弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 本件訴え中、被告A、被告B、被告C、被告D及び被告Eに対する訴え並びに
被告F、被告G、被告H、被告I、被告J及び被告Kに対する別紙請求金額一覧表
のイ欄記載の各金員及びこれに対する同表起算日欄記載の日から支払済みに至るま
で年五分の割合による金員の支払請求にかかる訴えをいずれも却下する。
二 被告Jは、名古屋港管理組合に対し、金六〇万円及びこれに対する平成七年四
月二九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
三 被告Kは、名古屋港管理組合に対し、金四三万五〇〇〇円及びこれに対する平
成七年四月二九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせ
よ。
四 原告らの被告F、被告G、被告H、被告I、被告J及び被告Kに対するその余
の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、被告A、被告F、被告B、被告G、被告H、被告C、被告I、被
告D及び被告Eに生じたものについては、原告らの負担とし、被告Jに生じたもの
についてはこれを三分し、その二を同被告の負担とし、その余を原告らの負担と
し、被告Kに生じたものについてはこれを三分し、その二を同被告の負担とし、そ
の余を原告らの負担とし、原告らに生じたものについてはこれを二〇分し、その一
ずつを被告J及び被告Kの負担とし、その余を原告らの負担とする。
○ 事実及び理由
第一 請求
被告らは、名古屋港管理組合に対し、別紙請求金額一覧表請求金額欄記載の各金員
及びこれに対する同表起算日欄記載の日から支払済みに至るまで年五分の割合によ
る金員を支払え。
第二 事案の概要
愛知県及び名古屋市の特別地方公共団体で一部事務組合である名古屋港管理組合に
おいては、平成五年七月まで同組合議会議員の報酬に関する条例が存在しなかっ
た。他方、右議員に対する費用弁償は、毎年、その職位に応じ、一律定額に支給さ
れていた。
本件は、愛知県の住民である原告らが、平成三年四月七日から平成五年三月までの
間に右組合議会議員に対し支給された費用弁償は、費用弁償の性質に反し、かつ、
支給手続に反するものであるから不正な支給であったなどとして、地方自治法二四
二条の二第一項四号に基づき、右期間、同組合の管理者、議会事務局長、出納長又
は副出納長であった者に対し、不法行為に基づく損害賠償を、同組合の議会議長又
は議会副議長であった者に対し、不法行為に基づく損害賠償又は不法利得返還を請
求した住民訴訟である。
第三 争いのない事実等
一 当事者
1 原告らは、いずれも愛知県の住民である。
2 (一)名古屋港管理組合(以下「名港組合」という。)は、昭和二六年九月八
日に、名古屋港の開発発展と利用の促進を図り、管理運営を確立し、もって国際的
重要港湾となすことを目的に、愛知県及び名古屋市により設置された、地方自治法
(以下「法」という。)二八四条二項に規定されている特別地方公共団体たる一部
事務組合である。
(二) 名港組合の組織は、次のとおりである。
(1) 名港組合は、議決機関としての名古屋港管理組合議会(以下「議会」とい
う。)と、執行機関としての管理者及び監査委員からなっている。
(2) 議会
議会は、愛知県議会議員一五名及び名古屋市議会議員一五名の合計三〇名の議員
(以下「議員」という。)によって構成され、その任期は二年となっている。
(3) 執行機関
管理者は、愛知県知事又は名古屋市長をもって充て、二年ごとに交替する。
監査委員は、管理者が議会の同意を得て、愛知県及び名古屋市の監査委員のうちか
らそれぞれ一名、並びに議会の議員のうちから一名の合計三名によって構成され、
その任期は二年である。
管理者の補助機関として、副管理者及び出納長がおかれており、それらは、愛知県
知事及び名古屋市長の推薦する者につき、管理者が議会の同意を得て選任し、その
任期は四年である。
なお、各機関には事務部局又は事務局が置かれており、その詳細は、別紙名古屋港
管理組合機構図のとおりである。
(三) 被告らは、平成三年四月一日から平成五年三月三一日までの間、次のとお
り、名港組合の役職に就いており、その職務を行っていた。
(1) 被告A
役  職 管理者
在職期間 平成元年九月八日から平成三年九月七日まで
(2) 被告F
役  職 管理者
在職期間 平成三年九月八日から平成五年九月七日まで
(3) 被告B
役  職 議会事務局長(以下「事務局長」という。

在職期間 平成元年九月八日から平成四年三月三一日まで
(4) 被告G
役  職 事務局長
在職期間 平成四年四月一日から平成六年三月三一日まで
(5) 被告H
役  職 出納長
在職期間 平成三年四月一日から平成六年七月六日まで
(6) 被告C
役  職 副出納長
在職期間 平成二年四月一日から平成四年三月三一日まで
(7) 被告I
役  職 副出納長
在職期間 平成四年四月一日から平成九年三月三一日まで
(8) 被告D
役  職 議会議長(以下「議長」という。)
在職期間 平成三年六月三日から平成四年五月一八日まで
(9) 被告J
役  職 議長
在職期間 平成四年六月三日から平成五年五月一四日まで
(10) 被告E
役  職 議会副議長(以下「副議長」という。)
在職期間 平成三年六月三日から平成四年五月二一日まで
(11) 被告K
役  職 副議長
在職期間 平成四年六月三日から平成五年五月一五日まで
二 1 名港組合においては、法二九二条、二〇三条三項、五項の規定を受けて、
「議員の費用弁償に関する条例」(昭和三二年一一月一日条例第一一号。以下「旧
条例」という。)を制定しており、その第一条、二条は次のように規定している。
第一条 名古屋港管理組合議会の議員が招集に応じ、若しくは委員会等に出席した
とき、又は公務のため旅行したときは、その旅行について費用弁償として旅費を支
給する。
第二条 前条の規定により支給する旅費の額は、旅費条例(昭和二七年名古屋港管
理組合条例第六号)の規定による特別職員に支給する額により同条例を準用して支
給する。
2 県内の旅行については、前項の規定にかかわらず、別に定める額を日額で支給
することができる。
2 名港組合では、平成三年四月一日以降、旧条例二条二項により、議員の県内旅
行の旅費を日額金一万五〇〇〇円としていた。
3 なお、旧条例は、平成五年七月一二日、
報酬規定を盛り込んだ「名古屋港管理組合議会の議員等の報酬及び費用弁償に関す
る条例」(平成五年名古屋港管理組合条例第四号。以下「新条例」という。)が公
布・施行された(ただし報酬に関する一条ないし三条は、同年六月一日から適用)
ことに伴い、廃止された。
三 名港組合においては、長年にわたり、議員に対し、年間に費用弁償として、あ
らかじめ次のとおり定められた日数分の日額旅費を一律定額支給してきた。
(1) 議     長    六〇日分
(2) 副  議  長    五〇日分
(3) 一 般 議 員    三五日分
四 名港組合において、議員に対する費用弁償としての日額旅費の支給の事務手続
は、次のようにして行われていた。
1 名港組合において、予算配当権は、管理者から総務部長に委任されており(法
二九二条、一五三条一項)、総務部長は、事務局長に対し、費用弁償に関する予算
配当を行う(名古屋港管理組合財務規則(昭和三九年三月三一日規則第七号。以下
「財務規則」という。)二一条)。
2 他方、事務局長は、管理者から、(一)予算配当額の範囲内における支出負担
行為に関する事務、(二)支出命令に関する事務の委任を受けている(法二九二
条、一五三条一項、財務規則二八条の二)。
そして、議会事務局において、右事務については、名古屋港管理組合事務部局の予
算主管課長に対応する議会事務局議事課長(以下「議事課長」という。)の専決事
項とされている(名古屋港管理組合議会事務局に関する規程(昭和三七年四月一日
全部改正。以下「事務局規程」という。)二条及び七条並びに名古屋港管理組合事
務決済規程(昭和四〇年三月二七日訓令第七号。以下「決済規程」という。)四条
別表第一課長専決事項欄一四及び一五)。
3 ところで、費用弁償は、地方自治法施行令一六一条一項四号の「その他の給
付」に当たるため、同号、財務規則五七条一項により、その資金は議会事務局議事
課庶務係長に前渡しで支出されている。
そして、資金前渡についての支出負担行為は、議事課長の作成する支出命令書によ
ってなされる(財務規則四七条一号)。
4 したがって、費用弁償の支出負担行為及び支出命令(以下「支出命令等」とい
う。)について専決権限を有している議事課長は、費用弁償の支出命令書を作成
(実務的には資金前渡請求書を兼ねたものであった。)し、
これを出納長に発していた(財務規則五〇条一項)。
5 出納長は、右支出命令を審査する権限を有しているが(財務規則二八条)、費
用弁償に関する支出命令の審査は、副出納長が代決(決済規程二条三号)により行
っていた。
6 費用弁償の議員に対する支出は、副出納長の代決による審査を経た後、議事課
庶務係長が資金前渡を受けた資金から行っていた。
五 名港組合は、平成四年七月二二日から平成五年三月三一日までの間に、議員に
対し、前記四記載の手続により、別紙議員費用弁償支給実績表記載のとおり費用弁
償として旅費を支給した(乙二六と二七の各一ないし八)。
六 1原告らは、平成五年七月二二日、平成三年四月七日から請求日までに議員に
対し支給された費用弁償について、「管理者、副管理者、出納長、総務部長及び会
計課長ら」を対象職員として、名古屋港管理組合監査委員に対し、必要な措置を講
ずべきことを請求した(以下「本件監査請求」という。)。
2 これに対し、同監査委員は、平成五年九月一七日付けで、原告らに対し、「費
用弁償は条例に基づいて支給されており、違法若しくは不当な公金の支出とはいえ
ず、全体としてみれば、組合に損害はなかったと認められるので、措置を講ずる必
要はない」との通知をした。
七 そこで、原告らは、平成五年一〇月一五日、本訴を提起し、名港組合に代位し
て、平成三年四月七日から平成五年三月までに議員に対し支給された費用弁償(以
下「本件費用弁償」という。)は違法であることを理由に、被告らに対し、不法行
為に基づく損害賠償金とこれに対する不法行為の結果発生後である訴状送達の日の
翌日から支払済みに至るまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金を名港組合
に支払うことを求めるとともに、平成七年四月二八日の本件第七回口頭弁論期日に
おいて、追加的訴えの変更を申し立て、被告D、被告J、被告E及び被告Kに対
し、同額の不当利得金と遅延損害金の支払いを求めた。
第四 争点
一 本案前の争点
1 監査請求前置主義違反(対象の同一性)
原告らは、監査請求の趣旨に明示していなかった者を、本訴の被告とすることがで
きるか否か。
2 監査請求前置主義違反(監査請求期間)
原告らは、本件費用弁償の財務会計行為のうち、監査請求がなされたときよりも一
年を超えて前になされたものを、本訴の対象とすることができるか。
3 出訴期間違反
原告らは、本件監査請求に対する結果の通知がなされてから三〇日以上経過して
も、議員に対する不当利得返還請求の追加的訴えの変更をすることができるか。
二 本案に関する争点
1 費用弁償の違法性
2 損害の有無
3 責任の有無
第五 争点に対する当事者の主張
一 監査請求前置主義違反(対象の同一性)
(被告ら及び参加人の主張)
原告らが、被告らに対し、法二四二条の二第一項四号に基づき、訴えを提起する場
合には、法二四二条の二第一項、二四二条により、住民監査請求をした後でなけれ
ばならないことは明らかである。そして、住民監査請求は、その条文の文言からし
て、個々の「地方公共団体の長」又は「職員」の具体的な行為を対象とするもので
ある。したがって、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づく訴えの相手方も、
住民監査請求の対象となった具体的行為の主体である「長」又は「職員」でなけれ
ばならない。
ところが、原告らの住民監査請求は、被告A、被告B、被告G、被告D、被告J、
被告E、被告Kの行為を対象とはしておらず、監査請求前置の要件を欠くことか
ら、右被告らに対する訴えは不適法である。
(原告らの主張)
1 被告D、被告J、被告E、被告Kは、本件費用弁償を支出する側ではなく、こ
れを受け取る側であるので、そもそも住民監査請求をする相手方ではない。
2 また、原告らは、所定の期間における定額一律支出が違法若しくは不当な公金
支出であるとして監査請求しているのであり、所定の期間における定額一律支出に
関わった者のうち、これに関する権限を委譲し委譲されたすべての者につき監査請
求しているのである。すなわち、原告らの監査請求における、管理者(愛知県知
事)、副管理者(専任・愛知県副知事、名古屋市助役)、出納長(愛知県出納長)
の括弧内は例示にすぎず、「管理者・・・・会計課長ら」の「ら」の意味は、「そ
の他関係職員すべて」と同旨であることは明らかである。
したがって、たまたま被告A、被告B、被告Gが例示されていないからといって監
査請求が前置されていないとはいえない。
二 監査請求前置主義違反(監査請求期間)について
(被告ら及び参加人の主張)
原告らは、平成五年七月二二日に、平成三年四月七日から請求日までに支出された
費用弁償について監査請求をしているところ、
平成三年四月七日から同四年七月二一日までに支出された費用弁償については、監
査請求の日から遡って、一年を超えたものである。
そして、名港組合においては、平成三年度も平成四年度も予算・決算の手続につい
て、議会・議員・住民に対し秘密裡にすることはなく、各手続段階においても、説
明、公表がなされているものである。また、右各手続に関係する書類は、名港組合
の情報センターにおいて開架されており、一般住民はこれを自由に閲覧しうるもの
である。このように、本件支出行為については、秘密裡に行われた事情は、一切な
いのである。
したがって、本件監査請求のうち、請求日よりも一年を超えて前に支出がなされた
ものを対象とする部分は、「正当な理由」(法二四二条二項ただし書)もなく、監
査請求の対象とならない。
以上より、原告らの本件訴えのうち、平成四年七月二一日以前の費用弁償の支出を
対象としている部分については、監査請求前置の要件を欠くので、不適法であり、
却下されるべきである。
(原告らの主張)
法二四二条二項の「当該行為」が秘密裡にされた場合、同項ただし書にいう「正当
な理由」の有無は、特段の事情のない限り、普通地方公共団体の住民が相当の注意
力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか、ま
た、当該行為を知ることができたと解されるときから相当な期間内に監査請求をし
たかどうかによって判断すべきものと言わなければならない。
原告らは、名港組合がいわゆるカラ支給を行っているなどと夢にも思っていなかっ
たのであるから、原告ら住民に同組合が不正な予算・決算をやっていると常に疑い
をもって右予算・決算の審議を傍聴し、この審議結果を入手することを期待するこ
とはあまりにも酷である。しかも、仮に右予算・決算の審議を傍聴しこの審議結果
を入手したとしても、議員の費用弁償に関する支出の内容明細を把握することはで
きず、ましてや、実体を伴わない費用弁償がなされているなどということを知るこ
とは不可能である。
したがって、本件費用弁償が違法になされたことは、秘密裡になされたものと同視
することができ、住民が相当の注意力をもって調査したとしても、これを知ること
は到底不可能である。
原告らは、平成五年六月一六日付け中日新聞で、初めてカラ支給なるものを知り、
合理的かつ相当な期間内である同年七月二二日に本件監査請求をなしているのであ
るから、これが一年を経過したことに正当な理由があったことは明らかである。
三 出訴期間について
(被告ら及び参加人の主張)
本訴において、被告D、被告J、被告E、被告Kに対する不当利得返還の請求が追
加されたのは、原告の平成七年四月二八日付第四準備書面においてであり、その時
点では本件監査結果の通知がなされてから三〇日以上が経過している。
よって、右被告らに対する不当利得返還請求の訴えは、出訴期間(法二四二条の二
第二項一号)を経過した後になされているので、不適法であり、却下されるべきで
ある。
(原告らの主張)
本件における議員に対する不法行為に基づく損害賠償の請求は、費用弁償を受けた
ことが不法行為に当たり、それによって名港組合に対し費用弁償額相当の損害を与
えたとして、同額の損害賠償を求めるものであるが、追加された訴えも同様に、法
律上の原因なく当該費用弁償を受けたことにより、費用弁償額相当の利得をすると
ともに、名港組合に対し同額の損害を与えたとして同額の不当利得の返還を求める
ものであって、両請求は、請求の基礎が同一であるのみならず、いわゆる請求権競
合の関係にあり、実質的には同一の請求である。
そうすると、既に不法行為に基づく損害賠償の請求につき住民訴訟が提起されてい
る以上、右のような関係にある不当利得返還の請求については、出訴期間との関係
では不法行為に基づく損害賠償の請求につき訴えの提起がなされたときに訴えの提
起があったものとみるのが相当である。
したがって、不法行為に基づく損害賠償の請求につき出訴期間内に訴えの提起がな
されている本件においては、追加された不当利得返還請求の訴えも、出訴期間を遵
守しているものとして取り扱うべきことになる。
四 本件費用弁償の違法性について
(原告らの主張)
1 議員に支給できるのは、法二九二条、二〇三条一項、三項及び四項により、報
酬、費用弁償及び期末手当に限られるところ、実際の執務の有無、多少に一切関係
なく、毎月又は毎年ランク分けした一定の額を支給するという方法は、費用弁償の
性格に反するもので(旧条例一条)、実質において報酬であると解さざるを得な
い。
ところで、報酬について、法二〇三条一項は、「普通地方公共団体は、その議会の
議員・・・・に対し、報酬を支給しなければならない」と規定しているが、同条五
項は、「報酬・・・・の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければなら
ない。」と定め、法二〇四条の二は、「普通地方公共団体は、いかなる給与その他
の給付も法律又はこれに基く条例に基かずには、これを第二〇三条第一項の職員及
び前条第一項の職員に支給することができない」と定めて、給与その他の給付の支
給は、すべて法律又は法律に基づく条例に根拠をもたなければならないことを明ら
かにしている。そして、このことば名港組合も同様である(法二九二条)から、議
員は、名港組合が報酬について条例で定めることにより、初めて、報酬の支払いを
求めることができるのである。
2 また、議員に対する旅費の支給方法について、旧条例は、旅費条例(昭和二七
年七月一日条例第六号。以下「旅費条例」という。)の規定による特別職員に対す
る支給方法を準用しているが(旧条例二条一項)、旅費条例において、特別職員に
対する支給方法は、あらかじめ旅行命令を受けた上で行った旅行でなければ、県内
旅行の場合であっても、旅費の支給を受けることはできないことになっている。
したがって、議員にあっては、費用弁償として旅費の支給を受けるためには、公務
上の必要性の判断と予算上の支出可能性の判断とを経るため、議長の旅行命令が不
可欠である。
3 しかしながら、本件費用弁償は、旅行命令もなく、また特定の旅行を対象とし
ないで、さらに議員の申告等により旅行の事実を事前又は事後に確認することもな
く、あらかじめ定められた支給日数により、一律に定額の支給をしたものである。
したがって、本件費用弁償のうち、議会へ出席する費用弁償として支給されたと認
められるものはともかくとして、それ以外のものは、旅行命令が存在しないにもか
かわらず支給されていること、特定の旅行に対する費用弁償(実費弁償)として支
給されていないこと、以上の二点において、旧条例二条一項、旅費条例に明らかに
反しており、違法な公金支出である。
(被告ら及び参加人の主張)
1 名港組合においては、平成五年三月まで、費用弁償の定額化という方法で、議
員らに対する報酬不支給の事態に対処してきたが、これはあくまでも費用弁償の支
給であり、旧条例を根拠としてなされた支出であるから、条例に基づかない支出で
はない。
役務の対価としての報酬と職務遂行のための費用弁償とは、その性格を異にするも
のであるが、両者は個別的には厳格に区分し難いところもあり、議員活動に係る費
用を報酬あるいは費用弁償としてどの程度支弁するかは、議員活動の内容、他の類
似団体との均衡等を考慮して議会が決定すべきことである。なお、国会議員の歳
費、旅費及び手当等に関する法律九条により、国会議員に対して、文書通信交通滞
在費について、月額一〇〇万円が一律支給されていることからすれば、名港組合に
おける一律支給の費用弁償が、制度として違法であったとはいえない。
したがって、報酬条例が制定されていないという変則的な状況下において、名港組
合が前記の方法により費用弁償を支給してきたことは、厳格にみれば不当の謗りを
免れないかもしれないが、違法とまではいえない。
2 また、費用弁償支給の手続において、旅行命令がなかったことは事実である。
しかし、それは、議員について任命権者が観念できず、また議長と議員とは対等の
立場であり、議長が議員に命令をする関係にないので、結局、議員に対しては、旅
行命令権者は存在しないからである。したがって、旅行命令が存しなかった点も違
法ではない。
3 議会は、費用弁償の一律定額支出に対する疑問が提起されたことを契機とし
て、可及的速やかに報酬規定を含も新条例を制定し、これにより従来のやり方が改
められるとともに、新条例では、一律定額支出の費用弁償を行ってきた時期と新条
例による報酬支出開始時期が重複しないようにして名港組合に実害が発生しないよ
うな対処がなされている。
そうすると、原告らの指摘する問題点は、これが仮に違法と評価されるにしても、
その違法は形式的な違法にとどまり、これに対しては名港組合が、行政として執り
うる限りにおいて誠実かつ速やかに対応し、議会の協力を得て従来の手続を改善
し、かつ、その前後を通じて名港組合に実損害を発生させることのないよう誠実な
対処がなされていることを考慮すると、その違法性は現在では治癒されたと考える
のが妥当である。
4 仮に、議員らに対する定額支給が適法であるとの主張が認められないとして
も、議員は別紙議会活動一覧表記載のとおりの活動をしているので、少なくともそ
の分については、費用弁償の支給対象となる。
五 損害の有無
(被告ら及び参加人の主張)
名港組合は、法二九二条、二〇三条一項により、議員に対して、報酬を支給しなけ
ればならない義務を負っているが、新条例制定前は、報酬支給に関する規定がな
く、報酬が支払われていなかったのである。
そこで、名港組合においては、従来、実際の運用として、旧条例による費用弁償の
定額化という方法で、議員らに対する報酬不支給の事態に対処してきたのである。
ところで、このような名港組合の実際の運用は、費用弁償の支給であり報酬ではな
いので、形式的には、議員らは、さらに報酬請求権を有していることになるが、現
実に議員らからさらに報酬の支給を求められることはなかった。
このことは、名港組合の従来の費用弁償の定額支給の方法は、議員らの報酬請求権
の不行使と対価関係にあり、議員らの報酬請求権の放棄という法律効果を伴ってい
たことを意味する。
他方、平成三年度及び平成四年度の名港組合議会開催日は、各六日であるから、こ
の分の定額支給分に限ってこれを各年度の費用弁償支給額から控除したとしても、
控除後の残額は、新条例に定める報酬額と同額か又はこれを下回っていろ。即ち、
従前参加人から議員に支給されていた金額は、新条例適用後の報酬・費用弁償の合
計額を超えることはなかったのである。
以上のことからすると、結局、実質的にみて、名港組合の従来の方法が、名港組合
に損害を発生させたとはいえないこととなる。
さらに、名港組合の運用により、平成五年四月以降、費用弁償の一律定額支給は停
止されていたところ、新条例では、従来の費用弁償の定額支給については見直し規
定はおかれなかったものの、報酬の支給についても平成五年六月一日に遡って適用
させているのみで、それを超えて過去の報酬の支給については何らの措置も執られ
なかったのである。その結果、議員は、右過去の報酬請求権を放棄することとな
り、費用弁償の一律定額支給と報酬が重なって支給される時期はなくなっているの
で、名港組合に実損害が発生しないことが確定したのである。
(原告らの主張)
本件費用弁償のうち、違法に支給された費用弁償については、名港組合において、
本来支給する義務のない旅費の支給をしたものであるから、それによって名港組合
に同額の損害が生じたことになる。
また、仮に、本件費用弁償の支給が実質的な報酬の支払いとしてなされたものであ
る場合でも、旧条例施行時には、報酬に関する条例がなく、議員に具体的な報酬請
求権は発生していないのであるから、名港組合は、議員に対して具体的な支払義務
のない報酬を支払ったことになり、やはり名港組合に同額の損害が生じたことにな
る。なお、議員に具体的な報酬請求権が発生していない以上、その不行使とか放棄
とかいうことはあり得ず、名港組合に実損害がないということもいえない。
六 被告らの責任について
(原告らの主張)
1 被告B、被告Gについて
右被告らは、事務局長として、本件費用弁償の支出命令等の権限を有する者であっ
たから、本件費用弁償が職務の執行に要した経費を償うために支給されておらず、
実質的な報酬として一律定額に支給されていたことを知っていたか、仮に知らなか
ったとしても重大な過失がある。
特に被告Gは、事務局長に就任した際、費用弁償について一律定額に予算が立てら
れ、決算でそのように執行されていたことを知っていたのである。
したがって、右被告らは、専決権者である議事課長が費用弁償につき違法な一律定
額支給を行うことを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は重大な過失に
より、右財務会計上の違法行為を阻止しなかったものである。
2 被告C、被告Iについて
右被告らは、名港組合において、議員に対する報酬の支払いを定めた条例がないこ
と、その代わりとして、費用弁償により一定の額の金員が実質的な報酬として議員
に支払われていることを熟知していたはずである。とすれば、個々の費用弁償の支
給を具体的に認識していなくても、かかる違法な費用弁償の支出行為を決裁するべ
きではなかった。
特に、被告Iは、支出命令等をする側の決済を盲目的に信じ、支出行為の代決を行
っていたのである。
したがって、右被告らは、故意又は重大な過失により、違法な支出行為を決裁した
ものである。
3 被告Hについて
右被告は、出納長であったのであるから、議員に対する報酬の支払いを定めた条例
がないこと、その代わりとして、費用弁償により一定の額の金員が実質的な報酬と
して議員に支払われていることを熟知していたはずである。とすれば、個々の費用
弁償の支給を具体的に認識していなくても、自ら又は副出納長をしてかかる違法な
費用弁償の支出行為を決裁し又は決裁させるべきではなかった。
右被告は、故意又は過失により、違法な支出行為を決裁し、又は副出納長に対する
指揮監督上の義務に違反して支出行為の決済を阻止しなかったものである。
4 被告A、被告Fについて
右被告らは、管理者であったのであるから、名港組合において、議員に対する報酬
の支払いを定めた条例がないこと、その代わりとして、費用弁償により一定の額の
金員が実質的な報酬として議員に支払われていることを熟知していたはずである。
とすれば、個々の費用弁償の支給を具体的に認識していなくても、議員に対する費
用弁償が一律定額に違法に支給されていることを認識していたものである。
仮に、一律定額支給の事実を認識していなかったとしても、同組合の管理者とし
て、予算の執行につき熟知すべき立場にある以上、過失があるといわざるを得な
い。
したがって、右被告らは、故意又は過失により、事務局長に対する指揮監督又は委
任の取消しを怠って、費用弁償の違法な一律定額支給をなさしめたものである。
5 被告D、被告J、被告E、被告Kについて
右被告らは、名港組合の議長又は副議長として、自ら費用弁償を受ける立場にある
以上、議員に対する報酬の支払いを定めた条例がないこと、その代わりとして、費
用弁償により一定の額の金員が報酬として議員に支払われていることを熟知してい
たはずである。
仮に、本件費用弁償が違法であるとの認識がなかったとしても過失による不法行為
責任は免れず、また仮に不法行為責任が成立しないとしても、不当利得に基づく返
還義務を負うものである。
(被告ら及び参加人の主張)
1 被告B、被告Gについて
(一) 右被告らは、本件費用弁償の支出命令等は、議事課長が専決していたので
あるから、右被告らは、議事課長が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき
指揮監督上の義務に違反し、故意又は重過失により議事課長が財務会計上の違法行
為をすることを阻止しなかったときに限り、法二四二条の二第一項四号の責任を負
うこととなる。
しかし、右被告らが事務局長であった期間に議事課長の職についていたLは、一人
の職員としてできるだけのことはしたのであるから、同人の行動に職員としての義
務違反はないと考える。
したがって、専決権者である議事課長に責任がない以上、指揮監督権者である右被
告らにも責任は生じない。
(二) 仮に、票決権者である議事課長に責任があるとしても、右被告らには、以
下に述べるように、
責任は生じない。
右被告らは、事務局長という費用弁償の方法を知る立場にあり、本件の定額支給自
体は知っていた。
しかしながら、長年にわたり議会が条例を整備しないままに、専決権者による定額
支給が行われ、予算・決算で決議・承認され、公表されても何ら問題にされること
なく、疑問が提起されたことさえなかったという実情に鑑みると、右被告らが、本
件費用弁償の支給方法に対し問題意識をもち、さらにこれが名港組合に損害を与え
るものだと意識し、専決権者に費用弁償支給を停止させるような監督措置の発動を
期待することは、事実上困難であったといえる。
また、被告Gは、平成五年三月中旬ころ、本件費用弁償につき問題意識を持ったの
であるが、同年四月からは費用弁償の支給を停止し、新条例制定に向け積極的に働
きかけ、同年七月の臨時議会で、新条例が制定・施行されたのであるから、その行
動に何ら怠慢又は落ち度があったということはできない。
したがって、右被告らには、指揮監督上の責任はない。
2 被告C、被告Iについて
右被告らが行うべき法二三二条の四第二項の確認は、原則として書類に基づく形式
審査をもって足りるものとされており、本件費用弁償についても形式審査にとどま
っていた。
そして、右被告らは、適切に形式審査を行っており、また、本件費用弁償につき、
従来何らの問題も指摘されていなかったことからすると、あえて実質審査に踏み切
らなかったからといって、右被告らに落ち度があるとはいえない。
よって、右被告らに、責任は生じない。
3 被告Hについて
前述したように、代決権者である副出納長に義務違反がないのであるから、右被告
の監督義務違反も問題にならない。
また、本件費用弁償の支給は、軽易な事項として、出納長に報告されていなかった
のであるから、出納長は、本件費用弁償の支給を知る立場になく、右被告は、実際
知らなかったのである。
したがって、右被告につき責任は生じない。
4 被告A、被告Fについて
右被告らに対しては、本件費用弁償の支給の具体的内容は報告されておらず、そも
そも本件の定額支給自体を知り得る立場になかった。
また、議員に対する費用弁償は、議事課長が専決事項として長年にわたって支出さ
れていたものであり、決算の承認の場合も問題とされたことはなく、毎年同程度の
支出がなされていたのであるから、本件費用弁償が名港組合に損害を与えるものだ
との意識をもち、これを変更することは、議員らから報酬不支給に関して問題が指
摘されない限り、実際上はなかなか困難である。
したがって、右被告らには、指揮監督上の責任はない。
5 被告D、被告J、被告E、被告Kについて
右被告らには支給に関する権限はなく、議会事務局議事課長の専決事項として長年
にわたり支出されていた費用弁償を受給しただけのことであるから、右受領行為を
して不法行為であるということはできない。
また、本件費用弁償は支出命令に基づいて支給されているところ、行政行為にはい
わゆる公定力があるから、仮に当該行政行為が違法であったとしても、取り消され
ない限りは有効である。そして、本件費用弁償にかかる支出命令はいまだ取り消さ
れておらず、また支出命令に重大かつ明白な瑕疵も存在しないので、本件費用弁償
の支給は法律上の原因がないとはいえない。
第六 争点に対する判断
一 監査請求前置主義違反(対象の同一性)について
法二四二条に基づき、既に行われた財務会計上の行為が違法又は不当であるとして
住民監査請求をする場合においては、当該財務会計行為が個別、具体的に特定され
ておれば、監査の対象は明らかであるから、当該行為を行った職員を氏名等により
特定する必要はない。
また、講ずべき措置についても、請求者が必要と思うものを記載すれば足り、考え
得るすべての措置を網羅して記載しなければならないものではない。他方、監査委
員は、請求者が求めていない措置であっても、必要と思えば講ずることができる
し、また、講ずべきなのである。
したがって、当該行為について住民監査請求を経た以上、当該職員として氏名が記
載されていない者、あるいは、講ずべき措置の相手方として氏名が記載されていな
い者に対しても、住民訴訟を提起することはできる。
以上より、被告ら及び参加人のこの点に関する主張は、採用できない。
二 監査請求前置主義違反(監査請求期間)について
原告らが本件監査請求をしたのは、平成五年七月二二日であるから、本件監査請求
のうち平成四年七月二一日以前に支出された費用弁償に係る部分については、その
財務会計行為は、同日以前に行われていることになり、法二四二条二項に規定する
一年の期間が経過して監査請求がなされたことになる。
そこで、右期間徒過につき、原告らに同項ただし書きに規定する「正当な理由」が
あるかどうかについて検討するに、証拠(乙一ないし九)と弁論の全趣旨による
と、議会の審理は公開されており、各年度の予算及び決算は、議会の議決がなされ
た後、その要領が住民に公表されていることが認められるから、右の費用弁償が秘
密裡に行われたと認めるに足りる証拠はない。
なお、証拠(同)によれば、名港組合の一般会計歳入歳出決算は当該年度の翌年度
末に議会で認定され、翌々年度の冒頭に公報に掲載されるので、住民は、公報によ
っては当該年度の費用弁償に関する財務会計行為が行われてから一年以上経過した
後にしか知り得ず、また、右公開・公表されたもののみによって、費用弁償が一律
定額で支給されていたと判明するとは認められない。しかし、それは、証拠(乙三
〇、証人L)と弁論の全趣旨によれば、名港組合で通常の事務処理が行われた結果
であったことが認められるのであって、このような場合にまで財務会計行為が秘密
裡又はそれと同視できると評価し、右事情を正当な理由を認める方向の一事情とす
ることは、監査請求期間の起算点の原則を、住民が知り得た時点ではなく、あえて
「当該行為のあった日又は終わった日」とし、早期に財務会計行為の安定化を図ろ
うとした法二四二条二項の趣旨を没却することとなり、妥当でない。
したがって、本件においては、右期間徒過につき、正当な理由があったとはいえな
い。
そうすると、本件訴え中、被告A、被告C、被告B、被告D及び被告Eに対する訴
えは、不適法ということになる。
また、本件訴え中、被告F、被告G、被告H、被告I、被告J及び被告Kに対する
各請求のうち平成四年七月二一日以前に支出された費用弁償にかかる部分にかかる
訴えも、不適法ということになる。
三 出訴期間について
本件における議員に対する損害賠償の請求は、本件費用弁償を受けたことが不法行
為に当たり、それによって名港組合に対し費用弁償額相当の損害を与えたとして、
同額の損害賠償を求めるものであるが、追加された請求も、同様に、法律上の原因
なく当該費用弁償を受けたことにより、費用弁償額相当の利得をするとともに、名
港組合に対し同額の損害を与えたとして同額の不当利得の返還を求めるものであっ
て、両請求は、請求の基礎が同一であるのみならず、いわゆる請求権競合の関係に
あり、
実質的には同一の請求である。
そうすると、既に不法行為に基づく損害賠償の請求につき住民訴訟が提起されてい
る以上、右のような関係にある不当利得返還の請求については、出訴期間との関係
では、損害賠償の請求につき訴えの提起がなされた時に訴えの提起があったものと
みるのが相当である。
したがって、損害賠償の請求につき出訴期間内に訴えの提起がなされている本件に
おいては、追加された不当利得返還請求の訴えも、出訴期間を遵守しているものと
して取り扱うべきことになる。
四 本件費用弁償(平成四年七月二二日以降に財務会計行為が行われたものに限
る。以下同じ)の違法性について
1 旧条例は、法二九二条、二〇三条五項を受けて定められたものであり、同条例
一条が、「議員が招集に応じ、若しくは委員会等に出席したとき、又は公務のため
旅行したとき」は、「その旅行」について「費用弁償として旅費を支給する」と規
定されていることから明らかなように、同条に基づく旅費は、実際に招集に応じ、
若しくは委員会等に出席し、又は公務のために旅行した場合に、当該活動に対する
費用弁償、すなわち実費弁償として、支給されるものである。
そして、旧条例二条一項は、旅費の額は、「旅費条例(昭和二七年名古屋港管理組
合条例第六号)の規定による特別職員に支給する額」とすることとし、その支給方
法は、「同条例を準用して支給する」とすることとしているから、結局、議員に対
する旅費の額及びその支給方法については、右特別職員と同様の取扱いをすべき旨
規定されていることになる。
もっとも、同条二項は、「県内の旅行については、前項の規定にかかわらず日額で
支給することができる。」と規定しているので、県内の旅行については、旅費の額
は、日額で支給することができるが(日額であっても、実費としての性質を失うも
のではない。)、その場合でも、旅費の支給方法については、右特別職員と同様の
取扱いをすべきものである。
そのことは、文言上、一項が「額及び支給方法」について規定しているのに対し、
二項が「日額で支給」として、額の定め方の例外規定になっていることから明らか
である。
2 そこで、次に、旅費条例に規定する特別職員に対する県内旅行の費用弁償の支
給方法について検討する。
旅費条例は、法二九二条、二〇四条三項に基づき、同条一項に規定する職員が公務
のため旅行する場合の旅費に関する事項を定めることを目的とする条例であるが
(同条例一条)、同条例二条の二には、「旅行は、任命権者若しくはその委任を受
けた者又は旅行依頼を行う者(以下「旅行命令権者」という。)の発する旅行命令
又は旅行依頼(以下「旅行命令等」という。)によって行われなければならない
(一項)。」「旅行命令権者は、電信、電話、郵便等の通信による連絡手段によっ
ては、公務の円滑な遂行を図ることができない場合で、且つ、予算上旅費の支出が
可能である場合に限り、旅行命令等を発することができる(二項)。」と規定され
ている。そして、特別職員の県内旅行についても、その例外は、規定されていな
い。
したがって、右特別職員は、あらかじめ旅行命令権者から旅行命令等を受けた上で
行った旅行でなければ、県内旅行の場合であっても、旅費の支給を受けることはで
きないことになっている。しかも、旅行命令権者は、旅行命令等を、公務上の必要
性があり、かつ、予算上、旅費の支出が可能である場合に限り、発することができ
るとされている。
3 右の点を前提として、職員に対する旅費の支給について見るに、議員に対して
旅費を支給するには、特別職員の例により、その旅行について、旅行命令権者が、
あらかじめ、旅行命令等を発していなければならないものである。
もっとも、議員につき、旅費条例で旅行命令権者とされている任命権者を観念する
ことはできない。
しかしながら、そうであるからといって、旅行命令等が不要になると解されるわけ
ではなく、旅費条例が任命権者を旅行命令権者とした趣旨からすれば、議会の事務
を統理し、議会を代表する立場にあり(法二九二条、一〇四条)、かつ、当該旅行
について公務上の必要性を判断し得る立場にある議長が旅行命令権者に当たると解
すべきである。
したがって、名港組合の議員が旅行をした場合に、費用弁償として旅費の支給を受
けるためには、その前提として公務上の必要性の判断と予算上の支出可能性の判断
とを経るため、当該旅行に対する議長の旅行命令等が不可欠である。
ところで、旧条例二条一項は、同条例一条に定める「議員が招集に応じ、若しくは
委員会等に出席したとき」の費用弁償としての旅費の支給方法についても、旅費条
例を準用しているので、条例上は、当該活動に対しても旅行命令権者による旅行命
令等がなければ費用弁償として旅費を支給できないこととなっている。
しかし、それらの活動は、地方自治法上規定されている議員の最も重要な職務の一
つであって、公務上必要であることは明らかであり、また、そのための予算は当然
講じられるべきものであることから、右規定により旅費が支給される場合には、明
文の規定にもかかわらず、旅行命令等を要せず、右活動に対応して支給されたもの
と認められる費用弁償は適法であると解される。
4 証拠(乙三〇、証人L)と弁論の全趣旨によると、名港組合においては、議員
について任命権者が観念できないこと、議長と議員とは対等の立場であり、議長が
議員に命令をする関係にないとして、旅行命令等の形式で命令がなされることはな
く、後記の通り、議長や管理者からの出席要請などによって、議員の行事等への出
席など費用弁償の対象となる議員活動がなされていたこと、また、県外旅行につい
ても、旅行命令等が出されることはなく、事前に提出された計画書によって、旅行
の必要性や予算上の問題などについて検討した上、問題がないと判断された旅行に
ついて議員から旅行の届出を受け、これを了承するという方法で事務処理がなされ
てきたことが認められる。そして、証拠(乙二六と二七の各一ないし八)によれ
ば、県外の旅行を除く費用の弁償については、各議員につき当該期間中に費用弁償
を要する行為が数日分あったとして、毎月費用が支給されていたが、その合計日数
は前記のとおり議長、副議長、一般議員についてそれぞれあらかじめ定められた日
数になるようにされており、各支給の都度、各議員について費用弁償の対象となる
行為を特定して行われていたものではないことが認められる。
したがって、本件費用弁償のうち、旅行命令等を要しない「議員が招集に応じ、若
しくは委員会等に出席したとき」以外は、旅行命令等が存在せず、特定の旅行に対
する費用弁償(実費弁償)として支給されたものといえない点において、旧条例二
条一項、旅費条例に明らかに反し、違法な支出であったと解される。
なお、このような旧条例における費用弁償と勤務日数に応じて給付される報酬とで
は、その性格のみならず支給方法の点でも厳格に区別しうるものであるから、議員
活動に係る費用を報酬あるいは費用弁償としてどの程度支弁するかは、議会が条例
で定めることなく自由に決定できると解することはできない。また、被告ら及び参
加人は、国会議員が文書通信交通滞在費として月額一〇〇万円受領していることか
ら本件費用弁償の相当性を主張しているが、国会議員の場合には、一律定額支給す
るとの法律があるのであって、条例の定めなく一律定額支給されてきた本件費用弁
償とは、その前提が異なるから、被告ら及び参加人の右主張は採用できない。
5 証拠(乙一五ないし二〇、四二、四三、四五、四七ないし五三、五五ないし五
九)によれば、議員は、本件費用弁償支出期間中、別紙議会活動一覧表記載のとお
りの活動を行っているものと認められる。
そこで、右活動のうち旧条例一条で定める(1)招集に応じたとき(2)委員会等
に出席したとき(3)旅行命令権者の旅行命令等に基づき公務のために旅行したと
きのいずれかに該当し、費用弁償の支給対象と認められるものがあるか否かを検討
する。
(一) 法二九二条、二〇三条三項、一項は、議員は、職務を行うため要する費用
の弁償を受けることができると規定しているが、そこにいう「職務」とは、議員が
その職務の性質上当然に行うべき活動、又は、法律上の根拠によってその職務を行
う場合を指し、職務の性質上当然に行うものではないのにもかかわらず、何ら法律
上の根拠がなくして議員がある種の活動をすることがあっても、それは同条項にい
う「職務」には該当せず、そのような活動に対して費用の弁償を受けることはでき
ないものと解される。
したがって、同条五項の規定を受けて設けられた旧条例一条で定められた費用弁償
の支給要件も、議員がその職務の性質上当然に行うべき活動、又は、法律上の根拠
によってその職務を行うことを前提としているものと解される。
(二) 証拠(乙五八、五九)によれば、別紙議会活動一覧表番号欄記載11、1
9及び20の定例会は、法二九二条、一〇二条一項で定められた定例会であり、議
会の招集権者である管理者(法二九二条、一〇一条一項)によって招集されたもの
であることが認められるから、右招集に議員が応じることは「職務」に該当し、ま
た旧条例一条の要件にも当たるものである。
したがって、右活動は、費用弁償の支給対象となる。
(三) 証拠(乙三〇、五五、五六)と弁論の全趣旨によれば、別紙議会活動一覧
表番号欄記載11、14及び17の決算特別委員会は、法二九二条、一一〇条一
項、名古屋港管理組合議会委員会条例(昭和三三年二月一〇日条例第一号)四条一
項で定められた特別委員会であり、法二九二条、一一〇条三項の要件を充たすもの
であると認められるから、右委員会に議員が出席することは「職務」に該当し、ま
た旧条例一条の要件にも当たるものである。
したがって、右活動は、費用弁償の支給対象となる。
(四) 次に、別紙議会活動一覧表番号欄記載10及び18の議員総会について検
討するが、証拠(乙五〇ないし五三)と弁論の全趣旨によれば、議員総会は、議会
開催日前に事前の打合せとして慣例的に行われているものであることが認められる
のであって、議員がその職務の性質上当然に行うべき活動ではなく、かつ、法律上
の根拠を有しないものであるから、「職務」に該当するものとは認められない。
したがって、旧条例一条のどの要件に該当するかを判断するまでもなく、右活動
は、費用弁償の支給対象となるものではない。
(五) 次に、別紙議会活動一覧表番号欄記載1ないし9、12、13、15及び
16の活動について検討するが、右活動はいずれも「公務のため旅行したとき」に
該当するか否かが問題となるところ、既に判示したとおり、これらの活動はいずれ
も議長の旅行命令等のないまま行われたことが認められる。
したがって、右活動は、費用弁償の支給対象となるものではない。
(六) 以上より、本件費用弁償のうち、別紙議会活動一覧表番号欄記載11、1
4、17、相及び20の活動に対応するものと認められる分(ただし、同表番号欄
記載11は、定例会と決算特別委員会を兼ねるものであるが、名港組合において県
内旅行の費用弁償は、日額で定められているから、重複しては計算しない。)につ
いて(合計金一九三万五〇〇〇円)は、適法な費用弁償と認められるが、それを超
えて支出された費用弁償(合計金一一七六万円)は違法なものと認められる。
6 なお、被告ら及び参加人は、新条例では一律定額支出の費用弁償を行ってきた
時期と新条例による報酬支出開始時期が重複しないようにしているから違法性は治
癒されたと主張しているが、右主張は報酬条例の存在しなかった旧条例施行時にお
いても名港組合が議員に対し報酬支払義務があることを前提としているところ、後
述するように、旧条例施行時において名港組合は議員に対し報酬支払義務を負って
いなかったのであるから、右主張はその前提を誤るものである。
したがって、被告ら及び参加人の右主張は採用できない。
五 損害の有無について
四 において判示したところによると、本件費用弁償のうち、違法に支給された費
用弁償については、名港組合において、本来支給する義務のない旅費の支給をした
ものであるから、それによって、名港組合に同額の損害(金一一七六万円相当)が
生じたことになる。
もっとも、別紙議会活動一覧表番号欄記載1ないし9、12、13、15及び16
の活動については、次のとおり、その活動が名港組合の議員としてなすべき活動も
しくは議長としてなすべき活動と評価でき、これらの活動に参加するについては管
理者もしくは議長からの要請があり、これに応じたものであることから、実質的に
みて、費用弁償の対象となる行為であるということができる。
すなわち、証拠(乙四二)によれば、同欄記載1の名港組合設立記念式典は、例年
行われているもので、管理者の要請に基づいて議長が出席したものであることが認
められる。
証拠(乙四三、四八)によれば、同欄記載2、3、12及び13は、名港組合が重
要施策である「親しまれる港づくり」のために要請し実現したサンタマリア号、海
王丸の寄港を歓迎するセレモニーとレセプションに議会を代表して議長と副議長が
出席したものであり、出席要請は管理者からなされていることが認められる。
証拠(乙四四、四五)によれば、同欄記載4は、名古屋港管理組合臨海港緑地条例
(昭和五八年名港組合条例第二号)により設置された名港組合の公の施設であるゴ
ルフ場についての視察を、議長が全議員に要請して行われたものであることが認め
られる。
証拠(乙四六、四七)と弁論の全趣旨によれば、同欄記載5ないし9は、補記「親
しまれる港づくり」の一環として、名古屋港水族館条例(平成四年名港組合条例第
六号)により設置され、平成四年一〇月二九日にオープンした公の施設である名古
屋港水族館の視察、内覧会、完成記念式典への全議員の出席及びからくり人形の除
幕式への議長の出席であり、いずれも管理者からの出席要請に基づいて議員として
の職務及び議会の代表としての立場で議長が出席したものであることが認められ
る。
証拠(乙四九)によれば、同欄記載15及び16は、議長もしくは副議長が仕事納
めと仕事始めの式へ管理者からの要請により出席したものである。
右のとおり、名港組合としては、議員らの右活動に対して本来費用弁償を行うべき
義務があったということができ、本件費用弁償について本来費用弁償すべき分を考
慮せず損害としてその分を含めて賠償を命ずるときは、本来支払うべき費用弁償の
額相当分について名港組合が支払いを免れることになり、その相当分を利得してい
ることと同様の結果になる。よって、損益相殺の法理を類推して、本来費用弁償す
べき分相当額を控除した分をもって、名港組合の損害と認めるのが相当である。
なお、名港組合は、法二九二条、二〇三条一項により、議員に対し、本来、報酬を
支払わなければならないのであるが、議員の具体的な報酬請求権は、法二九二条、
二〇三条五項に基づく条例により、報酬の額及びその支給方法が定められて初めて
生じるものであるから、本件費用弁償のなされた時期に、右のような報酬条例が存
在しなかった以上、その間については、名港組合は、各議員に対して報酬を支払う
具体的な義務を負担していなかったことになる。
したがって、名港組合が、議員に対し、本件費用弁償がなされた期間の報酬を支給
しなかったことをもって、議員が本件費用弁償がなされた期間の報酬請求権を放棄
した、又は、本件費用弁償による損害が回復されたと解することはできない。
六 被告らの責任
1 被告Gの責任について
(一) 右被告は、事務局長として、支出命令等の権限を、管理者から委任されて
いた。そして議会事務局内部で、この処理権限は、議事課長の専決事項とされてい
た。
したがって、被告Gは、議事課長が違法な支出命令等をすることを防止すべき指揮
監督上の義務に違反し、故意又は重大な過失(法二四三条の二第一項)により議事
課長が違法な支出命令等をすることを阻止しなかったときに限り、賠償責任を負う
ことになる。
なお、被告ら及び参加人は、右のような指揮監督上の責任を問うためには、専決者
に責任が生じていることが前提となると主張しているが、指揮監督者の責任が成立
するには、専決者が違法な職務を行っていれば、あとは指揮監督者自身の故意又は
重大な過失を検討すれば足り、さらに専決者の故意又は重大な過失までも前提とす
るものではないから、右主張は採用できない。そして、専決者である議事課長の行
為が違法であることは、四で判示したとおりであるから、以下では、専ら被告Gが
故意又は重大な過失により指揮監督上の義務に違反したかどうかを検討する。
(二) 証拠(乙一四、三〇、三五、被告G)によると、被告Gは、昭和三六年四
月一日に名港組合の職員となり、総務部総務課長等を経て、平成四年四月一日に事
務局長に就任したこと、事務局長に就任した際、前任者からの引継ぎの過程で、議
員に支給される県内旅行にかかる旅費が一律定額に支給されていること、議員に対
する費用弁償としての旅費は旧条例一条の要件に該当する場合に支給されること、
及び議員に対する費用弁償の支給手続が旧条例で準用する旅費条例に基づいて行わ
れるべきものであることを認識したこと、以上の事実を認めることができる。
(三) 右事実からすれば、被告Gは、事務局長に就任する前から、長年、名港組
合の職員として勤務していたのであり、事務局長に就任する直前は総務部総務課長
の職にあったのであるから、事務局長に就任した際には、旅費条例により、名港組
合の特別職員を含も職員さらには議員については、旅行は、旅行命令等に基づいて
行わなければならないものであることは熟知していたものと認められる。また、既
に判示したように、旧条例一条の文言からも、議員に対する費用弁償が、具体的な
活動に対して、その実費弁償として支給されるべきものであることも明らかである
から、被告Gは、事務局長に就任した際、そのことも熟知していたものと認められ
る。
したがって、被告Gは、事務局長就任当初から、議員に対する費用弁償は、旅行命
令に基づき特定の活動の実費弁償としてなされなければならないと認識していたと
認められる。
(四) しかしながら、証拠(乙三〇、三五、被告G)によれば、被告Gは、議員
に対する費用弁償の支出命令等に関する事務処理に全く関与していなかったこと、
議員に対する費用弁償の支出命令等の前提として、旅行命令等が存在するのか否か
について知る機会はなかったこと、実際にも、平成五年三月に至るまで、議員に対
する費用弁償について何の問題も指摘されたことはなく、同月に至り、議員に対し
旅行命令等がなされないまま費用弁償がなされていることを初めて知ったことが認
められることからすると、専決権者である議事課長が、本件費用弁償の支出命令等
について旅行命令等がなされないまま行っていたことにつき、指揮監督上の義務違
反があるということは困難である。
また、被告Gが、事務局長に就任した際引き継いだ内容は、議員の職位に応じて費
用弁償の支払われる額が異なるというものではあるが、被告Gが、事務局長に就任
した際、議員に対する報酬条例が存在しないことについて知っていたと認めるに足
りる証拠はないこと、被告Gは本件費用弁償のうち最も早く支給された時期よりも
わずか四か月ほど前に事務局長に就任したのであり、本件費用弁償が支給された当
時、いまだ一年間を通じての議員の活動日数について把握していたものと認めるに
足りる証拠はないので、議員の実際の活動日数が費用弁償が支給される日数よりも
少ないことを認識していたとまでは認められないこと、一般議員よりも議長の方が
公務のための旅行をする機会が多いであろうとも容易に推測できることからする
と、前記認定したような被告Gの認識を前提として、被告Gが、議員に対し実費弁
償の性質に反するおそれのある旅費支給がなされていることを認識し、専決権者の
指揮監督権者として、専決権者である議事課長に問いただし、適切な指揮監督権限
を発動しなかったからといって、重過失があったとまでいうことはできない。
(五) 以上より、被告Gについては、名港組合に対する不法行為は成立しないこ
とになる。
2 被告Iの責任について
被告Iは、副出納長として、本件費用弁償の支出行為を代決していたものであるか
ら、故意又は重大な過失(法二四三条の二)により右支出行為をしたと認められる
場合に、賠償責任を負うことになる。
証拠(乙二六と二七の各一ないし八、三三、被告I)によると、被告Iは、本件費
用弁償の支出行為をするに当たり、議事課長の決裁があることをもって債務確定の
審査をし、支出命令書に添付された内訳書のみを見て、支出金額が旅行日数と日額
により正しく算定されているか否か、予算上の支出が可能かといった形式的な審査
をしたのみで、本件費用弁償が一律定額になされているとは認識していなかったこ
とが認められる。
しかし、支出行為に際しての審査は原則として書類に基づく形式審査で足りるもの
と解されること、議員に対する旅費の支出は、議事課長が取り扱う事務の中では日
常的なものであって、裁量の余地はなく、通常は、当然に、法令に従って事務的に
処理されるべきものであること、平成五年三月に至るまで議員に対する費用弁償に
ついて何の問題も指摘されたことはなかったことからすると、被告Iについて、本
件費用弁償の違法性を認識しなかったことについて重大な過失があったということ
はできない。
したがって、被告Iについては、名港組合に対する不法行為は成立しないことにな
る。
3 被告Hの責任について
被告Hは、名港組合の出納長の職にあったものであるが、本件費用弁償の支出につ
いては、すべて、代決により副出納長が行っていたのであるから、代決者が違法な
支出をすることを防止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は重大な過失(法
二四三条の二)により代決者が違法な支出をすることを阻止しなかったときに限
り、賠償責任を負うことになる。
しかしながら、証拠(乙三三、被告I)によると、本件費用弁償については、事務
決済規程八条ただし書きにより、被告Hは、本件費用弁償の支出状況についての報
告を受けておらず、議員の県内旅行に関し、費用弁償としての旅費の支給が一律定
額で支給されていることを知らなかったことが認められる。
そして、証拠(乙三〇、三三、被告I)によれば、被告Hが、愛知県出納長として
名港組合の出納長を兼務し、名港組合の出納長の職務は非常勤であったことが認め
られること、並びに補佐役として副出納長が置かれていること及び議員に対する旅
費の支出は、出納長の取り扱うべき事務の中では日常的なものであって、裁量の余
地はなく、通常は、当然に、法令に従って事務的に処理されるべきものであること
を考慮すると、被告Hが本件費用弁償につき、違法な支出を防止すべき指揮監督上
の義務に違反したとすることはできない。
したがって、被告Hについては、名港組合に対する不法行為は成立しないことにな
る。
4 被告Fの責任について
被告Fは、愛知県知事として名港組合の管理者を兼務していたものであるが、本件
費用弁償の支出命令等は、すべて、委任により行われている。
したがって、被告Fについては、受任者が違法な支出命令等をすることを防止すべ
き指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により受任者が違法な支出負担行為又
は支出命令をすることを阻止しなかったときに限り、賠償責任を負うことになる。
しかしながら、証拠(乙三〇、証人L)によると、被告Fは、事務局長による予
算、決算の説明に際しても、重要事項について重点的に説明を受け、議員の県内旅
行の旅費について特に説明を受けていないことが認められ、既に判示したように、
被告Fと同様の立場にあった出納長の被告Hにおいて県内旅行の費用弁償が一律定
額で行われていることを知らなかったことからすると、被告Fにおいても、同様に
その事実を知らなかったものと認められる。
そうすると、被告Fが、愛知県知事として名港組合の管理者を兼務していること、
補佐役として副管理者が置かれていること、議員に対する旅費の支給は、管理者の
取り扱うべき事務の中では日常的なものであって、裁量の余地はなく、通常は、当
然に、法令に従って事務的に処理されるべきものであることを考慮すると、被告F
が本件費用弁償につき、違法な支出命令等を防止すべき指揮監督上の義務に違反し
たとすることはできない。
したがって、被告Fについては、名港組合に対する不法行為は、成立しないことに
なる。
5 被告J及び被告Kの責任について
右被告らは、議員として、それぞれ、別紙議員費用弁償支給実績記載のとおり、費
用弁償として旅費の支給を受けたものである。しかしながら、右被告らは、単に、
名港組合の庶務係長から費用弁償として一律、定額の支給を受けたのみであり、旅
費の請求書を提出するなどの積極的な行為を行ってはいない。そうすると、右のよ
うな受領行為のみでは、それをもって、名港組合に対する不法行為があったとする
ことはできないというべきである。
したがって、右被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求は、理由がない。
しかしながら、前示のように、旅行命令に基づかず、かつ、旅行を特定しないで支
給された旅費は、違法なものであり、本来、右被告らにおいてこれを受領する権限
のないものであるから、右被告らは、その旅費については、法律上の原因なく利益
を受けたことになる(利得したのは、金銭であるから、それを費消したとしても、
有用の資に当てたものと推定すべきことになる。したがって、利得が現存しないと
することはできない。)。なお、被告ら及び参加人は、費用弁償の支給は公定力を
有し取り消されない限り有効であるから、法律上の原因がないとはいえないと主張
しているが、費用弁償の支給は公人としての議員に対してなされる行為であるか
ら、行政処分にあたらず、したがって、費用弁償の支給が行政処分にあたることを
前提とする被告ら及び参加人の右主張は採用できない。
ただし、被告Jについて、別紙議会活動一覧表番号欄記載1、2、4ないし9、1
1、12、14及び16の一〇日分一五万円、被告Kについて、同表番号欄記載3
ないし6、8、9、11、13ないし15、17、19及び20の一二日分一八万
円は、費用弁償の支給対象になる「招集に応じ、もしくは委員会等に出席した」場
合であるか、損益相殺により損害と相殺されるべきものである。
したがって、被告Jは、受領した費用弁償金七五万円のうち右一五万円を控除した
金六〇万円につき、被告Kは、受領した費用弁償金六一万五〇〇〇円のうち右一八
万円を控除した金四三万五〇〇〇円につき、不当利得の返還義務があることにな
る。
なお、原告らが、右被告らに対し、右不当利得金の返還を請求したのは、平成七年
四月二八日であるから、右各不当利得金については、同月二九日から遅延損害金の
支払義務が生じることになる。
第七 総括
以上判示したところによれば、
本件訴え中、平成三年四月七日から平成四年七月二一日までの間に支出された費用
弁償にかかる訴えは不適法であるから、主文第一項のとおりこれを却下し、
被告Jに対する請求は、不当利得金六〇万円及びこれに対する支払請求の日の翌日
である平成七年四月二九日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅
延損害金の支払いを求める限度において、
被告Kに対する請求は、不当利得金四三万五〇〇〇円及びこれに対する支払請求の
日の翌日である平成七年四月二九日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合
による遅延損害金の支払いを求める限度において、
それぞれ理由があるから、右の限度においてそれぞれ認容し、
その余の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり
判決する。
なお、仮執行宣言については、相当でないから、これを付さないこととする。
(裁判官 野田武明 森 義之 安永武央)
別紙名古屋港管理組合機構図(省略)

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