弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人等の負担とする。
         理    由
 上告人両名の訴訟代理人下山四郎、同林徹の上告理由第一点について。
 しかし、原判決は、甲第四号証(乙第一号証)に「永久貸与」というのは、「長
くお貸しいたしましよう、長くお借りしましよう」という合意をあらわすもので、
賃貸借の存続期間を定めたものではないと解するのが相当である旨判示したもので
ある。そして、原判決が右のごとく判示したのは、人が物品の売買、家屋の貸借の
ような日常の生活関係において永久という言葉を使用する場合には確定的な長さを
意味しないこと並びに証人Dの原審における証言によつて判示のごとき作成の経緯
を知ることのできる甲第五号証(乙第二号証)の各条を検討し、ことにその第一一
条等に留意して本件賃貸借の期間に関する当事者間の意思表示の内容を判断したも
のであること原判決の判示に照し明瞭であつて、その判断には論理又は経験則に反
する点は認められないし、また、特別の事由なくして何等の効果を生じない意義に
解したものともいえない。されば、原判決は、所論(二)引用の契約解釈の準則に
関する大審院の判例に違反したものとはいえないし、また、所論(四)引用の地上
権に関する同判例は、本件には適切であるということはできない。次に、本件賃貸
借成立の日時に関する原判決の判示が所論のごとく誤認であるとしても、原判決の
本質的な判断に影響を及ぼすものとは思われないし、爾余の論旨は、いずれも民事
上告特例法各号のどれにも当らないし、法令の解釈に関する重要な主張を含むもの
とも認められない。
 同第二点について。
 原判決は、論旨第一点で説明したように本件賃貸借の期間に関しては、判示のよ
うな漠然たる合意をしただけで、確定的な存続期間についてはその合意がなかつた
もの、すなわち、二十年より長い期間を以て賃貸借をしたものでないと認定したも
のであること明らかである。されば、所論は結局原判決の認定非難に帰し民事上告
特例法各号のどれにも当らないし、また、その法令解釈に関する重要な主張でもな
いから、採用できない。
 同第三点について。
 しかし、原審口頭弁論期日において当事者双方が陳述した第一審判決の事実摘示
によれば、被上告人は上告人Aを相手方として昭和二一年九月横浜区裁判所に本件
家屋明渡の調停を申立て同年一〇月一六日の第一回期日に上告人Aは出頭したから、
これにより解約の申入をしたものであると主張し、上告人は右調停の申立があり、
Aが出頭したことはこれを認める旨答弁した旨の記載がある。そして、右被上告人
の主張は、右調停期日において出頭した上告人に対し明渡を求める調停申立の趣旨
を陳述し上告人も、これを了知したから、これによつて解約申入の効果を生じたと
いう趣旨と解されるし、また、上告人においても被上告人の調停申立の趣旨の陳述
はこれを了知した事実そのものはこれを明らかに争つていないと見るのが相当であ
る。そして、右のごとき明らかに争わない事実を以て解約申入たる効力を有するも
のと認めることは差支えないから、原判決には所論の違法は認められない。
 同第四点について。
 所論は、原審の事実認定を攻撃するか、又は、原判決の認めない事実に立脚して
原判決を非難するに帰し、上告適法の理由と認め難い。
 同第五点について。
 原判決は、所論承継の点を考慮に入れ判示のごとく解約申入れの正当な事由があ
るものと判断したものであつて、原判決の認定した当事者双方の事情に照し原判決
の「正当な事由」の解釈、判断は当裁判所においてもこれを是認することができる
から、所論は採用し難い。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    入   江   俊   郎

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