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平成25年4月26日判決言渡
平成24年(行ケ)第10395号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成25年4月15日
判決
原告アイリスオーヤマ株式会社
訴訟代理人弁護士髙橋淳
同弁理士大渕美千栄
同布施行夫
被告株式会社ヤマヒサ
訴訟代理人弁護士上原健嗣
同上原理子
同弁理士倉内義朗
同宇治美知子
同池村正幸
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2012-800005号事件について平成24年10月5日にし
た審決を取り消す。
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
被告は,発明の名称を「犬のトイレ仕付け用サークル」とする特許第46161
62号(以下「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許は,平成17年12月9日に出願され,平成22年10月29日に設定
登録された。
原告は,平成24年1月26日付けで本件特許の請求項1,2に係る発明の特許
につき無効審判を請求し,被告は,同年4月16日付けで訂正請求をした。
特許庁は,上記無効審判請求について無効2012-800005号事件として
審理し,平成24年10月5日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」
との審決(以下「審決」という。)をし,同月15日,原告に審決謄本が送達された。
2平成24年4月16日付け訂正請求に係る特許請求の範囲の記載
「【請求項1】
複数のパネルが連結されたサークル本体の内部で,収容した犬のトイレの仕付け
を行う犬用サークルにおいて,
前記サークル本体の内部空間が中仕切体によって仕切られることにより住居スペ
ースとトイレスペースに区画されており,
前記中仕切体には,犬が出入り可能な仕切出入口が開口されるとともに,この仕
切出入口を開閉する仕切扉が設けられ,この仕切扉を介して住居スペースとトイレ
スペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成さ
れていることを特徴とする犬のトイレ仕付け用サークル。
【請求項2】
請求項1に記載の犬のトイレ仕付け用サークルにおいて。
前記仕切出入口の開放時および閉鎖時にそれぞれ仕切扉を係止する仕切出入口ロ
ック手段が設けられたことを特徴とする犬のトイレ仕付け用サークル。」(以下,【請
求項1】,【請求項2】に係る発明を,それぞれ「訂正発明1」,「訂正発明2」
という。また,上記訂正請求により訂正された本件特許に係る明細書を「本件明細
書」といい,図面と併せて「本件明細書等」という。)
3審決の理由
別添審決書写しのとおりであり,その要旨は,次のとおりである。
なお,請求人(原告)が審判手続において提出した証拠方法は,以下のとおりで
ある。
甲1:杉浦基之監修,「赤ちゃん犬のしつけと育て方」2001年(平成13年)
6月22日2刷発行,株式会社主婦と生活社,50,51頁
甲2:実用新案登録第3059475号公報
甲3:特開2003-23904号公報
甲4:大友藤夫,小方宗次監修,「06.07年版犬の医・食・住」2005年
(平成17年)11月29日発行,株式会社どうぶつ出版,114,190,19
1頁
甲5:特許第3370834号公報
甲6:特許第3409167号公報
甲7:実用新案登録第3059420号公報
甲8:特開昭62-294018号公報
甲9:三村雅文,12to12,畠山孝雄編集,「うさぎパラダイス」1999年
(平成11年)2月15日12刷発行,主婦と生活社,102,103頁
甲10:霍野晋吉著,「ハムスター・ウサギ・フェレットなどの飼い方」1996
年(平成8年)11月20日発行,成美堂出版,82,83頁
甲11:斉藤久美子監修,「かわいいうさぎ」2004年(平成16年)4月2
0日発行,株式会社西東社,78頁
甲12:斉藤久美子監修,「かわいいうさぎ」2004年(平成16年)4月2
0日発行,株式会社西東社,104,105頁
甲13:杉浦基之監修,「赤ちゃん犬のしつけと育て方」2001年(平成13年)
6月22日2刷発行,株式会社主婦と生活社,68,69頁
(1)訂正発明1は,甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)を主引例
として,甲1~8に記載された発明,又は甲1,2に記載された発明に基いて当業
者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)訂正発明1は,甲3に記載された発明(以下「甲3発明」という。)を主引例
として,甲1~8に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることが
できたものではない。
(3)上記のとおり,訂正発明1は当業者が容易に発明をすることができたもので
ないから,訂正発明1を引用し,更に「仕切出入口の開放時および閉鎖時にそれぞ
れ仕切扉を係止する仕切出入口ロック手段」との構成を有する訂正発明2は,当業
者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)審決が認定した甲1発明,甲3発明,訂正発明1と甲1発明,甲3発明との
一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア(ア)甲1発明
「ベッドとトイレを有し,トイレをしつけるための犬用のサークルであって,
人間の寝室のように,ベッドとトイレの間を板で仕切って区別し,
犬がベッドとトイレを自由に行き来できるスペースが開けてある
犬用のサークル」
(イ)訂正発明1と甲1発明との一致点
「サークル本体の内部で,収容した犬のトイレの仕付けを行う犬用サークルにおい
て,
前記サークル本体の内部空間が中仕切体によって仕切られることにより住居スペ
ースとトイレスペースに区画されており,
前記中仕切体には,犬が出入り可能な仕切出入口が開口されることを特徴とする
犬のトイレ仕付け用サークル。」
(ウ)訂正発明1と甲1発明との相違点
「<相違点1>
サークル本体が,訂正発明1では「複数のパネルが連結された」ものであるのに
対し,甲1発明ではそのようなものであるかは明らかでない点。
<相違点2>
訂正発明1が,「仕切出入口を開閉する仕切扉が設けられ,この仕切扉を介して住
居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制
されるように構成されている」のに対し,甲1発明には扉が認められない点。」
イ(ア)甲3発明
「トイレのしつけを行う犬用サークルであって,
床面はA居住エリアとBトイレエリアと2つに分かれており,
3脱着可能な仕切りでA居住エリアとBトイレエリアとの間は仕切られており,
平常時に3脱着可能な仕切りは取り外しておき,
犬の排泄のタイミングに犬をBトイレエリアに入れ,3脱着可能な仕切りをスラ
イド装着する,
ドッグサークル型トイレしつけ機」
(イ)訂正発明1と甲3発明との一致点
「サークル本体の内部で,収容した犬のトイレの仕付けを行う犬用サークルにおい
て,
前記サークル本体の内部空間が中仕切体によって仕切られることにより住居スペ
ースとトイレスペースに区画されており,
中仕切体において,住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるよ
うに或いは行き来が規制されるように構成されていることを特徴とする犬のトイレ
仕付け用サークル。」
(ウ)訂正発明1と甲3発明との相違点
「<相違点3>
サークル本体が,訂正発明1では「複数のパネルが連結された」ものであるのに
対し,甲3発明ではそのようなものであるかは明らかでない点。
<相違点4>
中仕切体において,住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるよ
うに或いは行き来が規制される構成に関して,訂正発明1は,「中仕切体には,犬が
出入り可能な仕切出入口が開口されるとともに,この仕切出入口を開閉する仕切扉
が設けられ,この仕切扉を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き
来できるように或いは行き来が規制されるように構成されている」ものであるのに
対し,甲3発明は,「3脱着可能な仕切りでA居住エリアとBトイレエリアの間は仕
切られており,平常時に3脱着可能な仕切りは取り外しておき,犬の排泄のタイミ
ングに犬をBトイレエリアに入れ,3脱着可能な仕切りをスライド装着する」もの
である点。」
第3当事者の主張
1取消事由に関する原告の主張
審決は,訂正発明1と甲1発明との相違点2に係る容易想到性の判断を誤り(取
消事由1),訂正発明1と甲3発明との相違点4に係る容易想到性の判断を誤った
(取消事由2)ものであり,審決の結論に影響を及ぼすから,違法として取り消さ
れるべきである。
(1)訂正発明1と甲1発明との相違点2に係る容易想到性の判断の誤り(取消事
由1)
ア相違点2の認定の誤り
審決が相違点2として摘示した点のうち,「住居スペースとトイレスペースとの間
を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されている」とい
う部分は,「仕切出入口が開口された中仕切体」による効果であるところ,これは甲
1発明も「仕切出入口が開口された中仕切体」を備えているから,訂正発明1と甲
1発明との相違点ではない。
したがって,審決の相違点2の認定は誤りである。
イ相違点2についての判断の誤り
(ア)甲1の示唆
審決は,訂正発明1の「扉」の用途及び機能が犬のトイレの仕付けに関するもの
であることを理由として,甲1発明に人間の寝室とトイレの構造を適用することは
容易ではないと判断した。
しかし,相違点2は,開口部を有する「仕切」における「扉」の有無であるとこ
ろ,甲1発明に対する人間の寝室とトイレの構造の適用を検討するに際して,「扉」
の用途及び機能を重視することは誤りである。すなわち,人間の住居は,寝室とト
イレが区画されており,そこには単に仕切りがあるだけではなく,その出入りを容
易にするために「扉」があるのが通例であるから,「人間の寝室のように」という記
載に接した当業者が,甲1発明の「仕切」に「扉」を付けることを想到することは
むしろ当然であり,審決の指摘する「扉」の用途及び機能の相違は,人間と犬の性
質の相違に由来する当然のことにすぎない。審決は,これらの相違が,甲1発明の
「仕切」に対し「扉」を付けることを想到することの妨げになることを何ら論証し
ていない。
(イ)甲2の適用
審決は,甲2の適用に関し,①「巣穴にもぐる習性を有した動物用の特殊な構造
をしたペット飼育容器の構成を,犬用のサークルである甲1発明に適用することが
当業者にとって容易であるとはいえない」(19頁16行~18行)と述べ,さらに,
②訂正発明1は,「犬が元のスペースに戻ることが抑制され,仕切扉を迅速かつ容易
に閉鎖できる効果を有する」(同20行~21行)のに対し,「甲第2号証の開閉ド
ア7はトイレ躾の際にトイレに誘導して閉じるものではないから,当該効果を有す
るものを容易に想到することはできない」(同22行~23行)と判断した。
しかし,上記①については,前記のとおり,相違点2は,開口部を有する「仕切」
における「扉」の有無であるところ,甲2に開示された開口部を有する「仕切」に
おける「扉」自体は何ら特殊な構造ではないから,この点の審決の判断は誤りであ
る。
また,上記②について,甲2が訂正発明1の効果を奏さないことを理由としてい
るが,ここで問題となっているのは,新規性ではなく進歩性であるから,甲2が訂
正発明1の効果を奏していないことはむしろ当然であり(甲2が訂正発明1の効果
を奏するなら訂正発明1には新規性がないことになろう),これは容易想到性を否定
する理由にならない。
発明の効果が進歩性を基礎づけ又は推認させるためには,当該効果が単に先行技
術と異質のものであるだけでは足りず,その効果が当業者に予見不可能又は困難で
あることを要する。これを本件についてみると,仮に,訂正発明1の効果である「仕
切扉を迅速かつ容易に閉鎖できる」ことが,甲号各証の効果と異質のものであると
しても,「扉」の閉鎖が迅速かつ容易にできることは,「扉」一般が有する通常の効
果であり,訂正発明1のように仕切りに扉を設けた場合,このような効果が生じる
ことは一般人であっても予見可能なもので,当業者は容易に予見可能であるから,
この点は,訂正発明1の進歩性を推認させるものとはいえない。
(ウ)甲3の適用
審決は,「甲第3号証の着脱可能な仕切りは扉ではないから,上記の効果を奏する
ものではない」(19頁24行~25行)としたが,副引例が訂正発明1の効果を奏
しないという一事をもって容易想到性を否定することは,判断枠組み自体誤りであ
る。
また,審決のように「扉」の用途及び機能を重視するのであれば,甲3の着脱可
能な仕切りは,出入口を開閉するという機能に着目すれば「扉」であり,さらに,
犬のトイレの仕付けに関する用途を有するものであるから,この点を考慮しない審
決の判断は誤りである。
(エ)甲4~8の適用
審決は,「甲第4~8号証に記載されたものからは,訂正発明1の,「犬が住居ス
ペースからトイレスペースに移動する際に,仕切り他の開口部以外は仕切られてい
るため,犬が元のスペースに戻ることが抑制され,仕切扉を迅速かつ容易に閉鎖で
きる」効果を有するものを容易に想到することはできない」(20頁15行~19行)
と判断したが,上記(ウ)と同様,副引例が訂正発明1の効果を奏しないという一事を
もって容易想到性を否定することは,判断枠組み自体誤りである。
(2)訂正発明1と甲3発明との相違点4に係る容易想到性の判断の誤り(取消事
由2)
ア相違点4の認定の誤り
審決は,訂正発明1と甲3発明との相違点4として,上記第2の3(4)イ(ウ)のと
おり認定したが,訂正発明1は物の発明であるから,相違点も物の構造に着目すべ
きであるところ,この観点から検討すれば,訂正発明1と甲3発明との相違点は,
訂正発明1の「仕切」には扉を設けているのに対し,甲3発明の「脱着可能な仕切」
はそれ自体扉であるという点である。
仮に,甲3発明の「脱着可能な仕切」はそれ自体扉であるとまではいえないとし
ても,訂正発明1と甲3発明との相違点は,単に「扉」の有無にすぎない。
したがって,審決は,相違点4の認定を誤っており,その誤った認定を前提とす
る容易想到性の判断が誤りであることは明らかである。
イ相違点4についての判断の誤り
審決は,容易想到性の判断に関し,訂正発明1は,犬がトイレスペースに移動し
た場合に,唯一の出入口である仕切扉が閉鎖されているため,住居スペースに戻る
ことが抑制され,仕切扉を迅速かつ容易に閉鎖できる効果を有するとの判断を前提
として,「<相違点2について>で示したのと同様の理由で,訂正発明1の相違点4
に係る構成は容易になし得たものではない」(22頁22行~23行)と判断した。
審決のいう「<相違点2について>で示したのと同様の理由」の意味は定かでは
ないが,甲3発明の「脱着可能な仕切」の「脱着可能」のための構成と「扉」とを
置換することが,当業者に容易に想到できることであることは,訂正発明1の「仕
切」に設けられた「扉」が有する機能と甲3発明の「脱着可能な仕切」の「仕切を
脱着可能とする構成」が有する機能とが同一であることに加え,甲1,2,4~8
において,仕切に対して「扉」を設けることが記載又は示唆されていることから明
らかである。
(3)補足主張
ア審決は,結局のところ,「犬のトイレ仕付けのための扉」が開示された文献が
ないことを理由として,訂正発明1の容易想到性を否定した。
しかし,「犬のトイレ仕付けのための扉」が開示された文献の有無は,訂正発明1
の新規性判断においてはともかく,容易想到性判断においては決め手にはならない。
審決は,訂正発明1にいう「仕切扉」に「犬のトイレ仕付けのための扉」という用
途又は機能を読み込み,特別な意味を持たせることによって,訂正発明1を用途発
明と捉えた上で,強引に訂正発明1の容易想到性を否定したものである。
イ用途発明の特殊性(その1)
(ア)一般に,公知の物は,特許法29条1項各号に該当するから,特許の要件を
欠くが,その例外として,①その物についての非公知の性質(属性)が発見,実証
又は機序の解明等がされるなどし,②その性質(属性)を利用する方法(用途)が
非公知又は非公然実施であり,③その性質(属性)を利用する方法(用途)が,産
業上利用することができ,技術思想の創作としての高度なものと評価されるような
場合には,同法2条3項2号の「方法の発明」として特許が成立し得るのみならず,
同項1号の「物の発明」としても,特許が成立する余地がある。もっとも,物に関
する「方法の発明」の実施は,当該方法の使用にのみ限られるのに対して,「物の発
明」の実施は,その物の生産,使用,譲渡等,輸出若しくは輸入,譲渡の申出行為
に及ぶ点において,広範かつ強力といえる点で相違する。このような点に鑑みるな
らば,物の性質の発見,実証,機序の解明等に基づく新たな利用方法に基づいて,
「物の発明」としての用途発明を肯定すべきか否かを判断するに当たっては,個々
の発明ごとに,発明者が公開した方法(用途)の新規とされる内容,意義及び有用
性,発明として保護した場合の第三者に与える影響,公益との調和等を個々的具体
的に検討して,物に係る方法(用途)の発見等が,技術思想の創作として高度のも
のと評価されるか否かの観点から判断することが不可欠となる。
(イ)訂正発明1は,ペットサークルにおける居住空間とトイレ空間の間に仕切扉
を設け,その仕切扉の開閉を「犬のトイレ仕付け」に利用するというものである。
すなわち,訂正発明1は,仕切扉の利用方法について,排泄が近づけば仕切扉を開
いて犬をトイレ空間に誘導する一方,排泄終了までは仕切扉を閉鎖して居住空間に
犬が戻ることを防ぎ,排泄完了後に仕切扉を開いて犬を居住空間に誘導するという
「犬のトイレ仕付け方法」を提案したことにある。しかし,仕切板自体の着脱(出
入りを規制するという,機能的には「扉」と同視できる)を「犬のトイレ仕付け」
に利用することは従来技術である(甲3)ところ,両者の相違は,「扉の開閉」と「板
の着脱」の相違にすぎず,その有用性は,訂正発明1の方が多少便利になるという
にすぎないから,このような犬のトイレ仕付けにおける「仕切扉の利用」というア
イディアは,「仕切扉」の利用方法の単なる発見であって,技術思想の創作として高
度のものと評価されるものとはいえない。
ウ用途発明の特殊性(その2)
複数の先行発明の組合せによる発明(以下「組合せ発明」という。)について,組
合せの容易性を判断する際に,審決のように,先行発明の技術要素について,訂正
発明1の目的(訂正発明1に示された用途)のために利用されることが先行文献に
記載又は示唆されていないことのみを理由として容易性を否定し,進歩性を肯定(容
易想到性を否定)することは,誤りである。けだし,①容易想到性(進歩性)の判
断は,主引例に副引例を適用することの動機づけとなり得るものがあるか否か,副
引例の主引例に対する適用を阻害する事由があるか否かなどを総合的に考慮し,動
機づけになり得るものがあるか否かは,技術分野の関連性,課題の共通性,作用機
能の共通性,引用発明の内容中の示唆等を総合的に考慮して判断するべきものであ
るところ,審決は短絡的に結論を導いている点に誤りがある上,②審決の前記判断
は,組合せ発明全般について容易想到性を否定する帰結に当然につながるおそれが
極めて高いといえるからである。審決は,容易性の判断と想到性の判断とを混同し
ているといわざるを得ない。
審決のロジックに従えば,訂正発明1の特徴部分である「犬のトイレ仕付けのた
めの扉」が記載されていない文献は,全て引例として利用できないことになり,結
局,訂正発明1の進歩性を否定するためには,訂正発明1の特徴部分である「犬の
トイレ仕付けのための扉」が記載されている文献を提示するほかないところ,その
ような文献に記載の発明は,訂正発明1そのものであり,訂正発明1の新規性が否
定されることになる。審決は,進歩性欠如という無効理由を事実上否定しているも
のであり,特許法の予定するところではない。
審決は,訂正発明1にいう「扉」を「犬用のペットサークルの扉であって,犬の
仕付けに有用なもの」というように理解しているが,これは,訂正発明1の構成要
素である「扉」の技術的意義を認定するに際し,「犬の出入りを規制する……」とい
う他の構成要素を取り入れるものであって,後知恵の危険をおそれるあまり,本件
発明の認定を誤ってしまった典型例である。けだし,訂正発明1にいう「扉」を審
決のように理解するならば,そのような「扉」を示す文献は,訂正発明1の他の構
成要素を開示しているはずであり,訂正発明1の新規性を否定するものとなるから,
審決の理解は,進歩性判断と新規性判断とを混同するものというほかない。
2被告の反論
原告主張の取消事由は,以下のとおり,いずれも理由がない。
(1)訂正発明1と甲1発明との相違点2に係る容易想到性の判断の誤り(取消事
由1)に対して
ア相違点2の認定の誤りに対し
審決は,訂正発明1と甲1発明との相違点2として上記第2の3(4)ア(ウ)のとお
り認定したが,原告は,この中から,「住居スペースとトイレスペースとの間を犬が
行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されている」部分を抜き
出して論じるものであり,失当である。
すなわち,訂正発明1の相違点2の構成としては,「仕切出入口を開閉する仕切扉
が設けられ,」以下に記載されている,「この仕切扉を介して住居スペースとトイレ
スペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成さ
れている」(下線は被告において付加)部分を一連として論じるべきものであり,「こ
の仕切扉を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように
或いは行き来が規制されるように構成されている」点が甲1発明に開示されていな
いことは明らかである。
原告は,「住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは
行き来が規制されるように構成されている」という部分は,「仕切出入口が開口され
た中仕切体」による効果であると主張するが,「仕切出入口が開口された中仕切体」
とは,中仕切体に仕切出入口が単に開口されているだけであるから,これによる効
果として,住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来することはできても,
行き来を規制することはできないのであり,犬の行き来を規制するためには,扉の
ような規制手段が必須である。
原告は,相違点は,開口部を有する「仕切」における「扉」の有無であると主張
するが,相違点は,「仕切出入口を開閉する仕切扉が設けられ,この仕切扉を介して
住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規
制されるように構成されている」点,すなわち,仕切扉を人間の手で開閉して犬が
自由に行き来することを規制することができるように構成されている点であって,
単に「仕切」に「扉」が存在するか否かではない。
イ相違点2についての判断の誤りに対し
(ア)甲1の示唆に対し
審決は,単に訂正発明1の「扉」の用途及び機能が犬のトイレの仕付けに関する
ものであることを理由としているのではなく,甲1発明における「「人間の寝室のよ
うに」とは,単にベッドとトイレの間を板で仕切って区別することが人間の寝室と
トイレの間の構造に似ていることを示しているだけ」(19頁1行~3行)であり,
甲1発明には,犬用のサークルの仕切りに扉を設けること,ましてやトイレ仕付け
のための扉を設けることは示されていないことを理由として,甲1発明に「人間の
寝室とトイレの間の構造を用いることが容易であるとは認められない」(同5行~6
行)としているのである。
原告は,甲1発明に人間の寝室とトイレの構造の適用を検討するに際して,「扉」
の用途及び機能を重視することは誤りであると主張するが,審決が,同検討に際し
て,「扉」の用途及び機能を重視したものではないことは,上記のとおりである。
また,原告は,人間の住居は「扉」があるのが通例であるから,「人間の寝室のよ
うに」という記載に接した当業者が,甲1発明の「仕切」に「扉」を付けることを
想到することは当然であると主張するが,甲1における「人間の寝室のように」の
記載は,「3トイレとベッドを置いてサークルを囲う」という項目の説明として記
載されている事項であり,ここには,「新聞紙を敷き,……ベッドになるものを置き
ます。ベッドは赤ちゃん犬の体の1.5倍前後が適当な大きさ。雑誌や木をベッド
の下にあてがって床よりも5cmくらい高くすると,ベッドとトイレがより明確に
区別できます。人間の寝室のように,ベッドとトイレの間を板で仕切って区別する
のもよい方法です。この場合,赤ちゃん犬がふたつの部屋を自由に行き来できるス
ペースを開けておきます」(甲1の51頁。下線は被告において付加)と記載されて
いる。このように,「人間の寝室のように」という記載は,「雑誌や木をベッドの下
にあてがって床よりも5cmくらい高くすると,ベッドとトイレがより明確に区別
できます」という記載を受けて,ベッドとトイレを区別する方法として,高低差を
付ける方法以外にも,「人間の寝室のように,ベッドとトイレの間を板で仕切って区
別する」方法があることを示唆しているだけである。
したがって,甲1の「人間の寝室のように」という記載に接した当業者は,ベッ
ドとトイレの間を区別する方法として,人間の寝室のように板で仕切って区別する
ことを想到するにとどまり,区別するための板に扉を設け,犬のトイレの仕付けに
利用することに容易に想到するということはできない。
(イ)甲2の適用に対し
甲2は,「ウサギのように巣穴にもぐる習性のあるペットを飼育するのに適したペ
ット飼育容器に関する」(4頁)考案であり,甲2に開示された「扉」は,第1の飼
育室と第2の飼育室の間の「壁部」に設けられた「開閉ドア」を意味していると考
えられるところ,この開閉ドアは,トイレの「躾」が完了するまでは常時閉鎖して
おき,「躾」が完了すれば,その後に常時開放するものであって,このドアの開閉に
よってトイレの「躾」を行うものではない。
さらに,この開閉ドアは,甲2の【図3】(別紙参照)及び明細書の【0018】
に記載されているとおり,「開口部37は,ウサギの大きさに合わせた半円状に形成
され,同じく半円状の開閉ドア7によって開閉されるようになっている。図3に示
すように開閉ドア7は,壁部35に固定した枢軸53によってその中央部が支持さ
れ,この枢軸53の周りを回転するように構成されている」ものであり,ウサギの
大きさや習性を考慮して設計されたものであって,極めて特殊な構造を有している
ものである。
原告は,甲2が訂正発明1の効果を奏していないことはむしろ当然であり,これ
は容易想到性を否定する理由にならないと主張するが,審決は,訂正発明1及び甲
2のそれぞれの効果のみを比較しているのではなく,「訂正発明1は,犬が住居スペ
ースからトイレスペースに移動する際に,中仕切体の開口部分以外は仕切られてい
るため」(19頁19行~20行)に生じる効果として述べているのであって,訂正
発明1と甲2発明との構成が異なっていることを前提として論じているのである。
訂正発明1と甲2発明との構成が異なっていることを前提として論じていない原告
の主張は,失当である。
訂正発明1は,進歩性の判断における「引用発明と比較した有利な効果が明細書
等の記載から明確に把握される場合」(審査基準)に該当するのであって,審決の判
断に原告が主張する誤りはない。
(ウ)甲3の適用に対し
原告は,副引例が訂正発明1の効果を奏しないという一事をもって容易想到性を
否定することは判断枠組み自体誤りであると主張するが,訂正発明1は,「引用発明
と比較した有利な効果が明細書等の記載から明確に把握される場合」(審査基準)に
該当するのであって,審決の判断に原告が主張する誤りがないことは,上記(イ)で述
べたとおりである。
また,原告は,甲3発明の脱着可能な仕切りは,出入口を開閉するという機能に
着目すれば,「扉」であり,さらに,犬のトイレ仕付けに関する用途を有するもので
あるから,この点を考慮しない本審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,甲3の【0008】に,「平常時,図2を参照のとおり脱着可能な仕切り
は取り外しておきます」と記載されているとおり,甲3発明の脱着可能な仕切りは,
平常時は取り外しておいて,犬の排泄タイミングになると,犬をトイレエリアに入
れ,脱着可能な仕切りをスライド装着するものである。このように,甲3発明の仕
切りは,平常時は取り外され,全てが解放されているサークルの内部空間を,所望
の場合にこれを装着して,通行を妨げる機能を有するだけであるから,迅速に開閉
可能な扉として機能するものではない。
しかも,原告は,本件審判請求書において,甲3発明の仕切りは,中仕切体に相
当すると主張しているのであって,本件訴訟において,仕切りが扉に相当すると主
張すること自体,矛盾している。
(エ)甲4~8の適用に対し
訂正発明1は,「引用発明と比較した有利な効果が明細書等の記載から明確に把握
される場合」(審査基準)に該当するのであって,審決の判断に原告が主張する誤り
がないことは,上記(イ)で述べたとおりである。
(2)訂正発明1と甲3発明との相違点4に係る容易想到性の判断の誤り(取消事
由2)に対して
ア相違点4の認定の誤りに対し
(ア)原告が,本件訴訟において,仕切りが扉に相当すると主張すること自体矛盾
していることは,上記(1)イ(ウ)のとおりである。
(イ)原告は,甲3発明の「脱着可能な仕切り」はそれ自体扉であるとまではいえ
ないとしても,訂正発明1と甲3発明との相違点は,単に「扉」の有無にすぎない
と主張するが,訂正発明1と甲3発明との相違点は,単に「扉」の有無ではなく,
訂正発明1は,「中仕切体には,犬が出入り可能な仕切出入口が開口されるとともに,
この仕切出入口を開閉する扉が設けられ,この仕切扉を介して住居スペースとトイ
レスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成
されている」点である。
すなわち,仕切出入口が開口されているという中仕切体の構成が,訂正発明1と
甲3発明とでは相違するとともに,訂正発明1では仕切扉が設けられている点が,
甲3発明と大きく異なっているのである。
イ相違点4についての判断の誤りに対し
上記ア(イ)のとおり,訂正発明1と甲3発明との相違点は,単に「扉」の有無では
なく,訂正発明1は,「中仕切体には,犬が出入り可能な仕切出入口が開口されると
ともに,この仕切出入口を開閉する扉が設けられ,この仕切扉を介して住居スペー
スとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるよ
うに構成されている」点であるから,甲3発明の「脱着可能な仕切」の「脱着可能」
のための構成と「扉」とを置換することの容易想到性をもって,訂正発明1の容易
想到性を論じること自体が無意味である。
したがって,審決の判断に原告が主張する誤りはない。
(3)補足主張に対して
ア原告は,審決は,訂正発明1にいう「仕切扉」に「犬のトイレ仕付けのため
の扉」という用途又は機能を読み込み特別な意味を持たせることによって,訂正発
明1を用途発明と捉えた上で,強引に訂正発明1の容易想到性を否定しているなど
と主張する。
しかし,訂正発明1と主引例との相違点は,単に「扉」の有無ではなく,訂正発
明1の「中仕切体には,犬が出入り可能な仕切出入口が開口されるとともに,この
仕切出入口を開閉する扉が設けられ,この仕切扉を介して住居スペースとトイレス
ペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成され
ている」点である。
審決は,訂正発明1の認定を行った後,主引例の認定を行い,その後,訂正発明
と主引例との一致点・相違点を明確にし,進歩性を肯定する論理づけの判断を行っ
ているものであって,進歩性判断の手法に何ら誤りはない。
しかも,審決は,相違点について,引例中に記載や示唆がないこと,訂正発明1
が有する顕著な効果に鑑みて,訂正発明1の容易想到性を否定したものであって,
訂正発明1が用途発明であると捉えたものではない。
イ用途発明の特殊性(その1)に対し
「用途発明」とは,「ある物の未知の属性を発見し,この属性により,当該物が新
たな用途への使用に適することを見出したことに基づく発明と解される」(審査基
準)ものであって,通常は化学分野に適用されるものである。訂正発明1は,「ある
物の未知の属性を発見し,この属性により,当該物が新たな用途への使用に適する
ことを見出したことに基づく発明」,すなわち「用途発明」ではないから,原告の主
張は失当である。
訂正発明1の「犬のトイレ仕付け用サークル」とは,「犬のトイレ仕付けに適した
構造のサークル」を意味するものであるから,たとえ,訂正発明1における「仕切
扉」に「犬のトイレ仕付けのための扉」という用途・機能を読み込ませたとしても,
審決は,審査基準における「明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をも考
慮して,その用途限定が請求項に係る発明を特定するための事項としてどのような
意味を有するかを把握する」という観点から判断したものであって,誤りはない。
ウ用途発明の特殊性(その2)対し
原告は,審決のロジックに従えば,訂正発明の特徴部分である「犬のトイレ仕付
けのための扉」が記載されていない文献は,全て引例として利用できないことにな
るなどと主張するが,審決の内容を誤って解釈するものであり,失当である。
第4当裁判所の判断
1訂正発明1と甲1発明との相違点2に係る容易想到性の判断の誤り(取消事
由1)について
(1)相違点2の認定の誤りにつき
ア訂正発明1
(ア)本件明細書等には,図面(別紙参照)とともに,以下の記載がある(甲14,
15)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,内部に犬を入れてトイレの仕付けを行う犬のトイレ仕付け用サークル
に関する。
【背景技術】
【0002】
犬用サークルは,複数のパネルを連結し,これらのパネルで囲まれた内部に犬を
収容するものであって,サークルの内部空間は,仕切られることなく1つ空間とし
て構成されているものが一般的である……。
【0003】
ところで,犬の飼い主は,サークルの中に犬用トイレを置いて使用していること
が多い。そして,犬にトイレの仕付けを行う際,飼い主が犬の排泄時が近づいたと
察知すれば,まず犬をトイレに誘導し,犬がトイレで排泄を終えると,トイレで排
泄ができたことを誉めて学習させるという手順を踏むのが通常である。」
「【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,上記した一般的な犬用サークルにおいてその内部に犬用トイレを
置くと,犬の住居空間が狭くなって使い勝手が悪い。その上,犬用トイレの他に食
器やベッドを置くと,衛生上好ましくない。このように,犬がサークル内で快適に
過ごすことができないという問題があった。
【0005】
また,犬用トイレと住居空間との境界がないので,飼い主が犬をトイレに誘導し
難く,たとえトイレへの誘導に成功した場合であっても,犬がトイレの上で静止し
難い。このため,犬に対するトイレの仕付けが困難であった。
【0006】
本発明は,このような事情に鑑み創案されたもので,サークル内部が住居スペー
スとトイレスペースとに区画され,トイレの仕付けが容易で,使い勝手がよく,犬
が快適に過ごすことができる犬のトイレ仕付け用サークルを提供するものである。」
「【課題を解決するための手段】
……
【0008】
この発明によれば,サークル本体の内部空間が住居スペースとトイレスペースに
区画されているので,トイレスペースを犬用トイレを置くためだけの空間として使
用することができる。したがって,サークル本体内に犬用トイレを置いた場合であ
っても,犬は,住居スペースでゆとりを持って快適に過ごすことができる。また,
住居スペースには,食器やベッドを置くことができるので,使い勝手がよい。
【0009】
また,住居スペースとトイレスペースとの間が中仕切体によって仕切られ,この
中仕切体には仕切出入口が開口されているので,トイレの仕付けを行う際に,飼い
主が犬をトイレに誘導しやすいので,便利である。
【0010】
さらに,この仕切出入口を開閉する仕切扉が設けられ,この仕切扉を介して住居
スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制さ
れるように構成されているので,仕切扉の開閉に応じて犬をトイレスペースに誘導
したり住居スペースに誘導することができる。
【0011】
本発明は,上記構成の犬のトイレ仕付け用サークルにおいて,前記仕切出入口の
開放時および閉鎖時にそれぞれ仕切扉を係止する仕切出入口ロック手段が設けられ
たことを特徴とする。
【0012】
この発明によれば,仕切出入口の開放時および閉鎖時に仕切扉を係止する仕切出
入口ロック手段が設けられているので,仕切出入口を開放状態および閉鎖状態で保
持することができる。したがって,閉鎖した仕切出入口の仕切扉を犬が開けるのを
防止できるとともに,仕切出入口を開放した状態で犬が住居スペースとトイレスペ
ースとの間を安全で自由に行き来することができる。そして,トイレの仕付けを終
えた犬に対しては,仕切出入口を常に開放状態に保持し,住居スペースとトイレス
ペースとの間を安全で自由に行き来できるようにすることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,トイレの仕付けが容易で,使い勝手がよく,犬が快適に過ごす
ことができる犬のトイレ仕付け用サークルを提供することが可能になる。」
「【0040】
次に,上記構成の犬用サークル1の使用方法の一例について説明する。
【0041】
まず,犬用トイレをサークル本体2のトイレスペース1bに設置する。この際,
犬用トイレの外枠をトレー6のトイレ静止用突起64に嵌め込んで,犬用トイレA
が不測に動かないようにする。
【0042】
次いで,犬出入口2eを開けて,犬をサークル本体2内に入れる。
【0043】
使用者が犬の排泄が近づいてきたと察知した場合,仕切扉43を開けて,犬をト
イレスペース1bの犬用トイレAに誘導する。その後,仕切扉43を閉鎖し,ロッ
クする。
【0044】
犬が犬用トイレAで排泄し終えると,トイレで排泄したことを誉め,仕切扉43
を開けて,住居スペース1aに犬を入れる。
【0045】
犬用トイレAのシーツを交換する際には,トイレ出し入れ口5aを開けて,犬用
トイレを取り出し,使用者は楽な姿勢でシーツを交換することがでる。」
(イ)上記記載によれば,訂正発明1は,一般的な犬用サークルの課題(【0004】,
【0005】)を解決し,サークル内部が住居スペースとトイレスペースとに区画さ
れ,トイレの仕付けが容易で,使い勝手がよく,犬が快適に過ごすことができる犬
のトイレ仕付け用サークルを提供することを目的としたもので(【0006】),犬の
トイレの仕付けを行う犬用サークルにおいて,サークル本体の内部空間が中仕切体
によって仕切られることにより住居スペースとトイレスペースに区画されており,
中仕切体には,犬が出入り可能な仕切出入口が開口されるとともに,この仕切出入
口を開閉する仕切扉が設けられ,この仕切扉を介して住居スペースとトイレスペー
スとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるように構成され,そ
のような構成により,トイレの仕付けが容易で,使い勝手がよく,犬が快適に過ご
すことができる犬のトイレ仕付け用サークルを提供することが可能になるという効
果を奏するものである(【0013】)と認められる。
イ甲1発明
(ア)甲1には,以下の記載がある。
①「「トイレ」といっても,トイレをしつけるためにサークルで作るスペースは赤ち
ゃん犬のお城。眠ったり遊ぶ場所でもあるので,できるだけ居心地よい空間にして
やりましょう。」(50頁)
②「1トイレの場所を決める
赤ちゃん犬はトイレを場所でも覚えます。……」(50頁)
③「2サークルで囲うスペースを決める
サークルで囲う赤ちゃん犬のお城には十分なスペースが必要です。……
サークルが狭いとベッドとトイレの区別ができず,オシッコやウンチをベッドの
中にしてしまうことがあります。……」(50頁)
④「3トイレとベッドを置いてサークルで囲う
新聞紙を敷き,ペットシーツをサークルの大きさより少し広めに敷き,ベッドに
なるものを置きます。ベッドは赤ちゃん犬の体の1.5倍前後が適当な大きさ。雑
誌や木をベッドの下にあてがって床よりも5cmくらい高くすると,ベッドとトイ
レがより明確に区別できます。
人間の寝室のように,ベッドとトイレの間を板で仕切って区別するのもよい方法
です。この場合,赤ちゃん犬がふたつの部屋を自由に行き来できるスペースを開け
ておきます。最後に,サークルでベッドとトイレを囲います。」(51頁)
(イ)上記記載によれば,甲1発明は,トイレをしつけるための犬用のサークルに
関するもので,ベッドとトイレを明確に区別するために,人間の寝室のように,ベ
ッドとトイレの間は板で仕切って区別されており,また,犬がベッドとトイレを自
由に行き来できるスペースが開けてあるものである。
ウ(ア)原告は,相違点2のうち「住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行
き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されている」という部分は,
「仕切出入口が開口された中仕切体」による効果であるところ,これは甲1発明も
「仕切出入口が開口された中仕切体」を備えているから,訂正発明1と甲1発明と
の相違点ではないと主張する。
(イ)確かに,中仕切体に,犬が出入り可能な仕切出入口が開口されていれば,住
居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるとはいえる。しかしながら,
犬が出入り可能な仕切出入口が開口されているだけでは,犬の行き来を規制するこ
とができないことは明らかである。訂正発明1においては,中仕切体に,犬が出入
り可能な仕切出入口が開口されているだけではなく,さらに,この仕切出入口を開
閉する仕切扉が設けられており,この仕切扉の開閉により,この仕切扉を介して住
居スペースとトイレスペースとの間を行き来できるようにしたり,その行き来を規
制したりしているものと認められる(上記ア(ア)の【0043】,【0044】)。
したがって,「住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或
いは行き来が規制されるように構成されている」ことが,中仕切体に犬が出入り可
能な仕切出入口が開口されていることによる効果であるということはできず,相違
点2の認定誤りをいう原告の主張は,その前提において誤りであり,理由がない。
(2)相違点2についての判断の誤りにつき
ア甲1の示唆について
(ア)原告は,人間の住居は,寝室とトイレが区画されており,そこには単に仕切
りがあるだけではなく,その出入りを容易にするために「扉」があるのが通例であ
るから,「人間の寝室のように」という記載に接した当業者が,甲1発明の「仕切」
に「扉」を付けることを想到することは当然であると主張する。
(イ)しかしながら,甲1発明におけるスペース(訂正発明1における「犬が出入
り可能な仕切出入口」に相当する。)は,上記(1)ウ(イ)のとおり,犬がベッドとトイ
レを自由に行き来できるように開けてあるものであり,甲1には,このようなスペ
ースを開けたり,閉鎖したりする必要があることや,そのスペースを開閉する扉を
設け,その扉を介してベッドとトイレとの間を犬が行き来できるようにあるいは行
き来が規制されるように構成することについては,何らの記載も示唆もない。甲1
発明のスペースは犬がベッドとトイレを自由に行き来できるように開けてあるもの
であることを考慮すれば,このようなスペースを閉鎖することは,スペースが設け
られた意味を失わせることになるから,むしろ阻害されているものと認められる。
また,甲1の上記(1)イ(ア)④の記載によれば,甲1には,ベッドとトイレをより
明確に区別する方法として,ベッドを床よりも5cmくらい高くする方法のほか,
人間の寝室のように,ベッドとトイレの間を板で仕切って区別する方法もあること
が記載されている。しかし,ここでいう「人間の寝室のように」とは,ベッドとト
イレの間を板で仕切って区別すること自体が,人間の寝室の構造に類似しているこ
とを意味するにすぎないものであり,実際の人間の寝室の構造を適用できることを
示唆するものではないことは,その文脈から明らかである。したがって,甲1の上
記記載は,甲1発明に対し,そのような人間の寝室の構造を適用することを動機づ
けるものとはいえない。
以上によれば,人間の住居に「扉」があるのが通例であるとしても,「人間の寝室
のように」という記載に接した当業者が,甲1発明の「仕切」に「扉」を付けるこ
とを想到するとは認められない。
イ甲2の適用について
(ア)審決は,①「巣穴にもぐる習性を有した動物用の特殊な構造をしたペット飼
育容器の構成を,犬用のサークルである甲1発明に適用することが当業者にとって
容易であるとはいえない」(19頁16行~18行),②訂正発明1は,「犬が元のス
ペースに戻ることが抑制され,仕切扉を迅速かつ容易に閉鎖できる効果を有する」
(同20行~21行)のに対し,「甲第2号証の開閉ドア7はトイレ躾の際にトイレ
に誘導して閉じるものではないから,当該効果を有するものを容易に想到すること
はできない」(同22行~23行)と判断したものである。
これに対し,原告は,
a相違点2は,開口部を有する「仕切」における「扉」の有無であり,甲2に
開示された開口部を有する「仕切」における「扉」自体は何ら特殊な構造ではない
から,審決の上記①の判断は誤りである,
bここで問題となっているのは,新規性ではなく進歩性であるから,甲2が訂
正発明1の効果を奏していないことは容易想到性を否定する理由にならず,審決の
上記②の判断は誤りである,
と主張するので検討する。
(イ)a甲2には,図面(別紙参照)とともに,以下の記載がある。
「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】ペットを飼育するための第1の飼育室と,前記第1の飼育室の下端部
に着脱自在に取り付けられるトレイ部と,を備えるペット飼育容器において,前記
トレイ部は,ペットが入れる大きさの第2の飼育室と,当該第2の飼育室と隣接す
る凹所と,が設けられ,前記凹所から前記第2の飼育室に出入りするための開口部
が,当該第2の飼育室を形成する壁部に形成され,前記開口部は,開閉ドアによっ
て開閉されるように構成され,前記凹所の床部は,排泄物を受けるためのペットト
イレによって構成され,当該ペットトイレは,前記トレイ部に対して着脱自在に構
成されていることを特徴とするペット飼育容器。
……
【請求項3】前記開閉ドアは,半円状に形成され,当該開閉ドアの中心部を支持す
る枢軸の周りを回転するように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に
記載したペット飼育容器。
……
【請求項5】飼育しようとするペットは,ウサギであることを特徴とする請求項1
乃至4の何れかに記載したペット飼育容器。」
「【考案の詳細な説明】
【0001】
【考案の属する技術分野】
この考案は,ペット(愛玩動物)を飼育するためのペット飼育容器に関し,詳し
くは,たとえば,ウサギのように巣穴にもぐる習性のあるペットを飼育するのに適
したペット飼育容器に関する。」
「【0003】
【考案が解決しようとする課題】
ペットを飼育するにあたっては,上手に躾ないとペットが飼育容器の至る所で排
泄を行ってしまい,清掃しづらいところに排泄されると悪臭に悩まされることにな
りかねない。ところが,人間の言葉を理解できないペットに排泄の躾をすることは,
必ずしも容易なことではない。また,ペットは,種類によって様々な習性を持って
おり,その習性に合わせて躾る必要がある。逆に,その習性を利用してペットの躾
を行えば,習性を利用することなく漠然と行う場合に比べてより効果的な躾ができ
る,と考案者らは考えた。本考案が解決しようとする課題は,上述したように,ペ
ットの習性,特に,巣穴にもぐる,という習性を利用してペットに排泄の躾を行う
ことができ,もって,巣穴と排泄場所とが分離された清潔なペット飼育容器を提供
することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するために考案者らは,まず,ペット飼育容器のトレイ部に,
巣穴に見立てた第2の飼育室を第1の飼育室とは別個に設けるとともに,この第2
の飼育室の入口を開閉できるように構成した。これは,ペットが所定の場所で排泄
するようになるまで,つまり,自分の排泄場所を認識するまで第2の飼育室に入る
ことを禁止し,認識してから入口を開放してペットが第2の飼育室,つまり,巣穴
の中に入れるようにした。こうすれば,第2の飼育室の中でペットが排泄すること
はないので,第2の飼育室内が排泄物で汚れることはなく,したがって,悪臭を発
生することがない,というわけである。本考案は,このような観点からなされたも
のである。……
【0005】
……第1の飼育室は,篭状のケージや合成樹脂製の枠体等によって構成されるのが
一般的である。第2の飼育室は,ペットが巣穴として認識できる程度に周りを囲ま
れた空間のことをいう。……
【0006】
請求項1に記載した考案の作用効果
請求項1の飼育容器は,上記構成によって次の作用効果を生じる。ペットは,第
1の飼育室内で飼育され,ペットは,凹部においてペットトイレ上で排泄する。ペ
ットを躾るためには,飼育し始めのときは開口部を閉鎖してペットが第2飼育室内
に入れないようにしておき,ペットトイレ上でペットが排泄するようになったら,
開口部を開放して第2飼育室内に入れるようにすることが好ましい。開口部の閉鎖
と開放は,開閉ドアの開閉によって行う。ペットトイレが排泄物等によって汚れた
ときは,これをトレイ部から取り外して洗浄すると簡単に汚れを落とすことができ
る。以上の通り,第2飼育室への出入り制限によるトイレ躾と,ペットトイレの洗
浄の容易さ,とによって,ペット飼育容器は常に清潔に保たれ,悪臭を発生させる
ことがない。」
「【0015】
【考案の実施の形態】
……なお,本実施形態のペット飼育容器は,あらゆるペットを飼育するために用い
ることができるが,ここでは,ウサギを飼育することを前提に説明をする。」
「【0020】
ウサギのトイレ躾方法
ペット飼育容器1を使用すれば,ほとんどのペットを飼育することができるが,
ここでは,特にトイレ躾方法について図1を参照しながら説明する。ウサギに限ら
ずトイレ躾は,そのペットの飼い始めが肝心である。既に説明したように,ウサギ
は巣穴で生活する習性を持っているが,飼い始めのウサギに何も躾を行わないと,
巣穴である第2の飼育室31内で排泄するようになってしまう。そこで,飼い始め
のウサギを飼育するときには開口部37の開閉ドア7を閉鎖しておき第2の飼育室
31に入れないようにしておいて凹所55にて,すなわち,ペットトイレ9の上に
て排泄するように躾る。図3に示す開閉ドア7を閉鎖するには,開閉ノブ7nに指
を掛けて反時計方向に回転させることにより行う。
【0021】
上述したトイレ躾が完了したら,今度は,開口部37を開放してウサギが第2の
飼育室31内に入れるようにする。開口部37の開放は,開閉ドア7を上記とは逆
の時計方向に回転させればよい。ペットトイレ9の上で排泄するように躾られたウ
サギは,第2の飼育室31内で排泄することはなく,排泄するときは第2の飼育室
31から出てペットトイレ9の上で行う。これによって,巣穴である第2の飼育室
31と排泄場所を完全に分離させることができ,この結果,第2の飼育室31内は
もとより,ペット飼育容器1全体が清潔に保たれるので排泄物が発生する悪臭によ
って飼育者が悩まされなくなる。さらに,前述したように,排泄物によって汚れた
ペットトイレ9を単独で洗浄できるので,この点からもペット飼育容器1全体を清
潔に保つことができる。
【0022】
【考案の効果】
本考案に係るペット飼育容器を使用すれば,ペットの習性,特に,巣穴にもぐる,
という習性を利用してペットに排泄の躾を行うことができ,もって,巣穴と併設場
所が分離され,これによりペット飼育容器が清潔に保たれる。」
b上記aの記載によれば,甲2には,①ペット飼育容器は,第1の飼育室と,
巣穴に見立てた第2の飼育室と,ペットトイレとを備え,ペットトイレから第2の
飼育室に出入りするための開口部が,第2の飼育室を形成する壁部に形成され,そ
の開口部は開閉ドアによって開閉されるように構成されたものであること(【請求項
1】,【0004】,【0005】),②ペット飼育容器は,あらゆるペットを飼育する
ために用いることができる(【0015】)が,ウサギのように巣穴にもぐる習性の
あるペットを飼育するのに適したものであること(【0001】),③巣穴にもぐると
いうペットの習性を利用してペットに排泄の仕付けを行うこと(【0003】),④ト
イレの仕付けが完了するまでは,開閉ドアを閉鎖して,ペットが第2の飼育室内に
入れないようにしておいて,ペットを第1の飼育室で飼育するとともに,ペットト
イレ上で排泄するように仕付けること(【0004】,【0006】,【0020】,【0
021】),⑤トイレの仕付けが完了したら,開閉ドアを開放して,ペットが第2の
飼育室内に入れるようにすること(【0006】)が記載されていると認められる。
(ウ)a原告の上記(ア)aの主張について
甲2に記載のペット飼育容器は,あらゆるペットを飼育するために用いることが
できると記載されてはいるものの,第2の飼育室を巣穴に見立てて,巣穴にもぐる
というペットの習性を利用してペットに排泄の仕付けを行うとしていることから,
実際には,ウサギのように「巣穴にもぐる習性のあるペット」を飼育することを意
図したものと認められ,また,具体的な説明も,ウサギについて記載されるのみで
ある。したがって,このような甲2に記載の事項を,「巣穴にもぐる習性のあるペッ
ト」とはいえない犬を対象とする甲1発明に適用する動機づけがあるとはいえない。
また,甲2の上記(イ)aの記載によれば,トイレの仕付け中は,ペットは,第1の
飼育室とペットトイレとの間を行き来するものと認められるが,第1の飼育室とペ
ットトイレとの間には,訂正発明1における「中仕切体」に相当するものがなく,
また,同「仕切出入口」,「仕切扉」に相当するものも存在しない。一方,ペットト
イレと第2の飼育室の間には,第2の飼育室を形成する壁部,第2の飼育室に出入
りするための開口部,その開口部を開閉する開閉ドア(それぞれ,訂正発明1にお
ける「中仕切体」,「仕切出入口」,「仕切出入口を開閉する仕切扉」に相当する。)が
存在するものの,トイレの仕付けが完了するまでは,開閉ドアは閉鎖されており,
ペットは第2の飼育室内に入れないようになっているから,トイレの仕付け中は,
ペットは,開閉ドアを介して第2の飼育室とペットトイレとの間を行き来すること
はなく,開口部を開閉する開閉ドアは,その開閉により,トイレの仕付け中に,開
閉ドアを介して第2の飼育室とペットトイレとの間を行き来できるようにしたり,
その行き来を規制したりするものではない。
以上によれば,甲2には,ペットのトイレの仕付けを容易に行う点から,飼育室
とペットトイレとの間を「中仕切体」によって仕切ること,また,その「中仕切体」
に,ペットが出入り可能な「仕切出入口」を開口するとともに,この「仕切出入口」
を開閉する「仕切扉」を設け,この「仕切扉」を介して飼育室とペットトイレとの
間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することが記
載されているとはいえない。したがって,甲2は,甲1発明におけるスペースに,
そのスペースを開閉する扉を設け,その扉を介してベッドとトイレとの間を犬が行
き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することを動機づけるも
のとはいえず,また,甲2には,ペットのトイレの仕付けを容易に行う点から,飼
育室とペットトイレとの間を「中仕切体」によって仕切ることや,その「中仕切体」
に,ペットが出入り可能な「仕切出入口」を開口するとともに,この「仕切出入口」
を開閉する「仕切扉」を設け,この「仕切扉」を介して飼育室とペットトイレとの
間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することが記
載されているとは認められないから,審決の「巣穴にもぐる習性を有した動物用の
特殊な構造をしたペット飼育容器の構成を,犬用のサークルである甲1発明に適用
することが当業者にとって容易であるとはいえない」(19頁16行~18行)との
判断に,原告主張の誤りはない。
b原告の上記(ア)bの主張について
原告は,甲2が訂正発明1の効果を奏していないことは容易想到性を否定する理
由にならないと主張するが,甲1発明の甲2を適用する理由が認められないことは,
上記aのとおりであるから,原告の上記主張は理由がない。
ウ甲3の適用について
(ア)審決は,「甲第3号証の着脱可能な仕切りは扉ではないから,上記の効果を奏
するものではない」(19頁24行~25行)とした。
これに対し,原告は,
a副引例が訂正発明1の効果を奏しないという一事をもって容易想到性を否定
することは,判断枠組み自体誤りである,
b審決のように「扉」の用途及び機能を重視するのであれば,甲3の着脱可能
な仕切りは,出入口を開閉するという機能に着目すれば,「扉」であり,さらに,犬
のトイレの仕付けに関する用途を有するものであるから,この点を考慮しない審決
の判断は誤りである,
と主張するので検討する。
(イ)a甲3には,図面(別紙参照)とともに,以下の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】犬のトイレのしつけを行うために,犬の反復学習(スリコミ)を利用
して,居住部分とトイレ部分を明確に分け,トイレ以外で排泄をしないように習慣
づけができるように,その境目に取り外し可能な仕切りを備え,トイレ部分にはト
イレシーツが滑りにくく加工した引き出しトレーを備えたドッグサークル型トイレ
しつけ機。」
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は,犬の習性を利用し,犬の排泄場所を特定させ
るしつけ(以下「トイレのしつけ」とします)を手助けする機器に関するものであ

【0002】
【従来の技術】屋内で犬を飼う上で最初に行うしつけがトイレのしつけである。従
来ではまず犬のトイレ場所を決め,排泄するであろう時間帯に飼い主が犬を決めた
場所に連れて行き,排泄をするまで待つ。これを繰り返す。またドッグゲージに入
れて育てようとした場合,ゲージの中にトイレ用シーツを敷きつめ,その上だけで
排泄するように繰り返し覚えさせる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】トイレのしつけを覚えさせる時期は子犬なので,
しつけを覚えさせるまでが非常に根気がいる作業です。まして初めて犬を飼う人は,
どのようにしつけたらよいかわからないのが現状です。実際には次のような問題が
犬を始めて飼う人を煩わせています。
・トイレシーツの上や決まった場所で排泄するように促しても,子犬にとっては「遊
んでくれている」としか思いません。
・排泄をするであろう時間(食事後)に飼い主が犬をトイレに連れて行っても,子
犬はジャレ動き回り,飼い主が注意をそらしたころに子犬が排泄してしまった事に
気づいてしまうことも多く,そのため,ある程度子犬が動き回らないように子犬を
小さなドッグゲージ等に入れる必要がある。
・日頃ドッグゲージに入れていない子犬はドッグゲージのような何かに覆われてい
る場所に対し,違和感をもち,排泄をしない。
・日頃からドッグゲージに入っている子犬は,ゲージ全体をトイレとみなし,ゲー
ジ全体で排泄をしてしまう犬が多い。
・またドッグゲージ内にトイレシーツを引いたところでも,その後ジャレ遊ぶこと
で子犬やゲージ全体が糞尿まみれになり,非常に不衛生である。
【0004】そこで本発明は上述したトイレのしつけの問題点を解消するために提
案するもので,犬を初めて飼う人にも本発明を利用することで,短期間で確実に子
犬のトイレのしつけができるものである。」
「【0007】この実施の形態に係る子犬のトイレしつけ機は図1に示すように,全
体を柵で囲まれています。床面はA居住エリアとBトイレエリアと2つに分かれて
おり。AとBの境目には1段差が設けられています。また3脱着可能な仕切りでA
とBの間は仕切られています。例えば3脱着可能な仕切りは網状であったり,板状
であったりするもので,犬が容易にA居住エリアとBトイレエリアを通り抜けでき
ないものとします。犬は自らの肉球の感触でそこがどんな場所か判別するので,A
居住エリアの床は非常に心地が良い床面(タオル地,カーペット地)で構成された
ほうがより高いトイレのしつけ効果を望めます。Bトイレエリアは例えばプラステ
ィック素材や金属,セラミック等の清掃のしやすい素材を使用したほうがよい。3
脱着可能な仕切りは両サイドがスライドして上から容易に脱着できます。Bには2
引き出しトレイが設けられています。2引き出しトレイはトイレエリア全体に引き
出しがついたものです。
【0008】平常時,図2を参照のとおり脱着可能な仕切りは取り外しておきます。
犬は自由に走りまわることができます。
【0009】図3のとおり,犬の排泄のタイミングは食後,運動後ですが,そのタ
イミングに図3のとおり犬をBトイレエリアに入れ,3脱着可能な仕切りをスライ
ド装着します。
【0010】排泄をしたら,犬をほめ,おやつをあげます。そしてA居住エリアに
犬を移し,図4のように2引き出しトレイを引き,Bトイレエリアの排泄物の処理
をします。
【0011】処理が終わり,3脱着可能な仕切りをはずします。図2のように元に
戻します。
【0012】
【発明の効果】上述した子犬のトイレしつけ機はA居住エリアとBトイレエリアの
間に1脱着可能な仕切りを設けたことが最大のポイントで,飼い主がトイレのしつ
けを行う際,子犬はどんなに暴れようが,排泄時にBトイレエリア以外では排泄が
できない。そこで排泄をし,その結果を褒め,おやつを与えることで,トイレでの
排泄が習慣化し,その結果犬はBトイレエリアを自分のトイレ・排泄場所とスリコ
ミをすることになり,最終的には3脱着可能な仕切りがない状態でも犬は好んでB
トイレエリアで排泄をすることになる。また従来の犬用ドッグゲージでは犬はゲー
ジ全体で排泄をするので非常に不衛生であり,掃除用の引き出しトレイは床面全体
をカバーするように作られ,大きなトレイは清掃に手間がかかるものであった。し
かし,本しつけ機では確実にBトイレエリアだけでの排泄になるので排泄物の後片
付けもBトイレエリア内の2引き出しトレイを掃除するだけでよい。」
b上記aの記載によれば,甲3には,①ドッグサークル型トイレしつけ機は,
全体を柵で囲んだもので,犬のトイレのしつけを行うために,居住部分とトイレ部
分を明確に分け,トイレ以外で排泄をしないように習慣づけができるように,その
境目に取り外し可能な仕切りを備えたものであること(【請求項1】,【0007】),
②仕切りは,網状や板状であり,犬が容易に居住部分とトイレ部分を通り抜けでき
ないもので,両サイドがスライドして上から容易に脱着できること(【0007】),
③平常時は,仕切りは取り外しておき,犬の排泄のタイミングに犬をトイレ部分に
入れ,仕切りをスライド装着し,排泄をしたら,犬をほめ,おやつをあげ,居住部
分に犬を移して,トイレ部分の排泄物を処理し,処理が終わったら,仕切りを取り
外して元に戻すこと(【0008】~【0011】)が記載されていると認められる。
しかし,上記の仕切りは,網状や板状であり,犬が容易に居住部分とトイレ部分
を通り抜けできないものであり,訂正発明1における「仕切出入口」に相当するも
のがなく,また,同「仕切出入口を開閉する仕切扉」に相当するものも存在しない。
したがって,甲3には,上記仕切りに,犬が出入り可能な「仕切出入口」を開口す
るとともに,この「仕切出入口」を開閉する「仕切扉」を設け,この「仕切扉」を
介して居住部分とトイレ部分との間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規
制されるように構成することが記載されているとはいえない。
そうすると,甲3は,甲1発明におけるスペースに対し,そのスペースを開閉す
る扉を設け,その扉を介してベッドとトイレとの間を犬が行き来できるようにある
いは行き来が規制されるように構成することを動機づけるものとはいえない。
(ウ)a以上のとおり,甲1発明の甲3を適用する理由は認められないから,審決
の判断が,副引例が訂正発明1の効果を奏しないという一事をもって容易想到性を
否定したものということはできず,原告の上記(ア)aの主張は,理由がない。
b「扉」とは,一般に「開き戸の戸」を意味し,本件明細書等においても同様
の意味で用いられていると認められるが,甲3に記載の取り外し可能な仕切りは,
「開き戸の戸」ではなく,その構造から「扉」といえないことが明らかである。ま
た,上記(イ)bのとおり,このような仕切りには,「仕切出入口」がなく,また,「仕
切出入口を開閉する仕切扉」も存在しないから,甲3には,上記仕切りに,犬が出
入り可能な「仕切出入口」を開口するとともに,この「仕切出入口」を開閉する「仕
切扉」を設け,この「仕切扉」を介して居住部分とトイレ部分との間を犬が行き来
できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することが記載されていると
はいえない。したがって,原告の上記(ア)bの主張も,理由がない。
エ甲4~8の適用について
(ア)a甲4には,図面(別紙参照)とともに,以下の記載がある。
「■子犬の部屋
……子犬の部屋はサークルを使って囲うとトイレのしつけがしやすく,大変便利で
す。
犬は寝床で排泄することを嫌いますから「食事」「寝床」「排泄」の場所をそれぞ
れ分けられるようにするのが理想的です。」(114頁)
「■トイレの設置
P114の犬の部屋を参考にしてください。サークルを使って,犬の行動範囲を
制限する方法が一番無難で,人も犬も苦労しません。
①サークル内のスペース全体に新聞紙,もしくはペットシーツを敷きます。こうし
ておくと,犬の行動範囲全てがトイレなので,失敗するということがなくなります。
②この状況の中で,犬がどの場所に一番多く排泄するかをよく観察します。
最初は滅茶苦茶でも,次第に好んで排泄する場所が決まってきますから,そこを
避けて寝床や運動するスペースを広げて行くのです。
しかし,いきなり広くしてしまうと,また失敗してしまう可能性があるので,少
しずつ広げて行くように注意して下さい。
寝床となる部分には,肌触りの異なるもの(……)を敷きましょう。
③自由に動き回れるスペースが相当広くなっても失敗することがなくなれば,まも
なくしつけ完了です。後は,サークルの扉を開けたままにし,犬がいつでもトイレ
に行けるようにしておくか,サークルを取り払うかしましょう。」(190,191
頁)
b上記aの記載によれば,甲4には,①子犬の部屋は,サークルを使って囲う
と,トイレのしつけがしやすいこと,②「食事」,「寝床」,「排泄」の場所をそれぞ
れ分けること,③トイレの設置に関し,114頁の犬の部屋(別紙参照)を参考に
すること,④114頁に図示される犬の部屋は,サークルで囲まれており,寝床の
場所と排泄の場所が仕切りにより仕切られており,その仕切りには,犬が寝床の場
所と排泄の場所を自由に行き来できる程度のスペースが空けてあること,⑤トイレ
の仕付けの手順に関し,サークル内のスペース全体に新聞紙等を敷き,犬の行動範
囲全てをトイレとし,この状況の中で,犬がどの場所に一番多く排泄するかをよく
観察し,好んで排泄する場所が決まってきたら,そこを避けて寝床や運動するスペ
ースを広げ,自由に動き回れるスペースが相当広くなっても失敗することがなくな
れば,サークルの扉を開けたままにし,犬がいつでもトイレに行けるようにしてお
くか,サークルを取り払うかすることが記載されていると認められる。
しかし,上記の犬の部屋は,寝床の場所と排泄の場所が,仕切りにより仕切られ,
その仕切りには,犬が寝床の場所と排泄の場所を自由に行き来できる程度のスペー
スが空けてあるものの,そのスペースに,スペースを開閉する扉を設け,その扉を
介して寝床の場所と排泄の場所との間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が
規制されるように構成することについて,甲4には記載も示唆もない。
甲4には,上記のとおり,「サークルの扉を開けたままにし」との記載があるが,
114頁の図には,扉は示されておらず,具体的にどこに設けられた扉であるのか
は明らかでない。甲4の上記記載によれば,トイレに失敗することがなくなった場
合に,「サークルの扉を開けたままにし,犬がいつでもトイレに行けるようにしてお
くか,サークルを取り払うかする」とされていることを踏まえると,上記「サーク
ルの扉」は,犬の部屋を囲うサークルに設けられたものと解するのが自然であり,
訂正発明1の「住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或
いは行き来が規制される」「仕切扉」を示唆するものとは認められない。
以上によれば,甲4は,甲1発明におけるスペースに,そのスペースを開閉する
扉を設け,その扉を介してベッドとトイレとの間を犬が行き来できるようにあるい
は行き来が規制されるように構成することを動機づけるものとはいえない。
(イ)甲5には,ラット等の実験動物の視力測定装置と,この装置を用いた実験動
物の視力測定方法について,甲6には,小動物交配用ケージについて,甲7には,
イタチ科に属するフェレットのような愛玩動物を飼育するためのペット飼育容器に
関し,上下段に仕切られた飼育室内という限られた空間をペットの運動領域として
なるべく広く使えるようにすることについて,甲8には,移動柵による養豚法に関
し,床面の天地返し作業を行うことについて,それぞれ記載されていると認められ
る。
しかしながら,甲5~8のいずれにも,ペットのトイレの仕付けを容易に行うと
の観点から,住居スペースとトイレスペースとの間を「中仕切体」によって仕切る
こと,また,その「中仕切体」に,ペットが出入り可能な「仕切出入口」を開口す
るとともに,この「仕切出入口」を開閉する「仕切扉」を設け,この「仕切扉」を
介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるようにあるいは行
き来が規制されるように構成することについて記載はない。
そうすると,甲5~8は,甲1発明におけるスペースに,そのスペースを開閉す
る扉を設け,その扉を介してベッドとトイレとの間を犬が行き来できるようにある
いは行き来が規制されるように構成することを動機づけるものとはいえない。
(ウ)原告は,副引例(甲4~8)が訂正発明1の効果を奏しないという一事をも
って容易想到性を否定することは,判断枠組み自体誤りであると主張する。
しかしながら,甲4~8は,いずれも,甲1発明におけるスペースに,そのスペ
ースを開閉する扉を設け,その扉を介してベッドとトイレとの間を犬が行き来でき
るようにあるいは行き来が規制されるように構成することを動機づけるものといえ
ないことは,上記(ア),(イ)のとおりであるから,これらの副引例は,いずれも訂正
発明1の相違点2に係る構成,すなわち「仕切出入口を開閉する仕切扉が設けられ,
この仕切扉を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるよう
に或いは行き来が規制されるように構成されている」点を想到させるものとは認め
られない。
したがって,審決の判断を,訂正発明1の効果を奏しないという一事をもって容
易想到性を否定したものということはできず,原告の上記主張は理由がない。
オ以上のとおり,審決の相違点2についての判断に原告主張の誤りはない。
(3)よって,取消事由1は理由がない。
2訂正発明1と甲3発明との相違点4に係る容易想到性の判断の誤り(取消事
由2)について
(1)相違点4についての認定の誤りにつき
ア原告は,訂正発明1は物の発明であるから,相違点も物の構造に着目すべき
であり,訂正発明1と甲3発明との相違点は,訂正発明1の「仕切」には扉を設け
ているのに対し,甲3発明の「脱着可能な仕切」はそれ自体扉であるいう点である
と主張する。
しかし,上記1(2)ウ(ウ)bのとおり,甲3に記載の取り外し可能な仕切りは,そ
の構造から「扉」とはいえず,原告の主張は,その前提において誤りである。
イ原告は,仮に甲3発明の「脱着可能な仕切」はそれ自体扉であるとまではい
えないとしても,訂正発明1と甲3発明との相違点は,単に「扉」の有無にすぎな
いと主張する。
しかし,訂正発明1と甲3発明とは,いずれも,「中仕切体において,住居スペー
スとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるよ
うに構成されている」ものであるが,その具体的な構成として,訂正発明1では,
上記中仕切体には,「犬が出入り可能な仕切出入口が開口されるとともに,この仕切
出入口を開閉する仕切扉が設けられ」ており,それにより,「この仕切扉を介して」
住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるように或いは行き来が規
制されるように構成されているのに対して,甲3発明では,上記中仕切体に相当す
るものは,「脱着可能な仕切り」であり,「平常時に3脱着可能な仕切りは取り外し
ておき,犬の排泄のタイミングに犬をBトイレエリアに入れ,3脱着可能な仕切り
をスライド装着する」ことにより,住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行
き来できるように或いは行き来が規制されるように構成されている点で相違するも
のであることは,明らかである。審決が認定した相違点4は,これと同旨のもので
あり,誤りはない。
ウ以上のとおり,審決の相違点4の認定に,原告が主張する誤りはない。
(2)相違点4についての判断の誤りにつき
ア本件明細書等の上記1(1)ア(ア)の記載によれば,訂正発明1は,犬のトイレ
仕付け用サークルにおいて,サークル本体の内部空間が中仕切体によって仕切られ
ることにより住居スペースとトイレスペースに区画されており,中仕切体には,犬
が出入り可能な仕切出入口が開口されるとともに,この仕切出入口を開閉する仕切
扉が設けられ,この仕切扉を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行
き来できるように或いは行き来が規制されるように構成され,そのような構成によ
り,飼い主が犬をトイレに誘導しやすい等,トイレの仕付けが容易である,という
犬のトイレ仕付け用サークルとしての効果を奏するものである(【0009】,【00
10】,【0013】)と認められる。
イ他方,甲3の上記1(2)ウ(イ)aの記載によれば,甲3発明は,ドッグサーク
ル型トイレしつけ機に関するもので,床面は居住エリアとトイレエリアと2つに分
かれており,脱着可能な仕切りで居住エリアとトイレエリアとの間は仕切られてい
るものであり,平常時に脱着可能な仕切りは取り外しておき,犬の排泄のタイミン
グに犬をトイレエリアに入れ,脱着可能な仕切りをスライド装着するものであると
認められる。
ウしかしながら,上記1(2)で検討したとおり,甲1~8のいずれにも,犬(又
はペット)のトイレの仕付けを容易に行う点から,住居スペースとトイレスペース
との間の「中仕切体」に,犬(又はペット)が出入り可能な「仕切出入口」を開口
するとともに,この「仕切出入口」を開閉する「仕切扉」を設け,この「仕切扉」
を介して住居スペースとトイレスペースとの間を犬が行き来できるようにあるいは
行き来が規制されるように構成することが記載されているとはいえない。
そうすると,甲3発明において,居住エリアとトイレエリアとの間の仕切りとし
て,脱着可能なものに代えて,仕切りに,犬が出入り可能な「仕切出入口」を開口
するとともに,この「仕切出入口」を開閉する「仕切扉」を設けたものを用い,そ
れにより,この「仕切扉」を介して居住エリアとトイレエリアとの間を犬が行き来
できるようにあるいは行き来が規制されるように構成することが,当業者が容易に
想到することということはできない。
エ原告は,訂正発明1の「仕切」に設けられた「扉」が有する機能と,甲3発
明の「脱着可能な仕切」の「仕切を脱着可能とする構成」が有する機能とが同一で
あることに加え,甲1,2,4~8において,仕切に対して「扉」を設けることが
記載又は示唆されているから,甲3発明の「脱着可能な仕切」の「脱着可能」のた
めの構成と「扉」とを置換することは,容易想到であると主張する。
しかし,甲1,2,4~8に,仕切に対して「扉」を設けることが記載又は示唆
されているとしても,これらには,犬(又はペット)のトイレの仕付けを容易に行
う点から,住居スペースとトイレスペースとの間の「中仕切体」に,犬(又はペッ
ト)が出入り可能な「仕切出入口」を開口するとともに,この「仕切出入口」を開
閉する「仕切扉」を設け,この「仕切扉」を介して住居スペースとトイレスペース
との間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成すること
が記載されているとはいえないから,甲3発明において,居住エリアとトイレエリ
アとの間の仕切りとして,脱着可能なものに代えて,仕切りに,犬が出入り可能な
「仕切出入口」を開口するとともに,この「仕切出入口」を開閉する「仕切扉」を
設けたものを用い,それにより,この「仕切扉」を介して居住エリアとトイレエリ
アとの間を犬が行き来できるようにあるいは行き来が規制されるように構成するこ
とが,容易想到ということはできない。
オ以上のとおり,審決の相違点4についての判断に原告主張の誤りはない。
(3)よって,取消事由2は理由がない。
3補足主張について
原告は,審決は,訂正発明1の「仕切扉」に「犬のトイレ仕付けのための扉」と
いう用途又は機能を読み込み,訂正発明1を用途発明と捉えた上で,強引に訂正発
明1の容易想到性を否定したものであるなどと主張する。
しかし,用途発明とは,ある物の未知の属性を発見し,この属性により,当該物
が新たな用途への使用に適することを見出したことに基づく発明と解されるところ,
「犬のトイレ仕付けのための扉」は「仕切扉」として用いられているのであり,審
決もそのようなものとして訂正発明1の容易想到性を判断していることが明らかで
あって,訂正発明1を用途発明として捉えたものではない。
原告の上記主張は,審決を正解しないものというほかなく,採用することができ
ない。
原告は,そのほかにも審決が訂正発明1を用途発明と捉えたことを前提に縷々主
張するが,いずれもその前提が誤りである。
4結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決にはこれを
取り消すべき違法はない。よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
芝田俊文
裁判官
岡本岳
裁判官
田中正哉
(別紙)
本件明細書等の図面
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
甲2の図面
【図1】
【図2】
【図3】
甲3の図面
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
甲4(114頁)の図面

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