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平成23年2月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(ワ)第2944号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成22年10月5日
判決
東京都港区<以下略>
原告日立金属株式会社
同訴訟代理人弁護士増井和夫
同橋口尚幸
同訴訟復代理人弁護士齋藤誠二郎
大阪市<以下略>
被告株式会社フジキン
同訴訟代理人弁護士久田原昭夫
同久世勝之
同訴訟代理人弁理士杉本丈夫
同谷田龍一
主文
1被告は,原告に対し,3億9620万2072円及びこれに対する平
成19年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを5分し,その1を原告の負担とし,その余を被告
の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,4億9056万円及びこれに対する平成19年12月
18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,ノーマルクローズ型流量制御バルブについての特許権を有していた
原告が,別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)は原告が特許
権を有していた特許発明の技術的範囲に属するものであり,被告製品の製造者
である南大阪フジキン株式会社(以下「南大阪フジキン」という。)及び南大
阪フジキンから同製品を購入して第三者に販売した被告は共同して原告の特許
権を侵害したものであると主張して,被告に対し,民法703条に基づく不当
利得金●(省略)●円の返還及び民法719条に基づく損害賠償金●(省略)
●円のうち●(省略)●円の支払並びにこれらに対する弁済期(被告に対する
催促の日)の翌日ないし不法行為の後である平成19年12月18日から支払
済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案であ
る。
1争いのない事実等(末尾に証拠を掲げていない事実は,当事者間に争いがな
い事実である。)
(1)当事者
原告は,金属製品,電子・情報部品,機能部品の製造と販売,サービス他
を業とする会社である。
被告は,特殊精密ながれ(流体)計測計装機器,電気機械類と電子バルブ
・精密バルブ,特殊精密電子ながれ(流体)制御ユニットシステム装置類並
びにクリーンエンジニアリング,フレッシュテクノロジィの設計,製造(創
造),販売,サービスを業とする会社である。
(2)原告の有していた特許権
原告は,次の特許につき特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請
求の範囲請求項1の発明を「本件発明」という。また,本件発明に係る特許
を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書(別紙特許公報及び審決公報
参照)を「本件明細書」という。)を有していた。本件特許の存続期間は,
平成19年8月26日に満了した(甲2の1,2)。
特許番号第1966883号
発明の名称ノーマルクローズ型流量制御バルブ
出願日昭和62年8月26日
登録日平成7年9月18日
訂正審判確定日平成19年7月24日(訂正審判(以下「本件訂正」
という。)により訂正された部分を下線で示す。)
特許請求の範囲請求項1
「流入口と流出口をつなぐ流路を有するバルブ本体と,該バルブ本体の流
路の一部に設けられた弁座と,該弁座に対向して配置し,自己弾性復元
力を有し,前記弁座に対し当接と離間をするダイヤフラムと,貫通穴空
間を有するとともに,該ダイヤフラムに関して弁座とは反対側で上下動
自在に設けた弁棒と,該弁棒を弁座方向に変位させ,前記ダイヤフラム
を弁座に当接させる押圧力を生じる付勢手段と,電圧を印加することに
より長さが伸長し,前記貫通穴空間に収容され,一端がブリッジを介し
て前記バルブ本体で支持されると共に,他端が前記弁棒に当接した積層
型圧電素子とを有し,該積層型圧電素子の長さが伸長したとき,前記付
勢手段の押圧力に抗して前記弁棒を押上げダイヤフラム自身が弁座から
離間することを特徴とするノーマルクローズ型流量制御バルブ。」
(3)本件特許の出願から設定登録に至るまでの経緯
ア原告は,昭和62年8月26日,本件発明について実用新案登録の出願
をし,同年10月14日付けで,同出願を特許出願(以下「本件出願」と
いい,その願書に添付した明細書を「当初明細書」という。)に変更した。
当初明細書における特許請求の範囲請求項1は,別紙特許請求の範囲の「当
初明細書」欄記載のとおりであった(乙2)。
イ原告は,平成3年8月9日付けで,当初明細書の特許請求の範囲請求項
1を,別紙特許請求の範囲の「平成3年8月9日付け補正」欄記載のとお
り補正した(乙4。以下「平成3年補正」という。)。
ウ原告は,平成4年6月19日付けで,上記イの特許請求の範囲請求項1
を,別紙特許請求の範囲の「平成4年6月19日付け補正」欄記載のとお
り補正した(乙5。以下「平成4年補正」という。)。
エ原告は,平成5年7月29日付けで,上記ウの特許請求の範囲請求項1
を,別紙特許請求の範囲の「平成5年7月29日付け補正」欄記載のとお
り補正し(乙6。以下「平成5年補正」という。),平成7年9月18日,
本件特許の設定登録がされた。
(4)構成要件の分説
本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構
成要件をそれぞれ「構成要件A」などという。)。
A流入口と流出口をつなぐ流路を有するバルブ本体と,
B該バルブ本体の流路の一部に設けられた弁座と,
C該弁座に対向して配置し,自己弾性復元力を有し,前記弁座に対し当接
と離間をするダイヤフラムと,
D貫通穴空間を有するとともに,該ダイヤフラムに関して弁座とは反対側
で上下動自在に設けた弁棒と,
E該弁棒を弁座方向に変位させ,前記ダイヤフラムを弁座に当接させる押
圧力を生じる付勢手段と,
F電圧を印加することにより長さが伸長し,前記貫通穴空間に収容され,
一端がブリッジを介して前記バルブ本体で支持されると共に,他端が前記
弁棒に当接した積層型圧電素子とを有し,
G該積層型圧電素子の長さが伸長したとき,前記付勢手段の押圧力に抗し
て前記弁棒を押上げダイヤフラム自身が弁座から離間することを特徴とす

Hノーマルクローズ型流量制御バルブ。
(5)被告製品の製造,販売
被告は,南大阪フジキンが製造した被告製品を販売し,平成15年1月か
ら平成16年12月までの間に,●(省略)●台を販売して●(省略)●円
の売上げを得,平成17年1月から平成19年8月26日までの間に,●(省
略)●台を販売して●(省略)●円の売上げを得た。被告は,南大阪フジキ
ンから,上記被告製品●(省略)●台を合計●(省略)●円で仕入れた。
(6)被告製品の構成
ア被告製品の構成は,別紙被告製品説明書記載のとおりであり,以下のと
おり分説することができる(以下,分説した構成をそれぞれ「構成a」な
どという。なお,構成部分の名称の後に記載している符号は,別紙被告製
品説明書記載の箇所を指す。)。
a流入口と流出口をつなぐ流路を有するバルブ本体1を有する。
b該バルブ本体1の流路の一部に設けられた弁座を有する。
c該弁座に対向して配置し,自己弾性復元力を有し,前記弁座に対し当
接と離間をするダイヤフラム2を有する。
d以下の圧電素子支持筒体23を有する。
(a)大径部と小径部を有する中空の筒状部材である。
(b)大径部と小径部の境界にまたがる位置に,側面に対向して2個の
割ベース26を挿入する2か所の孔部23aを有する。
(c)金属ダイヤフラムに関して弁座とは反対側で上下動自在である。
e皿ばね18は,該圧電素子支持筒体23の底壁23bと割ベース26
の下側底面との間に配設されている。
f以下の積層型圧電素子10を有する。
(a)電圧を印加することにより長さが伸長する。
(b)圧電素子支持筒体23の大径部内に挿入されている。
(c)下端に球面突起8aが設けられている。
(d)球面突起8aは,割ベース26に収納された下部受台9に当接し
ている。
g該積層型圧電素子10の長さが伸長したとき,皿ばね18の押圧力に
抗して前記圧電素子支持筒体23を押上げダイヤフラム自身が弁座から
離間する。
イ構成aないしcは,構成要件AないしCと同一である。また,被告製品
は,ノーマルクローズ型流量制御バルブである。したがって,被告製品は,
構成要件AないしC及びHを充足する。
(7)原告の被告に対する催告
原告は,平成19年12月17日,被告に対し,被告製品は本件発明の技
術的範囲に属するものであり,被告が被告製品を製造,販売したことは本件
特許権を侵害するものであると主張して,次のとおり,不当利得返還請求権
に基づく6048万円の支払及び不法行為に基づく損害賠償として4億30
08万円の支払を求める意思表示をした(甲7の1,2)。
①不当利得
平成15年1月から平成16年12月末日までの間に被告が販売した被
告製品の台数は1万6800台(月700台の販売ペースで24か月間)
を下回ることはなく,1台当たりの販売価格は,少なくとも12万円であ
る。したがって,本件特許の実施料率を3%とすると,被告の不当利得額
は,6048万円(12万円×1万6800台×3%)を下らない。
②不法行為
平成17年1月から平成19年8月までの間に被告が販売した被告製品
の台数は2万2400台(月700台の販売ペースで32か月間)を下回
ることはなく,1台当たりの販売価格は少なくとも12万円であり,粗利
益率は40%である。また,被告製品のうちノーマルクローズ型流量制御
バルブ部分の構成比は,40%である。したがって,本件特許の侵害行為
により被告の得た利益は,4億3008万円(12万円×2万2400台
×40%×40%)を下らない。
原告は,特許法102条2項により,上記金額を原告の損害として請求
する。
2争点
(1)被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)。
ア被告製品は,構成要件D,Fの「貫通穴空間」を有しているか(争点1
−1)。
イ被告製品における皿ばね18は,構成要件Eの「付勢手段」に当たるか
(争点1−2)。
ウ被告製品における割ベース26及び下部受台9は,構成要件Fの「ブリ
ッジ」に当たるか(争点1−3)。
(2)本件特許は,特許無効審判により無効とされるべきものか(争点2)。
ア平成4年補正は発明の要旨を変更するものであり,本件特許は新規性を
欠くか(争点2−1)。
イ本件発明の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号(記載要件)
に違反するか(争点2−2)。
(3)被告の過失の有無(争点3)
(4)被告の不当利得の額(争点4)
(5)原告の損害額(争点5)
3争点に関する当事者の主張
(1)争点1−1(被告製品は,構成要件D,Fの「貫通穴空間」を有している
か)について
[原告の主張]
被告製品における圧電素子支持筒体23は,ダイヤフラム2に関して弁座
とは反対側で上下動自在に設けられており(構成d(c)),その内部に縦方
向に長い空間,すなわち「貫通穴空間」(構成要件D,F)を有する。
したがって,圧電素子支持筒体23は,構成要件Dの「弁棒」に当たり,
被告製品は,構成要件Dを充足する。
[被告の主張]
ア構成要件D,Fの「貫通穴空間」とは,「弁棒」が有するものであり,
構成要件Fの「積層型圧電素子」を収容するものであるということの他は,
特許請求の範囲の記載上,その態様が明らかとされていない。また,前記
第2の1(3)のとおり,「貫通穴空間」という文言は,本件訂正前の特許請
求の範囲の記載には用いられず,本件訂正により追加されたものであると
ころ,特許請求の範囲を目的とする訂正は,「願書に最初に添付した明細
書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければ
ならない。」(特許法126条3項)とされている。
「貫通穴空間」という用語は,以下のとおり,本件訂正前の明細書等に
おいては実施例の構成を示すものとしてのみ記載されていたものであり,
このような事項を,文言そのままに,特許請求の範囲の記載の減縮を目的
として追加した以上,実施例として記載された事項の範囲においてのみ訂
正が可能となる。
したがって,「貫通穴空間」の意味については,実施例に記載したとこ
ろにより解釈しなければならない。
イ本件明細書では,実施例1の記載及び第1図ないし第3図において,「貫
通穴空間」の態様が,次のとおり示されている(判決注:下線は,裁判所
が被告の主張に基づき付加した。)。
「弁棒12は中間部に第1図で示すごとくこの軸直角方向に下部の端部お
よび中間部の上端部を残して溝状の貫通穴空間21を形成し,上部外面
を中間部の外径より小径の円筒状にしてこの段差部と円筒部材2の上部
内面との間に付勢手段である押圧ばね14を設け弁棒12を下方に押圧
している。そして弁棒上部の小径円筒部内面にめねじを設け,該めねじ
に調節用ボルト18を螺合し止めナット19を設けて調節用ボルト18
の下端面を貫通孔(判決注:「穴」の誤記と認める。以下同じ。)空間
21内に突出させてある。この弁棒12の貫通穴空間21の下部におい
て,貫通穴空間21を貫通し弁棒12の両側に突出した四角柱状のブリ
ッジ13をダイヤフラム押え9の上面に渡る様に載せる。ブリッジ13
の底面は弁棒12の貫通穴空間21の底部と弁棒が上昇する分以上の隙
間をあけておく。そしてブリッジ13の中央部で貫通孔(判決注:「穴」
の誤記と認める。以下同じ。)空間21内に柱状の積層型圧電素子8を
裁置(判決注:「載置」の誤記と認める。以下同じ。)して設ける。従
って積層型圧電素子8の下端はブリッジ13を介してバルブ本体1で支
持され,且つ上端は弁棒12に当接している。」(甲2の1・3頁5欄
11行∼29行,甲2の2・5頁17行∼26行)
上記実施例の記載及び本件明細書において上記記載以外に「貫通穴空間」
の態様は開示されていないことからすると,「貫通穴空間」とは,①弁棒
の軸直角方向に形成されている,②弁棒の下部及び中間部の上端部を残す
ものである,③溝状の形状を有するものである,④底部を有するものであ
る,という条件を充たすものであることとなる。これを斜視図で示すと,
「貫通穴空間」は,下記の図の形状を有するものとなる。このように,「貫
通穴空間」とは,上記①ないし④の条件を備えた,「弁棒の軸直角方向に
形成された上部壁,下部壁,2側壁,2開口部に囲まれた,溝状の空間」
であると解すべきである。
「貫通」という文言の意味からしても,上記のように,「貫通穴空間」
とは,弁棒の一方側面から反対側の側面まで連続して形成される空間であ
ると解するのが相当である。原告の解釈は,「貫通穴空間」という用語を
単に「空間」というに等しく,「貫通」穴の部分を恣意的に無視している。
ウ「貫通穴空間」の意味を上記イのとおり解すべきことについては,本件
特許の出願経過等において,原告が「貫通穴空間」及び「積層型圧電素子」
(構成要件F)について次のとおり述べていることからも明らかである。
すなわち,前記第2の1(3)のとおり,本件出願時の特許請求の範囲請求
項1には,「該素子の上面は前記空間の上部内面に係止すると共に素子の
下面はバルブ本体と固定された部分に係止させ」との記載が存在した。上
記記載は,その後,平成3年補正によって「該積層型圧電素子の上面は前
記空間の上部内面に係止すると共に,積層型圧電素子の下面はバルブ本体
と固定された部材に係止させ」に,平成4年補正によって「一端が前記バ
ルブ本体で支持されると共に,他端が前記弁棒を支持した積層型圧電素子」
に,平成5年補正によって「一端が前記バルブ本体で支持されると共に,
他端が前記弁棒に当接した積層型圧電素子」に,順次補正され,さらに,
本件訂正により,「一端がブリッジを介して前記バルブ本体で支持される
と共に,他端が前記弁棒に当接した積層型圧電素子」と訂正された(補正
部分ないし訂正部分に下線を引いた。)。また,原告が特許庁に提出した
平成3年8月9日付け意見書(乙3)には,「一方,弁棒と積層型圧電素
子(以下圧電素子と言う)との関係は,圧電素子の上端は弁棒の空間の上
端面に係止し,即ち,隙間などなく圧電素子が動かないように固定し,同
じく圧電素子の下端はバルブ本体に対し固定された部材,ここではブリッ
ジ部材に係止させている」(3頁4行ないし9行)と記載されている。
これらの記載から,貫通穴空間には上面があり,積層型圧電素子の上端
が貫通穴空間の上部壁面に接していることが示されている。つまり,積層
型圧電素子は,弁棒の側方から軸線と直交する方向に挿入され,その上端
を貫通穴空間の上部壁面に接し,下端をバルブ本体側で支持されることで,
上下端のみにおいていわば挟み込むような形で支えられているものであっ
て,このような積層型圧電素子の収容は,貫通穴空間が上部壁面を有する
ものでなければすることができない。このことは,原告が提出した平成4
年6月19日付け補正書(乙5)において,「従って積層型圧電素子8の
下端はブリッジ13を介してバルブ本体1で支持され,且つ上端は弁棒1
2をバランス状態で支持している。」(3頁16行ないし19行)と記載
されていることにも示されている。
エ被告製品における圧電素子支持筒体23は,その軸直角方向に形成され
た上部壁,下部壁,2側壁,2開口部に囲まれた溝状の空間を有していな
い。また,被告製品は,廻り全体を筒体により支えているため,極めて安
定的であり,かつ,圧電素子支持筒体23の上部から,その軸線と平行な
方向に積層型圧電素子を挿入するだけで保持することができ,収容にも手
間がかからないという特質を有する。
以上のとおり,被告製品は,構成要件Dの「貫通穴空間」を有しておら
ず,構成要件Dを充足しない。
[被告の主張に対する原告の反論]
特許発明の技術的範囲は,「特許請求の範囲の記載」,すなわち請求項の
記載に基づいて判断される(特許法70条1項)。明細書の実施例の記載は,
請求項の記載を解釈するために「考慮」されるものにすぎず(同条2項),
発明の技術的範囲が実施例に限定されるものではない。
被告の主張は,本件明細書の実施例1に記載された具体的な装置における
「貫通穴空間」の形状に請求項の解釈を限定しようとするものであり,妥当
でない。本件特許の特許請求の範囲請求項1は,「貫通穴空間」について,
①貫通穴空間は弁棒に設けられていることと,②その内部に,一端がブリッ
ジを介してバルブ本体で支持されるとともに,他端が弁棒に当接した積層型
圧電素子を収容していること,を規定しているにすぎない。
また,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の作用効果について,
次のとおり記載されている(判決注:下線は,裁判所が原告の主張に基づき
付加した。)。
「[作用]
本発明のバルブは,通常は付勢手段の押圧力によって弁棒はダイヤフラム
を介してバルブ本体に設けた弁座に当接されバルブは閉止状態にある。
一方電圧を印加することにより長さが伸長する積層型圧電素子は,その一
端がバルブ本体で支持され,他端が弁棒に当接している。このため積層型
圧電素子に電圧を印加したとき伸長によって生じる力は,上記付勢手段の
押圧力に抗して弁棒を上方に押し上げる力として作用し,結果として弁棒
を押し上げる。このときダイヤフラム自身が弾性的な復元力を有している
ので弁棒の上昇に追従して弁座から離れ,バルブは開状態となる。
以上により,流体室,特に入口ポート側には押圧ばねや調整ねじ等の可動
部材を設けなくてもすむので摩耗金属粉の発生と流体内への混入がない。
また腐食性流体と接触する金属面積を最小にできるのでバルブ本体内を清
浄に保つものである。」(甲2の1・2頁4欄17行∼33行,甲2の2
・4頁下から8行∼5頁2行)
上記下線箇所に説明されているように,積層型圧電素子に電圧を印加しな
い状態では,弁棒は付勢手段(ばねなど)によって弁座に当接し,弁は閉じ
られており,積層型圧電素子に電圧が印加されると,それが伸長して弁棒を
押し上げ,弁が開く。これが,本件発明の基本構成であり,この構成を採用
したことにより,流体室内に可動部材が不要になり,摩耗金属粉の発生及び
流体内への混入が防がれ,バルブ本体内を清浄に保つという作用効果が得ら
れる。
上記基本構成を実現するためには,「貫通穴空間」は,弁棒に設けられた
空間であって,その内部に,「一端がブリッジを介して前記バルブ本体で支
持されると共に,他端が前記弁棒に当接した積層型圧電素子」を収容してい
れば,それで十分である。弁棒内部の「貫通穴空間」に収容された,「一端
がブリッジを介して前記バルブ本体で支持されると共に,他端が前記弁棒に
当接した積層型圧電素子」に,電圧が印加されて伸長すれば,積層型圧電素
子は弁棒を押し上げるし(一端がブリッジを介してバルブ本体に支持されて
いる以上,伸長した積層型圧電素子は,弁棒を押し上げるしかない。),電
圧が印加されない状態では積層型圧電素子の長さは元に戻るため,付勢手段
によって弁棒は弁座に押し付けられる。
このように,「貫通穴空間」とは上記2つの条件を充たすものであれば必
要十分であることが,本件明細書の記載から理解される。「貫通穴空間」に
ついて上記2つの条件以外の具体的な構成,形状は,バルブ本体の全体の設
計に応じて,当業者が自由に変更し得る設計的事項にすぎない。
(2)争点1−2(被告製品における皿ばね18は,構成要件Eの「付勢手段」
に当たるか)について
[原告の主張]
被告製品における皿ばね18は,別紙被告製品説明書記載のとおり,構成
要件Dの「弁棒」に相当する圧電素子支持筒体23の底面の上面と,割ベー
ス26の下面との間に挿入されたものであり,割ベース26は,筒体固定・
ガイド体24を介して,取り付けボルトによりバルブ本体1に固定されてい
る。
このように,皿ばね18は,弁棒の底部の上面と,バルブ本体1に固定さ
れた割ベース26の下面との間に挿入されることにより,弁棒をバルブ本体
に向かって押圧する,すなわち,弁棒を弁座方向に変位させ,圧電素子支持
筒体23の下部に嵌着されたダイヤフラム押さえ4によってダイヤフラム2
を弁座に当接させる押圧力を生じる。
したがって,皿ばね18は,構成要件Eの「付勢手段」に当たり,被告製
品は,構成要件Eを充足する。
[被告の主張]
ア構成要件Eは,「該弁棒を弁座方向に変位させ,前記ダイヤフラムを弁
座に当接させる押圧力を生じる付勢手段と,」というものであり,この記
載には,弁棒を弁座方向に付勢するという機能を果たす何らかの手段とい
う以上の意味はない。上記記載は,抽象的・機能的な概念による記載とい
うほかなく,具体的な装置の構成を示したものとは言い難い。また,本件
明細書でも,実施例1を記載した以外の箇所においては,「付勢手段」の
具体的な構成を特定するに足りる記述はみられない。
したがって,構成要件Eは,実施例において具体的に開示された構成か
ら解釈されなければならない。
イ本件明細書における実施例には,「付勢手段」について,以下の記載が
ある。
「弁棒12は中間部に第1図で示すごとくこの軸直角方向に下部の端部お
よび中間部の上端部を残して溝状の貫通穴空間21を形成し,上部外面
を中間部の外径より小径の円筒状にしてこの段差部と円筒部材2の上部
内面との間に付勢手段である押圧ばね14を設け弁棒12を下方に押圧
している。」(甲2の1・3頁5欄11行∼17行,甲2の2・5頁1
7行∼20行)
この記載で開示されている付勢手段は,「弁棒の上部外面にある段差部
と円筒状部材の上部内面との間に設けられている押圧ばね」というもので
ある。
ウまた,本件特許の出願経過は,以下のとおりである。
(ア)本件出願時の特許請求の範囲請求項1の記載は,別紙特許請求の範
囲の「当初明細書」欄記載のとおりであり,「付勢手段」という記載は
なく,「バルブ本体の上面と固定した円筒状部材内に弁棒を設け,前記
円筒状部材と弁棒との間に押圧ばねを介在して弁棒をバルブ本体に設け
た弁座側に押圧させ,」という記載があったにすぎない。また,当初明
細書(乙2)の発明の詳細な説明には,「[作用]」として,「本発明
は,上記の構成であるから,通常は円筒状部材と弁棒との間に設けた押
圧ばねによって弁棒はバルブ本体に設けた弁座側に押圧され弁は閉止さ
れている。」(5頁15行ないし19行)と記載されていた。
(イ)平成3年補正により,特許請求の範囲請求項1は,別紙特許請求の
範囲の「平成3年8月9日付け補正」欄記載のとおり補正され,上記(ア)
の請求項の記載は,「バルブ本体の上面に固定した円筒状部材内に上下
動可能に弁棒を設け,前記円筒状部材と弁棒との間に押圧ばねを介在し
て,常時は弁棒をダイヤフラムを介してバルブ本体内に設けた弁座に押
圧させてバルブ閉状態とし,」と補正された。また,原告が特許庁に提
出した平成3年8月9日付け意見書(乙3)には,「弁棒と円筒状部材
との関係は,弁棒上部のいわば肩部分と円筒状部材の上部内面との間に
押圧ばねを介在させたもので,弁棒は下方に押圧されダイヤフラムを弁
座に押しつけて通常はバルブを閉の状態にしている。」(3頁1行ない
し4行)と記載されている。
(ウ)平成4年補正により,特許請求の範囲請求項1は,別紙特許請求の
範囲の「平成4年6月19日付け補正」欄記載のとおり補正された。同
補正によって,初めて「付勢手段」という文言が用いられ,請求項に,
「該弁棒を弁座方向に変位させ,前記ダイヤフラムを弁座に当接させる
押圧力を生じる付勢手段」という記載がされた。
エこのような明細書の記載及び特許の出願経過を考慮すると,構成要件E
の「付勢手段」とは,①押圧ばねにより付勢するものである,②押圧ばね
は,弁棒の上部外面の肩部分と円筒状部材の上部内面との間に介在する(押
圧ばねの一方は弁棒の外面に接し,他方は円筒状部材の上部内面に接す
る。),③弁棒は,円筒状部材内に設けられており,円筒状部材は,弁棒
の上面までカバーする,という条件を充たす必要があると解するのが相当
である。
オこれに対し,被告製品における皿ばね18は,圧電素子支持筒体23の
底壁と割ベース26の下側底面との間に配設されており,本件発明とは押
圧ばねの設置箇所が全く異なる。また,被告製品では,筒体固定・ガイド
体24は,圧電素子支持筒体23の下部しかカバーしておらず,上面はカ
バーしていない。
したがって,被告製品は,構成要件Eの「付勢手段」を有しておらず,
構成要件Eを充足しない。
[被告の主張に対する原告の反論]
構成要件Eは,具体的に装置の構成を示した記載であって,「抽象的・機
能的な概念による記載」ではない。また,実施例としては記載されていなく
ても,明細書に開示された発明に関する記述の内容から当業者が実施し得る
構成は,発明の技術的範囲に属する。
構成要件Eの内容は,要するに,弁棒を弁座方向に押し付けるような何ら
かの「付勢手段」を装置に取り付ければよい,ということである。当業者で
あれば,通常,弁棒(あるいはそれに固定されたいずれかの部品)と,バル
ブ本体(あるいはそれに固定されたいずれかの部品)の間に,弁棒を弁座の
方向に押し付ける,ばねのような部品を挿入する構成を想起する。本件明細
書の実施例では,バルブ本体と弁棒との間に押圧ばね14を設け,弁棒を本
体に対し下方(弁座側)に向けて付勢しているが,当業者であれば,これと
同様にばねによって弁棒を付勢するにつき,ばねを設ける位置を適宜選択す
る程度のことは,容易になし得る。
(3)争点1−3(被告製品における割ベース26及び下部受台9は,構成要件
Fの「ブリッジ」に当たるか)について
[原告の主張]
ア「ブリッジ」の辞書的な意味は,「①橋。橋梁。②列車の車両と車両と
の間にある場所。③船橋。艦橋。④架工歯。⑤眼鏡の左右のレンズをつな
ぐ部分。⑥弦楽器の駒。⑦トランプ遊戯の一。⑧レスリングで,あお向け
になって,頭と両足を支えとして身体を橋状にそらせること。」である(広
辞苑第5版)。
上記辞書的意味のうち,②,④及び⑤の用法を見ると,「ブリッジ」と
は,①の意味を基本とし,さらに,機械装置などで,2つの部材の間を繋
ぐ,橋状の部材を意味する用語として用いられていることが理解される。
イ本件特許の装置の基本構成は,前記(1)[被告の主張に対する原告の反論]
のとおり,積層型圧電素子に電圧を印加しない状態では,弁棒が付勢手段
(ばねなど)によって弁座に当接し,弁が閉じられており,積層型圧電素
子に電圧が印加されると,それが伸長して弁棒を押し上げ,弁が開くとい
うものである。この基本構成の動作を実現するためには,構成要件Fに記
載されている,「電圧を印加することにより長さが伸長し,前記貫通穴空
間に収容され,一端がブリッジを介して前記バルブ本体で支持されると共
に,他端が前記弁棒に当接した積層型圧電素子」が,必要不可欠となる。
積層型圧電素子は,「一端がブリッジを介して前記バルブ本体に支持され」
ているからこそ,電圧が加わって伸長したときに,他端において当接して
いる弁棒を,(バルブ本体に対して)押し上げることができる。
また,「ブリッジを介してバルブ本体に支持され」るという構成の,よ
り具体的な意味は,実施例の開示により理解される。本件明細書の図1及
び図2を見ると,四角柱状の部材であるブリッジ13が,ダイヤフラム押
え9の上に,橋状に(図2においては)左右に渡されるように設置されて
おり,弁棒12は,そのブリッジ13の上に載せられていることが理解さ
れる。弁棒12は,ブリッジ13を介して,ダイヤフラム押え9及びダイ
ヤフラム押え9が固定されているバルブ本体に対し,固定(支持)されて
いる。
ウ以上のような「ブリッジ」という語の辞書的意味及び本件明細書の記載
から,構成要件Fの「ブリッジ」とは,「バルブ本体に対して,橋状に架
け渡され固定された部材であって,その上に積層型圧電素子を載せること
で,積層型圧電素子をバルブ本体に対して支持(固定)するような部材」
であると解される。
エ別紙被告製品説明書記載のとおり,割ベース26及び下部受台9は,割
ベース26を圧電素子支持筒体23の孔部23aに挿入し,その状態で割
ベース26の上面に設けられた凹部に下部受台9を嵌合し,次いで,筒体
固定・ガイド体24を割ベース26の外周部にスライドし,取り付けボル
トで固定することで,バルブ本体1に固定される。この状態において,割
ベース26及び下部受台9は,互いの凸部と凹部とが噛み合わさって,一
体の部材として機能する。そして,割ベース26及び下部受台9は,バル
ブ本体1に取り付けられた状態においては,その中央部の窪みに左右に差
し渡されており,下部受台9の上部には,球面突起8aを介して積層型圧
電素子10が載せられている。この構造により,積層型圧電素子10は,
その下部が,割ベース26及び下部受台9を介してバルブ本体に支持され
ている。
したがって,被告製品における割ベース26及び下部受台9は,構成要
件Fの「ブリッジ」に該当する。
オまた,被告製品における積層型圧電素子10は,電圧を印加することに
より長さが伸長する素子であり(構成f(a)),構成要件Dの「弁棒」に
当たる圧電素子支持筒体23内部の「貫通穴空間」に収容されており,積
層型圧電素子10の上部は,上部受台及び位置決め用袋ナットを介して,
圧電素子支持筒体23に当接している。
したがって,被告製品における積層型圧電素子10は,構成要件Fの「積
層型圧電素子」に当たり,被告製品は,構成要件Fを充足する。
カ被告製品における圧電素子支持筒体23が構成要件Dの「弁棒」に,皿
ばね18が構成要件Eの「付勢手段」に,積層型圧電素子10が構成要件
Fの「積層型圧電素子」に,それぞれ該当することについては,前記(1),
(2)の[原告の主張]及び上記オのとおりである。
そして,被告製品では,積層型圧電素子10の長さが伸長したとき,皿
ばね18の押圧力に抗して圧電素子支持筒体23を押し上げ,ダイヤフラ
ム2自身が弁座から離間する。
したがって,被告製品は,構成要件Gについても充足する。
[被告の主張]
ア構成要件Fの「ブリッジ」という語は,特許請求の範囲からはその態様
が明らかでない。また,「ブリッジ」という文言は,構成要件Dの「貫通
穴空間」という文言と同様に,本件訂正前の特許請求の範囲の記載には用
いられておらず,本件訂正により追加されたものであり,本件訂正前の明
細書等においては実施例の構成を示すものとしてのみ記載されていたもの
である。したがって,このような事項を,文言そのままに,特許請求の範
囲の記載の減縮を目的として追加した以上,実施例として記載された事項
の範囲においてのみ訂正が可能となり,「ブリッジ」の意味については,
実施例に記載したところにより解釈しなければならない。
イ本件明細書では,実施例1の記載並びに第1図及び第2図において,「ブ
リッジ」の構成が,次のとおり示されている。
「この弁棒12の貫通穴空間21の下部において,貫通穴空間21を貫通
し弁棒12の両側に突出した四角柱状のブリッジ13をダイヤフラム押
え9の上面に渡る様に載せる。ブリッジ13の底面は弁棒12の貫通穴
空間21の底部と弁棒が上昇する分以上の隙間をあけておく。そしてブ
リッジ13の中央部で貫通孔空間21内に柱状の積層型圧電素子8を裁
置して設ける。従って積層型圧電素子8の下端はブリッジ13を介して
バルブ本体1で支持され,且つ上端は弁棒12に当接している。」(甲
2の1・3頁5欄21行∼29行,甲2の2・5頁22行∼26行)
このように,本件明細書の実施例には,「ブリッジ」が「貫通穴空間」
を貫通する部材であること及びその両端が弁棒の両側に突出していること
が記載されている。そして,「両端」という以上,一方の端と他方の端と
は連続したものと解釈されるべきであり,このように解釈することは,「ブ
リッジ」が貫通穴空間を貫通する部材であることとも整合する。
また,第1図及び第2図には,「ブリッジ」が四角柱状の一体の部材と
して示されている。
ウ以上のことから,構成要件Fの「ブリッジ」とは,四角柱状の一体の部
材でなければならないと解するのが相当である。
エこれに対し,被告製品における割ベース26は,2つの別個の部材から
成っており,四角柱状でもない。また,割ベース26と下部受台9とは,
全く別個,別体の部材であり,下部受台9は割ベース26の上に載置され
ているにすぎず,その間に固定手段も施されていない以上,これらを一体
のものということはできない。さらに,割ベース26は,それぞれ別個に
挿入孔23aに挿入され,その一部がそれぞれ別個に弁棒の側面から突出
しているにすぎないものであるから,「貫通穴空間」を貫通する部材では
なく,弁棒からその両端が突出しているということもできない。
被告製品における割ベース26は,皿ばね18を弁棒内部に設け,円筒
状部材などの部材を不要にし,ダイヤフラム押さえ4を全周で押さえてダ
イヤフラム2の全周を均等に押圧することでシール性能を向上させるな
ど,特有の作用効果を奏するものであり,本件発明における「ブリッジ」
と同列に見るべきものではない。
オ以上のとおり,被告製品は,構成要件Fの「ブリッジ」を有しておらず,
構成要件Fを充足しない。
[被告の主張に対する原告の反論]
構成要件Fの「ブリッジ」が「四角柱状の一体の部材」に限定されると解
釈されるような記載は,本件明細書にも出願経過書面の中にも存在しない。
構成要件Fの「ブリッジ」とは,前記[原告の主張]のとおり,「バルブ本
体に対して,橋状に掛け渡され固定された部材であって,その上に積層型圧
電素子を載せることで,積層型圧電素子をバルブ本体に対して支持するよう
な部材」であれば,それで十分であり,本件明細書に記載された実施例に限
定されるものではない。
構成要件Fの「ブリッジ」とは,被告の主張するように「四角柱状の一体
の部材」でなければその作用効果(前記[原告の主張]参照)が果たせない
ものではなく,「ブリッジ」の具体的な形状としては,様々なものがあり得
る。「ブリッジ」の形状を具体的にどのようなものにするかは,当業者がバ
ルブ全体の設計を行う中で適宜選択し得る設計的事項である。
(4)争点2−1(平成4年補正は発明の要旨を変更するものであり,本件特許
は新規性を欠くか)について
[被告の主張]
ア前記第2の1(3)のとおり,当初明細書における特許請求の範囲請求項1
は,別紙特許請求の範囲の「当初明細書」欄記載のとおりであったのが,
平成3年補正により同表の「平成3年8月9日付け補正」欄記載のとおり
補正され,さらに,平成4年補正により,同表の「平成4年6月19日付
け補正」欄記載のとおり補正された。
そして,平成4年補正後における特許請求の範囲請求項1と当初明細書
における請求項1とを比較すると,平成4年補正において「該弁棒を弁座
方向に変位させ,前記ダイヤフラムを弁座に当接させる押圧力を生じる付
勢手段」とされた部分(構成要件E。なお,この部分は,その後の平成5
年補正及び本件訂正によっても補正ないし訂正はされていない。)は,当
初明細書における,「前記円筒状部材と弁棒との間に押圧ばねを介在して
弁棒をバルブ本体に設けた弁座側に押圧させ,」との記載に対応する。
イしたがって,仮に,構成要件Eの「付勢手段」の意味を,原告の主張す
るように,「弁棒を弁座方向に押し付けるような何らかの「付勢手段」を
装置に取り付ければよい」と解するのであれば,平成4年補正後の構成は,
当初明細書における構成を極めて広い範囲で拡張したものとなるのであ
り,そのような構成は,当初明細書(乙2)に記載されていない。前記特
許請求の範囲の記載以外に,弁棒を弁座方向に押し付けるための手段につ
いて当初明細書に記載されていたものは,以下の記載ですべてであり,図
面も,本件明細書の第1図ないし第3図と同じものが示されていただけで
ある。
「[問題点を解決するための手段]
本発明の要旨は,バルブ本体の上面と固定した円筒状部材に弁棒を設け,
前記円筒状部材と弁棒との間に押圧ばねを介在して弁棒をバルブ本体に
設けた弁座側に押圧させ,」(5頁4行∼8行)
「[作用]
本発明は,上記の構成であるから,通常は円筒状部材と弁棒との間に設
けた押圧ばねによって弁棒はバルブ本体に設けた弁座側に押圧され弁は
閉止されている。」(5頁15行∼19行)
「[実施例]
(中略)次に弁の開閉を行なう駆動部について説明する。上記本体1と
固定した円筒状部材2内に弁棒12を設け,弁棒12の下端面をダイヤ
フラム7の中央部上面に接触さる。弁棒12は中間部に第3図で示すご
とくこの軸直角方向に下部の端部および中間部の上端部を残して溝状の
貫通穴空間21を形成し,上部外面を中間部の外径より小径の円筒状に
してこの段差部と円筒部材2の上部内面との間に押圧ばね14を設け弁
棒12を下方に押圧している。」(6頁11行∼8頁6行)
以上のとおり,当初明細書には,弁棒を弁座方向に押し付けるための手
段として,円筒状部材を設け,弁棒の外側に配置した押圧ばねを円筒状部
材と弁棒との間に設ける,という構成のみが開示されており,押圧ばねを
弁棒の内部に配置する構成や,円筒状部材のない構成については,何らの
記載も示唆もない。したがって,原告の上記解釈を前提とすると,平成4
年補正における特許請求の範囲の記載の変更は,当初明細書の記載事項の
範囲内でされたものとはいえず,当初明細書の要旨を変更するものとなる。
ウよって,平成4年補正に係る特許の出願は,同補正について手続補正書
(乙5)を提出した平成4年6月22日に行われたものとみなされる(平
成5年4月23日法律第26号による改正前の特許法40条,41条)。
そうすると,本件特許は平成元年3月2日に出願公開がされているので,
本件特許は,特許法29条1項3号に違反するものとして,同法123条
1項2号により無効とされるべきものとなる。
[原告の主張]
ア特許請求の範囲を変更する補正が当初明細書の要旨を変更するものであ
るか否か(当初明細書に記載された事項の範囲内であるか否か)は,当初
明細書の具体的な記載事項の範囲であるか否かによって決まるものではな
く,当初明細書の具体的記載に基づいて当業者が認識する発明であるか否
かによって定まるものである。
イ当初明細書(乙2)には,次の記載が存在する。
「[問題点を解決するための手段]
本発明の要旨は,バルブ本体の上面と固定した円筒状部材に弁棒を設
け,前記円筒状部材と弁棒との間に押圧ばねを介在して弁棒をバルブ本
体に設けた弁座側に押圧させ,弁棒内には空間を設けて該空間内に電圧
を印加することにより長さが変位する素子を設け,該素子の上面は前記
空間の上部内面に係止すると共に素子の下面はバルブ本体と固定された
部分に係止させ,前記素子に電圧を印加することにより弁棒を上方に押
上げる様にしたことを特徴とする流体の流量制御バルブである。」(5
頁4行∼14行)
「[作用]
本発明は,上記の構成であるから,通常は円筒状部材と弁棒との間に
設けた押圧ばねによって弁棒はバルブ本体に設けた弁座側に押圧され弁
は閉止されている。
そして電圧を印加することにより膨張する素子は,その下面がバルブ本
体と固定された部分に係止し,上面が弁棒内に設けた空間の上部内面に
係止しているため,素子に電圧を印加して膨張すると弁棒を弁座側に押
圧している押圧ばねに抗して弁棒を上方に押上げ弁を開にする。
このため流体室,特に入口ポート側には押圧ばねや調整ねじ等の可動部
材を設けなくとも済むので摩耗金属粉の発生による流体内への混入がな
い。又腐食性流体と接触する金属面積を最小にできるのでバルブ本体内
を清浄に保つ。」(5頁15行∼6頁10行)
上記[作用]に説明されているとおり,本件発明の核心たる発明思想は,
①バルブ本体の弁座側に押圧されている弁棒を,②その内部の空間に設け
た圧電素子への電圧印加によって押し上げることによって弁の開閉を行う
ことで,③流体が流れる側に押圧ばねや調整ねじ等の可動部材を設けなく
て済む,という点にある。そして,当業者が上記[作用]の記載を参照す
れば,上記押圧ばねの目的機能は弁棒を下方に付勢すること(それにより
ダイヤフラムを弁座に向かって下方に押し付けること)にあり,このよう
な付勢手段は,必ずしも,実施例に記載された特定の位置に設けられる必
要も,実施例のようなばねである必要もないことを,容易に認識すること
ができる。
ウ以上のとおり,平成4年補正後の特許請求の範囲に記載された構成のす
べては,当初明細書に記載されていたことが明らかである。平成4年補正
は,当初明細書における特許請求の範囲の記載が,付勢手段を実施例に記
載された押圧ばねの具体例のレベルまで限定した点において,限定のし過
ぎであったことから,この限定を除いたにすぎず,当初明細書の要旨を変
更するものではない。
(5)争点2−2(本件発明の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号
(記載要件)に違反するか)について
[被告の主張]
ア構成要件Eは,「該弁棒を弁座方向に変位させ,前記ダイヤフラムを弁
座に当接させる押圧力を生じる付勢手段と,」というものであり,この記
載には,弁棒を弁座方向に付勢するという機能を果たす何らかの手段とい
う以上の意味はない。上記記載は,抽象的・機能的な概念による記載とい
うほかなく,具体的な装置の構成を示したものとは言い難い。
また,本件明細書でも,前記(2)[被告の主張]のとおり,実施例1(「弁
棒の上部外面にある段差部と円筒状部材の上部内面との間に設けられてい
る押圧ばね」という付勢手段が開示されている。)を記載した以外の箇所
においては,「付勢手段」の具体的な構成を特定するに足りる記載はみら
れない。
イしたがって,仮に,構成要件Eを,原告の主張するように「弁棒を弁座
方向に押し付けるような何らかの「付勢手段」を装置に取り付ければよい」
と解した場合,そのような特許請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明に
記載されたものであるということはできない。
よって,本件特許は,特許法36条6項1号に違反するものとして,同
法123条1項4号により無効とされるべきものである。
[原告の主張]
前記(4)[原告の主張]のとおり,構成要件Eは,当業者が当初明細書に記
載されている技術内容から把握することのできる構成であり,発明の詳細な
説明に記載されたものである。したがって,構成要件Eの記載が特許法36
条6項1号違反となるものではなく,被告の主張は理由がない。
(6)争点3(被告の過失の有無)について
[被告の主張]
ア本件特許は,以下のとおり,本件訂正前の特許請求の範囲の記載を前提
とする限り,進歩性を欠き無効となるべきものである。
(ア)1987年(昭和62年)6月2日に公開された米国特許公報第4
669660号(乙10)記載の発明(以下「乙10発明」という。)と
本件訂正前の本件発明とを,被告が申し立てた本件特許の無効審判請求に
対する特許庁の審決(甲14)の認定を基に対比すると,「流入口と流出
口をつなぐ流路を有するバルブ本体と,該バルブ本体の流路の一部に設け
られた弁座と,該弁座に対向して配置し,前記弁座に対し当接と離間をす
る仕切り機能を有する弁体と,該仕切り機能を有する弁体に関して弁座と
は反対側で上下動自在に設けた弁棒と,該弁棒を弁座方向に変位させ,前
記仕切り機能を有する弁体を弁座に当接させる押圧力を生じる付勢手段
と,電圧を印加することにより長さが伸長し,一端が前記バルブ本体で支
持されると共に,他端が前記弁棒に当接した積層型圧電素子とを有し,該
積層型圧電素子の長さが伸長したとき,前記付勢手段の押圧力に抗して前
記弁棒を押上げ仕切り機能を有する弁体自身が弁座から離間するノーマル
クローズ型流量制御バルブ。」である点において一致し,①仕切り機能
を有する弁体に関し,本件発明は「自己弾性復元力を有」する「ダイヤフ
ラム」であるのに対し,乙10発明は「薄膜9と閉止片7とからなるもの」
である点,②弁棒の弁座に対する配置関係の基準となる部材に関し,本
件発明は「ダイヤフラム」であるのに対し,乙10発明は「薄膜9と閉止
片7とからなるものの薄膜9」である点,③仕切り機能を有する弁体に
関し,本件発明は「ダイヤフラム」を弁座に当接させるのに対し,乙10
発明は「閉止片7」を弁座5に当接させる点,④仕切り機能を有する弁
体に関し,本件発明は「ダイヤフラム」自身が弁座から離間するのに対し,
乙10発明は「薄膜9と閉止片7とからなるものの閉止片7」自身が弁座
5から離間する点,において相違する。
(イ)しかしながら,バルブにおいて,自己弾性復元力を有する膜状シー
ルで,2つの室を仕切るダイヤフラムを弁座に対向して配置し,弁座に対
し当接と離間をさせる流量制御バルブは,周知の技術事項であるから,乙
10発明において,流量制御バルブの仕切り機能を有する弁体として弁棒
に接続されている薄膜9と閉止片7とからなるものに代えて同様の機能を
有する上記周知の技術事項を適用することにより,上記相違点①ないし④
の構成とすることは,当業者が容易に想到し得るものであり,上記(ア)の
審決においても同様の認定がされている。
(ウ)したがって,本件訂正前の本件発明は進歩性を欠くものであり,無
効とされるべき事由があったといえる。
イ本件特許権は,登録後に本件訂正がされたことにより,審決及び審決取
消訴訟では有効な特許(進歩性を欠くものではない)と判断されてはいる
ものの(甲14,15),実施行為時点における被告には,原告がどのよ
うな訂正を行なうかを予見することはできない。そして,訂正後の特許請
求の範囲を予見することができない以上,少なくとも原告が訂正審判請求
をする以前においては,訂正後の特許請求の範囲を前提とした特許権侵害
について被告に予見可能性がないことは明らかであり,被告に特許権侵害
という結果を回避すべき義務は認められない。
したがって,結果として,被告の実施行為が本件特許権侵害となるとし
ても,少なくとも,原告が本件訂正審判を申し立てる以前の被告の行為に
ついては,被告に過失はない。
[原告の主張]
ア本件訂正により,本件特許は,特許出願の時点から現在の請求項であっ
たとみなされるものであり(特許法128条),本件訂正前の被告製品の
実施行為についても,現在の請求項に基づいて侵害行為や過失の有無が決
定される。被告の主張は,その前提である「訂正前の請求項の進歩性欠如」
という主張が,明らかに上記特許法の規定に反するものであり,認められ
ない。
イまた,本件訂正は,弁棒がその内部に「貫通穴空間を有する」というこ
とと,積層型圧電素子がその「貫通穴空間に収容」され,「ブリッジを介
して」バルブ本体に支持されるということを請求項に付け加えたものであ
るが,棒状の積層型圧電素子が弁棒内部の「貫通穴空間」に収容され,「ブ
リッジを介して」バルブ本体に支持されるという構成は,本件訂正前の明
細書に実施例及び図面(第1図,第2図)として開示されていた。
したがって,本件明細書に接した当業者であれば,このような構成が訂
正前の請求項に含まれること,及び,この構成がより明確になるような請
求項の減縮訂正も可能であることを,容易に理解することができたはずで
ある。
よって,本件特許権侵害について被告に過失がないとはいえない。
(7)争点4(被告の不当利得の額)について
[原告の主張]
被告は,平成15年1月から平成16年12月末日までの間に,被告製品
●(省略)●台を販売し,●(省略)●円の売上げを得た。本件特許の実施
料率は,被告製品の売上げに対する本件発明の寄与度を考慮したとしても,
被告製品の売上げの額の3%とするのが相当であるから(甲11),被告の
不当利得の額は,●(省略)●円を下らない。
よって,原告は,被告に対し,不当利得返還請求権に基づき,●(省略)
●円及びこれに対する弁済期(前記第2の1(7)の催告の日)の翌日である平
成19年12月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延
損害金の支払を求める。
[被告の主張]
ア被告が平成15年1月から平成16年12月末日までの間に被告製品●
(省略)●台を販売し,●(省略)●円の売上げを得たことについては,
認める。
本件特許の実施料率が上記売上げの額の3%であることについては,争
う。仮に,原告の被告に対する不当利得返還請求権が認められるとしても,
後記イのとおり,被告製品における流量制御バルブの部品価格構成比が2
0%程度にすぎないことや,被告製品が本件発明に係るノーマルクローズ
型流量制御バルブの構成を有することは同製品の売上げに何ら寄与してい
ないことなどを考慮すると,被告の不当利得の額は,被告製品の売上げの
額の5%に原告の主張する実施料率である3%を乗じた金額(●(省略)
●円×5%×3%=●(省略)●円)を超えるものではない。
イ(ア)被告製品における流量制御バルブの部品価格構成比について
被告製品は,流体の圧力を測定し,その測定値に基づき流体の流量を
制御するものである。そのため,被告製品は,流量制御バルブを制御す
るための圧力センサ,電気回路など,バルブ以外に多くの装置を搭載し
ており,これらの部分は,元来,本件発明の対象とするところとは無関
係である。
被告製品中,流量制御バルブにかかる部分は,製品により比率は異な
るものの,部品価格構成比で20%程度にすぎない。また,原告が販売
している,ノーマルクローズ型流量制御バルブを内蔵した流量制御装置
(SFC1470及びSFC1480シリーズ。以下「原告製品」とい
う。)でも,制御装置の価格と,そこからバルブを除いたマスフローメ
ーターの価格とを比較すると,前者が19万2000円であるのに対し,
後者は16万5000円である(乙22)。上記マスフローメーターは,
マスフローコントローラーから,バルブだけでなく流量制御にかかる回
路も除かれたものであり,その価格は,マスフローコントローラーの約
86%を占めている。
(イ)被告製品の売上げに対する流量制御バルブの寄与度について
a被告製品の販売された期間(平成15年∼平成19年)におけるマ
スフローコントローラー(質量流量制御装置)の市場シェアは,株式
会社堀場エステック及びアドバンスドエナジージャパン株式会社(両
社を併せて,以下「競合会社」という。)が約90%のシェアを占め,
原告は10%弱のシェアを占めていたにすぎない。また,競合会社の
ノーマルクローズ型流量制御バルブは,流室に押圧ばねその他の稼働
部材が設けられており,その構成は,本件明細書の第4図に示された
ものと同様である。
このことから,本件発明にかかるノーマルクローズ型流量制御バル
ブは需要者にとっての購入要因となっておらず,被告製品の売上げに
寄与しているとは言い難いことが明らかである。
b流量の制御機能は,バルブそのものよりも,バルブの開閉を制御す
るためのシステムに依存するものである。バルブそのものは,電気信
号により開閉をする以上のことはできず,制御の観点からすると,上
記開閉をどのように制御するのかということが,決定的な重要性を持
つ中心的な技術である。
被告製品における流量制御の原理は,次のとおり,従来のマスフロ
ーコントローラー(以下,単に「マスフローコントローラー」という
ことがある。)とは根本から相違しており,従来のものよりも高い精
度,性能を有している。被告製品の購入者は,後記cのとおり,この
ような被告製品の技術的優位性に着目して被告製品を購入したもので
ある。
(a)流量制御装置への技術的要求
被告製品及び原告製品は,半導体の製造工程中,シリコンウェー
ハにトランジスタなどの素子や配線を作り込むため何種類ものパタ
ーンを順次形成する,いわゆる前工程において主として用いられる
ものである。前工程においては,膜の形成,フォトレジストパター
ンの形成,フォトレジストパターンを用いて膜をエッチング加工す
るといった工程があり,その工程ではウェーハ表面に多種多様なガ
スを供給する。これらの工程では極めて微細・高精度の加工が必要
であり,供給されるガスの供給量の制御も正確かつ変動のないこと
が要求される。他方,生産性の観点からは,上記プロセスは高速か
つ連続して行わなければならないし,省スペース,省コストなどの
要請にも応える必要がある。
(b)マスフローコントローラーによる流量制御
原告製品は,いわゆるマスフローコントローラーに属する質量流
量制御装置であり,質量(重さ)により流体の流量をとらえ,この
質量流量を測定して流量の制御をするものである。
マスフローコントローラーでは,以下の図のとおり,制御バルブ
の上流に流量センサが設けられ,ガスはバイパスとセンサに分流さ
れ,センサ部にガスが達するようになっている。センサ部には,2
本のコイル(サーマルセンサ)が細い管に巻き付けられ,流体が流
れていないときは2本のコイルの温度は等しいが,この管を流体が
通過するときに,ガスは,まず上流側のコイルから熱を奪い,次い
でその熱を下流側に設置したコイルに伝えることで,それぞれのコ
イルに温度差が生じる。この温度差をブリッジ回路により電気信号
として取り出し,流体の質量流量を計測して,これを制御弁に伝達
する。そして,流量が設定流量よりも低い場合は制御バルブを開き,
設定流量よりも高い場合は制御バルブを閉める方向に制御する。
(c)被告製品による流量制御
これに対し,被告製品は,制御バルブの下流側で,圧力センサに
より,流路内の圧力を検知して流量を制御するものである。
これは,流路にオリフィス(通り口をもった円盤状の障害物)が
設置されている場合,オリフィスの上流側圧力が下流側圧力の2倍
以上あるときは,オリフィスを流れ出るガスは音速となり,その流
量は上流圧力のみに依存することを利用するものである(乙16の
1∼6)。すなわち,下記図においてP1>2×P2の場合,オリ
フィスの上流側の圧力P1とオリフィス下流側での流量は比例する
関係にあり,圧力P1を制御すればオリフィス下流側における流量
を制御することができる。
被告製品は,上記原理に基づき,オリフィスの上流側における圧
力P1を圧力センサにより検知し,オリフィスより上流にあるバル
ブを制御して,圧力P1が設定流量に対応した圧力になるように調
整し,オリフィスの下流側における流量を制御するものである。
(d)被告製品のマスフローコントローラーに対する技術的優位性に
ついて
①流量制御装置より上流の流体圧力変化の影響
一般的な半導体装置では,1つのガスの管路を途中で分岐して
複数の流量制御装置にガスを流す。そのため,1つの流量制御装
置(装置1)が流量制御をしているとき,他の流量制御装置(装
置2)にガスの供給が開始されたり供給が停止されたりすると,
装置1の経路の圧力及び流量に変動が生じることとなるが,半導
体製造におけるエッチング等における微細な加工をするために
は,このような圧力変動の影響によって流量が変動することを避
ける必要がある。
以上のような供給圧力の変動があった場合,マスフローコント
ローラーでは,制御バルブの上流の温度センサが圧力変動から来
る流量の変動を探知することとなるが,上記温度センサは温度変
化に基づき流量を測定するものであるため,応答速度が十分に早
いとは言い難い。また,圧力変動による流量変動を制御しようと
すると,制御がふらつくなどして下流に流れる流体の流量が大き
く変動するので,この影響を回避するため,その上流に,圧力を
一定に調整するレギュレータなどを設置し,供給圧力を安定化し
なければならない。
これに対し,被告製品における圧力センサは,圧力変化に対す
る応答性が極めて高いため,上流側の圧力変動があっても,即時
にバルブの開閉を調整し,一定の流量に保持することができる。
そのため,被告製品では,マスフローコントローラーでは必要な
上記レギュレータなどが不要となり,半導体製造装置におけるガ
スの供給装置全体がコンパクトになるとともに,大きなコスト削
減となる。
なお,原告は,後記[被告の主張に対する原告の反論]イ(ウ)
aのとおり,被告製品は制御可能な条件が「P1>2×P2」で
あるため,下流側の圧力変化があった場合に上記条件を外れて制
御不能となる場合があり得ると主張する。しかしながら,被告製
品は,仮に下流側の流体圧力の変化があった場合でも「P1>2
×P2」の条件を必ず充足するよう設計されている装置において
のみ採用される製品なので,原告の主張するように制御不能とな
ることは,あり得ない。
②流量制御の精度
流量制御装置は,流量をあらかじめ設定して,その流量が一定
するように制御を行うものであり,設定した流量に対して実際に
流れる流量との誤差が小さくなければならない。
この点について,原告製品における流量精度は「F.S.±0.
5%」(甲4の4。フルスケール(最大流量。以下「FS」とい
う。)に対する精度(誤差率)が±0.5%)であるのに対し,
被告製品における流量精度は「S.P.±1.0%,F.S.±
0.1∼0.3%」(甲5。セットポイント(設定流量。以下「S
P」という。)に対する精度(誤差率)が±1.0%。FSに対
する精度が±0.1∼0.3%)であり,原告製品より格段に精
度が高い。
③オーバーシュートの問題
マスフローコントローラーでは,上流の圧力が下がると,下流
の圧力との差圧がなくなるため流量が下がり,バルブ開とする信
号が出されて流体が流れる。しかしながら,温度センサの温度分
布が安定するまでに時間がかかるため,ガスが十分に流れている
にもかかわらず,温度センサの測定では流量が十分でないとされ
てバルブ開の指令が出され,流れすぎ(オーバーシュート)とな
る。
これに対し,被告製品は,圧力センサの高い応答性により上記
温度センサにおけるようなタイムラグがないため,オーバーシュ
ートの問題はない。
④マルチガスへの対応
半導体製造においては多様なガスを用いており,流量制御装置
は,それらのガスに対応しなければならない。
この点,マスフローコントローラーでは,温度センサの感度の
相違といった理由により,ガスの種類とそのFS流量レンジごと
に,極めて多数のマスフローコントローラーを準備保有しておく
必要がある。
これに対し,被告製品は,フローファクターという概念(窒素
における数値を1.000000とした場合の他のガスの設定数
値をあらかじめ定めておき,使用するガスの数値を被告製品に入
力することにより,仕様ガス種に対応させるもの。)により,1
つの流量制御装置で複数のガスに対応できるよう構成されてい
る。
⑤取付け姿勢
原告製品は,装置が水平に設置されることを前提に,測定・制
御の調整がされている。もし,マスフローコントローラーの姿勢
を変更して斜めにした場合,ガスの通る細い管も斜めになり,対
流等による流量の測定誤差が発生する可能性がある。
これに対し,被告製品は,制御バルブの下流での圧力を測定し
て流量を制御するものであるため,取付け姿勢に影響を受けず,
どのような姿勢での取付けも可能である。
⑥ゼロ点管理
流量制御装置においては,流量ゼロの場合のセンサの出力値(い
わゆるゼロ点)が変動しないこと及び変動した場合にこれをチェ
ックして補正することが必要である。
この点,マスフローコントローラーのセンサ部は,細い管に2
本のコイルが巻き付けられているため,経年変化によりゼロ点が
変動しやすい。
これに対し,被告製品のセンサは,圧力センサであるため構造
的に経年変化が起こりにくい。また,被告製品は,ゼロ点の変動
の管理機能を有しており,ゼロ点をチェックするときにゼロ点に
変動があった場合は,ゼロ点の変動部分を補正し,変動値が一定
以上になったときは,異常とみなしアラームを発する。
⑦流量自己診断機能
被告製品は,ウェーハ1枚ごとにガス流量の精度を検証するこ
とができる。この機能は,時間と圧力の降下特性を利用するもの
であるため,圧力を測定することができることが前提となってい
る。圧力測定機能を備えていないマスフローコントローラーでは,
上記機能を備えることができない。
c被告は,半導体製造装置メーカーである東京エレクトロン株式会社
(以下「東京エレクトロン」という。)に対し,被告製品のほぼすべ
て(売上高の●(省略)●%)を,東京エレクトロンのエッチング装
置向けにガス集積化システムに組み込んで販売した。東京エレクトロ
ンが被告製品を購入した経緯は,次のとおりである。
(a)被告は,被告の従業員が被告製品の基本構成にかかる圧力式流
量制御装置を発明したことを受け,平成7年6月12日,一連の発
明に関して最初の特許出願をした。被告は,上記発明を東京エレク
トロンに示したところ,同社は,これを高く評価し,平成9年3月
12日付けで,被告との間で,圧力式流量制御装置を使用した半導
体製造のためのエッチング装置用のガス供給装置の共同開発に関す
る覚書(乙17)を取り交わした。
(b)被告と東京エレクトロンは,上記圧力式流量制御装置の完成後,
平成14年4月1日付けで,成果物の取扱いにかかる契約を締結し
た(乙18)。同契約により,被告は東京エレクトロンに対して第
三者より有利な条件で製品を販売し,東京エレクトロンは被告のみ
から製品を購入する旨が約された。
(c)上記のような共同開発が進行したのは,東京エレクトロンの圧
力式流量制御装置に対する高評価,特に,レギュレータなどが不要
となったことによるコスト面等の優位性(前記b(d)①を参照)が
大きな動機となっていた。また,東京エレクトロンは,圧力式流量
制御装置の技術を基礎に,被告に対し,流量精度(SP±1%以下),
流量自己診断機能,ゼロ点監視機能,マルチガス対応など,高い技
術的要求,仕様の達成を求めた。
(d)東京エレクトロンは,半導体製造のためのエッチング装置用と
して,被告製品を顧客に告知し(乙19),被告製品の販売が開始
されてからは,被告製品を継続して購入した。被告製品は,集積化
ガスシステムの構成装置の1つとして同システムに組み込まれ,東
京エレクトロンは,集積化ガスシステムをそのエッチング装置に標
準搭載し,これらのエッチング装置を半導体製造メーカー等に販売
した。
d被告製品の販売先中,東北大学への販売分(売上高の●(省略)●
%)は,被告製品の開発に協力し,関連特許の共同出願人でもある同
大学の教授に対し,被告製品に関連する研究用として販売したもので
ある。
e東京エレクトロン及び東北大学以外の販売先への販売(売上高の●
(省略)●%)も,東京エレクトロンと同様,被告製品を購入した動
機は,同製品のバルブ以外での技術的優位性によるものである。被告
製品の購入者は,同装置を組み込んだ集積化ガスシステムに原告製品
を組み入れることはできないため,原告製品を購入することはない。
(ウ)適正な実施料率
以上の事実を考慮すると,本件発明に係るノーマルクローズ型流量制
御バルブの構成を有することが被告製品の販売利益に寄与している割合
は,5%を超えるものではない。
よって,被告の不当利得の額は,被告製品の売上げの5%に原告の主
張する実施料率である3%を乗じた金額を超えるものではない。
[被告の主張に対する原告の反論]
ア流量制御バルブの部品価格構成比について
被告は,原告製品において,制御装置(SFC)の価格と,そこからバ
ルブを除いたマスフローメーター(FMT)の価格とを比較すると,FM
Tの価格は,マスフローコントローラーの約86%を占めていると主張す
る。
しかしながら,SFCとFMTとの違いは,アクチュエータ(圧電素子
部分)の有無だけで,その他の構成は共通しており,FMTの価格には,
本件発明の構成に関する部分の価格も含まれている。また,FMTの価格
の中には,当然,管理費等の固定費も含まれている。原告製品における本
件発明部分の部品価格構成比は,40%ないし50%程度である。
イ被告製品の売上げに対する流量制御バルブの寄与度について
(ア)被告は,マスフローコントローラーの市場では競合会社が約90%
のシェアを占めており,本件発明に係るノーマルクローズ型流量制御バ
ルブは需要者にとっての購入要因となっていないと主張する。
しかしながら,構造の異なる競合会社の製品のシェアが高いことは,
被告製品における本件特許の寄与率が低いことの理由付けにならない。
被告製品における本件特許の寄与率は,被告製品における性能向上に本
件特許がどの程度寄与しているかによって定められるべきである。
(イ)被告は,流量の制御機能はバルブそのものよりもバルブの開閉を制
御するためのシステムに依存するものであり,バルブの開閉をどのよう
に制御するのかということが,決定的な重要性を持つ中心的な技術であ
ると主張する。
しかしながら,流量の制御は,測定した流量値に基づいてバルブの開
閉を行うことにより行われるのであり,被告は,その流量制御バルブと
して,本件特許権を侵害する構造のバルブを使用している。センサ部分
の性能が如何に優れていたとしても,実際の流量の制御を行うバルブ部
分が流量の制御を正しく迅速に行うことができなければ,流量制御装置
としての性能は全く発揮されないものであり,被告製品も,本件発明の
流量制御バルブを使用することによって,流量制御装置としての高い性
能を実現している。被告の主張は,被告製品の性能は専ら圧力センサの
特性によるものであると説明している点において,誤っている。
(ウ)被告は,被告製品は制御バルブの下流側で圧力センサにより流路内
の圧力を検知して流量を制御するものであり,原告製品のようにマスフ
ローコントローラーにより流量制御を行うものに対し,多くの技術的優
位性を持つと主張する。
しかしながら,次のとおり,被告の上記主張には多くの誤りがある。
また,マスフローコントローラーによる流量制御の方が圧力式の流量制
御よりも優れている点も存在する。
a流量制御装置より上流側の流体圧力変化の影響
被告製品は,制御可能な条件が「P1>2×P2」であるため,下
流側の流体に圧力変化があった場合に制御可能な範囲が変わってしま
うという問題,すなわち,下流側の圧力変化があった場合に,上記の
条件を外れて制御不能になる場合があり得る。
これに対し,マスフローコントローラーは,制御バルブの上流側に
配置したサーマル式の流量センサの出力信号に基づいて流量を制御す
るので,下流側の圧力変動の影響を受けずに流量制御することができ
る。
このように,下流側の圧力変化に対しては,マスフローコントロー
ラーの方が優れているといえ,被告製品の方が一方的に優れていると
はいえない。
b流量制御の精度
原告製品のカタログ(甲4の4)には,「仕様」欄の「精度」とし
て,「フルスケールの±0.5%」と記載されている。一方,被告製
品のカタログ(甲5)には,「仕様」欄の「流量精度」として,「標
準タイプ」について,設定信号10∼100%の範囲ではセットポイ
ント(SP)の±1.0%,設定信号1∼10%の範囲ではフルスケ
ール(FS)の±0.1%と記載されている。被告は,この「FS±
0.1%」という数値を,原告製品の「FS±0.5%」と比較して,
被告製品の方が「格段に精度が高い」と主張する。しかしながら,こ
のような主張は,設定信号の範囲を無視した議論であって正しい比較
ではない。原告製品は,SPの流量にかかわらず,どの流量において
も一律にFSの±0.5%の精度を保証しているのに対し,被告製品
は,SPが1ないし10%の範囲(流量の少ない範囲)ではFSの0.
1%という高い精度を保証するが,SPが10ないし100%の範囲
(流量の多い範囲)ではSPの±1.0%と精度が落ちる。
以上のとおり,SP50%以上の流量範囲では,(同じFSの流量
制御装置であれば)原告製品の方が流量精度が高いものであり,流量
精度の点で被告製品の方が優れていると一概にはいえない。また,流
量の低い範囲についても,必要があればセンサの校正精度を上げるこ
とで,被告製品と同程度の流量精度を実現することは可能である。
cオーバーシュートの問題
マスフローコントローラーでも,サーマル式の流量センサの上流側
に圧力センサを付設して,流量センサ上流側の圧力変動を監視し,あ
る圧力変動があった場合にはオーバーシュートが発生しないよう,圧
力センサの信号に基づいて流量制御することによって,オーバーシュ
ートの問題に対応することは,可能である。実際,原告は,そのよう
な製品をラインナップしている。
dマルチガスへの対応
マスフローコントローラーでも,各ガスを流した場合のセンサの出
力特性データをメモリーに記憶させ,流すガスごとにセンサの出力特
性データを切り換えて流量を制御することにより,1つの流量制御装
置で複数種のガスを制御することは可能である。
e取付け姿勢
マスフローコントローラーでも,流量センサの配置方法を工夫する
(例えば,2本のコイルが水平となるように配置する。)ことにより,
制御装置本体の姿勢については,相当な自由度を持たせることが可能
である。
fゼロ点管理及び流量自己診断機能
これらの機能は,流量制御装置としての本質的な機能ではなく,被
告製品のもっている付加的な機能にすぎない。
ゼロ点管理は,流量制御する装置において当然に行わなければなら
ないことであり,サーマル式の流量センサを使用した原告製品も,ゼ
ロ点管理を実施する機能を有している。また,流量自己診断機能は,
圧力センサを使用する被告製品の特徴事項の一つではあるが,原告製
品においても,マスフローコントローラーに圧力センサを付加するこ
とによって同様の機能を持たせることは可能である。
gマスフローコントローラーの方が圧力式流量制御より優れている点
(a)上記aのとおり,マスフローコントローラーは,制御バルブの
上流側に配置したサーマル式の流量センサの出力信号に基づいて,
流量を制御する。そのため,マスフローコントローラーは,下流側
の圧力変動の影響を受けずに流量を制御することができる。
(b)被告製品は,制御可能な条件が「P1>2×P2」なので,蒸
気圧が下流側の圧力(P2)の2倍以上となるようなガスにしか,
使用することができない。
(c)蒸気圧の低いガスをマスフローコントローラーで流量制御する
場合,蒸気圧を上げるために加温して流すことが行われる。この点,
被告製品は,圧力センサーの耐熱性の問題により,例えば,100
℃ないし150℃の加温には対応しておらず,流量制御することが
できない。
(d)被告製品は,数十ミクロン程度の外径のオリフィスをガスに通
過させるため,腐食性の高いガスを流した場合,生成物が発生し付
着しやすく,オリフィスにゴミのつまりも発生しやすい。これに対
し,マスフローコントローラーは,小径のオリフィスにガスを通過
させる構造ではないので,生成物やゴミの生成,付着の問題につい
ては,被告製品よりも優れている。
h以上のとおり,原告製品の採用するサーマル式の流量センサに基づ
く流量制御と被告製品の採用する圧力センサに基づく流量制御は,そ
れぞれ一長一短があり,どちらかが一方的に優れているものではない。
(エ)被告は,東京エレクトロンが被告製品を購入した理由は,専ら,被
告と東京エレクトロンが共同開発した圧力センサの性能によるものであ
ると主張する。
しかしながら,原告製品と被告製品が同一目的に使用される競合品で
ある以上,このような主張は意味がない。東京エレクトロンが被告製品
を大量に購入したのは,同社と被告との間の契約により,両社が共同開
発した流量制御装置を被告が東京エレクトロンに第三者より有利な条件
で販売し,東京エレクトロンは被告からのみ同製品を購入することとな
っていたからであり,被告製品の能力の高さによるものではない。被告
が被告製品を低価格で販売し得た理由の一つは,本件特許技術を無断で
使用し,原告に対して正当な実施料を支払っていなかったことにある。
被告製品の流量制御装置としての能力の高さは,前記のとおり,本件発
明に係る流量制御バルブの性能によるところが大である。
(8)争点5(原告の損害)について
[原告の主張]
ア原告製品の製造,販売
原告は,本件発明を使用したノーマルクローズ型流量制御バルブを,平
成9年以後,SFCシリーズ(原告製品)として販売している。
イ被告製品の製造,販売
被告は,平成17年1月から平成19年8月26日までの間に,被告製
品●(省略)●台を販売し,●(省略)●円の売上げを得た。
ウ被告製品の売上げに対する流量制御バルブの寄与度
前記(7)[被告の主張に対する原告の反論]のとおり,被告製品の中核を
構成するのは,本件発明を利用した流量制御バルブであり,残りの構成部
品は圧素電子を制御するための電子部品と外装ケースにすぎず,技術的な
重要度は低い。
このような本件発明に係る技術の価値を考慮した場合,被告製品の売上
げに対する流量制御バルブの寄与度は,40%を下るものではない。
エ被告及び南大阪フジキンの共同不法行為
特許侵害製品の製造及び販売に複数の企業が関与している場合,当該製
品の製造,販売を通じて各業者の行為が客観的に関連共同しているときは,
それらの業者はすべて最終的な特許侵害製品の製造,販売についての共同
不法行為者となり,各業者の得た利益の合計について特許法102条2項
が適用され,共同不法行為者全員が連帯してその賠償義務を負う。
この点,被告製品は,被告の関連会社である南大阪フジキンが製造し,
これを被告に販売したものであり,南大阪フジキンは被告のためにだけ被
告製品を製造し,被告は全量を南大阪フジキンから仕入れて販売している
関係にあるから,本件では,上記客観的関連共同性が存在する。
オ被告製品の販売による被告及び南大阪フジキンの利益額
被告は,南大阪フジキンから,上記被告製品●(省略)●台を合計●(省
略)●円で仕入れたものである。
また,南大阪フジキンにおける上記被告製品の製造原価については,原
告の申立てによる南大阪フジキンに対する文書提出命令(当庁平成21年
(モ)第1094号)にも南大阪フジキンが応じないため,正確な金額は明
らかでないものの,帝国データバンクの企業情報によると,平成17年な
いし平成19年の同社の純利益率は9ないし20%という水準にある(甲
10の2)。また,純利益とは,限界利益(製品の売上額から当該製品に
関する直接費用(製造原価)を引いた額)から間接費用(販売費及び一般
管理費)を引いたものであるところ,南大阪フジキンの間接費用率につい
ては公開されていないため明らかでないが,同社と同様に半導体製造プロ
セス用バルブを製造している株式公開会社(シーケーディ株式会社,株式
会社キッツ)の間接費用率は概ね15%ないし20%であることから(甲
12の1∼4,甲13の1∼4),南大阪フジキンにおける被告製品の製
造,販売に係る同社の限界利益率は,30%を超えるものとみられる。
したがって,被告及び南大阪フジキン(両社を併せて,以下「被告ら」
ということがある。)の利益を併せると,上記被告製品●(省略)●台の
製造,販売による被告らの粗利益は,上記イの売上高(●(省略)●円)
の40%を下らない。
カ小括
以上のとおり,被告製品の製造,販売による粗利益率を40%とし,被
告製品の売上げに対する流量制御バルブの寄与度を40%とすると,特許
法102条2項により原告が被告に請求し得る損害賠償額は,●(省略)
●円(●(省略)●円×0.4×0.4≒●(省略)●円)となる。
よって,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償の一部請求と
して,上記●(省略)●円のうち●(省略)●円及びこれに対する不法行
為の後である平成19年12月18日から支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金の支払を求める。
[被告の主張]
ア原告製品に本件発明が使用されていることについては,否認する。構成
要件Dの「貫通穴空間」,構成要件Eの「付勢手段」及び構成要件Fの「ブ
リッジ」の意味については,前記(1)ないし(3)の[被告の主張]のとおり
であり,原告製品はこれらの構成を有しない。
イ被告が平成17年1月から平成19年8月26日までの間に被告製品●
(省略)●台を販売し,●(省略)●円の売上げを得たこと,被告は上記
製品を南大阪フジキンから合計●(省略)●円で仕入れたことについては,
認める。
ウ被告製品の売上げに対する流量制御バルブの寄与度が40%を下るもの
ではないとの主張については,否認ないし争う。前記(7)[被告の主張]の
とおり,被告製品の売上げに対する本件発明の寄与度は,売上額の5%を
超えることはない。
エ被告製品の製造,販売による被告らの粗利益が売上高の40%を下らな
いとの主張については,否認ないし争う。
南大阪フジキンが平成20年4月1日から平成22年3月末日までの間
に被告に対して被告製品を販売した際の利益率(被告に対する販売額から
材料費,外注費及び加工・組立・検査・梱包費を控除した額を,上記販売
額で除した率。)は,南大阪フジキンの被告に対する報告書(乙32。以
下「南大阪フジキン報告書」という。)によれば,販売額の●(省略)●
%である。これ以前の時期における南大阪フジキンの利益率については,
同社のデータの関係上確認することができないものの,上記数値から大き
く異なると考えるべき事情はない。
オ損害の不発生(特許法102条2項の推定を覆す事情)
(ア)前記のとおり,マスフローコントローラーの市場においては,従来
技術によるノーマルクローズ型流量制御バルブである競合会社の製品が
約90%のシェアを占め,原告製品のシェアは10%程度にすぎず,本
件発明にかかるノーマルクローズ型流量制御バルブは,需要者にとって
の購入要因となっていない。また,上記市場シェアからすると,仮に,
被告製品が販売されなかったとしても,その売上げのうちの10%程度
が原告の売上げにつながる可能性があるにすぎない。
(イ)また,被告製品の大半の販売先である東京エレクトロンが被告製品
を購入した経緯は前記(7)[被告の主張]のとおりであり,このような販
売形態,販売経路その他の実態に照らせば,仮に被告装置が販売できな
かったとしても,原告が原告製品を被告の販売先に販売できる見込みは
なかったものである。なお,被告が被告製品を東京エレクトロンに販売
する以前,被告は対応するマスフローコントローラーの製造,販売をし
ていなかったため,東京エレクトロンは,競合会社からエッチング装置
用のマスフローコントローラーを購入していたが,原告製品は当時既に
販売されていたにもかかわらず,東京エレクトロンは原告製品を購入し
なかった。したがって,仮に,被告製品が販売されなかった場合,東京
エレクトロンは,原告製品を購入するのではなく競合会社からマスフロ
ーコントローラーを購入していたことは明らかである。
(ウ)被告製品の販売先中,東北大学への販売分については,同大学の教
授に対する被告製品に関連する研究用としての販売であるから,原告が
同大学に原告製品を販売できる余地はなかったものである。また,東京
エレクトロン及び東北大学以外の販売先についても,東京エレクトロン
と同様,これらの販売先が被告製品を購入した動機は,同製品のバルブ
以外での技術的優位性によるものである。被告製品の購入者は,同装置
を組み込んだ集積化ガスシステムに原告製品を組み入れることはできな
いから,被告製品に代えて原告製品を購入することはなかった。
(エ)以上のとおり,被告製品の販売による原告の損害は発生しておらず,
損害の発生がない以上,特許法102条2項の適用はない。
[被告の主張に対する原告の反論]
ア南大阪フジキン報告書は,「加工・組立・検査・梱包」費用の数値が異
常にばらついていたり(例えば,同じ型番の製品でも,上記費用が最も安
いものと最も高いものとの間で,10倍以上の差がある。),本来控除す
べきでない費用まで合計されている可能性が高いこと(例えば,同報告書
の資料(2)の「経費明細」をみると,修繕費,租税公課,共益費,賃貸料,
保険料,リース料,旅費交通費,通信費,減価償却費,諸会費,交際接待
費,会議費,試作研究費,新聞図書費,社員教育費,安全費,品質管理費,
手数料,雑費等が計上されているが,これらは,その内容が不明瞭であり,
売上高から控除すべき費用には当たらない。)などの問題があり,特許法
102条2項の被告利益の算定にそのまま利用できるものではない。一般
的に,製造業において,原価率が90%を超える製品などあり得ない。
また,南大阪フジキン報告書では,南大阪フジキンから被告に対する被
告製品の販売価格が1台当たり●(省略)●円となっている。しかしなが
ら,これは,平成17年1月から平成19年8月26日までの間に南大阪
フジキンから被告に対して販売された被告製品の1台当たり販売価格(●
(省略)●円)より約11%低下している。価格低下の要因は,平成20
年秋以後に日本経済を襲ったいわゆるリーマンショックによるものと推測
されるので,本件における損害額(被告らの利益額)の算定に当たっては,
1台当たり●(省略)●円という金額を用いるべきである。
イ仮に,南大阪フジキン報告書に基づいて被告らの利益額を推測するとし
ても,次のとおり,被告らの限界利益率は,被告の主張する●(省略)●
%を大きく上回る。
(ア)平成17年1月から平成19年8月26日までに被告が販売した被
告製品について,被告は,南大阪フジキンから合計●(省略)●円で被
告製品を仕入れている。
一方,帝国データバンクの企業情報(乙33)によると,平成17年
3月から平成20年3月までの各決算期における南大阪フジキンの総売
上高は,順に,112億6300万円,104億円,170億4400
万円,138億7000万円である。これらの数値から,平成17年1
月から平成19年8月までの南大阪フジキンの総売上高を推定すると,
約360億3900万円(112.63億円×(3÷12)+104億円+170.44億円
+138.7億円×(5÷12)≒約360.39億円)となる。
したがって,上記期間中の南大阪フジキンにおける,総売上高に対す
る被告製品の取引割合は,●(省略)●%(●(省略)●円÷●(省略)
●円≒●(省略)●%)となる。
(イ)南大阪フジキン報告書によれば,南大阪フジキンにおける1か月の
総費用は●(省略)●円なので,これに上記●(省略)●%を乗じた●
(省略)●円が,1か月当たりの被告製品についての費用となる。また,
南大阪フジキンにおける1か月あたりの被告製品の販売数量は,南大阪
フジキン報告書記載の2年分の総台数●(省略)●台を24で除した●
(省略)●台であるから,上記●(省略)●円を●(省略)●台で除し
た●(省略)●円が,被告製品1台当たりの「総費用」であると推定さ
れる。
(ウ)仮に,上記1台あたりの総費用の80%が売上高から控除すべき費
用であるとすると,被告製品1台当たりの控除すべき費用は●(省略)
●円となる。
なお,南大阪フジキン報告書の資料(1)から任意に10ページを取り出
し,その850台分の「加工・組立・検査・梱包」費用を合計して85
0で除すると,1台当たり●(省略)●円となるが,正しい控除費用が
上記のとおり1台当たり●(省略)●円であるとすると,上記資料(1)
の費用合計は,1台当たり●(省略)●円高すぎることになり,資料(1)
の●(省略)●台全体では,費用が●(省略)●円高すぎることとなる。
したがって,南大阪フジキン報告書の資料(1)の末尾に記載された「費
用」合計●(省略)●円から上記●(省略)●円を補正(減額)すれば,
●(省略)●円となる。
(エ)被告製品の売上総額は,上記のとおり1台当たりの販売金額を●(省
略)●円として算定すべきであり,これに●(省略)●台を乗じると,
●(省略)●円となる。
(オ)したがって,被告製品の製造,販売に係る南大阪フジキンの限界利
益率は,●(省略)●%((●(省略)●円−●(省略)●円)÷●(省
略)●円=●(省略)●%)と算定される。なお,上記限界利益率は,
被告製品1台あたりの総費用の80%が売上高から控除すべき費用であ
るとして算定したものであるが,これを70%とした場合は●(省略)
●%となり,60%とした場合は●(省略)●%となる。
第3争点に対する判断
1争点1−1(被告製品は,構成要件D,Fの「貫通穴空間」を有しているか)
について
(1)被告は,被告製品が構成要件D,Fの「貫通穴空間」を有しない,と主張
する。本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「貫通穴空間」につい
て,ダイヤフラムに関して弁座とは反対側で上下動自在に設けた部材に設け
られるものであること(構成要件D),一端がブリッジを介してバルブ本体
で支持されると共に,他端が弁棒に当接した積層型圧電素子を収容するもの
であること(構成要件F)が記載されている。また,「貫通穴」(貫通孔)
とは,「貫き通った孔。連通孔」を(特許技術用語集第3版・30頁),「空
間」とは,「物体が存在しない,相当に広がりのある部分。あいている所。」
を,それぞれ意味する語である(広辞苑第6版・781頁)。そして,前記
争いのない事実等及び別紙被告製品説明書によれば,被告製品における圧電
素子支持筒体23は,ダイヤフラム2に関して弁座とは反対側で上下動自在
に設けられ(構成d(c)),その内部に縦方向(軸方向)に貫通する長い空
間を有する中空の筒状部材(構成d(a))であり,上記空間に積層型圧電素
子10が収容されており,かつ,後記3のとおり,積層型圧電素子10は,
その下部が「ブリッジ」に相当する割ベース26及び下部受台9を介してバ
ルブ本体に支持され,その上部は上部受台及び位置決め用袋ナットを介して
圧電素子支持筒体23に当接しているから,被告製品における圧電素子支持
筒体23は,構成要件D,Fの「貫通穴空間」を有するものということがで
きる。
(2)これに対し,被告は,本件明細書の発明の詳細な説明によれば,構成要件
D,Fの「貫通穴空間」とは,実施例に記載された①弁棒の軸直角方向に形
成されている,②弁棒の下部及び中間部の上端部を残すものである,③溝状
の形状を有するものである,④底部を有するものである,という条件を備え
た,「弁棒の軸直角方向に形成された上部壁,下部壁,2側壁,2開口部に
囲まれた,溝状の空間」と解すべきであると主張する。
アそこで検討するに,本件明細書には,発明の詳細な説明として,以下の
記載が存在する(甲2の1,2)。
「[産業上の利用分野]
本発明は,流体の流量制御をするバルブに関し,特に積層型圧電素子を
用いたノーマルクローズタイプの流体の流量制御バルブに関する。」(甲
2の2・3頁下から2行∼4頁1行)
「[従来の技術]
従来の積層型圧電素子を用いたノーマルクローズタイプの流体を制御
(判決注:「制御する」の誤記と認める。)バルブは特開昭61−12
7983号公報に開示されており,これを第4図に示す。
バルブ本体1はその左側に入口ポート4をその右側に出口ポート5を,
さらに中央に流体室を有し,この流体室は入口ポート4および出口ポー
ト5と連通している。弁座3はバルブ本体1の流体室内に設置し,弁座
3により流体室は入口ポート側と出口ポート側に2分されている。弁座
3の中央に貫通孔をあけ弁口3aとなり,この弁口3aには下部から押
圧ばね14の押圧力を受けたテーパ部を有する弁体15が弁口3aの下
面に嵌合している。この押圧ばね14の押圧力により弁体15が弁口3
aの下面に押付けられ常時閉の状態となっているノーマルクローズタイ
プの流量制御バルブである。
押圧ばね14の押圧力の調節はバルブ本体1の底部に設けた調節ねじ1
7によって行う。一方,バルブ本体1の上端面に筒状部材2を立設し,
この筒状部材2の押え部材11およびボルトによって筒状部材2はバル
ブ本体1と固定されている。
筒状部材2の内部には積層型圧電素子8(ピエゾスタック)を設けてあ
り,この下端部が加圧部で積層型圧電素子8の歪力によって,下端部の
下にあるダイヤフラム7を加圧し変位させる。ダイヤフラム7は金属製
の円形状薄板で,この外周部がバルブ本体1に固定されている。この固
定はダイヤフラム7をバルブ本体1の上面と筒状部材2の下面との間に
挾着されている。ダイヤフラム7の下で積層型圧電素子8の加圧部に対
向した位置に弁体15の開閉部材16があり,この開閉部材16は弁体
15の上に固定されている。
ここで積層型圧電素子8のリード線8eと8fとの間にDC電圧をかけ
ると積層型圧電素子8の歪変位が生じ歪力によってダイヤフラム7を下
側へ変位させ,開閉部材16を加圧して,弁体15を下方へ押圧し,弁
口3aが開かれる構造となっている。そして通常は押圧ばね14によっ
て弁体15が弁座3の分口3aに押付けられており,閉の状態となって
いる。」(甲2の2・4頁2行∼22行)
「[発明が解決しようとする問題点]
以上説明した積層型圧電素子を用いたノーマルクローズタイプの流量制
御バルブは,弁座3の下方側,すなわち流体室の入口ポート4側に弁体
15,押圧ばね14および調整ねじ17を設けている。このため,半導
体製造装置等の超清浄度が要求される腐食性のガス等を流量制御するの
に用いる場合では,上記の弁体15,押圧ばね14および調整ねじ17
の可動部分が直接接触するので可動に供なう金属摩耗によって生じる金
属微粉や微粉粒子が流体中に混入し,更に流体と接触する面積が大きく
なるので腐食性のガスによってそれだけ流体室内が余分に汚染される。
又洗浄するのも上記部品が流体室内にあるので洗浄が困難である。
又調整ねじ17を流体室内に設けてあるので調整ねじとバルブ本体との
シール構造が不安定となり,流体室内の流体が外部に洩出する恐れがあ
る。
本発明の目的は,上記の問題を解消した積層型圧電素子を用いたノーマ
ルクローズタイプの流量制御弁を提供することである。」(甲2の2・
4頁23行∼33行)
「[作用]
本発明のバルブは,通常は付勢手段の押圧力によって弁棒はダイヤフラ
ムを介してバルブ本体に設けた弁座に当接されバルブは閉止状態にあ
る。
一方電圧を印加することにより長さが伸長する積層型圧電素子は,その
一端がバルブ本体で支持され,他端が弁棒に当接している。このため積
層型圧電素子に電圧を印加したとき伸長によって生じる力は,上記付勢
手段の押圧力に抗して弁棒を上方に押し上げる力として作用し,結果と
して弁棒を押し上げる。このときダイヤフラム自身が弾性的な復元力を
有しているので弁棒の上昇に追従して弁座から離れ,バルブは開状態と
なる。
以上により,流体室,特に入口ポート側には押圧ばねや調整ねじ等の可
動部材を設けなくてもすむので摩耗金属粉の発生と流体内への混入がな
い。また腐食性流体と接触する金属面積を最小にできるのでバルブ本体
内を清浄に保つものである。」(甲2の2・4頁43行∼5頁2行)
「[実施例]
(中略)図において,バルブ本体1は,左側に流入口ポート4を中央に
流入口ポート4に連通する垂直流路6を,この垂直流路6の上方にダイ
ヤフラム7を収容する上部開放の流体室10を,右側に流体室10と連
通する流出口ポート5を有し,垂直流路6の上部は弁口3aとなって弁
口3aの上面は弁座3となっている。流体室10内の弁座3の上面には
薄板で円板状のダイヤフラム7を流体室10の側壁に形成した段差部に
載せてこのダイヤフラム7の上面外周をリング状のダイヤフラム押え9
により押え,流体室10側壁段差部との間で挾着する。さらにダイヤフ
ラム押え9の上面外周部は円筒状部材2によって押え,この円筒状部材
2はリング状の円筒状部材押え11によって押え,この円筒状部材押え
11はバルブ本体1の上面にボルト締結によって締結固定してある。こ
のボルト締結によって円筒状部材2,ダイヤフラム押え9およびダイヤ
フラム7も本体上面に固定されている。ここで弁座3にダイヤフラム7
が接触したりあるいは離れたりして,弁の開閉が行われる。
次に弁の開閉を行なう駆動部について説明する。上記本体1と固定した
円筒状部材2内に弁棒12を設け,弁棒12の下端面をダイヤフラム7
の中央部上面に接触させる。弁棒12は中間部に第1図で示すごとくこ
の軸直角方向に下部の端部および中間部の上端部を残して溝状の貫通穴
空間21を形成し,上部外面を中間部の外径より小径の円筒状にしてこ
の段差部と円筒部材2の上部内面との間に付勢手段である押圧ばね14
を設け弁棒12を下方に押圧している。そして弁棒上部の小径円筒部内
面にめねじを設け,該めねじに調節用ボルト18を螺合し止めナット1
9を設けて調節用ボルト18の下端面を貫通孔空間21内に突出させて
ある。
この弁棒12の貫通穴空間21の下部において,貫通穴空間21を貫通
し弁棒12の両側に突出した四角柱状のブリッジ13をダイヤフラム押
え9の上面に渡る様に載せる。ブリッジ13の底面は弁棒12の貫通穴
空間21の底部と弁棒が上昇する分以上の隙間をあけておく。そしてブ
リッジ13の中央部で貫通孔空間21内に柱状の積層型圧電素子8を裁
置して設ける。従って積層型圧電素子8の下端はブリッジ13を介して
バルブ本体1で支持され,且つ上端は弁棒12に当接している。積層型
圧電素子8は,従来技術の積層型圧電素子と同様であり,板状の圧電素
子と金属薄板を交互に重ね合せ積層したものである。この積層型圧電素
子8にリード線8a,8bを通じて圧電をかけると,積層方向に歪を生
じ変位し,例えば数10μ伸びる。この積層型圧電素子8の上端面は,
弁棒12の上部に螺合する調節用ボルト18の下端面とねじり防止部品
20を介在させて当接する様装着してある。
円筒状部材2は,下部外周面が拡径の段差部を有しこの段差部を円筒状
部材押え11で押えることによってブリッジ13もダイヤフラム押え9
上に固定される。円筒状部材2の中間部にはこの下部内径と同径の内周
面を有しリード線8aおよびリード線8bが貫通する貫通孔があいてい
る。円筒状部材2の上部内面は弁棒12の上部外周面とゆるく嵌合する
内周面を有し弁棒は摺動できる様になっている。
次にこの第1実施例の積層型圧電素子を用いたノーマルクローズタイプ
の流体制御弁の開閉機構について説明する。まず,リード線8aおよび
リード線8bを通じてDC圧電をかけると積層型圧電素子8が歪み変位
し僅かに伸長する。この積層型圧電素子8の伸長により,この下端面は
ブリッジ13上に載置し,固定されているので弁棒12の上部に螺合し
た調節用ボルト18の下端面を弁棒12とともに,押圧ばね14に打ち
勝って押上げる。
このとき,弁棒12の上昇によりダイヤフラム7も追随して上昇し弁座
3とダイヤフラム7の下面が開き,流体は弁口3aから流体室10へ流
れて弁が開となる。」(甲2の2・5頁3行∼40行)
「[発明の効果]
本発明による積層型圧電素子を用いたノーマルクローズタイプの流体制
御バルブは,流体室特に入口ポート側に押圧ばねや調整ねじ等の可動部
材を設けなくとも済むので金属間接触による金属粉の発生がなく流体内
への金属粉の混入がない。又流体と接触する金属面積を最小にできるの
でバルブ本体は常に清浄に保たれ,又本体内から流体が漏れる問題が解
消される。」(甲2の2・6頁1行∼5行)
イ上記記載によれば,本件発明は,従来の積層型圧電素子を用いたノーマ
ルクローズタイプの流体制御バルブにおいては,弁座の下方側の流路中に
弁体や押圧ばね,押圧力を調節する調節ねじを設けていたため,弁体や押
圧ばね等の可動部分と流体とが直接接触し,可動に伴う金属摩耗によって
生じる金属微粉や微粉粒子が流体中に混入するという問題があったため,
弁棒,付勢手段,積層型圧電素子等の弁を開閉するための可動部材とバル
ブ本体の流路との間に,ダイヤフラムを介在させ,弁を開閉するための可
動部材を流体とは隔離した状態とし,さらに,弁棒の貫通穴空間内に収容
された積層型圧電素子の一端がブリッジを介してバルブ本体で支持され,
他端が弁棒に当接する構成として,積層型圧電素子に電圧を印加しない状
態においては,付勢手段により弁棒を弁座に当接させることによって弁が
閉じられた状態とし,電圧を印加した状態においては,積層型圧電素子が
伸長し,付勢手段の押圧力に抗して弁棒を押し上げて,弁が開いた状態と
することにより,流体室内での摩耗金属粉の発生と流体内への金属粉の混
入,を防ぐことができるようにしたものであると認められる。
このような本件発明の本質的事項を実現するための「貫通穴空間」の構
成としては,構成要件D,Fに記載されたとおり,弁棒に設けられた弁棒
を貫通する空間であって,その内部に一端がブリッジを介して前記バルブ
本体で支持されると共に,他端が前記弁棒に当接した積層型圧電素子を収
容するものであれば足り,実施例に記載された具体的な構成に限定すべき
理由はないというべきである。したがって,被告の主張は理由がない。
2争点1−2(被告製品における皿ばね18は,構成要件Eの「付勢手段」に
当たるか)について
(1)構成要件Eの「付勢手段」とは,「該弁棒(構成要件Dの弁棒)を弁座方
向に変位させ,前記ダイヤフラム(構成要件Cのダイヤフラム)を弁座に当
接させる押圧力を生じる」ものである。
また,証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,別紙被告製品説明書記載
のとおり,被告製品における皿ばね18は,圧電素子支持筒体23の底壁2
3bの上面と割ベース26の下面との間に挿入されたものであること,割ベ
ース26は,筒体固定・ガイド体24を介して,取り付けボルトによりバル
ブ本体1に固定されていること,圧電素子支持筒体23の下部にはダイヤフ
ラム押さえ4が嵌着され,その下にダイヤフラム2が弁座に対向して配置さ
れていること,が認められる。
そうすると,皿ばね18は,圧電素子支持筒体23(「弁棒」)の底面の
上面を押圧することにより同筒体を弁座方向に変位させ,同筒体の下部に嵌
着されたダイヤフラム押さえ4によってダイヤフラム2を弁座に当接させる
押圧力を生じるものであると認められる。
よって,皿ばね18は,構成要件Eの「付勢手段」に当たり,被告製品は,
構成要件Eを充足する。
(2)これに対し,被告は,本件明細書の記載及び特許の出願経過を考慮すると,
構成要件Eの「付勢手段」とは,①押圧ばねにより付勢するものである,②
押圧ばねは,弁棒の上部外面の肩部分と円筒状部材の上部内面との間に介在
する(押圧ばねの一方は弁棒の外面に接し,他方は円筒状部材の上部内面に
接する。),③弁棒は,円筒状部材内に設けられており,円筒状部材は,弁
棒の上面までカバーする,という条件を充たす実施例の形態に限定して解釈
するのが相当であると主張する。
しかしながら,構成要件Eの記載は上記(1)のとおりであり,付勢手段の構
成を被告の主張する上記構成に限定する旨の記載は存在しない。また,本件
発明において「付勢手段」を設けることの技術的意義は,前記1(2)で説示し
たとおり,積層型圧電素子に電圧を印加しない状態においては,付勢手段に
より弁棒を弁座に当接させることによって弁が閉じられた状態とし,電圧を
印加した状態においては,積層型圧電素子が伸長し,付勢手段の押圧力に抗
して弁棒を押し上げることによって,弁が開いた状態とすることにあるから,
構成要件Dの「弁棒」を弁座方向に変位させ,構成要件Cのダイヤフラムを
弁座に当接させるものである以上,上記技術的意義を実現することができる
ものである。また,前記1(2)で説示した本件発明の本質的特徴に照らすと,
「付勢手段」を流体室の外側に配置することが重要であって,それ以上に具
体的にどのように配置するかは重要なことではないというべきである。出願
経過(乙2∼6)をみても,付勢手段を実施例の形態に限定して解釈すべき
事情は見当たらない。したがって,被告の主張は理由がない。
3争点1−3(被告製品における割ベース26及び下部受台9は,構成要件F
の「ブリッジ」に当たるか)について
(1)構成要件Fの「ブリッジ」とは,「貫通穴空間に収容され」た「積層型圧
電素子」の「一端」を,「ブリッジを介してバルブ本体で支持」するために
設けられるものである。本件では,被告製品における割ベース26及び下部
受台9が上記「ブリッジ」に当たるか否かが問題となる。
(2)「ブリッジ」とは,「架け橋。橋のように架けること。」(特許技術用語
集第3版・39頁,41頁),「橋。橋梁。跨線橋。列車の車両と車両との
間にある場所。架工歯。眼鏡の左右のレンズをつなぐ部分。・・・」(広辞
苑第6版・2491頁)などを意味する語である。
また,本件発明において「ブリッジ」を設けることの技術的意義は,前記
1(2)で説示したとおりであり,弁棒内の貫通穴空間に収容された積層型圧電
素子の一端を同ブリッジを介してバルブ本体で支持し,他端を弁棒に当接さ
せることにより,積層型圧電素子に電圧を印加しない状態においては,付勢
手段により弁棒を弁座に当接させることによって弁が閉じられた状態とし,
電圧を印加した状態においては,積層型圧電素子が伸長し,付勢手段の押圧
力に抗して弁棒を押し上げることによって,弁が開いた状態とすることにあ
る。
したがって,構成要件Fの「ブリッジ」とは,「上記積層型圧電素子の一
端をバルブ本体で支持するために,バルブ本体に対して橋状に架け渡された
部材」であれば足りると解するのが相当である。
そして,証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,別紙被告製品説明書記
載のとおり,被告製品における割ベース26及び下部受台9は,割ベース2
6を圧電素子支持筒体23の孔部23aに挿入し,その状態で割ベース26
の上面に設けられた凹部に下部受台9を嵌合し,次いで,筒体固定・ガイド
体24を割ベース26の外周部にスライドし,取り付けボルトで固定するこ
とで,バルブ本体1に固定されること,この状態において,割ベース26及
び下部受台9は,互いの凸部と凹部とが噛み合わさって一体の部材として機
能すること,割ベース26及び下部受台9は,バルブ本体1に取り付けられ
た状態においては,その中央部の窪みに左右に差し渡されており,下部受台
9の上部には,球面突起8aを介して積層型圧電素子10が載せられている
こと,が認められる。
したがって,積層型圧電素子10は,その下部が割ベース26及び下部受
台9を介してバルブ本体に支持されているといえ,被告製品における割ベー
ス26及び下部受台9は,構成要件Fの「ブリッジ」に該当すると認められ
る。また,被告製品における積層型圧電素子10は,電圧を印加することに
より長さが伸長する素子であり(構成f(a)),構成要件Dの「弁棒」に当
たる圧電素子支持筒体23内部の「貫通穴空間」に収容されており,積層型
圧電素子10の上部は,上部受台及び位置決め用袋ナットを介して,圧電素
子支持筒体23に当接している。
よって,被告製品における積層型圧電素子10は,構成要件Fの「積層型
圧電素子」に当たり,被告製品は,構成要件Fを充足する。
(3)これに対し,被告は,本件明細書の実施例には,「ブリッジ」が「貫通穴
空間」を貫通する部材であること及びその両端が弁棒の両側に突出している
ことが記載されていること,「両端」という以上,一方の端と他方の端とは
連続したものと解釈されるべきであり,このように解釈することは,「ブリ
ッジ」が貫通穴空間を貫通する部材であることとも整合すること,本件明細
書の第1図及び第2図には,「ブリッジ」が四角柱状の一体の部材として示
されていることなどを理由に,構成要件Fの「ブリッジ」とは,四角柱状の
一体の部材でなければならないと解するのが相当であると主張する。
しかしながら,構成要件Fの記載は上記(1)のとおりであり,ブリッジの構
成を被告の主張する上記構成に限定する旨の記載は存在しない。また,本件
明細書の発明の詳細な説明の記載中には,ブリッジの構成を本件明細書の実
施例の場合に限定すべき根拠は見当たらない。
したがって,被告の主張は理由がない。
4被告製品が本件発明の技術的範囲に属することについて
被告製品は構成要件DないしFを充足することについては,上記1ないし3
のとおりである。
また,被告製品が構成要件AないしC及びHを充足することについては,前
記第2の1(5)イ記載のとおりである(この点については,当事者間に争いがな
い。)。
さらに,被告製品における圧電素子支持筒体23が構成要件Dの「弁棒」に,
皿ばね18が構成要件Eの「付勢手段」に,積層型圧電素子10が構成要件F
の「積層型圧電素子」に,それぞれ該当することについては,上記1ないし3
で説示したとおりであり,被告製品は,積層型圧電素子10の長さが伸長した
とき,皿ばね18の押圧力に抗して圧電素子支持筒体23を押し上げ,ダイヤ
フラム2自身が弁座から離間するものであるといえるから(構成g),被告製
品は,構成要件Gも充足する。
したがって,被告製品は本件発明の技術的範囲に属する。
5争点2−1(平成4年補正は発明の要旨を変更するものであり,本件特許は
新規性を欠くか)について
被告は,平成4年補正後における特許請求の範囲請求項1と当初明細書にお
ける請求項1とを比較すると,平成4年補正において「該弁棒を弁座方向に変
位させ,前記ダイヤフラムを弁座に当接させる押圧力を生じる付勢手段」とさ
れた部分(構成要件E)は,当初明細書における,「前記円筒状部材と弁棒と
の間に押圧ばねを介在して弁棒をバルブ本体に設けた弁座側に押圧させ,」と
の記載に対応するとした上で,仮に,構成要件Eの「付勢手段」の意味を,原
告の主張するように「弁棒を弁座方向に押し付けるような何らかの「付勢手段」
を装置に取り付ければよい」と解釈するのであれば,当初明細書には,弁棒を
弁座方向に押し付けるための手段として,「円筒状部材を設け,弁棒の外側に
配置した押圧ばねを円筒状部材と弁棒との間に設ける」という構成しか開示さ
れていないことから,平成4年補正における特許請求の範囲の記載の変更は,
当初明細書の記載事項の範囲内でされたものとはいえず,当初明細書の要旨を
変更するものとなると主張する。
当初明細書の発明の詳細な説明には,前記1(2)で引用した本件明細書の発明
の詳細な説明の[発明が解決しようとする問題点],[実施例]及び[発明の
効果]とほぼ同一の記載がされ,また,[問題点を解決するための手段]及び
[作用]の欄には,次のとおり記載されていることが認められる(乙2)。
「[問題点を解決するための手段]
本発明の要旨は,バルブ本体の上面と固定した円筒状部材に弁棒を設け,
前記円筒状部材と弁棒との間に押圧ばねを介在して弁棒をバルブ本体に設け
た弁座側に押圧させ,弁棒内には空間を設けて該空間内に電圧を印加するこ
とにより長さが変位する素子を設け,該素子の上面は前記空間の上部内面に
係止すると共に素子の下面はバルブ本体と固定された部分に係止させ,前記
素子に電圧を印加することにより弁棒を上方に押上げる様にしたことを特徴
とする流体の流量制御バルブである。」(5頁4行∼14行)
「[作用]
本発明は,上記の構成であるから,通常は円筒状部材と弁棒との間に設けた
押圧ばねによって弁棒はバルブ本体に設けた弁座側に押圧され弁は閉止され
ている。
そして電圧を印加することにより膨張する素子は,その下面がバルブ本体と
固定された部分に係止し,上面が弁棒内に設けた空間の上部内面に係止して
いるため,素子に電圧を印加して膨張すると弁棒を弁座側に押圧している押
圧ばねに抗して弁棒を上方に押上げ弁を開にする。
このため流体室,特に入口ポート側には押圧ばねや調整ねじ等の可動部材を
設けなくとも済むので摩耗金属粉の発生による流体内への混入がない。又腐
食性流体と接触する金属面積を最小にできるのでバルブ本体内を清浄に保
つ。」(5頁15行∼6頁10行)
上記記載によれば,当初明細書中には,押圧ばねの目的,機能は,これによ
り弁棒を弁座側に押圧することによって弁が閉じられた状態とすることにある
こと,すなわち,弁棒を下方に付勢することにあることが記載されており,こ
のような付勢手段は,必ずしも,実施例に記載された特定の位置に設けられる
必要も,実施例のようなばねである必要もないことは上記記載から明らかであ
るということができる。
したがって,平成4年補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内において
特許請求の範囲を変更したものであって,当初明細書の要旨を変更するもので
はないといえるから,被告の主張は,理由がない。
6争点2−2(本件発明の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号(記
載要件)に違反するか)について
被告は,構成要件Eを原告の主張するように「弁棒を弁座方向に押し付ける
ような何らかの「付勢手段」を装置に取り付ければよい」と解する場合,その
ような特許請求の範囲の記載は発明の詳細な説明に記載されたものということ
はできないから,特許法36条6項1号(記載要件)に違反すると主張する。
しかしながら,構成要件Eの「付勢手段」の構成が本件明細書の発明の詳細
な説明に記載されていると認められることについては,前記2に説示したとお
りである。
したがって,被告の主張は理由がない。
7争点3(被告の過失の有無)について
(1)被告は,本件訂正前の特許請求の範囲の記載を前提とする限り,本件特許
は進歩性を欠き,無効となるべきものであったから,被告において本件訂正
後の特許請求の範囲を予見することができなかった以上,少なくとも原告が
本件訂正審判を申し立てる以前の被告の行為については,被告に過失はない
と主張する。
(2)しかしながら,被告製品が本件発明の技術的範囲に属するものである以
上,同製品を製造,販売した被告らは,本件特許権を侵害した行為について
過失があったものと推定される(特許法103条)。
そして,特許権者は,特許権の設定登録後であっても,特許請求の範囲の
減縮,誤記又は誤訳の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的とするもので
ある限り,訂正審判請求又は無効審判における訂正請求(以下「訂正審判請
求等」という。)を行うことができ(特許法126条,134条の2),訂
正を認める審決が確定したときは,その訂正後における特許請求の範囲によ
り特許出願及び特許権の設定登録等がされたものとみなされる(同法128
条,134条の2第5項)。したがって,仮に,訂正前の特許請求の範囲の
記載に基づく特許権に無効理由が存在したとしても,上記訂正要件を満たす
適法な訂正審判請求等によってその無効理由は回避される可能性があり,ま
た,このことは,公示されている訂正前の特許発明の内容を調査することに
より,他の業者にとっても容易に予見し得ることであるというべきであるか
ら,そのことを理由に同条による過失の推定が覆ると解することはできず,
被告の主張は理由がない。
8争点4(被告の不当利得の額)について
(1)被告の売上額
被告が平成15年1月から平成16年12月末日までの間に被告製品●
(省略)●台を販売し,●(省略)●円の売上げを得たことについては,当
事者間に争いがない。
(2)本件発明の実施料率
本件明細書には,前記1(2)のとおり,①従来の積層型圧電素子を用いた
ノーマルクローズタイプの流体制御バルブでは,弁座の下方側の流路中に弁
体や押圧ばね,押圧力を調節する調節ねじを設けていたため,弁体や押圧ば
ね等の可動部分と流体が直接接触し,可動に伴う金属摩耗によって生じる金
属微粉や微粉粒子が流体中に混入するという問題を生じていたのに対し,②
本件発明では,弁棒,付勢手段,積層型圧電素子等の弁を開閉するための機
構とバルブ本体の流路との間にダイヤフラムを介在させ,弁を開閉するため
の機構を流体とは隔離した状態とし,さらに,弁棒に貫通穴空間を設けた上
で,同空間に積層型圧電素子を収容し,その積層型圧電素子の一端がブリッ
ジを介してバルブ本体で支持され,他端が弁棒に当接する構成とすることに
より,金属摩耗による金属微粉の発生や流体内への金属粉の混入を防ぐこと
ができる,との効果が記載されている。
また,証拠(甲4の1∼4,甲5)及び弁論の全趣旨によれば,ノーマル
クローズ型流量制御バルブを内蔵した流量制御装置において,流量制御バル
ブと同バルブを制御する電子制御部品とは,一体不可分の構成であり,流量
制御装置としての性能を発揮するに当たって,流量制御装置によってバルブ
の開閉を適切に制御することと,バルブにおいて流量の制御を適切,迅速に
行うことは,いずれも重要かつ不可欠な機能であると認められる。
以上の事実に加えて,証拠(甲11)によれば,社団法人発明協会の発行
する「実施料率[第5版]」には,「特殊産業用機械」(半導体製造装置製
造技術を含む。)の平均実施料率について,平成4年度ないし平成10年度
はイニシャルありが5.2%,イニシャルなしが6.5%,同期間の「精密
機械器具」の平均実施料率について,イニシャルありが5.3%,イニシャ
ルなしが6.8%,同期間の「一般産業用機械」の平均実施料率について,
イニシャルありが4.4%,イニシャルなしが4.2%であると記載されて
いると認められることなどを総合的に考慮すると,本件発明の実施料率は,
被告製品の売上額の3%とするのが相当である。
(3)被告の主張について
アこれに対し,被告は,被告製品における流量制御バルブの部品価格構成
比が20%程度にすぎないことや,被告製品が本件発明に係るノーマルク
ローズ型流量制御バルブの構成を有することは同製品の売上げに何ら寄与
していないことなどを考慮すると,被告の不当利得の額は,被告製品の売
上げの額の5%に原告の主張する実施料率である3%を乗じた金額を超え
るものではないと主張する。
イしかしながら,被告製品における流量制御バルブの部品価格構成比が2
0%程度であるとの被告の主張については,これを裏付けるに足りる客観
的な証拠はなく,これを認めることはできない。
ウ被告は,被告製品が本件発明に係るノーマルクローズ型流量制御バルブ
の構成を有することが同製品の売上げに寄与していないことの理由とし
て,①被告製品の販売された期間におけるマスフローコントローラーの
市場シェアは,競合会社が約90%を占め,原告は10%弱を占めるにす
ぎず,競合会社のノーマルクローズ型流量制御バルブでは,本件明細書に
おいて従来技術とされた構成(流室に押圧ばねその他の稼働部材を設け
る。)が用いられていること,②被告製品における流量制御の原理は,
従来のマスフローコントローラーとは根本から相違し,従来のものよりも
高い精度,性能を有していること,③被告製品の購入者は,上記②の性
能を有する被告製品の技術的優位性に着目して被告製品を購入したもので
あること,などを挙げる。
エしかしながら,市場シェアを決定する要因は,製品の技術的価値(性能)
に限られるものではなく,製品の価格や,製造会社・販売会社の信用力,
営業力等にも依存するものであり,また,製品の性能が要因となり得ると
しても,流量制御バルブという製品の一部の構成だけが要因となるのでは
なく,その他の部分を含むマスフローコントローラー全体の性能が問題と
なるものと考えられるから,本件発明を使用していない競合会社の市場シ
ェアが高いことから直ちに,本件発明の構成を有することが被告製品の売
上げに寄与していないと認めることはできない。
オまた,証拠(甲4の1∼4,甲5,乙14,15,16の1∼6,乙3
1)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の採用する流量制御方法(圧力
式制御装置)と原告製品の採用する流量制御方法(サーマル式流量制御装
置)の流量制御の原理及び構成は,前記第2の3(7)[被告の主張]のイ(イ)
b(b)及び(c)のとおりであること,圧力式制御装置を備えた被告製品と
サーマル式流量制御装置(マスフローコントローラー)を備えた原告製品
とは,それぞれ,他方に対し,次のような有利な点及び不利な点を有する
ことが認められる。
①流体圧力変化の影響について
マスフローコントローラーは,下流側の流体の圧力変動による影響を
ほとんど受けずに流量制御することが可能である。他方,上流側におい
て供給圧力の変動があった場合は,応答速度が十分に速いとは言い難い
ため,制御がふらつくなどして,下流に流れる流体の流量が大きく変動
する。そのため,上流に,圧力を一定に調整するレギュレータなどを設
置し,供給圧力を安定化させる必要がある。
これに対し,圧力式制御装置は,圧力変化に対する応答性が高いため,
上流側に変動があっても,即時にバルブの開閉を調整して一定の流量に
保持することができる。他方,下流側の流体に圧力変動があった場合は,
「P1>2×P2」の条件を充たさなくなる場合があり,そのときは制
御不能となる。
②流量制御の精度について
原告製品の流量制御の精度(誤差率)は「FS(フルスケール)±0.
5%」であり,SP(セットポイント)の流量にかかわらず,一律の精
度を保証している。
これに対し,被告製品の流量制御の精度は「SP±1.0%,FS±
0.1∼0.3%」であり,SPが10%ないし100%の範囲(流量
の多い範囲)では,精度を若干落としている。
したがって,原告製品と被告製品が同じFSの流量制御装置であれば,
SP50%以上の範囲では原告製品の方が被告製品より流量制御の精度
が高くなり,SP50%未満の範囲では被告製品の方が原告製品より流
量制御の精度が高くなる。
③オーバーシュートの問題について
マスフローコントローラーでは,温度センサの温度分布が安定するま
でに時間がかかるため,ガスが十分に流れているにもかかわらず,温度
センサの測定では流量が十分でないとされ,流れすぎ(オーバーシュー
ト)となる。もっとも,この問題に関しては,フィードバック制御(P
I制御など)により対処することが可能である。
これに対し,圧力式制御装置では,圧力センサにより圧力を直接検知
しているので応答性がよく,「オーバーシュート」の問題は起きにくい。
④マルチガスへの対応について
マスフローコントローラーでは,ガスの種類とそのフルスケール流量
レンジごとに,それぞれのガス種類・レンジに応じた多数のマスフロー
コントローラーを準備しなければならない。もっとも,各ガスを流した
場合のセンサの出力特性データをメモリに記憶させ,流すガスごとにセ
ンサの出力データを切り換えて流量を制御することで,1つの流量制御
装置で複数種のガスを制御することは可能である。
これに対し,圧力式制御装置は,フローファクター(窒素における数
値を1.000000とした場合の他のガスの設定数値)をあらかじめ
定め,使用するガスの数値を製品に入力することにより,使用ガス種に
対応させることが可能である。
⑤取付け姿勢について
マスフローコントローラーは,水平に設置されることを前提に測定・
制御の調整がされているため,装置の姿勢を変更して例えば斜めにした
場合,ガスが通る細い管も斜めになり,対流等による流量の測定誤差が
発生する可能性がある。
これに対し,圧力式制御装置は,制御バルブの下流での圧力を測定し
て流量を制御しているので,取付け姿勢による影響は受けない。
⑥ゼロ点管理について
流量制御装置では,流量がゼロの場合のセンサの出力値(ゼロ値)が
変動しないこと及び変動した場合にこれをチェックして補正することが
必要となる。
マスフローコントローラーは,サーマルセンサが細い管に2本のコイ
ルが巻き付けられているものであるため,経年変化によりゼロ点が変動
しやすい。なお,原告製品も,ゼロ点管理を実施する機能は有している。
これに対し,被告製品は,圧力センサであるため構造的に経年変化が
起こりにくい。また,被告製品は,ゼロ点管理機能を有する。
⑦流量自己診断機能について
被告製品は,流量異常診断のため,診断時に自動的に流量設定が10
0%となり,その設定を2秒間保持し,流量制御弁を全閉する。すると
時間の経過により圧力センサの出力値がカーブを描いて降下する。この
データとあらかじめ測定されメモリされている工場出荷時のデータとを
比較し,そのずれが一定以上ある場合に外部にアラーム出力する。
原告製品も,圧力センサを付加することにより,同様の機能を持たせ
ることは可能である。
⑧蒸気圧が低いガスへの対応について
圧力式制御装置では,制御可能な条件が「P1>2×P2」なので,
蒸気圧が下流側の圧力(P2)の2倍以上となるガスにしか使用するこ
とができない。
これに対し,原告製品は,ガス圧の影響はほとんど考えられない。
⑨加温して使用するガスへの対応について
被告製品は,圧力センサの耐熱性の問題により,例えば100℃∼1
50℃の加温には対応しておらず,そのような場合に流量制御すること
はできない(なお,被告は,被告製品の温度条件は通常は15℃∼35
℃であり,最高値は50℃としているため,上記の点は問題とならない
と主張する。)。
これに対し,原告製品は,加温したガスに対しても対応することが可
能である。
⑩オリフィスへの生成物付着について
圧力式制御装置は,数十ミクロン程度の外径のオリフィスにガスを通
過させるため,腐食性の高いガスを流した場合,内部に生成物が発生し
て付着し,ゴミもつまりやすくなる(なお,被告は,オリフィスを流れ
るガスの流速は音速に達しているため,生成物の付着の問題は生じない
と主張する。)。
これに対し,原告製品は,オリフィスにガスを通過させる構造ではな
いため,上記のような問題は生じない。
以上のとおり,圧力式制御装置とサーマル式流量制御装置は,そもそも,
流量制御の基本的な考え方を異にするものであり,一方が他方の改良製品
であるというわけではなく,その性質についても一長一短があることから,
利用者がどちらの方式を採用するかは,各装置の特長を勘案して,制御対
象に最適なものを選択するものといえる。また,被告が主張する被告製品
の特長の多くは,上記のとおり,マスフローコントローラーであっても,
顧客から同様の仕様希望があれば原告において対応することが可能であっ
たと認められる。
したがって,被告製品が本件発明に係るノーマルクローズ型流量制御バ
ルブの構成を有することが同製品の売上げに寄与していないとは認められ
ず,被告の主張は理由がない。
(4)よって,原告は,被告に対し,不当利得返還請求権に基づき,●(省略)
●円(●(省略)●円×3%=●(省略)●円。なお,原告は,本件訴訟にお
いて,不当利得の返還として●(省略)●円の支払を求めている。)及びこ
れに対する弁済期(被告に対する催促の日)の翌日である平成19年12月
18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求す
ることができる。
9争点5(原告の損害額)について
(1)原告製品の製造,販売
証拠(甲4の1∼4,甲5)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,金属製
品,電子・情報部品,機能部品の製造と販売,サービス他を業とする会社で
あり,遅くとも平成15年以後,被告製品と市場において競合する商品(ノ
ーマルクローズ型流量制御バルブを内蔵した流量制御装置)である原告製品
を製造,販売していることが認められる。
(2)被告及び南大阪フジキン(被告ら)の共同不法行為
証拠(甲10の2)及び弁論の全趣旨によれば,南大阪フジキンの代表取
締役と被告の代表取締役は同一人物であり,被告は南大阪フジキンの株式の
半数以上を所有していること,南大阪フジキンは,被告のためにだけ被告製
品を製造し,被告は同社の販売する被告製品の全量を南大阪フジキンから仕
入れていることが認められる。
このような被告製品の製造,販売における被告らの緊密な一体性に鑑みる
と,被告製品の製造及び販売という一連の侵害行為について,これを全体的
に考察すれば,被告らは主観的,客観的に共同して上記侵害行為を行ったも
のと認められる。
したがって,特許法102条2項に基づいて侵害者が侵害行為により受け
た利益の額を特許権者が受けた損害の額と推定する際には,被告らを一体的
な侵害者(共同不法行為者)と評価した上で,被告製品の製造及び販売とい
う一連の侵害行為により被告らが受けた利益の全体額をもって,原告が受け
た損害の額と推定するのが相当である。
(3)被告の得た利益
被告が平成17年1月から平成19年8月26日までの間に被告製品●
(省略)●台を販売し,●(省略)●円の売上げを得たこと,被告が上記製
品を南大阪フジキンから合計●(省略)●円で仕入れたことについては,当
事者間に争いがない。
したがって,被告は,上記被告製品(以下「本件損害賠償に係る被告製品」
という。)の販売により,●(省略)●円の利益を受けたと認められる。
(4)南大阪フジキンの得た利益
ア南大阪フジキンが本件損害賠償に係る被告製品を製造し,被告に対して
代金合計●(省略)●円で販売したことについては,当事者間に争いがな
い。
イ本件損害賠償に係る被告製品について,その製造原価を直接裏付ける客
観的な証拠(被告製品に関する経費明細書,製造原価計算書,構成部品の
価格を示す部品価格表等)は存在せず,また,南大阪フジキンは,当裁判
所が南大阪フジキンに対して上記文書の提出を求めた文書提出命令(当庁
平成21年(モ)第1094号)にも,応じない。
そこで,①本件損害賠償に係る期間中の被告製品の販売に関するもの
ではないものの,南大阪フジキンは,同社が平成20年4月1日から平成
22年3月末日までの間に被告に対して被告製品を販売した際の利益率
(被告に対する販売額から材料費,外注費及び加工・組立・検査・梱包費
を控除した額を,上記販売額で除した率。)について,販売額の●(省略)
●%であるとの報告書を証拠として提出していること(乙32。南大阪フ
ジキン報告書),②同報告書では,修繕費,租税公課,共益費,賃貸料,
保険料,リース料,旅費交通費,通信費,減価償却費,諸会費,交際接待
費,会議費,試作研究費,新聞図書費,社員教育費,安全費,品質管理費,
手数料,雑費等の費用についても,被告製品の売上高から控除すべき経費
として計上しているものの,これらの経費は,その内容が不明確である上,
本来,特許法102条2項所定の「利益の額」を算定するに当たって控除
すべきでない性質のものも含まれていることがうかがえること,③南大
阪フジキン報告書に記載された被告製品の販売価格は,同じ製品名の物で
あっても,本件損害賠償に係る被告製品の販売価格よりも低下しているも
のがあり,それに伴い南大阪フジキンの利益率も低下している可能性があ
ること,④帝国データバンクの企業情報によると,平成17年ないし平
成19年の南大阪フジキンの純利益率は9%ないし20%であったこと
(甲10の2),などの諸事情を総合的に考慮すると,本件損害賠償に係
る被告製品の1台当たりの限界利益率は,少なくとも15%を下らないと
認めるのが相当である。
ウしたがって,本件損害賠償に係る被告製品の販売価格に上記限界利益率
を乗じた●(省略)●円(●(省略)●円×15%=●(省略)●円1円
未満切捨て。以下同じ。)が,本件損害賠償に係る被告製品の製造,販売
により南大阪フジキンの受けた利益であると認められる。
(5)被告製品の売上げに対する本件発明の寄与度
前記8で認定した事情を総合的に考慮すると,被告製品の売上げに対する
本件発明の寄与度は,40%とするのが相当である。
これに対し,被告は,①被告製品は販売先との共同開発品であること,
②被告製品は原告製品にない特長(圧力センサによる流量の制御)を有し
ていること,③原告は,被告製品の販売先への販売実績がなく,同販売先
は従前原告以外の会社からマスフローコントローラーを購入していたことな
どを理由に,本件特許権侵害がなかったとしても原告が被告製品の販売先に
原告製品を販売することができた可能性はなく,被告製品の販売利益相当額
の損害を被ったものではないと主張する。しかしながら,前記8で認定した
事情に照らすと,必ずしも,被告製品の方が原告製品と比べて優れていると
か,競合会社の製品の方が原告製品より優れており,被告製品の購入先は被
告製品が販売されなければ競合会社の製品を購入したはずであるということ
はできず,これらの事情があると認めることはできない。したがって,本件
において,特許法102条2項の推定を覆す事情があるとは認められない。
(6)原告の損害
被告の不法行為により原告の被った損害は,以下の計算式のとおり,上記
(3)及び(4)の利益額の合計に被告製品の売上げに対する本件発明の寄与度
(40%)を乗じた,●(省略)●円であると認めるのが相当である。
(●(省略)●円+●(省略)●円)×40%=●(省略)●円
10結論
以上のとおり,被告製品は本件発明の技術的範囲に属し,本件特許は無効に
されるべきものとは認められないから,本件特許権侵害を理由とする不当利得
返還請求及び損害賠償請求は,上記8及び9で認定した限度で理由があり,両
者の合計額は3億9620万2072円(●(省略)●円+●(省略)●円=
396,202,072円)となる。
よって,原告の請求は主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し,そ
の余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり
判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官阿部正幸
裁判官山門優
裁判官柵木澄子
(別紙のうち特許公報及び審決については省略)
別紙
物件目録
以下の品番の,ノーマルクローズ型流量制御バルブを内蔵した圧力制御式フロー
コントローラー
(品番)
1FCS−4C−
2FCS−4CS
3FCS−4CW
4FCS−4JR
5FCS−4UG
6FCS−4WS
7FCS−DN−
8FCSDP−4
9FCS−HT5
10FCSWR−4
11FCSWR−D
12FCSWR−H
13UPC−4JR
14UPC−4UG
15UPC−4WS

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今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
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仕事がない弁護士は無力です。
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我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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