弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を原裁判所に差戻す。
         理    由
 本件各控訴の趣意は検察官羽中田金一名義、被告人A弁護人大池龍夫、同大道寺
和雄、同宮崎巌雄三名連名及被告人B弁護人青木紹実、同相沢登喜男、同伊東富士
丸各名義の各控訴趣意と題する書面記載の通りだからここに之を引用する
 右検察官の論旨第一点及被告人A弁護人等の論旨第六点について
 記録中の検察官の昭和二十五年十二月二十一日附被告人A、同B両名に対する本
件起訴状と原判決とを対比調査すると同起訴状は右被告人両名の共謀による恐喝を
本位的訴因とし、同人等の共謀による横領を予備的訴因とするものであるところ、
原裁判所は右予備的訴因たる横領の点につき被告人Aを無罪とし、被告人Bにつき
之を其の単独犯行と認定判示しただけで、前記本位的訴因たる恐喝の点については
右被告人等のいずれについても明示的には何等判断を示さなかつたものであること
が明白である
 ところで後段説明の通り当裁判所は右起訴状記載の恐喝と横領とは其の間に所謂
事実の単一性を欠く結果、本来右の如き予備的起訴を為し得ないものと解するも、
ここに暫く右の如き予備的起訴が許される場合であるとする各論旨の立場に立つて
考えるに、斯る場合、予備的訴因につき有罪認定が為されている限り、予備的起訴
の性質上本位的訴因については黙示的に犯罪の不成立の判断が下されたものと解し
得られるから、前記の通り横領の訴因につき有罪認定を受けた被告人Bについては
同被告人に対する右本位的訴因たる恐喝の<要旨第一>点につき原裁判所は犯罪の成
立を否定したものと解し得られないわけではない、然し予備的起訴の場合に於け 要旨第一>る一方の訴因の否定は前段に説明の其の肯定の場合と異り、到底当然に他
の訴因の否定まで意味するものといえないから、被告人Aに対する予備的訴因たる
横領の点についてのみ無罪を言渡し、其の本位的訴因たる恐喝の点につき何等判断
を示さなかつた原裁判所は同被告人に対し同恐喝の点につき審判の請求を受けた事
件につき判決を遺脱するという違法を犯したものというべく此点に於て同被告人に
対する原判決は破棄を免れないところで論旨はいずれも理由がある
 ところで職権を以て調査するに前記起訴状の本位的訴因たる恐喝は前記被告人両
名が昭和二十三年三月中頃Cより同人外一名の共有に係る建物の売却方を依頼され
たところから共謀して其頃同建物の所在地である名古屋市a区b町cノd番地でD
外数名に対し威嚇的態度言辞を用いて之を畏怖させ、因て右買取の意思なき同人等
をして其の数日後代金四十八万円で買受け方承諾させた上前同所で内金三十万円を
交付させて喝取したというに在り、其の予備的訴因は右三十万円を受取り前記建物
所有者の為保管中間もなく前記被告人等両名共謀の上で名古屋市e区f町所在の被
告人B方で内金二十二万円を着服して横領したと<要旨第二>いうのであるが、予備
的起訴の詐されるのは其の訴因間に基本的事実を同じくする関係のある場合に限る
ものと解すべきものであるところ前記恐喝と横領とは其の目的とせられ
た金員に共通部分があるに止つて、犯行の日時場所、被害者、被害法益、犯罪の手
段等すべて異つて居るので右起訴状の恐喝と横領とは其の基本的事実を異にするも
のというの外なく斯る別個の事実の間では予備的な訴因の記載は許されないものと
いわねばならない。而して右の如く許されない予備的訴因を附加した起訴状の提出
せられた場合共の本位的訴因についての起訴の効力まで滅却するものと解すべき理
由は考えられないと共に予備的訴因の記載を以て併合罪の起訴とみることも其の予
備的訴因なる語の示す如くそれが本位的訴因の成立を認められぬ場合に始めて判断
を求めるとの起訴官の独自の権限内の処置を示すものであることを考えるとこれを
併合罪の起訴とみることも許されないものと解するので結局本件起訴状にみえる横
領の予備的訴因は適法に原審に係属しなかつたものといわねばならぬ。果して然ら
ば前段の説明中にみえる通り被告人Bに対し斯る予備的訴因についてのみ判示し、
本位的訴因たる恐喝につき判断を明示せぬ原判決は被告人Aについてと同じく被告
人Bに対しても審判の請求を受りた事件につき判決をしない違法を犯したものとい
うべく結局被告人Bに関する部分も亦到底破棄を免れないところで検察官及被告人
Bの弁護人等の論旨は結局理由がある。以上説明の通りであるから検察官及被告人
両名の弁護人等の他の論旨に対する判断を省略し刑事訴訟法第三百七十八条第三
号、第三百九十七条、第四百条本文に則り主文の通り判決する。
 (裁判長裁判官 羽田秀雄 裁判官 小林登一 裁判官 山口正章)

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