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平成19年(行ケ)第10011号審決取消請求事件
平成19年10月16日判決言渡,平成19年9月20日口頭弁論終結
判決
原告アイリスオーヤマ株式会社
訴訟代理人弁護士安江邦治
訴訟代理人弁理士羽切正治
被告株式会社伸晃
訴訟代理人弁理士濱田俊明
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が無効2006−80105号事件について平成18年12月8日にし
た審決を取り消す」との判決。
第2事案の概要
本件は,被告の有する下記1(1)の特許(以下「本件特許」といい,この特許に
係る発明を「本件発明」という)について,原告が無効審判請求をしたが,審判。
請求を不成立とする審決を受けたため,原告がその審決の取消しを求める事案であ
る。
なお,原告は,上記本件無効審判請求に先立って,2度の無効審判請求を経てい
るが,そのうちの1件(以下「前審判請求」という)に関しては,特許庁の審判。
請求を不成立とする審決(以下「前々審決」という)に対し,原告が審決取消訴。
訟(以下「前々訴」という)を提起したところ,東京高等裁判所が,前々審決を。
取り消す旨の判決をし,これが確定したため,特許庁は,前審判請求について更に
審理し被告の訂正請求に基づき訂正を認めて審判請求を不成立とする審決以,,,(
下前審決というをしたそこで原告は前審決に対し審決取消訴訟以「」。)。,,,(
「」。),,,下前訴というを提起したが知的財産高等裁判所は請求棄却の判決をし
この判決は,最高裁判所の上告受理申立て却下の決定により確定した。
前審判請求に係る手続の経過は下記1(2)のとおりであり,本件無効審判請求の
手続の経過は下記1(3)のとおりである。
1特許庁等における手続の経緯
(1)本件特許(甲2)
特許権者:株式会社伸晃(被告)
発明の名称:置棚」「
出願日:平成9年12月25日(特願平9−368696号)
登録日:平成14年10月11日
特許登録番号:第3358173号
(2)前審判請求に係る手続
前審判請求日:平成15年4月8日(無効2003−35130号)
前々審決日:平成15年11月18日(本件審判の請求は,成り立たない」「。
との審決)
前々訴提起日:平成15年12月25日(平成15年(行ケ)第587号)
前々訴判決言渡日:平成16年11月8日特許庁が無効2003−35130(「
。」)()号事件について平成15年11月18日にした審決を取り消すとの判決甲3
訂正請求日:平成17年2月10日(以下,この訂正請求に係る訂正を「本件訂
正」という(乙1の1,2)。)
前審決日:平成17年5月10日(訂正を認める。本件審判請求は成り立たな「
い」との審決(甲7添付)。)
前訴提起日:平成17年6月16日(平成17年(行ケ)第10520号)
前訴判決言渡日:平成18年6月28日(原告の請求を棄却する」との判決)「。
(甲7)
(。)前訴判決確定日:平成18年10月20日上告受理申立て却下の決定による
(3)本件無効審判請求の手続
審判請求日:平成18年6月5日(無効2006−80105号)
(「,。」)審決日:平成18年12月8日本件審判の請求は成り立たないとの審決
(甲1)
審決謄本送達日:平成18年12月20日(原告に対し)
2本件発明の要旨
審決が対象とした本件発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1∼3に記
(,,「」。),載された発明以下請求項の番号に従って本件発明1などというであり
その要旨は,以下のとおりである。
「請求項1】左右の支脚間に前後に架橋した棚受用横桟上に適宜着脱自在な取替【
棚を掛止してなる置棚において,上記棚受用横桟は外管に内管を伸縮可能に挿通し
てなると共に,上記外管の伸縮方向に一定長を有する単一部材の固定棚は,その後
方裏面に設けた取付孔に内管側の支脚を嵌入すると共に,当該固定棚の先端の円形
孔からなる支持部に対して上記外管をその伸縮に応じて摺動自在に挿通して該固定
棚を水平に支持し,所定枚数の取替棚を前後の外管上に掛止したことを特徴とする
置棚。
【請求項2】外管の内管挿通側の先端には,固定棚の外管支持部と当接する抜止部
を設け,外管の最大伸長を規制した請求項1記載の置棚。
【請求項3】固定棚および取替棚は,上下方向の通気孔を有する請求項1または2
記載の置棚」。
3審決の理由の要旨
無効審判請求人(原告)が,本件発明は,下記甲第4号証に記載された発明に基
づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり(無効理由1,又は下)
(,,,記甲第4∼第6号証に記載された発明以下これらの発明を証拠番号に従って
「甲4発明」などという)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたも。
のである(無効理由2)と主張したのに対し,審決は,いずれの主張も認められな
いとし,審判請求を不成立とした。審決の理由中「対比・判断」の部分は以下のと
おりである(審決が引用する前訴判決の説示(前訴判決が更に引用する前々訴判決
の説示を含む)におけるものも含め,判決及び発明の表記並びに証拠番号を本判。
,「」,決のそれに統一したほか本件訂正前の請求項1記載の発明を訂正前発明1と
本件訂正前の明細書を「訂正前明細書」と表記してある。。)
甲第4号証:特開平9−308532号公報
甲第5号証:米国特許第913204号明細書(1909年(明治42年)2
月23日特許)
甲第6号証:米国特許第2815257号明細書1957年昭和32年12(()
月3日特許)
(1)無効理由1について
ア本件発明1について
前訴判決においては,本件発明1と甲4発明との相違点の認定について次のように判示され
た。
「前々訴判決・・・は,訂正前発明1の「固定棚」について「訂正前発明1の『固定棚』に,
関する…請求項の記載及び訂正前明細書の記載を検討すると,固定棚を複数部材から構成する
ことを積極的に排除する記載は認められず,かえって,段落【0016】には『適用しよう,
とする収納空間に応じて,外管2aの長さや,その伸縮範囲,すなわち固定棚3の長さを変更
できることはもちろんである』とも記載されている。これらに照らせば,訂正前発明1にお。
いては『固定棚』につき,複数部材により構成して長さを変更することができるようにする,
こと,すなわち伸縮範囲を変更可能な構成を採用することが排除されているものとはいえない
…。したがって,訂正前発明1の『固定棚』は(一体成型されるなどした)単一の部材から,
なるものに限定されてはいないというべきであって,…甲4発明における右辺部材3と1枚又
は複数枚の基本板6の一体化されたもの(甲第4号証・・・の図2,6,10の例では,右辺
部材3と右側及び中央の2枚の基本板6とが一体化されたもの)も含まれるというべきであ
る(17頁20行∼18頁10行)と判示しているから,前々訴判決は,甲4発明において。」
「右辺部材3と1枚の基本板6の一体化されたもの」も訂正前発明1の「固定棚」に当たる旨
の認定をしているということができる・・・。
しかし,甲4発明における右辺部材3と1枚の基本板6が一体化されたものは,右辺部材3
と1枚の基本板6という二つの部材から成っており,右辺部材3と複数枚の基本板6が一体化
されたものは,右辺部材3と複枚の基本板6という三つ以上の部材から成っているから「単,
一部材」から成るものでないことは明らかである。したがって,これらの甲4発明における右
辺部材3と基本板6が一体化されたものは「単一部材」から成る本件発明1の「固定棚」と,
は「単一部材」から成るかどうかという点において相違することは明らかである。また,本,
件発明1と甲4発明は「固定棚の先端の支持部」が「円形孔」であるかどうかという点にお,
いても,相違する・・・(第4当裁判所の判断」3(2。。」「))
すなわち,前訴判決においては,本件発明1と甲4発明を対比すると,甲4発明における,
右辺部材3と基本板6が一体化されたものは本件発明1の「固定棚」に相当すると認められる
が,本件発明1の「固定棚」とは「単一部材」から成っていない点,及び「固定棚の先端の支
持部」が「円形孔」ではない点において相違すると認定している。
そして,これらの相違点の判断について,前訴判決は次のように判示している。
「・・・甲4発明の基本板6については,(1)基本板6の相互間の差込深さを調整することで
伸縮棚板部5の全長が調整できること,(2)基本板6を同じ形状のものとすることで製作が容
易となることが認められる。
「」,甲4発明の右辺部材3と1枚の基本板6が一体化されたものを固定棚と考えた場合には
基本板6自体の長さを変えることによって,固定棚の長さを変えることができるが,基本板6
は,取替板としても使用される。そうすると,固定棚の長さとしては適切な長さでも,取替板
としては適切な長さではない(長すぎる又は短すぎる)ということが起こり得るから,取替板
,。としても適切な長さという制約があり固定棚の長さを自由に設定できるというものではない
また,甲4発明の右辺部材3と複数の基本板6が一体化されたものを「固定棚」と考えた場合
には,上記のとおり,基本板6の相互間の差込深さを調整することで伸縮棚板部5の全長が調
整できるから,基本板6自体の長さを変えなくても,固定棚の長さを変えることができるが,
その場合には,固定棚の長さを変えることができるのは,差込深さを調整することができる範
囲に限られることになるから,固定棚の長さを自由に設定できるということはない。
これに対し,本件発明1では「固定棚」は,甲4発明の右辺部材3に相当する部分を含む,
単一部材で構成されかつ前記のとおり固定棚の先端の支持部が円形孔からなっ「」,,「」「」
ていることにより「支脚間に棚受用横桟を架橋した状態では棚受用横桟から分離することはで
,」,「」。きず着脱自在ではないから取替板とは別個の形状のものであることが明らかである
そのため,本件発明1では,固定棚の長さの設定に上記の甲4発明のような制約はなく,固定
棚の長さを自由に設定することができるから「適用しようとする収納空間に応じて,外管2,
aの長さや,その伸縮範囲を調整し,収納空間の寸法に応じて置棚のサイズを調整」するとい
う,甲4発明にはない作用効果を奏することができる。
このように,本件発明1は,作用効果において,甲4発明とは異なるものである。
そして,甲4発明において本件発明1の「固定棚」に相当する「右辺部材3と基本板6が一
体化されたもの」を「単一部材」で構成すると,それを「取替板」として使用できないことに
なるから,甲4発明における「右辺部材3と基本板6が一体化されたもの」を「単一部材」で
構成することには阻害要因がある。また,甲4発明における「右辺部材3と基本板6が一体化
」「」「」,,「」されたものの基本板6の先端の支持部を円形孔とするとやはりそれを取替板
として使用できないことになるから,甲4発明における「右辺部材3と基本板6が一体化され
たものの基本板6の先端の支持部を円形孔とすることにも阻害要因がある第4」「」「」。」(「
当裁判所の判断」4。)
上記判決に判示されたとおりの理由により,本件発明1は,甲4発明であるとすることも,
甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできな
い。
イ本件発明2,3について
本件発明2,3は,本件発明1を特定するに必要な事項をすべて備えた上で,更に,限定を
加えるものであるから,いずれも,上記アで述べたのと同様な理由により,甲4発明であると
することも,甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとするこ
ともできない。
(2)無効理由2について
ア本件発明1について
,,,本件発明1と甲4発明とを対比すると上記前訴判決に示されたとおり甲4発明において
右辺部材3と基本板6が一体化されたものは固定棚に相当すると認められるが本件発明1「」,
の「固定棚」とは「単一部材」から成っていない点,及び「固定棚の先端の支持部」が「円形
孔」ではない点において相違する。
そこで,甲第5号証及び甲第6号証に相違点に係る事項が示されているか否かについて検討
する。
,(,)甲第5号証には左右の脚部B間に前後に架橋した入れ子型部材管CとE及び管DとF
を有し,入れ子型部材の伸長により分離した左右の天板間に追加の薄板を挿入可能であるテー
ブルが記載されているが,左右の天板は,本件発明1で規定するような先端の支持部を有する
ものでない。
なお,甲第5号証記載のテーブルにおいては,外管Dの先端部を保持する支柱Hが設けられ
ており,支柱H上端には外管Dを挿通する円形孔が形成されていると見ることもできるが,支
柱Hが内管側の天板Aに固定されたものであるとすることはできない。すなわちFig.1に
おいて支柱Hの上方に記載されている天板が内管を取り付けた側の天板Aであり,支柱Hがこ
の天板Aに固定されているとすると,支柱Hには隣接して設定ネジが設けられているから,外
管Dを,支柱Hの円形孔に対して摺動させる(Fig.1において左側へ伸長させる)ことが
できず,入れ子型部材を伸長させることができなくなるからである。
,(.),,そうすると甲第5号証の図面Fig1の記載によれば入れ子型部材を伸長すると
左右の天板が中央で分離し,追加の薄板は内管の上方に位置すると認められ,内管側の支脚を
取り付けた天板に対して,外管を振動自在に支持することも,追加の薄板を外管に掛止するこ
とも示されていない。
,,(,,)また甲第6号証には脚部材10の上部に固定された箱型枠121416及び18
に取り付けたテーブルスライドに沿って摺動可能な天板を設け,左右に分離した天板間に適宜
追加の板を挿入するテーブルが記載されているが,天板は裏面に支脚を取り付けたものではな
く,固定棚に相当する部材を有していない。したがって,天板裏面に円筒形のスリーブ40,
すなわち円形孔を備える摺動ブラケット36を取り付けることが記載されているが,該摺動ブ
ラケット36に設けられた円形孔は,請求項1に係る発明の固定棚の先端に設けた「円形孔」
には相当しない。さらに,テーブルスライドを構成する「中空管24」と該中空官24に挿通
される「管状部材30」は,異なる寸法のテーブルに適合するように,すなわち,箱型枠に適
合するように調整可能となっているものであって,箱型枠に取り付けた後は伸縮するものでは
なく,甲6発明は,天板の支持部に対して,入れ子型部材をその伸縮に応じて摺動自在に挿通
させるものではない。
したがって,甲5発明又は甲6発明は,前記相違点に係る構成を示唆するものではない。
さらに「円形孔」に着目してみても,そもそも甲4発明は,基本板を「取替板」として使,
用できるよう,伸縮可能な横桟に対して着脱自在とするものであるから,上記判決で判示され
たとおり,本件発明1の「固定棚」に相当する「右辺部材3と基本板6が一体化されたもの」
の基本板6の「先端の支持部」を「円形孔」とすることには阻害要因があり,甲第6号証に,
天板に固定された摺動ブラケットの円形孔にテーブルスライドを挿通する技術が記載されてい
るとしても,この技術を甲4発明の「先端の支持部」に適用することが当業者において容易に
なし得るとすることはできない。
そして,本件発明1は,後方に内管側の支脚を取付けた単一部材の固定棚に設けた円形孔か
らなる支持部に外管を伸縮に応じて挿通し,単一部材の固定棚から伸長する外管上に取替板を
掛止する内管側の支脚を取付けたことにより,単一部材の固定棚は,先端の円形孔からなる支
持部に外管を挿通された外管で水平状態に支持され,取替棚は横桟の外管のみで支持されるた
め「ガタツキがなく,外管の径に見合って十分な積載荷重を確保することができる」等の明,
細書記載の特有の作用効果を奏するものである。
したがって,本件発明1は,甲4発明ないし甲6発明に基いて当業者が容易に発明をするこ
とができたものであるとすることはできない。
イ本件発明2,3について
本件発明2,3は,本件発明1を特定するに必要な事項をすべて備えた上で,更に,限定を
加えるものであるから,いずれも,本件発明1と同様に理由により,甲4発明ないし甲6発明
に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
第3原告主張の審決取消事由の要点
1取消事由1(甲5発明の認定の誤り)
審決は,無効理由2についての判断に係る,本件発明1と甲4発明との相違点に
ついての判断において,甲5発明の認定を誤った結果,当該相違点についての判断
を誤ったものである。
すなわち,審決は,甲5発明について「甲第5号証には,左右の脚部B間に前,
後に架橋した入れ子型部材(管CとE,及び管DとF)を有し,入れ子型部材の伸
長により分離した左右の天板間に追加の薄板を挿入可能であるテーブルが記載され
ているが,左右の天板は,請求項1に係る発明で規定するような先端の支持部を有
するものでない」と認定したが,本件発明1で規定する「先端の支持部」がどの。
ようなものを意味するのかについて具体的に示していない。
本件発明1においては「支持部」について「固定棚の先端の支持部」と規定す,
るのみで「固定棚と一体成形されて,その先端に設けられた支持部」を意味する,
のか,あるいは「固定棚とは別体で,その先端部分に対応する位置に設けられた支
持部」を意味するのか不明であるところ,前者を意味すると解するならば,確かに
甲第5号証にはそのような支持部は示されていないが後者だとすれば甲第5「」,,
号証の外管Dを挿通する支柱Hの円形孔は「固定棚の先端部の支持部」ということ
になる。
仮に前者だと解した場合でも「固定棚の先端」とは固定棚のどの部分を意味す,
るのか「支持部」は「固定棚の先端」にどのように設けられているのか不明であ,
り,かつ,本件明細書にはこれらを規定する具体的な記載は存在しない。
したがって,審決の認定は失当である。
2取消事由2(甲6発明の認定の誤り)
審決は,甲6発明について「天板は裏面に支脚を取り付けたものではなく,固,
定棚に相当する部材を有していない。したがって,天板裏面に円筒形のスリー
ブ40,すなわち円形孔を備える摺動ブラケット36を取り付けることが記載され
ているが,該摺動ブラケット36に設けられた円形孔は,請求項1に係る発明の固
定棚の先端に設けた『円形孔』には相当しない」と認定した。。
,「()しかし甲第6号証にはテーブルの他の部分テーブル脚部材10以外の部分
は任意に構成可能であり,部品及び固定具については発明の説明を明確化するため
に省略している(1頁左欄48行∼50行)と記載されており,甲6発明は各種。」
の実施態様が可能となっている。
そこで,甲第6号証のFIG.2及びFIG.4を参酌し,甲6発明の一実施態
,,,様として天板20の端部を端部材18に固定した場合を例示すると天板20は
脚部(支脚)との結合の仕方を除けば,本件発明1の「外管の伸縮方向に一定長を
有する固定棚」となる。そして,天板20(固定棚)の先端部の下面には「管状部
材30(内管)を伸縮可能に挿通してなる管状部材24(外管)に摺動可能に取り
付けた円筒形のスリーブ40を備えるブラケット36(支持部」が締結具44を)
備えた平板42で固定されている。
したがって,この例示において,甲6発明に係るテーブルにおいては,上記ブラ
ケット6(支持部)に対して,天板22の左右への移動に伴って上記管状部材24
(外管)をその伸縮に応じて摺動自在に挿通して該天板20(固定棚)を水平に支
持し,かつ,天板20(固定棚)と天板22との間の隙間に所定枚数の薄板(取替
)()。,棚を管状部材24外管上に掛止することができるようになっているそして
上記ブラケット36(支持部)は円形孔からなっている。
したがって,甲6発明と本件発明1とは,①甲6発明では天板20(固定棚)を
端部材18に何らかの方法で固定しているのに対し,本件発明1では「固定棚の後
方裏面に設けた取付孔に内管側の支脚を嵌入することによって固定している点,②
甲6発明では薄板(取替板)を受けるテーブルスライドが側部材12及び14の略
中心線に沿って1本設けられているのに対し,本件発明1では「前後に架橋した2
本の棚受用横桟」となっている点で相違するだけで,他は同一の構成であるといえ
る。
甲4発明の存在を前提とすれば,甲6発明と本件発明1の技術思想の間には,進
歩性を左右するほどの質的相違をもたらすものはなく,上記①及び②の相違点が
あったとしても,本件発明1は甲6発明に基づいて容易に発明することができたと
いうべきであり,審決の上記認定の誤りは結論に影響を及ぼすものである。
第4被告の主張の要点
1取消事由1(甲5発明の認定の誤り)に対し
本件発明1において「固定棚」と「支持部」の構成は「上記外管の伸縮方向に,,
一定長を有する単一部材の固定棚は・・・当該固定棚の先端の円形孔からなる支,
持部に対して上記外管をその伸縮に応じて摺動自在に挿通して該固定棚を水平に支
持し」と特定されている。,
この構成から,①固定棚が単一部材であること,②支持部については,固定棚の
先端の支持部であることは一義的に明確である。支持部は単一部材の固定棚の先端
に存在するものであり,支持部が固定棚とは別体で設けられているという解釈は成
り立たない。すなわち,本件発明1の「支持部」については,原告のいう「前者」
を意味すると解釈するほかない。
原告は,仮に「前者」であるとしても「固定棚の先端」とは固定棚のどの部分,
を意味するのか「支持部」は「固定棚の先端」にどのように設けられているのか,
不明であり,かつ,明細書にはこれらを規定する具体的な記載は存在しないと主張
するが「固定棚の先端」とはその言葉のとおり「単一部材からなる固定棚の先端,,
の支持部」なのであり,本件明細書の段落【0006【0007【0011】】,】,
及び【0012】の記載並びに図面から明らかであるから,原告の主張は失当であ
る。
2取消事由2(甲6発明の認定の誤り)に対し
原告は甲6発明と本件発明1は①甲6発明では天板20固定棚を端部材18,,()
に何らかの方法で固定しているのに対し,本件発明1では「固定棚の後方裏面に設
けた取付孔に内管側の支脚を嵌入することによって固定している点,②甲6発明で
は薄板取替板を受けるテーブルスライドが側部材12及び14の略中心線に沿っ()
て1本設けられているのに対し,本件発明1では「前後に架橋した2本の棚受用横
桟」となっている点で相違するとしながら,両発明の技術思想の間には進歩性を左
右するほどの質的相違をもたらすものはないとした上,本件発明1は甲6発明に基
づいて容易に発明することができたものというべきであると主張する。
しかしながら,原告のこの主張は,実質的な理由を欠いており,審決が甲6発明
の認定をどのように誤っているのかも明らかではないから,失当である。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(甲5発明の認定の誤り)について
(1)本件明細書における「支持部」に関する記載及び図示
本件明細書(乙第1号証の2)には「支持部」に関して「特許請求の範囲」と,,
(),して記載されている記載内容は上記第2の2の本件発明1の要旨を同一ほかに
次のように記載及び図示されている。
「本発明では,上記目的を達成するために・・・・上記外管の伸縮方向に一定長を有ア,
する単一部材の固定棚は,その後方裏面に設けた取付孔に内管側の支脚を嵌入すると共に,当
該固定棚の先端の円形孔からなる支持部に対して上記外管をその伸縮に応じて摺動自在に挿通
して該固定棚を水平に支持し,所定枚数の取替棚を前後の外管上に掛止するという手段を用い
た(段落【0006【課題を解決するための手段)。」】】
「当該手段によれば,外管を伸縮させることにより置棚の全長を適宜調節することがイ
できる。このとき,単一部材の固定棚における外管に対する円形孔からなる支持部は,外管を
摺動するため,固定棚の支持高さは一定に保たれ,常に水平に支持される・・・(段落。」
【0007)】
「また,請求項2では,外管の内管挿通側の先端に,固定棚の外管支持部と当接するウ
抜止部を設け,外管の最大伸長を規制するという手段を用いた・・・(段落【0008)。」】
「以下,本発明の好ましい実施の形態を添付した図面に従って説明する。図1は,本エ
発明に係る置棚の一実施形態を示したものであり,図中・・・3は,外管2aの伸縮方向に,
一定長を有する固定棚であって,その後方に設けた取付孔3aに内管2b側の支脚1bを嵌入
すると共に,前方に設けた支持部3bに対して外管2aを摺動可能に挿通して,水平に支持し
たものである。即ち,当該固定棚3は,内管2b側の支脚1bから外管2aにかけて水平に支
持され,外管2aに対する支持部3bは当該外管2aの伸縮に応じて摺動自在に支持されてい
る。上記固定棚3において,内管2bの一端は嵌入孔3cに固定されている。又,外管2a
の内管2b挿通側の先端には,固定棚3の外管支持部3bと当接可能な抜止部2cを設けて,
外管2aが不用意に内管2bから抜けないようにすると共に,外管2aの最大伸長を規制して
いる。つまり,外管2aの伸縮範囲Lは,固定棚3の支持部3bから内管2bの嵌入孔3cの
開口先端までの範囲であって,この伸縮範囲Lに見合って置棚の全長を適宜調製することがで
きる(段落【0010】∼【0012)。」】
「上記構成において本実施形態では,固定棚3の外管支持部3bから内管2bの嵌入オ
孔3c先端までの距離,即ち外管2aの伸縮範囲Lを188.5mmとすると共に,外管2a
の長さlを655mmとして,置棚の全長を780mmから最大968.5mmの範囲で伸縮
可能としたものである・・・(段落【0014)。」】
【図1】
(2)ところで,本件発明1の要旨によれば,本件発明1の「固定棚」は単一部材
で形成されるものであり,かつ,その「支持部」は「固定棚の先端の円形孔から,
なるとされるものであるところ先端とは物の一番さきの部分平成3年11」,「」「」(
月15日発行の「広辞苑」第四版)のことであるから,国語の用法に従えば「固,
定棚の先端の円形孔」との記述は「固定棚の一番さきの部分にある(形成されて,
いる)円形孔」の意味であって,上記単一部材で形成される「固定棚」の一部と解
するのが通常であり,したがって,そのような「円形孔からなる」支持部も,単一
部材によって形成される固定棚の一部として規定されているものであることは明ら
かである。上記(1)の本件明細書の「支持部」に関する記載を見ても,そのように
解することの妨げとなるような記載は存在しない。
したがって,本件発明1の「支持部」の意義は,原告の取消事由1の主張におけ
る「前者」であることが明らかであるところ,そうであれば,甲第5号証に,その
ような「支持部」が示されていないことは,原告の自認するところである。
もっとも,原告は,上記「固定棚の先端の円形孔からなる支持部」につき,さら
に「固定棚の先端」とは固定棚のどの部分を意味するのか「支持部」は「固定棚,,
の先端」にどのように設けられているのか不明であり,かつ,本件明細書にはこれ
らを規定する具体的な記載は存在しないと主張する。
しかしながら,上記のとおり「先端」とは「物の一番さきの部分」のことであ,
り,また,本件発明1の要旨によれば,本件発明1の固定棚は,外管の伸縮方向に
一定長を有するものであり,その後方裏面に設けた取付孔に内管側の支脚を嵌入し
て取り付けるものであること「支持部」は,外管をその伸縮に応じて摺動自在に,
挿通して固定棚を水平に支持するものであること,外管及び内管は,棚受用横桟を
構成するものであり,棚受用横桟は,左右の支脚間に前後に架橋して形成するもの
であることが,明確である。そうすると「固定棚の先端の円形孔」は,外管の伸,
縮方向に一定長を有する固定棚のうち,内管側の支脚が取り付けられる「後方」の
反対側(後方」に対する「さき(先)の端部であって,かつ,円形孔が外管を「)」
挿通し得るような位置(すなわち,前後各1対の「左右の支脚」をそれぞれ結ぶ略
直線上の位置)にあることが,本件発明1の要旨の規定上,明らかである。
また「円形孔からなる支持部」は,上記のとおり,単一部材によって形成され,
る固定棚の一部であって,外管をその伸縮に応じて摺動自在に挿通して固定棚を水
平に支持するものでなければならないものの「固定棚の先端」にどのように設け,
,,,られているのかについてそれ以上特定した規定はないから上記限定の範囲内で
任意の技術手段によりなし得るものであり,かつ,本件特許出願当時の当業者の技
術水準に照らし,この点につき,周知慣用の技術手段が存在していたことは明白で
あるから「固定棚の先端」にどのように設けられるのかが明細書に記載されてい,
ないと,発明の実施ができないというものではない。
したがって,審決の本件発明1と甲4発明との相違点についての判断に,甲5発
明の認定に関して,原告が取消事由1で主張する誤りはない。
2取消事由2(甲6発明の認定の誤り)について
(1)甲第6号証には,以下のような記載及び図示がある。
「本発明は,脚部とテーブルの支持枠は調製または延長不可能ではあるが,固定したア
永久的な形状を有し,テーブルの中心に当接可能な摺動式テーブル天板部材を支持して,また
は選択的に引き出すことにより天板の薄板を挿入して長尺に変形可能に構成された延長可能な
テーブルにおける,相互に摺動可能な一対のテーブル天板部材間の金属製誘導接続機構に関す
る(訳文1頁4行∼8行)。」
「・・・テーブルの固定枠の端部に固着される係合端鍔部(エンド・フランジ)を有イ
するとともに,異なる寸法のテーブル枠に対応可能なように小型の入れ子型管状部材と係合す
る長手の管状部材を反対側の端部に備え,前記先に記載の管状部材は,それぞれが可動テーブ
ル天板部材のうちの一方の下側に固定するための平板を有する一対の摺動可能な管状ブラケッ
トを備え,希望があれば,前記スライドは複数個適用可能であるが,一台のテーブルに単一の
テーブルスライドのみでよく・・・(訳文1頁11行∼16行)」
「本発明を実施するに当たり,側部材12および14と,端部材16および18からウ
なる固定した箱型枠によって相対的に固定して結合された従来のテーブル脚部材10を備え
る。テーブルの他の部分は任意に構成可能であり,部品および固定具については発明の説明を
明確化するために省略しているが,部材12,14,16および18からなる枠は,堅固な箱
状の部材であり,上記の枠に対して摺動可能であるとともに後述するテーブルスライドに連動
してその上に支持された二枚のテーブル天板部材20および22を水平位置に支持することを
その一つの目的とする(訳文1頁24行∼30行)。」
本発明のテーブルスライドはその一端に足または鍔26を設けた長手の中空管24エ「,
を備え,この足または鍔は,ネジ28のような何らかの好都合な手段によって枠部材16に取
り付けられる。これにより,管状部材24はテーブル天板部材20および22のすぐ下に水平
に位置することになり,また,この管状部材は枠部材16および18の間の距離よりわずかに
短い。
より小型で短い管状部材30には,端部材18に締結具34によって固定され,管24の開
口端に並ぶ同様の足または鍔32を備え,テーブル天板部材20,22の下側においてまっす
ぐで連続的な支持部を形成しており,この支持部は,テーブルスライドへの設置については,
異なる寸法のテーブルに適合するように調整可能となっている。
管状部材24は,同様の構成を有するとともに全体を符号36で示す一対の摺動ブラケット
を備える。各ブラケットは,管状部材24に摺動可能に取り付けられた円筒形のスリーブ40
を備えると共に,正接して配置され,図1および2に明確に示すようにテーブル天板20およ
び22それぞれに固定するための締結具44を備えた平板42を有する(訳文1頁34行。」
∼2頁11行)
「特許請求の範囲オ
.,,1略中空の長手の管状部材とその開口する一端と反対側の端部に横方向に延在する鍔と
前記鍔をテーブルの枠に管状部材と直角に固定するための手段と開口する端部において第1,,
の部材と入れ子式に係合する第2の小型管状部材と,前記第2の入れ子式部材をテーブルの反
対側の枠部材に固定するための手段と,前記先に記載の管状部材に取り付けた一対の摺動可能
なスリーブと,各スリーブ上に設けた正接する平板と,それぞれの平板を別々のテーブル天板
部材に固定するための手段とを備えるテーブル摺動構造(訳文2頁25行∼31行)。」
カ図示
(2)上記(1)の各記載及び各図示によると,甲第6号証には,審決が認定すると
おり「側部材12および14と端部材16および18からなる固定した箱型枠に,
脚部材10を固定し,箱型枠上に2枚の摺動可能な天板部材20,22を支持し,
摺動により形成された左右の天板間の隙間に追加の薄板を挿入可能である延長可能
なテーブルにおいて,箱型枠の端部材16および18に長尺の中空管24と小径で
短い管状部材30からなる長さ調整可能なテーブルスライド(金属製ガイド接続機
構)を取り付け,長尺の中空管24に取り付けた,円筒形のスリーブ40を備える
摺動ブラケットに前記天板部材20,22を取り付け,天板部材をテーブルスライ
ドに沿って摺動させる,延長可能なテーブル(甲6発明)が記載されていると認。」
められるほか甲6発明のテーブルスライドは複数個適用可能であるが一台のテー,,
ブルに単一のテーブルスライドのみでもよいとされており,従来のテーブル脚部
材10以外の部分は任意に構成可能であるとされていることが認められる。
(3)原告は,甲第6号証のFIG.2及びFIG.4を参酌し,甲6発明の一実
施態様として天板20の端部を端部材18に固定した場合を例示すると天板20,,
は,脚部(支脚)との結合の仕方を除けば,本件発明1の「外管の伸縮方向に一定
長を有する固定棚となるところ当該天板20固定棚の先端部の下面には管」,()「
状部材30(内管)を伸縮可能に挿通してなる管状部材24(外管)に摺動可能に
取り付けた円筒形のスリーブ40を備えるブラケット36支持部が締結具44()」
を備えた平板42で固定されており,これは,本件発明1の固定棚の先端に設けた
「円形孔」に相当すると主張する。
しかしながら,甲6発明は,側部材12及び14と端部材16及び18から成る
固定した箱型枠を有するところ,管状部材24は枠部材(端部材)16に,より小
型の管状部材30は反対側の枠部材(端部材)18に,それぞれ取り付けられるも
のであるから,管状部材30が管状部材24と入れ子式に係合し,長さ調節が可能
であるとはいえそれぞれが枠部材1618に取り付けられた後は管状部材24,,,
と管状部材30とが伸縮可能に挿通するものでないこと(管状部材24と管状部
材30とから成るテーブルスライドは,側部材12及び14と端部材16及び18
から成る箱形枠に固定されること)は明らかである。
そうすると,仮に,原告の主張するとおり,甲6発明において,天板20の端部
を端部材18に固定した場合を想定すると,管状部材24はもとより,天板20も
したがってその下面に取り付けた円筒形のスリーブ40を備えるブラケット36(,
も,側部材12及び14と端部材16及び18から成る箱形枠に固定されること)
になり,上記天板20に取り付けられたブラケット36(スリーブ40)が,管状
部材24を摺動することはできないことになる。そして,このような態様が,甲6
発明の実施態様といえないことはもとより,そのような管状部材36との関係で伸
縮しない管状部材24と,管状部材24を摺動しないブラケット36との関係が,
本件発明1の「固定棚の先端の円形孔からなる支持部に対して上記外管をその伸縮
に応じて摺動自在に挿通し」との構成に当たらないことも明らかである。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
3結論
以上のとおり,取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求を棄却するべき
であり,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
石原直樹
裁判官
古閑裕二
裁判官
杜下弘記

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