弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
     前項の部分につき、被上告人の控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告指定代理人森本治臣、同喜多明広の上告理由について
 論旨は、要するに、被上告人の上告人に対する土地収用法一三三条に定める本件
損失補償に関する訴えは同条一項所定の出訴期間経過後に提起された不適法なもの
であるにもかかわらず、原判決がこれを適法と解した点に同条項の規定の解釈適用
の誤りがある、と主張するものである。
 本件記録及び原審の適法に確定するところによれば、被上告人は、昭和四三年八
月六日、本件収用裁決書正本の送達を受け、同年一〇月二九日、大阪府収用委員会
を被告として本件収用裁決の取消しを請求するとともに、その関連請求として、上
告人を共同被告とし、右違法な裁決に基づき上告人が本件土地の形状等に変更を加
えたことによる不法行為上の損害賠償の請求又は右裁決の取消しに伴う原状回復と
しての本件土地の返還に代わるその価額の填補賠償の請求として、収用時の本件土
地の価額相当額から被上告人が既に受領した損失補償金額を控除した額の金員の支
払を請求し、その後、同四六年六月九日、上告人に対する土地収用法一三三条に定
める訴えとして、右金額と同額の損失補償金の支払を求める予備的請求追加の申立
てをしたものであることが明らかである。
 ところで、訴えの変更は、変更後の新請求については新たな訴えの提起にほかな
らないから、右訴えにつき出訴期間の制限がある場合には、右出訴期間遵守の有無
は、変更前後の請求の間に訴訟物の同一性が認められるとき、又は両者の間に存す
る関係から、変更後の新請求に係る訴えを当初の訴え提起の時に提起されたものと
同視し、出訴期間の遵守において欠けるところがないと解すべき特段の事情がある
ときを除き、右訴えの変更の時を基準としてこれを決しなければならないところ、
前記被上告人による損失補償の予備的請求の追加の申立ては、本件収用裁決書の正
本の送達を受けた日から土地収用法一三三条一項所定の三か月を経過したのちにさ
れたものであることが明らかであり、また、右予備的請求は主位的請求と訴訟物を
異にしているから、前記特段の事情がある場合でない限り、右追加的請求に係る訴
えは、出訴期間経過後に提起されたものとして不適法であることを免れない。しか
るところ、原審は、本件において、被上告人が、前記のように上告人に対し、主位
的請求として本件収用裁決の違法を前提とする収用時における本件土地の時価と補
償金額との差額の金員支払請求をしていることに着目し、これをもつて上告人に対
して実質的に損失補償額を争う意思を表明していたものと認めることができるもの
とし、かつ、上告人においても被上告人の右意思を看取しえたものと認められると
したうえ、このような事情のもとにおいては、前記損失補償の予備的請求の訴えは、
出訴期間に関する限り、当初の主位的請求に係る訴えの提起の時にその提起があつ
たものと解するのが相当であると判示し、右訴えを適法としているのである。
 思うに、土地収用法一三三条が収用裁決そのものに対する不服の訴えとは別個に
損失補償に関する訴えを規定したのは、収用に伴う損失補償に関する争いは、収用
そのものの適否とは別に起業者と被収用者との間で解決させることができるし、ま
た、それが適当であるとの見地から、収用裁決中収用そのものに対する不服と損失
補償に関する不服とをそれぞれ別個独立の手続で争わせることとし、後者の不服の
訴えについては前者の不服の訴えと無関係に独立の出訴期間を設け、これにより、
収用に伴う損失補償に関する紛争については、収用そのものの適否ないし効力の有
無又はこれに関する争訟の帰すうとは切り離して、起業者と被収用者との間で早期
に確定、解決させようとする趣旨に出たものと解される。
 このような理解に立つて本件の場合をみるのに、被上告人の上告人に対する主位
的請求は、本件土地収用時における右土地の時価と収用裁決において決定された損
失補償額との差額の支払を求めるものである点においては予備的請求である上告人
に対する損失補償に関する訴えの請求と請求の趣旨を同じくするものではあるけれ
ども、前者は、本件収用裁決そのものの取消請求の関連請求として提起され、右収
用そのものが違法であることを前提として、これに基づく上告人の本件土地の形状
変更という不法行為によつて損害を被つたことを請求原因とし、あるいは右収用裁
決の取消しに伴う原状回復としての土地の返還に代わるその価額の填補賠償を請求
するものであつて、本件土地の収用そのものの適否ないし効力等と無関係な補償金
額の多寡についてのみの不服を内容とする後者の請求とは全くその性質を異にする
というべきものであり、被上告人が前者の請求においてたまたま自己が既に支払を
受けた損失補償額を賠償額から控除して請求していたため請求額が予備的請求であ
る損失補償に関する訴えの請求額と一致したというにすぎないのである。もつとも、
両請求の間には、本件土地の収用時における時価のいかんが争点として審理の対象
となるという共通点が存するが、これとても、前者の請求においては本件土地の収
用そのものが違法とされる場合において初めて判断の対象となるにすぎないのに対
し、後者の請求においてはそれが当初から審判の中心対象をなすという実質上の大
きな相違が存するのである。このようにみてくると、被上告人の前記主位的請求を
目して損失補償額をそれ自体として争う趣旨を含むものとすることは到底できない
から、右主位的請求において本件土地の収用時の時価と損失補償額との差額につい
て請求がされていることを理由として、右主位的請求に係る訴えの提起の時に予備
的請求である損失補償に関する訴えの提起があつたと解すべき特段の事情があると
した原審の判断は、法令の解釈適用を誤つたものといわざるをえない。
 そうすると、本件においては他に前記特段の事情の存在が認められないから、被
上告人による本件予備的請求に係る損失補償に関する請求追加の申立ては、出訴期
間を経過したのちにされた不適法なものとして却下を免れず、論旨は理由があり、
本件予備的請求の訴えを適法とした原判決は失当であるから、これを破棄し、右請
求に関する被上告人の控訴は理由がないからこれを棄却すべきである。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、
八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    和   田   誠   一

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