弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中各被告人の有罪部分を破棄する。
     被告人A1同A2を各懲役一年に処する。
     但し被告人両名に対し本裁判確定の日からそれぞれ三年間右刑の執行を
猶予する。
     被告人A1に関し押収にかかる昭和二十四年度土木費河川費と題する書
類綴一冊(証第十号)中昭和二十四年九月二十一日附B1より石川県知事B2宛金
五千九百四十円の請求書(同書末尾記載の技師B3作成名義の証明部分を含む)及
び同日附B1より前同知事宛金一万二千九百六十円の請求書(同書末尾記載の技師
B3作成名義の証明部分を含む)の各虚偽公文書作成部分はこれを没収する。
     同被告人に関し右書類綴一冊(証第十号)中昭和二十四年十月二十四日
附B4より前同知事宛金一万八千九百円の請求書(同書末尾記載の技師B5の証明
部分を含む)、同日附B4より前同知事宛金三千四百二十円の請求書(同書末尾記
載の技師B5作成名義の証明部分を含む)及び同年十一月三十日附B6より前同知
事宛金一万八千円の請求書(同書末尾記載の技師B5作成名義の証明部分を含む)
中の各虚偽公文書作成部分はいずれもこれを没収する。
     被告人A2に関し押収にかかる支払命令綴一冊(証第九号)中昭和二十
三年度歳出第六六号、同第四七五号の支払命令各一通中の各虚偽公文書作成部分は
いずれもこれを没収する。
     原審訴訟費用中証人C1、C2、C3、C4(昭和二十六年十一月十九
日出頭分)に各支給した分は被告人両名と原審相被告人A3との連帯負担とし、証
人C5、B3(昭和二十五年十二月六日及び昭和二十六年十月十五日各出頭分)並
にC6に各支給した分は被告人A1と原審相被告人A3との連帯負担とし、証人C
4(昭和二十六年一月十日出頭分)並にC7、C8に各支結した分は被告人A2と
原審相被告人A3との連帯負担とし、証人C9、C10、C11、C12(昭和二
十六年二月七日及び同年四月四日各出頭分)並にC13、C14、C15に各支給
した分は被告人A2の負担とする。
         理    由
 被告人A1の弁護人村沢義二郎、同塚本助次郎の論旨は両弁護人連名の昭和二十
七年九月十四日附及び塚本弁護人名義の同年九月十一日附各控訴趣意書に記載する
通りであり、
 被告人A2の弁護人村沢義二郎、同岩上勇二の論旨は両弁護人連名の昭和二十七
年九月七日附、同年九月八日附及び同年九月十日附の各第一乃至第三控訴趣意書並
に同被告人の弁護人田中一郎の同年六月三十日附控訴趣意書に各記載する通りであ
るからそれぞれ之を引用する。
 一、 被告人A1に対する村沢、塚本両弁護人連名の控訴趣意書中事実誤認第一
記載の論旨並に塚本弁護人名義の控訴趣意書第一点記載の論旨について。
 原判決は先づその判示第一の(一)の(イ)として被告人A1は昭和二十四年九
月頃石川県土木部河港課に於て河川調査及びこれに対する出役人夫賃請求に対しそ
の事実を証明する権限を有する右河港課員B3と共謀し河原田川を河川調査した事
実及びこれに対し人夫を出役させた事実がないのに判示(A)の(1)(2)の如
く二回に亙りB1作成名義の石川県知事B2宛内容虚偽の人夫賃請求書、同書附属
書類であるB1外五名作成名義の委任状並に技師B3作成名義の人夫出役報告と題
する書面各一通宛を順次作成した上、行使の目的で右各人夫賃請求書の末尾に「前
記の通り使役したことを証明する技師B3」と朱書しその名下に「B3」と刻印し
ある認印を押捺して同人の職務に関し前記虚偽の人夫賃請求書を正当なものと認証
しもつて技師B3作成名義の虚偽内容の公文書各一通をそれぞれ偽造し判示(B)
の如くその頃前記河港課において右偽造公文書二通にそれぞれ被告人A1の確認の
印を押捺して前記人夫賃請求書二通が真正に成立したものの様に装いその情を知ら
ない同県土木部監理課係員を通じ同県出納部において同県副出納部において同県副
出納長B7に対しこれを一括提出行使し同副出納長をして石川県庁内D銀行石川県
本金庫係員E8に前記各請求書記載金額の支払を命ぜしめもつて前掲県の各係員及
び県本金庫係員をして順次その旨誤信せしめ因つて同月三十日頃石川県庁内の前記
D銀行石川県本金庫出張所で前記係員E8より現金合計一万七千八百五十円を前記
B1に交付させてこれを騙取した旨の事実を認定判示した。そして同判決は右被告
人の所為が詐欺罪を構成しない旨の原審弁護人の主張に対する判断において「第六
回公判調書中証人B4の供述記載、証人B4、同B3の当公廷における供述、被告
人A1の当公廷における供述を綜合すると石川県土木部河港課に於て昭和二十四年
九月頃管下犀川の桜橋下流附近の河川調査の為E9株式会社員B1外五名の人夫を
使役したが該調査費として定められた予算がなかつた為被告人A1が予算上多少余
裕のあつた河原田川調査費からこれが支払を為す為め同所担任技師B3と共謀の上
判示第一の(一)の(イ)の所為を為したものであつて、該金員がB1外五名に支
払われたことは認められるのであるが右B1外五名は河原田川調査の為、出役した
ことがないことは判示認定の如くである。従つて前記B1外五名において河原田川
河川調査の為め出役した人夫賃を請求すべき権利がないことは明白であるから河原
田川河川調査の為出役した人夫賃として受領した前示第一の(一)の(イ)による
金員は不当な金員を受領したことになる。尤も右説示したことはB1外五名が犀川
の桜橋下流附近の河川調査に人夫として出役した人夫賃の請求権を有していたこと
を否定する趣旨ではないのである。しかして被告人A1は前記B1外五名を財産上
不法に利得せしめたものであり、不法領得の意思があつたことは明白である」旨判
示しているのである。
 然しながらB1外五名が右判示のように、真実石川県河港課の事業である管下犀
川の桜橋下流附近の河川調査に使役せられ、石川県に対し原判示金額の人夫賃債権
を有し、同債権に対する弁済として判示金額が判示債権者に支払われたものである
以上、たとい県の担当係員に於てその支払の手段として予算支出の形式的考慮から
右人夫賃の請求書並にこれに対する認証書に判示河原田川の河川調査に使役した人
夫賃なる如く虚偽の事実を記載し、これに基き判示係員をして判示の支払手続を取
らしめたからと云つてこれにより判示債権者を<要旨第一>して判示金員を不法に利
得せしめたものと云うことは出来ない。即ち右債権者が石川県河港課の正常な業務
使役せられた合法的な人夫賃債権を有し、石川県がこれに対し当然弁
済の責務を負担しているものである限り、その弁済の手続の為め執られる県係員の
作成文書において当該債権の発生原因たる労務の給付場所について予算上の考慮か
ら事実と異る河川が記載せられ、これに基く県予算の支出により右債権額の弁済を
受けたとしても債権者において右県係員の行為による何らの不法な利得を得る筋は
ない。債権者の受ける利益は単に同人の県に対し正当に有する債権額に相当する金
額であり且つ同人の意思は正に同金額を右債権の弁済として受けることにあるから
である。従つて右弁済の方法として判示虚偽内容の公文書を作成行使した被告人A
1は同所為につき公文書偽造行便の罪は免れ難いけれども判示B1外五名を不法に
利得せしめる領得の犯意を有すべき筋合がないものと云わなければならない。然る
に原判決が前記のような理由の下に判示第一の(一)の(イ)において被告人A1
の判承所為に公文書偽造行使の罪の外に詐欺罪の事実を認定したのは罪となる事実
を誤認したものであり同事実は判決に影響を及ぼすことはもちろんであるから、破
棄を免れない。
 右弁護人らのこの点の論旨は理由がある。
 次いで弁護人は原判決第一の全事実について、被告人A1の所為は行政上の職務
執行につき必要な予算流用の適法行為であり不法領得の意思なく犯罪は成立しない
と主張する。右の内判示第一の(一)の(イ)の詐欺の事実に関し不法領得の意思
のないことを既に説示したから、ここでは同事実を除外したその余の事実につき論
旨に解答することにする。
 原判決挙示の関係証拠を綜合すれば被告人A1は原審相被告人A3と共謀の上同
人らの勤務する石川県河港課において職務上交渉のある建設省又は運輸省などの監
督指導官庁の職員を饗応する接待費を予算外に捻出する為め、判示第一の(一)の
(ロ)並に同(二)、記載の如く判示各虚偽内容の人夫賃請求書、同附属書類とし
ての委任状、人夫出役報告書をそれぞれ課員に命じて作成させ、人夫出役の事実を
証明する権限のある判示石川県技師B5に依頼して同人作成名義の証明文書を右人
夫賃請求書の末尾に朱書して署名捺印させもつて同人の職務に関し判示の如き内容
虚偽の各公文書をそれぞれ偽造した上これを同県土木部監理課員を通じ同県副出納
長B7に提出行使し同人をして判示県本金庫係員に対し右各請求書記載金額の支払
を命ぜしめ、もつて前記県並に県金庫係員を順次欺罔して判示各日時判示各金員を
判示金庫係員より原審相被告人A3又は判示B5の手に交付せしめ、よつて其の金
員を被告人らの支配に移した上前記中央官庁職員の饗応費に充消費消した事実が認
められる。
 そこで右のような県職員が職務上の饗応費を予算外に使用する為め架空の人夫賃
債権を捏造してその請求に必要な判示偽造文書を作成行使し、出納員その他を欺罔
して所期の金員を県歳出予算の当該科目から支出せしめこ札を自己の支配内に帰属
せしめる行為が、弁護人所論のように職務上の必要行為に随伴する適法な行為であ
り、不法領得の性質を具備しないものであるか否かを検討するに原審証人B7、C
4、C2らの各証言によると地方自治体において所管行政事務関に係ある中央行政
官庁の職員に対し事務上の接渉を為すに当り饗応、土産物を為す風習があり、石川
県においても各場合の事情に応じ接待の方法場所金額等を具体的に考慮し適曲な限
度において行う接待費の支出が許容せられており右経費に宛てる為め昭和二十四年
度の歳出予算において事務連絡費の科目が設けられていた事実、右経費の支出並に
予算科目の流用については知事の委任を受けた県総務部長の監督並に承認を受ける
ことを要する事実被告人らの判示接待費の支出は何ら右権限ある上司の監督上の措
置を受けることなく、ほしいままな被告人らの越権行為によつて予算科目の不法流
用にかかる事実が認定される。そしてここに予算科目の流用と云うことの合法的な
意味は権限ある機関の指示又は承認或は議決により予算上甲科目の計上金額を乙科
目又は新設科目の金額に組か替えることを云い、甲科目の計上金額を他の科目又は
予算に計上せられていない他の用途に使用する為め支出用途を詐つた虚偽内容の公
文書を作成行使し所要の金額を右甲科目から支出せしめることは正当な予算流用の
観念に属しないことは条理上当然であると云わなければならない。右の通り被告人
A1の前記所為は公共団体たる地方自治体の予算並に職制上の秩序を破壊し、公費
を濫用する不法な目的を具備する違法行為であることは明かであるから、これをも
つて職務行為に随伴する適法行為であり不法領得の犯意がないとする弁護人所論は
到底採用し難い。故に原判決が被告人A1の前記所為につき判示公文書偽造行使詐
欺の各違法性を認めたのは正当であり論旨は理由がない。
 二、 右両弁護人連名の控訴趣意書中事実誤認第二記載の論旨について。
 本論旨は原判決が被告人A1に対する判示第一の各犯罪事実を認定するに当り同
被告人が石川県本金庫係員E8を欺罔して各判示金員を騙取した旨判示している
が、現金を判示の如く交付したE8は何ら欺罔されておらないと云いその根拠とし
て石川県出納手続に関する同県会計規則の諸規定を援用するものである。よつて証
第十号会計規則の諸規定を綜合し石川県歳出予算の実行に関する県本庁諸機関の権
限と職責並に県本庁における予算の支出及び現金払渡の手続を要約して述べると次
の通りである。
 知事は県予算の支出権を有する最高の機関であつて同支出の権限を県出納長に対
する支出命令の形式をもつて行便する。同支出命令は文書により受取人の氏名、目
的、金額、科目、年度等必要事項を記載して為されなければならない。
 次に県出納長は知事の右文書による支出命令を受けこれに基き県金庫に対し支払
命令を発する権限を有する。右支払命令は文書により受取人の氏名、金額、会計年
度、番号、発行年月日その他必要事項を記載して為されなければならない。尚お出
納長は県金庫に対し右支払命令を発すると同時に債権者に対し支払通知書を作成交
付する義務があり同通知書には前記支払命令書の記載要件と同一事項を記載しなけ
ればならない。もつとも県本庁払のものについては債権者に対する右支払通知書の
交付義務が出納長の裁量により免除される。
 尚お、出納長が右支払命令書及び支払通知書を発行するにつき為すべき行為とし
て規則第十三条は「出納長が知事の支出命令を受けたときは支払命令書及び支払通
知書を発行する前に左の事項を審査しなければならない。一、予算に定めた目的に
違うことはないか、又は予算額を超過することはないか。二、法令に違うことはな
いか。三、正当にして必要なものであるか。四、金額、所属年度及び支出科目に誤
りがないか。五、その他必要と認めた事項」と規定し、県出納長の予算支出に対す
る審査の職責を定めている。
 次に県金庫は規則第十二条に基く出納長の支払命令を受けて現金の支払を為す職
務を有するものであるがその支払につき県金庫の為すべき行為として規則第四十四
条は「県金庫は第十四条の規定による支払通知書を持参したものにつきこれを調査
し支払通知書と引換に現金の払渡をしなければならない。但し調査の結果左の各号
の一に該当するものがあるときは、これが支払を停止することができる。一、支払
命令書が到着しないとき。
 二、 支払命令書が支払通知書と符号しないとき。三、支払命令書又は支払通知
書の印鑑が出納長、副出納長から送付した印鑑と符合しないとき。四、金額を改ざ
んした疑いがあるとき。五、汚損して金額等が不明瞭のとき。六、支払の有効期間
を経過したものであるとき。」と規定し県金庫の現金払渡についての調査の職責を
定めている。
 そこで弁護人は右の県出納長の職責を規定する規則第十三条の規定内容と、県金
庫の職責を規定する規則第四十四条の規定内容の両者を比照した上前者の職務権限
が予算支出の合不法及び当不当に関する広汎な実質的審査権であるに反し、後者の
職務権限は極めて限られた形式的事項の調査権に過ぎないから、県会計規則は予算
支出の合法性と適法性の審査を挙げて出納長に一任し県金庫には単に右形式的な調
査のみを為しこれに該当しないときは必ず現金の払渡を為すべき義務を負わしめた
ものであり、従つて県金庫は出納長の発する支払命令が実質的に不法違法の支払を
命ずるものであつても、これを審査して支払を停止する権利を有しないから右違法
な支払命令に基ぎ金員を払い渡すことがあつても、それは県金庫当然の義務の履行
であつて被欺罔の観念を容れる余地がない旨を論ずるのである。
 よつて右両条を比照して考察すると県出納長は予算支出の合法性並に適法性のみ
ならずその妥当性に至るまで広汎な範囲の審査権限を与えられているに反し第四十
四条により県金庫に与えられたものは同条各号の極めて形式的な事項についての調
査権並に支払拒絶権に過ぎないことは同条の文理から見て首肯せられるところであ
るが、だからと云つて県金庫は同条各号に規定せられる事由に該当しないものにつ
いては如何なる場合にも支払通知書と引替に現金の払渡しを為すことを機械的に強
制されるものと即断することは出来ない。蓋し若しそうでないとすると、出納長の
支払命令が架空の債務に対する違法な支払を命ずるものであり債権者として記載せ
られたものが仮装の権利者に過ぎない場合、又は支払通知書の持参人が、同書面に
受取人として記載せられた真正の権利者の権利を侵害して支払を請求する場合その
他これらに類する不法な支払請求の場合において偶々その情を知り又はこれに疑を
持つ県金庫係員がその支払を拒もうとしてもこれらの事由は前記第四十四条各号の
一に該当しない理由でその意思に反して支払を強制されることになり、この結果は
吾々の有する社会通念並に信義誠実の原則に反するからである。故に県金庫の調査
権並に支払拒絶権を規定する規則第四十四条は支払の許されない、不正請求のあら
ゆる場合を閉鎖的に規定したものと解すべきではなく、支払の許されない各種の請
求のうち、書面上の記載など外形自体に瑕疵を有し最も簡易に発見しうる請求のみ
を取り上げて列挙し県金庫の現金支払事務の通例の基準を示したものに過ぎないと
云うべきである。ここで県本金庫の組織、地位、性質、任務などを原審に於て証拠
として提出せられ、記録第一七二八丁に編綴されている石川県金庫事務取扱に関す
る契約書と題する書直並に原審において現われたこの点の関係証人の証書を綜合し
て探究して見ると、石川県本金庫は石川県知事と株式会社D銀行頭取との間に締結
された石川県金庫事務取扱に関する契約に基き県公金の保管並にその収支に関する
現金の受払を掌ることを委託された右株式会社D銀行によつて設置、運営せられる
県現金の出納機関であつて県庁所在地に本金庫が、地方事務所所在地及び知事の指
定する地に支金庫が置かれる。そして金庫事務の処理は県会計手続の諸規程及び知
事の指揮命令に服することを要し、県金庫の責に帰すべき事由により保管金及び定
期千金に損害を生じた場合は損害の全部を県に賠償する責に任ずるも<要旨第二>の
とされていることが分る。して見ると県金庫はその職務として県出納長の支払命令
を受けて現金払渡の事務を遂行するに当つても、民法上の受任者たる地
位に基く善良な管理者の注意義務を負担するものであることは当然であるから、出
納長の発した支払命令が県公金の不正支出を目的とする県職員の違法行為に基くも
のであることを知り、又は善良な管理者の注意義務をもつてすればこれを知り得た
のに拘らず不注意をもつてこれを看過して現金の払渡をした場合には前記金庫事務
取扱に関する契約に基く損害賠償の責任を免れ得ないことは疑いがないと云わなけ
ればならない。そうとすれば県金庫は県公金の不法支出に対し現金払渡の責任者と
しての立場から支払拒絶権をもつて対抗すべき法律上の利益を有するものであり、
この権利を否定することは県金庫の受託者としての地位を抹殺するに等しいものと
云わなければならないのである。もつとも前掲会計規則は予算支出の規律として支
出命令権を知事に、支払命令権を出納長に、それぞれ分掌せしめ各機関の職務権限
を上下の序列に配分しており、殊に出納長に対し前記の如く広汎な範囲の支出審査
権を与えているので、職務序列の末端に位し現金払渡の事務を執行するに過ぎない
県金庫は通例の事務取扱としては右上級機関の行為に信頼して事務を処理すること
で善良な管理者の義務を尽すに事足り一々上級機関の命令の性質を疑いこれを調査
することにすれば却つて会計事務延いては県全般の行政事務の秩序並に運営を阻害
することになる。ここに前記会計規則第四十四条をもつて県金庫が通例現金の払渡
に際し守らなければならない事務処理の基準として同条各号のような極めて形式的
な調査並に支払停止事項を規定した理由があるのであるが、しかしこの事の故をも
つて県金庫が違法不正な職員の不正支出に対し県委託事務の善良な管理者として
亦、信義誠実の原則と正しい社会通念に立脚する行動の義務を負う事業体として有
すべきものとされた前掲支払拒絶権の成否に何らかの影響があるものと誤解しては
ならないことは云うまでもないことである。
 以上の通りであるから弁護人の前記論旨の当らないことは明白である。而して本
件においては先に説示した通り被告人A1の原判示第一の(一)の(ロ)同第一の
(二)の各所為は県公金の不当な流用を目的とし、職権を濫用して文書を偽造する
ことにより県に対する架空の人夫賃債権を捏造しこれにより判示職員らを欺罔して
判示虚偽債権を記載した支払命令を発せしめ、判示金庫係員をして同支払命令書記
載の金額が同書面に受取人として記載された者の有する真正な債権の弁済金であつ
て且つ同人に交付されるものであると誤信させ判示金額を自己に領得したものであ
り、右所為は原判決の判示の如く公文書偽造行使詐欺の罪を構成することは明かで
ある。よつて原判決には所論のような事実誤認はなく論旨は理由がない。
 三、 塚本弁護人の控訴趣意書中論旨第二点について。
 本論旨の要点はA1被告人の本件行為は河港課技術吏員として課長老田務の命の
ままに職務上の義務を遂行したのに過ぎない。又県の職員として自己の職務を行う
者がその職務に関して他の県職員を欺罔し其の職権に属する県公金の支出行為を為
さしめたとしても詐欺罪が成立する理由がない。何故ならば、欺罔した者も、され
た者もいずれも同一の人格である県の機関であるから、機関が機関を欺岡すること
は自己が自己を欺罔すると云うことと同様に法律上成り立ち得ないことだからであ
るという趣旨である。しかし被告人A1の本件所為はその職務に関する正清な権限
内の行為ではなく、自己の職権を越えた違法行為であつて前記犯罪を構成するもの
であることは既に説示した通りである。故に原審共同被告人として原審で無罪とな
り判決の確定した所論老田務が課長として本件所為を被告人に命令したものと仮定
しても上司が犯罪行為を下僚に命ずる権限がないから下僚においでその命令に服従
することは職務上の義務の遂行とはならず、従つて犯罪の成立に何らの影響を及ぼ
すものではない。
 又、被告人の本件行為は正当な職務上の権限行為でないから県の機関としての合
法的な地位に基く行為とはならず従つて右機関を構成する個人の自然人としての行
為に過ぎない。故に同行為によつて県の機関たる判示職員を欺罔して同職員の職権
内の行為を利用し、もつて判示金員を自己に領得する所為につき詐欺罪の成立を認
定することは何ら所論のような矛盾を犯すものではなく所論は全然理由がない。
 四、 被告人A2の弁護人村沢義二郎及び岩上勇二連名の控訴趣意書第一記載の
論旨について。
 しかし原審挙示の証拠によれば、被告人A2は原審相被告人A3と謀り又は謀ら
ずに原判示第二の(一)(二)(三)記載のように、石川県庁の出先機関である同
県江沼郡a町所在F土木出張所の長として同出張所に配布令達された石川県土木費
予算中から同所々管の土木工事に使役する人夫賃等の支出を命ずる権限をもつB1
0、並に同支出命令に因り命令にかかる金員の支払を右同町所在の株式会社D銀行
内に設置されている石川県支金庫に対し命令する権限をもつ右出張所庶務主任兼石
川県出納員B9と意思を通じ相共謀して、被告人らの勤務する県本庁河港課におい
て上級監督官庁の職員を饗応するに要し又は要した、接待費を予算外に捻出する為
め、右B10並にB9をしてその有する前記職権を濫用せしめ原判示架空の人夫賃
債権の支払を仮装する内容虚偽の公文書である支払命令書並に支払通知書を偽造行
使し、判示県F支金庫の係員を判示の如く欺罔し、もつて人夫賃支払名下に判示金
員を自己らに領得した行為を認定するに十分である。
 弁護人は被告人A2が判示金員をF土木出張所に対する令達予算中から捻出する
依頼をしたのみで、其の手段方法について何ら実行行為者たる前記小泉及びB9と
通謀したことなく従つて同人らの実行行為につき罪責を負担する理由はないと論ず
るのであるが、原審挙示の証拠によれば被告人が右小泉並にB9に対し判示金員の
捻出方を依頼する際同金員は右出張所配布の予算費目中人夫賃より支出する外ない
事情を十分に認識していた事実を肯定するに足る。然らば、かかる事情を認識した
以上その支出方法として判示虚偽内容を記載する支払命令を作成行使し判示支金庫
係員を欺罔する手段に訴えるべきことも亦多年県土木吏員として予算支出の方法に
明るい被告人の当然認識した事実であると云わなければならないから、こに実行行
為者との間に犯意の連絡が成立したものと云うべきである。よつて被告人は本件実
行行為につき共犯の責任を負うべきは当然であり、論旨は理由がない。
 五、 右両弁護人連名の控訴趣意書第二記載の論旨については同論旨は被告人A
1の弁護人として提出された前記二の控訴趣意書記載の論旨と全く同一であるか
ら、そこに示した当裁判所の判断をそのままここに引用し再説しない。
 六、 右両弁護人連名の控訴趣意書第三記載の論旨並に弁護人田中一郎の論旨に
ついて。
 本各論旨は被告人A2に対する原判決の量刑不当を論ずるものである。
 よつて記録を精査し同被告人の犯情を観察するところ、所論の如く本件所為の動
機事情には諸般の行政上の悪習と吏僚一般の綱紀の頽廃が背景を為すものであり、
被告人個人を処罰するのみでは右弊風の是正は如何ともし難く、これが刷新は政
治、行政上の一大改革に待つ外はないと認められる点及び同被告人と記録上何ら犯
情において差違の認められない原審相被告人A3並に当審相被告人A1に対し原審
において既に執行猶予を与えていることについての刑均衡の点を考慮し、被告人A
2に対しても刑の執行を猶予するのを相当としこの点において同被告人に対する原
審量刑は過重として判決の破棄を免れない。論旨は理由がある。
 七、 以上説示の次第であるから被告人両名に対する原判決は被告人A1につい
て同判決第一の(一)の(イ)の(B)の事実について事実誤認の違法があり、被
告人A2について、量刑不当の違法がありいづれも判決に影響を及ぼすので刑事訴
訟法第三百九十七条第四百条但書により原判決を破棄し当審において被告事件につ
いて次の通り判決する。
 原判決が挙示の証拠により認めた事実中判示第一の(一)の(イ)の(B)記載
の詐欺の点を除くその余の事実に左の通り法律を適用する。
 判決第一記載の被告人A1の判承所為中判示(一)(イ)(A)の(1)(2)
の各虚偽公文書作成の点は刑法第百五十六条、第百五十五条第一項、第六十五条第
一項、第六十条に、判示(一)(ロ)(A)の(1)(2)並に(二)の各虚偽公
文書作成の点は刑法第百五十六条、第百五十五条第一項、第六十条に判示(一)
(イ)(B)、(一)(ロ)(B)、及び(二)の各虚偽公文書行使の点は刑法第
百五十八条第一項、第百五十六条、第百五十五条第一項、第六十条に、判示(一)
(ロ)(B)並に(二)の各詐欺の点は刑法第二百四十六条第一項、第六十条に該
当するところ判示(一)(イ)(B)並に(一)(ロ)(B)の各虚偽公文書行使
は何れも二通の文書を一括行使したものであるから一個の行為で二個の罪名に触
れ、又判示(一)(イ)の各虚偽公文書作成と同行使、判示(一)(ロ)並に
(二)の各虚偽公文書作成、同行使、詐欺の間にはそれぞれ順次手段結果の関係が
あるので判示(一)(イ)並に(一)(ロ)の所為については各同法第五十四条第
一項前段並に後段、第十条により同(二)の所為については同法第五十四条第一項
後段、第十条により夫々刑期並に犯情の重い判示(一)(イ)(A)の(2)
(一)(ロ)(A)(1)、及び(二)の各虚偽公文書行使の罪の刑に従い、以上
は同法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条本文、第十条により其の
中最も犯情の重い判示(一)(ロ)(A)(1)の虚偽公文書行使の罪の刑に決定
の加重を為した刑期範囲内で同被告を主文の刑に処する。
 次に判決第二記載の被告人A2の所為中、判示(一)の別表(一)の(1)
(2)、判示(三)の(イ)(ロ)、判示(二)の(イ)(ロ)の各虚偽公文書作
成の点は刑法第百五十六条、第百五十五条第一項、第六十五条第一項、第六十条
に、右各項の虚偽公文書行使の点は刑法第百五十八条第一項、第百五十六条、第百
五十五条第一項、第六十条に、判示(一)の別表(二)の(1)、(2)、判示
(二)(ハ)、判示(三)(ハ)の各詐欺の点は刑法第二百四十六条第一項、第六
十条にそれぞれ該当するところ、判示(一)の別表(一)並に(二)の各(1)及
び(2)、判示(二)並に(三)の各虚偽公文書作成、同行使、詐欺の点は夫々そ
の間順次手段結果の関係にあるので同法第五十西条第一項後段、第十条を適用し、
それぞれ刑期及び犯情重いと認める判示(一)の別表(一)(1)、判示(一)の
別表(一)(2)、判示(二)(イ)、判示(三)(イ)の各虚偽公文書行使罪の
刑に従い、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるので同法第四十七条本文、第
十条により其の中犯情最も重い判示(一)の別表(一)(2)虚偽公文書行使罪の
刑に法定の加重をした刑期範囲内で同被告人を主文の刑に処する。
 而して情状により被告人両名に対し刑の執行を猶予するのを相当と認め刑法第二
十五条を適用して主文の期間当該刑の執行を猶予し主文掲記の押収物中虚偽記載の
部分は判示虚偽公文書作成の所為によつて生じ且つ判示虚偽公文書行使の所為組成
したもので何人の所有をも許されないから同法第十九条第一項第三号第一号第二項
によりこれを没収し、原審において生じた訴訟費用の負担を刑事訴訟法第百八十一
条第一項、第八十二条により主文の通り定める。
 被告人A1に対する公訴事実のうち、原判決第一の(一)の(イ)の(B)記載
の詐欺の点の罪とならないことは前記の通りであるから刑事訴訟法第三百三十六条
前段により無罪を言渡すべきであるが、同所為は原判決第一の(一)の(A)記載
の各虚偽公文書記載同行使の罪の牽連犯として起訴されたものであることは明白で
あるから特に主文において無罪の言渡をしない。
 そこで主文の通り判決する。
 (裁判長判事 吉村国作 判事 小山市次 判事 沢田哲夫)

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