弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人A及び同Bの弁護人阿部清司ほかの上告趣意のうち,判例違反をいう点
は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,
憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であり,被告人
C及び同Dの弁護人谷宜憲の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にす
る判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,憲法違反をいう点
を含め,実質は事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当
たらない。
なお,原判決の認定するところによれば,本件の事実関係は次のとおりである。
すなわち,被告人らは,本件事故現場である人工の砂浜の管理等の業務に従事して
いたものであるが,同砂浜は,東側及び南側がかぎ形の突堤に接して厚さ約2.5
mの砂層を形成しており,全長約157mの東側突堤及び全長約100mの南側突
堤は,いずれもコンクリート製のケーソンを並べて築造され,ケーソン間のすき間
の目地に取り付けられたゴム製防砂板により,砂層の砂が海中に吸い出されるのを
防止する構造になっていた。本件事故は,東側突堤中央付近のケーソン目地部の防
砂板が破損して砂が海中に吸い出されることによって砂層内に発生し成長していた
深さ約2m,直径約1mの空洞の上を,被害者が小走りに移動中,その重みによる
同空洞の崩壊のため生じた陥没孔に転落し,埋没したことにより発生したものであ
る。そして,被告人らは,本件事故以前から,南側突堤沿いの砂浜及び東側突堤沿
い南端付近の砂浜において繰り返し発生していた陥没についてはこれを認識し,そ
の原因が防砂板の破損による砂の吸い出しであると考えて,対策を講じていたとこ
ろ,南側突堤と東側突堤とは,ケーソン目地部に防砂板を設置して砂の吸い出しを
防ぐという基本的な構造は同一であり,本来耐用年数が約30年とされていた防砂
板がわずか数年で破損していることが判明していたばかりでなく,実際には,本件
事故以前から,東側突堤沿いの砂浜の南端付近だけでなく,これより北寄りの場所
でも,複数の陥没様の異常な状態が生じていた。
以上の事実関係の下では,被告人らは,本件事故現場を含む東側突堤沿いの砂浜
において,防砂板の破損による砂の吸い出しにより陥没が発生する可能性があるこ
とを予見することはできたものというべきである。したがって,本件事故発生の予
見可能性を認めた原判決は,相当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官今井功の反対意見が
あるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
裁判官今井功の反対意見は,次のとおりである。
私は,本件事故について,予見可能性を肯定した原判断は,事実の認定に重大な
誤りがあり,これを破棄しなければ著しく正義に反するものと考える。その理由は
次のとおりである。
1本件の最大の問題点は,本件事故発生についての予見可能性の有無である。
具体的には,本件事故が発生した砂浜(東側突堤北方中央付近のケーソンの内側の
砂浜)付近において,人の生命身体に対する危害がじゃっ起される陥没等が発生す
ることが予見できたか否かである。第1審判決は予見可能性を否定し,被告人らを
無罪としたのに対し,原判決はこれを肯定し,第1審判決を破棄して,本件を第1
審に差し戻した。
2本件事故の発生の状況及びその原因は多数意見の述べるとおりである。そし
て,被告人らは,本件事故発生以前から南側突堤沿いの砂浜及び東側突堤沿い南端
付近の砂浜において繰り返し発生していた陥没についてはこれを認識し,その原因
が防砂板の破損による砂の吸い出しであると考えて対策を講じていたことも多数意
見の述べるとおりである。
その上で,多数意見は,原判決の認定する次の事実関係,すなわち,①南側突
堤と東側突堤とは,ケーソン目地部に防砂板を設置して砂の吸い出しを防ぐという
基本的な構造は同一であり,本来耐用年数が約30年とされていた防砂板がわずか
数年で破損していることが判明していたこと,②本件事故以前から,東側突堤沿
いの砂浜の南端付近だけでなく,これより北寄りの場所でも,複数の陥没様の異常
な状態が生じていたこと,という事実関係の下では,被告人らは,本件事故現場を
含む東側突堤沿いの砂浜において,防砂板の破損による砂の吸い出しにより陥没が
発生する可能性があることを予見することができたというべきであるとする。
3そこで,多数意見が前提とする上記の事実関係について考える。
①については,本件の証拠関係から明らかであるし,被告人らも特に争ってはい
ない。しかし,②については,次に述べるとおり,原判決の認定は維持することが
できないと考える。
第1審判決の認定によれば,本件事故前には,大規模な空洞が砂層中に発生して
いるのにその地表に何らの異状が認められないという現象が土木工学上よく知られ
ていた一般的な現象であったとは認められないとするのが土木工学者の見解である
というのであり,原判決もこの認定自体は否定していない上,この認定を否定する
に足る証拠はない。そうであるとすれば,本件事故以前に本件事故発生現場付近に
おいて陥没が発生していたか否かは,予見可能性を考えるに当たって重要なポイン
トとなるといわなければならない。そしてここにいう陥没とは,通常人が見て危険
と感じる程度の陥没をいうことは当然であり,以下においても陥没というときはそ
のような意味である。
本件の証拠関係を見ると,本件事故前は,砂浜の陥没は,南側突堤内側の砂浜に
集中して発生したことは明らかであって,南側突堤内側の砂浜で陥没が発生したこ
とについては,数多くの証拠が提出されている。そして,この陥没については,本
件砂浜を管理する明石市役所や国土交通省近畿地方整備局姫路工事事務所において
も何回となく対策を協議し,陥没の修復や,立入禁止の措置を執っていた。すなわ
ち,本件海岸については,市の土木部海岸・治水課の職員が定期的にパトロールし
て異状があれば市役所の担当部局に報告がされていたほか,市は財団法人明石市緑
化公園協会に日常管理業務を委託しており,公園協会は,警備員を配置するなどし
ており,異状があるとの報告があったときには,その内容を海岸・治水課に報告し
ていたのであるが,海岸・治水課の定期パトロールや公園協会からは,南側突堤の
内側砂浜に陥没が発生した旨の報告が何回となく行われ,その都度対策について協
議が行われているけれども,東側突堤内側の砂浜については,その南端付近を除い
ては,そのような異状は報告されていないのである。
これに反して,東側突堤の北方(本件事故発生付近の砂浜)において,本件事故
以前に陥没が発生したとの証拠は,意外に乏しい。この点に関して,第1審におい
て,5人の証人が,本件事故発生以前に東側突堤の北方で陥没があったのを見た旨
を証言している。第1審判決は,これらの証言は,目撃時から証言時までの間に3
年ないし4年という時間的間隔があり,陥没を見た時期や陥没発生の場所があいま
いであるなど,これによっては,本件事故発生前の時点で,東側突堤北方で陥没が
あったことを認定するには十分でないとした。一方,原判決は,これらの証言か
ら,平成12年夏ころから13年10月ころまでに東側突堤北方の砂浜でも複数の
陥没様の異常な状態が生じていたことが推認されるとし,これと異なる第1審判決
の認定には誤りがあるとする。
このように第1審判決と原判決の認定が異なっているところ,この点は証拠の評
価に係る問題であるから,当審において事実審の認定に介入することには慎重でな
ければならない。しかし,たまたま本件砂浜を訪れた一般市民が発見できる程度の
陥没があったのにもかかわらず,常時砂浜を管理していた市や公園協会,工事事務
所の職員が,長期にわたってこれを見落としたということは考えにくい。原審は,
この点について何らの証拠調べをすることなく,1回の期日で結審をし,第1審の
認定を覆しているのであるが,これらの証言によっては本件事故発生以前の時点で
東側突堤北方で陥没があったことを認定することはできないとする第1審判決の判
断は合理的な認定であって,原判断は維持できないと考える。
4以上の認定を前提とすると,本件事故発生以前の時期において,東側突堤北
方の本件事故発生現場付近の砂浜で陥没があったことが認定できない以上,本件事
故発生の予見可能性は認められないとの判断には合理的な根拠があるといわなけれ
ばならない。
多数意見は,本件陥没は,防砂板の破損によって生じたものであるところ,南側
突堤では防砂板の破損を原因として何回も陥没が発生しており,東側突堤も南側突
堤と同様の防砂板が使われていたのであるから,南側突堤で陥没が発生した以上,
東側突堤でも同様の陥没が発生することは予見可能であったという。しかし,本件
事故以前に南側突堤内側では何回も陥没が生じていたのに,東側突堤北方内側では
それが見られなかったという事実は,その原因が何であるかは必ずしも明らかでは
ないとしても,厳然たる事実として,重く受け止める必要がある。本件砂浜は,南
に面しており,波は南側から押し寄せるのであるから,南側と東側では,突堤に当
たる波の強さも異なる(南側突堤に当たる波の方が強い。)のであって,南側突堤
内側で起きたことが,東側突堤内側でも時をおかずして当然に起こり得るとはいえ
ないというべきである。
5本件事故は,被害者にとっては思いがけない悲惨な事故であり,本件の突堤
及び砂浜という工作物の設置管理の瑕疵があったことは明らかであるけれども,こ
れによる民事責任を問うことを超えて,被告人らに刑事責任を問うに足りる程度の
予見可能性があったとすることには無理があるというべきである。
(裁判長裁判官竹内行夫裁判官今井功裁判官中川了滋裁判官
古田佑紀)

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