弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
 当庁昭和五四年(ヨ)第二〇二号事件の仮処分決定正本に基づく強制執行は右異
議事件(当庁昭和五五年(モ)第九二七九号)の判決をするまでこれを停止する。
       理   由
一件記録によると次のような事実を認め、かつこれにより次のような判断をするこ
とが一応可能である。
(1) 本件仮処分決定における被保全権利は被申立人の有する「新規な複素環式
ベンズアミドの製法」なる方法発明に関する特許権(第五六九九四二号、公告日昭
和四四年一〇月六日)に基づく侵害差止請求権であつて、申立人らの侵害行為の疏
明は特許法一〇四条所定の推定規定を援用してなされたものであつたところ、申立
人らは、審尋にさいし、これに対する防禦方法として専ら「右方法発明の目的物質
(ラセミ体スルピリド)は前記法条にいわゆる新規物質性の要件を具備していな
い。」とのみ述べ、充分な機会があつたにもかかわらず(昭和五四年一月二三日に
仮処分申請を受理後七回にわたり審尋期日を重ねている)、特段自社のスルピリド
(商品名シーグル錠)の製法を開示して前記法条の適用を免れる防禦手段をとらな
かつた。
(2) その結果、当裁判所は結局被申立人の主張を容れ本件につき前記法条を適
用して仮りに申立人らのスルピリド製造販売を差止める趣旨の満足的仮処分命令を
発した。
(3) しかるところ、申立人らは直ちに異議を申立てたうえ、異議訴訟の段階で
はじめて昭和五四年三月頃以降の自社のスルピリド製造方法として別紙目録記載の
ような製法(以下、イ号方法という)を開示し主張した。
 そして、右イ号方法がはたして被申立人の有する本件特許権の技術的範囲に属す
るか否かについては、いまだ被申立人から充分な意見陳述のない段階ではあるが、
とりあえず当裁判所が右の点について検討すると、もしそれが単に理論的または実
験的に可能な方法というだけではなく現実の工業的生産方法として可能な方法であ
るとすれば、それは本件特許権の技術的範囲の外にあると解しえないでもない方法
であることが一応認められるところである。
(4) したがつて、本件では、もし申立人らが仮処分申請事件の審尋の段階でイ
号方法を開示していたとすれば(それが充分可能であつたことは前示の経時関係に
照らし明白である)、少くとも仮処分裁判所としてはさらに審理を続行し、仮処分
異議事件の審理に要する期間とほぼ同じ期間は仮処分決定(または判決)をするこ
とがなかつたとの予測ができ、かつその結果についても必らずしも本件仮処分決定
がしたように認容決定(または判決)となるとは限らない特段の情況があつたとい
うことができる。
(5) 申立人らが本件仮処分の執行によつて取引先を失う等一定の限度で回復す
ることのできない相応に甚大な損害を蒙ることは、当裁判所に顕著なこの種薬品の
製造販売業界の実態に照らし、容易に推認可能な事柄である。
 以上のような一応の認定判断によると、本件仮処分は例外的な措置として特に民
訴法五一二条を類推適用し保証を立てさせることを条件としてその執行を停止する
のが相当である。
よつて、主文のとおり決定する。
(裁判官 畑郁夫 上野茂 中田忠男)
<12202-001>
<12202-002>
<12202-005>
<12202-003>
<12202-004>

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