弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定を次のとおり変更する。
     札幌地方裁判所昭和三四年(ル)第二一号債権差押申請事件について同
裁判所が昭和三四年二月一七日にした債権差押命令中請求債権目録及び差押債権目
録を別紙のとおり変更する。
     抗告人のその余の申請を却下する。
     抗告費用は、抗告人の負担とする。
         理    由
 一 抗告人の抗告の趣旨並びに抗告の理由は別紙記載のとおりである。
 二 抗告人は、別紙請求債権目録記載の債務名義に基く貸付金元本債権及びこれ
に対する遅延損害金債権を申立債権として、相手方の北海道炭砿汽船株式会社(第
三債務者。)に対する別紙差押債権目録記載の年金債権の差押命令を申請し、札幌
地方裁判所はこれを認容して差押命令を発したので相手方は執行方法に関する異議
を申し立てたところ、同裁判所は相手方の第三債務者に対する債権は国家公務員が
恩給法によつて支給を受ける恩給金となんら異らないものであるから右債権は差押
えることができないとして先に発した差押命令を取消し、抗告人の申請を却下し
た。
 三 しかしながら、当裁判所は、相手方の北海道炭砿汽船に対する本件年金債権
は、民事訴訟法第六一八条第一項第六号に当るものとして、同条第二項本文により
その各支払期に受くべき金額の四分の一の限度においてはこれを差押えうるものと
解する。
 <要旨>四 すなわち、本件記録中の北海道炭砿汽船恩給内規及び昭和三四年九月
一六日附同会社の回答書並びに相手方審尋の結果によると、本件年金は大正
九年一月一日より昭和二四年五月一五日まで実施された右会社の恩給内規に基くも
のであつて、右会社の職員か勤続三〇年以上にして退職した場合もしくは勤続二五
年以上三〇年未満にして会社の都合により解雇になつた場合に銓衡のうえ特に退職
一時金のほかに支給するとされた年金であり、その支給額は、三〇年以上にして退
職した者は退職当時の月額の四カ月分、勤続満二五年の者は退職当時の月給三カ月
分と勤続三〇年迄一カ年を増すごとに月給の五分の一ずつ追加したものを年額と
し、年金受給者にして在職中会社に対し不都合ありたることを発見しまたは退職後
会社に対して不利益の行為ありと認められたときは爾後支給しないと定められてい
ること、相手方は右会社に二七年間勤務して昭和二〇年一二月二五日五〇歳をもつ
て退職し、前記恩給内規による退職一時金として当時の月給の一三五カ月分を給付
されたうえ、本件年金を支給されることになり、給与基準の改定によつて現在は年
額五万円を月割りで毎月二五日に支給されていること、そして、本件年金は、法律
の明文をもつて差押を禁止されている厚生年金保険法(昭和一六年法律第六〇号。
昭和二九年法律第一一五号。)あるいは国民年金法(昭和三四年法律第一四一
号。)による年金とは関係なく右各法律に定められた年金の受給の有無にかかわら
ず恩給内規の各条項に該当する限り支給されるものでありかつまた受給権者と会社
との間に譲渡禁止の特約もなく(この点に反する相手方審尋の結果は措信しな
い。)、前記会社の退職者の老後におけるつつましい生活の保障であるとしても、
恩給法による公務員の恩給あるいは労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上
に寄与することを目的として法律の形式をもつて事業主に保険関係業務を強制する
前記各厚生年金保険法による年金等とは性質を異にし、前記会社の労役者、雇人た
る職員が労力又は役務の対価として受ける報酬の一部たる性格を有するものである
ことが認められる。
 勤労者の生活は出来るだけ厚く保護するに越したことはない。しかし、民事訴訟
法第六一八条第一項において定められているような差押禁止債権は、原則としては
法律によつて強制執行による差押を禁止する旨が規定され、公示されている場合の
ほかは、濫りにその範囲を拡げて解釈すべきではない。
 そうでないと、勤労者を保護することを考え過ぎる余り却つて勤労者に不自由な
思いをさせる場合がないとは言えない。
 五 しからば、原裁判所が先に発した債権差押命令の全部を取り消して債権者た
る抗告人の申請を却下したのは違法であつて、原裁判所は本件年金債権については
各支払期に受くべき金額の四分一に限りその差押を認可すべきであつた。
 しかしてなお、本件債権差押命令の請求債権目録を見ると、その挙示の債務名義
の各元本債権とこれに対する各弁済期後の一定の日から各完済に至るまでの将来の
違約損害金について差押することを認めているが、違約損害金については、各申請
にかかる弁済期後の一定の日から差押命令申請の日であること記録上明らかな昭和
三四年二月一六日までに限定すべきであり、また差押債権目録を見ると、本件年金
債権は継続収入の債権であるから、差押えうべき範囲は右認容さるべき債権額を限
度として差押後に収入される金額、本件においてはその各支払期の金額の四分の一
とすべきであるのに、漫然と昭和三四年二月から昭和三九年末までの年金合計二十
九万五千八百三十四円を差押えうべきものとして表示しているので、これらはすべ
て訂正しなければならない。
 六 以上判断したところによれば、本件抗告は一部理由があるので、原決定を変
更することとし、民事訴訟法第四一四条、第三八六条、第九六条、第九〇条に従い
主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 石谷三郎 裁判官 渡辺一雄 裁判官 岡成人)
 (別紙)
        求債権目録
 (一) 金十八万七千六百円
 但し、(1)札幌法務局所属公証人A役場第七七六七三号金銭消費貸借契約証書
の執行力ある正本に基き、債務者が申請外Cの連帯保証人として債権者に支払うべ
き貸金元金八万七千六百円、
 (2)札幌法務局所属公証人B役場第一一〇三二号金銭消費貸借契約証書の執行
力ある正本に基き、債務者が申請外Cの連帯保証人として債権者に支払うべき貸金
元金十万円
 (二) 金千八百二円
 右(一)の(1)の元金に対する昭和三四年二月三日から昭和三四年二月一六日
まで年四割の割合による違約損害金及び(一)の(2)の元金に対する昭和三四年
二月一三日から昭和三四年二月一六日まで年三割六分の割合による違約損害金
             差押債権目録
 債権者が第三債務者から終身支払を受くべき年額五万円の退職年金であつて、一
二分の一宛(一カ月につき金四千百六十六円で年額を一二分した端数の八円は一二
月に加算して支払われるもの。)毎月二五日に支払われる金員のうち昭和三四年二
月分から毎月各四分の一ずつ別紙請求債権目録記載の債権額に満つるまで。
     抗告代理人二宮喜治の抗告の趣旨および理由
 一、 原決定を取消す。二、債務者の本件異議申立は却下する。三、申立費用は
債務者の負担とする。右趣旨の裁判を求めます。
 一、 本件被差押債権は債務者から第三債務者に対する退職恩給であるが、恩給
法の如き差押禁止の成文法の規定はないものであるから成文の禁止規定なくして差
押を禁止する事は出来ないから原決定は違法である。
 二、 本件退職恩給は老後の生活保障であろうが、全額差押を禁止される筋合は
ない。民事訴訟法の規定の如く少くともその四分の一の差押は許されるべきである
か。
 三、 本件債務名義は債務者が申請外Cと共同で石炭販売業を営むにつき其の資
金として債権者から右Cが金円を借用した際債務者が保証した為に作成されたもの
であつて、本件退職恩給はつつましい老後の生活保障とは限らないのであるから公
務員の恩給と同一に原決定の如く解するのは違法である。

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