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平成28年(ラ)第223号移送却下決定に対する即時抗告棄却決定に対する再
抗告事件
(原審・名古屋地方裁判所平成28年(ソ)第1号)
(基本事件・安城簡易裁判所平成27年(ハ)第562号)
主文
本件再抗告を棄却する。
理由
第1再抗告の趣旨及び理由
本件再抗告の趣旨及び理由は,別紙「再抗告状」及び「再抗告理由書」記載
のとおりである。
第2当裁判所の判断
1一件記録によれば,本件の経緯として,以下のとおり認められる。
(1)相手方は,再抗告人との間で業務提携契約(相手方と再抗告人が,再抗告
人が保有する英語教育プログラムの日本における普及方法の開発,導入促進,
営業活動業務を分担して行い,契約先からの委託金額配当分の50%ずつを
成果報酬として受け取るという契約。以下「本件契約」という。)を締結し,
全国のスポーツクラブ等に上記英語教育プログラムを導入するための営業活
動を行ったが,成果報酬が一部しか支払われないとして,平成27年12月
25日,再抗告人に対し,未払の成果報酬131万5122円及びこれに対
する遅延損害金の支払を求める訴訟を,安城簡易裁判所に提起した。
(2)再抗告人は,上記請求に含まれる債務のうち,相手方が再抗告人に代わっ
て,訴外株式会社Aに委託したホームページの開設費用の立替金51万56
50円の支払義務を争い,ホームページは相手方が一方的に閉鎖したために
利用不能になったのだから,上記立替金の支払義務は負わないと主張してい
る。これに対し,相手方は,訴外B株式会社のサーバーを借りてホームペー
ジを運営していたが,再抗告人から立替費用や報酬の支払が全くないので,
やむを得ずこれを閉鎖したのであるから,再抗告人は支払義務を免れないと
主張している。基本事件において予想される争点は,現時点ではこの点のみ
である。
(3)再抗告人は,平成28年1月27日,本件契約19条は,本件契約に関し
て紛争が生じた場合には,再抗告人の住所地を管轄する裁判所を第1審の専
属的合意管轄裁判所とする旨を定めているとして,民事訴訟法(以下「法」
という。)16条1項に基づき,基本事件を再抗告人の本店所在地を管轄する
広島簡易裁判所に移送するよう申し立てた。しかし,同年2月19日,原々
審は同申立てを却下した。
(4)そこで,再抗告人は即時抗告をしたが,原審は,同年6月9日,①当事者
間で専属的合意管轄が成立している場合であっても,受訴裁判所が法定管轄
を有し,かつ,当事者及び尋問を受けるべき証人の住所その他の事情を考慮
して,訴訟の著しい遅滞を避けるために,当該受訴裁判所で審理する必要が
あると認められるときは,法16条2項,17条及び20条1項の趣旨を類
推して,当該受訴裁判所において審理することが許されるとした上で,②上
記(2)の争点に照らせば,基本事件においては,岐阜市内の会社であると相手
方が主張する訴外A及び訴外B株式会社の担当者の尋問が必要になることが
十分予想されること,相手方の本店は愛知県刈谷市にあり,安城簡易裁判所
の管轄に属すること,他方,再抗告人は,広島市内に在住する二人以上の関
係者を証人として予定していると主張するが,当該人証の具体的必要性を認
めるに足りる資料はなく,広島市は再抗告人の本店所在地であるにとどまる
ことから,受訴裁判所である安城簡易裁判所において審理することが訴訟の
著しい遅滞を避けるために必要と認められるとして,再抗告人の即時抗告を
棄却した。
2以上を前提に検討するに,再抗告人は,契約当事者が管轄裁判所について合
意をしているときは,当該管轄合意に一定の重みが認められるべきであるから,
受訴裁判所で審理をすることが許されるためには,訴訟の著しい遅滞を避ける
ために必要と認められる場合というだけでは足りず,当該受訴裁判所で審理す
る「特段の必要性」が認められる必要があり,単なる必要性で足りるとした原
決定には,法17条の法令解釈を誤った違法があると主張する。
しかしながら,法17条は,当事者が専属的管轄合意をしている場合にも適
用されるのであるから(法20条1項),専属的管轄合意があっても,訴訟の著
しい遅滞を避け,又は当事者間の衡平を図るため必要があると認められるとき
は,当事者の合意により当該訴訟につき専属管轄を有する裁判所(以下「専属
的合意管轄裁判所」という。)に提起された訴訟を,専属的管轄合意がなければ
当該訴訟につき管轄を有すべき他の裁判所(以下「法定管轄裁判所」という。)
に移送することが許される。この趣旨に照らせば,これとは逆の場合,すなわ
ち,法定管轄裁判所に訴えが提起され,専属的合意管轄裁判所への移送申立て
がされた場合の判断基準も同様に考えるのが合理的であって,逆の場合につい
てのみ,「特段の必要性」との要件を付加すべき根拠は見いだし難い。
この点,再抗告人は,専属的管轄合意に一定の重みが認められるべきである
と主張するが,それは法17条の適用場面にも妥当するのであって,法が,専
属的管轄合意がある場合には法定管轄裁判所で審理する特別の必要性を要求す
るとの立法政策をとっていない以上,上記主張は採り得ない。したがって,専
属的管轄合意があることが,法17条にいう「その他の事情」として考慮され
ることはあるとしても,それも考慮した上で,「訴訟の著しい遅滞を避け,又は
当事者間の衡平を図るため必要がある」と認められた場合には,専属的合意管
轄裁判所に移送せずに,法定管轄裁判所において審理することが許されると解
するのが相当である。
したがって,再抗告人の上記主張は採用することができない。
3そのほか,再抗告人は,相手方のホームページ開設という請求原因を認めた
上で,その後の閉鎖・利用不能という後発的事実を抗弁として主張しているの
であるから,立証責任の分配上,再抗告人が必要とする二人以上の証人による
立証が許容されてしかるべきであり,原決定は立証責任の分配を誤っていると
主張する。
しかしながら,立証責任を負う当事者からの人証申請であるからといって,
無制約にそれが認められるものではなく,争点との関連性が不明確であれば,
人証申請が認められないことは当然である。再抗告人の予定する証人の具体的
必要性を認めるに足りる資料がない以上,法17条の類推適用に当たって,当
該証人の所在地を考慮しなかった原決定は相当である。
4そして,原決定の認定事実によれば,法定管轄裁判所である安城簡易裁判所
において基本事件を審理することが,訴訟の著しい遅滞を避けるため必要であ
ると認められ,再抗告人と相手方の間で専属的管轄合意が成立していることを
踏まえても,当事者間の衡平を害するとまでは認められないから,再抗告人の
即時抗告を棄却した原決定は相当である。
したがって,本件再抗告には理由がないから,主文のとおり決定する。
平成28年8月2日
名古屋高等裁判所民事第3部
裁判長裁判官揖斐潔
裁判官唐木浩之
裁判官福田千恵子
(別紙再抗告状及び同再抗告理由書省略)

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