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裁判例


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平成12年(行ケ)第496号 審決取消請求事件(平成13年10月10日口頭
弁論終結)
          判         決
   原      告   ヤマモトロックマシン株式会社
訴訟代理人弁理士   菅   原   弘   志
   被      告   マツダアステック株式会社
訴訟代理人弁理士   小   谷   悦   司
       同樋   口   次   郎
          主         文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
特許庁が平成10年審判第35558号事件について平成12年11月1日
にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
  (1) 原告は、名称を「さく岩機」とする特許第2613538号発明(平成5
年5月10日出願、平成9年2月27日登録、以下「本件発明」という。)の特許
権者である。被告は、平成10年11月11日、本件特許の無効審判の請求をし、
平成10年審判第35558号事件として特許庁に係属したところ、原告は、平成
11年2月22日、本件特許出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」
という。)の特許請求の範囲の記載等の訂正(平成11年法律第41号附則2条1
3項により、無効審判における明細書の訂正については、なお従前の例によるとさ
れる。以下「本件訂正」という。)を請求した。
  (2) 特許庁は、上記事件につき審理した結果、平成12年11月1日、「特許
第2613538号発明の特許を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同月
27日、原告に送達された。
 2 本件明細書の特許請求の範囲の記載
  (1) 登録時のもの
   【請求項1】前後に移動する打撃用のピストンと、該ピストンを摺動自在に
保持するシリンダと、該シリンダに供給される油圧を切り替えるバルブと、前記シ
リンダの前部に設けられたシャンクロッド保持用のスリーブとを備え、シリンダに
供給される油圧によってピストンを前進させてシャンクロッド後端部を前向きに打
撃し、該打撃力により穿孔を行うさく岩機において、前記穿孔用の油圧が供給され
る第2のシリンダと、該第2のシリンダに供給される油圧を切り替えるバルブと、
前記第2のシリンダの内部に設けられ前記シャンクロッドのカラー前面を後ろ向き
に打撃する中空の逆打ピストンとを有する逆向き打撃装置を設けたことを特徴とす
るさく岩機。
 (2) 本件訂正に係るもの(訂正部分に下線を付す。以下、この発明を「訂正発
明」という。)
   【請求項1】前後に移動する打撃用のピストンと、該ピストンを摺動自在に
保持するシリンダと、該シリンダに供給される油圧を切り替えるバルブと、前記シ
リンダの前部に設けられたシャンクロッド保持用のスリーブとを備え、シリンダに
供給される油圧によってピストンを前進させてシャンクロッド後端部を前向きに打
撃し、該打撃力により穿孔を行うさく岩機において、前記穿孔用の油圧が供給され
る第2のシリンダと、該第2のシリンダの外周部に設けられ該第2のシリンダに供
給される油圧を切り替えるバルブと、前記第2のシリンダの内部に設けられ前記シ
ャンクロッドのカラー前面を後ろ向きに打撃する中空の逆打ピストンとを有する逆
向き打撃装置を設けたことを特徴とするさく岩機。
 3 審決の理由
   審決の理由は、別添審決謄本記載のとおり、訂正発明は、いずれも本件特許
出願前に頒布された、米国特許第3516651号明細書(審判甲第1号証、本訴
甲第3号証、以下「刊行物1」という。)、実願平3-75025号(実開平5-
26277号)のCD-ROM(審判甲第4号証、本訴甲第5号証、以下「刊行物
2」という。)及び特開昭61-270085号(審判甲第14号証、本訴甲第9
号証、以下「刊行物3」という。)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものであり、特許法29条2項により特許出願の際独立して特許を
受けること(以下「独立特許要件」という。)ができないから、本件訂正は、特許
法134条5項において準用する同法126条3項(注、平成11年法律第41号
附則2条13項により、なお従前の例によるとされる、同法による改正前の特許法
126条4項の趣旨と解される。)の規定に適合しないので認められないとして、
本件発明の要旨を登録時における本件明細書の特許請求の範囲記載のとおり認定し
た上、本件発明は刊行物1及び2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたものであり、特許法29条2項により特許を受けることができないか
ら、本件発明の特許は、同法123条1項2号に該当するものとして、無効とされ
るべきであるというものである。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決中、1(手続の経緯)、2(請求人の主張及び提出した証拠方法)及び
3(被請求人の主張及び訂正請求の内容)は認め、4(訂正の適否)及び5(無効
理由の検討)は争う。
   審決は、訂正発明と刊行物1記載の発明(以下「刊行物発明1」という。)
との一致点の認定を誤り(取消事由1)、相違点3の判断を誤った結果(取消事由
2)、訂正発明が独立特許要件を欠くとの誤った判断をして本件訂正を認めず、本
件発明の要旨認定を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
  (1) 審決は、「刊行物1には、『前後に移動する打撃用のピストン158
と、・・・ピストン158を前進させてシャンクロッド後端部を前向きに打撃し、
該打撃力により穿孔を行うさく岩機において、・・・前記シャンクロッド136の
カラー137前面を後ろ向きに打撃する環状ピストン131とを有する逆転衝撃装
置27を設けたさく岩機』が記載されている」(審決謄本6頁27行目~38行
目)と認定し、訂正発明と刊行物発明1とが「逆向き打撃装置を設けたさく岩機」
である点で一致すると認定したが(同9頁10行目~11行目)、誤りである。
  (2) 油圧式さく岩機に使用される油圧は、空気圧の30倍程度と極めて高圧で
あるため、ピストンの打撃面とシャンクロッドの被打撃面とは厳密に芯が合ってい
なければならない。したがって、前向きの打撃を与える正打撃装置と逆向き打撃装
置とを備えた油圧式さく岩機では、ガイドセルとキャリッジプレート(さく岩機を
支持する支持部材)との間のがたつきがあっても、正打撃装置と逆向き打撃装置と
の芯がぶれないようにしなければならない。そのため、訂正発明は、正打撃装置及
び逆向き打撃装置を一つの油圧式さく岩機として構成し、剛的に一つのキャリッジ
プレートに組み付けたものである。このことは、特許請求の範囲の「逆向き打撃装
置を設けたことを特徴とするさく岩機」との記載から明らかであり、願書に添付さ
れた図1(以下、単に「図1」などという。)及び図4においても、逆向き打撃装
置と正打撃装置とが剛的に結合されている。この構造によると、正打撃装置と逆向
き打撃装置とが共通のキャリッジプレートに組み付けられているため、キャリッジ
プレートとガイドセルとの間にがたつきがあっても、正打撃装置と逆向き打撃装置
との間に相対的な芯ぶれは生じない。
  (3) これに対し、刊行物発明1は、空気式さく岩機と空気式逆転衝撃装置とを
共通のガイドセル上に別々の支持部材で搭載した高炉のタップ穴用のボール盤であ
り、逆向き打撃装置と正打撃装置とを剛的に結合して一つのさく岩機として構成し
たものではないから、訂正発明の構成とは異なるものであって、「刊行物1記載の
逆転衝撃装置27とドリル26は、・・・支持部材117、接続ロッド123,1
24及びコネクター125を介して一体に接続されていることが認められる」(審
決謄本7頁22行目~24行目)との審決の認定は誤りである。
 2 取消事由2(相違点3の判断の誤り)
  (1) 審決は、「刊行物3には、ピストンをシリンダ内に摺嵌して、切換弁で液
圧を切り換えてピストンを往復動させる液圧式さく岩機において、切換弁をシリン
ダの外周部に設けるという技術事項が記載されている。」(審決謄本10頁17行
目~20行目)と認定した上で、「刊行物1記載の空気圧を利用するさく岩機と刊
行物3記載の液圧を利用するさく岩機は、流体圧を利用するさく岩機である点で共
通しており、しかも刊行物1記載の発明に刊行物3記載の上記技術事項を適用する
ことを阻害する要因があるとも認められないから、刊行物1記載の発明に刊行物3
記載の、切換弁をシリンダの外周部に設けるという技術事項を適用し、特に第2の
シリンダに設けられるバルブを、第2のシリンダの外周に設けられるようにするこ
とは、当業者が容易になし得たことと認める。」(同10頁20行目~27行目)
と判断したが、誤りである。
  (2) すなわち、この判断は、油圧と空気圧との性質の差を無視するものであ
る。空気圧は被圧縮性を有するため、バルブからピストン背面に至る経路が屈曲し
ていると、そこで大きなエネルギーロスが生じ、所望の強力な打撃は得られなくな
るところから、従来の空気圧式打撃装置の大半は、バルブがシリンダと同軸上に設
けられ、刊行物発明1のバルブをシリンダ外周部に移設することには阻害要因があ
る。ところが、訂正発明は、油圧式であるため、バルブからピストン背面に至る経
路が屈曲していても、そのままの圧力を伝えることができ、相違点3に係る構成を
採用することができる。しかも、そのような構成を採用することにより、訂正発明
は、逆向き打撃装置の全長を短くすることができるという利点がある。逆向き打撃
装置は、シャンクロッドのカラーよりも前側に位置していて、さく孔対象物に臨ん
でいるので、逆向き打撃装置の長さを極力短くするのが望ましい。訂正発明は、こ
の要請から、逆向き打撃装置のバルブをシリンダの外周部に設ける構造を採用した
のである。以上のとおり、逆向き打撃装置を備えた油圧式さく岩機において、逆向
き打撃装置のバルブをシリンダの外周部に設けるという事項は、特別の目的と効果
を有するのであり、バルブをピストンと同軸に設ける技術と二者択一的に選択され
るものではない。
  (3) 被告は、昭和59年9月1日発行の日本トンネル技術協会誌「トンネルと
地下」第15巻第9号57~63頁(審判甲第2号証、本訴甲第4号証、以下「協
会誌」という。)に、バルブがシリンダ外周に設けられた液圧式の打撃装置が示さ
れているとし、仮に、バルブをシリンダ外周に設けることが特に油圧式の打撃装置
において効果的であるとしても、このことが刊行物発明1に協会誌記載の事項を適
用することを阻害する要因となるものではないと主張する。しかしながら、刊行物
1及び協会誌には、その記載事項を効果的に結合して訂正発明の目的を達成するた
めの動機付けがないのであるから、これらの記載内容から訂正発明が容易に想起し
得るものではない。
第4 被告の反論
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
  (1) 刊行物発明1も、正打撃用のシリンダ、ピストン及びバルブを有する本来
のさく岩機に加えて、逆向き打撃用のシリンダ、ピストン及びバルブが設けられて
いる点で、訂正発明と同一である。したがって、刊行物1記載の、正打撃用のさく
岩機と逆転衝撃装置とが結合、一体化した構成及びその機能は、訂正発明の「逆向
き打撃装置を設けたさく岩機」と本質的に何ら変わるところがない。「刊行物1記
載の逆転衝撃装置27とドリル26は、・・・支持部材117、接続ロッド12
3,124及びコネクター125を介して一体に接続されていることが認められ
る。」(審決謄本7頁22行目~24行目)との審決の認定に誤りはない。
  (2) 原告は、訂正発明では、さく岩機が油圧式であることに関連して、正打撃
装置と逆向き打撃装置との間に相対的な芯ぶれが生じないような構造が採用されて
いる旨主張するが、本件訂正に係る本件明細書(以下「訂正明細書」という。)の
特許請求の範囲には、「正打撃装置と逆向き打撃装置とが剛的に一つのさく岩機と
してキャリッジプレートに組み付けられる」という構成は記載されておらず、この
点をもって訂正発明の進歩性を基礎付けることはできない。しかも、訂正明細書及
びその図面には、さく岩機を組み付けたさく孔装置の側面図である図4に、キャリ
ッジプレートがごく簡単に小さく示されているだけであって、正打撃装置と逆向き
打撃装置とをキャリッジプレートに組み付ける構成が明確に示されているわけでは
ない。また、この構成の意義や、上記のような芯ぶれが生ずる場合の問題点、この
芯ぶれを防止するという課題及びその効果は、訂正明細書中に全く記載されていな
い。
 2 取消事由2(相違点3の判断の誤り)について
  (1) 協会誌(甲第4号証)には、バルブがシリンダ外周に設けられた液圧式の
打撃装置が示され、特開昭60-156897号公報(審判甲第15号証、本訴乙
第1号証)には、バルブがシリンダと同軸上に設けられた液圧式の打撃装置が示さ
れ、1932年5月27日付け特許公報によるドイツ国(ライヒ)特許第5511
38号明細書(審判甲第16号証、本訴乙第2号証、以下「ドイツ特許明細書」と
いう。)には、バルブがシリンダ外周に設けられた空気圧式の打撃装置が示されて
いる。したがって、この種のさく岩機において、空気圧式と液圧式を問わず、バル
ブをシリンダ同軸上とシリンダ外周のいずれに設けるかは、従来から当業者が適宜
選択する設計的事項にすぎない。
  (2) また、仮に、バルブをシリンダ外周に設けることが特に油圧式の打撃装置
において効果的であるとしても、このことは、刊行物発明1に協会誌記載の事項を
適用することの阻害要因となるものではない。すなわち、刊行物発明1において空
気圧を油圧とすることは、当業者が容易に想到し得る事項であり、協会誌には、液
圧式の打撃装置において、バルブをシリンダ外周に設けることが記載されているの
であるから、これらの事項を刊行物発明1に適用して、この装置を油圧式とすると
ともにバルブをシリンダ外周に設けることに格別の困難はない。
  (3) 原告は、訂正発明は逆向き打撃装置の全長を短くすることができるという
利点がある旨主張するが、この点は訂正明細書に全く記載されておらず、訂正明細
書及びその図面の記載を見る限り、従来技術から予測し得ない特別の目的をもって
バルブの配置を設定したとは認められない。また、仮に、原告主張のような目的、
効果が当業者にとって当然に想到し得る程度のことであるならば、刊行物発明1を
油圧式に変更するに当たっても、このような目的、効果を満足すべくバルブをシリ
ンダ外周に配置することは、当然に想到し得ることとなる。したがって、このよう
な点で訂正発明が進歩性を有するということはできない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
  (1) 原告は、訂正発明が、正打撃装置及び逆向き打撃装置を一つの油圧式さく
岩機として構成し、剛的に一つのキャリッジプレートに組み付けたものであるのに
対し、刊行物発明1は、逆向き打撃装置と正打撃装置とを剛的に結合したものでは
ないと主張するので、この点について判断する。
  (2) 訂正明細書(甲第8号証)の特許請求の範囲には、原告主張の正打撃装置
に当たる「シャンクロッド後端部を前向きに打撃」する構成が記載されているが、
この正打撃装置と逆向き打撃装置が剛的に結合されているという構成は、特許請求
の範囲に記載がない。
    また、訂正明細書(甲第8号証)の実施例には、以下の記載がある。
   ア 「【0009】・・・さく岩機1の本体11は複数の筒体を継ぎ合わせ
て構成されている。第1の筒体11aは正打装置10のシリンダを構成するもの
で、そのシリンダ空所内にシリンダライナ-14が嵌装され、その内部に正打用ピ
ストン15が前後に摺動自在に保持されている。この部分の構造は公知のものであ
る。」(3頁16行目~21行目)
   イ 「【0019】さく岩機1の前部には、シャンクロッド32に後ろ向き
の打撃を与える逆向き打撃装置60が設けられている。・・・シリンダ61の内部
には、中空の逆打用ピストン65が設けられている。シャンクロッド32は、この
逆打用ピストン65の内部に嵌合している。」(5頁24行目~6頁2行目)
    これらの記載によれば、訂正発明のさく岩機は、複数の筒体を継ぎ合わせ
て構成し、前部に逆向き打撃装置、後部に正打撃装置が配されているものの、これ
らの結合が剛的であるとは認められない。
  (3) 一方、刊行物1(甲第3号証)には、以下の記載がある。
   ア 「本発明の第五の目的はタップ穴の穴あけが完了した後で上記のドリ
ル・スチール上に逆転の衝撃力を分与することによって出来る限り迅速にドリル・
スチールを引き抜くことである。」(2欄4行目~7行目、訳文2頁18行目~2
0行目)
   イ 「逆転衝撃装置27を備えた削岩機26は同じ軸上に位置決めされ
る。」(2欄52行目~53行目、訳文3頁16行目~17行目)
   ウ 「逆転衝撃装置27とドリル26のための両方の支持する部材117
は、コネクター125の手段によって上記の支持する部材117の側面上に固定さ
れている接続ロッド123と124に取り付けることによって一体で、或いは、個
別的に接続できるよう構成されている。」(4欄52行目~56行目、訳文6頁1
7行目~19行目)
   エ 「ピストン131の後部側端部はヘッド132のところでベアリング1
38によってスライド可能に支持されているシャンクロッド136のカラー137
にぶつかるように構成されている。」(5欄7行目~10行目、訳文7頁5行目~
7行目)
   オ 「シャンクロッド136の後部側端部はピストン158によって打たれ
る。」(5欄35行目~36行目、訳文7頁23行目~24行目)
  (4) これらの記載によれば、刊行物発明1の「ピストン158」及び「ピスト
ン131」がそれぞれ訂正発明の「打撃用のピストン」及び「逆打ピストン」に、
刊行物発明1の「逆転衝撃装置27」が訂正発明の「逆向き打撃装置」に、刊行物
発明1の「削岩機26」又は「ドリル26」が原告主張の「正打撃装置」にそれぞ
れ相当すると認められる。そして、刊行物発明1においては、「削岩機26」と
「逆転衝撃装置27」は、別物ではあるが、同軸上に位置決めされた上、「コネク
ター125」によって相互に取り付けられるのであって、その取り付けられた状態
では、前部に逆向き打撃装置、後部に正打撃装置を配した訂正発明のさく岩機と異
なるところはないから、「刊行物1に『前後に移動する打撃用のピストン158
と、・・・ピストン158を前進させてシャンクロッド後端部を前向きに打撃し、
該打撃力により穿孔を行うさく岩機において、・・・前記シャンクロッド136の
カラー137前面を後ろ向きに打撃する環状ピストン131とを有する逆転衝撃装
置27を設けたさく岩機』が記載されていると認める。」(審決謄本6頁28行目
~37行目)とし、訂正発明と刊行物発明1とが「逆向き打撃装置を設けたさく岩
機」である点で一致すると認定した審決の認定(同9頁10行目~11行目)に誤
りはない。
  (5) 原告は、訂正発明のような、前向きの打撃を与える正打撃装置と逆向き打
撃装置とを備えた油圧式さく岩機では、ガイドセルとキャリッジプレートとの間の
がたつきがあっても、正打撃装置と逆向き打撃装置との芯がぶれないようにしなけ
ればならないため、訂正発明は、正打撃装置及び逆向き打撃装置を一つの油圧式さ
く岩機として構成し、剛的に一つのキャリッジプレートに組み付けたものであると
主張するが、訂正明細書(甲第8号証)には、「【0008】・・・さく岩機1は
このチェ-ンに取り付けたキャリッジプレ-ト8に取り付けられている。」(3頁
9行目~15行目)との記載があり、この記載によれば、キャリッジプレ-トは、
さく岩機の構成部分ではなく、一つのキャリッジプレ-トに組み付けることは、訂
正発明の構成とは関係がない。原告の上記主張は、さく岩機をキャリッジプレート
に組み付けた「さく孔装置」の構成についてのものであって、さく岩機である訂正
発明には妥当しない。
  (6) 以上のとおり、取消事由1に係る原告の主張は、理由がない。
 2 取消事由2(相違点3の判断の誤り)について
  (1) 原告は、刊行物発明1は空気圧式のものであって、エネルギーロスを小さ
くするためバルブがシリンダと同軸上に設けられおり、このような空気圧式のさく
岩機において、バルブをシリンダの外周部に設けることは困難である旨主張する。
    しかしながら、ドイツ特許明細書(乙第2号証)には、「この発明は、空
気圧式打撃装置の制御に関するものである。」(1頁左欄1行目~2行目、訳文2
行目)、「シリンダー3には制御ケースが備えられており、その制御ケースに
は・・・制御体13が配置されている。・・・制御体13は・・・ピストン室に密
接にそして平行に隣接して設けられている。」(2頁左欄12行目~20行目、訳
文4行目~8行目)との記載があり、図1及び図2には、制御体13がシリンダの
外周部に設けられたものが図示されている。ドイツ特許明細書(乙第2号証)記載
の「空気圧式打撃装置」及び「制御体13」は、それぞれ「空気圧式さく岩機」及
び「バルブ」と称し得るものであるから、同明細書には、空気圧式のさく岩機にお
いて、バルブをシリンダの外周部に設ける構成が記載されていることが明らかであ
る。
    他方、刊行物3(甲第9号証)には、「シリンダ外に中空のバルブフラン
ジを設け、該バルブフランジ内にバルブプラグを嵌着してバルブプラグ外周とバル
ブフランジ内周との間に円筒状の切換弁を摺嵌する弁室を形成し」(1頁左下欄9
行目~12行目)、「この発明は、さく岩機やブレーカ等の液圧式打撃装置の切換
弁機構に関し」(1頁右下欄2行目~3行目)との記載があり、これらの記載及び
第1図(4頁)によれば、液圧式さく岩機において、「切換弁」すなわち「バル
ブ」がシリンダの外周部に設けられているものと認められる。
    ドイツ特許明細書(乙第2号証)及び刊行物3(甲第9号証)の上記記載
を総合すれば、これらのバルブは、いずれも逆向き打撃装置用のバルブではない
が、バルブが正打撃装置用か逆向き打撃装置用かによって、その配置位置に何らか
の制約が加わる理由もうかがわれない以上、バルブをシリンダの外周部に設ける技
術は、さく岩機が空気圧式と液圧式のいずれであっても適用可能な周知の技術であ
ると認められる。
  (2) そうすると、「刊行物3には、ピストンをシリンダ内に摺嵌して、切換弁
で液圧を切り換えてピストンを往復動させる液圧式さく岩機において、切換弁をシ
リンダの外周部に設けるという技術事項が記載されている。」(審決謄本10頁1
7行目~20行目)、「刊行物1記載の空気圧を利用するさく岩機と刊行物3記載
の液圧を利用するさく岩機は、流体圧を利用するさく岩機である点で共通してお
り、しかも刊行物1記載の発明に刊行物3記載の上記技術事項を適用することを阻
害する要因があるとも認められないから、刊行物1記載の発明に刊行物3記載の、
切換弁をシリンダの外周部に設けるという技術事項を適用し、特に第2のシリンダ
に設けられるバルブを、第2のシリンダの外周に設けられるようにすることは、当
業者が容易になし得たことと認める。」(同10頁20行目~27行目)との認定
に基づいて、「刊行物1記載の発明に刊行物3記載の、切換弁をシリンダの外周部
に設けるという技術事項を適用し、特に第2のシリンダに設けられるバルブを、第
2のシリンダの外周に設けられるようにすることは、当業者が容易になし得たこと
と認める。」(同10頁23行目~27行目)とする審決の判断に誤りはない。
  (3) また、審決は、「シリンダと第2のシリンダに供給される流体圧が、訂正
発明では、油圧であるのに対し、刊行物1記載の発明では、空気圧である点。」
(審決謄本9頁13行目~14行目)を両発明の相違点1とし、「刊行物1記載の
発明に・・・油圧によりさく岩機のピストンを作動させるという技術事項を適用
し、訂正発明のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。」(同
9頁35行目~38行目)と判断しており、これらの認定判断が誤りであることを
うかがわせる証拠もない。そうすると、原告主張のように、空気圧式のさく岩機に
おいて、バルブをシリンダの外周部に設けることが困難であるとしても、空気圧式
のさく岩機に油圧式に係る技術事項を適用することが当業者にとって容易に想到し
得るものである以上、油圧式に係る技術事項を適用する際に、バルブ位置として油
圧式に多く採用されているシリンダ外周部を採用することも、当業者にとって容易
に想到し得る事項ということができる。刊行物発明1に刊行物3記載のバルブ位置
を採用することは、この点からみても容易というべきである。
  (4) さらに、原告は、逆向き打撃装置の全長をその分だけ短くすることができ
る旨主張するが、このような作用効果は、訂正明細書に記載がないから、訂正発明
の作用効果と認めることはできず、また、このような作用効果は、当業者にとっ
て、相違点3に係る訂正発明の構成を採用することにより容易に予測し得る効果に
すぎない。
 3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、他に審決を
取り消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用
の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判
決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官   篠   原   勝   美
            裁判官   石   原   直   樹
            裁判官   長   沢   幸   男

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
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職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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