弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原告Aの被告会社に対する訴を却下する。
二 原告分会の被告会社に対する請求を棄却する。
三 原告Aは、被告会社に対し、金一七三四万九八八〇円及びこれに対する昭和五
八年一〇月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 訴訟費用の負担については、被告会社に生じた費用はこれを五分し、その四を
原告Aの負担、その一を原告分会の負担とし、その余の費用はこれを三分し、その
二を原告Aの負担、その一を原告分会の負担とする。
五 この判決は第三項に限り仮に執行することができる。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
 (甲事件)
一 請求の趣旨
1 被告会社は、原告分会に対し、金五〇〇万円、原告Aに対し、金一三六八万一
五六五円及び右各金員に対する昭和五八年一二月一六日から支払済みまで年五分の
割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告会社の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 本案前の答弁(原告Aの被告会社に対する訴に対し) 主文第一項と同旨
2 本案に対する答弁
 原告らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。
(乙事件)
一 請求の趣旨
1 主文第三、第五項と同旨
2 訴訟費用は原告Aの負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 被告会社の請求を棄却する。
2 訴訟費用は被告会社の負担とする。
第二 当事者の主張
(甲事件)
一 請求原因
1 当事者
 原告分会は、被告会社の東京、武蔵及び横浜地区の従業員を中心に組織する労働
組合である。
 原告Aは、昭和四一年九月一六日、被告会社と労働契約を締結し、以後同社東京
第二工場(以下「東二工場」という。)に勤務し、原告分会の分会員であつた。
 被告会社は、本社を肩書地に置き、東京、武蔵、横浜、名古屋、相生、呉の各地
区に合計一三の工場を有し、各種船舶艦艇、一般産業用機械などの各種重機械の製
作修理を主たる業とするわが国有数の企業である。
2 不法行為の発生
(一) 被告会社は、昭和四七年八月一六日以降、原告Aの勤務する東二工場にお
いて原告分会の同意を得ることなく、また従前の就業規則変更の手続をとることも
せず、一方的に「新勤務制度の実施について」と題する同月一一日付文書を全従業
員に配布し、タイムカード制を廃止して自己申告制とすることを内容とする「新勤
務制度」を実施した。
(二)原告分会は、新勤務制度は労働条件の不利益変更であるとして、一方的実施
に反対し、団体交渉による解決を主張したが、被告会社が団体交渉を拒否したまま
右のとおり一方的に実施したため、同月一六日、東二工場所属の原告Aを含む全分
会員に対し、左記指示を行つた。
① 始終業については従来の慣行どおり行うこと。
② タイムカードは原告分会作製のものを使用して打刻すること。万一被告会社側
の妨害で打刻できない時は、守衛所の時計により各自カードに入退門時刻を記入す
ること。
③ 勤務表への記入は行わないこと。
(三) 右原告分会の指示に基づき、東二工場所属の原告Aを含む全分会員は、被
告会社の何らの妨害を受けることなく翌同月一七日朝、東二・東三共同ビルカード
場で、原告分会作製のカードに打刻を行った。ところが被告会社は、同日終業時に
至り、勤務課員らを配置して原告分会のタイムカード打刻を妨害し、同月一九日終
業時には、被告会社の警備員Bは、原告Aをコンクリートの地面に投げ飛ばし、全
治六週間の治療を要する左第二、第三指末節骨骨折の傷害を負わせた。
(四) 原告Aは、同月二一日午前七時ころ、東二工場に東門から入門し、カード
場入口から入ろうとしたところ、被告会社の警備員Cに入場を阻止されたので、同
人に対し打刻を妨害しないよう申し入れたが、拒否されたため、カード場の外側に
沿って出口の方へ走り、出口の側からカード場に入ろうとした。これを見たC警備
員は、原告Aが打刻するのを阻止するため、カード場入口から内側に沿つて疾走し
たところ、一番目のタイムレコーダー付近で同人の体と原告Aの体が接触し、これ
により、Cは、左第三・第四肋軟骨骨折の病名の負傷をして、同年九月六日まで休
業した。
(五) 被告会社は、同年八月二九日原告Aの同月二一日の右行為は就業規則第七
七条第一二号(会社構内又は会社施設内で暴行、脅迫、傷害、侮辱等を行い、又は
業務を妨害したとき)に該当するとして東京地区懲戒委員会を開催して原告Aを懲
戒解雇処分に付することを決定し、同年九月一九日、原告Aに懲戒解雇(以下「本
件懲戒解雇」という。)の通知を行うとともに同人を実力で会社構外に排除した。
(六) しかし、右原告Aに対する本件懲戒解雇は、原告分会に対する支配介入の
不当労働行為であるとともに、原告Aに対する不利益取扱いの不当労働行為であ
り、団結権侵害の不法行為となる。
3 被告会社の責任
 被告会社の右不当労働行為は、団結権侵害の不法行為を構成し、被告会社は、民
法七〇九条ないし民法七一五条に基づき、原告らに対し、損害賠償の責任がある。
4 原告らの損害
(一) 原告分会の損害
 原告分会は、被告会社の右団結権侵害の不法行為により、多大の財産的、非財産
的損害を被つたが、内金五〇〇万円を請求する。
(二) 原告Aの損害
(1 )逸失利益(金二五一七万〇八二三円)
 原告Aは、右被告会社の不法行為により昭和四七年九月二〇日以降昭和五八年一
〇月三一日までの間、賃金、一時金等合計金二五一七万〇八二三円の利益を失い、
同額の損害を被つた。
(2) 非財産的損害(金五〇〇万円)
 原告Aは、右被告会社の不法行為により多大の非財産的損害を被ったが、右損害
は少なくとも、金五〇〇万円と金銭評価されるべきである。
(3) 損益相殺
 原告Aは、現在まで仮処分決定を得、被告会社の任意の履行により合計金一六四
八万九二五八円の支払を受けたので、右損害額から損益相殺する。
(4) 原告Aの損害
 したがつて、原告Aの損害は金一三六八万一五六五円となる。
5 よつて、被告会社に対し、不法行為に基づく損害賠償として、原告組合は金五
〇〇万円、原告Aは金一三六八万一五六五円及び右各金員に対し、不法行為の後で
ある昭和五八年一二月一六日から支払済みに至るまで、民法所定の年五分の割合に
よる遅延損害金の支払を求める。
二 原告Aの本件訴に対する被告会社の本案前の抗弁
 原告Aが本件懲戒解雇を不当労働行為と主張して本件訴を提起することは、以下
のとおり既判力又は訴訟関係における信義則等に反し許されない。
1 原告Aは、昭和四七年九月二八日、被告会社を被告として東京地方裁判所に労
働契約存在確認等請求訴訟を提起した(同裁判所昭和四七年(ワ)第八二二一号、
以下同事件の控訴審、上告審を含め「前訴」という。)が、その請求は、本件懲戒
解雇は労組法七条一号本文の不当労働行為であり、懲戒解雇権の濫用であるから無
効である旨主張して、原告Aが被告会社に対して期間の定めのない労働契約に基づ
く権利を有することの確認及び本件懲戒解雇の翌日である昭和四七年九月一六日か
ら口頭弁論終結に至るまでの賃金の支払を求めるものであつた。
2 右事件につき、東京地方裁判所は、昭和五〇年九月二九日、右請求をいずれも
棄却する旨の判決を言渡した。これに対し、原告Aは、東京高等裁判所に控訴する
(同裁判所昭和五〇年(ネ)第二二六九号)とともに控訴審において賃金請求を拡
張したが、同裁判所は、昭和五六年五月二〇日、控訴及び右拡張請求をいずれも棄
却する旨の判決を言渡した。原告Aは、更に最高裁判所に上告したが(同裁判所昭
和五六年(オ)第八五〇号)、同裁判所は、昭和五八年一〇月二七日、上告を棄却
する旨の判決を言渡し、前訴判決は確定した。
3 原告Aの本件訴は、前訴請求と訴訟物を同一にするか、前訴請求を先決関係と
するものであるから、前訴判決の確定によりその既判力に牴触する。仮にそうでな
いとしても、原告Aは、前訴において、本件懲戒解雇の無効原因の一つとしてこれ
が不当労働行為である旨を主張し続け、そのための立証も十分に行ったが、右主張
は、第一審から上告審を通じいずれも実質的な審理を行つたうえ斥けられたのであ
るから、紛争の一回的解決という訴訟上の要請あるいは訴訟関係における信義則等
に鑑みれば、前訴における経緯及びその確定判決の判断を無視し、恣にこれに反す
る請求や主張を行うことは許されるべきではない。
 よつて、原告Aの本件訴は却下されるべきである。
三 被告会社の本案前の抗弁に対する原告Aの反論
 本件訴は前訴と訴訟物及び請求原因を異にするから適法である。
四 抗弁
 原告らの被告会社に対する甲事件各請求権は、本件懲戒解雇がなされた昭和四七
年九月一九日から既に三年を経過したので、民法七二四条前段により時効消滅し
た。被告会社は、本訴において右時効を援用する。
五 抗弁に対する認否及び反論
 抗弁は争う。
 原告らは、被告会社の本件懲戒解雇を不当労働行為であり不法行為と主張してい
るところ、右不当労働行為は、いわゆる継続する不当労働行為(労働組合法二七条
二項)であり、原告らに対し、現在も継続しているから、本訴請求権は消滅時効に
かかつていない。
(乙事件)
一 請求原因
1 被告会社は、原告Aに対し、東京高等裁判所昭和五四年(ウ)第四二六号地位
保全仮処分申請事件についての仮処分決定(以下「本件第一仮処分決定」とい
う。)により、昭和五四年一一月二日、金九六五万〇二〇四円及び同月以降昭和五
八年一〇月二七日まで毎月二五日限り金一四万三四三七円、同裁判所昭和五四年
(ウ)第一二三一号地位保全仮処分申請事件についての仮処分決定により、昭和五
四年一二月二六日、金二二万三一〇〇円、同裁判所昭和五五年(ウ)第七三九号地
位保全仮処分申請事件についての仮処分決定により、昭和五五年八月四日、金二九
万五三〇〇円、同裁判所昭和五五年一一四九号地位保全仮処分申請事件についての
仮処分決定(以上四件の仮処分決定を以下「本件各仮処分決定」という。)によ
り、昭和五五年一二月三日、金二九万六三〇〇円以上合計金一七三四万九八八〇円
(以下「本件仮払金」という。)を仮払した。
2 原告Aは、本件各仮処分事件の本案訴訟として、前記二の1記載のとおり東京
地方裁判所に労働契約存在確認等請求訴訟を提起したが、同裁判所は請求を棄却す
る旨の判決を言い渡し、同判決はその後昭和五八年一〇月二七日確定した。
3 更に、本件第一仮処分決定は、東京高等裁判所において(同裁判所昭和五四年
(ウ)第一〇七〇号仮処分異議申立事件)、昭和五八年一二月一二日、取り消され
た。
4 前訴判決の確定及び右仮処分決定の取消しにより原告Aの本件仮払金の受領は
法律上の根拠を欠くに至つたものであるから、原告Aは不当利得として本件仮払金
を原告に返還すべきである。
5 よつて、被告会社は、原告Aに対し、不当利得返還請求権に基づき、本件仮払
金金一七三四万九八八〇円及びこれに対する前訴判決確定の日の翌日である昭和五
八年一〇月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支
払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし3の各事実は認める。
2 同4の主張は争う。
三 原告Aの主張
 以下の理由により、本件仮払金について不当利得は成立しない。
1 賃金仮払仮処分は、単に金銭の給付を命ずるにとどまらず、当事者間に仮の労
働契約関係を形成し、これに基づいて賃金の支払を命ずるものであるから、右仮処
分に基づき、労働者には労働を提供する義務が発生し、使用者にはこれを受領して
賃金を支払う義務が発生する。
 原告Aは、本件第一仮処分決定に基づき、昭和五四年一一月五日以降昭和五五年
八月まで被告会社の休日以外は毎日午前七時三〇分に被告会社に出勤し、被告会社
に対し現実に労務の提供をしたが、被告会社によりその受領を拒絶された。同年九
月以降は現実の労務の提供はしなかつたが、被告会社が応ずればいつでも就労でき
るよう態勢を整えて待機していたものであるから、ここに、暫定的にせよ、原告A
は被告会社に労務を提供し、被告会社はその対価として賃金を支払うとの事実上の
労働関係が展開されたのである。
 したがつて、本件本案訴訟において、被告会社のなした原告Aの解雇が有効とさ
れ、右原被告間に労働契約が存在しないことが確定したとしても、右のとおり、既
に有償双務の継続的な労働関係が事実上展開された以上、右の事実上の労働関係そ
のものが遡及的に存在しなくなるということがありえないことは、賃貸借の事実状
態が継続した後の解除に遡及効が認められないのと同様である。
 また本件賃金仮払仮処分の如き、仮の地位を定める仮処分の取消には遡及効は認
められないから、これに基づいてなされた仮払賃金の支払は、本案における仮処分
債権者の敗訴判決の確定及び仮処分の取消によっては何らの影響を受けることな
く、依然として法律上有効な原因に基づくものである。
2 原告Aは、被告会社から呼出しを受け労務を受領する旨の申出がある時はいつ
でも就労できる態勢を整えて待機していたものであつて、他に職を求めて収入を得
たことはなく、また、資産も一切ないため、本件仮払金はすべて生活費として費消
した。
 したがつて、本件において原告Aの得た利益は有形的に現存していないばかりで
なく、これを得たことによつて喪失を免れた財産もなく、また、これを得なかつた
ならば他の財産を費消していたであろうと認められる事情も全くない。本件におい
て現存利益の存在を肯定するならば、原告Aは、本件仮処分決定に従つて他に職を
求めなかつたため、本件仮払金の返還義務を履行することによって、法律上の原因
なき利得が存しなかつたならばあつたであろうと思われるよりも貧しくなることと
なり、法の趣旨に反する結果となるのであつて、原告Aの受けた利益はすべて現存
しないと認めるのが相当である。
四 原告Aの主張に対する認否及び反論
1 原告Aの主張1のうち、原告Aが昭和五四年一一月五日被告会社に就労を申し
出たが被告会社がこれを拒否したこと、同日以降原告Aが毎月仮払金受領のため被
告会社に出頭したほか継続的に就労を申し出ていたことは認めるが、その余は争
う。原告Aの就労の申出は昭和五五年半ばころまでで平均一箇月数回、それ以降は
本案の控訴審判決言渡(昭和五六年五月二〇日)までの間一、二か月に一回程度な
されただけでそれ以降は全くない。
 仮処分によつて形成された法律状態は、訴訟上の法律状態にすぎず、私法上の法
律状態ではないから、地位保全仮処分命令が発せられたからといつて被告会社と原
告Aとの間に「事実上の労働契約関係」が形成されることはなく、したがつて、原
告Aが本件仮処分決定を得て労務の提供をしたとしても被告会社にはこれを受領す
る義務はない。また、仮処分の本質たる暫定性(仮定性)は、いわゆる満足的処分
にあつてもその性格が失なわれるわけではなく、本案において仮処分債権者の敗訴
判決が確定した場合には、これにより原状回復義務が生ずることは明らかである。
2 原告Aの主張2は争う。
 被告会社は、原告Aからの就労請求には一切応じない態度を明確な形で表明して
いたのであつて、原告Aが他に職を求めなかつたとか待機していた等の事実は被告
会社の関知するところではないのみならず、仮にそのような事実があり原告Aが本
件仮払金以外には生活費に充てるべき何らの収入を得ていなかつたとしても、本件
仮払金を利得しなかつたならば他の金銭をもつて生活費に充当したはずであるか
ら、利得はその全額現存する。
第三 証拠(略)
       理   由
第一 甲事件についての判断
一 原告Aの被告会社に対する訴について
 被告会社は、原告Aの本訴請求は既判力に反し許されないと主張するので、この
点について判断する。
 成立に争いのない乙第一ないし第三号証及び弁論の全趣旨を総合すると被告会社
の本案前の抗弁1及び2の各事実(前訴の内容及び原告A敗訴の確定)を認めるこ
とができる。右事実によれば、前訴の訴訟物は、原告Aと被告会社間の労働契約の
存在及び本件懲戒解雇後の賃金請求であり、本訴の訴訟物は、本件懲戒解雇が不法
行為であることを理由とする解雇後の賃金相当額の財産的損害及び非財産的損害の
賠償を請求するものであって、訴訟物を異にし、本訴が前訴の既判力によつて妨げ
られるものではないことは明らかである。
 次に、被告会社は、原告Aの本訴請求は信義則に反し許されない旨主張するので
この点について検討するに、右認定のとおり、前訴は本訴と同一当事者間でなさ
れ、しかも原告Aは前訴において、本訴で請求原因として主張していると同一の本
件懲戒解雇が不当労働行為に該当する旨の主張を行い、かつ、立証を尽したこと、
その結果前訴判決は本件懲戒解雇が不当労働行為であるとは認められない旨判断し
て原告Aの労働契約存在確認及び解雇後の賃金請求をいずれも棄却したこと、本訴
は賃金相当額等本件懲戒解雇により被った損害を請求するものではあるが、その主
要な事実争点は前訴と同一であってその法律構成を変えたにすぎないうえ、請求も
その経済的利益において前訴と実質上ほぼ同一であること、前訴は昭和四七年九月
二八日提訴以来上告棄却による判決確定に至るまで約一一年を経過していることが
認められ、これら事実に本訴は前訴判決確定の直後である昭和五八年一一月九日に
提起されたこと(この事実は記録上明らかである。)、及び原告Aが前訴係属中に
本訴の右請求及び主張をすることについて何らの支障となる事情も見受けられない
ことからすれば、本訴は、形式的には前訴と訴訟物を異にするとはいえ、実質は前
訴の蒸し返しであり、訴訟上の信義則に反し許されないものと解するのが相当であ
る。
二 原告分会の損害賠償請求について
 仮に、請求原因事実が認められるとしても、原告分会が不法行為であると主張す
る本件懲戒解雇がなされた昭和四七年九月一九日から三年を経過したことは明らか
であり、被告会社が昭和六〇年七月一八日第一〇回口頭弁論期日において時効を援
用したことも記録上明らかであるから、原告分会の不法行為に基づく損害賠償請求
権は時効により消滅したというべきである。
 なお、原告分会は、本件懲戒解雇はいわゆる継続する不当労働行為(労働組合法
二七条前段)であり、現在も継続しているから、本件損害賠償請求権は消滅時効に
かかつていない旨主張するが、独自の見解というべく、当裁判所の採用しないとこ
ろである。
第二 乙事件についての判断
一 乙事件の請求原因1(本件各仮処分決定により本件仮払金が支払われたこ
と)、2(本案訴訟である前訴において原告A敗訴の判決が確定したこと)及び3
(本件第一仮処分決定が取り消されたこと)の各事実は当事者間に争いがない。
二 ところで本件各仮処分決定の如き仮の地位を定める仮処分は、本件における原
告A被告会社間の労働契約の存否をめぐる争いのように継続的権利関係に関し、法
的紛争があることにより当事者間に生ずる現在の危険、不安を除去するため、債権
者が本案訴訟で勝訴することを前提とし、それまでの間の暫定的応急処置としてな
されるのであるから、後日債権者の本案敗訴の判決が確定したときは、仮処分の右
性格からいつて、その目的達成の不能が確定したものとして、当該仮処分命令はそ
の前提を失い、当然に失効するものと解すべきである。
 したがつて、本件本案判決の確定により、原告Aの本件仮払金の受領は、その法
律上の根拠を欠くに至り、原告Aは本件仮払金を不当利得として被告会社に返還す
べき義務を負うものというべきである。
 なお、原告Aは、本件各仮処分決定は単に金銭の給付を命ずるにとどまらず、当
事者間に仮の労働契約関係あるいは事実上の労働契約関係を形成するものである旨
主張するが、本件各仮処分決定は、仮の地位を定める仮処分として、先に述べたと
おり、被告が本案判決確定に至るまでの間賃金の支給を受けられないことによる生
活困窮の危険を避けるために必要な暫定的処分として、賃金の全部または一部に相
当する金員の支払を仮に命ずるものであり、右仮処分がなされたからといつて、こ
れにより当事者間に新たに私法上の労働契約関係が形成されるものではない。した
がつて、被告会社の本件仮払金の支払に対し、原告Aには労務を提供すべき義務が
生ずるものではないから、原告Aが被告会社に対し労務を提供したとしても、被告
会社にはこれを受領すべき義務はなく、これにより事実上であれ、原告A被告会社
間に労働関係が発生することはなく、本案訴訟における原告A敗訴の判決が確定し
た場合の本件各仮処分決定の効力につき、継続的契約関係における解除の効果の不
遡及に類する考えを容れる余地もない。
 また、原告Aは、仮処分決定の取消の遡及効が否定されていることを理由に、原
告Aの本件仮払金の受領には未だ法律上の原因が存する旨主張する。しかし、本件
各仮処分決定は、前述のとおり、原告Aの本案敗訴の判決の確定により、当然に失
効し、また、職務執行停止・代行者選任の仮処分の如く、対世効があるため、法的
安定性確保の要請から遡及的消滅が否定されているものとは異なり、本件各仮処分
は、当事者以外に効力を及ぼすものではないので、その間に生じた仮処分の効果
も、当初から発生しなかつたことに帰するものというべきであるから、原告Aの本
案敗訴判決の確定により、本件仮払金の受領が法律上の原因を欠くに至ることは明
らかである。
三 次に、原告Aは、現存利益の不存在を主張するが、一般に金銭による支払につ
いては、受領者がこれを生活費に費消しても、これにより他の財産の減少を免れた
ことによって、その利益はなお存在するものと解すべきである。もつとも、当該利
益を得たため、それに伴つて応分の支出の増加が認められ、現存利益が存しないと
認めるのが相当な場合もあり得るが、本件において、原告Aは、かかる特段の事情
につき主張立証するところはなく、また、本件各仮処分決定により原告Aに就労の
義務が生じ、その労務の提供のため待機すべき要もないことは前判示に徴し明らか
であり、原告Aが他に職に就かず収入を得ることがなかつたとしても、右事情は現
存利益の存否の判断に影響を及ぼすものではない。
第三 以上のとおりであるから、原告Aの本件訴は訴訟上の信義則に照らし許され
ないからこれを却下し、原告分会の本訴請求は理由がないから棄却し、被告会社の
本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九
三条一項を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文の
とおり判決する。
(裁判官 白石悦穂 遠山廣直 納谷肇)

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