運動にならざるを得ないからである。
そうだとすると、原告らの主張は、ひつきよう、いわゆる重複立候補を認めた法の
規定が違憲である旨主張するに帰することになる。しかしながら、議会制民主主義
の下における選挙制度は、それぞれの国において、その国の事情に即して具体的に
決定されるべきものであり、重複立候補を認めるか否かも含めて、いかなる選挙制
度を採用するかについては、国会の立法裁量に委ねられているというべきである。
憲法四七条が、「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、
法律でこれを定める。」と規定しているのも、この趣旨を明らかにしたものであ
り、重複立候補制度を採用することは、立法政策として不合理であるとはいえない
から、憲法上当然に許されるのである。
3 請求の原因3について
原告らは、小選挙区選出議員選挙において、候補者届出政党に選挙運動を行うこと
を認めた結果、候補者届出政党が届け出た候補者とそれ以外の候補者との間で、事
実上著しい差別がされており、候補者届出政党の選挙運動を認めた法は、憲法一四
条一項、一五条一項及び四四条に違反する旨主張する。
しかしながら、右の原告らの主張も失当である。
(一) 前記のとおり、憲法は、選挙運動の主体やその内容についても合理的な立
法政策に委ねているものと解されるところ、法は、衆議院議員の選挙において、政
策本位・政党本位の選挙を実現するため小選挙区比例代表制を導入し、その一環と
して、小選挙区選出議員の選挙につき、候補者届出政党にも選挙運動を許容したも
のである。
このような制度の背景には、現代の代表民主制の下において、政党が、国民がその
意思を国政に反映させ、実現していく上で不可欠の政治団体であり、わが国におい
ても、「憲法の定める議会制民主主義は、政党を無視しては到底その円滑な運用を
期待することができないのであるから、憲法は、政党の存在を当然に予定している
ものというべきであり、政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素」(最高裁昭
和四五年六月二四日大法廷判決・民集二四巻六号六二五頁)となっているという事
情が存在する。法は、かかる政党の役割に着目して、政策本位・政党本位の選挙の
実現という政策を採用したものであり、右の政策目的を実効あらしめるためには、
小選挙区選出議員選挙に候補者を届け出た候補者届出政党にも選挙運動を行うこと
を認め、各党の政策を国民に訴える機会を十分に保障することが不可欠である。し
たがって、法が、小選挙区選出議員選挙において各候補者の選挙運動に加えて、候
補者届出政党にも一定の選挙運動を認めたことは、議会制民主主義の下における選
挙制度として不合理なものといえないことは明らかである。
(二) また、原告らの前記主張にいう「不平等」とは、結局のところ、候補者届
出政党が届け出た候補者は、政党の選挙運動によって利益を受けるのに対して、個
人届出の候補者は、このような利益を受けられないという不均衡を指すものと考え
られる。
原告らの右主張は、選挙運動は、本来、候補者のみが行うことができるとの前提に
立つものと解されるが、選挙においてどの範囲の者に、どの程度の選挙運動を許容
するかは、選挙の公正の確保、選挙による国民の意思の反映などの観点から定めら
れる立法政策の問題であり、それが不合理なものでない限り許容されるべきである
から、原告らの主張は、その前提において当を得ない。加えて、右の立法政策とし
て、政党に広範な選挙運動を認め、あるいは逆に政党の選挙運動を制限することに
よって、政党に所属しない候補者が選挙運動に関して受ける利益又は不利益は、結
局、政党に属しないことによって生じる事実上の利益・不利益にとどまるから、法
の下の平等に反するとはいえない。
(三) 以上のとおりであるから、法が、小選挙区選出議員選挙について候補者届
出政党に原告ら主張のような選挙運動を認めたとしても、不合理といえないことは
明らかである。
(四) 原告らは、立候補者届出の告示や投票記載所の氏名等の掲示において、法
八六条一項による候補者届出政党による届出がされた候補者は、候補者届出政党名
が表示されるのに対して、同条二項による個人届出の候補者は、無所属とは表示さ
れず、空白とされることは、憲法一四条一項、一五条一項及び四四条に違反する旨
主張する。
前記平成六年改正法以前の法は、衆議院議員選挙に立候補する者は、すべて候補者
個人が届け出るものとし、政党による公認を得ている候補者については政党名を表
示し、それ以外の候補者については無所属と表示していた。しかるに、新制度にお
いては、候補者届出政党による候補者の届出の制度が採用され、候補者個人による
届出とは異なる手続が採用されることになった。このように、候補者の立候補の届
出手続自体が異なることとなったこと、憲法も政党が議会制民主制の下での不可欠
な要素としていることにかんがみれば、右の届出手続が不合理なものとはいえな
い。
かえって、当該候補者が、政党届出候補者であるか否か、また、どの候補者届出政
党に属するかは、有権者の選択・判断において重要な要素であるから、個人届出候
補者の所属する党派についても掲示することとすると、政党届出候補者と個人届出
候補者との別が不明確になり、有権者の選択・判断に混乱を生じさせるおそれがあ
る。
よって、原告らの前記主張も失
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 原告らの地位
原告(選定当事者)Aが本件選挙の東京都第二〇区における無所属の候補者(法八
六条二項の規定により候補者となる届出をした者)であり、その余の原告らが本件
選挙の同選挙区における選挙人であったことは、当事者間に争いがない。
二 新制度の導入の経緯とその概要
原告らの本訴請求は、主として、衆議院議員選挙の選挙運動について規制する法第
一三章の規定中には、憲法に違反するものがあることを理由として、これら違憲の
規定の下に執行された本件選挙の無効を求めるというものである。
衆議院議員選挙の基本的な仕組みを定める法は、平成六年以来数次の改正を経て、
新たな選挙制度として、小選挙区比例代表並立制を導入し、これに伴って、選挙運
動の規制について定める第一三章の規定も大幅な改正をみた。そこで、以下には、
まず、右の一連の改正の経緯を概観すると共に、これによって生まれた新制度の概
要について述べることにする。
1 新制度の導入の経緯
いずれも成立に争いがない乙第一及び第三号証並びに弁論の全趣旨によれば、次の
事実が認められる。
(一) 戦後における衆議院議員を選出する選挙制度は、終戦直後の一時期を除い
て、基本的には、都道府県の区域を更に細分化した区域をもって選挙区を構成し、
一つの選挙区から三人ないし五人の議員を選出するという仕組み(いわゆる中選挙
区制)をもって運用されてきた。しかしながら、この仕組みの下では、選挙が同一
政党の候補者間の争いに傾きがちで、選挙が政策の争いというよりは個人間のサー
ビス合戦につながりやすいという難点があるとの指摘がされてきたところであり、
かねてから国会・政党等の一部に、この制度を、政党本位・政策本位の選挙を可能
にする小選挙区制に改めようとする動きが見られたが、結局実現しなかった。
(二) この改正の動きが活発化し、現実化する契機となったのは、昭和六三年に
発覚した「リクルート事件」であった。戦後の政治史においても特筆すべき政治ス
キャンダルとなったこの事件は、戦後ほぼ一貫して続いてきた自民党単独政権体制
がその温床となったとの反省を生み、政界においても「政治改革」の気運が高まっ
てきたが、その一環として、政権交代がスムースに、かつ安定的に行われるような
政治状況を作り出す必要があるとの議論が活発化するに至った。
平成元年六月に発足した第八次選挙制度審議会においても、政治資金制度の改正と
並んで、選挙制度の改正が主要なテーマとして取り上げられ、平成三年六月には、
衆議院議員の選挙制度として小選挙区比例代表並立制を導入することなどを内容と
する答申がされた。これを受けた海部内閣は、平成三年八月、第一二一回国会に右
の答申の内容を盛り込んだ公職選挙法の一部を改正する法律案を提出したが、結局
審議未了で廃案となった。その後、平成五年一月に召集された第一二六回国会にお
いては、与野党双方から衆議院議員の選挙制度についての改正案が提案され、本格
的な議論が行われたが、陽の目を見るに至らなかった。
(三) 衆議院議員選挙の在り方を含む政治改革の問題が新しい展開を示すに至っ
たのは、平成五年七月一八日に執行された衆議院議員総選挙の結果、議席数が過半
数に達しなかった自民党に代わって、同年八月九日、日本社会党、新生党、公明
党、日本新党、民主党、新党さきがけ、社会民主連合及び民主改革連合の七党一会
派による連立政権(細川政権)が樹立されたことによる。「政治改革政権」と自称
したこの内閣は、衆議院議員の選挙制度について、小選挙区二五〇人、比例代表二
五〇人の小選挙区比例代表並立制を導入することなどを内容とする公職選挙法の一
部改正案、右の選挙について新たな選挙区を画定するために総理大臣に対して所要
の答申を行う衆議院議員選挙区画定審議会を設置するための法案等の政治改革四法
案を第一二八回国会に提出した。一方、野党となった自民党も独自の法改正案を同
国会に提出した。自民党案も、選挙制度については小選挙区比例代表並立制を導入
することとしていたが、比例代表の単位を都道府県とし、一票制を採用するなどの
点において政府案と異なっていた。
第一二八回国会におけるこの政治改革をめぐる政府案及び自民党案の審議は、衆議
院で政府案の一部を自民党案を受け入れる形で修正した上可決したものの、参議院
では否決され、憲法五九条に基づいて設置された両院協議会における協議も不調に
終わるという紆余曲折をたどったが、最終的には、平成六年一月二八日、細川総理
大臣と河野自民党総裁のトップ会談で決着が図られた。このトップ会談を受けて、
政府提出の公職選挙法の一部を改正する法律は、次国会において修正される含みの
下に原案通り成立した(平成六年法律第二号)。
(四) 上記のトップ会談による合意に基づき、細部について検討するため、平成
六年二月四日、連立与党と自民党との間に政治改革協議会が設けられ、同月二四日
にはその合意が得られた。この合意のうち、衆議院議員の選挙制度に関する主要な
事項は、「比例代表選挙の区域は、第八次選挙制度審議会の答申のとおりとする
(全国一一ブロック)。各ブロックの定数は、人口比例により配分する。」、「投
票方式は、記号式の二票制とする。なお、参議院議員の選挙制度との整合性を考慮
して、今後引き続き検討する。」などとされていた。
平成六年一月三一日召集の第一二九回国会では、右の合意に基づく法案の審議が行
われ、「公職選挙法の一部を改正する法律の一部を改正する法律」(平成六年法律
第一〇号)などが成立し、同改正法は、平成六年三月一一日から施行される運びと
なった。
(五) 以上の改正によって、新しい選挙制度の骨格が形成されたが、その後にお
いても、平成六年法律第一〇五号及び平成七年法律第一三五号によって制度の整備
が図られ、更に、平成八年法律第一〇二号による法の一部改正により、衆議院議員
選挙における政党の選挙運動に関する規定が改められた。
2 新制度の概要
右のような数次にわたる改正を経て成立した新制度の下で、本件選挙が執行された
のであるが、その制度の概要は、次のとおりである。
(一) 選挙制度の基本構造
衆議院議員の選挙を小選挙区選出議員の選挙と比例代表選出議員の選挙の二つの単
位で執行する。
(二) 議員の定数
衆議院議員の定数を五〇〇人とし、そのうち三〇〇人を小選挙区選出議員、二〇〇
人を比例代表選出議員とする(法四条一項)。
(三) 選挙区
小選挙区選出議員の選挙区は、別表第一で定め、各選挙区の議員定数は一人とする
(法一二条、一三条一項、別表第一)。
比例代表選出議員の選挙区及び各選挙区の議員定数は、別表第二で定める(法一二
条、一三条二項、別表第二)。右の選挙区及び各選挙区の議員定数は次のとおりで
ある(なお、都道府県の呼称は省略する。)。
北海道選挙区  九人
東北選挙区  (青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島)   一六人
北関東選挙区 (茨城、栃木、群馬、埼玉)  二一人
南関東選挙区 (千葉、神奈川、山梨)  二三人
東京都選挙区  一九人
北陸信越選挙区(新潟、富山、石川、福井、長野)   一三人
東海選挙区  (岐阜、静岡、愛知、三重)  二三人
近畿選挙区  (滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山)  三三人
中国選挙区  (鳥取、島根、岡山、広島、山口)   一三人
四国選挙区  (徳島、香川、愛媛、高知)  七人
九州選挙区  (福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄)  二三

(四) 候補者の届出
(小選挙区選出議員の選挙)
(1) 政党による届出
次のいずれかに該当する政党その他の政治団体は、当該政党その他の政治団体に所
属する者を候補者としようとするときは、当該選挙の期日の公示又は告示のあった
日に、文書でその旨を当該選挙長に届け出なければならない(法人六条一項)。
(1) 当該政党その他の政治団体に所属する衆議院議員又は参議院議員を五人以
上有すること。
(2) 直近において行われた衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選
挙若しくは比例代表選出議員の選挙又は参議院議員の通常選挙における比例代表選
出議員若しくは選挙区選出議員の選挙における当該政党その他の政治団体の得票総
数が当該選挙における有効投票の総数の一〇〇分の二以上であること。
(2) 候補者又は推薦人による届出
候補者となろうとする者は、(1)と同じ期日に、同様の手続により届け出なけれ
ばならない(同条二項)。
選挙人名簿に登録された者が他人を候補者としようとするときも同様である。(同
条三項)。
(比例代表選出議員の選挙)
(1) 名簿の届出
次のいずれかに該当する政党その他の政治団体は、当該選挙の期日の公示又は告示
のあった日に、当該政党その他の政治団体の名称(一の略称を含も)並びにその所
属する者の氏名及びそれらの者の間における当選人となるべき順位を記載した文書
(名簿)を当該選挙長に届け出ることにより、その名簿に記載されている者(名簿
登載者)を当該選挙における候補者とすることができる(法人六条の二第一項)。
(1) 当該政党その他の政治団体に所属する衆議院議員又は参議院議員を五人以
上有すること。
(2) 直近において行われた衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選
挙若しくは比例代表選出議員の選挙又は参議院議員の選挙における比例代表選出議
員の選挙若しくは選挙区選出選挙における当該政党その他の政治団体の得票総数が
当該選挙における有効投票総数の一〇〇分の二以上であること。
(3) 名簿の届出をすることにより候補者となる名簿登載者の数が当該選挙区の
定数の一〇分の二以上である政党その他の政治団体であること。
(2) 重複立候補
前記(1)の(1)又は(2)の要件を充たす政党等は、当該政党に所属する者を
小選挙区選出議員の選挙の候補者として届け出ることができるが(法人六条一
項)、同時にその届出に係る小選挙区候補者を比例代表選出議員選挙の名簿登載者
とすることができる(法八六条の二第四項)。この場合において、二人以上の者を
名簿登載者とするときは、それらの者の全部又は一部について当選人となるべく順
位を同一のものとすることができる(同条六項)。
(五) 選挙運動
これについては後述する。
(六) 投票
小選挙区選出議員の選挙については投票用紙に候補者一人の氏名を、比例代表選出
議員の選挙については一の名簿届出政党の名称又は略称をそれぞれ自署する方法に
よってする(法四六条一項、二項)。
(七) 当選人
(1) 小選挙区選出議員の選挙
有効投票の最多数を得た者をもって当選人とする。ただし、有効投票の総数の六分
の一以上の得票がなければならない(法九五条一号)。
(2) 比例代表選出議員の選挙
(1) 名簿届出政党等の当選人の数の決定
選挙区ごとに、各名簿届出政党等の得票数に基づき、ドント方式により、各名簿届
出政党等の当選者の数を決める(法九五条の二第一項。なお、小選挙区選出議員の
選挙においては、有効投票の最多数(ただし、その六分の一以上であることを要す
る。)を得た者が当選人となる。)。
(2) 当選人となるべき順位の決定
二 人以上の名簿登載者について当選人となるべき順位が同一のものとされている
ときは(重複立候補者についてはこのような場合があり得る。)、それらの者の間
における当選人となるべき順位は、当該選挙と同時に行われた小選挙区選出議員の
選挙における得票数の当該選挙区における有効投票の最多数を得た者に係る得票数
に対する割合(いわゆる惜敗率)の最も大きい者から順に定める(法九五条の二第
三項)。
(3) 当選人の決定
名簿登載者のうち、当選人となるべき順位に従い、当該各名簿届出政党等の当選人
の数に相当する数の名簿登載者が当選人となる。この場合において、当該選挙と同
時に行われた小選挙区選出議員の選挙の当選人とされた者は、当選人の決定から除
かれる(法九五条の二第四項、第五項)。
3 選挙運動の規制
法は、政策本位・政党本位の選挙の実現を目指す小選挙区比例代表制の導入に伴っ
て、選挙運動に関する規制についても大幅な改正を加え、小選挙区選出議員の選挙
の候補者のほか、候補者届出政党及び名簿届出政党等にも、一定の範囲内で選挙運
動を許容している。そこで、右規制の内容を、小選挙区選出議員の選挙と比例代表
選出議員の選挙とに分けて概観する。
(小選挙区選出議員の選挙について)
(一) 自動車、船舶及び拡声機の使用
(1) 候補者
主として選挙運動のために使用される自動車又は船舶及び拡声機は、候補者一人に
ついて、自動車一台又は船舶一隻及び拡声機一そろいのほかは使用することができ
ない(法一四一条一項)。
(2) 候補者届出政党
候補者届出政党は、(1)にかかわらず、その届け出た候補者に係る選挙区を包括
する都道府県ごとに、自動車一台又は船舶一隻及び拡声機一そろいを、主として選
挙運動のために使用することができ、当該都道府県における当該候補者届出政党の
届出候補者(当該都道府県の区域内の選挙区において当該候補者届出政党が届け出
た候補者をいう。以下同じ。)の数が三人を超える場合には、この超える数が一〇
人を増すごとに、右の自動車又は船舶及び拡声機の使用に加えて、自動車一台又は
船舶一隻及び拡声機一そろいを使用することができる(同条二項)。
(二) 文書図画の頒布
(1) 候補者
選挙運動のための文書の頒布は、候補者一人につき、通常葉書三万五〇〇〇枚及び
二種類以内のビラ七万枚の頒布のほかは、することができない(法一四二条一項一
号)。右の通常葉書は無料とされ(同条六項)、右のビラは、長さ二九・七センチ
メートル、輻二一センチメートルを超えてはならない(同条九項)。
(2) 候補者届出政党
候補者届出政党は、(1)にかかわらず、その届け出た候補者に係る選挙区を包括
する都道府県ごとに、通常葉書は二万枚、ビラは四万枚を基数として、これらにそ
れぞれ当該都道府県における当該候補者届出政党の候補者の数を乗じて得た数以内
の通常葉書またはビラを選挙運動のために使用することができる。ただし、ビラに
ついては、その届け出た候補者に係る選挙区ごとに四万枚以内で頒布するほかは、
頒布することができない(法一四二条二項)。
右の通常葉書は有料とされ(同条六項)、また、右のビラの長さは四二センチメー
トル、幅二九・七センチメートルを超えてはならないとされている(同条九項)。
(三) 文書図画の掲示
(1) 候補者
選挙運動のために使用する文書図画は、次のいずれかに該当する文書図画のほかは
掲示することができない(法一四三条一項)。
(1) 選挙事務所を表示するために、その場所において使用するポスター、立
札、ちようちん及び看板の類(同項一号)
(2) 法一四一条の規定により選挙運動用に使用される自動車または船舶に取り
付けて使用するポスター、立札、ちようちん及び看板の類(同項二号)
(3) 候補者の使用するたすき、胸章及び腕章の類(同項三号)
(4) 演説会において、その演説会の開催中使用するポスター、立札、ちようち
ん及び看板の類(同項四号)
(5) 個人演説会告知用ポスター(同項四号の二)
(6) 前各号に掲げるものを除くほか、選挙運動のために使用するポスター(同
項五号)
右の(5)及び(6)のポスターについては枚数制限があり、法定の掲示場ごと
に、候補者一人につき、それぞれ一枚に限る(法一四三条三項)。また、右(6)
のポスターは、長さ四二センチメートル、幅三〇センチメートルを超えてはならな
い(法一四四条四項)。
(2) 候補者届出政党
候補者届出政党は、(1)の(1)ないし(6)のいずれかに該当する文書図画を
掲示することができるが、(6)のポスターについては枚数制限があり、その届け
出た候補者に係る選挙を包括する都道府県ごとに、一〇〇〇枚に当該都道府県にお
ける当該候補者届出政党の届出候補者の数を乗じて得た数(ただし、その届け出た
候補者に係る選挙区ごとに一〇〇〇枚以内)に限る(法一四四条一項一号)。
また、候補者届出政党が使用することができる(6)のポスターのサイズも法定さ
れており、その長さは八五センチメートル、幅は六〇センチメートルとされている
(同条四号)。
(四) 新聞広告
(1) 候補者
候補者は、自治省令で定めるところにより、同一寸法で、いずれか一の新聞に、選
挙運動期間中、五回を限り、選挙に関して広告をすることができる(法一四九条一
項)。
(2) 候補者届出政党
候補者届出政党は、自治省令で定めるところにより、当該都道府県における当該候
補者届出政党の届出候補者の数(一六人を超える場合においては、一六人とす
る。)に応じて自治省令で定める寸法で、いずれか一の新聞に、選挙運動の期間
中、自治令で定める回数を限り、選挙に関して広告をすることができる(法一四九
条一項)。
(五) 政見放送
(1) 候補者
候補者は、録音又は録画による政見放送をすることができない。
(2) 候補者届出政党
候補者届出政党は、政令で定めるところにより、選挙運動の期間中、日本放送協会
及び一般放送事業者のラジオ放送又はテレビジョン放送の放送設備により、公益の
ため、その政見(当該候補者届出政党が届け出た候補者の紹介を含む。)を無料で
放送することができる。この場合において、日本放送協会及び一般放送事業者は、
その録音若しくは録画した政見又は候補者届出政党が録音若しくは録画した政見を
そのまま放送しなければならない(法一五〇条一項)。この候補者届出政党がする
録音又は録画については、政令で定めるところにより、政令で定める額の範囲内に
おいて、無料ですることができる(同条二項)。
また、右の政見放送に関しては、当該都道府県における届出候補者を有するすべて
の候補者届出政党に対して、同一の放送設備を使用し、当該都道府県における当該
候補者届出政党の届出候補者の数(一二人を超える場合には、一二人とする。
)に応じて政令で定める時間数を与える等同等の利便を提供しなければならない
(同条四項)。
なお、右の政見放送の回数、日時その他放送に関し必要な事項は、自治大臣が日本
放送協会及び一般放送事業者と協議の上、これを定める(同条六項)。
(六) 演説会
(1) 候補者
候補者は、次に掲げる施設を使用して、個人演説会を開催することができる(法一
六一条一項)。
(1) 学校及び公民館(同項一号)
(2) 地方公共団体の管理に属する公会堂(同項二号)
(3) 右の(1)、(2)のほか、市町村の選挙管理委員会の指示する施設(同
項三号)
右の場合の施設の使用については、候補者一人につき、同一施設ごとに、一回を限
り、無料とする(法一六四条)。
もっとも、個人演説会の開催は、右の施設に限らず、これ以外の施設においてもす
ることができる(法一六一条の二)。
個人演説会においては、その個人演説会の期間中、立札又は看板の類を、会場前の
公衆の見やすい場所に掲示しなければならない(法一六四条の二第一項)。右の立
札又は看板の類のサイズは、縦二七三センチメートル、横七三センチメートルを超
えてはならず、その個数は、当該選挙を通じて五を超えることができない(同条二
項、三項)。
(2) 候補者届出政党
候補者届出政党は、政党演説会を開催することができ、その施設に関する規制は、
候補者についてと同じである(その施設は、届け出た候補者に係る選挙区を包含す
る都道府県の区域内にあるものに限る。法一六一条一項、一六一条の二)。
ただし、候補者届出政党については、施設の使用について、無料の特典はない。
政党演説会においては、演説者は、当該候補者届出政党が届け出た候補者の選挙運
動のための演説をすることができる(法一六二条三項)。
なお、候補者届出政党が政党演説会の期間中、立札又は看板の類を掲示すべきこと
は、個人演説会と同じであるが、その使用することができる数は、届け出た候補者
に係る選挙区を包括する都道府県ごとに通じて二に当該都道府県における当該候補
者届出政党の届出候補者の数を乗じて得た数(ただし、選挙区ごとの数は、その届
け出た候補者に係る選挙区ごとに通じて二以内)とされている(法一六四条の二第
三項)。
(比例代表選出議員の選挙について)
法は、比例代表選出議員の選挙について、名簿届出政党等に一定の範囲で選挙運動
を認めている。
その概要は、次のとおりである。
(一) 自動車、船舶及び拡声機の使用
名簿届出政党等は、その届け出た名簿にかかる選挙区ごとに、自動車一台又は船舶
一隻及び拡声機一そろいを、当該選挙区における当該名簿届出政党等の名簿登載者
の数が五人を超える場合においては、この超える数が一〇人を増すごとに、これら
に加え自動車一台又は船舶一隻及び拡声機一そろいを、主として選挙運動のために
使用することができる(法一四一条三項)。
比例代表選挙において、主として選挙運動のために使用される自動車、船舶及び拡
声機は、右により名簿届出政党等が使用するもののほかは、使用することができな
い(同条四項)。
(二) 文書図画の頒布
名簿届出政党等は、その届け出た名簿に係る選挙区ごとに、中央選挙管理会に届け
出た二種類以内のビラを、選挙運動のために頒布することができる(法一四二条三
項)。
比例代表選挙においては、選挙運動のために使用する文書図画は、右により名簿届
出政党等が頒布することができるビラのほかは、頒布することができない(同条四
項)。
(三) 文書図画の掲示
名簿届出政党が選挙運動のために使用する文書図画は、次の各号のいずれかに該当
するもののほかは、掲示することができない(法一四三条一項)。
(1) 選挙事務所を表示するために、その場所において使用するポスター、立
札、ちようちん及び看板の類(同項一号)
(2) 選挙運動用に使用される自動車または船舶に取り付けて使用するポスタ
ー、立札、ちようちん及び看板の類(同項二号)
(3) 演説会において、その演説会の開催中使用するポスター、立札、ちようち
ん及び看板の類(同項四号)
(4) 右に掲げるものを除くほか、選挙運動のために使用するポスター(同項五
号)
右の(1)ないし(4)のポスターの使用については、枚数、サイズ及び種類に制
限がある。枚数については、名簿届出政党等が届け出た名簿に係る選挙区ごとに五
〇〇枚に当該選挙区における当該名簿届出政党等の名簿登載者の数を乗じて得た数
とされている(法一四四条一項二号)。また、種類については、名簿届出政党等が
当該選挙ごとに中央選挙管理会に届け出た三種類以内のもの、サイズは、長さ八五
センチメートル、幅六〇センチメートルを超えてはならないとされている(同条四
項)。
(四) 新聞広告
名簿届出政党等は、自治省令で定めるところにより、当該選挙区における当該名簿
届出政党等の名簿登載者の数(一三人を超える場合においては、一三人とする。)
に応じて自治省令で定める寸法で、いずれか一の新聞に、選挙運動の期間中、自治
令で定める回数を限り、選挙に関して広告をすることができる(法一四九条二
項)。
(五) 政見放送
名簿届出政党等は、政令で定めるところにより、選挙運動の期間中、日本放送協会
及び一般放送事業者のラジオ放送又はテレビジョン放送の放送設備により、公益の
ため、その政見(名簿登載者の紹介を含む。)を無料で放送することができる。こ
の場合において、日本放送協会及び一般放送事業者は、その政見を録音し若しくは
録画し、これをそのまま放送しなければならない(法一五〇条三項)。
右の政見放送に関しては、当該選挙区のすべての名簿届出政党等に対して、同一の
放送設備を使用し、当該選挙区における当該名簿届出政党等の名簿登載者の数に応
じて政令で定める時間数を与える等同等の利便を提供しなければならない(同条五
項)。
なお、右の政見放送の回数、日時その他放送に関し必要な事項は、自治大臣が日本
放送協会及び一般放送事業者と協議の上、これを定める(同条六項前段)。この点
は、名簿届出政党の政見放送と同じであるが、名簿届出政党等の政見放送について
は、その利便の提供につき、特別の配慮が加えられなければならない旨の特則が設
けられている(同項後段)。
(六) 政党演説会
名簿届出政党等は、次に掲げる施設(その届け出た名簿に係る選挙区の区域内にあ
るものに限る。)を使用して、政党演説会を開催することができる(法一六一条一
項)。
(1) 学校及び公民館(同項一号)
(2) 地方公共団体の管理に属する公会堂(同項二号)
(3) 右の(1)、(2)のほか、市町村の選挙管理委員会の指示する施設(同
項三号)
もっとも、個人演説会の開催は、右の施設に限らず、これ以外の施設(その届け出
た名簿に係る選挙区の区域内にあるものに限る。)においてもすることができる
(法一六一条の二)。
政党演説会においては、演説者は、当該名簿届出政党等の選挙運動のための演説を
することができる(法一六二条四項)。
なお、名簿届出政党は、政党演説会の期間中、立札又は看板の類を、会場前の公衆
の見やすい場所に掲示しなければならない(法一六四条の二第一項)。右の立札又
は看板の類のサイズは、縦二七三センチメートル、横七三センチメートルを超えて
はならず、その個数は、名簿届出政党等が届け出た名簿に係る選挙区ごとに通じて
八を超えることができない(同条二項、三項)。
(選挙運動の態様)
法は、小選挙区選出議員の選挙に係る選挙運動と比例代表選出議員の選挙に係る選
挙運動との関係について、次のような定めを置いている。
すなわち、衆議院議員の選挙においては、比例代表選出議員の選挙に係る選挙運動
の制限に関する法一三章の規定は、小選挙区選出議員の選挙に係る選挙運動が、こ
の法律において許される態様において比例代表選出議員の選挙に係る選挙運動にわ
たることを妨げるものではなく(法一七八条の三第一項)、また、小選挙区選出議
員の選挙に係る選挙運動の制限に関する法一三章の規定は、候補者届出政党である
名簿届出政党等が行う比例代表選出議員の選挙に係る選挙運動が、この法律におい
て許される態様において小選挙区選出議員の選挙に係る選挙運動にわたることを妨
げるものではない(同条二項)。
4 立候補の届出の手続及び投票記載所の氏名等の掲示
(一) 立候補の届出
(1) 政党による届出の場合
前記のとおり、法八六条一項一号又は二号に該当する政党その他の政治団体が同項
による届出をするには、文書をもってすることを要するが、この文書には、当該政
党その他の政治団体の名称、本部の所在地及び代表者の氏名並びに候補者となるべ
き者の氏名、本籍、住所、生年月日、職業その他政令で定める事項を記載しなけれ
ばならない(法八六条四項)。
(2) 候補者となろうとする者による届出及び推薦者による届出の場合
前記のとおり、候補者となろうとする者が法八六条二項の規定により届出をする場
合又は選挙人名簿に登録された者が同条三項の規定により他人を候補者とする届出
をする場合には、文書をもってすることを要するが、この文書には候補者となるべ
き者の氏名、本籍、生年月日及び職業その他政令で定める事項を記載しなければな
らない(法八六条六項)。
(3) 選挙長は、法八六条一項から三項までの規定による届出があったときは、
直ちにその旨を告示しなければならない(法八六条一三項)。
(二) 投票記載所の氏名等の掲示
市町村の選挙管理委員会は、衆議院小選挙区選出議員の選挙については、その選挙
の当日、投票所内の投票を記載する場所その他適当な箇所に候補者の氏名及び当該
候補者に係る候補者届出政党があるときはその名称の掲示をしなければならない。
この場合に掲示の順序は、市町村の選挙管理委員会が開票区ごとにくじで定める順
序による。
三 原告らの主張に対する判断
1 請求の原因2について
原告らは、比例代表選出議員の選挙において名簿届出政党等が行う選挙運動が小選
挙区選出議員の選挙に係る選挙運動にわたることを認めた法一七八条の三第二項の
規定は、候補者届出政党である名簿届出政党等に対し、比例代表選出議員の選挙に
係る選挙運動のみならず、小選挙区選出議員の選挙に係る選挙運動を、候補者個人
(当該候補者が重複立候補者であるか否かを問わない。)の選挙運動に上乗せして
行うことを許容するものであり、これにより無所属の候補者は、選挙運動の質量両
面において著しい不利益を受けるから、憲法一四条に違反する旨主張する。
よって、検討するに、新制度の下においては、小選挙区選出議員の選挙にあっては
候補者及び候補者届出政党について、後者にあっては名簿届出政党等についてそれ
ぞれ選挙運動の規制がされていることは、前記のとおりである。
この小選挙区選出議員の選挙と比例代表選出議員の選挙は、制度的には別個の選挙
であるが、立法政策としては、共に政党本位・政策本位の選挙の実現を目指すもの
と位置づけられている。したがって、実際上は、例えば、小選挙区選出議員の選挙
に係る選挙運動において、特定の候補者届出政党が自党所属の候補者への投票を訴
えると同時に、比例代表選出議員の選挙についても同党への投票を呼びかけるとい
う態様の選挙運動が展開されることは、容易に想定されるところであり、かつ、そ
のような態様の選挙運動を禁止することは、現実問題として不可能でもある。そこ
で、法は、前記のとおり、候補者又は候補者届出政党が行う小選挙区選出議員の選
挙に係る選挙運動が、法において許される態様において比例代表選出議員の選挙に
わたることを妨げないとした(法一七八条の三第一項)。原告らが違憲である旨主
張する法一七八条の三第二項の規定は、上記の規定に続くもので、比例代表選出議
員の選挙に係る選挙運動が小選挙区選出議員の選挙に係る選挙運動にわたることを
妨げないとするものである。この規定が設けられたのは、いわゆる重複立候補制が
採用されたことに因る。けだし、前記のとおり、候補者届出政党は、小選挙区選出
議員の選挙の候補者として届け出た者を、同時に比例代表選出議員の選挙における
名簿登載者とすることができ(法人六条の二第四項一、選挙運動の面においては、
名簿届出政党等は、その政見放送において、名簿登載者の紹介をすることができる
とされているが(法一五〇条三項)、その結果、比例代表選出議員の選挙に係る選
挙運動において名簿届出政党等が小選挙区選出議員の選挙の候補者でもある名簿登
載者を紹介することは、結果として、小選挙区選出議員の選挙に係る選挙運動にな
らざるを得ないし、また、そのような選挙運動を禁止することは重複立候補制を認
めた趣旨に反するのみならず、実際問題としてもそのような規制は不可能と考えら
れるからである。法一七八条の三第二項の規定は、比例代表選出議員の選挙に係る
選挙運動が、右に述べた趣旨を逸脱しない限度において小選挙区選出議員の選挙に
係る選挙運動にわたることを許容するものであって、同項の「わたることを妨げな
い」という文言は、正に右のような同項に内在する制約を表現するものにほかなら
ない。そして、上記の規定が許容する選挙運動の範囲がどこまでかは、右のような
制度趣旨を踏まえた解釈によって具体的に明らかにされるべき問題であるが、抽象
的にいえば、比例代表選出議員の選挙運動は、あくまで名簿届出政党等がその政策
を国民に訴えかけるのが主であり、小選挙区選出議員の選挙に係る選挙運動にわた
る部分は、従たる関係に立つというべく、右の関係が逆転するような態様の選挙運
動は同規定の許容するところではないというべきである。
原告らは、右規定をもって、候補者届出政党である名簿届出政党等が行う比例代表
選出議員の選挙に係る選挙運動が、当該政党その他の政治団体に所属する重複立候
補者の有無を問わず、いわば「積極的」に小選挙区選出議員の選挙に係る選挙運動
に及ぶことを許容したものである旨主張するが、かかる主張は、右に説示したとこ
ろに照らして正当でない。
次に、原告らは、本件選挙の東京都第二〇区で行われた選挙運動においては、候補
者届出政党である名簿届出政党が、現実に、専ら小選挙区選出議員の選挙に係る選
挙運動にわたる活動を種々行った旨主張するけれども、具体的な選挙運動において
右のような活動が行われたからといって、そのことのみによって、法一七八条の三
第二項の違憲・無効をもたらすものでないことはいうまでもない。仮に、原告らが
主張するような選挙運動が行われたとすれば、それは、その具体的な態様如何によ
っては、右の法の規定に抵触する違法な選挙運動と目されることがあり得ようし、
その違法の程度が極めて重大である場合には、選挙の効力自体の消長を来すことも
あり得ようが、そのことは、本件とは性質を異にする別個の問題である。
以上のとおりであるから、原告らの請求の原因2の主張は、その前提において既に
失当である。のみならず、前記のような制約の下に比例代表選出議員の選挙に係る
選挙運動が小選挙区選出議員の選挙に係る選挙運動にわたることを許容した右の規
定には、それなりの合理性があり、これを違憲とすることはできない。よって、原
告らの右主張は、理由がない。
2 請求の原因3について(その1)
原告らは、小選挙区選出議員の選挙に関する法一三章の規定は、候補者届出政党に
所属しない候補者の選挙運動に制限を加え、右政党に所属する候補者のそれと著し
く差別しており、憲法一四条一項、一五条一項及び四四条に違反する旨主張する。
新制度が政党本位・政策本位の選挙制度を導入したのは、いうまでもなく、わが国
社会において政党が現実に果たしている役割の重要性を認識したことによるものと
解される。現代のように、経済社会が高度化・複雑化し、国民の利害も多岐に分化
する時代にあっては、政治的意見を同じくする者の集団である政党が、その組織力
をもって国民の利害や意見を吸収し、国の政策に高めるという政治過程がどの国に
おいても一般化しており、わが国においても例外ではない。政党は、いわば議会制
民主主義にとって不可欠の装置なのであり、わが憲法も政党について直接規定する
ことはないものの、その存在を予定していることはいうまでもない(最高裁昭和四
五年六月二四日大法廷判決(民集二四巻六号六二五頁参照)。新制度は、このよう
な政党の現代的役割にかんがみ、わが国の政治の中枢を担う衆議院議員の選挙にお
いて、政党その他の政治団体が主体となる選挙制度を導入し、その一環としてその
政策などを国民に訴えかける選挙運動を展開することを認めたものであり、十分な
合理性を有するというべきである。
もっとも、前記のような小選挙区選出議員の選挙における選挙運動の規制を形式的
にみるならば、原告らが主張するように、候補者届出政党については、それ自身の
選挙運動に候補者届出政党の選挙運動が、いわば「加算」されるから、候補者届出
政党に所属しない候補者に比して、選挙運動の量の面において差異が存するとみる
べき余地がないではない。
しかしながら、新制度においても、被選挙権を有する者が候補者届出政党所属のメ
ンバーとして立候補するか、あるいは、それに所属しない者として立候補するかは
各人の自由に委ねられていることはいうを俟たない。例えば、候補者届出政党たる
要件を備えている政党に所属している者であっても、法八六条二項の規定による立
候補の届出をすることは妨げられないし、他方、特定の政党その他の政治団体に所
属していなかった者が選挙に際して候補者届出政党たる要件を備えた政党に所属す
ることにより、あるいは、自らが所属する政党その他の政治団体について候補者届
出政党たる要件を備えることにより、候補者届出政党所属の候補者となることにつ
いても、何らの制約がないのである。このようにみてくると、原告らが主張する小
選挙区選出議員の選挙に係る選挙運動の「差異」というのも、候補者の自由に委ね
られた政党への加入あるいは政党の選択によって生じる政治的色彩の濃い「差異」
であって、憲法がそのような「差異」を設けることを一切容認していないとする見
解は、国会の立法裁量を著しく制約するものであって、妥当でない。
次に、原告らの請求の原因3の主張は、法一三章の規定が、候補者届出政党につい
てのみ選挙運動を認め、これ以外の政党その他の政党には選挙運動を認めないこと
が憲法に違反する旨の主張を含むものと解されるので、この点について付言してお
く。
新制度導入の背景には、政治腐敗を防止するため、政権交代を容易にする政治状況
を作り出すという要請もあったことは、前記認定のとおりである。小選挙区別は、
かねてから政権交代を容易にする選挙の仕組みであると認識されており、この制度
を支持する論者の間には、アメリカ合衆国にみられる二大政党の鼎立という政治状
況がわが国においても望ましいとする主張が有力にされていた(この点は、公知の
事実である。)。そこで、新制度を導入するに当たっては、衆議院選挙の主体とな
るべき政党の要件をどのように定めるかが極めて重要な問題となった。けだし、政
権交代を安定的に可能にし、将来における二大政党の鼎立という政治状況をも視座
に置くならば、衆議院議員選挙の主体となるべき政党は、国民の利益や意思を幅広
く吸収し、これを集約して、国民全体の利益の観点から具体的な政策に高める能力
を有するものであり、こうした活動を継続的に実施していく組織・人員及び広範な
国民の支持を確保することができるものであるべきことは、見やすい道理だからで
ある。しかし、どのような政党がかかる要件を具備しているかを国家が審査・判定
することは、政党の組織や活動に対する不当な介入となるおそれがあることから、
何らかの外形的・客観的な基準によって定める必要があった。このような考慮か
ら、立法者たる国会は、右の基準を、国民の政治的意識や政党支持の動向を全国的
規模で把握することができる国政選挙の結果に基づいて定めることにしたのであ
る。それが法八六条一項一号又は二号が定めるいわゆる「政党要件」で、一号にお
いては国会議員の数を、二号においては得票率をそれぞれ基準としている。このう
ち、一号の要件は、参議院比例代表選出議員の選挙における名簿届出政党等の要件
と同じであり、二号の要件は、政府原案では「三パーセント以上」とされていたの
を国会の審議において修正したもの(なお、成立に争いがない乙第一号証によれ
ば、平成二年七月三一日の選挙制度審議会の答申においては、「衆議院小選挙区議
員において候補者を届け出ることができる政党」の得票率要件として、「直近にお
いて行われた衆議院議員総選挙又は参議院議員通常選挙のいずれかの選挙における
得票率が全国を通じて一パーセント以上」とされていたことが認められる。)であ
って、政党要件の外形的・客観的基準としては、それなりの合理性を有するものと
評価することができる。
右のとおり、政党主体の選挙制度を意図する新制度の導入は、戦後のわが国の政治
構造が生んだ政治腐敗に対する反省に立った政策判断という面をも有しており、そ
れが現代におけるわが国の最良の選択であるか否かは別論として、少なくとも、政
治改革を目指す国会が、その裁量権に基づいて採用することができる合理的な選択
とみるべきである。このように、新制度を戦後のわが国の政治史全体の流れの中で
捉えるときは、小選挙区選出議員の選挙に係る選挙運動を候補者届出政党にのみに
認めるという帰結も、一つの選挙制度の在り方として首肯することができるといわ
なければならない。
なお、小選挙区選出議員の選挙に係る選挙運動に関する法一三章の規定は、前記の
とおり、候補者、候補者届出政党それぞれにほぼ同様の規制をしているが、ラジ
オ・テレビによる政見放送は、候補者には認められず、候補者届出政党のみに認め
られている。しかしながら、この規制は、小選挙区の区域が従前の中選挙区に比し
て狭まったこと、小選挙区制を導入すると従前よりも候補者が多くなることが予測
され、これら多数の候補者に対してラジオ・テレビなどのメデイアを利用した政見
放送の機会を均等に提供するとなると、番組編成が困難になること、候補者届出政
党は、選挙運動の対象区域が広く、その政策を国民に訴えるためには、ラジオ・テ
レビの利用が不可欠であることなどによるものであって、この規制が合理性を欠く
ということはできない。
以上のとおりであるから、原告らの標記主張も理由がない。
3 請求の原因3について(その2)
次に、原告らは、新制度下の立候補の告示においては、候補者届出政党に所属する
候補者については、その所属欄に当該政党その他の政治団体の名称が表示されるの
に対し、それ以外の候補者については、所属欄は空白とされ、無所属の表示もされ
なかったし、また、投票所の投票記載場所における候補者の表示についても、右と
同様の取扱いがされたが、これは、小選挙区選出議員の選挙においては候補者届出
政党に所属する候補者が原則であり、それ以外の候補者は例外であるとして、差別
するものである旨主張する。
前記のとおり、法八六条一項一号又は二号に該当する政党その他の政治団体が同項
による届出をするには、提出すべき文書に当該政党その他の政治団体の名称を記載
すべきものとされているが(法人六条四項)、右以外の政党その他の政治団体に所
属している者が同条二項による届出をする場合には、その政党等の名称を記載すべ
きものとはされていないし、およそ政党その他の政治団体に所属していないが同項
による届出をする場合においても、無所属と記載すべきものとはされていない。そ
して、選挙長は、右の各届出に基づいて立候補の告示をするのであるから(法八六
条一三項)、候補者届出政党に所属する候補者の氏名には当該政党その他の政治団
体の名称が付記されるのに対して、それ以外の候補者については右に類する付記は
されない取扱いとなる。また、市町村の選挙管理委員会は、小選挙区選出議員の選
挙の当日、投票所内の投票を記載する場所その他適当な箇所に候補者の氏名を掲示
しなければならないが、このうち候補者届出政党が法八六条一項の規定により届け
出た候補者については、その名称の掲示をしなければならないとされている(法一
七五条一項)から、右の掲示に関する取扱いも、立候補の告示と同様になる。
しかしながら、このような取扱いは、政党本位・政策本位の選挙の実現を意図する
新制度においては、候補者が候補者届出政党に所属する者であるか否か、いずれの
候補者届出政党に所属しているかが、選挙人にとって候補者を選ぶ上で極めて重要
な要素であるから、法八六条一項の規定により届出がされた候補者については、そ
の旨を明確にすることによって、選挙人の選択・判断に誤認が生じないようにする
ことを目的とするものであって、原告ら主張のような差別を意図するものとは到底
解し難い。
よって、原告らの標記の主張も失当である。
四 以上のとおりであるから、原告らの本訴請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負
担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決
する。
(裁判官 小野寺規夫 小池信行 坂井 満)

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