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平成16年(ネ)第979号 特許権侵害差止等請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成14年(ワ)第28217号)
当審口頭弁論終結の日 平成16年4月20日
          判    決
    控訴人             株式会社ナカオ
    同訴訟代理人弁護士       寒河江孝允
    同               矢野敏樹
    被控訴人            アルインコ株式会社
    同訴訟代理人弁護士       中務嗣治郎
    同               加藤幸江
    同               中務尚子
    同訴訟代理人弁理士  藤川忠司
          主    文
     1 本件控訴を棄却する。
     2 控訴費用は控訴人の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は,原判決別紙物件目録記載の物件を製造,販売してはならな
い。
(3) 被控訴人は,控訴人に対し,1億4580万円及びこれに対する平成15
年1月24日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は,梯子や脚立等の伸縮脚の固定装置に関する特許権を有する控訴人
が,伸縮脚の固定装置(以下「被控訴人装置」という。)を備える作業用足場を製
造,販売する被控訴人に対し,被控訴人の行為は控訴人の上記特許権を侵害すると
主張して,同製品の製造,販売等の差止めと損害賠償を求めた事案である。
 原審は,被控訴人装置は控訴人の特許権の技術的範囲に属さず,被控訴人の上記
製造,販売行為は同特許権を侵害するものではないと判断して,控訴人の請求を棄
却した。
 控訴人は,原判決を不服として本件控訴を提起した。
2 前提となる事実は,原判決「事実及び理由」欄の第2「事案の概要」の1に
記載のとおりであるから,これを引用する。
3 主要な争点
(1) 被控訴人装置の構成は,どのようなものか。
(2)(控訴人の主位的主張)
 被控訴人装置は,本件発明1の構成要件(B,C,D,F,G,H)を文言上充
足するか。
(3)(控訴人の予備的主張1)
 被控訴人装置は,本件発明1と均等といえるか。
(4)(控訴人の予備的主張2)
 被控訴人装置は,本件発明2の構成要件(B’,C’,D’,F’,G’,
H’)を文言上充足するか。
(5)(控訴人の予備的主張3)
 被控訴人装置は,本件発明2と均等といえるか。
4 争点に関する当事者の主張は,次の5及び6のとおり,当審における当事者
の主張の要点を付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」
の2に記載のとおりであるから,これを引用する。
 5 当審における控訴人の主張の要点(控訴理由の要点)
(1) 本件発明1における文言侵害について
 原判決は,本件発明1の構成要件D及びGの「第2のラック歯」は歯が複数のも
のを意味するとの文言解釈により,「第2のラック歯」が単数である被控訴人装置
は本件発明1の特許権に対する文言侵害にあたらないと説示するが,次のとおり,
本件発明1は「第2のラック歯」が複数のものも含むと文言解釈すべきであり,原
審の判断は誤りである。
ア(手続補正書の記載について)
 本件発明1(本件特許権の請求項4)は,本件特許権の出願時(平成9年10月
27日)には請求項として掲げられず,平成12年3月6日受付の手続補正書(乙
12)によって追加されたものである。
 同手続補正書による補正後の明細書の記載によれば,本件発明1(請求項4)の
「第1のラック歯」については明確に「複数の」の限定句があるのに対し,「第2
のラック歯」についてはそのような限定はない。複数は単数を寄せ集めたものであ
るから,特許発明の技術的範囲を解釈する場合,「複数」と特に記載しなければ当
然に単数・複数の両方を含むものと解釈するべきことは当然である。
 また,本件特許権の請求項1及び3の記載に関して,出願時の明細書(乙9)に
は「第2のラック歯」について「複数の」の限定句があったものを,上記手続補正
に際して「複数の」を削除する補正を行ったのであるから,単数・複数の両方を含
むことは明確である。このことからしても,同一の手続補正書で請求項4として追
加された本件発明1についても,「第2のラック歯」は単数・複数の両方を含むも
のとして解釈するべきである。
イ(意見書の記載について)
 原判決は,拒絶理由通知書(乙10)に対して控訴人が提出した平成12年3月
6日受付の意見書(乙11)において,同拒絶理由通知書の引用文献2(特公昭3
4-3186)のものの係止部材(ピニオン)が伸縮脚のラックに噛合する際にラ
ックの各孔に嵌入するピニオンの歯が1個だけであることと,本件特許との差異を
強調していることからも,本件発明1の係止部材(「第2のラック歯」)の歯は複
数あるもののみを当然の前提としているとするのが合理的である,と説示した。
 しかし,控訴人が上記意見書において本件発明1と引用文献2との差異として強
調した点は,引用文献2のものではピニオンの歯に荷重が集中するのに対して,本
件発明1のものでは,「くさび効果」や「回転食い込み」作用が生じるので荷重が
ラック歯のみに集中するのを避けることができる,という点である。この差異を生
ずるにあたって,本件発明1の「第2のラック歯」が複数であることは必須の要件
ではない。また,上記意見書には,本件発明1の「第2のラック歯」が複数である
旨の記載は存在しない。
 したがって,上記意見書の記載は,本件発明1の「第2のラック歯」が複数であ
ることを示すものではない。
ウ(本件明細書の記載)
 原判決は,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明欄に,「ラック128は,左
伸縮支柱125の内壁127の表面に多数の横長突条からなる第1のラック歯13
2を軸線方向に平行間隔を開けて設けることによって構成されており」と記載さ
れ,図31,32にもラック128として,同形の等間隔に並んだ歯(ラック歯1
32)が示されていることを指摘し,このことからも,「ラック歯」とは等間隔に
並んだ同形の複数の歯を意味するものと解するのが合理的である,と説示してい
る。
 しかし,本件明細書中,本件発明1(請求項4)と密接な関係にある第4の実施
の形態に係る説明及び図においては,伸縮脚側の「第1のラック」として,伸縮脚
84の平坦な面に貫通孔を形成して構成する例(図26,27)や伸縮脚111の
平板部112に伸縮脚111の軸線方向と直交する方向に貫通溝を間隔を開けてラ
ック溝を形成する例(図29)も示されている。これらの例からすると,原判決の
上記指摘部分の記載のみをもって,本件明細書における「ラック歯」という文言
を,等間隔に並んだ同形の複数の歯という意味に限定して解釈した原審の判断は誤
りである。
エ(「ラック歯」は複数であるとした場合の問題点)
 原審のように,「ラック歯」は必ず複数であるものとすると,本件明細書や出願
時の明細書における「複数のラック歯」という記載は,「複数の等間隔に並んだ同
形の複数の歯」という意味になり,「複数の」が2度繰り返されることになって文
言上成り立たないことになる。
オ(「意識的除外論」の不適用)
 特許権の技術的範囲の解釈において,「意識的除外論」という権利解釈の基準
は,出願人において自ら特許を請求しないことを明らかにした範囲に限定すべきで
あり,拡大解釈すべきでない。
 原判決は,控訴人が上記意見書(乙11)において上記拒絶理由通知書(乙1
0)の引用文献2(乙6)との比較をした際に,「第2のラック歯」については歯
が単数のものを意識的に除外して主張していると極め付けた判断をしている。しか
し,上記イのとおり,上記意見書における引用文献2と本件発明1との比較はその
ような趣旨でなされているものではないし,上記意見書中に,本件発明1の「第2
のラック歯」が複数であると限定する記載は全くない。むしろ,上記意見書が上記
手続補正書と同時に提出されたことを勘案すれば,「第2のラック歯」については
意識的に「複数の」の限定を解いて「単数」を含むこととしたものであることは明
白である。
 したがって,出願人である控訴人において,「第2のラック歯」が単数のものに
ついて特許を請求しないことを自ら明らかにしたという事実はなく,かえってその
逆に単数のものを含んで特許を請求することを明らかにしていたものである。した
がって,原審が意識的除外論を適用して「第2のラック歯」は複数のものに限ると
したのであれば,誤りである。
カ 以上のとおり,構成要件D及びGの「第2のラック歯」は歯が単数のも
のを含むと解するべきであるから,被控訴人装置は本件発明1の技術的範囲に属
し,本件特許権を侵害している。
(2) 本件発明1における均等侵害について
 仮に「第2のラック歯」は複数のものに限ると文言解釈されるとしても,次のア
ないしエのとおり,「第2のラック歯」が複数か単数かは本件発明1の本質的な構
成部分ではなく,いずれによっても作用効果は同一であり,イ号物件製造時の被控
訴人が必要に応じて選択すべき事項に過ぎないものであるから,「第2のラック
歯」が単数のものも本件発明1の特許請求の範囲に記載された構成と均等なもので
あり,本件発明1の技術的範囲に属する。
ア(いわゆる均等5要件の1及び2について)
 本件発明1の作用効果は次のとおりであり,これらの作用効果は「第2のラック
歯」が単数か複数かによって左右されることは全くない。
① 係止孔23に係合突起25が根元まで嵌入するため,係合突起25に
大きな曲げモーメントが掛からず剪断力のみとなるので,支持強度が著しく増加す
る。
② 係止孔23にゴミや雪等が付着した場合であっても,係止孔23の底
部が抜けているために,次のとおりの作用効果が得られる。
a 係合突起25を係止孔23に押し込むための弾性手段について,ゴ
ミや雪等の付着物を押し退けて嵌入させるために荷重の大きいものとする必要がな
いので,伸縮脚の長さを再度調整する際に係合突起を係止孔から外すための係合解
除手段の操作が容易になる。
b 大量の雪,ゴミや塗料等が係止孔23内に付着した場合でも,これ
を除去するために棒を入れて抜き落とすことによって容易に付着物を除去できる。
③ 係合突起25を有する係止部材18を弾性手段によって揺動付勢する
「回転食い込み」によって,係合突起25の係止孔23への噛合せが製品の自重や
体重によって強くなり,大量の雪,ゴミや塗料等の付着物を係止孔23から完全に
除去することができる。
イ 要件3について
 本件特許権の出願経過における控訴人提出の書面において,「第2のラック歯」
が複数か単数かということは何ら技術的な差異として認識されていないことからし
ても,「第2のラック歯」を複数から単数に置換することは被控訴人装置の製造,
販売開始時において容易であったことは明らかである。
ウ 要件4について
 本件特許権の出願当時,請求項4(本件発明1)における「第2のラッ
ク歯」の構成を有する公知の技術は存在しなかった。
エ 要件5について
 本件特許権の請求項4(本件発明1)について,「第2のラック歯」を被控訴人
装置のように単数とした構成を意識的に除外した事実はない。このことは,前記(1)
に述べたところからも明らかである。
(3) 本件発明2における文言侵害について
 仮に本件発明1にかかる特許権に明白な無効事由があり,これに基づく控訴人の
請求が権利の濫用にあたり許されないとしても,本件発明1に関する上記(1)と同様
の理由により,被控訴人装置は本件発明2の技術的範囲に属し,本件特許権を侵害
する。
(4) 本件発明2における均等侵害について
 仮に本件発明2の「第2のラック歯」は複数のものに限ると文言解釈されるとし
ても,本件発明1に関する上記(2)と同様の理由により,「第2のラック歯」が単数
のものも本件発明2の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであり,本件
発明2の技術的範囲に属する。
6 当審における控訴人の主張に対する被控訴人の反論の要点
(1) 文言侵害について
ア ラック歯の一般的な定義は「平らな板またはまっすぐな棒などの直線状
の部材に等間隔に設けられた同じ形の歯」である。
 控訴人は,本件明細書及び手続補正書において,「ラック歯」の意義につき格別
の定義付けをせず,また「第2のラック歯」が単数である場合についての記載を一
切していない以上,「第2のラック歯」は単数のものを含まないというのが合理的
解釈である。また,手続補正書において,請求項1ないし3の「第2のラック歯」
の「複数の」という修飾語を削除したという事実のみをもってしては,上記のとお
りの「ラック歯」の一般的な定義から逸脱した解釈をすべきであるということには
ならない。
 よって,手続補正書の記載をもってしては,本件発明1の「第2のラック歯」は
複数のものを意味するとの原審の認定判断は左右されない。
イ 意見書(乙11)においては,引用文献2(乙6)のものの問題点とし
ては,孔に嵌入するピニオンの歯数が1つであることのみを指摘しており,「回転
食い込み」の作用がないことには何ら言及していない。また,控訴人は,本件発明
1の本来的作用効果として,「第1のラック歯」間の貫通孔による付着物の除去を
主張してきたのであり,回転食い込みによる係合の確実性について主張したことは
ないのであるから,意見書における引用文献2のものとの比較の趣旨を控訴人主張
のように解することはできない。
(2) 均等侵害について
 「第2のラック歯」が複数である点は,控訴人が主張する本来的な作用効果,ラ
ック歯の定義などからすれば,本件発明1及び2の本質的部分であるから,「第2
のラック歯」が単数である被控訴人装置は,本件発明1及び2の均等物ではない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由
は,原判決の「第3 争点に対する判断」の説示のとおりであるから,これを引用
する。控訴人は,当審において上記第2の5のとおり主張するが,いずれも原審に
おける主張の繰り返しに過ぎず,これに対する判断は原判決の上記引用部分の説示
に尽きるものである。
 そして,文言侵害及び均等侵害についての原審の判断は,本件発明1及び2の技
術的内容及び技術思想に照らしても,相当なものとして是認し得るものであるの
で,以下このことにつき検討する。
2 本件発明1及び2の技術的内容及び技術思想
(1) 本件明細書の「発明の詳細な説明」欄及び図面の記載
 本件明細書(甲1)の「発明の詳細な説明」欄及び図面には,以下の各記載があ
る。
ア【従来の技術】
(ア)a「図31~33に伸縮脚の固定装置Cの構成を示す」(3欄40行
~41行)
b「図示するように,伸縮脚の固定装置Cは,実質的に,中空矩形断面
を有する左伸縮支柱125の内壁127の表面に形成されるラック128と,チャ
ンネル(リッブ溝形鋼)からなる左支柱123の下端部に取付けられるラックシュ
ー129と,ラックシュー129をラック128に向けて弾性的に付勢し係合させ
るスプリング130と,上記したラック128とラックシュー129との係合を解
除する係合解除用レバー131とから構成される。」(3欄46行~4欄4行)
c「上記構成において,図31及び図32に示すように,ラック128
は,左伸縮支柱125の内壁127の表面に多数の横長突条からなる第1のラック
歯132を軸線方向に平行間隔を開けて設けることによって構成されており,第1
のラック歯132間にはそれぞれラック溝132aが形成されている。」(4欄5
行~10行)
d「一方,図31及び図32に示すように,ラックシュー129は,側
面視で上細の先部を有する三角形状の平板ブロックから形成されており,その内面
には,多数の横長突条からなる第2のラック歯133が軸線方向に平行間隔を開け
て設けられている。」(4欄10行~15行)
e「かかる構成によって,(中略),スプリング130の付勢力を利用
してラック128の第1のラック歯132にラックシュー129の第2のラック歯
133を噛み合わせてラック128にラックシュー129を係合させ,左,右支柱
123,124と,左,右伸縮支柱125,126との固定を行う」(4欄34行
~43行)
(イ) 図31においては,第1のラック歯132の歯間の間隔(ラック溝
132aの軸線方向の長さ)は,ラック歯132の軸線方向の長さとほぼ等しいも
のとして示されている。
(ウ) また,図32においては,第2のラック歯133は,上記(イ)のと
おりの形状の第1のラック歯及びラック溝に密着して噛み合うような形状のものと
なっている。そして,第2のラック歯133の歯数は8個である。
イ【発明が解決しようとする課題】
a「しかし,上記した従来の伸縮脚の固定装置Cは,未だ,以下の解決
すべき課題を有していた。即ち,図34に示すように,左,右伸縮支柱125,1
26の内壁127の表面に形成されるラック128に雪や,ゴミや,ペンキ等が付
着している場合,付着物143がラック溝132a内に充填されるので,スプリン
グ130によってラック128にラックシュー129を付勢しても,第2のラック
歯133が第1のラック歯132に噛合しない,又は噛合しても十分に噛合しない
おそれがある。」(4欄48行~5欄7行)
ウ【課題を解決するための手段】
a「請求項1記載の伸縮脚の固定装置は,梯子や脚立等の主脚に対して
伸縮脚が入れ子式に摺動自在に挿入され,該伸縮脚に,軸線方向に間隔を開けて配
設された複数の第1のラック歯からなるラックが形成され,前記主脚に,前記ラッ
クの第1のラック歯間に形成される複数のラック溝に弾性手段によって弾性的に嵌
入係合可能で第2のラック歯を有するラックシューが取付けられ,さらに,前記ラ
ックシューと前記ラックとの係合を解除する係合解除手段を具備する伸縮脚の固定
装置であって,前記ラック溝の底部に貫通孔が形成され,前記ラック溝と前記貫通
孔に前記第2のラック歯を嵌入係合することによって,前記ラック溝に付着する付
着物を前記貫通孔を通して打ち抜き可能な構成となっている。」(5欄19行~3
2行)
b「「請求項4記載の伸縮脚の固定装置は,梯子や脚立等の主脚に対し
て伸縮脚が入れ子式に摺動自在に挿入され,該伸縮脚に,軸線方向に間隔を開けて
配設された複数の第1のラック歯からなるラックが形成され,前記主脚に,前記ラ
ックの第1のラック歯間に形成される複数のラック溝に,第2のラック歯が係合す
る方向に回転付勢される係止部材を具備する伸縮脚の固定装置であって,前記ラッ
ク溝が貫通溝から形成され,前記ラック溝に前記第2のラック歯を嵌入係合するこ
とによって,前記ラック溝に付着する付着物を打ち抜き可能な構成としている。」
(6欄3行~13行)
エ【発明の効果】
a「請求項1及び2記載の伸縮脚の固定装置においては,(中略),ラ
ック溝と貫通孔に第2のラック歯を嵌入係合することによって,ラック溝に付着す
る付着物を貫通孔を通して打ち抜き可能な構成としている。」(14欄21行~3
3行)
b「請求項3の伸縮脚の固定装置においては,ラック溝が貫通溝から形
成され,ラック溝に第2のラック歯を嵌入係合することによって,ラック溝に付着
する付着物を打ち抜き可能な構成としている。従って,平板に伸縮脚の軸線方向と
直交する方向に貫通溝を間隔を開けて設けるだけでラック溝を形成することがで
き,ラック溝を具備する伸縮脚を安価に製作することができる。」(15欄6行~
13行)
オ【発明の実施の形態】
(ア)「第1の実施の形態」として次の記載があり,これは,特許請求の範
囲の記載と対比すると,請求項1の発明(本件発明2)の実施例を示したものであ
ると認められる。
a「図3~図8を参照して伸縮脚の固定装置Aの構成を詳細に説明す
る。」(6欄31行~32行)
b「ラック17は,図3~図8,特に図7に示すように,左伸縮脚14
の内壁16の表面の中央部に多数の横長突条からなる第1のラック歯21を軸線方
向に平行間隔を開けて設けることによって構成されており,第1のラック歯21間
にはそれぞれラック溝22が形成されている。図2,図3及び図7に示すように,
各ラック溝22の底部には横長の貫通孔23が形成されている。」(6欄47行~
7欄4行)
c「一方,図1,図3及び図7に示すように,ラックシュー18は,側
面視で上細の先部を有すると共に左伸縮脚14より狭幅の三角形状の平板ブロック
から形成されており,左伸縮脚14のうち内壁16に設けられたラック17と対応
する垂直壁部24には,横長突条からなる多数の第2のラック歯25が軸線方向に
平行間隔を設けて,かつ,上述したラック溝22と同一のピッチで設けられてい
る。」(7欄5行~12行)
d「(伸縮脚の)張出長さ調整後に,操作レバー32から手を離すと,
図3及び図4に示すように,スプリング19の付勢力によって,ラックシュー18
の第2のラック歯25が自動的にラック17のラック歯22に噛み込み,ラック1
7にラックシュー18が係合され,左,右主脚1,12と,左,右伸縮脚14,1
5との固定が自動的に行われることになる。」(8欄16行~22行)
e「左,右伸縮脚14,15のラック17には,ラック溝22と連通す
る貫通孔23が設けられているので,一般に,伸縮脚の固定装置A内に侵入しラッ
ク17に付着した雪や,ゴミや,ペンキ等からなる付着物Fは,貫通孔23を通し
て左,右伸縮脚14,15の内部に落下するので,ラック17に付着物Fが付着す
るのを防止することができると考えられる。」(8欄29行~35行)
(イ)「第4の実施の形態」として次の記載があり,特許請求の範囲の記載
と対比すると,これは,請求項4の発明(本件発明1)の実施例を示したものであ
ると認められる。
a「図26及び図27を参照して,本発明の第4の実施の形態に係る伸
縮脚の固定装置A4の構成について説明する。」(12欄10行~12行)
b「図示するように,主脚83の端部に出退自在に伸縮脚84を装着す
ると共に,伸縮脚84の平坦な一側壁にストッパーラック85を設けている。」
(12欄12行~14行),「ストッパーラック85の第1のラック歯90間に形
成されるラック溝91は貫通溝から形成されているので,ラック溝91はストッパ
ーラック85の裏面に形成される縦長空間93と連通することになる。」(12欄
27行~30行)
c「係止部材88に,第2のラック歯86が伸縮脚84の先端部に向く
ように配設されている。」(12欄16行~18行)
d「梯子の使用状態で伸縮脚84を収縮しようとすると,その荷重の分
力によって係止部材88の一端側がストッパーラック85に向けて揺動付勢され,
荷重が大きくなるほどより強く第1のラック歯90が第2のラック歯86と係合す
ることになる。」(12欄34行~39行)
e「ところで,伸縮脚84のストッパーラック85に付着物が付着した
場合,付着物の性質及び量によっては,付着物がラック溝91を閉塞するおそれが
ある。この場合でも,本実施の形態では,ラック溝91は貫通溝から形成されてい
るので,付勢バネ87aの弾発力によって係止部材88の第2のラック歯86がラ
ック溝91内の付着物を縦長空間93に押し出すことができるので,第1のラック
歯90と第2のラック歯86とが確実に噛み合うことになる。」(12欄40行~
48行)
(ウ) 第1の実施の形態に係る図7においては,「第1のラック歯」21
の歯間の間隔(ラック溝22の軸線方向の長さ)は,ラック歯21の軸線方向の長
さとほぼ等しいものとして示されている。
 また,「第2のラック歯」25は,上記(ア)bのとおりの形状の「第1のラック
歯」の歯間(ラック溝)に密着して噛み合うような形状及び間隔のものとなってい
る。そして,第2のラック歯25の歯数は5個である。
(エ) 第4の実施の形態に係る図26においても,「第1のラッ
ク歯」90の歯間の間隔(ラック溝91の軸線方向の長さ)は,ラック歯90の軸
線方向の長さとほぼ等しいものとして示されている。
 また,「第2のラック歯」86は,上記(イ)bのとおりの形状の「第1のラック
歯」の歯間(ラック溝)に密着して噛み合うような形状及び間隔のものとなってい
る。そして,第2のラック歯86の歯数は3個である。
(2) 1個の係止孔で係止する構成を有する伸縮脚の固定装置の公知例
 乙3(実開平6-56495号),乙4(アメリカ合衆国特許公報第17333
38号),乙5(アメリカ合衆国特許公報第5526898号),乙7(実開昭和
51-80316)によれば,本件特許権の出願前において,梯子又は脚立の脚長
を調整するための構成として,伸縮脚に所望の間隔の複数の係止孔(乙3では「係
止孔7」,乙4では「スロット20」,乙5では「孔10」,乙7では「係止孔
7」)を設け,これら複数の係止孔のうち1個のみに係止部材の突起部(乙3では
「係止杆11」,乙4では「ロック爪16」,乙5では「ツメ22」,乙7では
「係止部10」)を係合させる構成を採用したものが開示されている。
 これに対し,本件明細書(甲1)では,「第1のラック」の複数のラック溝のう
ち1個のみにおいて係止部材との係合を行う構成のものは,従来技術としても開示
されていないし,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載のいずれにおいて
も,かかる構成の示唆及び開示はない。
(3) 本件発明1及び2の技術内容及び技術思想
ア 本件発明2について
 前記(1)で認定した事実によれば,本件発明2(本件特許権の請求項1)は,伸縮
脚に設けた複数の「第1のラック歯」の歯間(ラック溝)に,係止部材に設けた複
数の「第2のラック歯」を噛み合せるという構成を採る伸縮脚の固定装置におい
て,従来技術に対する改良発明をしたものということができる。
 すなわち,このような構成を採る固定装置では,従来技術においては「第1のラ
ック歯」がその一般的定義どおり「直線状の部材に同じ形の歯が等しい間隔で存在
するもの」(乙2)として形成されており(本件明細書の図31),ラック歯が細
かく刻まれその歯間の間隔(即ちラック溝の長さ)が小さいために,歯間(ラック
溝)に雪やゴミ等が付着しやすく(図34),またこれらの付着物が係止部材の
「第2のラック歯」によって圧し付けられて堆積するため,遂には伸縮脚側の「第
1のラック歯」と係止部材側の「第2のラック歯」との噛合せ係合にも支障を来た
す,という問題点が生ずることは見易いところである。そこで,本件発明2は,こ
のような問題点を解決するため,「第1のラック歯」の歯間(ラック溝)に貫通孔
を設けるという構成を新たに付け加えることによって,付着物の付着及び堆積を防
ぐという作用効果を奏するようにしたものであると認められる。
 そして,本件発明2が前提とする従来技術においては,上記(1)ア(ア)c及びdと
して引用したとおり,「第1のラック歯」及び「第2のラック歯」のいずれも「多
数の横長突条」から成るものであることが本件明細書に明記されているところであ
る。それゆえ,これを改良した本件発明2の実施の形態としても,上記(1)オ(ア)b
及びcとして引用したとおり,「第1のラック歯」及び「第2のラック歯」のいず
れも「多数の横長突条」から成るものであることが本件明細書に明記されているの
である。
 このように,本件発明2は,いずれも多数の歯と溝の連続からなる「第1のラッ
ク歯」及び「第2のラック歯」を噛み合せる構成を有する伸縮脚の固定装置につい
て,付着物の付着及び堆積という問題点を解決するための解決手段として,「第1
のラック歯」のラック溝に貫通孔を設けるという新たな構成を開示したものという
ことができる。
イ 本件発明1について
(ア)a 本件発明1(本件特許権の請求項4)は,本件発明2(同請求項
1)と,次の点で相違している。
① 「第2のラック歯」を備えた係止部材が「第1のラック歯」の歯
間(ラック溝)に係合するにあたって,本件発明2では「弾性手段によって弾性的
に嵌入係合」するものであるのに対し,本件発明1では「係合する方向に回転付勢
される」ものである点。
② 「第1のラック歯」の歯間(ラック溝)の構成について,本件発
明2では「ラック溝の底部に貫通孔が形成される」のに対し,本件発明1では「ラ
ック溝が貫通溝から形成される」ものである点。
b これらの相違点のうち,係止部材に関する①の点につき,甲7(特
開平8-68283)によれば,伸縮脚の固定装置に用いられ,本件発明1と同様
の構成を有する係止部材が,本件特許権の出願時に既に公知であったことが認めら
れる。そうすると,①の点は,本件発明2の構成要件である係止部材(弾性手段に
よって弾性的に「第1のラック歯」に嵌入係合するもの)を,出願時公知であった
甲7の係止部材(揺動自在に枢支され,「第1のラック歯」に向けて回転付勢され
るもの)に置換したに過ぎない。そして,甲7は本件発明1と技術分野を同じく
し,置換することに格別の創意を要するものでもない。
 また,本件明細書には,本件発明2のものと同1のものとの係止部材の構成が異
なることによる作用効果の相違についての記載はない。
 したがって,①の点をもって,進歩性を有する技術思想を開示したものであると
いうことはできない。
c 次に,②の点すなわち「第1のラック歯」の歯間(ラック溝)の構
成については,本件明細書中,本件特許権の請求項3についての「発明の効果」の
記載(上記(1)エb)において,ラック溝の底部に貫通孔を形成することに代えてラ
ック溝そのものを貫通溝から形成することによって,「ラック溝を具備する伸縮脚
を安価に製作することができる」という効果があることが明記されている。そし
て,この記載以外には,「ラック歯の底部に貫通孔が形成される」もの(本件発明
2)と「ラック溝が貫通溝から形成される」もの(本件発明1)との間の作用効果
の差異について述べた記載は本件明細書中に存在しない。
d 従って,本件発明1は,「第1のラック歯」の歯間(ラック溝)の
構成について,本件発明2のものに代替する構成を開示し,この点において従来技
術に対する進歩性を有するものとして,本件発明2とは別個の特許発明として認め
られるものであるということができる。
(イ) このように,本件発明1は,「第1のラック歯」の歯間(ラック
溝)の構成について,本件発明2のものに代替する構成を開示したものであるが,
このラック溝が「第2のラック歯」と係合して伸縮脚の固定装置としての用途に供
されるにあたっての機能自体は,本件発明2の貫通溝について上記アにおいて認定
したのと何ら変わるところはない。
 すなわち,本件発明2は,その実施例の記載(上記(1)オ(ア)b,c)をも参酌す
れば,「第1のラック歯」と「第2のラック歯」はいずれも「多数の横長突条」か
ら成るものであって,これらを対向させて生じる多数の細かな歯と溝との噛合せに
よって係合という所期の目的を達するにあたって,その際に生じ得る付着物の付
着,堆積という従来技術の問題点を解決するために,「第1のラック歯」の歯間
(ラック溝)の底部に貫通孔を設けたものであった。他方,本件発明1において
も,係合の原理及び構成は本件発明2と何ら変わるところがないし,「第1のラッ
ク歯」の歯間が付着物によって閉塞されることがないために係合の確実性が得られ
るという点でも,従来技術の問題点を解決するための手段として,本件発明2との
実質的差異は存在しないというべきである。そうすると,本件発明1においても,
「第2のラック歯」は「多数」ではないまでも少なくとも「複数」であり,これら
の歯が「第1のラック歯」の歯間(ラック溝)に噛み合うことによって係合するこ
とが前提とされているとみるべきである。
 そして,本件明細書の図面では,上記(1)オ(エ)に認定したとおり,本件発明1の
実施例である「第4の実施の形態」を示す図26において「第2のラック歯」が複
数(3個)であるものとして示されているのであり,このことも,上記のような解
釈を裏付けるものというべきである。
ウ 上記ア及びイに検討したところによれば,本件発明1及び2の中核をな
す技術思想は,伸縮脚に備えられた「第1のラック」と係止部材の「第2のラッ
ク」(いずれも,「ラック」の通常の語義から想定されるとおり,等間隔に細かく
並んだ多数の歯と溝からなるもの)とが対向し,ラック歯とラック溝との噛合せに
よって係合するという構成を有する伸縮脚の固定装置を従来技術として前提にした
上,この従来技術における雪,ゴミ,ペンキ等の付着物の除去という技術的課題を
解決するために,「第1のラック」のラック歯の歯間(ラック溝)を貫通させると
いう構成を採ったところにあると解するのが相当である。
(4) 乙3等の「係止孔」の技術思想との対比について
ア 上記(2)に認定したとおり,梯子又は脚立等の伸縮脚の固定装置の構成と
して,伸縮脚に所望の間隔の複数の係止孔を設けたものが,本件特許権の出願時に
おいて開示されていたことが認められる(乙3ないし5,7。以下これらを総称し
て「乙3等」という。)。
 これらの例における「係止孔」は,それが伸縮脚に穿たれた複数の貫通部である
という点において,本件発明1及び2の「第1のラック歯」の歯間(ラック溝)の
貫通孔ないし貫通溝と,共通点を有する。また,これらの係止孔を有する固定装置
においても,係止孔に係止部材の突起部が嵌入係合する構成を採っているために,
係止孔に雪,ゴミ,ペンキ等の付着物がある場合でも,これらの付着物は係止部材
の突起部によって打ち抜かれ,係止孔に付着,堆積することはないという効果が奏
されることになるが,この効果も本件発明1及び2と共通のものである。
イ しかしながら,乙3等の「係止孔」の構成が,本件発明1及び2と同様
の技術思想によって採用されたものであると解することはできない。その理由は次
のとおりである。
 伸縮脚の伸縮長さを所望の間隔で調整し得るようにするという目的のために,伸
縮脚にその間隔で係止構造を設け,これに適当な係止部材を係合させる構成を採る
という着想自体は,技術常識に属することである。また,この場合,伸縮脚の側の
係止構造として,孔を穿つか,あるいは凸部や凹部を設けるか,といったことは,
当業者において任意に選択し得る事項であり,乙3等が孔を穿つという共通の構成
を採っているのは,単に加工の容易性によるものとも考えられるところである。そ
して,乙3等のいずれにおいても,係止孔が貫通していることによって付着物の打
ち抜きが可能となるという効果が奏されることについては,その明細書において全
く言及されていないことからしても,かかる効果は孔を穿つという構成を採ったこ
とによる副次的効果に過ぎないというべきである。
ウ このように,梯子又は脚立等の伸縮脚の固定装置の構成として,伸縮脚
に所望の間隔の複数の貫通孔ないし貫通溝を有する構成を採ったものであっても,
そのことのみによって,本件発明1及び2と技術思想を同じくするものとはいえな
いのである。
3 文言侵害及び均等侵害の不成立について
(1) 上記2(3)ウに説示したとおり,本件発明1及び2の中核をなす技術思想
は,「第1のラック」及び「第2のラック」がいずれも等間隔に細かく並んだ複数
の歯と溝から成り,互いのラック歯とラック溝との噛合せによって係合するという
構成を有する伸縮脚の固定装置を従来技術として前提にした上,この従来技術に伴
う雪,ゴミ,ペンキ等の付着物の除去という技術的課題を解決するために,「第1
のラック」のラック歯の歯間(ラック溝)を貫通させるという構成を採用したとこ
ろにある。すなわち,本件発明1及び2の本質的部分は,上記従来技術を前提にし
た上,この技術の有する上記課題を解決すべく,構成要件F,G,HないしF’,
G’,H’の構成を採用した点にあるというべきである。そして,上記のとおり,
本件発明1及び2の本質的部分と不可分一体の関係にある前提要件を欠く場合に
も,上記本質的部分を具備しない場合に準じて考えるべきである。
 しかるに,被控訴人装置のラック溝22(91)は複数であるが係合突起25
(86)は単数であるため特定の伸縮長さでの係止の用に供されるラック溝は1つ
だけであり,複数のラック歯とラック溝との噛合せによって係止するものではない
から,被控訴人装置の構成は上記前提要件を欠いており,したがって,上記本質的
部分を具備しないものに準じて,本件発明1及び2の文言侵害にも均等侵害にも該
当しないというべきである。
(2) ところで,控訴人が本件発明1の実施品であると主張する甲22別紙-3
のものと,被控訴人製品の1つである甲22別紙-5のものとの外観を比較する
と,確かに,伸縮脚に20mm間隔の貫通溝が設けられている点において一見きわめ
て類似する構成となっている。しかしながら,これは表面上の類似に過ぎず,各製
品の根底にある技術思想に遡って検討すれば,両者は別異の技術思想によるもので
あるということができる。
 まず前者(本件発明1の実施品)では,係止部材側の「第2のラック歯」に複数
(3個)の歯がありその間隔が20mmであるために,伸縮脚の側の「第1のラック
歯」の歯間(ラック溝)の間隔も必然的に20mmという細かいものにならざるを得
ない。そして,そのラック溝の付着物の打ち抜きを容易にするために,ラック溝を
貫通溝によって形成したというのが,当該実施品の技術思想なのである。
 後者(被控訴人製品)では,係止部材の側の突起部は1個しかないので,伸縮脚
の側の貫通溝の間隔が例えば100mmや200mmなどの広いものであっても,係止
部材との係合によって伸縮脚を固定することができるのであり,被控訴人製品でこ
の間隔が20mmとされているのは,20mm単位で伸縮長さを調整できるという効果
を奏するために過ぎない。この点において,被控訴人製品における貫通溝は,乙3
等における係止孔と同様の機能を果たすためのものである。そうすると,貫通溝で
あることによって付着物の打ち抜きが可能であるということも,乙3等におけるの
と同様に,副次的な作用効果に過ぎず,被控訴人製品の構成自体は,本件発明1及
び2の技術思想とは無関係に採用し得たものというべきである。
4 以上のとおりであるから,控訴人の当審における主張を考慮しても,結局の
ところ,本件発明1及び2の技術思想に照らし,被控訴人装置が本件特許権の侵害
に当たる余地はない。
第4 結論
 よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がな
いからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
   東京高等裁判所知的財産第1部
         裁判長裁判官       北  山  元  章
            裁判官       清  水     節
            裁判官       上  田  卓  哉

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