弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役5年及び罰金200万円に処する。
未決勾留日数中430日をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間,被告人を労役場に留置す
る。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は
第1(平成16年10月27日付け起訴状記載の公訴事実関係)
 A会B組若頭であるが,B組組長であるC及びA会D組組員であるEらと共謀の上,営利の目的で,みだりに,F国
から本邦にジアセチルモルヒネ等以外の麻薬を輸入しようと企て,ポリ袋在中のジアセチルモルヒネ等以外の麻薬であ
るN・α-ジメチル-3・4-(メチレンジオキシ)フェネチルアミン(別名MDMA)塩酸塩を含有する錠剤6万2
55錠等(約1万3449.81グラム。平成16年領2288符号1-1,同号2-1,同号3-1,同号4-1,
同号5-1及び同号6-1はその鑑定残量。)を,木製机の天板内に隠匿し,平成16年6月5日ころ,F国G港にお
いて,情を知らない港湾職員をして,H国籍船舶I号内に上記木製机を積載させ,同月28日午後3時ころ,神戸市J
区K町La丁目b番所在のM港Nコンテナ第c岸壁に係留した同船から,情を知らない港湾職員をして,上記木製机を
取り降ろさせ,もって,ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬をみだりに本邦に輸入するとともに,引き続き,輸入禁制品
である上記ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬を上記木製机に隠匿したまま本邦に引き取ろうとしたが,同年7月16
日,J区K町Od所在の神戸税関P所改品場において,同出張所職員にこれを発見されたため,その目的を遂げなかっ

第2(平成16年8月20日付け起訴状記載の公訴事実関係)
  法定の除外事由がないのに,平成16年7月26日ころ,熊本県内及びその周辺地域において,覚せい剤であるフ
エニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を自己の身体に摂取し,もって,覚せい剤を使用した
ものである。
(証拠の標目)―括弧内の甲,乙に続く数字は検察官請求証拠番号―
省略
(事実認定の補足説明)
1 弁護人は,判示第1の犯行(以下単に「本件」という。)について,被告人は判示MDMA(以下「本件MDM
A」という。)の輸入に関与したことがなく無罪であると主張するところ,被告人も,捜査段階から一貫して同旨の弁
解をしている。しかしながら,共犯者E及び同Q並びにRの前掲各供述その他の関係各証拠によれば,判示事実を優に
認定することができる。以下,その理由を補足説明する。
2 関係各証拠によれば,本件MDMAの輸入については,以下の前提的な事実を認めることができる。
 (1) Eは,平成16年4月初めころ(以下の日付けは,すべて平成16年。),イスラエル人であるSから,外国か
ら送付されるMDMAの10パーセントを報酬とするという条件で,その受取場所及び受取人(以下では,両者をまと
めて「送付先」ということがある。)を確保するよう依頼され,これを引き受けたが,自分1人の力では送付先を確保
することができなかった。
 (2) そこで,Eは,4月7日ころ,前記A会の定例会で顔を合わせた際,Cに対し,外国から送付される2万錠のM
DMAの送付先を外国人が探していると述べた上,Sから報酬としてもらうことになっているMDMAの80パーセン
トをCの報酬とするという条件で,その送付先を確保するよう依頼したところ,Cは,これを承諾した上,かねて自己
との間で大麻の取引があったRが居住する熊本市内所在のTe号室(以下「R方」という。)を受取場所にすることと
し,「荷物を送らせるから,ちょっと住所を教えてくれ。」と言ってRからその住所を聞き出した上,これをEに伝え
た。
 (3) Eは,上記住所をSに伝えたほか,4月中旬ころには,同人から1か月程度で荷物が到着すると聞いたことか
ら,その旨をCに伝えたが,5月中旬までに荷物が届かなかったため,それに対する謝罪として,Sから預かったMD
MA200錠をCに渡した。他方,本件MDMAは,前記のとおり,6月5日ころ,F国G港において,判示木製机(
以下「本件机」という。)内に隠匿され,判示船舶に積載されて発送された。
 (4) Eは,6月中旬ころ,熊本市内のダイニングバーUにおいて,本件MDMAの輸入に関して話し合うためCと会
った際,Cから,Sが荷物を持ち逃げしないよう保証を付けることや報酬の増額及びその前渡しを求められたが,直ち
にこの要求に応じず,Eの方でSに掛け合うことになった。
 (5) Eは,7月2日,Sから荷物が届いた旨の連絡を受けたことから,Cらに荷物がもうすぐ到着する旨を伝えるな
どした。
 (6) 本件机は,6月28日,M港Nコンテナ第c岸壁に陸揚げされたが,7月16日,神戸税関による通関検査の結
果,その中に本件MDMAが隠匿されているのが発見され,いわゆるクリーン・コントロールド・デリバリーが実施さ
れた結果,同月21日,R方において本件机を受け取った受取人役の男(Sが手配したV)がその直後に現行犯逮
捕された。そのため,SやEらは上記Vと連絡を取ることができなくなり,本件MDMAの行方を把握することができ
なくなった。
3 以上の前提的な事実に加え,被告人の本件への関与を推認し得る事情として,以下の各事実を認めることができ
る。
 (1) 被告人は,A会W組の組員であったが,同組若頭であったCが自らB組を興した際,同人と行動を共にして同組
若頭に就任したものであり,同人が大麻等を密売するのを手伝うこともあって,本件犯行当時,極めて頻繁に同人と電
話で連絡を取り合っていた。
 (2) 被告人は,上記2(4)のUにおけるCとEとの会合にも,A会X組の若頭やEの友人であるQと共に同席してい
た。
 (3) 被告人は,6月20日ころ,交際相手方に出入りすることが多く不在がちになっていたRに対し,電話で「お
前,最近家帰ってないやろ。帰らんと荷物受け取れんだろう。帰っとけよ。」などと言って,R方に戻るよう指示し
た。
   なお,被告人は,当公判廷において,上記のような発言をしたこと自体は認めるものの,それはパチスロ器具の
受領に関する発言である上,発言をした時期も3月ころであったと弁解している。しかしながら,6月20日ころに上
記のような内容の電話を受けたとするR供述は,当日の自己の行動に基づいて供述したものであって,相応の根拠を有
していると評価できること,当時の通話記録等も参照しながら記憶を喚起した上,パチスロ器具の受領に関するやり取
りと上記の電話でのやり取りとを峻別しながら供述したものであるから,記憶に混乱があるとも考え難いこと,さら
に,反対尋問においても何ら動揺が見られないこと等に照らし,その信用性は十分高いと評価できる。これに反する被
告人の公判供述は,捜査段階においてはそのような供述をしていなかったことをも併せ考慮すると,到底信用できな
い。
 (4) さらに,被告人は,7月2日,R方の電気が止められていたことから,Rに対し電気代を支払うよう指示した
が,電気料金の振込書の期限が過ぎているため,振込書を用いて支払うことができないと聞くや,同月3日,Rから現
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金を受け取った上,自ら九州電力の営業所に赴いて電気代を支払った。
 (5) 他方,Rは,前記Vの現行犯逮捕の翌日である7月22日,R方の鍵がなくなっているため室内に入れない旨を
被告人に連絡したところ,Y連合Z一家の若頭が合鍵の作成費用を工面してくれることになったほか,同月25日ころ
には,被告人から電話で「早く鍵を開けろ。」などと指示されたため,業者に依頼して,R方のドアの解錠作業をさせ
た。
4 検討
 (1) 以上の事実関係を前提にして,本件における被告人の関与の有無程度を検討するに,まず,6月20日のRへの
電話の内容,R方の電気が止められていることに気付いた後の被告人の行動,更には,7月21日以降のR方の開錠を
めぐる被告人の行動に照らすと,被告人は,R方に送付される荷物が無事に受け取られることに強い関心を有していた
と認められる。また,当時R方に送付されることが予想される荷物で,R以外の者が関心を抱くようなものとして,本
件MDMA以外のものがあったとは,証拠上うかがわれない。さらに,被告人のRに対する一連の指示と本件MDMA
の受け取りに向けたCやEらの会合や連絡等の動き(上記2(2)ないし(5))とが時期的によく符合していることをも考
え合わせると,被告人のRに対する指示などは,R方で本件MDMAが確実に受け取られ得る状況を確保しようとした
ものといえるのであって,これによれば,被告人が,Cらとの間で,本件MDMAの受取場所がR方であり同人が受取
人役をも果たすべきことについて意思を相通じていたのみならず,同所を管理支配することを通じて本件MDMAの送
付・受領を安全なものとするという役割を有していたことが十分に推認できる。
   なお,被告人がR方の開錠作業をRに指示したのは,受取人役の前記Vが現行犯逮捕された後のことであるが,
その当時,SやEらは上記Vと連絡が取れなくなっており,本件MDMAの行方を早急に把握する必要があった
のであるから,上記推認は何ら動揺するものではなく,かえって補強される関係にあるといえる。
 (2) さらに,被告人は,UにおけるEとCとの会合に同席していたところ,E及びCは,被告人その他の同席者に聞
こえないように配慮して,殊更内密に本件MDMAの輸入について話し合っていたわけではない上,Cが本件MDMA
の輸入について他組織の組員であるEと話し合っているというのに,B組若頭の地位にあり,Cによる大麻の密売を手
伝うなどしていた被告人が,これに何の関心も寄せなかったとはにわかに考え難い。加えて,その場に複数の暴力団組
織の関係者が出席していたことをも併せ考慮すると,被告人としては,C及びEらが実行しようとしている薬物の送付
及び受領が複数の暴力団組織の構成員の組織的関与に係るものであること,また,その安全な受取場所の確保は,それ
自体に多額の報酬が支払われるような性質を有する重要な行為であること,さらに,ひいては通関当局等の検査により
露見する危険性もあるような相当多量の薬物が密輸入されようとしていることを認識する機会が十分にあったと認めら
れる。加えて,被告人とCとの関係やCの本件への取組みが相当積極的なものであったことなどの諸事情に照らすと,
Cが本件を被告人に殊更秘匿するような理由があったなどとも考え難いところである。
   これに対し,被告人は,当公判廷において,UにCらと行ったことはあるが,同所ではもっぱら同席者とパチス
ロの話をしており,CやEが本件MDMAの輸入に関する話をしていたとは知らなかったなどと供述している。しかし
ながら,捜査段階では,Uに行ったことはないなどと供述していたのに,その後供述を変遷させた理由について合理的
な説明がないこと,既に指摘したように,CとEとの会話の内容に無関心であったというのは相当不自然であること等
に照らすと,被告人の上記供述は到底信用できない。
 (3) 以上の諸事情を総合考慮すれば,被告人が,4月上旬から6月20日ころまでの間に,本件の実行犯と極めて近
い関係にあるS,E及びCらとの間で,本件MDMAの密輸入について順次意思を相通じていたものと優に認めること
ができる。また,本件は,Sを始めとするイスラエル人グループがMDMAの入手及びその積載を担当し,C及びEを
中心とする日本人グループが本件MDMAの安全な送付先の確保を担当したものであるところ,R方を管理支配すると
いう被告人の役割は本件の不可欠かつ重要な部分を構成していたといえる上,B組の若頭の地位にあって,Rに指示で
きる立場にもあったのであるから,被告人に本件の共同正犯が成立するのは明らかである。
   なお,現実に本件MDMAを受け取ったのはSが手配した前記Vであるが,上記2(1)(2)で見たように,Eらが
受取場所としてTを確保することにより,Sらによる本件MDMAの発送が初めて可能になったと認められる上,現実
の受取人役については,本件MDMAが陸揚げされた後,報酬を巡る折衝を経て,SとCらとの間の合意で変更されて
いることにかんがみると,本件MDMAの輸入においては,安全な送付先の確保が何よりも重要であったといえるか
ら,最終的な受取人の決定に被告人が関与していなかったとしても,上記の判断は何ら左右されないというべきであ
る。
   したがって,弁護人の主張は採用できない。
(法令の適用)
 被告人の判示第1の行為のうち,営利の目的で麻薬を輸入した点は刑法60条,麻薬及び向精神薬取締法65条2
項,1項1号に(有期懲役刑の長期は,行為時においては,平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項
に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があっ
たときに当たるから,刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。),輸入禁制品である麻薬を輸入しようとし
て遂げなかった点は刑法60条,関税法109条3項,1項(関税定率法21条1項1号)に,判示第2の行為は,覚
せい剤取締法41条の3第1項1号,19条にそれぞれ該当するところ,判示第1は1個の行為が2個の罪名に触れる
場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として重い麻薬及び向精神薬取締法違反の罪の刑で処断し,
判示第1の罪について情状により所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し,以上は,刑法45条前段の併合罪であるから,
懲役刑については同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に法定の加重をし(加重の上限は,行為時にお
いては上記改正前の刑法14条に,裁判時においてはその改正後の刑法14条2項によることになるが,上記同様に,
刑法6条,10条により軽い行為時法のそれによる。),その加重をした刑期及び所定金額の範囲内で被告人を懲役5
年及び罰金200万円に処することとし,同法21条を適用して未決勾留日数中430日をその懲役刑に算入し,その
罰金を完納することができないときは,同法18条により金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,訴
訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,その所属する暴力団組長らと共謀の上,営利の目的でMDMAを我が国に密輸入したという麻薬
及び向精神薬取締法違反,関税法違反(判示第1。ただし,後者は未遂にとどまる。)及び覚せい剤の自己使用(判示
第2)からなる事案である。
 まず,量刑の中心となる判示第1の犯行から見ると,その動機,経緯に酌量の余地はない。また,本件は大規模かつ
国際的な犯行であって,計画性や組織性が極めて高い上,本件輸入に係るMDMAの量も合計6万錠余りと過去に類を
見ないほど大量であり,これらが本邦内に流出すれば極めて大きな社会的害悪を及ぼしたであろうことが明白である。
誠に悪質な犯行といわざるを得ない。そして,我が国におけるMDMAの送付先を確保維持した被告人の役割にも小さ
からぬものがあったといえる。
 次に,判示第2の犯行について見ても,動機,経緯に酌むべきもののない常習的な犯行であって,犯情は芳しくな
い。
 加えて,上記のように,判示第1の犯行について,被告人が不自然,不合理な弁解をしており,反省の情が見られな
いことをも併せ考慮すると,その刑責は相当重いといわざるを得ない。
 しかしながら,本件MDMAはすべて押収されており,本邦内にその害悪が拡散することはなかったこと,本件の首
ページ(2)
謀者はCらであり,被告人の役割は従属的なものであったこと,判示第2の犯行については事実を認めていること,1
0年以上前の罰金前科以外に前科がないこと,扶養が必要な妻子がいることなど,被告人のために酌むべき事情も認め
られるので,以上の諸事情を総合考慮の上,刑を量定した。
 よって,主文のとおり判決する。
  平成18年5月15日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官  的 場  純 男
   裁判官西 野  吾 一
   裁判官三重野  真 人
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