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         主      文
1 控訴人Bの控訴に基づき,原判決主文一ないし六項を取り消す。
2 前記取消しにかかる被控訴人Cの控訴人Bに対する請求のうち,
原判決別紙物件目録一記載の土地が控訴人Aの所有であること
の確認及び同土地について控訴人Aとの間で賃借権を有すること
の確認を求める各訴えを却下し,その余の請求をいずれも棄却す
る。
3 控訴人Aの控訴をいずれも棄却する。
4 当審において追加された控訴人Aの予備的請求を棄却する。
5 訴訟費用は第1,2審を通じて,被控訴人Cに生じた費用の10分
の1と控訴人Bに生じた費用を被控訴人Cの負担とし,被控訴人C
に生じた費用の10分の9及び被控訴人会社に生じた費用と控訴
人Aに生じた費用を控訴人Aの負担とする。
        事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 控訴人B(甲事件)
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人Cの控訴人Bに対する請求をいずれも棄却する。
(3)訴訟費用は第1,2審とも被控訴人Cの負担とする。
2 控訴人A(乙・丙各事件)
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人Cの控訴人Aに対する請求を棄却する。
(3)被控訴人Cは控訴人Aに対し,原判決別紙物件目録三,同目録四の
13,14記載の土地上から同目録五記載の建物を収去して,同土地を
明け渡せ。
(4)被控訴人会社は控訴人Aに対し,同目録五記載の建物から退去し
て,同建物を明け渡せ。
(5)被控訴人Cは控訴人Aに対し,同目録二,四の1ないし19記載の土地
を明け渡せ。
(6)被控訴人会社は控訴人Aに対し,同目録二,三,四記載の土地を明
け渡せ。
(7)被控訴人C及び被控訴人会社は控訴人Aに対し,各自平成9年9月1
1日から同目録二,三,四記載の土地の明渡済みに至るまで1か月当
たり440万円の割合による金員を支払え。
(8)(当審における予備的請求)
 被控訴人らは控訴人Aに対し,控訴人Aが被控訴人Cに1300万円
を支払うのと引き換えに同目録五記載の建物を収去して,同目録二,
同目録四の1ないし19記載の土地を明け渡せ。
(9)訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
(10)(3)ないし(8)につき仮執行宣言
第2 事案の概要
1 被控訴人Cが控訴人A所有の土地を自動車学校用地として賃借し,その
後,被控訴人Cが経営する被控訴人会社においてこれを自動車学校用
地として利用しているという事案で
(1)甲事件は,被控訴人Cが前記土地の一部について所有権移転の本登
記ないし仮登記を経由している控訴人Bに対して,前記本登記を経由
している土地について控訴人Aの所有であることの確認,被控訴人C
が賃借権を有することの確認及び土地使用を妨害する行為の禁止を
求めるとともに本登記ないし仮登記の抹消登記手続を求めた事件
(2)乙事件は,被控訴人Cが,前記土地の一部は賃貸していないとして賃
借地の範囲を争う控訴人Aに対して,賃借権の確認を求めた事件
(3)丙事件は,控訴人Aが被控訴人Cに対して,賃貸借は解除により終了
した等として,自動車学校建物の収去と賃貸土地の明渡及び賃料相
当損害金の支払を求めるとともに,被控訴人会社に対して,自動車学
校建物からの退去と明渡及び占有している土地の明渡と賃料相当損
害金の支払を求めた事件
である。
 原審が甲,乙事件の請求を認容し,丙事件の請求を棄却したため,これ
を不服とする控訴人B,同Aが控訴したものである。なお,当審において
控訴人Aは,前記のとおりの立退料の支払との引き換えの建物収去土地
明渡の予備的請求を追加した。
2 前提事実
(1)被控訴人Cと控訴人Aとの間には,被控訴人Cが控訴人A所有の原判
決別紙物件目録二記載の土地,同目録三記載の土地,同目録四の
3,4,6ないし14,16ないし19記載の土地(以下同目録記載の各土地
を「本件一ないし四土地」等と略する。)計17筆について,後記内容で
借り受ける旨の昭和45年3月19日付け賃貸借契約書(甲5の3)(以
下「本件契約書」という。)が存する。
         記
     賃  料 月額8万8000円
     支払方法 毎月末日支払
     目  的 自動車学校の建物,その他諸施設の敷地として       
   利用
(2)被控訴人Cは,前記各土地及び本件一土地,本件四の1,2,5及び1
5の土地を整地して自動車練習コース及び附属施設を完成させ,本件
三土地,四の13,14の土地上に原判決別紙物件目録五記載の建物
(以下「本件建物」という。)を建築し,保存登記を経由してこれを自動
車学校校舎等として使用するに至った。
(3)控訴人Bは,①本件一土地について,昭和63年3月1日代物弁済を
原因として名古屋法務局西尾支局同月9日受付第3330号により所有
権移転登記を,②本件二土地ついて,昭和59年7月31日代物弁済予
約を原因として名古屋法務局西尾支局同年8月16日受付第11831
号により所有権移転請求権仮登記を,③本件三土地について,昭和5
9年7月31日代物弁済予約を原因として名古屋法務局西尾支局同年
8月6日受付第11422号A持分全部移転請求権仮登記を,それぞれ
経由している(以下「本件①ないし③登記」等と略し,併せて「本件各登
記」という。)。
(4)控訴人Bは被控訴人Cに対し,本件①登記の経由後である昭和63年
3月15日付け内容証明郵便で,本件一土地の使用を禁止する旨,同
年6月2日付け内容証明郵便で,不動産侵奪罪で刑事告訴する旨の
通知をした(甲12,13)。
(5)控訴人Aは被控訴人Cに対して,平成元年,本件一ないし四土地の賃
料は平成元年2月7日以降1か月440万円であることの賃料増額確認
請求訴訟を提起(名古屋地方裁判所岡崎支部平成元年(ワ)第51号)
し,平成3年11月12日,同裁判所は,前記増額賃料は1か月100万
円であることを確認する旨の判決を言い渡した(甲3)。
(6)被控訴人Cは,平成6年1月17日に被控訴人会社を設立して,代表
取締役に就任したが,同日からは被控訴人会社が前記自動車学校を
営んでいる。
(7)控訴人Aは,被控訴人Cに対して,本件賃貸借契約上の特約に基づく
明渡義務があること及び無断転貸をしたことを理由に,平成6年6月1
2日付け内容証明郵便で,本件賃貸借契約解除の意思表示をし,同意
思表示はその頃被控訴人Cに到達した。
3 当事者の主張
(甲事件)
  (1)被控訴人Cの主張
   ①控訴人Bは,本件①登記を経由した後,被控訴人Cに対して,前記の
とおり本件一土地の使用を禁止するとか,不動産侵奪罪で告訴する
旨の内容証明郵便を送付し,その後も同土地について自動車学校
の使用を妨害する嫌がらせを継続している。
   ② 控訴人Bの本件各登記は実体のないものであり,仮に登記原因どお
りの代物弁済があったとしても,同代物弁済は控訴人Aと控訴人Bと
の間の通謀虚偽表示によるものであり無効である。仮に控訴人Bが
本件一土地を善意の第三者に譲渡すれば,被控訴人Cの賃借権が
法的に否定される可能性もある。
③ したがって,被控訴人Cは控訴人Bに対して
(ア)本件一土地が控訴人Aの所有であることの確認
(イ)被控訴人Cが本件一土地について本件賃貸借契約に基づく賃
借権を有することの確認
(ウ)被控訴人Cの控訴人Aに対する本件賃貸借契約に基づく賃借
権を保全するため,債権者代位として,控訴人Aが控訴人Bに対
して有する本件各登記の抹消登記手続
(エ)控訴人Bによる本件一土地の使用を妨害する一切の行為の禁

をそれぞれ求める。
(2)控訴人Bの主張
①控訴人Bと被控訴人Cとの間で,被控訴人Cが控訴人Aに対して賃借
権を有することを確認する利益はない。
   ② 本件一土地の所有権は控訴人Bにあり,すでに所有者でなくなった控
訴人Aとの間で賃借権を確認する利益はない。
   ③ 本件一土地について,被控訴人Cは当初から賃借権を有さない。よっ
て,当事者(原告)適格がない。
   ④ 控訴人Aは被控訴人Cに対して,平成6年6月12日本件賃貸借契約
を解除しているから,被控訴人Cは前同日以降本件二,三土地につ
いても賃借権を失った。よって,被控訴人Cは本件②,③登記の抹
消登記手続請求についても当事者(原告)適格がない。
⑤ 被控訴人Cの本件②,③登記の抹消登記手続請求は,後記別訴事件
の既判力に抵触する。すなわち,被控訴人Cは,控訴人Bに対する
昭和62年(ワ)第196号所有権移転請求権仮登記抹消登記手続請
求事件(以下「別訴事件」という。)において,債権者代位権に基づ
き,本件②,③登記の抹消登記手続請求と同じ請求をした。別訴事
件は,裁判所の勧告により被控訴人Cが訴えを取下げ,これに伴う
裁判上の和解が成立した。よって,被控訴人Cの本件②,③登記の
抹消登記手続請求は別訴事件の和解内容と抵触し,許されない。
(乙事件)
  (1)被控訴人Cの主張
①本件賃貸借契約の対象とされた土地は本件一ないし四の土地である。
   ② しかるに,控訴人Aは被控訴人Cの本件一,二土地に関する賃借権
を争っている。
   ③ 仮に,本件一,二土地が本件賃貸借契約の対象となっていなかった
としても,被控訴人Cは本件賃貸借契約の対象地として20年以上に
わたってこれを占有し,かつ賃料を支払ってきた。よって,被控訴人
Cは,本件一,二土地について賃借権を時効取得した。よって,本訴
において賃借権の取得時効を援用する。
   ④ 控訴人Aは,本件一土地の所有権が控訴人Aから控訴人Bに移転し
ていることから,被控訴人Cが控訴人Aとの賃借権を確認する意味
がない旨主張するが,前記のとおり本件一土地に関する本件①登
記は通謀虚偽表示により無効の登記である。
   ⑤ よって,被控訴人Cは控訴人Aに対し,被控訴人Cと控訴人Aとの間
において,本件一,二土地について自動車学校の建物,その他諸施
設の敷地利用を目的とする賃借権を有することの確認を求める。 
  (2)控訴人Aの主張
① 本件一土地は本件賃貸借契約の対象となっていない。なぜなら,本件
賃貸借契約は昭和45年3月19日に締結されたものであるところ,
控訴人Aが本件一土地を取得したのは昭和48年11月28日であ
り,本件賃貸借契約当時,本件一土地は控訴人Aの所有ではなかっ
たからである。また,本件一土地は,昭和63年3月1日代物弁済を
原因として控訴人Bにその所有権が移転している。
② 被控訴人Cが本件一,二土地について賃借権の確認を求める請求
は,あたかも一筆の土地の一部についてその所有権の確認を求め
るのと同様であり,このような賃借権の一部の確認請求は許されな
い。
 (丙事件)
  (1)控訴人Aの主張
①本件二,三及び四土地は控訴人Aの所有である。
   ② 本件賃貸借契約の対象とされた土地は,本件二,三土地,本件四の
3,4,6ないし14,16ないし19の土地である。したがって,本件四の
1,2,5及び15の土地は本件賃貸借契約の対象となっていない。
   ③ 本件賃貸借契約には,賃借人は自動車学校の経営廃止をする等の
原因で本賃貸借契約が終了したときは,賃借土地を賃貸人に明け
渡さなければならない旨の特約(以下「本件特約」という。)がある。
平成6年1月17日以降は被控訴人会社において自動車学校を営ん
でおり,被控訴人C自身は自動車学校の経営を廃止したものである
から,本件特約により本件賃貸借契約は終了した。よって,被控訴
人Cは控訴人Aに対して,本件賃貸借契約の終了に基づき,賃借土
地を明け渡す義務がある。
   ④ 被控訴人Cは,被控訴人会社を設立し,被控訴人Cが賃借していた
土地を控訴人Aに無断で被控訴人会社に転貸した。同転貸が本件
賃貸借契約の信頼関係を破壊するに足るものであることは以下の
理由から明らかである。
(ア)土地の賃借権譲渡・転貸に賃貸人の承諾を要求している民法6
12条の法意は,このような賃借権の譲渡・転貸の際に伴う譲受
人(転借人)から譲渡人(転貸人)に支払われる反対給付の一部
を承諾料等として賃貸人にも取得させる機会を持たしめることに
ある。
(イ)本件契約書に記載された計17筆の賃貸土地の平成10年度の
固定資産税評価額合計額は10億9000万円余であるところ,被
控訴人会社が取得した転借権の価格はその約4分の1と仮定し
ても,2億7250万円の権利を無償で取得したことになる。また,
税実務上許容される転借料は,土地価格の6パーセントの半額
である年額3360万円となるべきであるにもかかわらず,被控訴
人会社が被控訴人Cに支払っているのは年額1800万円にすぎ
ない。
(ウ)他方,控訴人Aが被控訴人Cから受領している賃料額は年額1
200万円にすぎず,かつ控訴人Aを含む家族が納付している固
定資産税の年額は556万円余にのぼる。したがって,控訴人A
は,賃料相当額の半額を固定資産税として納付し,その余の金
額に所得税が課されるため,実際には賃料額の半額以下の金
額しか取得していないことになる。
(エ)このように,被控訴人Cの被控訴人会社に対する無断転貸によ
り,被控訴人会社は多大な利得を得ている一方で,控訴人Aは
不当に低廉な賃料額しか得られていないのであるから,前記転
貸が控訴人A・被控訴人C間の賃貸借における信頼関係を破壊
するに足りるものである。
   ⑤ 控訴人Aは被控訴人Cに対し,本件賃貸借契約を解除したから,被控
訴人Cは,本件賃貸借契約の対象となっていた本件二,三土地,本
件四の3,4,6ないし14,16ないし19の土地について占有権原を失
った。
   ⑥ また,被控訴人Cには,当初から本件四の1,2,5及び15の土地の
占有権原はない。
⑦しかるに,被控訴人Cと被控訴人会社は,本件二ないし四土地を占有
している。
⑧ 本件二ないし四土地の一か月当たりの使用相当損害金は440万円を
下らない。
 ⑨ よって,控訴人Aは
    (ア)被控訴人Cに対して,本件賃貸借契約の終了あるいは所有権に基
づき,本件建物の収去と本件二ないし四土地の明渡
    (イ)被控訴人会社に対して,所有権に基づき本件二ないし四土
地の明渡
(ウ)被控訴人C及び被控訴人会社に対して,本訴状送達の日の翌日で
ある平成9年9月11日から前記土地の明渡済みまで1か月当
たり440万円の割合による賃料相当損害金の支払
    をそれぞれ求める。
⑩ (当審における予備的請求)仮に,前記請求が認められないとして

(ア)本件賃貸借契約は期間の定めがないから,昭和45年3月19
日から30年を経過した平成12年3月20日の経過をもって期
間満了となる。
(イ)控訴人Aは被控訴人Cに対して,平成12年3月15日到達の内
容証明郵便により,期間満了した場合には更新を拒絶する旨
の通知をした(丙10の1,2)。
(ウ)控訴人Aには,次のとおり土地の明渡を求める正当事由があ
る。
<ア>平成12年度の路線価に依拠して被控訴人らが占有してい
る本件土地全部(計22筆)の公示価格を算定すると,15億4
500万円余となるところ,年額適正賃料は,法人税基本通達
によると地価の6パーセントであるから,9270万円余となる
べきものである。しかるに,本件賃貸借における賃料は年額
1200万円という不当な低廉となっている。その原因は,控
訴人Aが賃料の増額を求めても,被控訴人Cにおいて,本件
賃貸借契約前は水田であったことから収穫の米穀価格を基
礎として,その後の米価と公租公課の上昇分の増額で足りる
との主張に固執して,控訴人Aの適正な賃料増額要求を拒
否してきたことによるものである。
<イ>控訴人Aは,平成3年8月20日生まれの高齢者であるか
ら,近い将来において同人を被相続人とする相続税課税が
なされる事態にも対応せざるを得ない状況下にある。この場
合,控訴人Aの相続人(妻と3人の子)に課せられる相続税
は合計で4億5220万円余と想定されるところ,このような多
額の納税資金を調達するにためには,賃貸にかかる本件各
土地を更地として第三者に売却する以外にない。
<ウ>他方,被控訴人会社は,このように高額な土地を利用しな
がら,平成10年度(同年8月1日~翌年7月31日)で326万
円余,平成11年度で712万円余の利益しか上げられない社
会的存在にすぎない。しかも,本件建物は,30年前に廃校
になった学校の木造校舎を移築したもので老朽化しており,
償却済みの施設である。
(エ)さらに,控訴人Aは被控訴人Cに対して,前記正当事由を補完
するものとして,本件建物の評価額602万円余の約倍額である
1300万円を支払う用意がある。
(オ) よって,予備的に,控訴人Aは被控訴人らに対して,控訴人A
が被控訴人Cに1300万円を支払うのと引き換えに本件二ないし
四土地を明渡すことを求める。
(2)被控訴人らの主張
   ① 被控訴人Cは被控訴人会社に対して,被控訴人C所有の本件建物を
賃貸しているにすぎず,土地の転貸借にはあたらない。
   ② 仮に被控訴人Cが被控訴人会社に対して土地を転貸したとしても,被
控訴人会社は道路交通法107条の11(現行108条)の改正(平成
5年法律第43号)に伴い,愛知県公安委員会からの指導に基づき
設立されたものであり,被控訴人Cが経営していた当時とその内容
は同じであるから,無断転貸による解除権は生じない。
③ 仮に,控訴人Aによる本件賃貸借契約の解除に理由があるとしても,
控訴人Aは解除後も被控訴人Cから支払われる賃料を受領している
から,控訴人Aは被控訴人会社に対する転貸を追認したというべき
である。
   ④(控訴人Aの予備的請求に対して)
(ア)本件賃貸借契約は被控訴人Cが自動車学校の経営を続ける限
り継続するというのが契約当事者である控訴人Aと被控訴人Cの
意思であり,本件建物の朽廃時期をもって期間満了とする旨の
定めがあるものである。
(イ)仮に期間の定めがないとしても,借地法上更新拒絶の要件とし
ては,「正当事由の存在」と「期間満了後の遅滞なき異議」が必
要である(同法4条)ところ,控訴人A主張の更新拒絶の通知は
期間満了前にされたものであるから「期間満了後の遅滞なき異
議」にあたらないことは明らかである。
(ウ)控訴人Aの土地明渡の正当事由がある旨の主張は否認ないし
争う。被控訴人Cは,本件各土地を賃借するに際して,自動車学
校用の敷地とするために,埋立造成工事,本件建物その他の施
設の整備等に4億円を超える費用を投下しているが,本件建物
等の施設は老朽化していないし,現にこれらを利用した自動車
学校において,西尾市や西尾警察署の委託を受けて幼稚園児ら
に対する交通安全教育の実施や自動車運転免許者に対する愛
知県公安委員会の講習機関としての役割を果たしており,D自
動車学校a校は公益性を有する存在となっているのである。
4 争点
(1)丙事件について
① 本件賃貸借契約の対象土地の範囲
② 約定又は無断転貸を理由とする解除による本件賃貸借契約 の終
了の有無
③ 期間満了による本件賃貸借契約の終了の有無(予備的請求)
(2)乙事件について
① 訴えの適否
② 本件賃貸借契約の対象土地の範囲
(3)甲事件について
① 訴えの適否(確認の利益の有無)
② 既判力抵触の有無
③ 賃貸借契約の対象土地の範囲
④ 妨害行為禁止請求の当否
第3当裁判所の判断
1 本件契約書には,被控訴人Cと控訴人Aとの賃貸借契約の対象土地とし
て,本件一ないし四土地から,本件一土地,四の1,2,5及び15土地を除
いた各土地は明示されているが,本件一土地,四の1,2,5及び15土地
は明示されていないところ,被控訴人Cによる賃借の対象土地の範囲に
ついて(全事件共通)判断する。
(1)前提事実に加えて,証拠(甲5の1,控訴人A[原審],被控訴人C兼被
控訴人会社代表者[原審・当審],後掲証拠)及び弁論の全趣旨による
と,以下の事実が認められる。
① 被控訴人Cは,愛知県岡崎市b町において,昭和35年8月頃から
D自動車学校を開設経営していたところ,昭和44~45年頃,愛知
県西尾市内においても自動車学校を開設することを計画し,その適
地として控訴人Aが農地として所有する一塊の土地である本件各土
地を賃借することとした。
② 本件各土地の位置関係は甲19のとおりであり,全体でおよそ四角
形の形状をなす一塊の土地となっているところ,本件契約書上に賃
貸借土地として記載の漏れている前記各土地のうち,本件一土地
は,一塊の土地の南東角付近に位置し,本件四の3,4土地に挟ま
れた細長い畦畔(赤道)として国の所有するところであった土地であ
り,本件四の1,2及び5土地は一塊の土地の東側の一辺に位置し,
いずれも昭和44年3月20日付けの分筆により生じた土地であり,
同様に一塊の土地の東側に位置する本件四の3,4,5及び9土地
も前同日付けで分筆され,一塊の土地の東側の一辺を隣地と画す
る境界線が直線となるようになっている。
  また,本件四の15土地は一塊の土地の西北角付近に位置し,本
件三土地,四の13及び14土地に挟まれ,同土地とともに一塊の土
地の西側の一辺を隣地と画する境界線が直線となるようになってい
る(甲19,丙2の1,2,3の2ないし7,10)。
③ 被控訴人Cは,農地(田)であった本件各土地の一部がいわゆる深
田として低地であった部分に土砂を搬入して埋め立てて,自動車学
校敷地用に造成したうえ,昭和46年2月19日愛知県公安委員会か
ら指定自動車教習所の指定を受けて「D自動車学校a校」の名称で
自動車学校を開校した(甲5の4,5,甲14,15,30)。
④ 本件一土地は外周コースの一部であり,踏切が設置されており,
同土地は自動車学校を経営するために必要不可欠な土地部分であ
り(甲5の1,甲14,19),本件二土地は南北に細長く伸びる土地で
あるが自動車教習コースの一部であり,本件三土地は自動車の校
舎,事務所敷地の一部である(甲14,19,乙4)。
⑤ このように本件各土地が自動車学校の敷地として利用されるよう
になった後,本件一土地は,昭和48年11月7日受付で大蔵省の所
有権保存登記がされ,同年10月31日売買を原因として同年11月
28日受付で,控訴人Aに所有権移転登記が経由され(甲8,丙1,3
の1),本件四の1,2土地は,昭和47年12月5日交換を原因として
昭和54年7月9日受付で控訴人Aに所有権移転登記が経由された
(丙2の1,3の2,3)。
(2)以上の認定事実によると,本件一土地,四の1,2,5及び15土地は,
本件契約書上賃貸借の対象土地として明示されていないとはいえ,前
記のような土地の位置,形状,分筆の経緯,被控訴人Cによる本件各
土地の埋立造成と自動車学校用敷地としての利用の開始,継続に照
らすと,控訴人Aと被控訴人Cとの間においては,前記各土地も本件契
約の賃貸借土地の一部とすることを合意してその引渡を了したものと
認めるのが相当であり,本件契約書上賃貸借の対象土地として明示さ
れなかったのは,本件契約書作成当時,前記各土地(但し,本件四の
15土地を除く。)が未だ控訴人Aの所有名義になっていなかったからに
すぎないものと推察される。
  なお,本件四の15土地が本件契約書に明示されなかった理由は証
拠上不明であるが,これをもって賃貸借の対象土地に含まれるとする
前示判断を左右するに足りるものではない。
2 控訴人Aは,本件賃貸借契約は被控訴人Cの無断転貸による解除ある
いは約定の終了原因により終了した旨主張するので,以下検討する(丙・
乙事件)。
(1)前記認定事実(前提事実を含む。)に加えて証拠(被控訴人C兼被控
訴人会社代表者[原審・当審],後掲証拠)及び弁論の全趣旨による
と,以下の事実が認められる。
① 被控訴人Cは,本件賃貸借にかかる本件各土地において自動車
学校を経営していたが,道路交通法107条の11(現行108条)の
改正(平成5年法律第43号)に伴い,公安委員会は,免許関係事務
の全部又は一部を総理府令で定める法人に委託することができると
定められ,愛知県公安委員会は個人経営の自動車学校に対し,前
記改正が施行される平成6年6月までに自動車学校を法人化するよ
うに行政指導した(甲16,18)。
② そこで,被控訴人Cは,前記行政指導に従い,個人経営であった自
動車学校を法人化することとし,平成6年1月17日付けで被控訴人
会社を設立登記し,代表取締役に就任した。法人化以来,被控訴人
Cは被控訴人会社の発行済株式総数200株のうち,196株を所有
し,その余の株も被控訴人Cの家族が所有している(甲17,丙5)。
③ 被控訴人Cは,表記訴訟代理人弁護士を通じて,控訴人Aに対し,
平成6年4月11日付けで,被控訴人会社を設立した経緯とともに今
後被控訴人会社が被控訴人Cから本件建物を賃借して自動車学校
を経営することになるものの,本件各土地の賃借権の譲渡・転貸に
はあたらないとする内容の書面を送付し,控訴人Aの理解を求めた
(甲1)。
④ これに対して,控訴人Aは被控訴人Cに対し,同年6月12日付け
で,被控訴人Cが被控訴人会社に本件建物と関係のない敷地部分
を賃貸することについて控訴人Aの承諾がないとして本件賃貸借を
解除する旨の書面を送付した(乙1)。
(2)以上の認定事実によると,自動車学校経営の法的主体が被控訴人C
から被控訴人会社に変更されたことにより,被控訴人Cが控訴人Aから
借り受けていた土地の利用については,被控訴人Cから被控訴人会社
に転貸されたものと認められる。
 この点について,被控訴人らは,被控訴人会社は被控訴人Cから本
件建物を賃借しているにすぎず,本件各土地の賃借人は依然として被
控訴人Cであるから,賃借権の譲渡・転貸はない旨主張する。
 しかしながら,被控訴人会社は被控訴人Cから建物を賃借するととも
に,被控訴人Cが控訴人Aから賃借している本件各土地についても自
動車学校用地として利用しているとみるべきであるから,その実態から
すれば,被控訴人会社が被控訴人Cから本件各土地を転借しているも
のと評価するのが相当であり,被控訴人らの前記主張を採用すること
はできない。
  (3)もっとも,この転貸は,自動車学校経営の法的主体が被控訴人C個人
から前記認定の事情により被控訴人会社という法人に変わったにすぎ
ないものであり,自動車学校用地としての本件各土地の利用の実質に
は何ら変更がないのであるから,賃貸人たる控訴人Aとの間の信頼関
係を破壊するものとはいえず,背信行為と認めるに足りない特段の事
情がある。
    よって,無断転貸を理由とする控訴人Aの解除は効力がないというべき
である。
  (4)また,本件賃貸借契約において,賃借人は自動車学校の経営廃止をす
る等の原因で契約が終了した場合には賃借地を明け渡す旨の本件特
約があるところ(甲5の3,乙2),控訴人Aは,前記約定を理由に被控
訴人Cは自動車学校の経営をやめたのであるから賃借土地を返還す
べきである旨主張する。しかしながら,被控訴人Cは被控訴人会社の
代表者として依然として自動車学校の経営の中心的立場にあり,被控
訴人Cにおいて自動車学校の経営を廃止したとは到底いえない。よっ
て,本件特約による終了も認めることはできず,控訴人Aの前記主張も
理由がない。
3 さらに,控訴人Aは,当審において期間満了による終了を主張するの
で,検討する。
(1)本件賃貸借契約は,期間の定めがないから,賃貸借の開始日である
昭和45年3月19日から30年の平成12年3月20日の経過をもって期
間満了になるところ,被控訴人Cは本件各土地を自動車学校用地とし
て被控訴人会社に転貸して,その使用を継続しているのであるから,
控訴人Aにおいて遅滞なく異議を述べたこと及び更新を拒絶するにつ
いて正当事由のあることを基礎づける事実を具体的に主張立証しなけ
ればならない(借地借家法付則4条但書,旧借地法2条1項,6条)。
  控訴人Aは被控訴人Cに対し,平成12年3月15日到達の書面をもっ
て更新拒絶の通知をしており(丙10の1,2),当審において平成14年
1月28日受付で予備的請求の申立てをして,同請求を維持しているの
であるから,遅滞なく異議を述べたものと評価することができる。
 なお,本件賃貸借契約が期間の定めがないものであるとする点に関
して,被控訴人らは,本件賃貸借契約は被控訴人Cが自動車学校の
経営を続ける限り継続するというのが契約当事者である控訴人Aと被
控訴人Cの意思であり,本件建物の朽廃時期をもって期間満了とする
旨の定めがあるものである旨主張するが,本件契約書3条2項の「賃
借地上の建物が滅失し,更らに建物を建築しようとするときは,賃貸人
と協議すること。」との記載(甲5の3,乙2)は,賃借人の約諾条項であ
ることは同条本文の記載から明らかであり,前記記載をもって賃貸借
期間を定めた条項と解することはできないから,被控訴人らの前記主
張を採用することはできない。
(2)そこで,控訴人Aの更新拒絶に正当事由があるかどうかについて検討
をすすめる。
① ここにいう正当事由とは,土地の所有者(賃貸人)自ら土地を使用
することを必要とする場合その他正当の事由がある場合をいうこと
は旧借地法6条1,2項,4条1項但書から明らかであり,また正当事
由の判断にあたっては賃貸借の当事者双方の利害関係その他諸般
の事情を考慮することを要するところ,控訴人Aの主張する正当事
由は,要するに,賃貸土地の時価は高額であるのに賃料が不当に
低額であり,賃貸人が死亡した場合,賃貸土地の相続税の負担が
大きいから,これを売却する必要がある一方,賃借人は高額な賃借
土地を利用しながらさしたる収益を上げることができず,賃借土地上
の建物も老朽化しているというものであり,賃貸人自ら土地を使用す
る必要性については何らの主張をしない。
② 本件賃貸借の目的が,被控訴人Cによる自動車学校の経営にあ
り,そのために被控訴人Cにおいて,農地であった本件各土地の埋
立造成や本件建物等の諸施設の整備とその維持に相当の資本を
投下していることは前記認定事実からしても明らかであり(なお,甲2
7は本件各土地の埋立造成と建物設置工事として4億円余の費用を
要する旨の見積書であり,このとおりの費用を要したかどうかはとも
かくとして,相当額資本を投下していることは明らかである。),本件
建物等の施設が老朽化していると認めるに足りる証拠もない。加え
て,D自動車学校a校は,西尾市や西尾警察署の委託を受けて幼稚
園児らに対する交通安全教育の実施や自動車運転免許者に対する
愛知県公安委員会の講習機関として相当の社会的役割を果たして
いることが認められる(甲31ないし37)。
(3)以上に指摘の事情によると,控訴人Aの更新拒絶には正当事由があ
るとは到底いえないから,正当事由の補完としての立退料について検
討するまでもなく,本件賃貸借は法定更新されたものというべきであ
る。よって,控訴人Aの本件賃貸借の期間満了による終了を前提とす
る予備的請求も理由がない。
4 乙事件について
(1)前記認定事実によると,本件一,二土地も本件賃貸借契約の対象土
地として被控訴人Cが賃借権を有するものであるところ,控訴人Aはこ
れを争っていることは明らかであるから,被控訴人Cの乙事件請求は
理由がある。
(2)この点に関して,控訴人Aは,本件一土地の所有権は既に控訴人Bに
移転しているから,被控訴人Cが控訴人Aとの間で賃借権を確認する
意味がない旨主張するが,被控訴人Cにおいて控訴人Bに対する前記
所有権移転を争っていることに鑑みると,所有権の帰属者如何にかか
わらず,被控訴人Cは賃借権を確認する法的利益を有するというべき
であり,控訴人Aの前記主張は採用することができない。
  また,控訴人Aは,賃借権の一部の確認請求は許されない旨も主張
するが,賃貸借の対象土地の範囲について当事者間で争いがある場
合に,これを確認する法的利益を有することはいうまでもなく,控訴人A
の前記主張は独自の見解であって採用することができない。
5 甲事件について
(1)甲事件請求として,被控訴人Cは控訴人Bに対し
 ① 本件一土地が控訴人Aの所有であることの確認
 ② 被控訴人Cが本件一土地について本件賃貸借契約に基づく賃借権
を有することの確認
 ③ 被控訴人Cの控訴人Aに対する本件賃貸借契約に基づく賃借権を
保全するため,債権者代位として,控訴人Aが控訴人Bに対して有
する本件各登記の抹消登記手続
 ④ 控訴人Bによる本件一土地の使用を妨害する一切の行為の禁止
   をそれぞれ求めるので,以下前記各請求の適否について検討す   る。
(2)まず,前記①,②の各確認請求についてみるに,被控訴人Cが控訴人
Aとの間で,本件一土地について本件賃貸借契約に基づく賃借権を有
することは前記認定のとおりであり,控訴人Bが被控訴人Cに対し,本
件①登記の経由後である昭和63年3月15日付け内容証明郵便で,
本件一土地の使用を禁止する旨,同年6月2日付け内容証明郵便で,
不動産侵奪罪で刑事告訴する旨の通知をしていることは前提事実(4
)のとおりである。
  したがって,本件一土地の所有権を取得したとする控訴人Bは,被控
訴人Cによる土地の占有権原を否定していることになるから,被控訴人
Cとしては控訴人Aに対する占有権原を主張してこれを確認する法的
利益を有することは認められる。
  しかしながら,被控訴人Cの前記②の確認請求は,控訴人Bに対する
占有権原としての賃借権の確認を求めるものではなく(前記②の確認
請求が,被控訴人Cにおいて控訴人Bを新所有者であることを認めた
上で,その新所有者に対して,対抗力のある賃借権の確認を求める趣
旨であると解することはできない。),控訴人Aに対する賃借権の確認
を控訴人Bとの関係で求めるというものである。
  そうすると,控訴人Aに対する賃借権を控訴人Bとの関係で確認したと
しても,これは被控訴人Cと控訴人Bとの間の本件一土地に関する何
らかの権利又は法律関係の存否に影響を及ぼすものではないという
べきである。
  また,これと同様に,控訴人Aの所有権の有無を控訴人Bとの関係で
確認したとしても,被控訴人Cと控訴人Bとの間の本件一土地に関する
何らかの権利又は法律関係の存否に影響を及ぼすものでもない。
  よって,被控訴人Cの前記①,②の各確認請求は,いずれも確認の利
益を欠くものとして却下を免れない。
(3)次に,前記③の各抹消登記手続請求についてみるに,この請求は,
土地賃借人である被控訴人Cが,土地賃貸人である控訴人Aに代位し
て,控訴人Aの控訴人Bに対する本件各登記の抹消登記手続請求権
を行使するという債権者代位権を根拠とする請求であるところ,債権者
代位権は,債務者の権利を代位行使することによって債務者が利益を
享受し,その利益によって債権者の権利が保全されるという関係が存
することを要するものであるところ,本件各登記名義が控訴人Bにある
ことが,控訴人Cが賃借人として賃貸人たる被控訴人Aに対して,本件
一ないし三土地の使用収益を求める請求権の行使とは何らかかわり
がないのであるから,控訴人Aの控訴人Bに対する本件各登記の抹消
登記手続請求権を代位行使することによって,何ら被控訴人Cの賃借
権を保全することにはならない(最高裁昭和38年4月23日第3小法廷
判決[民集17巻3号536頁],最高裁昭和45年12月15日第3小法
廷判決[判例時報618号31頁]参照)。
  したがって,被控訴人Cの前記③の各抹消登記手続請求は理由がな
い。
(4)さらに,前記④の妨害禁止請求についてみる。
①前記認定事実(前提事実を含む。)に加えて証拠(甲5の19,控訴
人B[原審],被控訴人C兼被控訴人会社代表者[原審])によると,
控訴人Bは被控訴人Cに対し,本件①登記の経由後である昭和63
年3月15日付け内容証明郵便で,本件一土地の使用を禁止する
旨,同年6月2日付け内容証明郵便で,不動産侵奪罪で刑事告訴す
る旨の通知をしたこと,また,控訴人Bは,本件各登記を経由してい
ることを理由に,本件一ないし三土地について買取りないし新たな賃
貸借の締結等によって利を得ようとして,被控訴人Cの当時の代理
人弁護士と交渉を持とうとしたが,被控訴人Cは控訴人Bがいわゆ
る事件屋であるとしてこれに応じなかったことが認められる。
  しかしながら,それ以上に,控訴人Bが被控訴人Cによる本件一土
地の使用について妨害行為をしたことを認めるに足りる証拠はな
い。
  なるほど,控訴人Bは,昭和56年頃から,控訴人Aの相談に乗り,
控訴人Aの被控訴人Cに対する賃料の増額請求,無断転貸を理由
とする解除,あるいは愛知県公安委員会宛の自動車学校としての設
備に瑕疵がある旨の上申について,控訴人A名義の各書面を作成
したりして,控訴人Aと被控訴人らとの間の本件紛争の解決を困難
にしていることは窺えるものの(甲6,7,24,前掲証拠),これをもっ
て,控訴人Bによる本件一土地の使用についての妨害行為であると
いうこともできない。そして,控訴人Bは,控訴人Aの表記訴訟代理
人弁護士の教示により,前記通知書(甲12)に記載した不動産侵奪
罪である旨の認識が誤りであることを理解した後は,前記のような行
動をしていないのである(控訴人B[原審],弁論の全趣旨)。
② 控訴人Bが,本件各登記を経由していることから,本件一ないし三
土地について所有権その他の権利を主張して,被控訴人らに対して
交渉を求めることは,その目的や手段,方法において社会的相当性
を欠く違法不当なものでない限り,許されないわけではなく,本件各
証拠を検討するも,控訴人Bが現在も前記のような通知書を発した
り,その他の方法で被控訴人Cの使用収益を妨害するような行為を
していることは認められないから,将来にわたって妨害行為をするお
それがあるとも言い難い。
  よって,被控訴人Cの前記④の妨害禁止請求も理由がないというほ
かない。
6 結論
 以上の次第で,甲事件について被控訴人Cの控訴人Bに対する請求を
認容した原判決主文一ないし六項は相当ではないから,控訴人Bの控訴
に基づきこれを取り消したうえ,取消しにかかる被控訴人Cの請求のう
ち,前記5,(1)の①,②の各確認請求にかかる訴えを却下し,その余の
各請求部分をいずれも棄却することとし,乙事件について被控訴人Cの
請求を認容した原判決主文七項,丙事件について控訴人Aの請求を棄却
した原判決主文八項はいずれも相当であるから,乙・丙事件にかかる控
訴人Aの各控訴をいずれも棄却し,控訴人Aの当審における予備的請求
は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
  名古屋高等裁判所民事第4部
     裁判長裁判官   小   川   克   介
        裁判官   黒   岩   巳   敏
        裁判官   鬼   頭   清   貴

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