弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は,弁護人門西栄一作成の控訴趣意書に,これに対
する答弁は,検察官跡部敏夫作成の答弁書にそれぞれ記載されたとお
りであるから,これらを引用する。
論旨は,事実誤認の主張である。
1組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律以下組(「
織的犯罪処罰法」という)3条1項1号の適用に関する事実誤認の。
主張について
論旨は,要するに「原判決は,パチスロ店『X』が経営者である,
被告人と従業員十数名により構成される組織的犯罪処罰法2条1項に
いう『団体』に当たり,本件常習賭博に当たる行為が,同法3条1項
柱書にいう『団体の活動』として,当該罪に当たる行為を実行するた
めの組織により行われたと認定して,同項1号の常習賭博罪の刑の加
重規定を適用した。しかし,Xは,被告人及びその雇用する従業員の
単なる集合体であって,同法2条1項にいう『団体,すなわち『共』,
同の目的を有する多数人の継続的結合体』としての実体はない。さら
に,その集合体の意思決定もすべて被告人だけで行い,賭博による利
益を被告人が独占しているから,本件常習賭博に当たる行為が『団体
の活動,すなわち同法3条1項柱書にいう『団体の意思決定に基づ』
く行為であって,その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属する
もの』として行われたとはいえない。また,各従業員の仕事の内容も
組織の分担と評価する余地はないから,その行為が『当該罪に当たる
行為を実行するための組織により行われた』ともいえない。結局,本
件常習賭博行為は,組織としてのXではなく,Xの経営者でパチスロ
機設置者である被告人個人が賭客との間で行ったものであり,同法3
条1項柱書の要件を満たさず,常習賭博罪として処断されるべきであ
るから,前記加重規定を適用した原判決には,判決に影響を及ぼすこ
とが明らかな事実の誤認がある」というものである。。
そこで,原審記録を調査して検討すると,この点について,原判決
が「補足説明」の「2組織的犯罪処罰法違反の成否について」の項
で説示する内容は正当として是認できる。
すなわち,関係各証拠によれば,①被告人は,回胴式遊技機(パチ
スロ機)28台が設置されたビルの一室において,平成20年2月こ
ろ,パチスロ店「X」を賭博場として開店し,当初は被告人が単独で
営業していたが,同年3月上旬にAが従業員となって以降,経営者で
ある被告人のほか,店舗責任者としてA,常勤の店舗従業員2名,非
常勤の店舗従業員3名,さくら役7名の合計14名が,同店の業務に
従事してきており,その間,従業員の多少の入れ替わり等があったも
のの,同年11月25日に警察により摘発されるまでの間,継続的に
賭博場として運営されてきたこと,②同店においては,被告人の指揮
命令に基づき,あらかじめ任務分担が定められており,店舗責任者で
あるAが他の従業員の教育及び管理並びに換金に供する現金及び売上
金の一時管理等を行い,他の店舗従業員が賭客からの賭金の徴収及び
賭客への飲食物の提供等を行い,さくら役が同店から賭金の提供を受
けて遊戯客を装うなどし,同店を訪れる賭客と賭博が反復して行われ
てきたことなどが認められる。
これらの事実によれば,被告人,店舗従業員及びさくら役らの集団
は,同店におけるパチスロ機を使った賭博営業により犯罪収益を上げ
ることを共同の目的とする多数人の継続的結合体としての実体を備え
ており,その共同目的を実現するために,被告人及びその意を受けた
Aの指揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務分担に従い,構成
員らが一体として,繰り返し各自の任務を遂行してきており,上記共
同の目的を実現する行為が「組織」により反復して行われていたもの
と認められ,Xが,組織的犯罪処罰法2条1項にいう「団体」に該当
することは明らかである。
次に,本件賭博行為が,同法3条1項柱書にいう「団体の活動,」
すなわち「団体の意思決定に基づく行為であって,その効果又はこ,
れによる利益が当該団体に帰属するもの」として行われたかどうかに
ついてみると,Xで日々行われる店の賭博行為について逐一組織的な
決定はされていないが,既に検討したとおり,Xはパチスロ機を使っ
た賭博営業により犯罪収益を上げるという共同の目的を有する多数人
の継続的結合体であって,Xを統括する立場にある被告人の包括的な
事前の指揮命令に基づき一定の方法で賭博行為を行うことが構成員の
共通の了解事項とされていたことは明らかであり,本件賭博行為は団
体の意思決定に基づいて行われたものと認められる。
また,本件賭博行為による利益の帰属の点は,関係証拠によれば,
被告人は,日々の営業終了後に店舗責任者であるAから当日の売上げ
の報告を受けるとともに,売上金を手渡され,その中から,従業員ら
の給料,日当や経費等を支払っていたことが認められる。利益の多く
を最終的に被告人が取得しているが,他の団体構成員も,給与,日当
の名目で一定の分配の定めに従い利益を取得していることからすれ
ば,本件賭博行為による利益は団体に帰属したと認めるのが相当であ
る。すなわち,組織的犯罪処罰法3条1項柱書の「利益が当該団体に
帰属する」の点は「団体の活動」を規定する要件の一つであるが,,
同条項を設けて一定の組織的犯罪について特に加重処罰することとし
た法の趣旨にかんがみると,その意義について実質的に理解すべきで
あり,民事法上の利益の帰属とは必ずしも一致しない場合もあるもの
と考えられる。本件においては,民事法上は売上げのすべてがXの経
営者である被告人に帰属したとみることもできるが,組織的犯罪処罰
法上は,前記のとおり,いったん被告人のもとに売上げが集約された
後,団体構成員である従業員らに一定の分配の定めにより利益が配分
され,結果的には従業員らが利益を取得していると認められるから,
このような実態にかんがみると,本件常習賭博行為による利益は団体
であるXに帰属したものとみることができるのである。そうしてみる
,,「,と原判決がXは被告人がオーナーとして経営する店であるから
,」同店の利益は最終的には被告人が取得することになると考えられる
(原判決7頁)と説示する一方で,組織的犯罪処罰法3条1項柱書の
適用について「その売上げも同店にいったん帰属するものと解する,
のが相当である(同8頁)と説示していることとの間に必ずしも矛」
盾があるとはいえず,この点について,原判決の説示内容が不合理で
あるとする趣旨の所論は採用できない。
論旨は理由がない。
2没収・追徴額の算定に係る事実誤認の主張について
論旨は,原判決は,Xが平成20年3月上旬から同年11月25日
までの間に得た賭金の総額から換金手数料5%の金額を減じた額であ
る9004万8125円を,没収(押収された現金53万1391
円,追徴(費消分8951万6734円)の対象としたが,賭博は)
対向犯であるから,本件の犯罪収益はXが支払った賭客の勝ち金相当
額を差し引くべきであり,原判決が上記金額を差し引かずに犯罪収益
を認定したことには,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認
がある,というのである。
関係証拠によれば,本件賭博の方法は,次のとおりと認められる。
()客は,店内に設置されているパチスロ機(28台)の中から遊1
技するパチスロ機を選び,まず,従業員に2000円以上の現金を渡
し,従業員はパチスロ機の種類に応じ現金20円又は40円につき1
点の割合でクレジットと呼ばれる点数をパチスロ機に入力する。
()客は,1回の勝負につきクレジット3点を賭けてパチスロ機の2
レバーボタンを押して回胴(リール)を回転させ,停止した三つのリ
ール上の表示される図柄の組み合わせによってクレジットを獲得した
り,クレジットを失うことなく再遊技したりすることができ,勝負を
続けることができるが,持ち点がなくなると,その点数分に相当する
金額を失うことになる。また,その機械での遊技を途中で止めると,
持ち点に応じて20円又は40円の割合で換金され,財物の得喪が生
ずる。なお,クレジットは,機械ごとに現金が支払われて点数が入力
され,換金もその機械での遊技が終了するごとに行われる。
上記事実によれば,クレジットの点数が現金の代替をなしており,
1回の勝負ごとに3点相当分,すなわちパチスロ機の種類に応じ60
円あるいは120円が賭けられ,客がそのスロット機での賭博を終え
るまでに複数の勝負が行われ最終的に財物の得喪が確定することにな
る。この財物の得喪が確定するまでに重ねられた勝負全体が客の行う
1個の賭博行為であり,遊技の対象として選んだパチスロ機に入力す
るクレジット(点数)の相当額としてXにあらかじめ支払われる現金
は,客が当該パチスロ機で行う上記賭博行為の賭金と認められる。上
記現金は,これが支払われるのと同時に店が取得することになるとこ
ろ,遅くとも,客がレバーボタンを押して賭博行為に着手し,着手と
同時にその客の賭博行為が既遂に達した時点で,上記現金はXの行う
賭博行為によって得た物として刑法19条1項3号により没収の対象
となり,その行為が組織的犯罪処罰法2条2項1号の財産上不正な利
(),益を得る目的で犯した常習賭博罪同法別表二チに当たる場合には
上記現金は,同号にいう「犯罪行為により得た財産」として「犯罪収
益」に該当し,同法13条1項により没収の対象となる。
所論は,客が賭けた賭金は刑法19条1項3号の「犯罪によって得
た物であるとしてもそれが直ちに組織的犯罪処罰法2条2項の犯」,「
罪行為により得た財産」に当たるものではなく,本件賭博行為によっ
て被告人が得た「犯罪収益」は,対向犯である客との間の賭博行為に
よって得た財産であるから「犯罪収益」として没収・追徴する金額,
は,Xが客に勝ち金として支払った額を差し引いた額とすべきである
と主張する。
しかし,組織的犯罪処罰法2条2項1号の規定の仕方や同法13条
1項が刑法19条1項の特則を定めて同法2条2項の「犯罪収益」そ
の他の財産等を広く没収することとした趣旨に照らすと,財産上の不
正な利益を得る目的で犯した常習賭博行為において,刑法19条1項
3号の犯罪取得物件に当たる物は,組織的犯罪処罰法2条2項1号の
「犯罪収益」として没収・追徴の対象になるというべきである。
この場合,客についてみると,賭博後の事後的な行為である換金に
より勝ち金を得た場合には,その勝ち金は客自身が行った賭博の犯罪
取得物件(刑法19条1項3号)として没収・追徴の対象となる。そ
,,,してXと客とが対向犯の関係に立つことからすると上記のように
Xの賭博行為についてのみ,負け金の差し引き計算を行わずに賭金総
額を没収・追徴の対象とするのは,一見すると,均衡を失し,不当な
法適用であるように見えるが,本件において,被告人に対し賭金総額
が没収・追徴の対象となるのは,Xが客から前払いの形で賭金を取得
するシステムになっていることによるものであり,Xは先に賭金を取
得し,これを資金として活用し得る立場にあるから,事後的に財物の
得喪が生じ,精算により客に対しその勝ち金を支払うことになったと
しても,実質的に見て何ら不合理なこととはいえない。所論は採用で
きない。
以上によれば,本件においては,賭金総額が没収・追徴の対象とな
り得るというべきであり,検察官の求刑の限度で没収・追徴した原判
決に所論のいう事実の誤認はない。論旨は理由がない。
よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして,主
文のとおり判決する。
)(裁判長裁判官出田孝一裁判官多和田隆史裁判官矢数昌雄

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛