弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1処分行政庁が平成20年3月11日付けで原告に対してした原告の平成16
年分の所得税に係る更正処分のうち総所得金額1214万4218円,納付す
べき税額12万2000円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取
り消す。
2処分行政庁が平成20年3月11日付けで原告に対してした原告の平成17
年分の所得税に係る更正処分のうち総所得金額1367万7598円,納付す
べき税額30万9200円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取
り消す。
3処分行政庁が平成20年3月11日付けで原告に対してした原告の平成18
年分の所得税に係る更正処分のうち総所得金額1160万6750円を超え,
還付金の額に相当する税額が4万6300円を下回る部分及び過少申告加算税
賦課決定処分を取り消す。
4訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文第1項ないし第3項同旨
第2事案の概要
本件は,処分行政庁が,原告に対して,シンガポール共和国(以下「シン
ガポール」という。)において設立されたP1PTELTD(以下「P1社」とい
う。)は,租税特別措置法(以下「措置法」という。)40条の4第1項(ただ
し,平成16年分及び平成17年分については平成17年法律第21号による
改正前のもの,平成18年分については平成18年法律第10号による改正前
のものをいう。以下同じ。)に規定する特定外国子会社等に該当し,同条の定
める外国子会社合算税制の適用があるとして,P1社の課税対象留保金額に相
当する金額が原告の平成16年分ないし平成18年分(以下「本件各係争年
分」という。)における雑所得の総収入金額にそれぞれ算入されることを前提
に,原告の本件各係争年分の所得税について,いずれも更正処分及び過少申告
加算税賦課決定処分(以下,本件各係争年分の更正処分を「本件各更正処
分」,本件各係争年分の過少申告加算税賦課決定処分を「本件各賦課決定処
分」,本件各更正処分と本件各賦課決定処分を併せて「本件各処分」とい
う。)を行ったところ,原告が,P1社は措置法40条の4第4項(ただし,
平成17年法律第21号による改正前は,同条3項。以下同じ。)所定の同条
1項の外国子会社合算税制の適用除外のための要件を満たすため,本件各処分
は違法な処分であるとしてそれらの取消しを求めている事案である。
1関係法令の定め
別紙1のとおり
2前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に
認められる事実)
(1)当事者
ア原告について
原告は,日本に住所を有する者であり,P1社平成15年12月期(P
1社の平成15年1月1日から同年12月31日までの事業年度をいい,
以下,他の事業年度についても同様の表現をする。),P1社平成16年
12月期,P1社平成17年12月期(以下,これらの事業年度を併せ
て,「P1社各事業年度」という。)の間,埼玉県志木市に本店を置く精
密ねじ等の製品を製造するP2株式会社(以下「P2社」という。)の常
勤専務取締役を務めており,平成20年5月29日,P2社の代表取締役
に就任し,現在も引き続き代表取締役の地位にある。(乙1)
イP1社について
P1社は,P2社及びその関連会社であるP3CO.,LTD.(以下「P3
社」という。)の製造する精密ねじ等の製品を東南アジアの日系企業に販
売するために平成12年2月3日にシンガポールにおいて設立された株式
会社である。
原告は,同年12月15日以降,P1社の発行済株式総数7800株の
うちの7799株を保有する株主であり,P1社各事業年度の終了時にお
けるP1社の取締役2名のうちの1名である。(乙2ないし4)
ウ原告とP1社との関係について
(ア)措置法40条の4第1項は,同項各号に掲げる「居住者」に係る外国
関係会社のうち特定外国子会社等が適用対象留保金額を有する場合,そ
の適用対象留保金額のうち,課税対象留保金額に相当する金額は,その
者の雑所得に係る収入金額とみなして当該各事業年度終了の日の翌日か
ら2月を経過する日の属する年分のその者の雑所得の計算上,総収入金
額に算入すると規定しているところ,日本に住所を有する原告が直接保
有する株式数の占める割合が100分の50を超えていることから,P
1社は措置法40条の4第2項1号所定の「外国関係会社」に該当し,
また,上記の割合は100分の5以上であることから,原告は,措置法
40条の4第1項1号所定の「居住者」に該当する。したがって,P1
社は,同号所定の「居住者」に該当する原告に係る「外国関係会社」に
該当する。
(イ)P1社は,本件各係争年分に係る全期間,シンガポールに本店を有
しており,P1社は,シンガポールの法人税に関する法令(我が国の法
人税法(P1社平成15年12月期については平成15年法律第8号に
よる改正前のもの,P1社平成16年12月期については平成16年法
律第88号による改正前のもの,P1社平成17年12月期については
平成17年法律第21号による改正前のもの。以下同じ。)69条1項
所定の外国法人税に関する法令をいう。)により,P1社各事業年度の
所得に対して我が国の法人税に相当する租税が課され,その課された税
額の当該所得の金額に占める割合は,別表1(③欄)のとおりである。
このP1社各事業年度の所得に対して課される租税の額は,当該所得
の金額の100分の25(租税特別措置法施行令(平成16年分について
は平成16年政令第105号による改正前のもの,平成17年分につい
ては平成17年政令第103号による改正前のもの,平成18年分につ
いては平成18年政令第135号による改正前のものをいい,以下「措
置法施行令」という。)25条の19第1項2号所定の割合)以下であ
り,我が国における法人の所得に対して課される税の負担に比して著し
く低いものとして政令に定める外国関係会社に該当するから,P1社
は,措置法40条の4第1項に規定する「特定外国子会社等」に該当す
る。
エP4について
P4は,P1社の発行済株式総数7800株のうちの1株を保有するP
1社の取締役であり,シンガポールに在住している。(乙2ないし4)
P4は,昭和63年にシンガポールで設立されたP5PTE.LTD.(以下
「P5社」という。)のマネージングディレクターであり,同社の業務委
託・経営コンサルタント部門は,シンガポールにおいて,事務所設備の賃
貸,業務サポートサービスの提供及び営業担当者の派遣を行っている。
(乙5,6)
オP1社とP5社との間の業務委託契約
P1社は,P1社の設立時に,P5社との間で,P1社の周辺事務業務
(経理・総務・営業事務)等につき業務委託契約(以下「本件業務委託契
約」という。)を締結した(ただし,本件業務委託契約の内容として,上
記周辺事務業務の委託以外に何が含まれているかについては争いがあ
る。)。
(2)原告の所得税に係る申告
原告は,本件各係争年分の所得税の確定申告について,別表2ないし4の
「確定申告」欄及び「修正申告」欄の「年月日」記載の各日において,同欄
の総所得金額及び納付すべき税額のとおり確定申告及び修正申告をした。
(3)本件各処分及び不服申立手続の経緯
ア甲府税務署長は,平成20年3月11日,原告に対し,別表2ないし4
の「更正処分等」欄記載の総所得金額及び納付すべき税額並びに過少申告
加算税の額が相当であるとして,本件各処分をし,そのころ,これらを原
告に通知した。
イ原告は,平成20年5月9日,甲府税務署長に対し,本件各処分の取消
しを求めて異議申立てをしたところ,甲府税務署長は,同年8月8日,上
記異議申立てを棄却する旨の決定をし,そのころ,これを原告に通知し
た。(甲1)
ウ原告は,同年9月5日,国税不服審判所長に対し,本件各処分の取消し
を求めて審査請求をしたところ,国税不服審判所長は,平成22年9月2
日,上記審査請求を棄却する旨の裁決をし,そのころ,これを原告に通知
した。(甲2)
エ原告は,平成22年12月22日,本件訴えを提起した。(顕著な事
実)
3被告の主張する本件各処分の根拠及び適法性
本件において被告が主張する本件各更正処分の根拠及び適法性に関する主張
は別紙2のとおりであり,本件各賦課決定処分の根拠及び適法性に関する主張
は別紙3のとおりである(別紙2及び別紙3において用いた略称は,以下の本
文においても用いることとする。)。
なお,後記4の争点以外の点や,仮に争点に関する被告の主張が認められた
場合に原告の雑所得の総収入金額に算入される課税対象留保金額の算定につい
ては,当事者間に争いがない。
4争点
本件の争点はP1社が措置法40条の4第4項所定の外国子会社合算税制の
適用除外の各要件のうちの「特定外国子会社等が,その本店又は主たる事務所
の所在する国又は地域において,その主たる事業を行うに必要と認められる事
務所,店舗,工場その他の固定施設を有していること」(以下,この適用除外
要件を「実体基準」という。)及び「その特定外国子会社等が本店又は主たる
事務所の所在する国又は地域において,その事業の管理,支配及び運営を自ら
行っていること」(以下,この適用除外要件を「管理支配基準」という。)を
満たすか否かであり,これらに関して摘示すべき当事者の主張は,後記5「争
点に関する当事者の主張の要旨」において記載するとおりである。
5争点に関する当事者の主張の要旨
(1)争点(1)(実体基準の充足の有無)について
(被告)
ア実体基準の内容及び判断基準
措置法40条の4第4項柱書きは,特定外国子会社等が,その本店又は
主たる事務所の所在する国又は地域において,その主たる事業を行うに必
要と認められる事務所,店舗,工場その他の固定施設を有していることを
適用除外要件としている(実体基準)。
適用除外要件として実体基準が規定されたのは,独立企業としての実体
を備えているというためには,当然,主たる事業を行うに必要な事務所,
店舗,工場その他の固定施設を有している必要があるとの考え方に基づく
ものであり,物的な側面から独立企業としての必要条件を明らかにしたも
のである。実体基準を満たすというためには,必ずしも固定資産を自ら所
有していなければならないわけではなく,事業を行うに必要な事務所,店
舗等を賃借している場合も含む。
イ本件における当てはめ
P1社各事業年度においてP1社が所有していた固定資産は器具備品
(オフィス機器)のみであることから,シンガポールに事務所,店舗,工場
その他の固定施設を所有していなかったことは明らかである。
また,P1社とP5社との間の平成17年8月1日付け業務委託契約
書(以下「平成17年業務委託契約書」という。)には,P5社が提供す
るサービスの内容に関する定めはあるものの,P1社がP5社から賃借す
る物件や具体的な賃料については何ら定めがない。P1社がP5社内の一
区画の賃借の対価を支払うこととしたのはP1社とP5社との間の平成1
9年7月1日付け業務委託契約書(以下「平成19年業務委託契約書」と
いう。)からである。
したがって,P1社各事業年度において,P1社がシンガポールで事務
所,店舗,工場その他の固定施設を賃借していたことを認めるに足りる的
確な証拠はなく,むしろ,P1社各事業年度のP1社の財務諸表に事務
所,店舗等を賃借するための賃借料の計上がないことからすれば,P1社
各事業年度において,P1社が事務所,店舗等を賃借していた事実は認め
られないというべきである。
ウ原告の主張に対する反論
(ア)原告は,P1社が実体基準を満たしていたことの根拠として,P1
社はP1社各事業年度において,P5社からP5社のレンタルオフィス
内に机1台分のオフィススペース(机,椅子,棚,固定電話を含む。)を
賃借し,P1社の営業担当者が営業活動を行うために当該オフィススペ
ースを使用していたこと,当該オフィススペースの賃借料は,P1社が
P5社に支払っていた「業務委託料」名目の支払の中に含まれていた旨
主張する。
しかしながら,上記イのとおり,P1社とP5社との間の平成17年
業務委託契約書に基づきP1社がP5社から事務所等を賃借していた事
実は認められない。平成17年業務委託契約書には,P1社がP5社か
ら賃借する物件や具体的な賃料について何ら定めがない一方,P1社各
事業年度経過後に作成された平成19年業務委託契約書においては,P
1社が,P5社から,平成17年業務委託契約書において記載された業
務管理サービスと同様の業務管理サービスを同額の対価で受けることと
され,その業務管理サービスに対する対価とは別に,P1社が,P5社
から,1か月当たり500シンガポールドル(以下「SGD」とい
う。)により建物内の一画を賃借する条項が設けられている(平成19
年業務委託契約書・1項)に照らせば,P1社各事業年度においては,
業務管理サービスの対価にP1社のP5社に対する賃料が含まれておら
ず,P1社がP5社からオフィススペースを賃借していなかったことが
強く推認されるというべきである。
この点,原告は,P1社とP5社との間の固定施設の賃貸借について
は,原告及びP4の口頭による合意があり,平成17年業務委託契約書
の文言は重視すべきではない旨主張する。しかしながら,P1社とP5
社との間の業務委託契約関係を明らかにするために契約書を作成するの
であるから,仮に,P1社が賃借した固定施設を継続して使用していた
のであれば,契約書の中で,当該賃貸借契約において賃借する物件を特
定し,賃料や賃貸借期間を明示してしかるべきである。にもかかわら
ず,平成17年業務委託契約書には,両者間の賃貸借契約の存在をうか
がわせる条項がなく,両者の代表者である原告及びP4が,いずれも平
成17年業務委託契約書の内容を理解しないままに署名押印したという
のはいかにも不自然である。
よって,P1社が,P1社各事業年度において,P5社からオフィス
スペースを賃借した事実は認められず,原告の上記主張は失当である。
(イ)原告は,P1社が実体基準を満たす根拠として,P4がP1社のオ
フィススペースと同フロアに執務室を有する点を挙げるが,P1社がP
5社の建物内においてオフィススペースを賃借していなかったことは上
記(ア)で述べたとおりである。また,この点をおくとしても,原告がP
5社内においてP4が自由に利用可能であったとする執務室というのは
P5社の社長室であるから,P5社の社長であるP4が同社の社長室を
利用するのは当然であって,当該事実をもって,P1社が実体基準を満
たすことの根拠となるものではない。
(ウ)原告は,P1社がP5社のオフィススペースを賃借していたことを
裏付ける事実として,P1社に派遣された営業担当者がP5社内部のオ
フィススペースでP1社の営業活動を行っていた旨主張する。
しかしながら,P5社とP1社の間には人材派遣契約書は存在せず,
平成17年業務委託契約書にも派遣人員数,派遣期間等の人材派遣に関
する項目は一切ないから,P1社に派遣された従業員がいたことを裏付
ける的確な客観的証拠は一切ない。さらに,P5社からP1社の営業担
当者として派遣されていたとするP5社の従業員であるP6は,P1社
の業務を行っていたとする席において,P1社とは全く関係がないP5
社の業務も行っていたこと,P1社が賃借していたとするスペースがあ
る部屋には,P5社のマネージャーが配置されているが,スペースの賃
借会社の従業員が執務する部屋の中にP5社のマネージャーが配置され
ているのは不自然であることに照らすと,P6は,P1社の派遣社員と
してではなく,本件業務委託契約に基づきP5社の業務としてP1社の
業務を行っており,P6の使用していた席は,そもそも賃貸用のスペー
スではなく,P5社の業務を行うために使用していたP6の専用の業務
スペースとみるのが自然である。
したがって,P6らP1社の営業担当者とされる者が,P5社内の一
画においてP1社の業務を行っていたことをもって,その一画をP1社
がP5社から賃借していたとみることはできない。
(エ)原告は,P1社がP5社からオフィススペースを賃借していた根拠
として,P1社の看板がP5社の入口に掲げられていたことを挙げる。
しかしながら,P5社はP1社の通常業務について包括的に委託を受
けていたのであるから,P1社の窓口として,P5社の入口にP1社の
看板を掲げるのは当然のことであり,原告の上記主張に係る事情は,必
ずしもP1社がP5社からオフィススペースを賃借していた事実を裏付
けるものではない。
したがって,P1社の看板がP5社の入口に掲げられていたことをも
って,P1社が,P5社からオフィススペースを賃借していたことの根
拠とはならない。
(オ)原告は,P1社が実体基準を満たす根拠として,P1社はP7Pte
Ltd(以下「P7」という。)のシンガポール国内にある倉庫内に事業
上必要なスペースを賃借していた旨主張する。
しかしながら,原告が提出した倉庫の使用料等の請求書の「貨物内
容」の「重量寸法」欄には,P1社の荷物の重さと面積が記載される
というところ,上記書面の同欄は,いずれも零ないし空欄となってお
り,実際に当該倉庫にP1社の取引物品が保管されていたか疑わしいと
いわざるを得ない。
なお,仮に,P1社が上記倉庫を賃借していたとしても,P1社は,
シンガポールにおいてその主たる事業を行うに必要な事務所を有してい
ないのであるから,結局,P1社は,シンガポールにおいてその主たる
事業を行うために必要と認められる程度の固定施設を有していたとはい
えない。
エ以上によれば,P1社がシンガポールにおいて固定資産を所有してい
たと認められないことはもちろん,同社が店舗,事務所等を賃借してい
たと認めることもできないから,P1社各事業年度において実体基準は
満たされていなかったというべきである。
(原告)
ア実体基準の内容及び判断基準
実体基準の内容は認める。主たる事業を行うために必要となる固定施設
の規模は,特定外国子会社等の業種業態によって異なり,問題となる特定
外国子会社等ごとにその営む事業の内容から,その必要と認められる程度
が判断されなければならない。また,特定外国子会社等は,かかる固定施
設を有していさえすれば実体基準を満たすのであり,当該固定施設を使用
する権原がいかなるものであるかは問われない。まして,特定外国子会社
等がかかる固定施設を自ら所有又は賃借していることは要件とされていな
い。
本件では,P1社がシンガポール国内で,受注発注形態の小規模の卸売
事業を営むために必要と認められる固定施設を有していたかどうかが問題
となる。
イ本件における当てはめ
(ア)P1社の主たる事業はねじ等の精密機械部品の卸売事業であるが,
ASEAN諸国を拠点とする日系企業からの注文を受けてP2社やその
関連企業であるP3社に発注を行う受注発注の形態で,限られた顧客を
相手に小規模に営まれていた。このような受注発注の形態で行われる小
規模な卸売事業を営むには,少数の従業員や役員の執務スペース,業務
上必要となる帳簿類の保管スペース,取扱製品の一時保管スペースがあ
れば足りる。
(イ)aP1社は,P1社各事業年度において,P5社からP5社のレン
タルオフィス内に机1台分のオフィススペース(机,椅子,棚,固定
電話を含む。)を賃借し,P1社が所有するパソコン1台及びモデム
を設置し,P1社の営業担当者が営業活動を行うために使用してい
た。
なお,P1社からP5社に対する「賃借料」名目での支払は行われ
ず,P1社のP1社各事業年度に係る損益計算書上も,「賃借料」名
目の計上は行われていないが,P1社がP5社に対して支払っていた
「業務委託料」名目の支払の中には,賃借料相当分も含まれていた。
bP4は,P1社のオフィススペースと同じフロアにあるP4の専用
の執務室をP1社の居住取締役としての職務の遂行のためにも使用
し,P1社は,P5社からオフィススペースと同じフロアにある共用
会議室の提供を受け,来客時などに利用していた。
cP1社がP5社のレンタルオフィス内にオフィススペースを賃借
し,同所で営業していることを示すため,P5社の入口にはP1社の
看板が掲げられていた。
dP1社は,P7と契約し,P7のシンガポール国内にある倉庫内に
P1社が取り扱う精密機械部品の保管場所として必要なスペースを確
保し,P7の書類保管庫においてP1社の古い帳簿書類を保管してい
た。
なお,P1社の新しい帳簿書類については,P1社が記帳等の経理
事務や営業事務等の周辺事務を業務委託していたP5社のオフィスス
ペース内のP1社用の棚に保管されていた。
eこのように,P1社は,シンガポール国内に,受注発注の形態で行
われる小規模の卸売事業を行うために必要かつ十分な固定施設を有し
ており,実体基準を満たしている。
ウ被告の主張に対する反論
(ア)被告は,P1社がP5社から事務所等を賃借していた事実が認めら
れない根拠として,平成17年業務委託契約書及び平成19年業務委託
契約書の文言を指摘するがそれは誤りである。そもそもP1社とP5社
との業務委託契約は,P1社が設立された2000年(平成12年)2
月,原告(P1社を代表する取締役)とP4(P5社のマネージングデ
ィレクター)との間で,①オフィススペースの賃貸借,②周辺事務
業務(経理・総務・営業事務)の業務委託,③営業担当者の派遣を内
容として口頭での合意により成立したものであり,その後も契約内容に
変更はない。他方,平成17年業務委託契約書及び平成19年業務委託
契約書は,いずれもP1社の設立から5年以上を経て,しかもP5社が
どの顧客に対しても使用できるように作成した定型フォームを利用した
ものにすぎないから,上記の各契約書の文言に拘泥すべきではない。
(イ)被告は,P1社がP5社から事務所等を賃借していた事実が認めら
れない根拠として,P1社各事業年度に係るP1社の財務諸表上,賃借
料の計上がないことを指摘する。
しかしながら,賃料の支払の有無の判断においては,当事者が賃借の
対価として金員の授受を行っていたか否かにより判断すべきであり,か
かる金員が会計上のいかなる項目で処理されていたかに拘泥すべきでは
ない。P5社は,P1社各事業年度において,自己が提供するサービス
の対価を積上げ方式で計算していなかったため内訳は明示されていない
が,P1社からP5社へ支払われた「業務委託料」には,オフィススペ
ースの賃借料,周辺事務の業務委託料及び人材派遣料の3つの性質の支
払が含まれていたのであり,P1社は,P5社に対し,オフィススペー
スの賃借料を支払っていた。
(ウ)被告は,P5社がP1社から業務委託を受けていたのであるから,
P5社の入口にP1社の看板が掲げられているのはむしろ当然であり,
P1社がP5社からオフィススペースを賃借している事実を裏付ける事
情とはいえない旨主張する。
しかしながら,P5社の入口に看板が掲げられている会社は,P5社
からオフィススペースを賃借している会社のうち看板を掲げることを希
望する会社のみであり,P5社が業務委託を受けているだけの会社は含
まれていないから,被告の主張は前提を欠く。
(エ)被告は,P1社がP7から倉庫を賃借していた事実が認められない
根拠として,主として実際にP1社が請求を受けた際の請求書等を提出
していないことを挙げるが,原告が書証として提出したものは,P1社
がP7から実際に受領した請求書の一部の写しである。
エ以上のとおり,P1社は,その本店の所在するシンガポールにおいて,
その主たる事業である卸売事業を営むために必要と認められる固定施設を
有しており,P1社は実体基準を満たす。
(2)争点(2)(管理支配基準の充足の有無)について
(被告)
ア管理支配基準の内容及び判断基準
措置法40条の4第4項柱書きは,その特定外国子会社等が本店又は主
たる事務所の所在する国又は地域において,その事業の管理,支配及び運
営を自ら行っていることを適用除外要件としている(管理支配基準)。
適用除外要件として管理支配基準が規定されたのは,独立企業としての
実体を備えているというためには,事業の管理,支配及び運営という企業
の機能面に着目しても独立企業としての実体を備えている必要があるとの
考え方に基づくものであり,機能的な側面から独立企業としての必要条件
を明らかにしたものである。
管理支配基準を満たすか否かは,具体的には,取締役会が本店所在地で
開かれている等特定外国子会社等が自ら事業の管理支配を行っているかど
うかにより判断すべきであり,管理,支配及び運営を自ら行っているかど
うかは,特定外国子会社等の株主総会及び取締役会の開催,役員としての
職務執行,会計帳簿の作成及び保管等が行われている場所並びにその他の
状況を勘案の上判定することとなる。なお,管理支配基準は,必要と認め
られる常勤役員及び従業員が存在していることを前提としている。そこ
で,以下各要素について検討する。
イ本件における当てはめ
(ア)株主総会について
本件においては,P1社における株主は原告とP4の2名のみであ
り,原告がP1社の発行済株式総数の99.9%を保有していること,
シンガポール会社法上,株主総会の決議については,普通決議が出席株
主の議決権総数の過半数,特別決議が出席株主の議決権総数の4分の3
の賛成をそれぞれ要することからすれば,P1社の意思決定は,事実
上,原告のみによって行われているということができる。本件におい
て,管理支配基準を満たしているか否かを判定するに際しては,P1社
の株主総会における意思決定権を掌握している原告が所在する場所にお
いて株主総会の意思決定が行われていたと解すべきである。そして,P
1社各事業年度内の平成16年6月30日及び平成17年6月30日に
開催されたP1社の定時株主総会については,いずれもシンガポール国
内において開催された旨の議事録が残されているものの,原告はいずれ
の日においてもシンガポールには滞在していないのであるから,管理支
配基準の判断上,P1社の株主総会の意思決定はシンガポールで行われ
たとは評価することはできない。
(イ)業務遂行上の重要事項の意思決定について
平成19年11月2日にされた本件各処分に係る税務調査(以下「本
件調査」という。)における原告の回答内容からすれば,P1社による
平成17年8月に行われたP2社の第三者割当増資(以下「本件増資」
という。)の引受けの可否については,原告はP4に相談することなく
単独で決定していたことが認められる。また,P2社は,P1社の取締
役において本件増資に係る引受けを承認する約2週間前に,臨時株主総
会及び取締役会において,P1社を本件増資の引受人とすることを決議
していたという本件増資の事実経緯に照らせば,原告は,P1社の取締
役において本件増資の引受けを了承する前に,単独で本件増資を引き受
けることを決定し,P2社に対し,あらかじめその旨を伝えていたもの
と考えられる。
なお,仮に,原告がP4に対し本件増資の引受けの可否について相談
をしていたとしても,P4は,P1社以外にも複数の会社の役員を兼務
していたのであるから,原告を差し置いてP1社の経営を左右するよう
な事業上の重要事項についての決定権限を有していたと考えるのは不自
然であり,P1社の発行済株式総数の99.9%を保有する大株主であ
り,かつ,P1社の取締役であるという原告の立場等に着目すれば,重
要事項に関する最終的な決定は原告のみの意思に基づいてなされていた
ものとみるのが自然である。
以上によれば,原告は,本件増資の引受けというP1社の事業上の重
要事項の可否について単独で意思決定していたものと認められる。
(ウ)役員の構成及び職務執行の状況について
a(a)管理支配基準を満たすためには,その主たる事業を遂行するた
めに必要と認められる常勤役員及び従業員の存在が必要となる。こ
れは,特定外国子会社等が自ら管理,支配及び運営を行うには,当
然,その主たる事業を遂行するため常勤役員と役員からの指示を受
け業務を行う従業員が存在していることが前提であると解されるか
らである。
(b)これを本件についてみると,P1社各事業年度において,原告
は,P2社の常勤専務取締役も務めており,P1社各事業年度の大
半の期間はシンガポール国外に滞在し,原告がP1社各事業年度に
おいてシンガポールに滞在していた期間は合計46日間にすぎなか
ったから,原告は,P1社の通常業務について,ほとんど関与して
いなかったといえる。
他方で,P4は,P1社の通常業務を全般的に執行していなが
ら,P1社から職務に応じた報酬を一切支払われていなかったとこ
ろ,P5社はP1社から包括的に業務を受託し,業務委託料を受領
し,P5社の執務室においてP1社の業務を行っていたのであるか
ら,P4は,実質的には,本件業務委託契約に基づき,P5社が受
託したP1社の業務を行っていたとみるのが自然である。しかも,
シンガポールの会社法上,現地法人の取締役のうち少なくとも1名
は居住者でなければならないとされており,P4が複数の法人の役
員を兼務していることを併せ鑑みれば,P4は,本件業務委託契約
に基づくP5社の業務の一環として,P1社の取締役に就任し,P
1社の通常業務を遂行していたものというべきである。
b従業員及び業務遂行について
P1社には給与を支給されている従業員は存在せず,損益計算書上
も給与の計上は認められない。また,P5社とP1社の間には人材派
遣契約書等のP5社からP1社へ従業員を派遣していたことを裏付け
る証拠はなく,平成17年業務委託契約書にも人材を派遣する旨の項
目もない。
なお,原告がP5社からP1社へ派遣していたと主張するP5社の
従業員のP6は,その勤務時間のうち3ないし4割程度の時間をP5
社の業務のために割き,残りの時間にP5社の一画においてP1社の
業務を行っていたのであり,平成17年業務委託契約書にはP5社へ
包括的にP1社の業務等を委託する旨の記載があることやP1社がP
5社の代表番号を使用し,P6らがP5社のメールアドレスを使用し
ていたことを併せ考慮すれば,P6及びその後任であるP8は,P1
社から業務委託を受けたP5社の社員として,本件業務委託契約に基
づき,P1社の業務を遂行していたとみるのが自然である。
以上によれば,P1社各事業年度において,P1社にはその主たる
事業を遂行するために必要な従業員が存在していたとみることはでき
ない。
cP1社の固定施設の状況
P1社は,その本店所在地であるシンガポールに,その主たる事業
である卸売業を行うに必要と認められる事務所を有していなかったの
であるから,物理的にもその事業の管理,支配及び運営を自ら行うこ
とはできなかった。
ウ原告の主張に対する反論
(ア)原告は,株主総会については,その開催地が株主総会による意思決
定の場所となるのであり,P1社各事業年度において開催された各定時
株主総会は,シンガポールの会社法にのっとって招集・開催され,議事
録が作成されているとして,原告の参加の方法によって開催地がシンガ
ポールであった事実は影響を受けない旨主張する。
しかしながら,管理支配基準を満たすか否かについては,議事録上の
株主総会の開催地や,シンガポール会社法上,株主総会がどこで開催さ
れたと解されるかによるのではなく,実際の意思決定がどこで行われた
かによって判断すべきである。そして,シンガポール会社法上の株主総
会決議に関する定めによれば,事実上,P1社の意思決定は,発行済株
式総数の99.9%を有する原告のみによって行われるといえる。した
がって,本件において管理支配基準を満たすか否かを判定するに際して
は,原告がどこで意思決定を行ったかが考慮されるべきであり,原告の
上記主張は失当である。
(イ)原告は,P1社が管理支配基準を満たしていたことの根拠の一つと
して,P1社各事業年度における顧客の訪問等の営業活動や顧客からの
クレーム処理等日々の業務については,平成15年1月から平成17年
6月までの期間はP6が,同月から平成17年12月までの期間はP8
が,それぞれP5社からP1社に派遣されて遂行しており,P6に対し
ては,平成15年1月から平成17年6月の間,P1社従業員としての
貢献に報いるため,P1社からP5社に対して毎月1000SGDを
「人材派遣料」として通常の支払に上乗せして支払っていたと主張す
る。
原告の上記主張のうち,P5社からP1社にP6及びP8が派遣され
ていたとの主張については,P1社とP5社の間には派遣期間,派遣就
業時間等に関する条項を定めた派遣に係る契約は存在せず,当該事実を
直接立証する証拠は存在しない。
また,P6は,P5社の仕事にも勤務時間のうちの3ないし4割程度
を割いていたのであり,平成17年業務委託契約書において,P5社が
P1社に対して提供するサービスの内容について包括的な記載があるこ
とを併せ考慮すれば,P6及びP8は,P1社がP5社から人材派遣を
受けた者としてではなく,P1社から業務委託を受けたP5社の従業員
として,本件業務委託契約に基づき,P1社の業務を遂行していたと考
えるのが自然である。
なお,原告は,P6に対する人材派遣料を通常の支払に上乗せして支
払っていたと主張する金員については,P1社の損益計算書においては
「下請業者費用」(sub-contractors'fee)として計上されていること
からすれば,P1社は業務委託料のうちP5社がP1社の業務を遂行し
たことへの対価に相当する部分を別途計上したにすぎず,原告の上記主
張に係る事情は,P6がP1社に派遣されていたことを基礎付ける事情
たり得ないというべきである。
(ウ)原告は,P1社各事業年度において,P1社の事業に重大な影響を
与える可能性のある事項については,原告とP4が相談の上で決定して
いた旨主張する。
しかしながら,上記イ(イ)のとおり,原告は,本件増資の引受けにつ
いて,少なくともその可否についてはP4に相談することなく決定して
おり,仮に,原告がP4に対し本件増資の引受けの可否について相談を
していたとしても,本件増資の引受けの可否の最終決定は原告のみの意
思に基づいてなされていたものとみるのが自然であるから,原告の主張
には理由がない。
(エ)原告は,P6及びP8は,同人らの使用者たるP5社ではなく,P
1社の取締役である原告及びP4の指揮命令に服していたのであるか
ら,P5社は,両名をP1社に派遣していたものである旨主張する。
しかしながら,P6及びP8は,本件業務委託契約に基づくP5社の
業務としてP1社の業務を遂行していたのであるから,かかる業務につ
いてP4から指揮命令を受けていたとすれば,それはP5社の取締役と
しての立場に基づく指揮命令であったと解すべきである。また,原告が
P1社各事業年度においてほとんどシンガポールに滞在せず,P5社に
P1社の業務を包括的に委託し,P1社の通常業務にはほとんど関与し
ていなかったことに照らせば,原告がP1社の通常業務について従業員
を直接指揮命令することを予定する人材派遣契約を締結したとはおよそ
考え難い。そうすると,仮にP6らが原告から指揮命令を受けることが
あったとしても,それは業務委託者からの事実上の指揮命令であったと
解すべきである。
したがって,P6らがP1社の取締役である原告及びP4の指揮命令
に服していた旨の原告の上記主張は理由がないというべきである。
なお,仮に,P1社にP5社の従業員が派遣されていたとしても,当
該従業員とP1社との間に雇用関係は存在しないのであるから,いずれ
にしてもP1社には,従業員は存在しなかったといえる。
エ以上によれば,P1社は,重要な意思決定機関である株主総会における
意思決定がその本店所在地国において開催されているとはいえず,本来で
あればそこで行われるべき重要な意思決定については原告がシンガポール
国外において行っていたこと,業務遂行上の重要事項については原告がシ
ンガポール国外において意思決定を行っていたと認められること,原告及
びP4の2名で決定すべき事項についても実質的に原告が決定していたと
認められること,役員の職務についても原告は専らシンガポール国外にお
いて執行し,P4は業務委託を受けたP5社の一員としてP1社の日常業
務を行っているにすぎないこと,P1社には常勤役員及び従業員が存在せ
ず,同社の業務は業務委託先であるP5社の従業員が遂行していたと認め
られること,P1社はシンガポールに固定施設を有していないこと等を考
慮すれば,P1社はその発行済株式総数の99.9%を保有している原告
の強い管理,支配の下に置かれており,シンガポールにおいて,独立した
企業としてその事業の管理,支配及び運営を自ら行っていたとはいえない
のであるから,P1社はP1社各事業年度において管理支配基準を満たし
ていない。
(原告)
ア管理支配基準の内容及び判断基準
管理支配基準の内容は認める。管理支配基準の充足の有無の判定に際
し,特定外国子会社等の重要な意思決定が行われた場所,役員としての職
務執行,会計帳簿の作成及び保管等が行われている場所その他の状況が勘
案されることは認めるが,その余は争う。上記に掲げた事項は,あくまで
管理支配基準の充足の有無を判定する際に総合考慮される諸要素の例示に
すぎず,上記の全ての行為が特定外国子会社等の本店所在地国等で行われ
ることを要件としているわけではない。
イ本件における当てはめ
(ア)株主総会について
P1社各事業年度において開催された定時株主総会はいずれもシンガ
ポールにおいて,シンガポールの会社法にのっとって招集・開催され,
議事録が作成された。原告の参加の方法によって開催地がシンガポール
であった事実は影響を受けない。上記定時株主総会においては,P1社
各事業年度の決算の承認と,任期が満了した役員の再任が行われたが,
P1社各事業年度には,上記の事項以外に特に株主総会による意思決定
が必要となるような重要事項は生じなかった。
(イ)重要な意思決定について
P1社の定款上,シンガポールの会社法によって株主総会で決議する
ことが要請されている事項以外については,全て取締役が決定する権限
を有し,P1社には取締役会という機関は存在しない(P1社附属定款
75条)。そして,シンガポールの会社法上,取締役による会議の招集
手続等については特段の規定は存在せず,P1社の定款上,取締役が会
議を開くこと自体は義務付けられていないから(P1社附属定款81
条),原告とP4が協議して決定を行えば,それがP1社の取締役の意
思決定となり,両名による協議や決定が行われた場所が,その意思決定
が行われた場所となる。P1社各事業年度において,本件増資の引受け
に係る意思決定を始めとして,P3社の増資の引受けの可否や規模等P
1社の事業に重大な影響を与える可能性のある事項については,緊急の
場合を除き,基本的には原告がシンガポールに赴き,2人で会議や打合
せを行って意思決定していた。
(ウ)P4による業務上の意思決定と業務遂行について
P1社における意思決定のうち,重要事項であっても各取締役に権限
が委任されている事項については,それぞれの取締役が適宜決定を行っ
ていた。そして,P1社のシンガポールの現地法令の遵守の確保,税務
申告等に関する事項,P1社の経理や資金管理に関する事項,シンガポ
ール国内における販売活動,P5社から派遣された営業担当者の指揮監
督その他の日常業務の執行に関する管理・運営等,P1社の業務上の意
思決定の多くはシンガポール在住のP1社取締役であるP4に委ねら
れ,その権限は実際に行使されていたが,このようなP4による重要事
項の決定及びその権限の行使は,いずれもシンガポールで行われてお
り,原告のシンガポール滞在日数が限定されていても,P1社はシンガ
ポールで何ら問題なく運営されていた。
(エ)日常業務の遂行について
P1社各事業年度における顧客の訪問等の営業活動や顧客からのクレ
ーム処理等日々の業務については,P5社から派遣されたP6及びP8
がP1社の従業員として行っていた。両名は,これらの日常業務をP1
社がP5社から賃借したP5社のレンタルオフィスのオフィススペース
で行っていたから,かかる日常業務の遂行場所がシンガポールであるこ
とはいうまでもない。
(オ)会計帳簿の作成・保管等
P1社の会計帳簿は,シンガポールにおいて作成され,古いものはP
7のシンガポール国内の書類保管庫に,新しいものは周辺事務業務を委
託していたP5社のオフィススペース内のP1社用の棚に保管されてい
た。
(カ)以上のとおり,P1社では,その重要な意思決定も日常的な業務の
遂行もP1社の役員及び従業員によってシンガポールで行われており,
会計帳簿の作成・保管等もシンガポールにおいて行われている。P1社
は,その本店所在地国であるシンガポールにおいて独立した法人とし
て,その事業の管理支配及び運営を自ら行っており,管理支配基準も満
たす。
ウ被告の主張に対する反論
(ア)被告は,原告は,事実上,P1社の株主総会における意思決定権を
掌握しているから,原告がどこで意思決定を行ったかが考慮されるべき
であるところ,P1社各事業年度において,原告の意思決定は,専らシ
ンガポール国外で行われていたとして管理支配基準を満たさない旨主張
するが,被告の主張は,個々の株主と株主総会という会社の機関を同視
するものであり,失当といわざるを得ない。
(イ)被告は,P1社の事業上の重要事項については,P4が決定権限を
有しておらず,原告が1人で意思決定していたと考えるのが自然である
と主張する。被告は,上記主張の理由として,原告がP1社の発行済株
式総数の99.9%を保有していること及びP4がP1社以外に7社の
役員を兼務していることから,P4が原告を差し置いて重要事項の決定
権を有していたと考えるのは不自然であると主張するが,被告の根拠と
する事情は,いずれも取締役としての権限分配や役割分担には関わりの
ないものであり理由がない。
(ウ)被告は,平成17年8月に行われた本件増資の引受けについて原告
が単独で意思決定したと認められることを管理支配基準を満たさない根
拠として主張する。
しかしながら,本件増資の引受けの可否はシンガポールの法制やP1
社のキャッシュフローの状態にも関わるため,それらを十分に把握して
いない原告が単独で決定することは不可能であった。本件調査時の聞取
り結果は,処分行政庁の内部文書にすぎず,原告の発言の全てが記録さ
れたものではなく,その内容も不正確である。
本件増資の引受けに際しては,原告がシンガポールに赴いた際に,P
4との間で,P1社がP2社の増資を引き受けることについて基本的に
は合意したものの,その後,正式にP2社から本件増資の引受けの依頼
があった際は,P1社の財務を担当していたP4が引受可能な金額の上
限を判断して本件増資の引受額を決定したのであり,本件増資の引受け
は,P1社の取締役として原告とP4が主としてシンガポールにおいて
2人で話し合って決定したものである。
(エ)被告は,P4がP5社のマネージングディレクターとして,P1社
の通常業務について全般的な決定権限を有し,業務を遂行していたこと
を管理支配基準を満たさない根拠として主張し,その理由として,P4
がP1社から取締役としての報酬を受け取っておらず,P4がマネージ
ングディレクターを務めるP5社が平成17年業務委託契約書に基づい
てP1社の業務を包括的に受託していることから,P4は平成17年業
務委託契約書に基づく業務の遂行としてP5社の役員としてP1社の通
常業務を行い,その対価を得ていたと考えるのが自然であると主張す
る。
しかしながら,P4がマネージングディレクターを務めているP5社
がP1社から業務の委託を受けることとP4が個人としてP1社の取締
役に就任することは別の問題であり,P4がP1社から個人として役員
報酬を受け取るかどうかとP5社がP1社から業務受託の対価を受け取
ることとは無関係である。P4は,P5社が業務委託を受けている会社
のうち複数の会社の取締役に就任しているが,P4が取締役に就任する
のは,P4が個人として当該会社の経営について責任が取れる会社に限
られ,各会社の業績等により取締役としての報酬を受け取っている社と
受け取っていない社がある。P4がP1社の取締役に就任したのは,友
人である原告に依頼されたためであり,P1社各事業年度において役員
報酬を受領せずにその職務を遂行していたのは,P1社の業績がまだそ
れほど安定しておらず,同じ取締役である原告も報酬を受け取っていな
かったからにすぎない。
(オ)被告は,P6及びP8は,P5社からP1社に派遣されていたので
はなく,P1社から業務委託を受けたP5社の従業員として,P1社の
業務を遂行しており,P1社には従業員が存在していなかったことを管
理支配基準を満たさない根拠として主張する。被告は,上記主張の根拠
として,①P1社各事業年度に係るP1社の財務諸表上,従業員に対
する給与は計上されておらず,原告が本件調査において給与を支給され
ている従業員がいないと答えたこと,②派遣契約が文書化されておら
ず,平成17年業務委託契約書の文言が,P1社がP5社に包括的な業
務委託を行っているように読み得ること,③P1社がP5社の電話及
びFAX番号を使用しており,P1社の営業担当者の名刺に記載された
メールアドレスがP5社のものであること,④原告が本件調査におい
て原告がP1社の業務についてP5社に丸投げであると答えたことを挙
げるが,以下のとおり被告の主張する根拠はいずれも誤りである。
aP1社の営業担当者はP5社から人材派遣を受けた者であるから,
P1社において営業担当者の給与は計上されておらず,P1社が直接
給与を支払う従業員は存在しなかった。P1社のような小規模な会社
にとっては,適切な人材を発掘することの困難さやコストの点からみ
れば,人材派遣を受けることが合理的な選択であったためである。P
1社各事業年度においてP1社からP5社に対して支払われていた
「業務委託料」には,従業員の派遣料が含まれており,P1社各事業
年度のうち,平成15年1月から平成17年6月の間は,P6のP1
社従業員としての貢献に報いるため,P1社は,P5社に対し,「人
材派遣料」を通常の「業務委託料」名目の支払に上乗せして支払い,
上乗せ金額の全額がP5社からP6に対して支払われていた。被告
は,この「人材派遣料」がP1社の財務諸表上「sub-contractors'
fee」として計上されていることを理由に,この「人材派遣料」はP
5社がP1社の業務を遂行したことへの対価に相当する部分を別途計
上したにすぎないと主張するが,上記の「人材派遣料」は,P5社ら
P1社に対して「supplymanpower」という名目の人材派遣料として
請求されており,当該「人材派遣料」がP5社からP6にそのまま支
払われた事実を無視するものであり妥当でない。
bP1社各事業年度において,P6及びP8がP5社からP1社に派
遣されていたか否かを,人材派遣に関する契約書が書面化されている
か,平成17年業務委託契約書の文言から営業業務の委託が行われて
いたと読み得るかどうかで判断するのは誤りである。P1社がP5社
に業務委託していたのは周辺事務業務のみであり,営業活動は委託し
ていない。P1社がP5社に委託していた周辺事務業務は,定型的な
営業事務(インボイスや注文書の発行等の事務作業)等であり,かか
る業務は,P5社の業務受託部門の従業員により機械的に処理されて
いたが,P6やP8が従事していた営業活動は,顧客の訪問,取引の
獲得,仕入価格・販売価格の交渉等の営業活動や顧客からのクレーム
処理等を裁量をもって行う業務であるから,業務の性質が異なる。そ
して,「業務処理請負」と「労働者派遣」とは,当該労働者を他人の
指揮命令に服せしめるかどうかの点等で区別されるところ,本件の場
合,周辺事務業務に従事するP5社の従業員は,P5社の中間管理職
や場合によってP5社のマネージングディレクターとしてのP4の指
揮命令に服していたが,委託業務の委託元の取締役である原告による
指揮命令には服さず,あくまでも「業務処理請負」であるのに対し,
P6及びP8は,P1社の営業活動に関し,P5社の指揮命令には服
さず,P1社の取締役としてのP4及び原告の指揮命令に服していた
のであるから,P1社の営業を担当するため,P5社からP1社に人
材派遣されていたものである。
cP1社は,固有の電話及びFAX番号を保有せず,P5社の代表番
号と同一の番号を使用していたが,顧客からP5社の代表番号に架か
ってきた電話は,オペレーターにより適切に営業担当者に転送されて
おり,P1社の営業担当者がP5社のメールアドレスを使用していた
のは,コストや手間を考慮した単なる事務上の便宜のためにすぎず,
顧客らは営業担当者をP5社の従業員ではなく,P1社の営業担当者
として理解していたから,これらの事情は,P1社の営業担当者がP
1社の従業員でなかったことや,P1社がP5社に業務を丸投げして
いたことを示すものではない。
dさらに,被告は,本件調査における聞取り結果の記載をもって,原
告がP1社の業務についてP5社に丸投げであると答えたかのように
主張しているが,原告がそのような発言をしたことはなく,そもそも
主張の前提を欠いている。
エP1社の株主総会がシンガポールにおいてシンガポールの会社法にのっ
とって開催されていたこと,P1社の重要な意思決定がP1社の取締役で
あるP4と原告によって役割分担されながら行われており,業務上の意思
決定の多くはシンガポール在住の取締役であるP4が担っていたこと(し
たがって,原告のシンガポール滞在日数が限定されていても問題ないこ
と),P1社の営業を含む日常業務はP5社内のP1社の事務スペースで
P5社からP1社に派遣されたP6及びP8が遂行していたこと,P1社
の会計帳簿の作成・保管等もシンガポールで行われていたことを併せ考え
れば,P1社は,シンガポール国内で,受注発注形態の小規模の卸売事業
の管理,支配及び運営を自ら行っていたといえ,P1社が,P1社各事業
年度において,管理支配基準を満たしていたことが認められる。
第3争点に対する判断
1措置法40条の4第1項所定の外国子会社合算税制は,いわゆるタックス・
ヘイブン対策税制とも称され,軽課税国(いわゆるタックス・ヘイブン)に所
在する子会社等で我が国の株主により支配されているものに我が国の株主が所
得を留保し,我が国での税負担を不当に軽減することを規制することにより,
課税の実質的な公平を確保することを目的とするものである。外国子会社合算
税制は,我が国での税負担を不当に軽減するという租税回避目的での行為を否
認するものであるから,軽課税国に所在する子会社等が,当該外国に所在する
ことについて十分な経済的合理性が認められる場合には適用されないこととな
り,特定外国子会社等が当該外国に所在することについて十分な経済的合理性
を有しているか否かについて,業種ごとに具体的な基準として明らかにしたも
のが適用除外要件である。本件においては,特定外国子会社等に当たるP1社
が措置法40条の4第4項所定の適用除外要件のうちの実体基準及び管理支配
基準を満たすか否かが争点となっているところ,課税庁の属する被告側がP1
社が上記の各適用除外要件を満たさないことを主張立証する必要がある。
2前提事実,末尾掲記の各証拠,P4の証言及び原告本人尋問の結果並びに弁
論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
(1)P1社の設立経緯
アP2社は,各種ねじ,ボルト,シャフト,マイクロファスナー等の各種
冷間圧造部品を中心とする精密機械部品を製造することを目的として昭和
48年4月2日に原告の父P9により設立された株式会社である。(甲1
3・1頁,乙1)
イ1990年代,主要な顧客であるAV機器,家電,通信機器等の製造業
者が海外,特に,ASEAN諸国に製造拠点を設ける動きが加速したた
め,P2社は,当初は,直接又は当時商社としての活動を中心的に行って
いたP5社を通じて日本からASEAN諸国の日系企業に対して製品を販
売し,何か問題が生じた場合には原告が出張して対応していた。しかしな
がら,P2社の競合相手が次々にシンガポールに販売子会社を設立する
中,中間業者への手数料分だけ割高になっている印象を顧客に与えたり,
顧客に対する機動的な対応ができないという事態を避け,上記の日系企業
との取引を獲得し,拡大していくためには,P2社自身の販売拠点をAS
EAN諸国に設ける必要があった。特に,1990年代半ば,当時VHS
ビデオデッキの部品について世界市場の25%のシェアを有していた株式
会社P10(以下「P10」という。)がマレーシア及びタイ王国(以下
「タイ」という。)に子会社及び工場を有しており,シンガポールにもタ
イ工場向けの購買拠点を設けていたため,P2社としてはどうしてもP1
0との取引を拡大したいと考えていた。
また,P2社は,その頃,タイに合弁子会社であるP3社を設立して工
場を創業することを検討しており,タイ国外でP3社の製品を販売するた
めの販売拠点が必要となることも見込まれていた。
しかしながら,当時,P2社はASEAN諸国の現地事情には疎く,ど
こにどのような販売拠点を設立するのがよいか,設立した販売拠点をどの
ように運営するのがよいか判断する材料や能力を有していなかった。(甲
13・2頁,原告本人調書2頁)
ウ原告は,平成7年頃にP4と知り合い,シンガポールに出張の都度,P
4と面会し,P4に対し,P2社のASEAN諸国内での販売拠点の設置
について相談していた。原告は,法制度,政治的・経済的安定性,地理的
事情から,シンガポールがASEAN諸国への販売拠点として最も優れて
いること,競合他社もシンガポールに販売子会社を設けていたこと,P1
0のタイの子会社P11Ltd.(以下「P11社」という。)がタイ国外
から購入する部品をシンガポールにおいて集中的に購買していたこと,シ
ンガポールであれば,P4及びP4の経営するP5社による様々な支援を
得られることから,シンガポールに販売拠点となる新会社を設立すること
とした。(甲13・3頁,甲15・2,3頁,P4証人調書2頁,原告本
人調書2,3頁)
エ原告は,平成10年から平成11年にかけて,P4に新会社設立につい
ての相談を重ね,P4に対し,新会社の取締役に就任することを要請した
ところ,P4はこれを了承した。その際,原告とP4は,設立する新会社
の経営が軌道に乗るまで,原告及びP4は無報酬で業務に当たることにし
た。(甲13・3頁,甲15・4頁,P4証人調書9,10頁)
オ原告は,その後,P9に対し,P2社の販売拠点となる新会社をシンガ
ポールに設立することを提案したところ,P9は,新会社の設立自体には
賛成したものの,新会社の業務規模が比較的小さいことと,進出に伴うリ
スクについて原告に責任を持たせるために,P2社の子会社としてP2社
が出資するのではなく,原告自身が出資することを条件とした。(甲1
3・3,4頁)
カ原告とP4は,2000年(平成12年)2月3日,それぞれが1SG
Dずつ出資し,1株ずつ取得してP1社を設立した。P4が出資をしたの
は,当時のシンガポール会社法上,会社設立時の株主にシンガポール居住
者が1名以上含まれていることが条件とされていたためであり,同年12
月15日に行われた7798株の増資については,全て原告が引き受け
た。(甲13・4頁,甲15・4頁)
(2)P4及びP5社について
アP4は,1993年(平成5年)10月,1988年(昭和63年)に
設立されたものの当時は休眠状態であったP5社を知人から譲り受け,従
前の勤務先であるP12株式会社(以下「P12社」という。)において
部品調達業務を行っていた経験を生かし,ASEAN諸国において部品を
調達し,日系企業を中心とした商社業務を開始した。その後,P10から
依頼されてシンガポール子会社であるP13PteLtd(以下「P13社」
という。)の設立及びその後の運営の支援を行ったことを契機として,他
の日本企業からASEAN諸国における部品調達や販売を目的とするシン
ガポール子会社の設立やその後の運営支援を依頼されるようになり,部品
調達業務等の商社業務からシンガポールに進出する日系企業の設立及びそ
の後の運営支援業務(オフィススペースの賃貸,周辺事務業務に関するサ
ービス提供)に主軸を移すようになった。(甲15・1,2頁,乙5,
6,P4証人調書2頁)
イP5社が提供する業務サポートサービスには,①オフィススペースの
賃貸,②営業周辺業務の支援,③営業担当者の派遣の3種類がある
が,顧客はその中から必要なサービスを選択することができる。ただし,
P1社各事業年度の当時,①ないし③の各サービスごとの対価は決められ
ておらず,①ないし③の全てのサービスの提供を受ける場合であっても,
その対価は,各サービスごとの対価を積み上げて算定する方式ではなく,
サービス全体について包括的に決定されていた。(甲15・2頁,P4証
人調書30,31頁)
ウP4は,P1社各事業年度において,P1社及びP5社と住所を同じく
する複数の会社(P13社等の少なくとも7法人)の役員を兼務していた
が,それらの会社に対しては,上記イの①ないし③の全てのサービスを提
供していた。ただし,P5社が上記の①ないし③のサービスの提供をして
いる会社であっても,P4は全ての会社について取締役を兼務していたわ
けではなく,P4が取締役を兼務していたのは,P5社がシンガポールで
の法人設立を支援し,周辺事務業務を受託し,P4が会社の事業について
知識を有しているなどの事情により自己が取締役として責任を持てると思
った会社に限られていたが,会社の業績次第で報酬を受け取っている場合
と受け取っていない場合とがあった。(甲15・4頁,同添付資料2,P
4証人調書30,31頁)
(3)P1社の事業規模・取引先
P1社の扱う精密機械部品は,特殊圧造部品や特殊ねじであるため,取引
先となる企業は限定され,汎用性が低く,大量仕入れや量販にはなじまず,
P10のシンガポール子会社であるP13社やP10のマレーシア子会社で
あるP14SdnBhd(Malaysia)(以下「P14社」という。)等の取引先か
ら受注を得て,P2社及びP3社に対して発注し,出来上がった製品を顧客
に納入するという受注発注の形式で行われている。(甲13・4頁,P4証
人調書7頁,原告本人調書1,5頁)
P1社各事業年度におけるP1社の顧客数は10社に満たず,売上高合計
も平成15年12月期が114万SGD余り(平成15年12月期の円/S
GD相場の年平均66.57円で換算すると7588万9800円余り),
平成16年12月期が191万SGD余り(平成16年12月期の円/SG
D相場の年平均64.03円で換算すると1億2229万7300円余
り),平成17年12月期が160万SGD余り(平成17年12月期の円
/SGD相場の年平均66.19円で換算すると1億0590万4000円
余り)であった(甲10ないし12,乙2・和訳12頁,乙3・和訳12枚
目,乙4・和訳11頁,乙47)
(4)P1社とP5社との間の業務委託契約
ア原告及びP4は,P1社の設立時に,P1社とP5社との間で,①オ
フィススペースの賃貸借,②周辺事務業務(経理・総務・営業事務)の
業務委託,③営業担当者の派遣を内容とする業務委託契約を口頭により
締結し,P1社は,P1社各事業年度において,P5社から上記の①ない
し③の各サービスの提供を受けた。(甲13・15,16頁,甲15・1
2~15頁,原告本人調書3,4頁,P4証人調書12~14頁,原告本
人調書3頁)
P5社からP1社に対して提供されるサービスの内容は,平成17年業
務委託契約書の作成の前後を問わず,変更はなかった。(本人調書4頁,
P4調書14頁)。
イP5社に対する業務委託料及び人材派遣料
本件業務委託契約に基づく業務委託料は,2003年(平成15年)1
月から2004年(平成16年)12月までが月額2000SGD,20
05年(平成17年)1月から同年7月までが月額4000SGD,同年
8月から同年12月までが月額5500SGDであった(P1社の財務諸
表上は,「管理費」(administrativecharges)名目で計上されてい
る。)。(甲13・17頁,同添付資料4-1,乙2・和訳19頁,乙
3・和訳19枚目,乙4・和訳22頁)
P1社は,P5社に対し,上記の業務委託料に加えて,2002年
(平成14年)12月に6000SGDを,2003年(平成15年)1
月から2005年(平成17年)6月まで毎月1000SGDを人材派遣
料(supplymanpower)として支払った(P1社の財務諸表上は,「下請
業者費用」(sub-contractors'fee)名目で計上されている。)。(甲1
3・16,17頁,同添付資料4-2,乙2・和訳19頁,乙3・和訳2
0枚目,乙4・和訳23頁,P4証人調書16頁,原告本人調書9頁)。
人材派遣料は,下記(11)ア(ウ)のとおり,P6が営業担当者になってか
らP1社の業績が好転したために,P6に対する賞与又は給与の上乗せ分
の支払を目的とするものであり,P5社からP6に対して同額が支払われ
た。(甲15・15,16頁,P4証人調書16頁,原告本人調書9頁)
ウ原告とP4は,平成17年8月1日,本件業務委託契約の存在及び本件
業務委託契約に基づく業務委託料の金額を明らかにすることを目的とし
て,平成17年業務委託契約書を作成した。平成17年業務委託契約書
は,P5社の全顧客に対して利用可能な定型フォームを利用したものであ
り,次の事項が記載され,P1社を代表して原告が,P5社を代表してP
4が各々署名しているが,本件業務委託契約の内容どおりの条項にはなっ
ていない。(甲13・18頁,甲15・17頁,乙46,P4証人調書1
3頁,原告本人調書4頁)
(ア)契約の目的(序文)
業務管理者(P5社)は,当会社(P1社)にあらゆる種類の財務上,経
営管理上,業務管理上及びその他の営業活動上のサービス及び顧問サー
ビスを提供することを望んでいる。
P1社は,以下に含まれる契約条件に従って以下に記載するサービス
を提供する業務管理者を指定することを望んでいる。
よって,ここに両当事者は以下のとおり相互に合意した。
(イ)契約の対価(第1条)
P1社がP5社に対して毎月5500SGD(物品・サービス税を除
く。)の月次報酬又は本契約の両当事者が合意するその他の料金を支払
うことを考慮して,P5社はP1社に対して,本契約の第3条に更に詳
細に記載されている業務管理サービスを提供するものとする。
(ウ)契約期間(第2条)
本業務委託契約は,2005年(平成17年)8月1日に発効し,本契
約の第7条の規定に従って別段に終了されない限り,また終了されるま
で,存続するものとする。
(エ)サービスの内容(第3条)
本業務委託契約の存続期間中,P5社はP1社に対して以下のサービ
スを履行し提供するものとする。
aP1社により要求されることのある又はP1社の事業にとって必要
とみなされる全ての財務上のサービス及び顧問サービス。
bP1社により要求されることのある又はP1社の事業にとって必要
とみなされる全ての経営管理上,業務上及びその他の営業活動上のサ
ービス。
c相互に合意する全てのその他の経営管理及び顧問サービス。
(オ)上述の業務運営サービス以外のサービス(第4条)
P1社により要求される場合,別途の相互に合意する報酬を前提条件
として,P5社は上述の業務運営サービス以外のサービスを提供するこ
とができる。
エP5社は,新しい建物に本社及びオフィススペースを移転した際,P5
社が支払うべき賃借料が大幅に上昇したため,レンタルオフィススペース
の賃貸料を増額する必要があり,今後もP5社が支払う賃借料が増額され
た場合には,レンタルオフィススペースの賃貸料を増額することにより対
応できるよう,顧客との間でレンタルオフィススペースの賃貸料を独立し
て定めることとし,平成19年7月1日,P1社との間で,本件業務委託
契約について,平成19年業務委託契約書を作成した。平成19年業務委
託契約書には,次の事項が記載され,P1社を代表して原告が,P5社を
代表してP4が,各々署名しているが,本件業務委託契約の内容どおりの
条項にはなっていない。(乙53,P4証人調書14,15頁,原告本人
調書17頁)
(ア)契約の目的(序文)
平成17年業務委託契約書と同様である。
(イ)契約の対価(第1条)
P1社がP5社に対して毎月5500SGD(物品・サービス税を除
く。)の月次報酬及び毎月500SGD(物品・サービス税を除く。)の
建物内の一画の賃借料,又は本契約の両当事者が合意するその他の料金
の支払を対価として,P5社はP1社に対して,本契約の第3条に更に
詳細に記載されている業務管理サービスを提供するものとする。
(ウ)契約期間(第2条)
本業務管理契約は,2007年(平成19年)7月1日に発効し,本契
約の第7条の規定に従って別段に終了されない限り,また終了されるま
で,存続するものとする。
(エ)サービスの内容(第3条)
平成17年業務委託契約書と同様である。
(オ)上述の業務運営サービス以外のサービス(第4条)
平成17年業務委託契約書と同様である。
(5)P1社のオフィススペース
アP1社は,P5社が賃借するビルのレンタルオフィス内の机1台分のオ
フィススペース(机,椅子,棚,固定電話を含む。)に,P1社が所有す
るパソコン1台及びモデムを設置していた(甲4,甲13・6頁,甲1
4・3頁,同添付資料1,2,甲15・12,13頁,同添付資料11,
乙7,P4証人調書4,5頁,原告本人調書5頁)。
この机1台分のスペースは,2002年(平成14年)後半から200
5年(平成17年)6月末まではP6が,同年6月から2006年(平成
18年)6月まではP8が,P1社の営業活動を行うために使用してい
た。(甲13・6,9頁,甲15・13頁,P4証人調書5頁,原告本人
調書6頁)
イP1社のオフィススペースと同じフロアには,P4の専用の執務室があ
り,この執務スペースは,P5社の業務やP4が取締役を兼務する会社の
業務のほか,P1社の職務の遂行のためにも使用されていた。(甲5,甲
13・6,7頁,甲14添付資料2,甲15・12,13頁,P4証人調
書4,6,23頁,原告本人調書・7頁)
ウP5社のレンタルオフィスの顧客であるP1社には,共用スペースとし
て会議室が提供されており,原告やP1社の営業担当者は,来客があった
際にはこの会議室を利用していた(甲13・7頁,甲14・4頁,同添付
資料2,P4証人調書6頁,原告本人調書7頁)
エP1社各事業年度において,P5社のオフィスの入口には,P1社の看
板が掲げられていた。なお,看板の設置には費用が掛かるため,P5社
は,周辺事務業務の委託又はオフィススペースの賃借をしている会社の中
で希望する会社についてのみ看板を設置している。(甲6,甲13・7
頁,甲14・4頁,同添付資料3,甲15・13頁,P4証人調書6,7
頁,原告本人調書6頁)
(6)P1社の取扱製品の保管場所
P1社は,受注発注の取引であるため,滞留在庫を抱えることは稀である
が,製品が到着してから各顧客に出荷するまでの数日から1週間程度は,P
1社が製品を保管し,製品及び顧客ごとに随時入荷又は出荷をする必要があ
ることや,欠陥のある製品が返品された場合にそれらを保管する必要がある
ことから,P7と契約し,P7のシンガポール国内にある倉庫内にP1社が
取り扱う精密機械部品の保管場所を確保し,必要なスペースを賃借してい
た。(甲13・7,8頁,同添付資料1-1から1-3,3-1から3-
3)
(7)P1社の帳簿書類の保管場所
P1社は,シンガポールの法令・規則・基準に従った会計帳簿を作成し,
新しい帳簿書類については,P1社が経理事務及び営業事務を委託していた
P5社のオフィススペース内のP1社用の棚に保管し,古い帳簿書類につい
ては,P7の書類保管庫内に保管していた。(甲9の1ないし3,甲13・
7頁,甲14・4頁,同添付資料2,甲15・12頁,P4証人調書6頁,
原告本人調書7頁)
(8)P1社の株主総会
アシンガポール会社法及びP1社の定款の定め
シンガポール会社法上,株主総会決議には,普通決議と特別決議とがあ
り,普通決議については出席株主の議決権総数の過半数の賛成を,また,
特別決議については出席株主の議決権総数の4分の3の賛成を要するもの
とされている。(乙52)
イP1社の株主総会の状況
P1社は,2004年(平成16年)6月30日,2005年(平成1
7年)6月30日,2006年(平成18年)6月30日,いずれもシン
ガポール国内において株主総会を開催し,P4はいずれの株主総会にも出
席したが,原告は,2004年6月30日及び2005年6月30日には
シンガポールに滞在しておらず,電話で参加するか,事前にP4に一任し
ていた。(甲15・10,11頁,乙44,51の4,5,P4証人調書
12頁,原告本人調書13頁)
(9)原告及びP4の間の権限分配
ア原告とP4は,P1社設立当初から,それぞれの居住地や専門性を考慮
して,取締役として役割分担することを合意したが,2011年(平成2
3年)3月まで,職務分掌・権限規程を作成したことはなかった。(甲1
3・10,11頁,甲15・6頁,P4証人調書8頁)
イP4は,シンガポールに在住し,シンガポールの現地事情や経済動向に
精通していることから,P1社がシンガポールの法令・規制を遵守するた
めに必要な各種届出や税務申告を行い,必要に応じて税務当局や監査法人
と交渉していた。
また,P4は,P1社の経理や銀行取引及び為替管理を含む資金管理を
行い,米ドル口座,日本円口座,SGD口座の各残高を把握しつつ,各種
の支払をチェックして承認し,為替相場を見て米ドルを日本円に交換する
よう指示を出したりしていたが,通常の銀行取引については,無制限の権
限を有していた。P4は,実際に,下記(10)オ(イ)のとおり,本件増資の
引受けの可否について,1600万円を上限額とし,かつ,P1社の資金
繰りの都合上,支払時期を1か月遅らせるよう指示した。(甲13・11
頁,甲15・7頁,P4証人調書9頁,原告本人調書9,10頁)
さらに,P4は,シンガポール国内におけるP1社の新規顧客の開拓を
役割としており,実際に,P1社の大口取引先であるP13社,P14社
等の複数の顧客を獲得した。(甲13・11頁,甲15・8頁,P4証人
調書24頁)
P4は,上記のほか,取締役の決定や株主総会の開催等のシンガポール
会社法及びP1社の定款上必要な行為については,P1社から総務事務を
受託していたP5社の担当者に指示してカンパニーセクレタリー会社に依
頼して財務諸表・事業報告の承認や株主総会の準備・招集に必要な書類を
作成させたり,営業担当者に対する指揮監督を行い,日常的な営業活動や
顧客からのクレーム対応,売掛債権の督促・回収などの日常業務を執行し
ていた。(甲13・11頁,甲15・8,10頁)
ウ原告は,日本に居住し,P1社各事業年度において,P1社の取扱製品
を製造しているP2社の取締役でもあったことから,主としてシンガポー
ル国外における新規顧客を開拓し,シンガポールに滞在中は,P4や営業
担当者が開拓したシンガポール国内の顧客に対して挨拶をして営業活動を
支援し,営業担当者から連絡を受けて,P2社及びその関連会社であるP
3社との間で,どの工場が顧客に対する見積りをすべきか,製品に欠陥が
あった場合の処理費用の負担をどうするか等の事項について協議,交渉及
び連絡をし,取引先からの重大なクレームを受けた場合には,営業担当者
と共に現場に出向いて謝罪する等の対応を行っていた。(甲13・12
頁,甲15・8,9頁,乙40ないし43,原告本人調書10頁)。
なお,原告は,P1社各事業年度において,P1社平成15年12月期
は合計24日,P1社平成16年12月期は合計10日,P1社平成17
年12月期は合計12日,シンガポールに滞在していた。(乙44)
エ原告とP4は,2011年(平成23年)3月,職務分掌・権限規程を
作成した。職務分掌・権限規程によれば,居住取締役の分掌事項は,①
シンガポールの法令の遵守の確保,②シンガポールにおける納税及び税
務当局との交渉,③事業計画案及び予算案の作成・検討,予算の実行及
びその監督,④人事に関する決定及び承認,⑤従業員の指揮,命令及
び監督,⑥監査法人との交渉及び対応,⑦銀行取引,⑧日常業務の
執行,⑨総務,経理,営業事務に係る業務の外部委託に関する協議・交
渉,⑩シンガポール国内における新規顧客の開拓,⑪シンガポール国
内における経済情勢,市場動向,取引環境の調査,分析及び報告とされ,
非居住取締役の分掌事項は,①シンガポール国外における新規顧客の開
拓,②P1社及びその関連会社との協議,交渉及び連絡業務,③顧客
からの重要なクレームへの対応,④事業計画案及び予算案の作成・検討
とされている。(甲7)
(10)P1社の重要事項の決定
アP1社の定款の定め
P1社附属定款(ARTICLESOFASSOCIATIONOFP1PTELTD)75条は,
シンガポールの会社法により株主総会で決議することが要請されている事
項以外については,全て取締役が決定する権限を有する旨定めている。
(甲19)
シンガポール会社法上,取締役による会議の招集手続等に関する規定は
設けられておらず,P1社附属定款81条は,取締役は,会社の運営に関
して会議を開催することができるとしているものの,会議の開催自体は義
務付けておらず,会議をどのように規律するかについても取締役の裁量に
委ねている。
書面決議とは,会議の開催に代えて書面による意思表示により決議を行
ったとみなすものであり,P1社附属定款92条においても,会社の取締
役の過半数が署名した書面による決議は,その決議が正当に招集され開催
された取締役の会議で可決されたのと同様に有効であるものとし,このよ
うな決議はなんであれ,1人又はそれ以上の取締役によりそれぞれ署名さ
れた同様な形式のいくつかの文書類から構成することができる旨規定され
ている。(甲19)
イ取締役による書面決議
P1社各事業年度において,平成16年3月4日及び平成17年5月1
2日に,監査会計書類の承認,株主総会の招集・開催に関して取締役2名
が決定した旨の各取締役の決議書,同年7月27日にP2社に対する投資
(本件増資の引受け)を承認する旨の各取締役の決議書が作成されてい
る。なお,これらの書面作成日のうち,原告がシンガポールに滞在してい
たのは,平成16年3月4日のみである。(乙44,乙51の1ないし
3)
ウP1社においては,経営に重大な影響を及ぼし得る事項や多額の投資を
行う場合には,原告及びP4が協議して決定することとしていた。経営に
重大な影響を及ぼし得る事項としては,重大なクレーム処理に際して顧客
との間でP1社が大きな損失を被るような合意をする場合や,大口の取引
先の獲得が考えられるが,P1社各事業年度においては,上記のような経
営に重大な影響を及ぼし得る事項は発生しなかった。
なお,P1社が行う投資として考えられるのは,関連会社であるP2社
及びP3社が行う増資の引受けをするか否かである。(甲13・13頁,
P4証人調書10,11頁,原告本人調書20頁)
エ原告は,平成16年10月末頃,P4に対し,P3社の行う増資を引き
受けることが可能であるかどうか,可能であるとしてその金額はいくらか
を相談したが,最終的に,P2社が増資を引き受けることとなり,P1社
は増資を引き受けなかった。(甲13・13頁,同添付資料5,甲15・
9,10頁,P4証人調書11,26頁,原告本人調書10,11,14
頁)
オ(ア)原告は,平成17年初め頃,P2社から,資金繰りが悪化したこと
を理由としてP1社が本件増資の引き受けることが可能かどうか打診さ
れた。原告は,同年3月頃,シンガポールに出張した際,P1社の資金
繰りやシンガポールの法令・規則等の関係での問題の有無を確認するた
め,P4に対して相談したところ,P4は,シンガポールの法令・規則
上は問題はないが,株式の券面額で増資を引き受けることについては,
日本の税法上の問題がないかどうかを確認する必要がある旨指摘した。
原告は,P2社の部長に対して確認したところ,税法上の問題はない旨
の回答を得たが,その後しばらく,P2社から正式な依頼はなかった。
(甲13・13頁,P4証人調書11,12,27~29頁,原告本人
調書11,15,18頁)
(イ)原告は,平成17年7月頃,P2社からP1社が本件増資の引受け
をするよう正式に依頼されたため,P4に対して,P1社が本件増資を
引き受けることが可能か,可能であるとしてその金額はいくらかについ
て尋ねた。P4は,本件増資の引受けは法令上の問題がないが,引受可
能な上限金額は1600万円であり,資金繰りの関係から,同年8月以
降に支払時期が到来するよう引受けの時期を変更するよう指示を受け
た。(甲13・13,14頁,原告本人調書11,12,14,15
頁)
(ウ)P2社は,平成17年7月14日,取締役会を開催し,増資株式数
を3万2000株,1株当たりの価額を500円とし,P1社のみを引
受人とする第三者割当増資(本件増資)を行うことを全会一致で可決し,
その後,臨時株主総会を開催し,本件増資を行う旨の特別決議を行っ
た。当該取締役会及び臨時株主総会には原告も出席し,臨時株主総会で
は賛成の決議に加わった。(乙8,56)
(エ)P2社は,平成17年7月25日,P1社がP2社に対し当該株式
を引き受けるための株式申込証を作成した。(乙57,本人調書16頁)
(オ)P1社の取締役である原告及びP4は,2005年(平成17年)
7月27日付けのP2社に対する投資を承認する旨の取締役決定書を作
成した。(乙51の3)
(カ)P1社は,平成17年7月27日,P15銀行P16支店に対し
て,上記株式の取得に係る1600万円の送金を依頼した。(乙9の1)
(キ)本件増資により,P2社の発行済株式総数は5万2000株とな
り,P1社が本件増資により3万2000株を取得したため,P2社の
発行済株式総数の50%超を保有する筆頭株主となった。(乙1)
(11)P1社の日常業務
ア営業活動
(ア)P1社は,小規模な卸売業であることからくるコスト面での制約や
適切な人材を自前で発掘することが困難であることから,営業担当者を
直接雇用することはせず,P5社から派遣を受けることとした。P1社
は,受注発注の卸売業であるため,顧客の新製品の製造や既存製品のモ
デルチェンジの機会を捉えて,P2社やP3社から見積りを取って顧客
に提示することにより,新規取引の獲得や取引の拡大を目指していた。
営業担当者の業務の中心は,取引先の管理,情報収集,新規取引拡大の
ための見積りの提案,クレーム処理などであった。営業担当者は,P4
から全般的な監督を受け,原告からP2社やP3社の会社の概要や製品
に関する技術的な事項について直接指導を受けていたが,P1社の利益
率を10%以上確保する限り,P2社やP3社からいくらで仕入れ,顧
客にいくらで売るかについての裁量権を有していた。(甲13・5,
6,9,14頁,甲14・5~7頁,甲15・14頁,原告本人調書
5,8,9頁)
なお,営業担当者は,P1社の業務に支障のない範囲において他の業
務を行うことを禁じられていなかったため,人材派遣料はかなり低額に
抑えられていたが,営業担当者がP5社の業務受託部門(パーチェスグ
ループやアカウンティンググループ)の担当者を兼務したことはなく,
例えば,P6は,顧客からP1社宛ての発注について,注文書の作成や
P2社等への発注などの作業をしたことはなく,また,営業業務の内容
について,P5社の中間管理職に対し報告等をしていたことはなく,指
揮監督を受けたこともない。(甲13・9頁,甲14・6頁,甲15・
14頁,P4証人調書33頁)
また,派遣先ごとのメールアドレスを取得するのは煩雑であったた
め,P5社から派遣された従業員は,「○」のメールアドレスを使用し
ていたが,P6らの営業担当者が使用していた名刺には,P1社のロゴ
が記載されていた。(甲8,甲14・7頁,甲15・15頁)
(イ)P1社各事業年度におけるP1社の営業業務は,前記のとおり,2
002年(平成14年)後半から2005年(平成17年)6月末まで
はP6が,同年6月から2006年(平成18年)6月まではP8がそ
れぞれP5社から派遣されて担当していた。これらの営業担当者に対す
る指揮監督は,P4及び原告が行っていた。(甲15・8,14頁,P
4証人調書16頁)
(ウ)P6は,1999年(平成11年)にP5社に入社した当初から2年
半ほどの間は商社業務を担当するグループで韓国関連業務のみを担当し
た。その後,2002年(平成14年)後半からP1社の営業事務も同時
に担当するようになったが,2005年(平成17年)6月にP5社を
退社した。P6は,平均すればP1社の仕事に6ないし7割,P5社の
韓国関連の仕事に3ないし4割程度の時間を割いており,韓国関連の仕
事の報告・相談についてはP5社のマネージャーに対して行っていた。
なお,P6は,P1社が賃借していたオフィススペースにおいて,P
5社の韓国関連の仕事とP1社の営業事務の両方を行っていた。(甲1
4・2,3,10頁,同添付資料1,2,P4証人調書29頁)
P6は,原告に対して取扱製品の構造や特徴等について質問するなど
熱心に勉強し,営業活動も優れており,P1社の売上げ増加に貢献した
ため,原告は,P4と相談の上,P6に対する賞与に充てるため,20
02年(平成14年)12月には,P1社からP5社に対して,人材派
遣料(supplymanpower)の名目で6000SGDを支払い,P5社は
同額をP6に対して支払った。2003年(平成15年)1月から20
05年(平成17年)6月までの間も,P1社からP5社に対し,上記
の人材派遣料の名目で毎月1000SGDを従前の業務委託料に上乗せ
して支払い,P5社がP6に対し,同額を給与に上乗せして支払った。
(甲13・9,10頁,同添付資料4-1,4-2)
(エ)P6の後任であるP8は,P5社の取締役社長であるP4の秘書業
務とP1社の営業事務を兼務していたが,P6と同様に,P1社の営業
活動,クレーム処理,顧客対応全般を担当した。(甲13・15頁,P
4調書33頁)
イ周辺事務業務
P1社は,本件業務委託契約に基づき,注文書の作成や請求書の作成等
の営業事務,会計帳簿類の作成事務,総務事務をP5社に委託しており,
受発注関連の営業事務はP5社のパーチェスグループが,決裁事務,経理
処理等はP5社のアカウンティンググループが,各部門の管理職であるマ
ネージャーの指揮監督を受けて受託業務として上記の各業務を担当してい
た。(甲13・16頁,甲15・11頁,P4証人調書15,33頁)
(12)P1社の経理の状況
ア人件費
P1社は,P1社各事業年度において,役員報酬及び従業員の給与を計
上していない。(乙2・和訳19,20頁,乙3・和訳19,20枚目,
乙4・和訳22,23頁)
イ賃借料
P1社各事業年度において,P1社は事務所等を賃借するための賃借料
を計上していない。(乙2・和訳19,20頁,乙3・和訳19,20枚
目,乙4・和訳22,23頁)
3争点(1)(実体基準の充足の有無)について
(1)措置法40条の4第4項柱書きは,特定外国子会社等が,その本店又は
主たる事務所の所在する国又は地域において,その主たる事業を行うに必要
と認められる事務所,店舗,工場その他の固定施設を有していること(実体
基準)を適用除外要件としているところ,適用除外要件として実体基準が規
定されたのは,我が国に所在する親会社等から独立した企業として実体を備
えているというためには,主たる事業を行うために必要と認められる事務
所,店舗その他の固定施設を有している必要があるとの考え方に基づくもの
であり,実体基準は,物的な側面から独立企業としての必要条件を明らかに
したものである。
上記のとおり,実体基準が物的な側面から独立企業としての実体があるか
どうかを判断する基準であるとすれば,固定施設を有しているというために
は,特定外国子会社等が賃借権等の正当な権原に基づき固定施設を使用して
いれば足り,固定施設を自ら所有している必要はないものと解される。ま
た,実体基準を満たすために必要な固定施設の規模は,特定外国子会社等の
行う主たる事業の業種や形態により異なると考えられるため,特定外国子会
社等が使用している固定施設が必要な規模を満たしているか否かについて
は,特定外国子会社等の行う主たる事業の業種や形態に応じて判断されるべ
きである。
(2)ア前記2(5)のとおり,P1社は,P5社が賃借するビルのレンタルオフ
ィススペースのうちの机1台分のスペース(机,椅子,棚,固定電話を含
む。)をその営業活動のために使用し,P4はP5社の専用の執務室にお
いてP1社の取締役としての業務を行い,原告やP6ら営業担当者は,必
要に応じてP5社の会議室を利用していたことが認められる。
イこの点,被告は,平成17年業務委託契約書において,オフィススペー
スの賃貸に関する条項が設けられておらず,P1社の会計帳簿上も,P5
社に対する賃借料名目の支払がなく,P5社に対する支払は全て業務委託
料とされていることを根拠として,P1社はP5社のレンタルオフィスス
ペースを賃借していなかった旨主張する。
しかしながら,前記2(4)ウ及びエのとおり,オフィススペースの賃貸
に関する条項は,平成17年業務委託契約書には設けられておらず,平成
19年業務委託契約書において初めて設けられたものであるが,本件業務
委託契約の内容は,P1社の設立後からP1社各事業年度までの間,さら
には,平成19年業務委託契約書の作成の前後を通じても変更がなかった
ことがうかがえるところ,本件業務委託契約は口頭で契約が締結され,平
成17年業務委託契約書は,P1社とP5社との間の本件業務委託契約が
成立してから5年程度経過後に作成されたものであり,前記2(4)ウのと
おり,その書式は,P5社と取引のあるどの会社にも使用できるよう定型
の書式を用いたものであることが認められ,契約書作成の目的は本件業務
委託契約の内容を正確に反映させることにはなかったものと認められるこ
と,平成19年業務委託契約書の作成時には,前記2(4)エのとおり,P
5社の建物の賃借料が高騰したことに対応するために,レンタルオフィス
スペースの賃貸料を上記の建物の賃借料に連動させることができるように
する必要があったものと認められることに照らすと,前記2(4)ウ及びエ
のとおり,平成17年業務委託契約書及び平成19年業務委託契約書は,
必ずしも本件業務委託契約の内容そのものが正確に記載されたものではな
い可能性が高い。また,前記2(2)ア及びイのとおり,P5社が本件業務
委託契約締結当時,シンガポールにおいて子会社等を設立する日系企業等
への業務サポートサービスの提供を始めてそれほど間もないころであっ
て,各サービスの対価を定めた上で積上げ方式で業務委託報酬を算定する
方式にしていなかったことが認められるから,オフィススペースの賃借料
は,業務委託報酬に含めて支払われていたものと認められる。したがっ
て,この点に関する被告の主張を採用することはできない。
ウまた,被告は,P6ら営業担当者は,P5社から派遣されてP1社の業
務を行っていたのではなく,P5社の受託業務を行っていたにすぎない旨
主張する。
しかしながら,上記イのとおり,平成17年業務委託契約書は,本件業
務委託契約の内容を正確に反映させることを目的として作成されたもので
はないから,営業担当者の派遣に関する事項が平成17年業務委託契約書
に存在しないことは,営業担当者が派遣されていなかったことを推認させ
る事実とはいえない。むしろ,前記2(11)ア(ア)のとおり,営業担当者
は,P4及び原告から指揮監督を受けることはあっても,P5社の中間管
理職に対する報告等は義務付けられておらず,指揮監督も受けていなかっ
たことが認められるから,P1社の営業活動をP5社の業務としてではな
く,P1社の業務として行っていたものと認めるのが相当である(この
点,被告は,P1社の営業担当者の使用していたオフィススペースとP5
社のマネージャーの配置関係から,P6ら営業担当者がP5社のマネージ
ャーによる指揮監督を受けていた旨主張するが,単なる推測の域を出るも
のではなく採用することはできない。)。また,前記2(4)イ及び(11)ア
(ウ)のとおり,P6がP1社の営業担当者であった間は,P6のP1社の
業績好転への貢献に報いるために,P6に対する賞与又は増額された給与
の原資にするために,P1社からP5社に対する業務委託報酬が増額され
て支払われていることも,人材派遣であることを強く推認させるというべ
きである。したがって,前記2(11)アのとおり,P6ら営業担当者は,P
5社から派遣されてP1社の営業活動を行っていたものと認められ,この
認定に反する被告の主張を採用することはできない。
エ前記2(6)及び(7)のとおり,P1社は,取扱製品を保管するため,P7
に必要なスペースを賃借し,会計帳簿類は新しいものはP5社の周辺業務
を行う担当部署に保管し,古いものはP7に保管していたことが認められ
る。
なお,P1社がP7から倉庫を賃借していたか否かについて,被告が指
摘するとおり,甲第3号証の添付資料1-1ないし1-3の請求書写しの
重量及び寸法欄は,空欄か零という記載がされており,その理由は不明で
あるが,同添付資料によれば,P7は,P1社に対し,倉庫料と入出庫費
用を請求していることがうかがえ,同添付資料が架空のものとは認められ
ず,倉庫の賃借に関する契約書が作成されていないとしても,P1社はP
7から倉庫スペースを賃借していないという被告の主張を採用することは
できない。
(3)前記2(3)のとおり,P1社の扱う精密機械部品は,特殊圧造部品や特殊
ねじであるため,取引先となる企業は限定され,大量仕入れや量販にはなじ
まず,P13社やP14社等の取引先から受注を得て,P2社及びP3社に
対して発注し,出来上がった製品を顧客に納入するという受注発注の形態で
行われており,取引先となる企業数が10社程度に限られ,売上高合計も日
本円に換算すると,約7600万円から1億2000万円程度であったこと
が認められる。
以上のようなP1社が小規模な卸売業であることに照らすと,必要となる
事務所の規模は小さくて足り,受注発注という形態からすると,シンガポー
ルにおいて取扱製品を保管する必要がほとんどないものと考えられる。
したがって,P1社が使用していたP5社のレンタルオフィススペース及
びP4の専用執務室,P7の倉庫スペースは事務所及び倉庫としては必要な
規模と考えられ,P1社は主たる事業である精密機械部品等の卸売業を行う
ために十分な固定施設を有していたものと認められ,実体基準を満たしてい
るものと認められる。
4争点(2)(管理支配基準の充足の有無)について
(1)措置法40条の4第4項柱書きは,特定外国子会社等が,その本店又は
主たる事務所の所在する国又は地域において,その事業の管理,支配及び運
営を自ら行っていること(管理支配基準)を適用除外要件としているとこ
ろ,適用除外要件として管理支配基準が規定されたのは,我が国に所在する
親会社等から独立した企業として実体を備えているというためには,事業の
管理,支配及び運営という機能面から見て独立性を有している必要があると
の考え方に基づくものであり,管理支配基準は,機能的な側面から独立企業
としての必要条件を明らかにしたものである。
上記のとおり,管理支配基準が機能的な側面から独立企業としての実体が
あるかどうかを判断する基準であるとすれば,前提として,事業を行うため
に必要な常勤役員及び従業員が存在していることが必要であり,かつ,特定
外国子会社等の業務執行に関する意思決定及びその決定に基づく具体的な業
務の執行が親会社等から独立して行われていると認められるか否かについて
は,特定外国子会社等の株主総会及び取締役会の開催,役員としての職務執
行,会計帳簿の作成及び保管等が行われている場所等を総合的に勘案するこ
とが必要である。
(2)ア前記2(2)ウ及び(11)ア(ウ)のとおり,P1社には,シンガポールに在
住する取締役であるP4及びP6ら営業担当者が存在する。
イこの点,被告は,P1社には常勤役員が存在しない旨主張し,その根拠
として,P4が,P5社のマネージングディレクター(役員)であり,他
に7社の法人の役員を兼務しており,P1社からP1社各事業年度におい
て役員報酬を受領していないことを挙げる。
確かに,前記2(12)のとおり,P1社各事業年度において,P4は,P
1社から役員報酬を受領していないことが認められるところ,前記2(1)
エのとおり,原告とP4は,P1社設立時にP1社の経営が軌道に乗るま
で無報酬で業務に当たる旨合意しており,実際に,原告自身もP1社各事
業年度において役員報酬を受領していないことが認められる。また,前記
2(2)ウのとおり,P4は,P1社各事業年度において,P1社以外に7
社の法人の役員を兼務していたことが認められるところ,P4が役員に就
任するか否かは,単にP5社が業務サポートサービスを提供している取引
先であるということのみならず,P4自身が当該法人の事業内容について
知識を有している等の事情により自己が取締役に就任しても責任を持てる
と考えた法人に限られ,兼務していた法人の業務成績いかんにより役員報
酬をもらっていない法人もあったことが認められるから,P5社がP1社
から業務委託を受けておりその報酬が得られることのみをもってP4がP
1社の取締役に名目的に就任したものと推認することはできない。さら
に,前記2(9)イのとおり,P4は,シンガポール在住取締役として,P
1社が法令・規制を遵守するために必要な各種届出等や税務申告を行い,
P1社の経理及び銀行取引及び為替管理を含む資金管理,営業担当者に対
する指揮監督,売掛債権の督促・回収等の業務を行っていたものと認めら
れるから,P1社がその本店を置くシンガポールに取締役を置いていなか
ったものということはできない。
ウまた,被告は,P1社には,従業員が存在しない旨主張するところ,P
6ら営業担当者は,P1社が直接雇用するものではなく,上記3(2)ウの
とおり,P5社から派遣を受けてP1社の営業業務を行っていたものと認
められるが,特定外国子会社等が親会社等から独立して自ら事業を管理,
支配しているといえるためには,居住取締役の指揮監督を受けて実際に日
常業務を行う従業員が存在すれば足り,当該従業員について特定外国子会
社等自らが直接雇用していることまでは必要ではなく,親会社等以外の第
三者から従業員の派遣を受けている場合を含むと解すべきである。前記2
(11)アのとおり,P6ら営業担当者は,P5社の中間管理職による指揮監
督ではなく,P4又は原告による指揮監督を受けていたものであり,P4
による指揮監督はP5社のマネージングディレクターとしてではなく,P
1社の取締役としてされたものと推認するのが相当である。
エしたがって,P1社に居住取締役及び従業員が存在しない旨の被告の主
張を採用することはできない。
(3)前記2(8)イのとおり,P1社各事業年度において,P1社の株主総会は
シンガポールにおいて開催されたものと認められる。
この点,被告は,原告がP1社の発行済株式総数の99.9%を保有し,
シンガポール会社法の定めによれば,P1社の意思決定権を原告が掌握して
いるから,株主総会による意思決定は,原告の所在する場所で行われていた
と解すべきである旨主張する。
前記2(8)アのとおり,シンガポール会社法上は,株式会社の株主総会決
議には普通決議と特別決議との2種類が存在し,原告の保有株式数は,普通
決議及び特別決議のどちらにおいてもその帰趨を決するに足りる割合である
ことが認められるが,前記2(8)イのとおり,P1社各事業年度において
は,株主総会の招集及び開催は,シンガポールにおいて行われており,P4
は株主として株主総会に参加していることが認められるところ,招集及び開
催手続がシンガポールにおいて行われ,株主2名のうちの1名が実際にシン
ガポールで参加し,その旨の株主総会議事録も作成されているのであるか
ら,P1社の株主総会は,その本社が所在するシンガポールにおいて開催さ
れたものと認められる。被告の主張は,P1社の大株主である原告の所在地
を過度に重視し,大株主の所在地と株主総会の開催地とを混同するものであ
って採用することができない。
(4)前記2(10)ウのとおり,P1社にとって経営に重大な影響を及ぼし得る
事項としては,重大なクレーム処理に際して顧客との間でP1社が大きな損
失を被るような合意をする場合や,大口の取引先の獲得が考えられるが,P
1社各事業年度においては,上記のような経営に重大な影響を及ぼし得る事
項は発生せず,P1社が行う投資として検討されたのは,関連会社であるP
2社及びP3社が行う増資の引受けをするか否かであったところ,前記2
(10)エのとおり,P3社が行う増資については,最終的にはP1社が引き受
けなかったものの,その可否について原告とP4が相談していたこと,前記
2(10)オのとおり,P2社の行う本件増資の引受けの可否については,原告
とP4が相談し,P1社の資金繰りの事情により,引受けの総額及び引受け
の時期が決定されたことが認められる。
この点,被告は,原告がP4に相談せずに本件増資の引受けの可否を決定
し,仮に原告がP4に相談していたとしても,P4もP1社の重要事項につ
いて意思決定していたとみるのは適当ではない旨主張する。しかしながら,
原告がP1社の大株主であることからすれば,原告の意向を無視することは
できないと考えられるものの,P1社の取締役は原告とP4の2名であり,
前記2(9)のとおり,それぞれの役割分担や権限分配を決め,実際にそのと
おりに役割や権限を分担・分配しながらP1社の経営に当たり,P4が分担
する事項については裁量権を有していたものと認められるから,P1社の重
要事項について,専ら原告のみが意思決定していたものと推認することはで
きない。被告の主張は,単なる推測の域を出るものではなく,採用すること
はできない。
(5)前記2(9)イのとおり,P4は,シンガポールのカンパニーセクレタリー
会社に指示してP1社の会計帳簿書類を作成させ,前記2(7)のとおり,そ
れらの会計帳簿等は,新しいものはP5社に,古いものはP7において保管
されていたことが認められるところ,上記の指示は,P4のP1社の取締役
としての権限に基づいてされたものと認められる。
(6)以上に加えて,前記3のとおり,P1社がその事業を行うために必要な
固定施設を有していたことを考慮すると,P1社においては,経営上重要な
事項に関する意思決定及び会計帳簿書類の作成・保管を含む日常的な業務の
遂行は,いずれもP1社の取締役であるP4及びP6ら営業担当者により行
われていたことが認められるから,P1社はその本店所在地国であるシンガ
ポールにおいて,独立した法人としてその事業の管理・支配及び運営を自ら
行っていたものと認められる。
5本件各更正処分の適法性について
以上によれば,P1社は,措置法40条の4第4項の適用除外要件を全て満
たすことになり,原告の本件各係争年分の雑所得の金額には,P1社の課税対
象留保金額を含める必要がないこととなるから,原告の本件各係争年分の納付
すべき税額は,別紙4「原告の納付すべき税額等」の(1)ないし(3)のとおり,
平成16年分については12万2000円,平成17年分については30万9
200円,平成18年分については20万1100円であったと認められ,こ
れらの金額は,別表2ないし4の「更正処分等」の「納付すべき税額」欄記載
の本件各更正処分における本件各係争年分の納付すべき税額を下回るから,本
件各更正処分は,上記の本件各係争年分の納付すべき税額を上回る部分につい
ていずれも違法であり取消しを免れない。
なお,訴状の請求の趣旨第1項には,原告の平成16年分の総所得金額12
14万4000円を超える部分の取消しを求める旨の記載があるところ,別紙
4の(1)アのとおり,原告の平成16年分の総所得金額は1214万4218
円と認められ,同年分の納付すべき税額は12万2000円であって,上記請
求の趣旨第1項記載の税額と同一であることからすると,原告は総所得金額に
ついても上記金額を超える部分について取消しを求める趣旨であって,121
4万4000円を超え1214万4218円を下回る部分について取消しを求
める趣旨ではないと解されるため,請求の趣旨第1項の上記の記載は誤記と認
める。
6本件各賦課決定処分の適法性について
過少申告加算税は,過少申告による納税義務違反の事実がある場合に科され
るものであるところ,原告がした本件各係争年分に係る確定申告(平成17年
分については修正申告)における申告納税額は,上記5の本件各係争年分の納
付すべき税額と同額であるから,原告には過少申告による納税義務違反の事実
は認められないことになる。したがって,本件各賦課決定処分はその前提を欠
くものであって,いずれも違法であり取消しを免れない。
第4結論
よって,原告の請求はいずれも理由があるからこれらを認容することとし,
訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用し
て,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官川神裕
裁判官内野俊夫
裁判官日暮直子
(別紙1)
関係法令の定め
1措置法(平成18年法律第10号による改正前のもの。)
(1)居住者に係る特定外国子会社等の留保金額の総収入金額算入(40条の
4第1項)
次に掲げる居住者に係る外国関係会社のうち,本店又は主たる事務所の所
在する国又は地域におけるその所得に対して課される税の負担が本邦におけ
る法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令
で定める外国関係会社に該当するもの(以下この款において「特定外国子会
社等」という。)が,昭和53年4月1日以後に開始する各事業年度(2条2
項19号に規定する事業年度をいう。以下この条において同じ。)におい
て,その未処分所得の金額から留保したものとして,政令で定めるところに
より,当該未処分所得の金額につき当該未処分所得の金額に係る税額及び利
益の配当又は剰余金の分配の額に関する調整を加えた金額(以下この条にお
いて「適用対象留保金額」という。)を有する場合には,その適用対象留保
金額のうちその者の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式
等に対応するものとしてその株式等(株式又は出資をいう。以下この項及び
次項において同じ。)の請求権(利益の配当,剰余金の分配,財産の分配その
他の経済的な利益の給付を請求する権利をいう。以下この項において同
じ。)の内容を勘案して政令で定めるところにより計算した金額(次条におい
て「課税対象留保金額」という。)に相当する金額は,その者の雑所得に係
る収入金額とみなして当該各事業年度終了の日の翌日から2月を経過する日
の属する年分のその者の雑所得の金額の計算上,総収入金額に算入する。
ア1号
その有する外国関係会社の直接及び間接保有の株式等(請求権のない株
式等又は実質的に請求権がないと認められる株式等(以下この号及び次項
において「請求権のない株式等」という。)に係るものを除く。次号にお
いて同じ。)の当該外国関係会社の発行済株式の総数又は出資金額(請求権
のない株式等及び当該外国関係会社が有する自己の株式等を除く。次号に
おいて「発行済株式等」という。)のうちに占める割合が100分の5以
上である居住者
イ2号(略)
(2)外国関係会社及び未処分所得の金額の定義(40条の4第2項)
前項及びこの項において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定
めるところによる。
ア1号
外国関係会社外国法人で,その発行済株式の総数又は出資金額(その
有する自己の株式等を除く。)のうちに居住者及び内国法人並びに居住者
又は内国法人と政令で定める特殊の関係のある非居住者(以下この号にお
いて「特殊関係非居住者」という。)が有し,並びに特定信託(法人税法2
条29号の3に規定する特定信託をいう。以下この項において同じ。)の
受託者である法人が当該特定信託の信託財産として有する直接及び間接保
有の株式等の合計数又は合計額の占める割合(括弧内省略)が100分の5
0を超えるものをいう。
(ア)イないしハ(略)
イ2号
未処分所得の金額特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得
の金額につき,法人税法及びこの法律による各事業年度の所得の金額の計
算に準ずるものとして政令で定める基準により計算した金額を基礎として
攻令で定めるところにより当該各事業年度開始の日前7年以内に開始した
各事業年度において生じた欠損の金額に係る調整を加えた金額をいう。
ウ3号及び4号(略)
(3)適用対象留保金額の計算の特例(40条の4第3項)
1項各号に掲げる居住者に係る特定外国子会社等(株式(出資を含む。)若
しくは債券の保有,工業所有権その他の技術に関する権利,特別の技術によ
る生産方式若しくはこれらに準ずるもの(これらの権利に関する使用権を含
む。)若しくは著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含
む。)の提供又は船舶若しくは航空機の貸付けを主たる事業とするものを除
く。)がその本店又は主たる事務所の所在する国又は地域においてその主た
る事業を行うに必要と認められる事務所,店舗,工場その他の固定施設を有
し,かつ,その事業の管理,支配及び運営を自ら行っているものである場合
(次項において「固定施設を有するものである場合」という。)における1項
の規定の適用については,同項中「調整を加えた金額」とあるのは,「調整
を加えた金額から当該特定外国子会社等の事業に従事する者の人件費として
政令で定める費用の額の100分の10に相当する金額を控除した金額」と
する。
(4)適用除外となる特定外国子会社等の範囲(40条の4第4項)
1項及び前項の規定は,1項各号に掲げる居住者に係る前項に規定する特
定外国子会社等がその本店又は主たる事務所の所在する国又は地域において
固定施設を有するものである場合であって,各事業年度においてその行う主
たる事業が次の各号に掲げる事業のいずれに該当するかに応じ当該各号に定
める場合に該当するときは,当該特定外国子会社等のその該当する事業年度
に係る適用対象留保金額については,適用しない。
1号及び2号(略)
(5)適用除外要件を満たす場合の手続要件(40条の4第6項)
1項各号に掲げる居住者が3項又は4項の規定の適用を受ける場合は,そ
の者は,確定申告書にこれらの規定の適用がある旨を記載した書面を添付
し,かつ,その適用があることを明らかにする書類その他の資料を保存しな
ければならない。
2租税特別措置法施行令(平成18年政令第135号による改正前のもの。)
(1)特定外国子会社等の範囲(25条の19第1項)
法40条の4第1項に規定する政令で定める外国関係会社は,次に掲げる
ものとする。
ア1号
法人の所得に対して課される税が存在しない国又は地域に本店又は主た
る事務所を有する外国関係会社(法40条の4第2項1号に規定する外国
関係会社をいう。以下この節において同じ。)
イ2号
その各事業年度(法2条2項19号に規定する事業年度をいう。以下こ
の節において同じ。)の所得に対して課される租税の額が当該所得の金額
の100分の25以下である外国関係会社
(2)特定外国子会社等の未処分所得の金額の計算(25条の20第1項)
法第40条の4第2項2号に規定する政令で定める基準により計算した
金額は,同条1項に規定する特定外国子会社等(以下この節において「特定
外国子会社等」という。)の各事業年度の決算に基づく所得の金額に係る3
9条の15第1項1号に掲げる金額及び同項2号に掲げる金額の合計額か
ら当該所得の金額に係る同項3号に掲げる金額を控除した残額(括弧内省
略)とする。
(3)定義(25条の20第4項)
前項及びこの項において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に
定めるところによる。
ア1号
配当可能金額特定外国子会社等の各事業年度の法40条の4第2項2
号に規定する未処分所得の金額(括弧内省略)から次に掲げる金額の合計額
を控除した残額(括弧内省略)をいう。
(ア)イ
当該各事業年度において納付をすることとなる法人所得税の額(括弧
内省略)
(イ)ロ
当該各事業年度の利益又は剰余金の処分により支出される金額(法人
所得税の額及び利益の配当又は剰余金の分配の額を除く。)
(ウ)ハ
当該各事業年度の費用として支出された金額(法人所得税の額及び利
益の配当又は剰余金の分配の額を除く。)のうち1項若しくは2項の規
定により所得の金額の計算上損金の額に算入されなかったため又は同項
の規定により所得の金額に加算されたため当該各事業年度の法40条の
4第2項2号に規定する未処分所得の金額に含まれた金額
イ2号ないし4号(略)
(4)39条の15第1項
法66条の6第2項2号に規定する政令で定める基準により計算した金額
は,同条1項に規定する特定外国子会社等(以下この節において「特定外国
子会社等」という。)の各事業年度の決算に基づく所得の金額に係る1号に
掲げる金額及び2号に掲げる金額の合計額から当該所得の金額に係る3号に
掲げる金額を控除した残額(括弧内省略)とする。
ア1号
当該各事業年度の決算に基づく所得の金額につき,法人税法2編1章1
節2款から8款まで(同法23条,26条,28条,38条から41条ま
で,57条から59条まで及び61条の11から61条の13までを除
く。)の規定並びに法43条,45条の2,52条の2,57条の5,5
7条の6,57条の8,57条の9,61条の4,65条の7から65条
の9まで(法65条の7第1項の表の24号に係る部分に限る。),66条
の4第3項,67条の12及び67条の13の規定(以下この号において
「本邦法令の規定」という。)の例に準じて計算した場合に算出される所
得の金額又は欠損の金額(括弧内省略)
イ2号
当該各事業年度において納付する法人所得税(本店所在地国若しくは本
店所在地国以外の国若しくは地域又はこれらの国若しくは地域の地方公共
団体により法人の所得を課税標準として課される税(これらの国若しくは
地域又はこれらの国若しくは地域の地方公共団体により課される法人税法
施行令141条2項各号に掲げる税を含む。)及びこれに附帯して課され
る法人税法2条45号に規定する附帯税(利子税を除く。)に相当する税そ
の他当該附帯税に相当する税に類する税をいう。以下4項1号までにおい
て同じ。)の額
ウ3号
当該各事業年度において還付を受ける法人所得税の額
(5)居住者に係る特定外国子会社等の課税対象留保金額の計算等(25条の
21第1項)
法40条の4第1項の未処分所得の金額につき当該未処分所得の金額に
係る税額及び利益の配当又は剰余金の分配の額に関する調整を加えた金額
は,特定外国子会社等の各事業年度の同条2項2号に規定する未処分所得
の金額(以下この項において「未処分所得の金額」という。)から次に掲げ
る金額の合計額を控除した残額(括弧内省略)とする。
ア1号
当該各事業年度において納付をすることとなる法人所得税の額(括弧内
省略)
イ2号
当該各事業年度に係る利益の配当又は剰余金の分配の額(括弧内省略)
イないしニ(略)
(6)25条の21第2項
法40条の4第1項に規定する政令で定めるところにより計算した金額
は,同項各号に掲げる居住者に係る特定外国子会社等の各事業年度の同項
に規定する適用対象留保金額から当該各事業年度の前条4項1号ロ及びハ
に掲げる金額の合計額を控除した残額(以下この項において「調整適用対
象留保金額」という。)に,当該特定外国子会社等の当該各事業年度終了
の時における発行済株式等のうちに当該各事業年度終了の時におけるその
者の有する当該特定外国子会社等の請求権勘案保有株式等の占める割合を
乗じて計算した金額(括弧内省略)とする。
1号及び2号(略)
(別紙2)
本件各更正処分の根拠及び適法性
1本件各更正処分の根拠について
被告が本訴において主張する原告の本件各係争年分の納付すべき税額等は,
次のとおりである。
(1)平成16年分
ア総所得金額1542万1643円
上記金額は,次の(ア)ないし(ウ)の各金額の合計額である。
(ア)配当所得の金額15万円
上記金額は,原告が平成17年3月3日に甲府税務署長に提出した平
成16年分の所得税の確定申告書(以下「平成16年分確定申告書」と
いう。)に記載された配当所得の金額と同額である。
(イ)給与所得の金額1199万4218円
上記金額は,次のaの金額からbの金額を控除した後の金額である。
a給与等の収入金額1441万4967円
上記金額は,原告の平成16年分確定申告書に記載された給与等の
収入金額と同額である。
b給与所得控除額242万0749円
上記金額は,所得税法(平成16年分については平成16年法律第
14号による改正前のもの,平成17年分及び平成18年分について
は平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)28条
3項5号の規定に基づき,aの金額から1000万円を控除した後の
金額に100分の5の割合を乗じた金額と220万円の合計額であ
る。
(ウ)雑所得の金額327万7425円
上記金額は,P1社平成15年12月期の措置法40条の4第1項所
定の課税対象留保金額に相当する金額であり,同項の規定に基づき,原
告の雑所得の総収入金額に算入すべき金額である。
なお,P1社の上記課税対象留保金額の算定については,後記2(1)
のとおりである。
イ所得控除の額の合計額255万3466円
上記金額は,原告の平成16年分確定申告書に記載された所得控除の額
の合計額と同額である。
ウ課税総所得金額1286万8000円
上記金額は,前記アの総所得金額1542万1643円から前記イの所
得控除の額の合計額255万3466円を控除した後の金額(国税通則法
(平成16年分については平成16年法律第14号による改正前のもの,
平成17年分及び平成18年分については平成18年法律第10号による
改正前のものをいう。)118条1項の規定により1000円未満の端数
を切り捨てた後のもの。以下同じ。)である。
エ納付すべき税額111万2900円
上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)ないし(オ)の各金額を控除した後の
金額(通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた
後のもの。以下同じ。)である。
(ア)課税総所得金額に対する税額263万0400円
上記金額は,前記ウの課税総所得金額1286万8000円に所得税
法89条1項所定の税率(経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき
所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律(平成16年分について
は平成16年法律第14号による改正前のもの,平成17年分について
は平成17年法律第21号による改正前のもの,平成18年分について
は平成18年法律第10号による改正前のものをいい,以下「負担軽減
措置法」と総称する。)4条の特例を適用したもの。以下同じ。)を乗じ
た金額である。
(イ)配当控除の額7500円
上記金額は,所得税法92条1項3号イの規定に基づき,前記ア(ア)
の配当所得の金額15万円に100分の5の割合を乗じた金額である。
(ウ)住宅借入金等特別控除の額36万0700円
上記金額は,原告の平成16年分確定申告書に記載された住宅借入金
等特別控除の額と同額である。
(エ)定率減税額25万円
上記金額は,負担軽減措置法6条2項の規定により算出した金額であ
り,原告の平成16年分確定申告書に記載された定率減税額と同額であ
る。
(オ)源泉徴収税額89万9216円
上記金額は,原告の平成16年分確定申告書に記載された源泉徴収税
額と同額である。
(2)平成17年分
ア総所得金額2810万9362円
上記金額は,次の(ア)ないし(エ)の各金額の合計額である。
(ア)不動産所得の金額21万円
上記金額は,原告が平成18年3月6日に甲府税務署長に提出した平
成17年分の所得税の確定申告書に添付された平成17年分不動産使用
料等支払調書に記載されたP2社を支払者とする地代の「支払金額」欄
に記載された金額である。
(イ)配当所得の金額30万円
上記金額は,原告が平成18年4月17日に甲府税務署長に提出した
平成17年分の所得税の修正申告書(以下「平成17年分修正申告書」
という。)に記載された配当所得の金額と同額である。
(ウ)給与所得の金額1316万7598円
上記金額は,原告の平成17年分修正申告書に記載された給与所得の
金額と同額である。
(エ)雑所得の金額1443万1764円
上記金額は,P1社平成16年12月期の措置法40条の4第1項所
定の課税対象留保金額に相当する金額であり,同項の規定に基づき,原
告の雑所得の総収入金額に算入すべき金額である。
なお,P1社の上記課税対象留保金額の算定については,後記2(2)
のとおりである。
イ所得控除の額の合計額290万1749円
上記金額は,原告の平成17年分修正申告書に記載された所得控除の額
の合計額と同額である。
ウ課税総所得金額2520万7000円
上記金額は,前記アの総所得金額2810万9362円から前記イの所
得控除の額の合計額290万1749円を控除した後の金額である。
エ納付すべき税額514万3200円
上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)ないし(オ)の各金額を控除した後の
金額である。
(ア)課税総所得金額に対する税額683万6590円
上記金額は,前記ウの課税総所得金額2520万7000円に所得税
法89条1項所定の税率を乗じた金額である。
(イ)配当控除の額1万5000円
上記金額は,所得税法92条1項3号イの規定により算出した金額で
あり,原告の平成17年分修正申告書に記載された配当控除の額と同額
である。
(ウ)住宅借入金等特別控除の額30万2100円
上記金額は,原告の平成17年分修正申告書に記載された住宅借入金
等特別控除の額と同額である。
(エ)定率減税額25万円
上記金額は,負担軽減措置法6条2項の規定により算出した金額であ
り,原告の平成17年分修正申告書に記載された定率減税額と同額であ
る。
(オ)源泉徴収税額112万6200円
上記金額は,原告の平成17年分修正申告書に記載された源泉徴収税
額と同額である。
(3)平成18年分
ア総所得金額1億5272万5508円
上記金額は,次の(ア)ないし(エ)の各金額の合計額である。
(ア)不動産所得の金額32万円
上記金額は,原告が平成19年2月22日に甲府税務署長に提出した
平成18年分の所得税の確定申告書(以下「平成18年分確定申告書」
という。)に記載された不動産所得の金額と同額である。
(イ)配当所得の金額10万円
上記金額は,原告の平成18年分確定申告書に記載された配当所得の
金額と同額である。
(ウ)給与所得の金額1118万6750円
上記金額は,原告の平成18年分確定申告書に記載された給与所得の
金額と同額である。
(エ)雑所得の金額1億4111万8758円
上記金額は,P1社平成17年12月期の措置法40条の4第1項所
定の課税対象留保金額に相当する金額であり,同項の規定に基づき,原
告の雑所得の総収入金額に算入すべき金額である。
なお,P1社の上記課税対象留保金額の算定については,後記2(3)
のとおりである。
イ所得控除の額の合計額311万3695円
上記金額は,原告の平成18年分確定申告書に記載された所得控除の額
の合計額と同額である。
ウ課税総所得金額1億4961万1000円
上記金額は,前記アの総所得金額1億5272万5508円から前記イ
の所得控除の額の合計額311万3695円を控除した後の金額である。
エ納付すべき税額5172万1400円
上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)ないし(カ)の各金額を控除した後の
金額である。
(ア)課税総所得金額に対する税額5286万6070円
上記金額は,前記ウの課税総所得金額1億4961万1000円に所
得税法89条1項所定の税率を乗じた金額である。
(イ)配当控除の額5000円
上記金額は,所得税法92条1項3号イの規定に基づき,前記ア(イ)
の配当所得の金額10万円に100分の5の割合を乗じた金額である。
(ウ)住宅借入金等特別控除の額0円
原告は,平成18年分の合計所得金額(前記アの総所得金額と同額の
1億5272万5508円)が3千万円を超えるため,措置法41条1
項の規定に基づき,住宅借入金等特別控除の適用はない。
したがって,上記金額は,零円となる。
(エ)定率減税額12万5000円
上記金額は,負担軽減措置法6条2項の規定に基づき12万5000
円となる。
なお,前記(ア)の金額5286万6070円から前記(イ)の金額500
0円を差し引いた後の金額に100分の10の割合を乗じた金額が52
8万6107円であるところ,同金額は,12万5000円を超えるこ
とから,負担軽減措置法6条2項の規定に基づき,同項所定の限度額で
ある12万5000円となる。
(オ)源泉徴収税額76万7200円
上記金額は,原告の平成18年分確定申告書に記載された源泉徴収税
額と同額である。
(カ)予定納税額24万7400円
上記金額は,原告の平成18年分確定申告書に記載された予定納税額
(第1期分及び第2期分の合計額)と同額である。
2P1社の課税対象留保金額の算定
原告の雑所得の総収入金額に算入される課税対象留保金額に相当する金額
は,適用対象留保金額のうち,原告の有するP1社の直接及び間接保有の株式
等に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額である(措置
法40条の4第1項柱書き)。
(1)平成16年分
アP1社の適用対象留保金額の算定
P1社の適用対象留保金額は,措置法施行令39条の15第1項及び同
25条の21第1項の各規定に基づき,P1社平成15年12月期の決算
書上の未処分所得の金額(乙第2号証7枚目),交際費等の損金不算入額
(交際費(乙第2号証16枚目)の100分の20に相当する金額(平成15
年法律第8号による改正前の措置法61条の4第1項1号))及び当期にお
いて納付する法人所得税の額(乙第2号証7枚目)の合計額から,当期にお
いて納付をすることとなる法人所得税の額(乙第2号証7枚目)を差し引い
た後の金額であり,別表6(⑥欄)のとおり,5万2753シンガポールド
ル(以下,この通貨名を「SGD」という。)となる。
イP1社の課税対象留保金額の算定
P1社の課税対象留保金額は,措置法施行令25条の21第2項,25
条の20第4項3号の規定に基づき,前記アのP1社の適用対象留保金額
から当期の費用として支出された金額のうち所得の金額の計算上損金の額
に算入されなかった金額(P1社の場合,交際費等の損金不算入額)を控除
した後の金額に,P1社の発行済株式のうちに原告が有する直接保有の株
式の占める割合を乗じた金額であり,別表6(⑨欄)のとおり,5万095
5SGDとなる。
そして,租税特別措置法関係通達(平成16年分及び平成17年分につ
いては平17課法2-14による改正前のもの,平成18年分については
平19課法2-3による改正前のものをいい,以下「措置法通達」と総称
する。)66の6-13(現行措置法通達66の6-14。以下同じ。)の
定めに則して,上記金額を平成16年2月末の対顧客電信売買相場の仲値
(以下「TTM」という。乙第16号証)によって円換算すると,課税対象
留保金額は,別表6(⑪欄)のとおり,327万7425円となり,同金額
が原告の平成16年分の雑所得の総収入金額に算入すべき金額となる。
(2)平成17年分
アP1社の適用対象留保金額の算定
P1社の適用対象留保金額は,措置法施行令39条の15第1項及び同
令25条の21第1項の各規定に基づき,P1社平成16年12月期の決
算書上の未処分所得の金額(乙第3号証7枚目),交際費等の損金不算入額
(交際費(乙第3号証16枚目)の100分の10に相当する金額(平成18
年法律第10号による改正前の措置法61条の4第1項1号))及び当期に
おいて納付する法人所得税の額(乙第3号証7枚目)の合計額から,当期に
おいて納付をすることとなる法人所得税の額(乙第10号証)を差し引いた
後の金額であり,別表6(⑥欄)のとおり,22万5243.8SGDとな
る。
イP1社の課税対象留保金額の算定
P1社の課税対象留保金額は,措置法施行令25条の21第2項,25
条の20第4項3号の規定に基づき,前記アのP1社の適用対象留保金額
から当期の費用として支出された金額のうち所得の金額の計算上損金の額
に算入されなかった金額(P1社の場合,交際費等の損金不算入額)を控除
した後の金額に,P1社の発行済株式のうちに原告が有する直接保有の株
式の占める割合を乗じた金額であり,別表6(⑨欄)のとおり,22万42
35SGDとなる。
そして,措置法通達66の6-13の定めに則して,上記金額を平成1
7年2月末のTTM(乙第17号証)によって円換算すると,課税対象留保
金額は,別表6(⑪欄)のとおり,1443万1764円となり,同金額が
原告の平成17年分の雑所得の総収入金額に算入すべき金額となる。
(3)平成18年分
アP1社の適用対象留保金額の算定
P1社は,P2社の新株3万2000株を1株当たり500円で引き受
け,本件払込期日までに,1600万円を払い込んだ。後記ウ(ア)のとお
り,当該新株の発行価額は法人税法施行令(平成18年政令第125号に
よる改正前のもの。以下同じ。)119条1項3号に規定する有利な発行
価額に該当し,当該新株の払込期日における価額と払込金額との差額は,
法人税法22条2項に定めるP1社の益金の額を構成することから,当該
差額は,措置法施行令39条の15第1項1号の規定により,P1社の適
用対象留保金額に加算されることとなる。
したがって,P1社の適用対象留保金額は,措置法施行令39条の15
第1項及び同令25条の21第1項の各規定に基づき,P1社平成17年
12月期の決算書上の未処分所得の金額(乙第4号証7枚目),交際費の損
金不算入額(交際費(乙第4号証19枚目)の100分の10に相当する金
額(平成18年法律第10号による改正前の措置法61条の4第1項1
号)),当期において納付する法人所得税の額(乙第4号証7枚目)及び後記
ウで算定した本件増資により益金に加算する額の合計額から,当期におい
て納付をすることとなる法人所得税の額(乙第11号証)を差し引いた後の
金額であり,別表6(⑥欄)のとおり,197万1118SGDとなる。
イP1社の課税対象留保金額
P1社の課税対象留保金額は,措置法施行令25条の21第2項,25
条の20第4項1号ハの規定に基づき,前記アのP1社の適用対象留保金
額から当期の費用として支出された金額のうち所得の金額の計算上損金の
額に算入されなかった金額(P1社の場合,交際費等の損金不算入額)を控
除した後の金額に,P1社の発行済株式のうちに原告が有する直接保有の
株式の占める割合を乗じた金額であり,別表6(⑨欄)のとおり,197万
0382SGDとなる。
そして,措置法通達66の6-14の定めに則して,上記金額を平成1
8年2月末のTTM(乙第18号証)によって円換算すると,課税対象留保
金額は,別表6(⑪欄)のとおり,1億4111万8758円となり,同金
額が原告の雑所得の総収入金額に算入すべき金額となる。
ウ本件増資により益金に加算する額の算定方法について
(ア)新株の有利発行における当該株式の適正な価額と取得価額の差額が益
金を構成すること
法人税法22条2項は,内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上
当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを
除き,資産の販売,有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供,無
償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該
事業年度の収益の額とすると規定している。
この規定(法人税法22条2項)は,益金を取引に係る収益として観念
しているが,このことは,法人税法も,所得税法と同様に,原則として
実現した利益のみが所得であるという考え方を採用し,未実現の利益を
課税の対象から除外していることを意味する。しかし,実現した利益は
原則としてすべて益金に含まれる,というのがこの規定の趣旨であり,
その意味で,法人税法においても所得概念は包括的に構成されていると
解すべきである。したがって,取引によって生じた収益は,営業取引に
よるものか営業外取引によるものか,合法なものか不法なものか,有効
なものか無効なものか,金銭の形態をとっているかその他の経済的利益
の形態をとっているか等の別なく,益金を構成すると解すべきである。
したがって,新株の有利発行によって引受人が利益を受けた以上,そ
の利益の額も益金を構成するというべきであり,ここにいう新株の引受
人の受けた利益とは,株式を適正な価額より低い価額で引き受けた場合
の,当該適正な価額と取得価額の差額であり,その差額が益金に算入さ
れる金額というべきである。
よって,P1社が本件増資により適正な価額より低い価額で新株を引
き受けたと認められる場合においては,適正な価額と取得価額との差額
は益金を構成するというべきである。
(イ)発行された有価証券の価額が「適正な価額より低い価額」に当たるか
否かの判定方法
法人税法上,株式引受けに係る取得利益の算定に関する規定は存在し
ないものの,株式譲渡損益を計算する場合の計算方法(法人税法61条
の2第10項,法人税法施行令119条1項3号参照)は,適正な価額
と譲渡価額との差額が益金ないしは損金を構成する場合の株式譲渡損益
の計算方法について定めたものであり,譲渡損益についてのものか取得
利益についてのものかの違いはあるものの,株式の授受という外形では
なく,その実質に着目して損益を算出するという基本的な考え方が共通
するものであるから,株式引受けに係る取得利益の算定に当たっては,
株式譲渡損益を算出する場合の計算方法に関する規定を準用するのが合
理的であり,実務としてもそれが定着している。
したがって,本件増資に係る新株の発行価額が「適正な価額より低い
価額」に該当するか否かは,株式譲渡損益に計算に関する規定である法
人税法61条の2第10項,同項の規定を受けた法人税法施行令119
条1項3号,及び法人税基本通達(平17課法2-14による改正前の
ものをいう。以下同じ。)の定めるところに従って判断されるべきであ
る。
よって,発行された有価証券の価額が「適正な価額より低い価額」に
該当するか否かは,上記通達にいう「有利な発行価額」に該当すると認
められるか否かにより判定されるべきである。
そして,「有利な発行価額」に該当するか否かは,当該新株の発行価
額を決定する日前1月間の平均株価等,発行価額を決定するための基礎
として相当と認められる価額を基礎として算定された,発行価額を決定
する日の現況における「当該株式の価額」と発行価額の差額が,「当該
株式の価額」のおおむね10%相当額以上であるかどうかにより判定さ
れる(法人税基本通達2-3-7注(1)及び(2))。
(ウ)有価証券の価額の算定方法
発行価額を決定する日の現況における「当該株式の価額」を算定する
方法を定めた明文の規定はないものの,法人税基本通達2-3-9で
は,旧株,新株ともに上場していない株式の価額について,「その新株
又は出資の払込期日において当該新株につき9-1-13及び9-1-
14(括弧内省略)に準じて合理的に計算される当該払込期日の価額」と
定めていることから,発行価額を決定する日の現況における「当該株式
の価額」の算定も,法人税基本通達9-1-13及び9-1-14に準
じて算出するのが相当である。
法人税基本通達9-1-13は,売買実例のあるもの(同通達(1)),
公開途上にある株式で,当該株式の上場又は登録に際して株式の公募又
は売出しが行われるもの(同通達(2)),類似する他の法人の株式の価額
があるもの(同通達(3))についての株式の価額について定め,同通達(4)
において,同通達(1)ないし(3)に該当しない場合には,当該事業年度終
了の日又は同日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終
了の時における1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると
認められる価額による旨を定めている。
また,法人税基本通達9-1-14は,法人が,非上場株式について
上記の「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認めら
れる価額」を算定するに当たって,財産評価基本通達(平18課評2-
27外による改正前のものをいい,以下「評価通達」という。)の定め
る非上場株式の評価方法の例によって算定した価額によっているとき
は,課税上の弊害がない限り,同通達(1)ないし(3)によることを条件と
してこれを認めるとしている。
法人税基本通達9-1-14の趣旨は,相続税,贈与税及び地価税に
共通の財産評価に関する基本通達である評価通達の定める非上揚株式の
評価方法を,原則として法人税課税においても是認することを明らかに
するとともに,この評価方法を無条件で法人税課税において採用するこ
とには疑問なしとはしないことから,1株当たりの純資産価額の計算に
当たって株式の発行会社の有する土地を相続税路線価ではなく時価で評
価するなどの条件を付して採用することとしたものである。
そして,同通達本文において「課税上弊害がない限り」と規定されて
いるように,評価通達の例により気配相場のない株式の評価を行うこと
を容認する本通達の取扱いは,飽くまでも課税上の弊害がない場合に限
定されている。
エ発行価額を決定する日の現況におけるP2社発行の新株の価額について
P1社はP2社の議決権総数の61.5%を有する(P2社の発行済株
式総数5万2000株(乙第1号証)のうち,本件増資においてP1社の取
得した新株は3万2000株である(乙第8号証)。)ため,法人税基本通
達9-1-14(1)所定の「中心的な同族会社」に該当する。その結果,
P2社発行の新株の価額については,P2社は常に評価通達178に定め
る「小会社」に該当するものとして,評価通達179に従い,同社の純資
産価額により算定することとなる。
P2社の純資産価額を算定するに当たっては,P2社が新株の発行価額
を決定した平成17年7月14日(乙第8号証)に最も近接した時期である
P2社の平成17年3月期の決算書(乙第21号証)に基づいて算定するの
が合理的である。
(ア)P2社が保有するP3社への出資金の評価額の算定
P2社は,P3社の議決権総数の50%を有するため(乙第13号証
9枚目),法人税基本通達9-1-14(1)所定の「中心的な同族会社」
に該当する。その結果,P3社発行の株式の価額については,P3社は
常に評価通達178に定める「小会社」に該当するものとして,評価通
達179に従い,同社の純資産価額により算定することとなる。
そこで,P3社株式の1株当たりの価額については,本件払込期日で
ある平成17年8月8日を評価時点とし,評価通達185に則した純資
産価額を基に算定すべきところ,本件払込期日の直近の決算は,平成1
6年12月31日時点のものである。しかしながら,前記第4の3(1)
のとおり,同社は決算の約2か月後である平成17年3月に資本金を2
倍に増資していることから,同社への出資金の評価に当たって,同社の
平成16年12月31日時点の純資産価額(別表7(③欄)乙第13号証
3及び4枚目)をそのまま用いることは,本件払込期日における純資産
価額から著しく乖離することとなる。そこで,平成16年12月31日
時点の純資産価額に当該増資による資産増加額(別表7(④欄)乙第13
号証14枚目)を加えたものを本件払込期日の純資産価額とすべきであ
る。このようにして算定した金額を本件払込期日である平成17年8月
8日の対顧客電信買相場(以下「TTB」という。)(乙第22号証)によ
り邦貨換算すると,別表7(⑨欄)のとおり,8501万3293円とな
る。
(イ)P2社が保有するP17社への出資金の評価額の算定
P2社が保有するP17社の株式は,非上場株式であり,気配相場や
独立当事者間の適当な売買実例がなく,その公開の途上にあるわけでも
なく,同社と事業の種類や収益の状況等において類似する法人もないこ
とから,同社の株式の価額は,本件払込期日である平成17年8月8日
に最も近い日における同社の純資産価額等を参酌して通常取引されると
認められる価額によって算出されることとなる。
そこで,法人税基本通達9-1-14の定めにより,課税上弊害が
ない限り,評価通達によってP17社の株式の価額を算定することと
なる。
a評価通達188-2によりP17社の株式の価額を算定すべきこと
別表5(乙第14号証5枚目)のとおり,P17社の議決権割合の5
8.41%を有するP18株式会社(以下「P18」という。)は,総
議決権の30%以上を保有する株主であることから,評価通達188
(1)に定めるP17社の「同族株主」に該当する。そして,P2社
は,P17社の総議決権の1.16%を有する株主であることから,
同通達に定める「同族株主のいる会社の株主のうち,同族株主以外の
株主」に該当するため,P2社のP17社への出資金の評価は,評価
通達188-2の定めにより配当還元方式によって評価することとな
る。
b評価通達188-2によりP17社の株式の価額を算定することに
課税上の弊害がないこと
同通達が,同族株主以外の少数株主が取得した株式の評価を配当還
元方式によることとしているのは,事業経営への影響の少ない同族株
主の一部及び従業員株主などのような少数株主が取得した株式につい
ては,これらの株主は単に配当を期待するにとどまるという実質のほ
か,評価手続きの簡便性をも考慮したためである。P2社がP17社
の議決権割合のわずか1.16%しか保有しておらず,P17社の事
業経営へ及ぼす影響はさほど大きくはないと考えられること,及び評
価手続の簡便性を考慮すると,P2社の有するP17社の株式の価値
を算定する際にも,上記通達の趣旨が妥当するといえる。
また,配当還元方式を適用することが法人税の課税において課税上
の弊害が生じるような特段の事情は認められない。
cそうすると,P2社によるP17社への出資金の評価に当たって
は,評価通達の定めるところにより,配当還元方式で評価することが
最も合理的であり,これにより算定した金額は,別表8(⑧欄)のとお
り,258万1520円となる(乙第24号証参照)。
(ウ)P2社に生ずる借地権の評価額の算定
借地権の評価については,自用地としての価額に,国税局長の定める
割合を乗じて計算した金額によって評価することとされている(評価通
達27)。
そして,自用地としての価額は,固定資産税評価額に,国税局長の定
める倍率を乗じて計算した金額によって評価することとされている(評
価通達11,21,21-2)。
P2社が賃借している土地は別表9記載の各土地(以下「本件各土
地」という。)であり,その所在地及び固定資産税評価額等は同表のと
おりである(乙第25号証)。
自用地としての価額を算定するに当たって用いられる,国税局長の定
める倍率は,平成17年分財産評価基準書「評価倍率表(神奈川県・山
梨県)」(以下「平成17年分財産評価基準書」という。)264ページ
(乙第26号証)記載の1.1倍である。
そして,P2社は,本件各土地に関して平成19年6月25日に土地
の無償返還に関する届出書を朝霞税務署長に提出した(乙第27号証)こ
とから,「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続
税及び贈与税の取扱いについて」(昭和60年6月5日課資2-58・
乙第28号証)の「8」により,「相当の地代を収受している貸宅地の
評価について」(昭和43年10月28日直資3-22・乙第29号証)
の「相当の地代を収受している」を「土地の無償返還に関する届出書の
提出されている」と読み替えた上で,同通達に即して,「自用地として
の価額」「の20%に相当する金額」を上記借地権の評価額とすべきこ
ととなる。
以上を前提として,本件各土地の固定資産評価額に1.1を乗じて算
出された計数に20%の割合を乗じた結果,本件各土地の借地権につい
ての評価額は,別表9(合計(借地権評価額)欄)のとおり,1290万9
091円となる。
なお,α×-1及びα×-2所在の土地については,現況が宅地であ
ることから,これらの土地の価額は,評価通達82を準用し,近傍宅地
(α××)における1平方メートル当たりの評価額(乙第30号証「備
考」欄)にこれらの土地の面積を乗じて計算した金額となる。
(エ)P2社が保有する建物及び建物附属設備の評価額の算定
P2社保有の建物及び建物附属設備の評価額は,評価通達89に則し
て,平成17年1月1日現在のP2社の建物等に係る固定資産税評価額
6568万4733円(乙第31号証)に同通達の別表1記載の倍率1.
0を乗じた結果,6568万4733円となる。
(オ)P2社が保有するP19の会員権の評価額の算定
P2社の保有するP19の会員権は,取引相場のない会員権であり,
預託金等を預託しなければ会員となれない会員権であることから,評価
通達211(2)ハ,211(1)イにより評価すべきこととなる。
P2社保有のP19の会員権については,当該ゴルフ倶楽部の所有者
であるP20株式会社と運営者である株式会社P19が,平成17年7
月26日,東京地方裁判所における会社更正法に基づく変更更正計画の
認可決定により,全会員に預託金1%を返還し,仮に継続会員となる場
合は,預託金を現預託金の0.001%とする旨認可されている(乙第
32号証)ことから,帳簿価額1300万円に1.001%を乗じた1
3万0130円が「課税時期において返還を受けることができる金額」
に該当し,同ゴルフ会員権の評価額となる。
(カ)P2社が保有する電話加入権の評価額の算定
P2社が保有する電話加入権については,当該加入権の内訳が,固定
電話5回線,携帯電話1回線である(乙第21号証4枚目)ところ,評価
通達161に則し評価すると,固定電話の回線数5本に平成17年分財
産評価基準書387ページ(乙第26号証)に記載の固定電話1回線当た
りの評価額5000円を乗じた2万5000円となる。
(キ)P2社が保有するその他の資産の評価額の算定
P2社が保有するその他の資産については,P2社が資産計上してい
る帳簿価額によれば,4億8599万5455円と評価できる(乙第2
1号証3枚目参照)。
(ク)P2社の株式の1株当たりの評価額の算定
P2社の株式の1株当たりの評価額は,前記(ア)ないし(キ)の各評価額
の合計から,負債の評価額(帳簿価額)(乙第21号証3枚目)を差し引い
た後の金額をP2社の発行済株式の総数5万2000株(乙第1号証1
枚目)で除した金額であり,別表10(⑫欄)のとおり,3921円とな
る。
オ益金に算入すべき金額について
(ア)P2社の新株の発行価額は「有利な発行価額」に該当すること
前記エ(ク)のとおり,発行価額を決定する日の現況におけるP2社の株
式の価額は3921円であり,その金額と発行価額500円との差額3
421円は,当該新株の発行価額決定日の価額3921円の10%を大
幅に超える割合(約87.2%)となるから,当該新株の発行価額は「有
利な発行価額」に該当する。
したがって,発行価額と払込期日における株式の価額の差額を益金に
算入すべきこととなる。
(イ)益金に算入すべき金額
評価通達4-3に則して,P1社が本件増資により取得したP2社の
株式の評価額(本件増資によりP1社が引き受けたP2社の株式の数に
前記エ(ク)のP2社の株式の1株当たりの純資産価額(評価額)を乗じた
金額)を本件払込期日である平成17年8月8日のTTB(乙第33号
証)によりSGDに換算した金額と,平成17年12月末のP1社にお
けるP2社の株式の帳簿価額との差額は,P1社の益金を構成すること
から,措置法施行令39条の15第1項1号の規定により,P1社の適
用対象留保金額に加算されるところ,当該差額は,別表11(⑦欄)のと
おり,56万7453SGDとなる。
3本件各更正処分の適法性について
被告が本訴において主張する原告の本件各係争年分の納付すべき税額は,前
記1(1)エ,同(2)エ及び同(3)エのとおり,それぞれ
平成16年分111万2900円
平成17年分514万3200円
平成18年分5172万1400円
であり,これら各金額はいずれも本件各更正処分に係る納付すべき税額(平成
16年分110万2100円,平成17年分436万3700円,平成18年
分4449万1300円・別表2ないし4の「更正処分等」の「納付すべき税
額」欄参照)を上回るから,本件各更正処分は適法である。
(別紙3)
本件各賦課決定処分の根拠及び適法性
別紙2のとおり本件各更正処分はいずれも適法であるところ,本件各更正処分
により新たに納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうち,本件各更正処分
前における税額の計算の基礎とされなかったことについて,国税通則法65条4
項にいう正当な理由があるとは認められない。
したがって,本件各更正処分により原告が新たに納付すべきこととなった税額
を基礎として,次のとおり計算して行った本件各賦課決定処分はいずれも適法で
ある。
(1)平成16年分9万8000円
上記金額は,国税通則法65条2項の規定に基づき,平成16年分の所得
税の更正処分により原告が新たに納付すべきこととなった税額98万円(同
法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)を
基礎として,これに同法65条1項の規定により100分の10の割合を乗
じた金額である。
(2)平成17年分54万5500円
上記金額は,国税通則法65条2項の規定に基づき,①平成17年分の
所得税の更正処分により原告が新たに納付すべきこととなった税額405万
円(同法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のも
の。)を基礎として,これに同法65条1項の規定により100分の10の
割合を乗じた金額40万5000円に,②上記新たに納付すべきこととな
った税額405万4500円に平成17年分の所得税の修正申告により納付
すべきこととなった税額9万9600円を加算した金額のうち,期限内申告
税額に相当する金額133万5800円と50万円とのいずれか多い金額を
超える部分に相当する税額281万円(同法118条3項の規定により1万
円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に同法65条2項の規定により10
0分の5の割合を乗じた金額14万0500円を加算した金額である。
(3)平成18年分663万1000円
上記金額は,国税通則法65条2項の規定に基づき,①平成18年分の
所得税の更正処分により原告が新たに納付すべきこととなった税額4453
万円(同法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のも
の。)を基礎として,これに同法65条1項の規定により100分の10の
割合を乗じた金額445万3000円に,②上記新たに納付すべきこととな
った税額4453万7600円のうち,期限内申告税額に相当する金額96
万8300円と50万円とのいずれか多い金額を超える部分に相当する税額
4356万円(同法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨て
た後のもの。)に同法65条2項の規定により100分の5の割合を乗じた
金額217万8000円を加算した金額である。
(別紙4)
原告の納付すべき税額等
原告の本件各係争年分の納付すべき税額等は,次のとおりである。
(1)平成16年分
ア総所得金額1214万4218円
上記金額は,次の(ア)及び(イ)の各金額の合計額である。
(ア)配当所得の金額15万円
上記金額は,平成16年分確定申告書に記載された配当所得の金額と
同額である。
(イ)給与所得の金額1199万4218円
上記金額は,次のaの金額からbの金額を控除した後の金額である。
a給与等の収入金額1441万4967円
上記金額は,原告の平成16年分確定申告書に記載された給与等の
収入金額と同額である。
b給与所得控除額242万0749円
上記金額は,所得税法28条3項5号の規定に基づき,aの金額か
ら1000万円を控除した後の金額に100分の5の割合を乗じた金
額と220万円の合計額である。
イ所得控除の額の合計額255万3466円
上記金額は,原告の平成16年分確定申告書に記載された所得控除の額
の合計額と同額である。
ウ課税総所得金額959万円
上記金額は,前記アの総所得金額1214万4218円から前記イの所
得控除の額の合計額255万3466円を控除した後の金額(国税通則法
118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。
以下同じ。)である。
エ納付すべき税額12万2000円
上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)ないし(オ)の各金額を控除した後の
金額(国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨
てた後のもの。以下同じ。)である。
(ア)課税総所得金額に対する税額164万7000円
上記金額は,前記ウの課税総所得金額959万円に所得税法89条1
項所定の税率を乗じた金額である。
(イ)配当控除の額1万5000円
上記金額は,所得税法92条1項1号イの規定に基づき,前記ア(ア)
の配当所得の金額15万円に100分の10の割合を乗じた金額であ
る。
(ウ)住宅借入金等特別控除の額36万0700円
上記金額は,原告の平成16年分確定申告書に記載された住宅借入金
等特別控除の額と同額である。
(エ)定率減税額25万円
上記金額は,負担軽減措置法6条2項の規定により算出した金額であ
り,原告の平成16年分確定申告書に記載された定率減税額と同額であ
る。
(オ)源泉徴収税額89万9216円
上記金額は,原告の平成16年分確定申告書に記載された源泉徴収税
額と同額である。
(2)平成17年分
ア総所得金額1367万7598円
上記金額は,次の(ア)ないし(ウ)の各金額の合計額である。
(ア)不動産所得の金額21万円
上記金額は,原告が平成18年3月6日に甲府税務署長に提出した平
成17年分の所得税の確定申告書に添付された平成17年分不動産使用
料等支払調書に記載されたP2社を支払者とする地代の「支払金額」欄
に記載された金額である。
(イ)配当所得の金額30万円
上記金額は,平成17年分修正申告書に記載された配当所得の金額と
同額である。
(ウ)給与所得の金額1316万7598円
上記金額は,原告の平成17年分修正申告書に記載された給与所得の
金額と同額である。
イ所得控除の額の合計額290万1749円
上記金額は,原告の平成17年分修正申告書に記載された所得控除の額
の合計額と同額である。
ウ課税総所得金額1077万5000円
上記金額は,前記アの総所得金額1367万7598円から前記イの所
得控除の額の合計額290万1749円を控除した後の金額である。
エ納付すべき税額30万9200円
上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)ないし(オ)の各金額を控除した後の
金額である。
(ア)課税総所得金額に対する税額200万2500円
上記金額は,前記ウの課税総所得金額1077万5000円に所得税
法89条1項所定の税率を乗じた金額である。
(イ)配当控除の額1万5000円
上記金額は,所得税法92条1項3号イの規定により算出した金額で
あり,原告の平成17年分修正申告書に記載された配当控除の額と同額
である。
(ウ)住宅借入金等特別控除の額30万2100円
上記金額は,原告の平成17年分修正申告書に記載された住宅借入金
等特別控除の額と同額である。
(エ)定率減税額25万円
上記金額は,負担軽減措置法6条2項の規定により算出した金額であ
り,原告の平成17年分修正申告書に記載された定率減税額と同額であ
る。
(オ)源泉徴収税額112万6200円
上記金額は,原告の平成17年分修正申告書に記載された源泉徴収税
額と同額である。
(3)平成18年分
ア総所得金額1160万6750円
上記金額は,次の(ア)ないし(ウ)の各金額の合計額である。
(ア)不動産所得の金額32万円
上記金額は,平成18年分確定申告書に記載された不動産所得の金額
と同額である。
(イ)配当所得の金額10万円
上記金額は,原告の平成18年分確定申告書に記載された配当所得の
金額と同額である。
(ウ)給与所得の金額1118万6750円
上記金額は,原告の平成18年分確定申告書に記載された給与所得の
金額と同額である。
イ所得控除の額の合計額311万3695円
上記金額は,原告の平成18年分確定申告書に記載された所得控除の額
の合計額と同額である。
ウ課税総所得金額849万3000円
上記金額は,前記アの総所得金額1160万6750円から前記イの所
得控除の額の合計額311万3695円を控除した後の金額である。
エ納付すべき税額20万1100円
上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)ないし(オ)の各金額を控除した後の
金額である。
(ア)課税総所得金額に対する税額136万8600円
上記金額は,前記ウの課税総所得金額849万3000円に所得税法
89条1項所定の税率を乗じた金額である。
(イ)配当控除の額1万円
上記金額は,所得税法92条1項1号イの規定に基づき,前記ア(イ)
の配当所得の金額10万円に100分の10の割合を乗じた金額であ
る。
(ウ)住宅借入金等特別控除の額28万2700円
上記金額は,原告の平成18年分確定申告書に記載された住宅借入金
等特別控除の額と同額である。
(エ)定率減税額10万7590円
上記金額は,負担軽減措置法6条2項の規定により算出した金額であ
り,原告の平成18年分確定申告書に記載された定率減税額と同額であ
る。
(オ)源泉徴収税額76万7200円
上記金額は,原告の平成18年分確定申告書に記載された源泉徴収税
額と同額である。
オ還付される税金の額4万6300円
上記金額は,前記エの納付すべき税額20万1100円から予定納税
額24万7400円を控除した後の金額である。なお,予定納税額は,
原告の平成18年分確定申告書に記載された予定納税額(第1期分及び
第2期分の合計額)と同額である。

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